12 警察における被害者対策 (1) 基本施策  被害者(その遺族を含む。以下同じ。)は、犯罪によって直接、身体的、精神的、経済的な被害を受けるだけでなく、その後の刑事手続の過程における負担や周囲からの不利益・不当な取扱い等によって、様々な二次的被害を受ける場合がある。警察は、被害者にとって最も身近な機関であり、被害の回復や軽減について大きな期待を寄せられる立場にあるため、次のとおり、様々な側面から被害者対策の充実を図っている。また、当該事件の捜査員以外の職員が、被害者への付添い、刑事手続の説明等、事件発生直後に被害者支援活動を行う指定被害者支援要員制度が各都道府県警察で導入されており、平成16年12月現在、その要員として全国で2万2,676人が配置されている。 ○ 被害者に対する情報提供等  ・ 刑事手続や法的救済制度の概要等、被害者に必要な情報を取りまとめた小冊子「被害者の手引き」の作成、配布  ・ 捜査の進ちょく状況や被疑者の処分結果等、事件に関する情報の提供  ・ 被害者が再び被害に遭うことを予防するとともに、その不安感を解消することを目的とした、交番の地域警察官等による被害者訪問・連絡活動 ○ 相談・カウンセリング体制の整備  ・ 全国統一番号の相談専用電話「#(シャープ)9110番」等の被害相談電話・窓口の設置  ・ 心理学等の専門的知識やカウンセリング技術を有する警察職員の配置及び精神科医や民間のカウンセラーとの連携 ○ 捜査過程における被害者の負担の軽減  ・ 応接セットを設置し、照明や内装を改善するなどした被害者用事情聴取室の整備・活用  ・ カーテン等で遮へいするなど、被害者の心情に配慮した装備を施した被害者対策用車両の整備・活用  ・ 職員による病院、実況見分の場所への付添い等の各種支援 ○ 被害者の安全の確保  ・ 身辺警戒やパトロール等を強化するなどの適切な再被害防止措置の実施  ・ 緊急時に録音装置によって証拠を採取し、最寄りの警察署へ通報する仕組みを備えた緊急通報装置の被害者宅等への整備 (2) 被害者支援連絡協議会の活動  被害者が支援を必要とする事柄は、生活、医療、公判等多岐にわたる。そのすべてに警察だけで対応することはできないため、司法、行政、医療等の被害者支援にかかわる機関・団体等が相互に連携することが不可欠である。  このため、警察のほか、検察庁、弁護士会、医師会、臨床心理士会、地方公共団体の担当部局や相談機関等から成る被害者支援連絡協議会が、全都道府県で設立されている。このほか、警察署の管轄区域等を単位とした被害者支援のための連携の枠組みが各地に構築され、よりきめ細かな被害者支援が行われている。 コラム4 犯罪被害者等基本法の制定  平成16年12月、犯罪被害者等基本法が成立し、17年4月から施行された。本法は、犯罪被害者等(犯罪やこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為の被害者及びその家族又は遺族)のための施策に関し、すべての犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有することなどを基本理念として定めている。  本法では、国及び地方公共団体について、犯罪被害者等のための施策を策定、実施することが責務とされ、政府において、総合的かつ長期的に講ずべき犯罪被害者等のための施策の大綱等を定める「犯罪被害者等基本計画」を策定することとされたほか、国民についてもそれらの施策に協力するよう努めなければならないこととされた。また、犯罪被害者等に対する給付金の支給に係る制度の充実、犯罪被害者等の安全の確保、犯罪被害者等を援助する民間団体の活動の促進を図ることなどが規定された。 (3) 民間の被害者支援団体との連携  近年、各地で、民間の被害者支援団体の設立が進んでいる。「全国被害者支援ネットワーク」の加盟団体数は、平成17年3月現在、全国で37団体に上る。これらの支援団体は、電話や面接による相談の受理、ボランティア相談員の養成及び研修、被害者自助団体(遺族の会等)への支援、広報啓発等の活動を行っており、警察は、支援団体の設立、運営を支援している。  都道府県公安委員会は、犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律に基づき、犯罪被害等の早期軽減に資する事業を適切かつ確実に実施できる非営利法人を指定する公的認証制度を運用しており、17年6月現在、全国で8団体が指定されている。警察では、指定団体が被害者等への働き掛けを行いやすくするため、被害者等の同意を得て、その氏名及び住所その他犯罪被害の概要に関する情報を提供している。 事例  16年10月3日の犯罪被害者支援の日に、奈良県警察は、奈良駅東側広場で、なら犯罪被害者こころの支援センターが実施する街頭広報活動に協力し、被害者支援に関する施策を記した資料を配布した。この活動には、33の関係機関・団体から約100人が参加した。 