第6章 公安の維持と災害対策 

2 国際テロ対策

(1) テロ対策推進要綱の策定
 警察庁では、我が国に対するテロの脅威が急速に高まっていることから、平成16年8月、テロの未然防止と発生時の対処について、当面講ずべき諸対策を「テロ対策推進要綱」として取りまとめた。テロ対策に万全を期するためには、警察と関係機関や事業者、国民が協力して対策を講じることが必要であるため、本要綱には、警察が独自に行う対策だけでなく、幅広い分野にわたる対策が盛り込まれている。

 
図6-1 テロ対策推進要綱の概要

図6-1 テロ対策推進要綱の概要

 
(2) テロの未然防止に関する行動計画の決定
 テロ対策の要諦は、その未然防止にある。2001年(平成13年)9月11日の米国における同時多発テロ事件以降、欧米諸国でテロ対策を強化するための法制が整備される中、16年9月、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部(注)の第7回会合では、テロ未然防止のための制度について早急に点検を行い、その問題点を明らかにするとともに、年内をめどにその改善策を取りまとめることが合意された。これを受け、関係省庁により検討が進められ、同年12月、同推進本部の第8回会合で、「テロの未然防止に関する行動計画」が決定された。


注: 厳しさを増す国際テロ情勢を踏まえ、テロの未然防止を図り、国民の安全を確保するため、急増している国際組織犯罪等及び国民の不安が増しつつある国際テロに対して、関係行政機関の緊密な連携を確保するとともに、有効適切な対策を総合的かつ積極的に推進することを目的として、平成16年8月24日の閣議決定により、内閣に設置されていた国際組織犯罪等対策推進本部を改組したもの。

 この計画には、我が国がテロ対策の「ループ・ホール(抜け穴)」とならないよう、主要諸外国が採用しているテロの未然防止に有効と考えられる諸施策を参考として「今後速やかに講ずべきテロの未然防止対策」16項目が盛り込まれ、それぞれについて実施省庁と実施期限が明記された。また、直ちに対策の方向性を示すことは困難であるが、引き続き検討を行い、何らかの結論を得る必要があると判断した3項目が、「今後検討を継続すべきテロの未然防止対策」として盛り込まれている。

 
図6-2 今後速やかに講ずべきテロの未然防止対策等 ~「行動計画」第3及び第4の骨子~

図6-2 今後速やかに講ずべきテロの未然防止対策等 ~「行動計画」第3及び第4の骨子~

 
(3) テロの未然防止対策の推進
 [1] 情報収集と捜査の徹底等
 テロを未然に防止するためには、とりわけ、幅広い情報を収集し、それを的確に分析することが不可欠である。また、テロは極めて秘匿性の高い行為であり、収集される関連情報のほとんどは断片的なものであることから、情報の蓄積と総合的な分析が求められる。
 警察では、米国における同時多発テロ事件以降、外国治安情報機関等との連携を緊密化させるなど、テロ関連情報の収集・分析活動を強化した。平成16年4月には、警察庁警備局に外事情報部を設置するとともに、従前外事課に置かれていた国際テロ対策室を国際テロリズム対策課に発展的に改組した。また、17年4月には、同課に国際テロリズム情報官を設置した。
 また、過去に「アル・カーイダ」関係者が不法に出入国を繰り返し、国内に潜伏していたことが判明しており、警察では、徹底した捜査を推進している。

 [2] 水際対策の強化
 周囲を海に囲まれた我が国で、テロリストの入国を防ぐためには、国際空港・港湾で、出入国審査、輸出入貨物の検査等の水際対策を的確に推進することが重要である。国際空港・港湾では、警察、税関、入国管理局、海上保安庁等の様々な機関が水際対策に携わっており、これらの連携をより緊密なものとすることが課題であったことから、政府では、16年1月、内閣官房に空港・港湾水際危機管理チームを設置するとともに、16年3月までに、国際空港に空港危機管理官又は空港危機管理担当官を、国際港湾に港湾危機管理官又は港湾危機管理担当官を置いた。

