第4章 組織犯罪対策 

5 総合的な銃器対策

 過去10年間に我が国で押収されたけん銃は1万丁を超えている(平成16年12月末現在で1万717丁を押収)。最近、押収丁数は減少傾向にあるが、これは、暴力団等の犯罪組織が隠匿や密輸・密売の方法をますます潜在化・巧妙化させ、押収が困難になっているからであると考えられる。このため、犯罪組織の武器庫の摘発や密輸・密売事件等の摘発に重点を置いた取締りを行うなど、総合的な銃器対策を推進している。

(1) 銃器の摘発
 [1] けん銃の押収状況
 平成16年中のけん銃押収丁数は601丁と、前年より184丁(23.4%)減少した。インターネットを利用して取引されたけん銃の押収丁数が、14年以降急増していたところ、16年は大幅に減少した。また、暴力団からの押収丁数は309丁と、全押収丁数の51.4%を占めた。

 
図4-10 けん銃押収丁数の推移(平成7~16年)

図4-10 けん銃押収丁数の推移(平成7~16年)
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図4-11 インターネットを利用して取引されたけん銃押収丁数の推移(平成12~16年)

図4-11 インターネットを利用して取引されたけん銃押収丁数の推移(平成12~16年)
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暴力団から押収したけん銃等
暴力団から押収したけん銃等

 [2] 武器庫事件の検挙状況
 16年中は、武器庫事件(組織管理に係る3丁以上のけん銃を押収した事件をいう。)を11件(前年比1件増)検挙し、けん銃49丁(前年比11丁減)を押収した。摘発した武器庫は、すべて暴力団が組織的に管理していたものであり、武器庫1か所当たりのけん銃隠匿丁数は4.5丁であった。
 隠匿場所は、家屋床下の土中や貸駐車場内、空き家の便所の床下等様々であり、また、同一家屋内に分散させて隠匿するなど、手口が一層巧妙化している。

 
図4-12 武器庫事件の検挙状況(平成7~16年)

図4-12 武器庫事件の検挙状況(平成7~16年)
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事例1
 16年6月、五代目会津小鉄会傘下組織幹部(54)が管理する空き屋を捜索したところ、便所の床下からけん銃等7丁及び実包275個を発見、押収し、同幹部を銃刀法違反で逮捕した(京都)。

事例2
 16年6月、山口組傘下組織幹部(30)の実母宅を捜索したところ、仏間押入内からアタッシュケースに入ったけん銃5丁及び実包76個を発見、押収した。その後の捜査の結果、これらの隠匿を依頼していた二代目福博会傘下組織幹部(31)を銃刀法違反で逮捕した(福岡)。

 
武器庫から押収したけん銃等
武器庫から押収したけん銃等

 [3] けん銃等密輸入事件の検挙状況
 16年中は、けん銃等密輸入事件4件(けん銃密輸入事件3件、けん銃部品密輸入事件1件)を検挙し、けん銃4丁を押収した。いずれも、暴力団等の犯罪組織とのかかわりがないとみられる者によって敢行されたものであった。

 
図4-13 けん銃等密輸入事件の検挙状況(平成7~16年)

図4-13 けん銃等密輸入事件の検挙状況(平成7~16年)
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事例3
 16年5月、横浜税関から「米国から発送され、貨物船で陸揚げされた外国郵便小包からけん銃の部品(スライド部分)1個を発見した」との通報を受け、同税関との共同捜査を開始した。荷受人に対する捜査や関係先から押収した証拠品の分析により、会社経営者(47)が国際郵便を利用して同部品を密輸入しようとしたことを突き止め、銃刀法違反で逮捕した(神奈川)。

事例4
 16年6月、大阪税関でけん銃1丁及び実包4個が発見されたことから、同税関との共同捜査を開始し、荷受人に対する捜査等を行った結果、愛知県の大学生の女(21)を容疑者として割り出すとともに、無職の男(35)がタイでけん銃と実包を同女に売り渡していたことが判明し、両人を銃刀法違反で逮捕した(大阪、愛知)。

 
(2) 政府の銃器対策
 厳しい銃器情勢に対処するため、内閣官房長官を長とする政府の銃器対策推進本部では、毎年度、銃器摘発体制、取締り関係機関相互の連携及び水際対策等に関する施策を取りまとめた「銃器対策推進計画」を策定し、これに基づく総合的な銃器対策に取り組んでいる。
 また、警察では、海・空港等の水際での銃器取締りを推進するため、税関、海上保安庁等との共同捜査や合同訓練の実施、連絡協議会の開催等関係機関と連携した対策を推進している。

 
合同訓練の模様
合同訓練の模様

 
(3) 国際的な銃器対策
 我が国は、平成14年12月、銃器議定書(注1)への署名を行った。同議定書の締結により、国際的に不正取引された銃器の追跡調査が容易になり、国際協力が更に円滑になることが期待されるため、警察庁では、関係省庁と共に締結に向けた検討を進めている。
 また、国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)を通じるなどして、外国関係機関と積極的に情報交換を行っているほか、職員を派遣したり、関係者を招へいして国際会議を開催したりするなど、外国関係機関との連携の強化に努めている。


注1:国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(本条約)を補足する3議定書の1つに位置付けられ、銃器、その部品及び弾薬の不正な製造及び取引を犯罪化するとともに、銃器への刻印、記録保管、輸出入管理等に関する制度を確立し、法執行機関間の協力関係を構築するための条約である(16年末現在の署名国は52か国、締結国は31か国)。

 
(4) 国民の理解と協力の確保
 各都道府県警察本部に「けん銃110番」という電話窓口を設置して、国民からけん銃事犯に関わる情報の提供を求めている。また、「銃器犯罪根絶の集い」(注2)等の催し物を開催したり、「ストップ・ガン・キャラバン隊」(注3)等の民間ボランティア団体と連携した活動を行ったりすることで、銃器犯罪の根絶と違法銃器の排除を広く国民に呼び掛けている。


注2:警察庁と都道府県銃器対策本部等が毎年度共催している催し物。平成7年10月に東京で第1回目が開催されて以降、東京で2回、神奈川、福岡、大阪、広島、宮城、群馬、山梨で各1回ずつ開催している。
 3:銃器犯罪の被害者の遺族や関係者、銃器問題に深い関心をもつ研究者等で構成されるボランティア団体。9年4月に発足し、催し物や会合、ウェブサイト等を通じて、国民に銃器犯罪の悲惨さを訴え、違法銃器を根絶しようとする意識を高めている。

 
銃器犯罪根絶の集い(平成16年10月)
銃器犯罪根絶の集い(平成16年10月)

 第3節 薬物銃器対策

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