第2章 国際社会における日本警察の活動 

第2節 外国の治安機関との連携

 国際的な犯罪が発生した場合、警察では、国際刑事警察機構や外交当局を通じて外国の治安機関との情報交換その他の捜査協力を行い、事件の解決を図っている。また、個別の事件での協力のほか、国際会議への参加や二国間の協議、条約の締結交渉等を推進し、相手国の閣僚や治安機関の職員と顔を合わせて様々な治安問題について共に検討し、協力関係を強化することに努めている。

(1) 国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)を通じた捜査協力
 日本で犯罪を敢行した被疑者が外国人である場合、住所や氏名、生年月日等を知るためには、その者の国籍国に照会をしなければならず、被疑者が国外に逃亡した場合、逃亡先国に所在捜査を依頼しなければならない。このように、国際犯罪の捜査には、外国の治安機関の協力が不可欠である。また、協力を得ようとするならば、日本警察も同様に、外国の治安機関が行う捜査に積極的に協力する必要がある。日本では、国際捜査共助等に関する法律に基づいて、国際的な捜査協力を行っている。

 
図2-4 ICPOの組織

図2-4 ICPOの組織

コラム1 国際捜査共助等に関する法律
 昭和40年代から50年代前半にかけて、ハイジャック事件の多発や、ロッキード事件、ダグラス・グラマン事件といった国際犯罪の発生を契機に、国際的な捜査協力の重要性が強く認識されるようになった。一般に、外国の治安機関から捜査協力を得るためには、日本も同様の捜査協力を行うことが必要となるが、当時の日本には、外国の刑事事件の捜査に必要な証拠や資料の収集・提供について規定した国内法が無かったため、そのような要請が外国からなされた場合に、十分な捜査協力を行うことが困難であった。
 そこで、55年に、犯罪捜査について緊密な国際協力を行うため、外国又はICPO-Interpolからの要請により、日本国内で証拠や資料を収集し、これを提供する手続を定めた国際捜査共助法が制定された。平成15年には、日米刑事共助条約の締結に向けて、国際捜査共助の手続及び要件の特例を設けるとともに、国際捜査共助等の円滑な実施を図るため、同法は改正され、名称が国際捜査共助等に関する法律と改められた。

 国際刑事警察機構(ICPO-Interpol。以下「ICPO」という。)は、1956年(昭和31年)に設立された国際機関であり、その任務は、国際犯罪に関する情報の収集と交換、犯罪対策のための各種国際会議の開催、逃亡犯罪人の所在発見や国際手配書の発行等多岐にわたる。各国には、連絡窓口として国家中央事務局(NCB)を置くこととされており、日本では、警察庁がこれに指定されている。なお、ICPOが自ら犯罪の捜査を行うことはない。
 外国への捜査協力を外交当局を経由して要請すると、回答までに時間がかかるなど効率が悪いことが少なくない。そのため、ICPOを経由した協力要請を行い、両国の治安機関同士が直接にやり取りをすることが多くなっている。日本がICPOを経由して捜査協力を要請した件数、要請された件数は、過去10年間でそれぞれ約1.8倍、約1.5倍に増加している。

 
表2-1 外国に対し捜査共助を要請した件数の推移(平成7~16年)

表2-1 外国に対し捜査共助を要請した件数の推移(平成7~16年)
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表2-2 外国から捜査共助を要請された件数の推移(平成7~16年)

表2-2 外国から捜査共助を要請された件数の推移(平成7~16年)
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 また、日本で犯罪を敢行した被疑者が国外に逃亡した場合、警察庁は、ICPOに国際手配書の発行を請求するほか、ICPOを通じて関係国の治安機関等の協力を得るなどして、被疑者の所在を追っている。

事例 ICPOを通じた日・米・豪の連携による国外逃亡被疑者の逮捕
 平成17年3月、全国の多重債務者らを対象に高利で貸付けを行う、いわゆるヤミ金融の経営者であった男が、米国のロサンジェルスへ出国していることが判明した。そこで、ICPOを通じて、米国連邦捜査局(FBI)に対し、同人の所在捜査を要請したところ、同年4月、FBIから、同人がオーストラリアへ向かっているとの情報が寄せられた。同時に、オーストラリア警察に対し、同人が日本で指名手配されている旨の通報が行われたため、同人は入国を拒否され、米国へ送還された。同人が米国発日本行きの航空機により米国を出国した機会をとらえ、公海上の航空機内で、同人を出資金の受入れ、預り金及び高利等の取締りに関する法律違反で逮捕した(警視庁)。

