(3)来日外国人等によって構成された犯罪組織 ア 中国人犯罪組織 (ア)グループ形成の背景  我が国の中国人犯罪組織は,中国本土に拠点を置く犯罪組織の構成員が我が国で活動している例もみられるが,組織ぐるみで我が国に進出したものではない。留学生・就学生制度の充実等により来日経験を持つ帰国者が増加し,こうした者を中心に,「経済格差により一攫(かく)千金をねらうことができる」,「血縁・地縁に基づき支援する中国人が存在する」などの風評が立ち,また,不良中国人の間には「犯罪を犯しても取締りや量刑が軽い」,「日本人の防犯意識が低い」,「防犯設備が整っていない」などの風評が広がったことなどにより,合法・非合法を問わず,資金獲得を目的に来日を目指す中国人が増加し,来日した中国人のうち一部の者が犯罪を犯し,更に犯罪を効率的に行うため,それらが組織化したものとみられる。 コラム3 資金獲得の場所として我が国を選んだ理由(被疑者の声)  資金獲得の場所として我が国を選ぶ理由について,経済格差のほか,他国と比べ取締りや量刑が厳しくないなどという意識を持っている状況がうかがえ,検挙された中国人被疑者の取調べの過程で,次のように話している例がみられる。  ・短期間で大金を稼ぐことができる。犯罪であれ何であれ,金を稼いだ者が成功者である。  ・本当はアメリカに行きたいが警察官に撃たれるなどの危険性もあり,刑も重い。  ・日本の警察は絶対に殴らない。運悪く捕まっても,否認していれば退去強制されるだけで済む。捕まることは恐いが,警察自体は恐くない。  ・日本は刑が軽く,窃盗でもせいぜい数年なので我慢できる。  ・日本の刑務所はきれいで,テレビも見られ,中国での生活より楽だといわれている。  検挙された来日中国人のなかには,本国で不良グループに属していたという者と,来日するまでぐ犯性はなかったものの安易な資金獲得手段として犯罪を犯すようになった者とがみられ,前者は我が国での犯罪グループの中核となっている例も少なくない。また,犯罪グループの構成員のなかには,過去に我が国から退去強制されたにもかかわらず偽造旅券を用いて再入国している者がおり,これらの者が犯罪グループの中核となっている例もみられる。  中国人の犯罪グループの構成を見ると,上海市出身者,福建省福清市出身者,福建省長楽市出身者,東北部(黒竜江省,吉林省,遼寧省等)出身者等,地縁を結合の中核としたものが一般的である。他方,複数の出身地からなる者が共謀して広域にわたって強・窃盗を敢行した例もあり,必ずしも地縁的結合に基づかないものもみられるが,このようなグループは,概して小規模である。 コラム4 新宿歌舞伎町における中国人犯罪組織の勢力の推移  新宿歌舞伎町は来日外国人のい集場所であり,中国人犯罪組織は情報交換,薬物取引等において歌舞伎町を利用し,勢力の拡大を図ってきた。集中的な取締りの影響により,都内の大久保,池袋等,あるいは地方都市に組織が分散する傾向がみられるが,今なお重要な活動拠点であることに変わりはない。  平成4年ころまで台湾グループ(台湾出身者の犯罪組織)が活発に活動していたが,集中的な取締りを受けて分散,沈静化し,その後,上海グループ(上海出身者の犯罪組織)が台頭してきた。上海グループは,上海での経歴,歌舞伎町内での信望等から自然に上下関係ができているが,離合集散が激しい状況がみられる。上海グループについても,現在は主要幹部が検挙されたり,取締りを逃れて出国するなどにより勢力を弱めている。最近では東北グループ(東北部出身者の犯罪組織)の台頭もうかがわれている。福建グループ(福建省出身者の犯罪組織)については,グループとしては根付いていないものとみられる。なお,マレーシア人のクレジットカード偽造グループが歌舞伎町を拠点に活動している状況がみられるが,これらの構成員は中国系のマレーシア人が多い。  都市部では,不良中国人が経営に関与する中華料理店,スナック,カジノバー等が相当数あり,都市部周辺で活動する不良中国人のたまり場となっており,そこでの面識を通じ,次第に交流を深めた例がみられるなど,こうした店舗が中国人の犯罪組織化を促進する機能を果たしている。また,このような店舗には,中国人犯罪グループによる強・窃盗事件の情報収集や謀議,盗品のさばき場所等として使用されているものもある。  