第3章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

10 金融・不良債権関連事犯と企業犯罪

(1) 金融・不良債権関連事犯
 我が国の経済情勢がいまだ不安定な状況にある中、企業が破綻に至る過程又はその破綻処理を行う過程で、経営陣が経済取引の健全性・公正性を害する行為を行う不正事犯が発生している。

 
捜索の際に発見された証拠資料
捜索の際に発見された証拠資料

 平成16年中の金融・不良債権関連事犯の検挙事件数は144事件と、前年より23事件(13.8%)減少した。その内訳は、融資過程における背任・詐欺事件等が20事件、金融機関による債権回収の過程で民事執行を妨害するなどした強制執行妨害事件等が52事件、金融機関の役職員による詐欺、業務上横領事件等が72事件であった。

 
図3-13 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成7~16年)

図3-13 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成7~16年)
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事例1
 商工共済協同組合理事長(80)らは、内装設計会社等の利益を図り、その任務に背き、同社に融資を実行してもその回収が著しく困難であり、同組合に損害を加えることを認識しながら、十分な担保を取るなど債権を回収するための適切な措置を講じることなく、12年1月から12月にかけて、19回にわたり、同社に対し合計約1億3,000万円の融資を実行し、同組合に損害を与えた。16年6月、背任罪で逮捕した(三重)。

事例2
 元県議会議員(68)らは、自己の会社が所有する土地に対する強制執行を免れる目的でその土地を仮装譲渡することを企て、法務局に対し、正当な理由により土地の所有権を移転するかのような内容虚偽の所有権移転登記の申請をし、不動産登記簿の原本である電磁的記録に事実に反する所有権移転登記の記録をさせた。16年2月、強制執行妨害罪で逮捕した(宮城)。

事例3
 農業協同組合代表理事組合長(62)らは、組合が保有する国債等を売却してその代金を横領しようと企て、14年3月ころ、国債等を売却し約6億2,600万円を横領した。16年4月、業務上横領罪で逮捕した(岡山)。

 
(2) 企業犯罪
 平成16年中は、政府の牛海綿状脳症(BSE)対策事業をめぐる会社役員らによる詐欺事件や企業による違法配当事件等の社会的反響の大きい事件を検挙した。

事例
 食肉事業協同組合連合会幹部(65)らは、政府がBSE対策として実施する国産牛肉の買上げ事業に関し、13年12月ころ、同事業の実施主体である全国食肉事業協同組合連合会に対し、同事業の対象とはされていない輸入牛肉の加工品を含む、約573トンの牛肉すべてが対象である国産牛肉であるかのように装って買い上げさせた上、その代金として約6億3,800万円の交付を受けたほか、不正に合計約40億7,900万円の補助金の交付を受けた。16年6月までに、詐欺罪及び補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反で逮捕した(大阪)。

 
(3) 財務捜査体制の整備
 金融・不良債権関連事犯や企業犯罪のように、法人の経済活動に関連して行われる犯罪の捜査では、背景、動機、実行行為等を明らかにするため、伝票、帳簿類等の客観的な資料に基づいて、法人等の財務の実態を解明することが不可欠である。
 このため、平成15年4月に警察大学校に設置した財務捜査研修センターでは、全国の捜査員を対象に、簿記その他の財務捜査に必要な知識や効果的な財務捜査の手法等についての研修を行うとともに、最新の企業会計制度等に即した財務捜査手法等の調査研究を行っている。
 また、都道府県警察では、高度な機能を備えた財務解析用機器の整備を進めているほか、公認会計士等の資格を有する者や民間企業での会計事務の経験がある者を財務捜査官として採用するなど、体制の強化に努めている。

 第1節 最近の犯罪情勢とその対策

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