 ICPOは、加盟国・地域間の情報交換をより迅速かつ確実に行えるようにするため、盗難車両や盗難旅券、国際手配被疑者等のデータベースを事務総局で運用している。例えば、日本で盗難被害に遭った車両を登録すると、その車両が外国で発見された場合に、外国の治安機関が、このデータベースの検索により瞬時に日本で盗難された車両であることを把握し、日本に捜査協力を依頼することができる。警察庁では、日本の盗難車両や紛失・盗難旅券等に関する情報を積極的に提供している。

コラム2 ICPOの歴史
 ICPOの歴史は、1914年(大正3年)にさかのぼる。同年、モナコで、第1回国際刑事警察会議が開催され、欧州の14か国が参加し、世界の刑事警察の連携、犯罪情報と科学捜査技術の交流を図るため、国際機関の創設が討議された。1923年(大正12年)、オーストリアのウィーンで第2回国際刑事警察会議が開催され、欧州等から20か国が参加し、ICPOの前身である国際刑事警察委員会(ICPC)の創設が決定された。ICPCは、本部をウィーンに置き、1938年(昭和13年)には参加国が34か国に達したが、第二次世界大戦中は活動が事実上休止された。
 1946年(昭和21年)に活動が再開され、参加国に国家中央事務局を常設することや、国際犯罪者に関する情報の提供、偽造犯罪に関する情報の収集等の任務に当たることが取り決められた。また、このとき、本部がウィーンからパリに移された。日本警察がこのICPCに加盟したのは、1952年(昭和27年)のことである。
 その4年後の1956年(昭和31年)、ウィーンで開かれた第25回ICPC総会において、ICPCが発展的に解消され、現在のICPOが設立された。設立当初の構成員は57の国・地域の警察機関であったが、今日に至るまで発展を続け、2004年(平成16年)末現在、182の国・地域が加盟している。なお、1989年(平成元年)には、本部が現在のリヨンに移された。

 
ICPO本部外観(フランス・リヨン)
ICPO本部外観(フランス・リヨン)

 このように、国際犯罪の捜査において、ICPOの果たす役割はますます重要になっていることから、日本は、昭和50年から事務総局に警察庁の職員を派遣しているほか、平成16年は米国に次ぐ約3億5,000万円を分担金として拠出するなど、人的・財政的な貢献を行っている。

 
(2) 国際会議への参画
 [1] G8各国との連携
 元来は経済問題を中心に議論をする場であった主要国首脳会議(サミット)でも、近年、犯罪対策やテロ対策が議題とされ、活発な議論がされるようになった。
 1978年(昭和53年)には、ボン・サミットを契機として、ハイジャック対策や国際テロの動向について意見交換を行う場としてG8テロ専門家会合(G8ローマ・グループ)が発足した。
 また、1995年(平成7年)のハリファックス・サミットでは、G8国際組織犯罪対策上級専門家会合(G8リヨン・グループ)の設置が決定され、翌1996年(8年)のリヨン・サミットで「国際組織犯罪と闘うための40の勧告」を提案した。この勧告は、捜査共助や犯罪人の引渡し、薬物対策、銃器対策、マネー・ローンダリング対策等に関する既存の多数国間条約への加入を求めることなどを内容としており、現在では、G8だけでなく、世界各国の国際犯罪対策に関する基本方針となっている。
 2001年(13年)以降、G8リヨン・グループとG8ローマ・グループは同時に開催することとされ、名称もG8ローマ/リヨン・グループと改められた。現在、同グループには、法執行、刑事法、人身取引、ハイテク犯罪、テロ対策等の各課題を扱う様々なサブ・グループが置かれている。各サブ・グループでは、参加国がそれぞれ講じている対策を紹介しているほか、児童ポルノデータベースに関する計画(注1)やスカイ・マーシャル(注2)の導入計画等、各国が協力して取り組むべき対策について検討を行っている。


