第4章 組織犯罪対策 

2 暴力団犯罪の取締り

(1) 検挙状況全般
 平成16年中の暴力団構成員及び準構成員の検挙人員は2万9,325人と、前年より1,225人減少した。
 過去10年間の傾向をみると、傷害、恐喝、暴行、脅迫といった暴力団の威力をあからさまに示す形態の犯罪の検挙人員が横ばいであるか減少の傾向にあるのに対して、窃盗、詐欺、強盗といった必ずしも暴力団の威力を示すことのない犯罪の検挙人員は増加傾向にある。暴力団対策法が施行されて暴力的要求行為等が規制され、国民の間で暴力団排除活動が活発化したことから、威力をあからさまに示す資金獲得活動が困難になったものとみられる。
 しかし、検挙人員の絶対数が多いのは、傷害、恐喝、強盗等の粗暴犯や凶悪犯であり、対立抗争事件等ではけん銃を使用するなど、その暴力性に本質的な変化はない。

 
図4-1 暴力団構成員及び準構成員の主要罪種別検挙人員の推移(平成7~16年)

図4-1 暴力団構成員及び準構成員の主要罪種別検挙人員の推移(平成7~16年)
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(2) 資金獲得犯罪の検挙状況
 暴力団の資金獲得犯罪の手口は多様化・不透明化している。近年は、暴力団構成員及び準構成員の総検挙人員のうち、覚せい剤の取引、賭博等のいわば伝統的な資金獲得犯罪による検挙人員の占める割合が低下している一方で、金融・不良債権関連事犯や企業活動を利用した資金獲得犯罪による検挙人員の占める割合が高まっている。
 警察では、多様化・不透明化する暴力団の資金獲得活動に関する情報を収集・分析し、違法行為の取締りや暴力団排除活動を推進することにより、暴力団の資金源の遮断に努めている。

 [1] 伝統的資金獲得犯罪
 古くからある暴力団の資金獲得犯罪として、覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博及び公営競技関係4法違反(ノミ行為等)が挙げられる。暴力団構成員及び準構成員の全検挙人員のうち、これらの罪種の検挙人員が占める割合は年々減少しており、暴力団による資金獲得活動が多様化していることがうかがえる。

 
表4-2 伝統的資金獲得犯罪に係る暴力団構成員及び準構成員の検挙人員の推移(平成12~16年)

表4-2 伝統的資金獲得犯罪に係る暴力団構成員及び準構成員の検挙人員の推移(平成12~16年)
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事例1
 山口組傘下組織幹部(56)らは、東京都新宿区のカジノ店が賭博場であることを知りながら、店内のもめ事を防止するなど、よりカジノ店経営者らの犯行を容易にさせ、幇助した。平成16年12月、賭博開帳図利幇助罪で逮捕した(警視庁)。

 [2] 金融・不良債権関連事犯
 16年中の暴力団構成員及び準構成員に係る金融・不良債権関連事犯の検挙件数は55件と、前年より21件減少した。このうち、競売入札妨害事件、強制執行妨害事件等の債権回収過程におけるものが43件(78.2%)を占めており、これらの事犯が依然として暴力団の資金源となっていることがうかがえる。

事例2
 稲川会と関係を有する、競売物件を不法に占拠することを業とするいわゆる占有屋集団は、競落人に対する売却許可決定がなされた横浜市内の競売不動産につき、同人から立退料を得るために競売手続を遅延させようと企て、15年7月、内容虚偽の所有者名義の執行抗告申立書を偽造して裁判所に郵送し、偽計を用いて公の入札の公正を害した。16年1月、競売入札妨害罪等で逮捕した(神奈川、愛知、京都、大阪)。

 [3] 企業活動を利用した資金獲得犯罪
 暴力団は、自らが経営に関与する企業を通じ、又は企業と結託して、いわゆる表の経済社会へ進出し、一般の経済取引を装うなどして様々な犯罪を引き起こしている。

事例3
 山口組傘下組織組長(57)は、13年7月、自己が実質的に経営する土木工事会社が特定建設業の許可を申請する際、県の指名業者として高い評価を得る目的で、資本金額を偽装した商業登記簿謄本を添付するなどして、県に虚偽の申請をして許可を受けた。16年9月、建設業法違反等で逮捕した(兵庫)。

 [4] 企業対象暴力事犯、行政対象暴力事犯
 16年中の暴力団構成員、準構成員、総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロによる企業対象暴力及び行政対象暴力事犯の検挙件数は554件(前年比12件減)であった。警察では、企業や行政機関からの暴力団、総会屋等に関する相談に的確に対応するとともに、これらの事犯を常習的に行う組織や個人の取締りを推進している。

