第3章 組織犯罪対策 第1節 組織犯罪の情勢 1 組織犯罪の情勢 (1)暴力団と国際犯罪組織との連携と対立  警察の取締りが強化され、国民の間でも暴力団を排除しようとする機運が高まる中、暴力団による犯罪は多様化・巧妙化し、その取締りは一層困難になっている。また、来日外国人(注1)による組織犯罪(注2)も深刻化しており、市民生活の大きな脅威となっている。  このような状況の下、暴力団と国際犯罪組織(注3)とは、それぞれ独立して違法行為を敢行するだけでなく、相互に連携して犯罪を行っている。両者の関係は多種多様であるものの、検挙事例を分析すると、次のような例がみられる。  ・ 暴力団が、その人脈、土地勘等を活用して、国際犯罪組織に対し、多額の金銭を保管している事務所や住宅等に関する情報を提供したり、犯行に必要な拠点、道具、車両等を確保したりする役割を担う一方、強盗、窃盗等の実行行為は、国際犯罪組織が敢行するもの  ・ 暴力団が、覚せい剤等の規制薬物の密輸入に際して、外国に拠点を有する薬物密売組織と具体的な密輸方法等を協議するなど結託して密輸入しているもの  ・ 外国に拠点を有する国際犯罪組織が、日本国内の性風俗店で働かせることを目的として外国人女性を勧誘して日本へ送り出し、我が国の暴力団がこれを受け入れ、働かせるもの このように、犯罪組織同士が相互に連携して違法行為を敢行する背景には、犯行上の互いの利点をいかすとともに、互いの弱点を補完しあうことによって、犯罪をより効率的に敢行し、共存共栄を図ろうとする意図があるものとみられる。 注1:日本にいる外国人から定着居住者(永住者等)、在日米軍関係者と在留資格不明の者を除いたもの  2:日本国内では、強盗、窃盗、カード犯罪等にかかわる中国人犯罪組織、コロンビア人窃盗組織、イラン人薬物密売組織等の活動が目立っている。また、海外に本拠を置く犯罪組織のうち、国際的な密航請負組織である「蛇頭」、海産物や盗難車等の密輸にかかわるロシア人犯罪組織、韓国人すり組織、香港三合会、台湾人犯罪組織、マレーシア人カード偽造組織等が、日本国内の犯罪に関与する事例が確認されている。  3:外国に本拠を置く犯罪組織、来日外国人犯罪組織その他の国際犯罪(外国人による犯罪、国民の外国における犯罪その他外国に係る犯罪をいう。)を行う多人数の集合体 事例1  中国人の男(42)は、14年11月から17年3月にかけて、中国人及び日本人から成る窃盗団を編成・指揮して、高層マンションをねらった窃盗事件を多数敢行した。この窃盗団は、  ・ 人脈、土地勘等を活用して犯行に使用する拠点、車両、運転手等を確保したり、窃取した預貯金通帳の名義人の性別、年齢に見合う預貯金の引き出し役を手配したりする役割を担う山口組傘下組織構成員を含む日本人  ・ ピッキングやサムターン回しといった手口を用いて高層マンションに侵入し、預貯金通帳、印鑑等を窃取する役割を担う中国人窃盗団 等から構成され、それぞれの利点をいかすことで長期間にわたって犯行を繰り返しており、この窃盗団による被害総額は約5億800万円に上った。同年6月までに、この窃盗団を編成・指揮していた中国人の男ら58人を窃盗罪等で逮捕した(北海道、宮城、福島、警視庁、新潟、富山、石川、兵庫、山口、愛媛、長崎、熊本)。 事例2  会津小鉄会傘下組織元構成員(57)らは、17年5月、タイに拠点を有する犯罪組織と連携し、情を知らない日本人を利用してタイから覚せい剤約36キログラムを土産物のチョコレート箱に隠匿するなどして密輸入させた。17年9月までに、元構成員及び元構成員から覚せい剤をを譲り受けた会津小鉄会傘下組織組長ら30人を、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締り等の特例等に関する法律違反(以下「麻薬特例法」という。)(業としての密輸入)等で逮捕した。  また、国際犯罪組織の勢力が拡大するにつれて、暴力団との間で縄張り争いが発生し、対立抗争事件に発展することもある。両者が連携を強める一方で、対立が激化すれば、我が国の治安に重大な悪影響を及ぼすことが懸念される。 