注1:各国が登録する児童ポルノ画像の国際的なデータベースを設置し、児童ポルノ関連事犯の捜査の効率化・迅速化を目指す計画
 2:ハイジャックの発生等に備えて、警察官等が航空機に警乗する制度又はそのような任務により警乗する者

 また、1997年(9年)以降、2000年(12年)を除き毎年、G8司法・内務閣僚級会合が開催されている。日本からは国家公安委員会委員長や警察庁の幹部職員が出席し、国際組織犯罪対策やテロ対策についての日本の取組み状況を報告するとともに、共同声明や行動計画の起草に参画している。
 他方、2001年(13年)9月の米国における同時多発テロ事件の発生を受け、FATFは、マネー・ローンダリング対策だけでなく、テロ資金対策も議題として取り扱うようになり、同年10月には、テロ資金の供与を防止するために、各国が取り組むべき指針として「テロ資金供与に関するFATF特別勧告」を策定した。さらに、FATFは、「40の勧告」を改訂し、これをマネー・ローンダリング対策やテロ資金対策の包括的な指針とした。
 日本では、14年5月に、テロリスト等に対する資産凍結等に関する関係省庁連絡会議が発足し、警察庁は関係省庁と共に、FATFの勧告を完全実施するための検討を行っている。
 なお、17年6月現在、日本では、472のテロに関連する個人及び団体を資産凍結対象としている。

 
G8司法・内務閣僚級会合(2004年(平成16年)5月、ワシントン)
G8司法・内務閣僚級会合(2004年(平成16年)5月、ワシントン)

 [2] アジア諸国等との連携
 2004年(16年)1月に、タイで、国境を越える犯罪に関するASEAN+3閣僚会議の第1回会合が開催され、日本からは国家公安委員会委員長が出席した。これは、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に加えて、日本、中国及び韓国の治安機関の閣僚が一堂に会した初の国際会議であり、各国がテロ、薬物犯罪、人身取引等の国際犯罪に対して協力して対策を講じていくことが約束された。
 また、警察庁は、テロ事件の捜査技術を提供するため、7年度以降、独立行政法人国際協力機構(JICA)との共催で、開発途上国のテロ対策担当者を対象とした国際テロ事件捜査セミナーを開催している。また、テロ対策に関する地域協力を推進するため、8年度以降、東南アジア諸国等のテロ対策担当者を招き、地域テロ対策協議を開催している。
 2004年(16年)2月には、2002年(14年)10月に大規模な爆弾テロ事件が発生したインドネシアのバリ島で、オーストラリアとインドネシアが共催するテロ対策のための閣僚会議が開催された。日本からは、警察庁次長が出席し、法執行機関の相互協力、法的枠組みの強化等について議論した。

コラム3 大量破壊兵器関連物資等の不正輸出対策
 2004年(16年)5月、北朝鮮は、サリンの原料にもなるシアン化ナトリウム70トンをタイの企業から入手しようとしたが、関係国により阻止された。しかし、2003年(15年)6月から9月にかけて、シアン化ナトリウム107トンを韓国から中国経由で輸入していたことが明らかになっている。他方、2005年(17年)2月には、核関連物資である六フッ化ウランをリビアに輸出していた可能性があるなどと報じられた。
 また、2004年(16年)9月、南アフリカの捜査当局は、核兵器の製造に転用可能な遠心分離機の部品を取引した疑いで、エンジニアリング会社社長を逮捕し、関連物資を押収したことを明らかにした。この社長は、核物資や関連機材を取引する世界的ネットワーク(いわゆる核の闇市場)への関与が疑われている。
 2004年(16年)4月の国際連合安全保障理事会では、全加盟国に対し大量破壊兵器の拡散を防止するための法的措置を採り、厳格な輸出管理を実施することなどを求めた決議が採択された。
 同年5月から6月にかけてポーランドで開催されたPSIクラコフ1周年記念総会では、ブッシュ米国大統領の提唱する「PSI(拡散に対する安全保障構想:Proliferation Security Initiative)」の一層の強化、PSIと国際法及び国内法との整合性の確保等に関する議長声明が発出された。同年6月に米国で開催されたシーアイランド・サミットでは、「不拡散に関するG8行動計画」が採択され、国際的に進められている不拡散に関する各種の取組みを強化・拡大していくことが合意された。

