第7章 公安委員会制度と警察活動の支え 

14 犯罪対策閣僚会議の取組み

(1) 犯罪対策閣僚会議の開催とその考え方
 かつて、我が国の治安は総じて良好に保たれていると評価されていたが、近年その水準は悪化の一途をたどり、国民は強い不安感を抱くようになった。また、犯罪の増加と質的変化を背景に、犯罪に対峙する司法・行政システム全般の容量不足と機能低下も明らかになってきている。
 こうしたことから政府では、平成15年9月から、内閣総理大臣が主宰し、全閣僚を構成員とする犯罪対策閣僚会議を開催している。この会議は、「世界一安全な国、日本」の復活を目指し、関係推進本部及び関係行政機関の緊密な連携を確保するとともに、有効適切な犯罪対策を総合的かつ積極的に推進するためのものである。従来も、銃器対策や薬物対策を始め、犯罪対策にかかわる政策会議や推進本部が置かれた例はあったが、いずれも特定の事象に的を絞ったものであり、犯罪対策全般を幅広く取り扱う総合的かつ省庁横断的な枠組みが設けられたのは、今回が初めてのことである。これにより、政府一体となって治安回復に取り組む体制が整った。
 この会議で示された、次の「治安回復のための3つの視点」は、個々の施策を立案・実施・評価するための視座を提供するだけでなく、総合的で包括的な犯罪対策を実現するための理念としても機能している。

治安回復のための3つの視点
視点1)国民が自らの安全を確保するための活動の支援
 良好な治安は、警察のパトロールや犯罪の取締りのみによって保たれるものではなく、国民一人一人が地域において安全な生活の確保のための自発的な取組みを推進することが求められている。「安全確保のために何かしたい」という住民の思いを具体的な行動に昇華させていくことが重要であり、国は、情報の提供や防犯設備への理解の普及等を通じ、住民の自主的な取組みを支援していくことが必要である。

視点2)犯罪の生じにくい社会環境の整備
 犯罪の取締りのみならず、犯罪の抑止に直接・間接に有効であると認められる取組みを推進し、犯罪の生じにくい社会環境を整備することが重要である。地域の連帯や家族の絆を取り戻し、犯罪や少年非行を抑止する機能を再生すること、道路、公園、建物等の設計に防犯の視点を織り込むこと、治安に及ぼす影響を踏まえた外国人受入れ方策を検討することなど、あらゆる観点から多面的かつ多角的に諸対策を推進することが重要である。

視点3)水際対策を始めとした各種犯罪対策
 国際化・高度化する犯罪に的確に対応していくためには、従前以上に「省庁の壁」を超えた一層の連携と情報の有効活用が求められており、そのための枠組みの検討も視野に入れる必要がある。特に、水際対策は、的確な出入国管理が不可欠な上、その成否は関係省庁間の協働及び外国機関との連携が鍵を握っているため、国による横断的な取組みが特に期待される分野である。

コラム5 治安の悪化に対する国民の意識
 17年1月から2月にかけて内閣府が実施した「社会意識に関する世論調査」では、治安の良さを「日本の誇り」であるとした回答の割合は18.0%と、5年12月の調査結果(52.1%)の約3分の1の水準に低下した。また、現在の日本で悪い方向に向かっていると思われるのはどのような分野かと聞いたところ、「治安」と答えた者の割合が最も高く、「景気」(38.5%)と答えた者の割合を上回り、過去最高の47.9%に達した。

 
(2) 「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」の策定
 この3つの視点を前提としつつ、犯罪対策閣僚会議では、平成15年12月、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画~「世界一安全な国、日本」の復活を目指して~」を策定した。この行動計画は、犯罪対策の推進に関する政府の基本的な考え方を示した前文と、現下の犯罪情勢の特徴的傾向に即した5つの重点課題ごとに取りまとめられた総計148項目(重複項目を含む。)の個別施策から成っている。計画策定後5年間を目途に、国民の治安に対する不安感を解消し、犯罪の増勢に歯止めを掛け、治安の危機的状況を脱することを目標とし、国民、事業者、地方公共団体等の協力を得つつ、各施策を着実に実施していくこととされた。

 
犯罪対策閣僚会議
犯罪対策閣僚会議

「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」の骨子

1 平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止
 ・ 地域連帯の再生と安全で安心なまちづくりの実現
 ・ 犯罪防止に有効な製品、制度等の普及促進
 ・ 犯罪被害者の保護
2 社会全体で取り組む少年犯罪の抑止
 ・ 少年犯罪への厳正・的確な対応
 ・ 少年の非行防止につながる健やかな育成への取組
 ・ 少年を非行から守るための関係機関の連携強化
3 国境を越える脅威への対応
 ・ 水際における監視、取締りの推進
 ・ 不法入国・不法滞在対策等の推進
 ・ 来日外国人犯罪捜査の強化
 ・ 外国関係機関との連携強化
4 組織犯罪等からの経済、社会の防護
 ・ 組織犯罪対策、暴力団対策の推進
 ・ 薬物乱用、銃器犯罪のない社会の実現
 ・ 組織的に敢行される各種事犯の対策の推進
 ・ サイバー犯罪対策の推進
5 治安回復のための基盤整備

 
(3) 行動計画策定後の状況
 以降、上記行動計画に沿って、関係機関連携の下での犯罪の取締りや水際対策の強化、刑法を始めとする各種治安関係法令の改正、地方警察官、入国管理局職員、税関職員等の大幅増員等の施策が着実に講じられてきた。地方公共団体や地域住民、関係事業者等の間でも、これに呼応した取組みが積極的に行われるようになっている。
 平成17年6月に都市再生本部と合同で開催された第5回会合では、上記行動計画や「テロの未然防止に関する行動計画」(16年12月国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部決定)の推進状況の確認のほか、官民連携した安全・安心なまちづくりの全国展開、防犯対策等とまちづくりの連携協働による都市の安全安心の再構築、出入国管理体制や来日外国人の在留管理施策の充実等に関する協議が行われた(第3章第3節第1項参照)。

 14 犯罪対策閣僚会議の取組み

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