(1)インターネット上の違法・有害情報のもたらす脅威  インターネットには、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等の他の媒体と異なり、インターネットに接続することができる環境にあれば、だれもが自由に情報を発信し、受信することができるという特徴がある。このことが、インターネット上に、国民生活にとって有益な情報ばかりではなく、社会に悪影響を与える様々な情報が氾濫する状況を招いている。 〔1〕 様々な違法情報  インターネット上には、児童ポルノ画像、わいせつ画像、覚せい剤等規制薬物の販売に関する情報等の違法情報(情報自体が違法である情報)を掲載するウェブサイトや電子掲示板(インターネット上の電子掲示板をいう。以下同じ。)が多数存在し、だれもがアクセスできる状態に置かれている。 事例1  無職の男(34)は、平成17年3月、自ら管理する電子掲示板に他の者が撮影して投稿した児童ポルノ画像を公然と陳列した。同年12月、電子掲示板を管理する無職の男及び児童ポルノ画像を投稿した男ら8人を児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春・児童ポルノ法」という。)(児童ポルノ公然陳列)違反で逮捕した(愛知)。 事例2  コンピュータプログラマーの男(31)は、17年6月、他人に譲渡する目的で覚せい剤を所持していた。同月、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で逮捕するとともに、同年9月、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反(薬物犯罪のあおり、唆し)で追送致した。男は、携帯電話からアクセスすることのできる電子掲示板に覚せい剤等を販売する旨を掲載し、連絡してきた客に覚せい剤等を密売していた(静岡、群馬)。 〔2〕 氾濫する有害情報 ア 国民生活を脅かす有害情報  インターネット上には、  ・ 爆発物の製造方法や運転免許証その他の公的証明書の偽造方法等を教示する情報  ・ 殺人、脅迫等の違法行為の請負、仲介等に関する情報  ・ いわゆる自殺サイトに掲載されている他人を自殺に勧誘する情報 といった有害情報(違法情報には該当しないが、犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することのできない情報)が氾濫している。  これらの情報は、インターネット上に掲載すること自体は違法とまでは言えないが、次の事例のように、実際に爆発物の製造に必要な知識の取得や犯罪の共犯者の募集に利用されるなどしており、現実の国民生活への大きな脅威となっている。  このほか、インターネット上には、殺人等の残虐な画像や人を誹謗・中傷する情報、盗撮画像等が氾濫している。このうち、盗撮画像については、盗撮された者のプライバシーを侵害するなど大きな社会問題となっている。現在、警察では、盗撮行為について、軽犯罪法、いわゆる迷惑防止条例等を適用して取締りを進めているが、盗撮行為は違法であっても、それによって得られた盗撮画像を提供する行為は、当該画像が違法でない限り禁止されておらず、インターネット上に提供された当該画像がわいせつ画像、児童ポルノ画像等違法な画像である場合には刑法や児童買春・児童ポルノ法等を適用することとしている。 事例1  高校生の少年(18)は、17年6月、爆発物の製造方法に関する情報を掲載するウェブサイトを閲覧して、そこで得た情報を基にガラス瓶に火薬を詰めた爆発物を製造し、これを自らが在籍する高等学校の教室で爆発させて、同級生28人を負傷させた。傷害罪で現行犯逮捕するとともに、同年7月、爆発物取締罰則違反(爆発物の所持)で再逮捕した(山口)。 事例2  会社員の男(32)は、17年2月、モデルガンを改造したけん銃を所持していた。同月、銃砲刀剣類所持等取締法違反(所持)で逮捕するとともに、改造けん銃3丁を押収した。男は、改造けん銃を、インターネット・オークションを利用して密売していた(愛知、警視庁)。 事例3  無職の少年(17)は、17年5月、携帯電話からアクセスすることのできる電子掲示板を通じてひったくりの共犯者を募り、同電子掲示板を通じて知り合った塗装工の男(27)と共謀し、同年6月、道路を通行していた女性から手提げバッグを奪った。同年7月までに、窃盗罪で逮捕した(警視庁)。 事例4  無職の男(49)は、17年12月、その長男(25)と共謀して、電子掲示板に「半殺し50万円。殺したら100万円。年内に達成なら倍額」等と実父の殺害を依頼する書き込みをし、これを見て連絡してきた派遣会社社員の男(36)に実父を殺害させた。18年2月までに、殺人罪で逮捕した(長野)。 