 
PSI海上阻止訓練と連携した輸出管理訓練(10月、東京)(外務省提供)
PSI海上阻止訓練と連携した輸出管理訓練(平成16年10月、東京)(外務省提供)

 同年10月には、大量破壊兵器関連物資等を積載している疑いのある船舶に対して検査を実施したり、物資を押収したりすることなどにより、その拡散を阻止しようとするPSI海上阻止訓練が日本で初めて行われた。また、これと連携して、警察等関係機関が、東京港で輸出管理訓練を実施した。
 警察では、大量破壊兵器の拡散が国際安全保障上の懸念事項となっている状況から、大量破壊兵器関連物資等の不正輸出事案に対し所要の対策を講じており、2002年(14年)4月にいわゆるキャッチオール規制(注)が導入されて以降、同規制に係る違反を2件検挙している。


注:輸出規制貨物をあらかじめ特定することなく、大量破壊兵器の開発等に用いられるおそれがあれば、すべての輸出される貨物又は提供される技術等が対象になる規制のことで、14年4月に導入された。大量破壊兵器の開発等に用いられるおそれがある場合とは、
  [1] 輸出者が輸出しようとしている貨物が大量破壊兵器の開発等に使用されるおそれがあることを知っている場合
  [2] 輸出しようとしている貨物が大量破壊兵器の開発等に用いられるおそれがあるとして、経済産業大臣から通知を受けた場合
  があり、これらに該当すれば、貨物の輸出に当たり経済産業大臣の許可を受けなければならない。

 
(3) 二国間の連携
 警察では、国際会議で多数国間の協議を行うだけでなく、日本との間で多くの国際犯罪が敢行される国や来日外国人犯罪者の国籍国を始めとする各国の治安機関とは、人的な交流を行ったり、個別の政策課題について閣僚レベルや事務レベルの協議を行ったりして、個別に信頼関係・協力関係を深めている。ここでは、特に最近活発化している中国、ロシアとの関係強化のための取組みを紹介する。

 [1] 中国との連携
 近年急増している来日外国人犯罪の検挙人員の約4割は中国人が占める。また、薬物取引等日中間にまたがる犯罪も増加している。そこで、警察では、中国の治安機関と交流する様々な機会を設け、関係強化に努めるとともに、中国国内での対策の改善や捜査協力を強く求めている。
  ア 閣僚間の交流
 犯罪対策に関する両国の閣僚級の交流は、平成10年に国家公安委員会委員長が訪中し、中国公安部長らと会談して以来、活発になった。11年8月には、中国の公安部長が、刑事偵査局長、出入境管理局長、外事局長らと共に来日し、内閣総理大臣を表敬訪問するとともに、国家公安委員会委員長と会談し、国際犯罪対策について相互に協力を行っていくことを合意した。
 17年1月には、国家公安委員会委員長が訪中して中国公安部長と会談し、来日中国人犯罪や中国からの密入国等への対応策について意見交換を行った。このとき、捜査協力に関する国際約束の締結について話し合われたことを受け、同年6月には、両国間で、日中刑事共助条約の締結交渉の開始に向けた予備協議が開始された。
 このように、閣僚級の交流は、両国間の関係強化を象徴する意義を有するだけでなく、両国間の事務レベルの協議を強力に後押しするものである。

 
国家公安委員会委員長の訪中(平成17年1月、北京)
国家公安委員会委員長の訪中(平成17年1月、北京)

  イ 治安機関間の協議
 11年8月に中国の公安部長が来日した際、両国は、日中治安当局間協議を定期的に開催することを合意した。同年12月、中国の北京で第1回会合が開催されて以降、3回の会合が開催されており、日本は、深刻化する来日中国人犯罪の現状について説明を行い、中国の治安機関に積極的な捜査協力を求めるなどしている。
 また、来日中国人犯罪の検挙が増加傾向にあることや、日中治安当局間協議が14年7月の第3回会合以降開催されていないことなどを踏まえ、16年11月には、警察庁と中国公安部による協議を東京で開催した。この協議には、団長の外事局副局長を始め中国公安部の職員が多数参加し、警察庁の審議官を団長とする日本代表団との間で、来日中国人犯罪対策等に関する情報交換の迅速化や捜査共助、共同取締りの実施等について検討した。

