第4章 組織犯罪対策 第1節 組織犯罪の情勢 1 組織犯罪の情勢 (1) 犯罪組織の変容と相互連携  警察の取締りが強化され、国民の間でも暴力団を排除しようとする気運が高まる中、暴力団による犯罪が多様化・巧妙化し、その取締りは一層困難になっている。暴力団は、薬物の密輸・密売、いわゆるヤミ金融や違法性風俗店の経営、風俗店等からのみかじめ料の徴収等の様々な方法によって莫大な利益を得ており、最近では、従来多かった恐喝や脅迫のような組織の威力を示して行う犯罪のほか、必ずしも組織の威力を示すことを要しない窃盗や詐欺等を多く敢行するようになった。さらに、組織の実態を隠蔽し、正当な事業活動や政治活動、社会運動等を仮装しながら資金獲得を図る状況もみられる。  一方、来日外国人(注1)による組織犯罪(注2)も深刻化している。来日外国人犯罪者の中には、当初から犯罪目的で入国する者もいれば、入国後に犯罪組織への加入を勧誘されるなどして犯罪に関わるようになる者もおり、また、偽造旅券の行使や密航等により不法に入国する者もいれば、就学、研修、観光等の目的で正規に入国した後、資格外就労や不法滞在をする者もいるなど、その来日の動機や犯行に至る経緯は一様ではない。犯罪組織が形成される経緯も様々であり、例えば、外国人が多く利用する歓楽街の飲食店等が構成員の勧誘や謀議、情報交換の場となっているほか、外国を本拠とする犯罪組織に属する外国人が集団で日本に入国したり、日本国内の犯罪組織と連携したりする場合もある。犯罪の態様は、侵入盗、自動車盗、カード犯罪のように誰もが被害者となり得るものが多く、市民生活の大きな脅威となっている。また、薬物の密売や「エステ店」などと称する違法性風俗店の経営に関与することも多い。さらに、偽装結婚や旅券の不正取得なども重要な資金源となっており、これによって、来日外国人犯罪の温床である不法入国・不法滞在が助長されている。  これら暴力団、来日外国人犯罪組織等の犯罪組織は、相互に連携して活動している。検挙事例をみると、両者が役割分担して犯罪を敢行し、収益を分配していたもの、暴力団が来日外国人の偽装結婚の相手を仲介していたもの、暴力団が来日外国人犯罪者の活動を容認することの対価としてみかじめ料を徴収していたものなど、犯罪組織が日本国内で共存共栄を図ろうとする傾向がうかがえる。暴力団員と来日外国人犯罪者の共犯事件では、お互いの犯行遂行上の利点を生かすとともに、弱点を補完することによって、犯罪をより効率的に敢行している状況がうかがえる。例えば、暴力団がその情報網、人脈、土地鑑等を活用して、犯行に必要な拠点、道具、車両等を手配する役割を担う一方、来日外国人犯罪者が実行行為を担当するとともに、海外に盗品の売却先を確保し、盗品を搬送する役割を担うなどの役割分担を行っている。 注1:日本にいる外国人から定着居住者(永住者等)、在日米軍関係者と在留資格者不明の者を除いたもの  2:日本国内では、強盗、窃盗、カード犯罪等にかかわる中国人犯罪組織、コロンビア人窃盗組織、イラン人薬物密売組織等の活動が目立っている。また、海外に本拠を置く犯罪組織のうち、国際的な密航請負組織である「蛇頭」、海産物や盗難車等の密輸にかかわるロシア人犯罪組織、韓国人すり組織、香港三合会、台湾人犯罪組織、マレーシア人カード偽造組織等が、日本国内の犯罪に関与する事例が確認されている。 事例1 窃盗事件における連携  山口組傘下組織構成員(52)は、中国人を主力とする実行犯集団を編成・指揮して、14年6月から15年3月にかけて、6府県にわたって、スーパーマーケットを対象とした侵入窃盗事件(金庫破り)を合計150件敢行した。この構成員は、窃盗の実行行為には関与せず、犯行に使用する車両を準備したり、実行犯を犯行現場に案内したりしていた。窃取した現金は、犯行の都度、この構成員と中国人の実行犯らで均等に分配していた。16年3月までに、この構成員ら18人を窃盗罪等で逮捕した(岐阜、和歌山)。 事例2 人身取引事犯における連携  貿易会社代表の日本人(57)と日本に在住する会社員であるロシア人のA女(27)は、共謀して、ロシア人のB女(23)を日本の風俗店でホステスとして働くよう勧誘し、観光の名目で入国させた。そこで、山口組傘下組織組長(46)と同幹部(33)は、同社代表とA女に報酬を与えてB女の紹介を受けた上、16年4月から5月にかけて、B女を客が滞在するホテルに繰り返し派遣して売春を行わせ、合計数百万円の利益を得ていた。同年9月までに、これらの者を含む9人を売春防止法違反及び出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)違反等で検挙した(福岡)。 (2) 組織犯罪対策の強化  平成16年4月から施行された警察法の一部を改正する法律により、警察庁刑事局に組織犯罪対策部が新設され、組織犯罪対策に関する企画立案機能等が強化された。  また、同年10月、警察庁は「組織犯罪対策要綱」を策定した。これに基づき、全国警察では、  ・ 組織犯罪に係る情報の収集、集約及び分析に基づく戦略的な取締り  ・ 薬物・銃器の密輸・密売事件や違法性風俗店の摘発等犯罪組織の資金源に重点を置いた取締り  ・ 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織犯罪処罰法」という。 )の規定等に基づく犯罪収益等の没収・追徴  ・ コントロールド・デリバリー(注3)、譲受け捜査(注4)、通信傍受等組織犯罪対策に有効な捜査手法の積極的な活用 等を推進し、犯罪組織の弱体化及び壊滅を図っている。 注3:取締機関が規制薬物等の禁制品を発見しても、その場で直ちに検挙・押収することなく、十分な監視の下にその運搬を継続させ、関連被疑者に到達させてその者らを検挙する捜査手法  4:銃器や薬物等の密売人に接触し、実際にそれらを譲り受け、その者らを検挙する捜査手法