(2) 今後の交通警察の重要課題
我が国では、自動車交通の規模が拡大を続けたにもかかわらず、交通事故死者数はピーク時の2分の1以下にまで減少した。これには、交通警察も大きく貢献しており、交通規制、違反取締り、運転免許制度、交通安全教育等を一体的に組み合わせた政策体系の下で、道路交通における「人」の危険な行動の防止に多大な成果を上げてきたものと考えており、今後とも、この政策体系の下で、各種施策を充実強化してくことが望まれる。
他方、昨今の国や地方の厳しい行財政事情を踏まえると、対策の「量」の大幅拡大を図ることは容易でなく、今後は、個々の施策の「質」をいかに高めていくかがますます重要になる。その前提として、交通事故の発生原因を徹底解明するとともに、対策の成果を的確に測定・評価することなどにより、施策立案能力を向上させる必要がある。また、関係行政機関や民間事業者等との連携を深め、相互に協力して施策の高度化を図るとともに、「人」の危険行動の防止を主眼とした交通警察の施策と「車」や「道路」の安全性の向上を主眼とした施策との相乗効果を高めていく必要がある。
交通警察がこれまで一定の成果を上げることができたのは、時代の変化を見極めながら、情勢に応じて適時適切に制度や取組み重点の見直しを行ってきたことによるものと考えられる。今後とも、社会の少子高齢化を始め、交通情勢に強い影響を及ぼす時代の変化に的確に対応していかなければならない。以下、今後交通警察が対応すべき重要課題4点について述べる。
[1] 超高齢化社会への対応
第3節で述べたとおり、最近は、歩行中・自転車乗用中の死者の過半数を高齢者が占めるほか、高齢運転者による死亡事故の割合が増加するなど、高齢者の交通事故の問題は深刻さを増しているが、平成26年には4人に1人が高齢者となる超高齢化社会が到来することが予測されており、中・長期的にみて、更なる情勢の悪化が懸念される。
今後、高齢者が積極的に社会参加し、生涯にわたり充実した生活を送ることができる社会を構築していくためには、道路管理者と連携して高齢者の通行に適した道路交通環境を整備するとともに、高齢者向けの交通安全教育を充実させていくことが急務である。
運転免許保有者については、安全に運転できるよう支援するという考え方を基本とし、その能力を維持・向上させるための教育を充実させるとともに、運転継続の可否をよりきめ細かく判断するための手法を導入し、運転継続が不可能な者の運転免許を取り消すなど現行制度の一層的確な運用に努めるほか、事故実態等を踏まえながら、運転免許制度の在り方について検討を進める必要がある。
また、法定講習の受講が義務付けられている運転免許保有者以外の者については、特に、交通安全教育を受講する機会を確保し、歩行中・自転車乗用中の事故防止を図っていく必要がある。
[2] 歩車共存の安全・安心なまちづくり
近年、全国各地域で、官民が連携して安全で安心なまちづくりを推進していこうとする気運が高まっており、交通安全対策に関しても、住宅街、商店街・繁華街等の地域特性に応じて、官民連携した総合的な対策を講じていく必要性が高まっている。
また、我が国では、全交通事故死者のうち歩行中・自転車乗用中の死者が占める割合が、欧米諸国と比べて著しく高くなっており、道路交通に関して世界一安全な国を目指すに当たって、歩行者・自転車利用者の交通事故防止対策が重要な課題となっている。
このため、くるま優先とも言える幹線道路の安全確保や円滑化を図るための施策を推進するだけでなく、生活の中心となる住宅街や、多くの人々が行き交う商店街・繁華街の道路において、道路管理者による道路や交通安全施設等の整備と警察による交通規制の実施や交通安全施設等の整備を効果的に組み合わせ、自動車の速度の抑制や通行の制限、道路の形状や交差点の存在の運転者への明示、歩車それぞれの通行区分の明示等を進め、歩車が共存する安全で安心な道路空間を創出していく必要がある。また、このような取組みを進めるに当たっては、その地域に住む人々の理解が不可欠であることから、多くの関係当事者の意見を聴きつつ合意形成を図り、当該地域にとって最適な交通管理、交通安全対策を選択・実施していかなければならない。