第1章 地域社会との連帯 

(3) 参加・体験・実践型の防犯教育(学習)

 地域住民が最新の犯罪発生状況や防犯対策を学習することができるよう、警察では、幅広い層の国民を対象とした様々な防犯教育を推進している。また、その内容を容易に理解でき、学習効果が高まるよう、防犯教育の実施方法は、主催者側から一方的に情報を伝達するのではなく、受講者が参加し、体験し、実践するものとなるよう努めている。

 〔1〕 地域安全マップの作成
 地域安全マップとは、犯罪や事故の発生しやすい箇所やその理由、実際に犯罪や事故が発生した場所等を表した地図のことである。それを警察が作成・提供して地域住民が活用することとしても一定の防犯効果が期待できるが、地図の理解と活用の度合いを一層高め、また、地図の内容をより生活実感に即したものとするため、警察では、地域住民が自らの手で地域安全マップを作成する取組みを推進している。地域住民は、警察から提供された犯罪情報だけでなく、自分や家族、友人等の体験、警察と共同で行った危険箇所の点検活動を通じて得た情報に基づき地図の作成を行うことになる。このようにして作成された地図は、防犯パトロールの実施経路や防犯灯の設置箇所の決定にも生かされている。

 
地域安全マップ(宮城)

地域安全マップ(宮城)

事例1
高知県警察では、幼稚園児とその保護者が参加する地域安全マップづくりを推進している。園児の保護者の多くは、子どもが連れ去り事件や交通事故に巻き込まれることを心配しているため、不審者の出没場所や通園路の道路交通の状況を書き入れるなど、園児と保護者の双方の目から見た危険箇所を地図に反映させている。参加した保護者からは、「安全や地域に関心を持つことができた」、「今後の防犯対策に役立てることができる」、「近所の人から事件情報を聞くことができた」といった感想が寄せられている。

 
作成された地域安全マップ(高知)

作成された地域安全マップ(高知)

 〔2〕 子どもの連れ去り防止訓練
 子どもが被害者となる略取誘拐事犯を防止するため、警察では、子どもとその保護者が参加する連れ去り防止訓練を行っている。その内容は非常に実践的で、声かけ事案や変質者の出没等を想定し、参加した子どもを不審者に扮した職員に対峙(じ)させ、対処方法を具体的に教えており、「知っている人でも保護者の了解なくついていかない」、「連れ去られそうになったときは大声を出して逃げる」、「防犯ブザーや防犯笛を活用する」ことなどを身に付けさせている。

 
子どもに対する防犯訓練(三重)

子どもに対する防犯訓練(三重)

事例2
三重県警察では、幼稚園児・保育園児や小学生が参加する誘拐防止教室を開催し、「子ども110番の家」への駆け込み等の訓練を行っている。

 〔3〕 街頭犯罪の防犯診断と被害防止訓練
 路上強盗、ひったくり等の街頭犯罪の発生状況を分析した結果、被害者の性別、年齢等には偏りがあり、犯行が行われる時間帯や場所にも一定の特徴があることが分かっている。国民がこれらを正しく知り、適切な予防策を講ずれば、被害に遭う可能性を低くすることができるため、警察では、犯罪が多発している時間帯や場所を通行する者に対して防犯診断を実施しているほか、街頭犯罪の対象として狙われやすい女性や高齢者に参加を呼び掛けて、犯行手口を実演し、犯行からの防御方法を習得させるための訓練を実施している。

事例3
愛媛県警察では、平成9年から、ひったくりの被害に遭いやすい女性を対象とした防犯訓練を実施している。自転車に乗った犯人役の職員が、被害者役の参加者に後ろから接近し、追い越す瞬間に手に持っている鞄をひったくってみせるなど、参加者の目の前で犯行の手口を再現した上で、車道側に鞄を持たないこと、人気のない道では時々後ろを振り返ることなど、具体的な防犯対策のノウハウを教示している。

 
ひったくり被害の防止訓練(愛媛)

ひったくり被害の防止訓練(愛媛)

 〔4〕 住宅の防犯診断
 窃盗等を目的とする住宅への侵入を防止するため、警察では、住宅の防犯診断を実施している。診断の中心は、建物錠と窓ガラスの防犯性能である。目の前で、ピッキングによって建物錠を開錠したり、ガラスの破壊実験を行ったりして、参加者にそれらの防犯性能を体感させ、防犯性能の高い製品への交換を促している。イベント会場や住宅展示場等の参集客を対象に実施するほか、人の居宅を借りて、そこに近隣の住民を集めて行う場合もある。

事例4
富山県黒部警察署では、15年10月から、日本ロックセキュリティ協同組合と協力して、黒部市内のマンションを訪問し、居住者の参加を得て、サムターン回し等の侵入手口に対処するための錠前の防犯診断を実施している。

事例5
香川県警察では、15年中49回にわたり、県民が多数集まるイベント会場等に職員を派遣して、「地域安全フェア」等参加・体験型の防犯講習を実施した。そこでは、侵入盗を防止する効果の高い最新式の錠前を展示したり、クイズ形式による防犯ガラスの効果測定を行ったりしている。

 
クイズ形式による防犯ガラスの効果測定(香川)

クイズ形式による防犯ガラスの効果測定(香川)

 第2節 治安回復に向けた地域社会との協働

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