なら犯罪被害者こころの支援センターによる街頭広報活動 (4) 犯罪被害給付制度  犯罪被害給付制度は、故意の犯罪行為により不慮の死亡又は重障害という重大な被害を受けたにもかかわらず、公的救済や損害賠償を得られない被害者等に対し、国が一定の給付金を支給するものである。昭和56年1月の施行以来、被害者等の被害の軽減に重要な役割を果たしてきた。  この制度では、被害者が死亡した場合には、遺族に1,573万円を上限とする遺族給付金が支給され、被害者が1月以上の加療及び14日以上の入院を要する重傷病を受けた場合には、被害者本人に医療費のうち被害を受けてから3か月以内の自己負担相当額の重傷病給付金が支給される。また、障害が残った場合には、障害の等級に応じ、1,849万円を上限とする障害給付金が支給される。 表7-6 犯罪被害給付制度の運用状況(昭和56(制度発足)~平成16年) (5) 被害者の特性に応じた施策  [1] 性犯罪の被害者  警察では、性犯罪被害者の立場に立った対応を心掛け、その精神的負担の軽減を図るとともに、以下の施策を推進している。  ・ 「性犯罪110番」等の相談専用電話や相談室の設置  ・ 証拠採取に必要な用具や被害者の衣類を預かる際の着替え等をまとめた性犯罪捜査証拠採取セットの整備  ・ 性犯罪捜査指導官及び性犯罪捜査指導係の設置、女性警察官の性犯罪捜査員への指定  ・ 迅速かつ適切な診断、治療、証拠採取等を行うための産婦人科医等との連携強化  ・ 女性専門捜査官の育成と男性警察官を含む職員に対する教育や研修の充実  ・ 被害者が望む性別の捜査員による事情聴取の実施  [2] 少年犯罪の被害者  警察では、少年犯罪の被害者との連絡に当たっては、被疑少年の健全育成に配慮しつつ、捜査上支障のない範囲内で、できる限り被害者の要望にこたえるよう努めている。身体犯(殺人、強盗致死傷、強姦等)、ひき逃げ事件及び交通死亡事故の被害者については、被疑者を検挙するまでの捜査状況、逮捕若しくは在宅送致をした被疑少年又はその保護者の住所及び氏名、逮捕した被疑少年を送致した検察庁又は家庭裁判所及びその処分結果等を連絡している。  また、平成13年4月から、家庭裁判所が被害者の意見を聴取する制度や少年審判の結果を被害者に通知する制度が運用されている。  [3] 悪質商法やヤミ金融の被害者  警察では、被害者への被害回復をも視野に入れて、悪質商法やヤミ金融事犯の取締りを行うとともに、都道府県警察本部に警察安全相談窓口や「悪質商法110番」等を設置し、被害者からの相談に応じている。また、消費生活センター等の関係機関・団体と連携して、悪質商法等による被害の未然防止・拡大防止を図るための情報交換や広報啓発活動を行っている。  [4] 暴力団犯罪の被害者  暴力団犯罪の被害者は、警察に相談することによって、暴力団から報復されたり嫌がらせを受けたりするのではないかとの不安を感じている場合が多い。  そこで、警察では、「暴力ホットライン」等の相談専用電話を開設しているほか、事件の検挙、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に基づく命令の発出、都道府県暴力追放運動推進センターや弁護士会の民事介入暴力対策委員会等との連携による被害相談等を行い、被害者の不安感を払拭するとともに、被害相談の内容に応じた適切な対応に努めている。  また、被害が回復されるよう、加害者の暴力団員の連絡先を教示したり、被害回復のための交渉を行う場所として警察施設を供用したりするなどの援助を行っている。  さらに、暴力団犯罪の被害者や参考人の安全を確保するため、自宅や勤務先のパトロールを強化するなどして、再被害の防止を図っている。  [5] 交通事故の被害者  都道府県警察や全国の交通安全活動推進センターでは、交通事故の被害者等からの相談に応じ、保険請求・損害賠償制度、被害者支援・救済制度、示談・調停・訴訟の基本的な制度、手続等を説明している。同センターの一部では、相談員として弁護士、カウンセラーを配置しているところもある。  また、交通事故の被害者から加害者の行政処分に係る意見の聴取等の期日や行政処分の結果について問い合わせがあったときは、適切に情報を提供をしている。さらに、交通事故の被害者が出演するビデオや被害者の手記等を停止処分者講習等に用いて、被害者の心情を運転免許保有者に理解させている。  [6] 配偶者からの暴力事案、ストーカー事案の被害者  配偶者からの暴力事案について、警察では、相談窓口を設置するなど被害者が相談しやすい環境を整備しているほか、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律に基づき、配偶者暴力相談支援センター等の関係機関・団体と連携して、被害者を保護するなどの援助を実施している。  ストーカー事案の被害者についても、ストーカー行為等の規制等に関する法律に基づき、民間の被害者支援団体を紹介したり、防犯用器具を貸し出したりするなどの援助を実施している。