 
図6-3 空港・港湾における水際対策・危機管理体制の強化

図6-3 空港・港湾における水際対策・危機管理体制の強化

 空港危機管理官や空港危機管理担当官のほか、一部の港湾危機管理担当官には、都道府県警察の警察官が充てられている。これらを中心に関係機関が連携を図りつつ、テロ事件を想定した訓練を実施するなど、水際対策の強化に努めている。
 また、テロリスト等の入国を防ぐためには、顔情報、虹彩、指紋等のバイオメトリクス(生体情報)を活用することが有効である。このため、同年6月、犯罪対策閣僚会議の幹事会の下にワーキングチームが設置され、関係省庁が連携し、バイオメトリクスを活用した出入国管理の推進を図っており、警察庁でも、制度の在り方や技術の高度化等に関する検討を行っている。

 [3] 重要施設の警戒警備
 警察では、関連情報の収集・分析を行い、情勢に応じた警備計画を立案の上、組織の総合力を発揮して、効果的かつ効率的な警戒警備を実施している。
 2001年(13年)9月の米国における同時多発テロ事件以降、厳しい国際テロ情勢を踏まえ、総理大臣官邸、空港、米国関連施設等の警戒警備を強化している。16年2月の陸上自衛隊本隊のイラク派遣に当たっては、重要施設の警戒警備を更に強化し、2004年(16年)3月にスペインのマドリードで同時多発列車爆破テロ事件が発生した際は、新幹線を始めとする鉄道の駅の警戒警備を強化するなど、情勢に応じた的確な警戒警備を実施している。

 
図6-4 効果的かつ効率的な警戒警備

図6-4 効果的かつ効率的な警戒警備

 
成田国際空港での警戒状況
成田国際空港での警戒状況

 
(4) テロへの対処態勢の強化
 [1] 特殊部隊(SAT)、銃器対策部隊の充実強化
 特殊部隊(SAT)は、7都道府県警察(北海道、警視庁、千葉、神奈川、愛知、大阪、福岡)に設置されており(平成17年度中に沖縄に設置予定)、ハイジャック、重要施設占拠事案等の重大テロ事件、武器を使用した事件等に出動し、被害者や関係者の安全を確保しつつ、事態を鎮圧して、被疑者を検挙することを主たる任務としている。主な装備としては、ライフル銃、自動小銃、特殊閃(せん)光弾、ヘリコプター等を保有している。
 銃器対策部隊は、全国の機動隊に設置されており、銃器等を使用した事案への対処を主たる任務とし、原子力発電所等の重要施設の警戒警備にも当たっている。また、重大事案発生時には、SATが到着するまでの第一次的な対応に当たり、SATの到着後は、その支援に当たることを任務としている。主な装備としては、サブマシンガン、ライフル銃、防弾衣、防弾帽、防弾楯、装甲警備車両等を保有している。

 [2] NBCテロ対応専門部隊の充実強化
 NBCテロ対応専門部隊は、8都道府県警察(北海道、宮城、警視庁、神奈川、愛知、大阪、広島、福岡)に設置されており(17年度中に千葉に設置予定)、NBCテロ(注)が発生した場合に、迅速に現場に臨場して、関係機関と連携を図りながら、原因物質の検知・除去、被害者の避難・誘導等に当たることを任務としている。主な装備としては、NBCテロ対策車、化学防護服、生化学防護服、生物・化学剤検知器等を保有している。


注:N(Nuclear:核)、B(Biological:生物)、C(Chemical:化学)物質を使用したテロ

 [3] スカイ・マーシャルの運用開始
 スカイ・マーシャルとは、ハイジャックの発生等に備えて、警察官等が、航空機に警乗する制度又はそのような任務により警乗する者をいう。米国における同時多発テロ事件以降、航空機がハイジャックされて自爆テロに用いられないようにするため、諸外国では、地上における航空保安対策の強化に加え、この制度の導入を進めている。2004年(16年)6月に米国で開催されたシーアイランド・サミットでは、海外渡航をより安全で容易にするための「安全かつ容易な海外渡航イニシアティブ)(SAFTI)の行動計画を推進していくことが合意され、スカイ・マーシャルに関する国際協力を強化することとされた。
 このような情勢を踏まえ、警察では、我が国の民間航空便についてもスカイ・マーシャルを早期に実施できるよう、国土交通省等の関係省庁や航空会社との調整を進め、16年12月からその運用を開始した。