  ウ 研修生の受入れ
 警察庁では、13年度から、毎年、中国公安部捜査幹部研修セミナーを開催している。このセミナーは、中国公安部の幹部警察官を日本に招き、日本の警察制度、各種犯罪対策等を紹介するとともに、関係施設の視察を行うことなどにより、日中両国間の捜査協力を円滑化させることを目的としている。13年度以降17年度まで、5年間にわたり5回開催する予定であり、16年度までに4回、合計27人を受け入れた。中国公安部の中央機関の職員に加え、来日中国人犯罪者の出身地域を管轄する地方機関の職員も参加している。
 16年11月に開催したセミナーでは、日本の警察組織、刑事手続、警察官の教育・訓練制度のほか、外国人犯罪対策、薬物・銃器犯罪対策等に関する講義を行うとともに、愛知県警察で、警察本部、警察署、交番及び警察学校の見学を行った。

 
中国公安部捜査幹部研修セミナー(平成16年11月)
中国公安部捜査幹部研修セミナー(平成16年11月)

また、中国公安部が、中国全土の幹部候補生を対象に行っている中国公安青年幹部研修を日本で実施したいと依頼してきたことから、25人の研修生を受け入れ、16年10月から11月にかけて19日間にわたり、日本の警察制度等に関する講義や科学警察研究所、福岡県警察本部の視察等の研修を実施した。

コラム4 福岡市内における一家4名殺人・死体遺棄事件での日中捜査当局の協力
 15年6月、中国人留学生らが、福岡県に住む幼い子どもを含めた一家4人を殺害し、その死体を海中に遺棄した事件について、同年8月、福岡県警察は、後に本件に関与していたことが明らかとなる中国人1人を別の被害者に対する傷害事件で逮捕したが、他の中国人の被疑者2人は犯行後に中国に逃亡していたことが判明した。そこで、同年9月及び12月、警察庁と福岡県警察が中国に職員を派遣するとともに、同年11月、中国公安部の職員を日本に招き、情報交換を行ったほか、随時、関係資料を相互に提供するなどの捜査協力を行った。
 こうした捜査協力が奏功し、16年1月、福岡県警察は、日本で身柄を拘束していた1人を強盗殺人罪及び死体遺棄罪等で逮捕した。同人は、17年5月、福岡地方裁判所で死刑の判決が言い渡された。
 一方、中国に逃亡した2人については、中国公安当局が指名手配し、15年8月、身柄を拘束、同年9月、中国国内法の国外犯規定に基づき故意殺人罪で逮捕した。同人らは、16年7月、同罪及び強盗罪等で起訴され、17年1月、遼陽市中級人民法院で死刑及び無期懲役の判決が言い渡された。

 [2] ロシアとの協議
 ロシアとの間では、日本とロシアとの間で敢行される薬物、銃器、盗難自動車等の密輸出入や密漁等について対策を協議するため、9年以降、日露治安当局間会合を開催している。16年には、警察庁とロシア内務省・極東連邦管区内務総局による会合をロシアのハバロフスクで開催し、両国間で行われる銃器や自動車等の密輸出入事件について情報交換を推進していくことを確認した。

 
(4) 条約交渉への参画
 国際会議の共同声明や行動計画等は、各国の犯罪対策に大きな影響を与えている。しかし、国際会議で決定した事項を国内で実施するかどうか、また、どのように実施するかについては、各国の裁量にゆだねられており、その実施を法的に担保するためには、条約等の国際約束を締結し、法的拘束力をもたせる必要がある。近年、犯罪対策の分野での各国の協調が重視されるようになるにつれて、関連する条約の締結数は増加している。

