第3章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

2 地域社会との連帯による治安回復への取組み

(1) 防犯ボランティア団体の活動
 平成16年10月に財団法人社会安全研究財団が実施した「犯罪に対する不安感等に関する調査研究」(注1)によると、「地域住民のボランティア活動」が犯罪抑止に「とても重要」、「重要である」と答えた者は79.3%であり、また、既に参加している者を含め、49.5%の者が自主防犯活動への参加の意思を示した。
 このような、地域の治安水準の悪化に強い問題意識をもつ地域住民等によって、多くの防犯ボランティア団体が結成されている。16年12月末現在、警察が把握している団体数は全国で約8,000団体(前年比約5,000団体増)(注2)であり、それらに所属して活動するボランティアの総数は約52万人(前年比約34万4,000人増)に上る。


注1:全国の20歳以上の男女2,500人(層化二段無作為抽出法、150地点)に対して犯罪の被害に遭う不安感や地域の治安、防犯対策等に関する意識等についてアンケートを行い、1,782人(71.3%)の回答を得たもの
 2:平均して月1回以上の活動実績(単に意見交換や情報交換のみを行う会議を除く。)があり、かつ、構成員が5人以上の団体に限る。また、防犯協会、少年警察関係団体、2以上の都道府県にまたがって活動している団体等を除く。

 
防犯ボランティア団体によるパトロール
防犯ボランティア団体によるパトロール

事例
 山口県岩国市麻里布町(まりふまち)では、少年による犯罪や不良行為、放火の疑いのある火災やけんか等の粗暴犯罪等が多発したことから、16年2月、商店主、消防団員等による防犯パトロール組織「麻里布パトロール」が結成された。この組織は、岩国警察署と連携して、街頭でのパトロール活動を週2回行い、青少年の健全育成と事件、事故、災害の未然防止を図っている。この組織が活動する同署麻里布交番管内の16年上半期の刑法犯認知件数は、前年同期より83件(24.1%)減少した。

 
(2) 自主防犯活動に対する支援
 警察では、こうした自主防犯活動の活性化を図るため、平成16年6月に警察庁が取りまとめた「『犯罪に強い地域社会』再生プラン」に基づき、地域住民への地域安全情報(注3)の提供、防犯講習・防犯訓練や警察との合同パトロールの実施等の支援策を講じている。


注3:地域住民にとって身近な犯罪等の発生状況や犯罪類型別の被害防止方法等地域の安全確保にとって必要な情報

 17年度には、活動拠点を設置して行われる自主防犯活動を支援する「地域安全安心ステーション」モデル事業を全国100地区で実施している。この事業は、警察が、消防、学校及び市区町村と連携して、地域住民やボランティア団体が管理・運営する「地域安全安心ステーション」の整備を推進するものである。この「地域安全安心ステーション」は、防犯パトロールの出動拠点、地域安全情報の集約・発信拠点、自主的活動への参加拡大の拠点となるものである。この事業では、地域住民による防犯パトロール等の自主防犯活動に対し、地域安全情報の提供、防犯講習・防犯訓練や警察との合同パトロールの実施、防犯パトロール用品(懐中電灯、防犯ブザー、腕章等)の無償貸付等の支援を行っている。

 
(3) 犯罪情報や地域安全情報の提供
 犯罪の防止に関する地域住民の意識を高め、また、地域住民が行う自主防犯活動がより効果的なものとなるよう、警察では、地域住民に向けて、警察の有する犯罪情報や地域安全情報を様々な手段・媒体を用いて提供している。
 また、情報提供がより具体的で有用なものとなるよう、地域ごとの犯罪の発生件数やその増減の状況を伝えるだけではなく、多発している犯罪の種類や犯行手口を分析し、特にどのようなことに気を付けなければならないかを分かりやすく示し、ひったくり、空き巣、性犯罪等から身体や財産を守るための方法の普及を図っている。
 さらに、情報提供の手段・媒体についても、警察官が巡回連絡で家庭や事業所を訪問する際や自治会の会合に参加する際に直接説明したり、ウェブサイトや広報誌、新聞の折り込みちらしを活用したりするなど、できる限り多くの者に情報が届くように工夫している。

事例1
 北海道警察では、平成16年4月から、ウェブサイトで、路上強盗、ひったくり、侵入窃盗等7罪種の発生状況に関する情報を提供している。路上強盗とひったくりについては、発生場所が地図上に表示され、他の5罪種については、件数、発生の多寡が地域ごとに色分けして表示される。縮尺の調整も可能で、地図を拡大すれば、身近な地域の犯罪情勢をより分かりやすく把握することができる。

 
街頭犯罪発生マップ(北海道警察ウェブサイトより)
街頭犯罪発生マップ(北海道警察ウェブサイトより)

事例2
 広島県警察では、広島県福祉保健部と協力し、寺院、医療機関、シルバー人材センター連合会等と共に、高齢者に振り込め詐欺、悪質商法、ひったくり等に関する情報を提供するためのネットワークを構築した。例えば、警察本部が寺院に対して提供した情報は、寺院での法話の際に高齢者に伝えられるなど、効果的に情報を提供できるようになった。情報提供は、原則毎月1回行われる。

