第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

10 知的財産権侵害事犯、環境事犯等

(1)知的財産権侵害事犯

 平成18年中の知的財産権侵害事犯の検挙件数は1,403件、検挙人員は780人で、平成16年以降、引き続き高水準で推移している。
 偽ブランド事犯(商標法違反)では、依然として押収した偽ブランド品の大半が韓国及び中国を中心とするアジア諸国から密輸入されており、68.3%が海上貨物、24.1%が国際郵便を利用して持ち込まれている。販売形態は、店舗販売が39.0%、インターネット・オークション利用販売が27.3%、露店販売が17.5%と様々である。
 海賊版事犯(著作権法違反)では、会社員、学生等、一般のコンピュータ利用者による海賊版CD、DVD等の複製事犯が後を絶たず、販売形態では、インターネット・オークション利用販売が43.6%を占めている。
 警察では、韓国及び中国から大量の偽ブランド品が密輸入されていることや両国において我が国の企業の知的財産権が侵害される例が増加していることを踏まえ、両国の捜査機関に対し国内での取締りの強化を要請するとともに、両国の捜査機関と情報交換を行うなど連携強化を図っている。また、不正商品対策協議会(注)における活動を始め、権利者等と連携した知的財産の保護及び不正商品の排除に向けた広報啓発活動を推進している。

注:昭和61年、不正商品の排除及び知的財産の保護を目的として、知的財産権侵害に悩む各種業界団体により設立された任意団体。警察庁等の関係機関と連携し、シンポジウムの主催や各種催物への参加を通じて、広報啓発活動、海外における不正商品販売の実態調査、海外の捜査機関や税関等に対する働き掛け等を行っている。

 
 表1-6 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成14~18年)
表1-6 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成14~18年)
 
 表1-7 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国別押収状況の推移(平成14~18年)
表1-7 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国別押収状況の推移(平成14~18年)

事例1
 中国人の輸入商社役員(41)ら2人は、中国から海賊版の携帯型ゲーム機及びキャラクター商品を輸入して販売していた。また、玩具等販売会社の役員(50)ら5人は、同ゲーム機等をゲームセンターの提供物品として販売し、ゲームセンター店長(37)ら2人は、同ゲーム機等をクレーン遊技機等の提供物品として陳列していた。19年1月までに、輸入商社役員ら9人を商標法違反(譲渡目的所持)等で逮捕し、海賊版ゲーム機等約8,200点を押収した(新潟、富山、警視庁)。
 
 陳列された海賊版携帯型ゲーム機
陳列された海賊版携帯型ゲーム機

事例2
 露店商の男(45)らは、電器店街の路上で百数十枚の映画の海賊版DVDを露店販売していた。また、無職の男(39)らは、客からのカタログ注文に応じて付近に待機中の車両から海賊版ソフトウェアを配達し、販売していた。18年9月、海賊版販売グループを一斉摘発し、露店商の男ら20人を著作権法違反(頒布目的所持)で逮捕し、海賊版DVD等約10,000枚を押収した。その後の捜査により、同年11月には、元締めの山口組傘下組織幹部(63)ら8人を著作権法違反(頒布目的所持)で逮捕した(大阪)。
 
 露店販売されていた海賊版DVD
露店販売されていた海賊版DVD

事例3
 19年3月に不正商品対策協議会が開催した「アジア知的財産権シンポジウム2007」では、警察庁職員が、司会者との対話形式により、最近の知的財産権侵害事犯の取締り状況について説明を行った。
 
 アジア知的財産権シンポジウム2007
アジア知的財産権シンポジウム2007
 
 シンポジウム中で例示された押収品
シンポジウム中で例示された押収品

(2)環境事犯

〔1〕 廃棄物事犯
 警察では、環境を破壊する犯罪のうち、特に、廃棄物の不法投棄事犯等を重点取締り対象とし、組織的・広域的な事犯、暴力団が関与する事犯、行政指導を無視して行われる事犯等を中心に取締りを推進している。また、関係機関に必要な情報を提供して環境被害の拡大防止と早期の原状回復を促している。
 平成18年中、検挙事件数及び検挙人員は共に大幅に増加し、このうち、産業廃棄物の処理責任を負っている排出事業者を不法投棄、委託違反等で検挙した事件は335事件であった。また、軽油の密造に伴い生成される硫酸ピッチ(注1)やスラッジ(注2)の不適正処理事犯を16事件、63人、4法人検挙した。