 [4] 国際テロリズム緊急展開班(TRT-2)の設置
 警察庁では、1996年(8年)の在ペルー日本国大使公邸占拠事件の教訓を踏まえ、国際テロ緊急展開チーム(TRT:Terrorism Response Team)を設置し、国外で邦人や我が国の権益に関係する重大テロ事件が発生した際に、このチームを派遣し、現地治安機関と緊密に連携しつつ、情報収集や人質交渉等の捜査活動支援を行ってきた。
 2002年(14年)10月のインドネシアのバリ島における爆弾テロ事件では、同国の治安機関から我が国に対し、DNA鑑定等の鑑識活動について支援要請があり、専門家をTRTの一員として現地に派遣した。こうした支援要請には様々なものがあることから、16年8月、従来のTRTを発展的に改組し、現地治安機関に対してより広範囲の支援活動を行う能力をもつ国際テロリズム緊急展開班(TRT-2:Terrorism Response Team - Tactical Wing for Overseas)を発足させた。
 TRT-2は、常設の組織ではなく、国際テロの捜査、国外における情報収集、鑑識、人質交渉等に関する専門的な知識、技能又は経験を有する警察庁及び都道府県警察の職員等をあらかじめ班員として指定しておき、事案発生時に警察庁長官が派遣を決定するものである。2004年(16年)9月のインドネシア・ジャカルタにおける豪州大使館前爆弾テロ事件や同年10月のイラクにおける邦人人質殺害事件に際し派遣された。

 
表6-5 TRT及びTRT-2の派遣状況

表6-5 TRT及びTRT-2の派遣状況
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 [5] 関係省庁との連携強化
 警察では、テロ対策に関し、平素から関係省庁との連携強化を図っている。防衛庁・自衛隊とは、事案発生時には、装備資機材を相互に貸与するなど、十分な連携の下で事態に対処することとしている。
 また、14年11月から、関係都道府県警察とこれに対応する陸上自衛隊の師団等との間で、自衛隊の治安出動に際しての連携等に関する共同図上訓練を実施しており、その成果を踏まえ、16年9月、警察庁と防衛庁が「治安出動の際における武装工作員等事案への共同対処のための指針」を作成した。
 海上保安庁とは、米国における同時多発テロ事件以降、連携して原子力発電所の警戒警備に当たっている。15年6月からは、関係道県警察とこれに対応する管区海上保安本部等との間で、原子力発電所の警備の共同訓練を実施している。

 [6] 国際協力の推進(第2章第2節(2)参照)

 [7] 海外における邦人の安全対策
 近年、世界各地で宗教問題や民族問題を背景としたテロが多発しており、日本企業の海外展開の拡大や国民の海外旅行の増加に伴い、邦人が海外でテロに巻き込まれる危険性が高まっている。また、我が国が、政治、経済等の面で国際的に重要な役割を果たすようになったことに伴い、日本権益を標的としたテロ、誘拐、襲撃事件等も発生している。
 警察庁は、平素から専門知識を持つ職員を海外に派遣し、外国治安情報機関等との情報交換を行うなど積極的に情報収集活動を行い、国際テロ組織や国際テロリストの動向把握に努め、情報を随時関係機関等に提供するなど、海外における邦人の安全対策に貢献している。また、職員を海外安全対策会議(注)にパネリストとして派遣し、国際テロ情勢や在外邦人が講ずべき安全対策等を教示している。


注:財団法人公共政策調査会等が、平成5年以降、毎年1回、海外主要都市で在外邦人の安全対策のために開催する会議

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