(2) 防犯ボランティア団体の活動と警察との協働
警察では、防犯ボランティア団体の活動を一層活発化させるための支援措置を講じているほか、「安全のために何かしたい」という人々が活動を始めるためのきっかけとなるような、ノウハウや地域の犯罪情報の提供を行っている。
また、地方公共団体でも、地域の安全活動に従事する団体に対して、財政的支援を講じるなど、その活動を支援する取組みが広がりつつある。
コラム14 地方公共団体の支援制度
東京都の世田谷区では、平成15年7月、世田谷区地域安全安心まちづくり区民活動支援要綱を定め、
・ 地域の犯罪、事故等の発生を防止するための活動
・ 区民の生活安全に関する意識の啓発に係る活動
・ その他安全で安心なまちづくりに資するために必要な活動
を行っている団体に対し、10万円を限度に、活動に使用する物品等の経費や活動中に事故に遭った場合の保険に加入するための経費等を助成しており、同年中は98件の助成が行われた。
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〔1〕 取組み事例その1~地域安全マップづくり~
高知県警察では、地域住民の自主的な防犯活動を促進するため、15年から、「安全・安心まちづくり実践塾」を開催している。その活動の一環として、地域住民自らが地域の犯罪や事故の起こりやすい危険箇所を把握し、犯罪や事故の発生状況を表わす地図を作成する「地域安全マップ活動」を推進しており、その概要は、以下のとおりである。
・ 受講者は、地域安全マップの作成方法や犯罪が起こりにくいまちづくり等に関する基礎知識を習得するための講座を受講する。
講座の受講
・ 参加者をいくつかのグループに分け、グループごとに班長、副班長、調査役、地図係、写真係等を任命し、役割を分担した上、街頭を歩いて危険箇所の把握活動を行う。
危険箇所の把握活動
・ 把握した危険箇所の情報をもとに、参加者が協力して、地域安全マップを作成する。
マップの作成
・ 各グループが作成した地域安全マップを発表するとともに、互いのマップを見比べて、地域の危険箇所やマップの改善点等について検討する。
マップの発表と検討
受講者からは、「日頃聞けない専門的な防犯の知識について勉強ができてよかった」、「防犯ボランティア同士が連携して取組みを進める必要があると感じた」、「気を付けて街を見たら、危ないと思う場所がたくさんあった」といった感想が寄せられた。実践塾の修了後、受講者は、地域安全マップづくりを自主的に行うなど、地域の自主防犯活動のリーダーとして活躍している。
〔2〕 取組み事例その2~「民間交番」の設置~
仙台市青葉区では、窃盗やひったくりといった身近な犯罪の発生や少年非行を防止するため、防犯協会会員を始めとする地域住民がパトロール活動を行っている。このような自主的な防犯活動に対して、宮城県は、防犯活動の拠点となる施設の無償貸与を行っているほか、仙台北地区防犯協会連合会は、事務所の備品、光熱費、パトロール用機材・装備等の提供を行っている。仙台北警察署も、犯罪情報の提供、合同パトロールによるノウハウの提供等の支援を行っている。
ア 「民間交番」の設置
当初、パトロール活動は、近隣の公園に集合した上で開始していたが、より地域に密着した活動を行うためには、活動の拠点となる施設が必要と考えられた。そこで、青葉区の宮町防犯協会は、県及び県住宅公社に働き掛け、県営住宅1階の空き店舗の無償貸与を受けた。14年6月、同協会は、これを「宮町地区防犯協会事務所」と名付け、パトロール活動等の防犯活動の拠点である「民間交番」として、会員を常駐させることとした。
「民間交番」宮町地区防犯協会事務所
この「民間交番」では、警察官や地域住民が立ち寄って、地域における犯罪、事故等に関する情報の交換を行うとともに、仙台北警察署からファックスで送られてくる犯罪情報等を参考にしながら、地域住民への注意喚起を行うなど、地域安全情報の発信を行っている。
警察との情報交換
イ 防犯パトロール活動
宮町防犯協会では、防犯指導隊員等が、毎月2回ないし3回、約1万4,000世帯が居住する地区内のパトロール活動を行っている。「民間交番」に集合した防犯指導隊員等は、数人ずついくつかの班に分かれ、揃いの緑色のジャンパー、帽子、夜光チョッキを着用し、トランシーバー、強力ライトを携行して地区内を巡回し、
