警察活動の最前線 

一人前の警察官に巣立つことを願って
福井県警察学校
松倉伸雄 警部補

 


 警察学校の教官である私の任務は、高校や大学を出たばかりの新人を一人前の警察官にすることです。今年で勤務2年目となりますが、特に印象に残っているのは、昨年7月に集中豪雨が福井県を襲ったときのことです。
 豪雨当日は折しも三連休の中日で、学生の中には帰宅中に堤防決壊による水害に見舞われた者もいました。それでも、変わり果てた自宅を後にして警察学校に戻り、他の学生と共に、災害現場で行方不明者の捜索等の任務に就いたのです。泥まみれ、汗まみれになりながら捜索等に当たる学生の姿は、実に頼もしいものでありました。
 この体験を通じて学生は、時には家族よりも他の県民を優先して職務に当たらなければならない警察官としての責務を自覚し、「県民のために、私心を捨てて力を尽くす」という使命感を深く心に刻み込むことができたと思います。
 警察学校での訓練は、精神的にも肉体的にも非常に厳しいものです。卒業していく若い警察官は、1年かけてそれをやり遂げたという充実感を胸に秘めながら、一回りも二回りも大きくなって第一線の警察署に巣立っていきます。

 
愛情を求める非行少年たち
京都府宇治警察署生活安全課
前川隆弘 警部補

 


 少年非行が深刻化していることは間違いありません。ただ、少年だけが変わったとは思えません。むしろ、社会の変化が少年を変化させたように感じます。
 傷害容疑で逮捕した中学生は、取調べで母親の話に触れた途端、声を上げて泣きました。公園で花火をしていたところを保護した家出の小学生は、「お母さんが怖いから帰りたくない」と言いました。その言葉は、私には愛情の裏返しに聞こえました。いつの時代も子どもが求めるものは親の愛情であり、非行は愛情を求める子どもの悲鳴であると思います。
 先日、煙草を吸っている少年に注意したら反抗してきました。しかし、厳しく言い聞かせると素直に謝り、帰り際に「おっちゃん!怒らんといてな~」と言い、バイバイと手を振りながら笑顔で帰っていきました。馬鹿にされているのかもしれないと思いつつ、彼は叱られて何かを感じたはずだと信じます。信じる、許す、愛することが少年に対する大人の務めと心掛け、時には騙されてやり、笑われてやればいい。子どもが大人の寛容な心に気付いたとき、非行の芽が枯れ、健全な芽が生え、奇麗な花を咲かせて実を付けるのだと信じています。

 

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