事例4
 五代目共政会会長(61)は、広島市発注の解体工事を受注した業者に対し、「お前のところの会社が工事をしているようじゃが、工事をするときには、うちの組にあいさつをしてもらわないといけん。」などと脅して金銭を要求し、11年12月ころから13年12月ころにかけて、7回にわたり、当該業者等から合計約3,400万円を脅し取った。16年6月、恐喝罪で逮捕した(広島)。

事例5
 元暴力団構成員である特定非営利活動法人(NPO)代表(55)らは、建設会社が東京都で施工中のマンション建設工事に関し、「地下に砒(ひ)素とカドミウムが埋まっている土地に建設するマンションを販売しようとしています」などと、同社や関係不動産業者を誹謗中傷する街頭宣伝活動やビラ配布を行い、14年5月から11月にかけて、5回にわたり、同社から合計3,000万円を脅し取った。16年1月、恐喝罪で逮捕した(警視庁)。

事例6
 稲川会傘下組織組長(64)は、自己が購入した土地に隣接する村道が未登記であったことに因縁を付け、村の幹部らから金員を喝取しようと企て、15年9月、助役らに対し、「俺の土地が村道になっている。どうしてこんなに長い間登記を放っておいたんだ。こんな怠慢をマスコミに流したら役場の立場はどうなるんだ」などと脅迫し、購入した土地を660万円で村に買い取らせた。16年1月、恐喝罪で逮捕した(新潟)。

 [5] その他の資金獲得犯罪
 そのほか、暴力団は、各種公的給付制度の悪用、振り込め詐欺、強盗、窃盗等、時代の変化に応じて様々な資金獲得犯罪を行っている。

事例7
 山口組傘下組織組長(36)らは、厚生労働大臣が指定する教育訓練の受講者に対して受講費用の一部を支給する教育訓練給付制度の悪用を企て、当該指定を受けて開設したパソコン講座につき、「受講料の自己負担は一切不要」などとして受講希望者を勧誘し、これらの者が正規の訓練を受けていないのに、受けたかのように装って給付金の支給を申請し、15年7月から8月にかけて、職業安定所から合計約1億円をだまし取った。16年5月、詐欺罪で逮捕した(岡山)。

 
(3) 暴力団に対する組織的犯罪処罰法の適用
 警察では、組織的犯罪処罰法の加重処罰規定や犯罪収益等の隠匿罪、収受罪についての規定等の適用を通じて、暴力団構成員及び準構成員を長期的に社会から隔離し、暴力団の資金のはく奪を図っており、暴力団構成員及び準構成員に対する同法の適用件数は、年々増加している。

 
表4-3 暴力団構成員及び準構成員に対する組織的犯罪処罰法の適用状況(平成12~16年)

表4-3 暴力団構成員及び準構成員に対する組織的犯罪処罰法の適用状況(平成12~16年)
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事例
 山口組直系組長(66)は、平成16年1月から3月にかけて、3回にわたり、同組幹部らが高金利の貸付けによる利息として得た犯罪収益等であることを知りながら、同組組員を介し、現金合計75万円を収受した。同年6月、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)で逮捕した(大阪)。

 
(4) 対立抗争事件及び暴力団等によるとみられる銃器発砲事件
 平成16年中の対立抗争事件数は6件(前年比1件減)、対立抗争に起因するとみられる不法行為の発生回数は31回(前年比13回減)であった。
 暴力団対策法の規定に基づく事務所使用制限命令の発出や、指定暴力団の代表者等が対立抗争に伴う不法行為について無過失損害賠償責任を負うこととする規定を設けた16年の同法の改正の効果により、最近の対立抗争のほとんどは、短期間で終結している。

 
表4-4 対立抗争事件及び暴力団等によるとみられる銃器発砲事件の発生状況の推移(平成7~16年)

表4-4 対立抗争事件及び暴力団等によるとみられる銃器発砲事件の発生状況の推移(平成7~16年)
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事例
 16年1月、福岡県で、二代目福博会傘下組織事務所にトラックが突入する事件が発生し、同年2月には、山口組傘下組織事務所にけん銃が撃ち込まれるなど、山口組と二代目福博会との対立抗争に関連するとみられる発砲事案等が発生した。この対立抗争事件に関連し、同年12月末までに、殺人未遂罪等で4人を逮捕した(福岡)。

 
(5) けん銃の押収
 平成16年中の暴力団構成員及び準構成員からのけん銃の押収丁数は309丁と、前年より25丁減少した。この10年間、押収丁数は減少傾向にある。

 
表4-5 暴力団構成員及び準構成員からのけん銃押収丁数の推移(平成7~16年)

表4-5 暴力団構成員及び準構成員からのけん銃押収丁数の推移(平成7~16年)
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 第2節 暴力団対策

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