・ 事件・事故、違法駐車、いわゆるピンクビラの頒布を発見したときの警察への通報
・ 防犯登録のない自転車や無灯火の自転車の利用者への声掛け等の防犯指導・安全指導
等を行っている。
「民間交番」が設置された仙台北警察署宮町交番の管轄地域では、設置前の1年間と設置後の1年間を比べると、刑法犯の認知件数が136件(19.3%)減少した。
トランシーバーを活用したパトロール活動
〔3〕 取組み事例その3~京成小岩イエローベレー隊の活動~
東京都江戸川区では、商店会会長の「自分たちの街は自分たちで守る。夜間パトロールを通じて地域の団結を高め、安心して買い物ができる街づくりに貢献したい」という呼び掛けにより、15年6月、商店主等の地域住民が、防犯ボランティア団体「京成小岩イエローベレー隊」を結成した。
この団体は、毎週土曜日の夜間にパトロール活動を行っているが、結成時に行った警察署との合同パトロール活動を通じてそのノウハウを身に付け、現在では、隊員同士で意見交換を行い、知識及び技能の向上に努めている。また、隊長が警察署と情報交換を行って、その情報をパトロール活動に反映させるなど、活動が効果的なものとなるよう工夫をしている。
ア パトロール活動の開始
京成電鉄小岩駅前を隊員の集合場所に定め、そこに隊員が整列して、服装、装備品等の点検を行い、隊長が、その日のパトロール活動の重点事項を指示する。
パトロール活動の開始
イ パトロール活動
パトロール活動中は、活動経験の長い隊員が先頭に立ち、通行人に必ず「こんばんは」と声掛けをする。通常は歩いて活動するが、定期的に自転車で広い範囲にわたる活動を行う。また、連休中は、不在住宅を中心としたパトロール活動を行う。パトロール活動のポイントは、次のとおりとされている。
・ 駐車場の警戒は、車両と車両の間までライトを照らす。
・ 表通りを歩くだけでなく、裏通りにも注意を払う。
・ 公園では、遊具、公衆便所の中も見る。
・ 事件・事故が起きた施設に立ち寄って、異常の有無を確認するほか、防犯指導を行う。
・ 大きな道路では両側の歩道に分かれて歩く。
・ 後ろからの車の接近を先頭の隊員に教えて、事故防止に配意する。
パトロール活動
公園の公衆便所内のチェック
駐車場の警戒
公共施設管理者との情報交換
このほか、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等では、自転車に乗った買い物客に対する防犯指導を行っており、自転車に乗っているときにひったくりの被害に遭わないように、前かごに入れた鞄の上に、買った物を載せるなどの工夫を行うよう指導している。
ウ パトロールの終わり
パトロール終了時にも、隊員が整列し、そこでパトロール中に気付いた問題点を相互に確認する。隊長は、確認された防犯上の問題点を、警察署、地方公共団体、商店会に連絡する。
コラム15 地域住民による犯罪抑止対策 ~東京都江戸川区小岩地区~
東京都江戸川区のJR小岩駅周辺では、いわゆる風俗店やモーテルが増加して生活環境が悪化するとともに、ひったくり、自転車盗等が多発している。14年中の犯罪の発生件数は約1,400件で、5年前と比べて30%以上も増加し、同年5月には暴力団員による発砲事件が発生するなどして、地域住民の不安感が一層高まった。
こうしたことから、小岩地区では、14年9月、37の町内会が結集して「小岩地区防犯カメラ設置推進委員会」を開催し、15年3月までに住民やJR小岩駅周辺のスーパーマーケット、企業等から約3,000万円の寄付金を集めて、JR小岩駅周辺に防犯カメラ60台を設置し、運用している。
これに対し、江戸川区は、防犯カメラの年間の維持費約250万円を負担して、活動を支えている。
また、15年6月、警察署長から委嘱を受けた郵便局、新聞販売店、ピザ販売店の従業員から成る防犯ボランティア団体「犯罪抑止パトロール隊」(隊員30人)が結成され、配達中に不審者や犯罪を目撃した場合は警察へ通報を行っている。同隊は、警察署から犯罪情報の提供を受けるなど、警察との連携を図っており、16年1月、住居に侵入したところを帰宅した家人に見つかって逃走中の窃盗犯を隊員が発見し、追跡して取り押さえるなどの成果を上げている。
街頭に設置された防犯カメラ
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