加えて,構成員が相互につながりを持つようになった経緯としては,日本語学校や,中国人が多く集まるインターネットカフェ,カラオケ店等で面識を持つに至った例,一度犯罪に手を染めてからは,共犯者を通じて更に他の犯罪常習者と知り合ったなどの例がみられる。 コラム5 強盗グループに加わった経緯(被疑者の声)  中国人強盗グループの中には,中国において「黒社会」的犯罪組織に入り犯罪を行っていた者もいるが,来日後にこれらの者に強盗を勧誘されて仲間になった者も少なくない。その経緯として,例えば,福建省長楽市出身者らによる連続強盗事件では,20数人の検挙被疑者の取調べ過程で,次のように話している例がみられる。  ・職場で,言葉の問題や,日本人の同僚に馬鹿にされたことから自信をなくし,同郷者と寄り集まって金を得る相談をし,強盗をやることになった。  ・中国からの密航費用の借金を手っ取り早く返済するためグループに加わった。  ・仕事がなく,同郷者を訪れたところ,彼らが強盗を行っていることを知り,金欲しさから強盗グループに入った。  ・新宿のディスコやぱちんこ店等で,中国人の同世代の中に,強盗等により多額の現金を容易に手にして豪遊している者を見て,犯罪グループの仲間になった。  これらのグループでは,従来,構成員同士がそれぞれ緩やかなつながりのもとに離合集散を繰り返しながら犯罪を敢行するぐ犯者グループというべきものが目立ったが,最近は単なるぐ犯者グループではなく,高度に組織化された犯罪組織になりつつあるものも現れてきている。犯行の形態も短絡的ではなく,綿密に計画されたものがみられるようになっており,一部の組織は,強い影響力を持つ首領の下,グループに分かれ,各グループが犯行場所等に対する綿密な下見行為,犯行に必要な器材の入手,強・窃盗の実行,窃取した銀行カードを使用しての預金の引出し,盗品の処分等の役割を分担して効率的に犯罪を敢行しているなどの状況がみられる。 (イ)犯行手口等  組織性の高いグループでは,首領は犯行現場に立ち会わず,犯行日時・場所,被害品の本国への郵送,収益の配分や上納金額等についての指示や実行資金の調達・交付,日本人共犯者のスカウト等の準備行為を行うのみである例もみられる。  また,犯罪グループのなかで,留学等の正規の在留資格を有する構成員や構成員の日本人配偶者が名義人となって,犯行に使用する車両の借上げ,銀行口座の開設や携帯電話の契約を行っている例もみられる。  さらに,こうした犯罪グループは,周辺部に広がりをみせており,例えば,正規の在留資格を持つ中国人の知人や親戚,入国してきた中国人の世話を報酬を得て請け負う者等,明確に犯罪グループの構成員と断定できない周辺者が,住居を契約したり,銀行口座を開設して通帳を提供するなどして支援している例もみられる。  暴力団との関係としては,入国に絡む犯罪のほか,侵入盗等においても,連携がみられるようになっている(5参照)。  中国人犯罪グループによる犯罪の形態は,窃盗(空き巣ねらい,車上ねらい,ピッキング,サムターン回しにより侵入して行う金庫破り,出店荒し等),通帳詐欺(窃取した通帳を用いて金融機関から預金を引き下ろす手口),強盗(貴金属店,金融業,資産家を対象とするものなど),クレジットカードに係る犯罪(データのスキミング,偽造クレジットカードの作出,売買,使用等),ぱちんこの偽造ロムに係る犯罪(ロムを仕掛ける目的での建造物侵入,打ち子による出玉の窃取)等がみられる。  窃盗グループによる犯行は,極めて巧妙に行われている。例えば,中高層ビル内の会社事務所や住宅マンションを対象とした侵入盗事件では,1人が車両の運転席で待機し,1人は建物付近の道路上で移動しながら警戒・見張りを行う一方,2~3人が見張役と携帯電話ですぐに通話できる状態で,ピッキング用具等を用いて室内に侵入し,金庫をバールで破壊するなどして現金,預金通帳等を盗むなど,細かな役割分担の上,行われているものがみられる。  なかには,ピッキング用具やサムターン回しにより侵入し物色した箇所を元通りに戻した上,施錠して逃走するなど,犯行の発覚を遅らせて,預貯金を引き出す例が多くみられる。また,預金の引出役に日本人がスカウトされ加担する例も目立っている。  ぱちんこの偽造ロムに係る犯罪は,かつてほどみられなくなったものの,現在も引き続き行われている。