注1:軽油を精製する際、不純物として出る強酸性のタール状沈殿物。触れると肌がただれ、目に入ると失明のおそれもあるほか、鼻をつく亜硫酸ガスを発生させ、これを吸引すると呼吸困難等を起こす危険がある。
 2:硫酸ピッチを取り除いた軽油を更に精製する際に不純物として出る泥状の沈殿物。強酸性のものは硫酸ピッチと同様の危険性を持つ。

 
 表1-8 廃棄物事犯の検挙状況の推移(平成14~18年)
表1-8 廃棄物事犯の検挙状況の推移(平成14~18年)

事 例
 元県議会議員(73)らは、17年10月ころから18年1月ころにかけて、産業廃棄物である建設廃材約174トンを残土に混入し、合計約5,580トンの建設残土に偽装した上で、無許可で収集運搬し、千葉県内の許可残土処分場に埋め立てて不法投棄した。18年5月までに、元県議会議員である廃棄物運搬事業者等7法人、20人を廃掃法違反(無許可収集、無許可運搬等)で検挙(うち18人を逮捕)した(警視庁)。
 
 不法投棄された建設廃材
不法投棄された建設廃材

〔2〕 鳥獣の違法捕獲等に係る事犯
 警察では、国内に生息する野生鳥獣の違法捕獲等に係る事犯、希少野生動植物種の密輸入や国内での違法取引等に係る事犯等、動物及び生態系の保護等に係る事犯の取締り等を行っている。
 
 表1-9 鳥獣の違法捕獲等に係る事犯の検挙状況(平成17、18年)
表1-9 鳥獣の違法捕獲等に係る事犯の検挙状況(平成17、18年)

注3:鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律
 4:動物の愛護及び管理に関する法律
 5:絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律


事 例
 ホオジロの鳴合せ会を主催する野鳥愛好会の会長である無職の男(72)ら19人は、17年5月から18年3月にかけて、自ら又は密猟者が違法に捕獲した野鳥を売買し、飼養するとともに、鳴合せ会に出品してペット業者等に高値で売買をするなどした。18年7月までに、鳥獣保護法違反(違法飼養、違法捕獲等)で検挙(うち7人を逮捕)した(警視庁)。

(3)保健衛生事犯

 近年、国民の健康や美容願望につけ込み、医学的根拠が明らかでない効能をうたい、又は虚偽の体験談を用いてあたかも特定の疾病や部位に効くような宣伝をして、健康食品を高額で販売する事犯のほか、模造された医薬品を販売するなどの薬事法違反、無資格で医業行為を行う医師法違反等の事犯が発生している。
 
 表1-10 保健衛生事犯の検挙状況(平成17、18年)
表1-10 保健衛生事犯の検挙状況(平成17、18年)

事 例
 日本に在住する韓国人(50)ら12人は、17年1月から18年6月にかけて、海外に在住する仲間と共謀して、「バイアグラ」等の商品名で販売されている模造された医薬品の模造医薬品を、運び屋を使って国内に大量に密輸入し、これをマンションの一室にあるアジトにおいて小分けするなどして包装した上、雑誌等に広告を掲載し、全国の無許可の仲卸業者、小売業者、一般の購入希望者に対する密売を繰り返した。18年11月までに、関税法違反(無許可輸入)及び薬事法違反(模造医薬品の販売、無許可販売等)で検挙(うち5人を逮捕)した(大阪、岡山)。
 
 無許可で販売されていた「バイアグラ」等の模造品
無許可で販売されていた「バイアグラ」等の模造品

(4)諸法令違反

 水産資源の違法捕獲等に係る事犯、無線局の不法開設に係る事犯等が発生している。
 
 表1-11 主な諸法令違反の検挙状況(平成17、18年)
表1-11 主な諸法令違反の検挙状況(平成17、18年)

事 例
 無職の男(35)ら5人は、18年5月、地域の特産品である宍道湖のしじみを密漁し、地元の業者に密売した。18年10月までに、漁業法違反(漁業権の侵害)で検挙(うち2人を逮捕)するとともに、採捕道具や運搬車両、選別機等を準備するなどして手助けした山口組傘下組織幹部(68)を同法違反(漁業権侵害の幇助)で逮捕した(島根)。
 
 密漁された宍道湖のしじみ等
密漁された宍道湖のしじみ等

 第1節 最近の犯罪情勢とその対策

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