事例3  山口組傘下組織組長(48)は、同傘下組織構成員らに対して、イラン人薬物密売組織の構成員とみられるイラン人(20)を襲撃するよう指示した。これを受け、同傘下組織構成員(38)ら7人は、17年2月、このイラン人(20)を襲撃し、同人はけん銃で撃たれて腹部を負傷した。同構成員らは、イラン人薬物密売組織から覚せい剤を購入するなどの関係にあったが、薬物密売をめぐる縄張り争いから対立が生じ、抗争事件を引き起こしたものとみられている。同年7月までに、山口組傘下組織組長及び同傘下組織構成員ら7人を殺人未遂罪等で、襲撃を受けたイラン人を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で、それぞれ逮捕した(愛知)。 (2)犯罪組織と共生又は犯罪組織を支援する者の実態  最近、暴力団構成員又は準構成員(注1)ではないものの、暴力団の威力等を背景に公共工事等において談合を取り仕切るなど、暴力団の資金獲得活動に積極的に協力し、又は関与する者が存在している。これらの者は、暴力団の威力や影響力等を利用して自らの事業収益の拡大や利益の獲得を図っており、暴力団と共生する存在となっている。また、共生する存在とまでは言えないものの、暴力団構成員又は準構成員の下に組織化され、振り込め詐欺・恐喝等を敢行する多重債務者や非行少年等、結果的に暴力団に資金を提供することなどにより、暴力団を支援している者もいる。これらの者は、暴力団の末端における資金獲得活動を助けるだけでなく、得られた資金が上部団体に上納されることにより、上部団体の資金力の拡大に寄与していることが多い。  同様に、国際犯罪組織についても、犯罪の敢行を容易にするため、犯行に使用される拠点や車両等を調達するなど、国際犯罪組織と共生し、又は支援する者が存在する。 注1:暴力団構成員以外の暴力団と関係を有する者であって、暴力団の威力を背景に暴力的不法行為等を行うおそれがあるもの、又は暴力団若しくは暴力団構成員に対し資金、武器等の供給を行うなど暴力団の維持若しくは運営に協力し、若しくは関与するものをいう。 事例1  住吉会傘下組織幹部(43)及び東京証券取引所市場第一部に株式を上場している建設会社役員(57)らは、16年11月、東京都発注の公共工事の入札に際し、特定の共同企業体に工事を落札させるため、談合に応じない共同企業体の代表である建設会社の社長ら3人に対して、談合に応じるよう脅迫した。17年9月までに、同幹部及び同役員ら6人を競売等妨害罪で逮捕した(警視庁)。 事例2  共政会傘下組織構成員(41)ら22人は、経営コンサルタント業の男(40)らとともに、多重債務者が金融機関から融資を受けられるよう多重債務者に対して虚偽の婚姻や養子縁組をあっせんし、性を変更させるなどして、金融機関から計約1億1,500万円をだまし取った。17年11月までに、共生会傘下組織構成員ら22人を電磁的公正証書原本不実記録罪、詐欺罪等で逮捕した(広島)。 (3)戦略的な組織犯罪対策  平成16年4月から、組織犯罪対策に関する企画立案機能等の強化のため、警察庁刑事局に組織犯罪対策部が設置された。  また、全国の都道府県警察では、同年10月に警察庁が策定した「組織犯罪対策要綱」に基づき、犯罪組織の弱体化及び壊滅を図るため、  ・ 組織犯罪に係る情報の収集、集約及び分析に基づく戦略的な取締り  ・ 薬物・銃器の密輸・密売事件や違法性風俗店の摘発等犯罪組織の資金源に重点を置いた取締り  ・ 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)の規定等に基づく犯罪収益等の没収・追徴  ・ コントロールド・デリバリー(注2)、譲受け捜査(注3)、通信傍受等組織犯罪対策に有効な捜査手法の積極的な活用 等を推進している。 注2:取締機関が規制薬物等の禁制品を発見しても、その場で直ちに検挙・押収することなく、十分な監視の下にその運搬を継続させ、関連被疑者に到達させてその者らを検挙する捜査手法  3:銃器や薬物等の密売人に接触し、実際にそれらを譲り受け、その者らを検挙する捜査手法