第2章 国際社会における日本警察の活動 

第4節 日本警察の国際的課題

 本稿で紹介した人身取引事犯、マネー・ローンダリング、サイバー犯罪といった新たな形態の国際犯罪による被害は、有効な対策が各国で講じられる前に世界中に拡大した。また、最近では、国際的に敢行される犯罪でなくとも、事件の解決に不可欠な資料が外国にある場合が多い。さらに、日本国内で犯罪を犯した日本人や外国人の被疑者が外国に逃亡する事案も増えてきた。こうした犯罪の国際化により、日本の治安は日本だけの取組みでは維持できなくなっている。このため、日本警察は、国際会議や条約締結交渉、外国の治安機関に対する支援等を通じ、外国の治安機関との協力関係の強化に努めてきたが、検討を要する課題も多い。

(1) 日本の主体性の発揮とアジア諸国との連携強化
 これまでの外国治安機関との連携のための取組みは、相手国や国際機関の発案や要請によって始まったものが多かったが、今後は、日本が犯罪対策のため必要と考える事項について関係諸国等との間で認識を共有し、関係諸国等に日本から政策提言を行うなど、日本が主導する取組みを活発化させていく必要がある。特に、日本の治安回復のため、中国、韓国等来日外国人犯罪者の国籍国に対しては、自国の出身者が日本でどのような犯罪を敢行し、どのような被害が生じているかを説明し、日本の治安情勢について一層の理解と協力を求め、これらの国々との連携の強化に努めていかなければならない。
 また、外国治安機関に対する支援を通じて、その犯罪対処能力を向上させ、連携を強化することは、相手国の治安対策上有効であることはもちろん、日本の治安情勢の改善にも資する。中でも、最近の国際犯罪等の情勢や地理的に近いこと、経済関係が緊密であることなどの条件を踏まえると、これまで日本が支援を行ってきたインドネシア、タイ及びフィリピンのほか、多数の来日外国人犯罪者の国籍国である中国を含めたアジア諸国への支援の強化が、日本の治安回復に大きく寄与すると考えられる。

 
(2) 国際約束の締結交渉の推進
 外国の治安機関に協力を要請しても、必ずしも協力が得られるとは限らない。協力をより確実に得られるようにするためには、条約等の国際約束の締結を推進することが望まれる。
 中でも刑事共助条約は、要請に対する共助の実施を義務付けるものであり、国際捜査に非常に有用であることから、現在、既に署名をしている米国や、締結に向けた交渉を行っている韓国のほかに、相手国の法制等を勘案しつつ、日本が共助の要請を行うことが多い国、刑事共助条約を締結していなければ共助を行うことができない国、共助を要する犯罪を敢行する来日外国人の国籍国等の重点を置くべき国を対象として、締結に向けた交渉を進めていく必要がある。
 特に中国とは、来日中国人による犯罪が日本の治安に多大な影響を及ぼしていることから、各種の国際約束を締結する必要性が高い。このため、平成17年6月に、刑事共助条約の締結交渉の開始に向けた予備協議を開始したほか、日中領事協定について、被拘禁者の身分事項の確認等、日本国内で発生する中国人による犯罪の減少に寄与し得る措置を確保することを目指して、現在、協議を進めている。

 
(3) 外国人受入れ政策への対応
 平成17年6月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本指針2005」では、「外国人労働者の受け入れについて、国民生活に与える影響を勘案し総合的な観点から検討する」とされた。また、締結交渉が活発化している二国間の経済連携協定交渉でも、人の移動の自由化について議論されることが多い。このように、最近では、主として、少子高齢化への対応、観光振興等の経済的な見地から、外国人の受入れ拡大を求める動きが活発化している。
 その一方で、更なる国際化の進展に伴う来日外国人の増加が日本の治安に与える影響を無視することはできない。国民の安全・安心を確保する観点から、警察庁が、関係省庁と連携し、治安に関する国際交渉はもとより、その他の行政分野に関する国際交渉に積極的に関与し、不法入国、不法就労、不法滞在その他の犯罪を防止し、良好な治安を保つために必要な制度が確保され、的確な対策が講じられるよう努める必要がある。

 日本警察は、今後も相互依存を強めていくであろう国際社会において、かつて「世界一安全な国」と呼ばれた日本の治安の復活を目指し、犯罪の国際化、高度化の進展に遅れることのないよう、これらの課題に取り組んでいくこととしている。

 第4節 日本警察の国際的課題

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む