第2章 日本警察50年の軌跡と新たなる展開 

2 新警察法の制定―市町村警察から都道府県警察へ

 
警察庁開庁式(昭和29年7月1日)―この日から現行警察制度が施行され、都道府県警察が発足した。

警察庁開庁式(昭和29年7月1日)―この日から現行警察制度が施行され、都道府県警察が発足した。

 旧警察法は、その弊害を改善すべく、施行後7年間で8回にわたり改正が行われた。しかし、制度に内在する根本的な問題点を是正することはできず、財政負担に耐えられない市町村の多くは、自治体警察を返上した(旧警察法施行時点の自治体警察の数は1,605、うち町村警察は1,386であったが、現行警察法制定直前には、自治体警察の数は402、うち町村警察は127にまで減少した。)。
 折しも、地方の治安は極度に悪化し、殺人、強盗等の凶悪犯罪が頻発するとともに、社会不安を背景とした大規模な集団暴力事件が相次いで発生したことから、警察の制度や機構の再検討は、いよいよ国民の重大な関心事となった。そして、昭和27年4月に我が国の独立が回復されるや、警察制度の抜本的な改正は、占領政策の是正の一環として、急速に具体化されていった。
 こうして、政府は、旧警察法に代わる新たな制度を構築すべく、28年2月、第15回国会に警察法案を提出した。この法案は、現行警察法と同様、警察の基本的な単位を都道府県とするとともに、警察事務の国家的な性格を踏まえた国の関与を規定する方向を目指したものであったが、衆議院の解散のため廃案となった。
 その後、警察制度改革は、地方制度調査会(27年設置)においても議論され、28年10月の答申では、〔1〕警察の単位は都道府県を基本的単位とし、大都市には例外として市警察を設けるべきこと、〔2〕国は、国家的事件に関して都道府県警察を指揮監督するほか、警察費について一定の負担をすべきことなどの見解が示された。
 政府は、この答申や第15回国会の審議過程等を踏まえ、新制度の検討を進めたが、法案の作成に当たって配意した点は、警察の民主性と能率性、国の関与と地方分権、治安責任の明確化と政治的中立性の確保という、相対立する要請をいかに調和させるかということであった。その結果、第19回国会に提出された警察法案は、第15回国会提出法案と同様の方向を目指しつつ、内閣と国家公安委員会との関係、都道府県警察に対する国の関与の程度、大都市警察の存廃等について更なる見直しを加えたものであった。国会では精力的に審議が行われ、警察庁長官、警視総監及び道府県警察本部長の任免権を国家公安委員会に付与すること、大都市に市警察部を置くことなどの修正が加えられた後、法案は29年6月7日に可決され、翌8日に法律第162号として公布された。

 
図2-2 新警察法に定める警察の組織

図2-2 新警察法に定める警察の組織

新警察法の理念と特徴

 警察の民主的運営の保障
 旧警察法と同じく、公安委員会制度を国と地方の双方で存続させ、警察の民主的な運営の保障を図るとともに、都道府県に警察事務を団体委任することで、都道府県議会を通じた住民の監視を受けることとした。

 警察組織の能率的運営(都道府県への分権・一元化と国の限定的関与)
 警察組織の規模を、現実に発生する警察事象の処理に当たる上で合理的かつ効率的なものとするため、都道府県を構成単位とし、大都市の警察事務も都道府県警察で一元的に処理することとした。他方、警察事務は国家的性格と地方的性格を併有しているものの、個々の事務ごとにその性格が国家的であるか地方的であるか明確に区別することが困難であることから、執行事務を行う警察組織を都道府県警察に一元化しつつ、警察庁長官の指揮監督制度、地方の警察予算の国庫支弁制度、上級幹部職員を国の職員とする地方警務官制度等を設け、一定の範囲で地方の警察運営に国が関与することとした。

 政治的中立性の確保と内閣の治安責任
 内閣は国会に対し警察行政についても責任を負っており、法律案の国会への提出権等も有していることから、国家公安委員会委員長は国務大臣をもって充てるとともに、警察庁長官及び警視総監の任免に内閣総理大臣の承認を要することとして、内閣の治安責任の明確化を図った。

 第1節 現行警察制度の誕生と変遷

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