 [1] 二国間条約
 刑事共助条約は、国際礼譲で行われていた共助の実施を条約上の義務とすることにより、共助が確実に実施されることを担保するとともに、共助の実施のための連絡を、外交当局間ではなく、条約が指定する捜査機関等の中央当局間で直接行うことにより、事務処理の合理化・迅速化を図る条約である。
 欧州各国は多くが陸続きであり、国境を越えた人の移動が盛んであったため、早くから外国人犯罪が深刻な問題となっており、共助の枠組みを構築する必要性が高かった。1959年(昭和34年)には、欧州評議会で多数国間の刑事共助条約が締結されている。また、米国は、1960年代以降、国際的な広がりのある麻薬犯罪、金融犯罪等が国内で深刻な問題となったため、1977年(52年)に締結された、預金者に対する保護が手厚いスイスとの刑事共助条約を皮切りに、現在、約50か国と二国間の共助条約を締結している。

 
日米刑事共助条約の署名(2003年(平成15年)8月、ワシントン)
日米刑事共助条約の署名(2003年(平成15年)8月、ワシントン)

 一方、島国である日本でも、50年代半ばころから来日外国人犯罪が増加し始めたため、外国の治安機関との協力の必要性が急激に高まった。
 そこで、日本で犯罪を犯し、国外に逃亡した犯罪人を確実に追跡し、逮捕するため、一定の要件の下に犯罪人の引渡しを相互に義務付ける犯罪人引渡条約を、1980年(55年)に米国との間で改訂し、2002年(平成14年)に韓国との間で締結した。
 さらに、最近では、2003年(15年)に、要請に対する共助(注)の実施を相互に義務付ける刑事共助条約を米国との間で初めて署名した。韓国との間でも、2004年(16年)の日韓首脳会談で刑事共助条約の締結交渉を開始することに合意し、現在、実務レベルの協議を進めている。


注:外国の要請により、日本が外国の刑事事件の捜査に必要な証拠を提供すること。また、日本の要請により、日本の刑事事件の捜査に必要な証拠を外国から提供してもらうこと。

 [2] 多数国間条約
 多数国間条約は、その締結により、各国間の刑事司法制度や犯罪防止のための制度が平準化し、国際犯罪の取締りや各国間の捜査協力が促進されることが期待される。
 日本は、12年に、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(国際組織犯罪防止条約)に署名した。この条約は、国際的な組織犯罪に対処するため、各国が自国の刑事司法制度を整備・強化し、国際協力を推進することを目的に、重大犯罪の共謀、犯罪収益の洗浄、司法妨害等の犯罪化等について定めたものである。
 次いで13年には、サイバー犯罪に関する条約(サイバー犯罪条約)に署名した。この条約は、サイバー犯罪に関する刑事実体法、刑事手続法及び国際捜査協力に関する規定を含んだ、世界初の包括的な条約である。
 このほか、テロ防止に関連し、17年6月までに、次の12の条約を締結している。
 [1] 航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約
 [2] 航空機の不法な奪取の防止に関する条約
 [3] 民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約
 [4] 国際的に保護される者(外交官を含む。)に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約
 [5] 人質をとる行為に関する国際条約
 [6] 核物質の防護に関する条約
 [7] 1971年9月23日にモントリオールで作成された民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約を補足する国際民間航空に使用される空港における不法な暴力行為の防止に関する議定書
 [8] 海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約
 [9] 大陸棚に所在する固定プラットフォームの安全に対する不法な行為の防止に関する議定書
 [10] テロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約
 [11] 可塑性爆薬の探知のための識別措置に関する国際条約
 [12] テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約
 警察庁では、条約案の起草、日本の対処方針の策定、それに基づく各国との協議等を行っている。最近では、国際組織犯罪防止条約を補足する銃器並びにその部品及び構成部品並びに弾薬の不正な製造及び取引の防止に関する議定書(銃器議定書)の起草作業において、警察庁の職員がG8リヨン・グループに設置されたサブ・グループの議長を務め、中核的な役割を果たした。この議定書は、銃器、その部品及び弾薬の不正な製造及び取引を犯罪化するとともに、銃器への刻印、銃器の移譲に関する記録の保管、輸出入管理等に関する制度を確立し、法執行機関間の協力関係を構築することを求めるものである。

 第2節 外国の治安機関との連携

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