第7章 公安の維持 

(4) 大量破壊兵器関連物資等の不正輸出

 〔1〕 大量破壊兵器拡散の懸念
 2003年(平成15年)4月、ドイツ当局は、核兵器の製造に使われるウラン濃縮装置に転用可能なアルミニウム管を北朝鮮に密輸出した疑いで、ドイツ精密機械メーカーの社長の身柄を拘束した。密輸出されたアルミニウム管は、フランス船籍の船舶で運搬されていたが、フランス当局が、スエズ運河の手前で阻止した。
 また、2003年(15年)10月、イタリア当局が地中海でリビア向け貨物船を臨検し、核兵器の製造に転用可能な遠心分離機の部品を発見、米国と英国に通報した。さらに、2003年(15年)12月、リビアは、自国の大量破壊兵器計画の廃棄を決定した。その後、この決定等を契機として、核物質や関連機材を取引する世界的なネットワーク(いわゆる核の闇市場)の存在が明らかになるなど、大量破壊兵器の拡散の現状が明らかとなった。

 
リビアから搬出した遠心分離機の主要部品(写真提供:PANA)

リビアから搬出した遠心分離機の主要部品(写真提供:PANA)

〔2〕 不正輸出防止対策
 2003年(15年)6月にフランスで開催されたエビアン・サミットでは、「大量破壊兵器の不拡散G8宣言」が採択され、新しい輸出入管理の枠組み作りに取り組むことが合意された。
 その直前の15年5月31日、ブッシュ米国大統領が、国際社会の平和と安定に対する脅威である大量破壊兵器関連物資等の拡散を阻止するために、参加国が共同して採り得る措置を検討しようとする、「拡散安全保障イニシアティブ(PSI:Proliferation Security Initiative)」を提唱し、日本を含めた関係国が参加して、これに基づく会合を開催したり、海上訓練を行ったりしている。また、2003年(15年)9月には、第58回国連総会の一般演説で、ブッシュ米国大統領は、国内の現行法で対処するPSIの弱点を解消するため、大量破壊兵器関連物資等の非合法化、国際基準に合致した厳格な輸出管理、大量破壊兵器の製造につながる物資の各国内での保全等を骨子とした、大量破壊兵器不拡散体制強化のための国連安保理決議の採択を求めた。さらに、2004年(16年)6月に米国で開催されたシーアイランド・サミットでは、「不拡散に関するG8行動計画」が採択され、国際的に進められている不拡散に関する各種の取組みを強化・拡大していくことが合意された。
 警察は、大量破壊兵器の拡散が国際安全保障上の懸念事項となっている状況にかんがみ、大量破壊兵器関連物資等の不正輸出事案に対し所要の対策を講じており、15年度中は3件の不正輸出事件を検挙した。このうち2件は、いわゆるキャッチオール規制(注)に係る違反の検挙である。


注:輸出規制貨物をあらかじめ特定することなく、大量破壊兵器の開発等に用いられるおそれがあれば、すべての輸出される貨物、又は提供される技術等が対象になる規制のことで、平成14年4月に導入された。
なお、大量破壊兵器の開発等に用いられるおそれがある場合とは、〔1〕輸出者が輸出しようとしている貨物が大量破壊兵器の開発等に使用されるおそれがあることを知っている場合、〔2〕輸出しようとしている貨物が大量破壊兵器の開発等に用いられるおそれがあるとして、経済産業大臣から通知を受けた場合があり、これらに該当する場合は、貨物の輸出に当たり経済産業大臣の許可を受けなければならない。

事例1
15年6月、ミサイル関連機材として輸出規制されたジェットミル(超微粉砕機)をイラン向けに不正輸出したとして、東京都の粉粒機器メーカーの社長らを外国為替及び外国貿易法違反で逮捕したが、同社は6年3月、同機を「万景峰92号」で北朝鮮向けに不正輸出していたことも判明した(北朝鮮向け不正輸出は時効成立。)(警視庁)。

事例2
15年11月、核兵器等の開発に用いられるおそれがあるものとして、輸出許可が必要な直流安定化電源を、経済産業大臣の許可なくタイ王国経由で北朝鮮向けに輸出したとして、東京都内の商社を外国為替及び外国貿易法違反で検挙した(警視庁)。

事例3
16年1月、核兵器等の開発に用いられるおそれがあるものとして、輸出許可が必要な周波数変換器を、経済産業大臣の許可なく中国向けに輸出したとして、新潟県内の商社を外国為替及び外国貿易法違反で検挙した(神奈川)。

 3 対日有害活動の現状と警察の対応

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