押収した改造けん銃 「闇の職業安定所」と称する電子掲示板における違法行為の共犯者の募集の例(本文の事件とは関係ない。) コラム1 インターネットで殺人依頼~復讐サイトの落とし穴~  A子(32)は、職場の上司の男と不倫関係にあった。いずれは男が妻と別れて自分と一緒になってくれると信じ交際を続けていたが、男は自分の妻が身ごもると、A子の前で妻を大切にするような言動をとるようになり、A子に対しては暴力を振るうようになった。  A子は「裏切られた」と感じた。男への愛情は復讐心へと変わり、そして「奥さんやお腹の子どもがいなくなれば男に復讐できる」と考えるようになった。  折しも、A子は、インターネット上の有償で他人に対する恨みを晴らすと宣伝する「復讐代行サイト」を見付け、男の妻の殺害を依頼した。このサイトの管理者は、着手料と称して165万円を受け取り、自称探偵業の男を紹介した。しかし、そのサイト管理者と自称探偵業の男は当初から殺害する意図などなく、殺害計画や必要経費をでっち上げ、A子から数回にわたり合計で約1,500万円をだまし取った。A子は、消費者金融から借金をしてまで請求された費用を払い続けたが、いつになっても殺害が実行されることがなかったことから、「だまされているのではないか」と疑念を抱いて警察に相談し、一連の事件が発覚した。  A子は暴力行為等処罰ニ関スル法律違反(犯罪請託罪)で逮捕され、起訴猶予となったものの、職場を解雇された。不倫相手の男は、A子に対する傷害罪で逮捕され、50万円の罰金刑に処され、同じく職場を解雇された。  また、サイト管理者と自称探偵業の男は、それぞれ詐欺罪で逮捕・起訴され、サイト管理者は懲役1年6か月、執行猶予4年の判決、自称探偵業の男は懲役2年6か月の実刑判決を受けた。 イ 子どもに対する暴力的性犯罪の誘発  インターネット上には、子どもの裸体画像や性的虐待画像が氾濫している。これらはそれ自体が違法であることもあるが、時として、これらの情報が影響して子どもに対する暴力的性犯罪を誘発するといった事例もみられ、子どもをこれらの犯罪から守る上で深刻な問題となっている。  例えば、小学生の女児を車に乗せて連れ去り、わいせつ行為をして逮捕された被疑者が、日ごろから児童と性交をする場面を撮影した画像や児童の裸体画像等をウェブサイトから多数ダウンロードして収集するなどしていた事案等が発生している。 ウ 社会問題となっているいわゆる自殺サイト  近年、いわゆる自殺サイトにおける自殺の予告や呼び掛けを通じて知り合った者同士が自殺を敢行する事案が増加しており、17年中のいわゆる自殺サイトで知り合った者による自殺事案の発生件数は34件(前年比15件(78.9%)増)、自殺者数は91人(前年比36人(65.5%)増)と、いずれも前年より大幅に増加した。また、いわゆる自殺サイトを通じて知り合った女性を一緒に自殺するかのように装って呼び出し、殺害した事件が発生するなど、いわゆる自殺サイトの存在が大きな社会問題となっている。  図1-1 いわゆる自殺サイトで知り合った者による自殺事案の発生状況(平成15~17年) 事例1  いわゆる自殺サイトで知り合った男2人A(28)、B(23)と少女(17)は、17年8月、自殺するためA宅に集まり、密閉した室内で炭の入ったこんろを使用し、一酸化炭素中毒により死亡した(愛知)。 事例2  派遣会社社員の男(36)は、人が窒息して苦もんする表情を見て性的快感を得ようと考え、17年2月、いわゆる自殺サイトで知り合った女性を、駐車場に止めた車両内で殺害し、その死体を河川敷に遺棄した。同年8月、殺人罪及び死体遺棄罪で逮捕した(大阪)。 〔3〕 インターネット上の違法・有害情報に関する国民の意識  警察庁では、18年3月、インターネット利用者を対象にインターネット利用に関する意識調査(注)を行った。  インターネット上の違法・有害情報に起因する事件が、今後、増加するかどうかについて質問したところ、78.8%の者が「増加すると思う」と回答している。 注:全国のインターネット利用者男女1,000名を対象に、調査を委託した民間事業者のウェブサイト上に警察庁において作成した質問票を掲示して回答を求める形式で実施  図1-2 今後、インターネット上の情報に起因する事件は増加すると思うか  また、インターネット上に違法・有害情報が氾濫している原因について質問したところ、「非常に大きな原因となっている」ものとして、62.0%の者が「インターネット利用者のモラルの問題」を、60.3%の者が「だれが書き込みをしているのかが分からないこと」を回答している。  図1-3 インターネット上の違法・有害情報が氾濫している原因  このように、多くのインターネット利用者が、違法・有害情報に起因する事件の増加を懸念し、違法・有害情報が氾濫しているのは、利用者のモラルの欠如やインターネット上の匿名性にあると考えていることが分かる。