 
図3-20 高齢者安全情報ネットワークの概要

図3-20 高齢者安全情報ネットワークの概要

 
(4) 繁華街・歓楽街における総合的な治安対策
 全国各地の繁華街・歓楽街では、いかがわしい広告があふれ、悪質な客引き行為が後を絶たないなど、街の風俗環境が著しく害されており、無届けのファッションヘルス営業、賭(と)博を開帳するカジノ等の違法営業のほか、風俗店における外国人の不法就労、少年の雇用・入店等の違法行為も横行している。最近では、エステティックサロンやマッサージ店を装って、外国人女性が性的なサービスを提供する違法営業や、無料風俗案内所等と称し、善良な風俗環境を害する広告宣伝を行い、違法な性風俗業者に客を案内して対価を得る事例も目立っている。
 また、こうした風俗営業、賭博、薬物密売等にかかわる利権を求め、暴力団や外国人犯罪組織が暗躍し、街が犯罪組織の資金獲得や活動の拠点となっていることも多い。
 このため、警察では、特別の取締り部隊を編成するなどして、違法な風俗営業、外国人の不法就労、犯罪組織による資金獲得活動等の取締りを強化している。さらに、多くの地域では、市区町村や地域住民、事業者等が連携し、健全な魅力あふれるまちづくりを進めていく中で環境浄化や治安回復を図っていこうとする試みが広く行われるようになっており、警察では、その支援・協力に努めている(その全国展開については本節1を参照)。

事例1 カジノ店の摘発
 東京都新宿区の歌舞伎町地区にあるカジノ店の経営者(36)らは、店内で客に賭博をさせ、換金手数料を徴収していた。平成16年6月、店の従業員ら41人を賭博開張等図利罪、同幇助罪で、賭客の中国人等外国人35人、日本人4人を賭博罪で検挙するとともに、賭金約1,500万円、バカラ台7台等を押収した。また、同店が賭博場であることを知りながら、もめ事を防止するなどの用心棒としての役割を請け負い、同店からみかじめ料を徴収していた。17年1月までに賭博開帳等図利幇助罪、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)で逮捕した(警視庁)。

事例2 横浜市の歓楽街対策
 横浜市の福富町・黄金町地区では、外国人売春婦らが立ち並ぶなど、性を売り物とする違法な風俗店が乱立し、客引き行為も横行していた。地元の企業、住民、防犯ボランティア等は、同地区の風俗環境を浄化するため、神奈川県警察や横浜市の支援の下、15年6月に「長者町・福富町等地域環境浄化特別対策推進委員会」を結成して環境浄化パトロール隊や民間交番を設置し、パトロール、環境美化、違法駐車対策等を推進している。
 また、神奈川県警察は、17年1月、伊勢佐木警察署に「歓楽街総合対策バイバイ作戦推進本部」を設置して取締りを強化するとともに、売春が横行する黄金町の中心部に「歓楽街総合対策現地指揮本部」を設置してパトロール活動を強化した。これらの結果、街娼(しょう)や悪質な客引きが激減した。

 
摘発前と摘発後
摘発前と摘発後

事例3 仙台市のピンクビラ対策
 仙台市の国分町地区では、昭和58年ころから増加した違法な性風俗店が、宣伝のためにいわゆるピンクビラ(ピンクちらし)を大量に頒布し、「ピンクちらし公害」などと悪評される状況にあった。宮城県警察は、「杜の都仙台ピンクちらし壊滅作戦推進本部」を設置し、平成15年1月から16年12月にかけて、機動隊等を投入した集中取締りを行うとともに、宮城県や仙台市と協力して防犯カメラを設置するなどして、その頒布を抑止した。また、宮城県ピンクちらし根絶活動の促進に関する条例が改正され、頒布目的所持罪、携帯罪等が新設されたことから、これを適用した取締りを強化した。さらに、仙台市が民間事業者に委託して、街頭での回収作業を徹底して行った。これらにより頒布数は激減し、関係する売春組織にも大きな打撃を与えた。

コラム2 風営適正化法の一部改正案
 (第162回国会提出)
[1] 人身取引の防止
 性風俗関連特殊営業を営む者等に対し、接客に従事する者の就労資格の確認を義務付けるほか、刑法に新たに規定された人身売買の罪等を風俗営業の欠格事由とする。
[2] 性風俗関連特殊営業の規制強化
 届出をした旨を記載した書面(公安委員会が交付)を備え付けさせるほか、派遣型ファッションヘルス営業の客が出入りする事務所を店舗型性風俗特殊営業の営業所と同様に規制するなど、性風俗関連特殊営業の規制を強化する。
[3] 集客行為の規制強化
 客引きをするための立ちふさがり、つきまとい行為を禁止するほか、性風俗関連特殊営業に関する広告宣伝ビラの住居への投込み等を直罰化する。また、店舗型性風俗特殊営業等を無届けで営む者による広告宣伝を禁止する。
[4] 少年指導委員に関する規定の整備
 公安委員会の指示の下、少年指導委員が風俗営業の営業所等に立ち入ることができるようにする。
[5] 店舗型性風俗特殊営業の禁止地域営業の法定刑の引上げを始めとした罰則の強化

 第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

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