第3章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

1 安全・安心なまちづくりの全国展開

(1) 犯罪対策閣僚会議と都市再生本部の連携
 近年、住居に犯罪者が侵入したり、街頭で犯罪の被害に遭ったりする事案が急増しているほか、子どもをねらった凶悪犯罪が多発している。また、人々が行き交う繁華街・歓楽街では、風俗店の違法営業が横行するなど風俗環境の悪化が進む一方、街が犯罪組織の活動拠点となっている。
 これに不安を覚える全国の地域住民の間では、警察等の取締りだけに頼るのではなく、パトロールや地域安全情報の発信を行うなど、自らの手で街の安全・安心を確保しようとする気運が高まっている。また、市区町村や事業者等も関与しながら、犯罪対策とまちづくりの施策を融合させ、平穏に生活できる街、健全なにぎわいのある街を再生しようとする動きが拡大している。
 政府では、こうした地域の自主的な取組みを支援し、官民連携した安全で安心なまちづくりを全国に展開するため、平成17年6月、犯罪対策閣僚会議と都市再生本部の合同会議を開催し、下記(2)及び(3)の2つのプラン、プロジェクトを決定し、両者協調させて推進していくこととした。警察庁及び都道府県警察も、これらの取組みに積極的に参画していくこととしている。

 
(2) 「安全・安心なまちづくり全国展開プラン」(犯罪対策閣僚会議決定)
 このプランは、官民連携した安全・安心なまちづくりに関し、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」(平成15年12月同会議決定。第7章第14項参照)を補完し、加速化させるため、当面重点的に推進すべき施策を取りまとめたものである。プランには、次の3つの重点課題別に、合計61の推進施策が盛り込まれている。

[1] 住民参加型の安全・安心なまちづくり全国展開

 ・ モデル事業・モデル調査の全国的実施
 ・ 防犯ボランティアと防災ボランティアの連携強化
 ・ 防犯ボランティア全国ネットワークの形成
 ・ 安全・安心なまちづくりデータベースの構築
 ・ 地域安心安全情報ネットワークの構築
 ・ 内閣総理大臣による表彰制度の新設
など

[2] 住まいと子どもの安全確保

 ・ 都市再生整備計画に基づく安全・安心なまちづくり
 ・ 防犯性能の高い公的賃貸住宅等の整備
 ・ 住宅の購入・注文時における防犯性能の表示
 ・ 地域ぐるみの学校安全体制の整備
 ・ コンビニエンスストア、ガソリンスタンド、大規模小売店舗等による地域安全活動の全国展開
など

[3] 健全で魅力あふれる繁華街・歓楽街の再生

 ・ 違法性風俗店、暴力団、人身取引等の取締りの強化
 ・ 街ぐるみの環境浄化活動の展開
 ・ 取締りにより生じた空きビル・空き店舗の転用
 ・ 落書きや違法広告のしにくい美しい街並みの形成
 ・ 歩行者優先の道路空間整備と違法駐車対策
 ・ 違法性風俗店や暴力団の入居阻止
など

 
(3) 都市再生プロジェクト「防犯対策等とまちづくりの連携協働による都市の安全・安心の再構築」(都市再生本部決定)
 このプロジェクトは、都市再生本部が初めて決定した、犯罪対策に関する国家的プロジェクトである。防犯、防災、福祉、産業等の活動ネットワークがまちづくりの中で連携協働することにより、国民が体感する治安水準を回復させるなど、都市の安全・安心を再構築するための取組みを強力に推進しようとするもので、次の2つの項目から構成されている。
 第1の「大都市等の魅力ある繁華街の再生」では、安心して楽しめる街の再生を目指し、犯罪の取締りを強化しつつ、迷惑行為や違法行為の排除と未然防止、街の美化、地域特有の資源や文化を生かした街の魅力づくり、都市再生事業等による新たなにぎわいと人の流れの創出等の取組みを連動させるとともに、全国主要都市(注)で、新宿歌舞伎町地区の事例を踏まえたモデル的取組みを展開することとした。
 第2の「全国の多様な主体の連携によるトータルな安全・安心まちづくり」では、通学路周辺、住宅地、商店街等の地域特性に応じ、危険情報の公開・共有化や死角の除去、防犯活動等の拠点形成等により、安全・安心な環境の確保を図るとともに、住宅の防犯性能の評価システムの開発・普及、新技術の活用等により、安全・安心の確保に係る新たな仕組みを構築し、新たな市場と民間の事業化を誘導育成することとした。


注:薄野(札幌)、池袋、渋谷、六本木(東京)、関内・関外(横浜)、栄周辺(名古屋)、木屋町周辺(京都)、ミナミ(大阪)、流川・薬研堀(広島)、中洲(福岡)の10地区が例示されている。

コラム1 「歌舞伎町ルネッサンス」の推進
 東京都新宿区の歌舞伎町地区は、一日に数百万人が利用するターミナル駅の間近にありながら、性を売り物とする違法店舗が林立し、悪質な客引き、美観を損なう広告、違法駐車等が横行するなど、風俗環境の退廃や街並みの無秩序化が進む一方、犯罪組織が資金獲得や謀議、情報交換、構成員の勧誘等を行う拠点ともされている。
 こうした状況を改善するため、同地区では、官民が協力し、犯罪対策とまちづくりの施策を融合させ、相乗効果で街の治安回復と健全なにぎわいの創出を図ろうとする取組みが進められている。平成17年1月には、推進母体として「歌舞伎町ルネッサンス推進協議会」(会長:中山弘子新宿区長)が設置された。
 この協議会には、地元事業者、自治会のほか、新宿区、東京都、警視庁、東京消防庁、東京入国管理局、国の関係省庁等多様な関係当事者が参画し、多数のボランティアの協力を得て、次のような、いわば「マイナスをゼロにする取組み」と「ゼロをプラスにする取組み」を一体的に推進している。
 [1] クリーン作戦プロジェクト:環境美化運動、違法広告対策、違法風俗店対策、暴力団対策等
 [2] 地域活性化プロジェクト :街の情報発信、各種イベントや映画祭の開催、国際交流施策等
 [3] まちづくりプロジェクト :街の景観向上や再開発、劇場街の再生、まちづくり計画の策定等
 こうした動きに呼応し、警察や入国管理局でも、違法営業、暴力団や外国人犯罪組織、不法滞在者等を集中的に摘発しているほか、街頭犯罪、違法駐車、条例違反となる客引き行為等の取締りを行っている。

 
推進協議会の第1回会合
推進協議会の第1回会合

 
クリーン作戦による違法看板の撤去
クリーン作戦による違法看板の撤去

 第3節 安全で安心な暮らしを守る施策

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