こうした犯罪を敢行する際には,犯行が露呈しないように1日に打ち子1人が窃取する金額を数万円に抑えたり,店舗に侵入する際に防犯センサーを避けるための機材を用意するなどの例がみられるほか,捜査の過程から,出荷前のぱちんこ台をねらったり,ぱちんこ店の店員と共謀しているという状況がうかがえるなど,その手口も巧妙化する傾向にあるとみられる。 (ウ)上海グループ  上海出身者の犯罪組織(以下「上海グループ」という。)は,新宿歌舞伎町や大阪のミナミと呼ばれる地域を始めとする都市部の繁華街に集まった上海出身者が,次第に組織化して形成されたものとみられる。  検挙された窃盗グループ等を見ると,多くは小規模で,組織性が低い場合が多い。しかし,なかには,グループ同士が一部の構成員を介してつながりを持っている例もあり,複数都道府県警察の共同・合同捜査により検挙被疑者が数十人に上った事件もある。こうした事件では,地縁者,血縁者等の周辺でグループを支援する者を含めると百人を超える関係者の存在が明らかとなり,地域的にも東京を拠点とする者と大阪を拠点とする者が交流を持ち,共同で侵入盗を敢行していたことが判明している。  また,構成員同士又はグループ同士が上下関係を構成している例もある。東京都内における主な上海グループのなかには,首領の下,数名の配下を抱え,更にその下に配下がいるというピラミッド型の組織構造を有するものがみられ,上位者が傘下のグループから上納金を得ている状況もうかがえる。これらのグループも,首領の検挙や,他の地縁グループ(福建省出身者のグループ等)との抗争によって壊滅するなど,必ずしも安定しているものではない。 事例  上海グループ,住吉会傘下組織組長らは,クレジットカードの偽造,偽造カードを使用した商品の騙(へん)取,ピッキングによる侵入盗,窃取した銀行カードを使用した預金の引出し等をそれぞれグループに分かれて役割分担した上,敢行していたものである。  首領は,かねてより埼玉県西川口周辺の不良中国人らを束ねてこの種の犯罪を敢行する者として浮上していた上海出身の中国人であり,同人は,日本人名義の偽造旅券を所持し,定期的に我が国と上海を往復していた。同人と住吉会傘下組織組長とは,相互に面識のある日本人の仲介により接近し,犯罪に関する情報の交換等を通じて徐々に連携し,犯行の規模を拡大していったことが判明している。  被害総額は約4,400万円(うち現金被害約2,600万円)に及んでおり,14年7月までに,支払用カード電磁的記録不正作出,窃盗等で,首領の男を含む上海出身の中国人12人,住吉会傘下組織組長を含む日本人11人の計23人を検挙した(埼玉)。 (エ)福建グループ  福建省出身者の犯罪組織(以下「福建グループ」という。)は,上海グループをしのぐ勢力を持つとともに,中国本土における犯罪組織の関係者が中核となっていたり,敢行する犯罪の形態が多角化しているなど,組織としての性格を強めている。  福建グループは,主なものとして数グループが把握されているが,これらは,基本的には協力して活動することは稀(まれ)であり,また,相互に対立することを避けるために活動地域のすみ分けを行うなどしているとみられる。  構成員には,過去に我が国で退去強制処分されたにもかかわらず偽造旅券の使用等様々な方法で来日する者がおり,これらが組織の中核となっている例がみられる。一部の検挙被疑者からは,福建省での犯罪組織の関係者が取締りを逃れて来日するケースも多いという供述もみられる。 事例  三弟と呼ばれる首領を頂点とする福建グループは,首領の強い統制力の下,数十人の構成員により,偽造クレジットカードによる詐欺,錠剤型薬物の密売等を資金源として活動し,福建グループの中でも最大勢力の一つとみられたものである。  組織化が進展した背景には,首領に福建省で犯罪組織を形成する親族がいることから,恐喝等の被害を受けた同国人の被害者は泣き寝入りし,配下の構成員は警察に検挙された際に首領の名前を供述しないなどの状況があった。  首領は,偽名旅券を使用して来日し,外国人登録を行っていたほか,自身は犯行に直接加担せず,住居を転々とするなど,警察による取締りを強く警戒していた。配下からの上納金は,多い時には月に数千万円にも及んだとみられる。  我が国の暴力団との関係も明らかとなっており,暴力団員が盗品の処分,同グループ構成員が起こしたトラブルの仲裁等を行っていた。  14年1月,入管法違反で首領を含む10人を一斉検挙し,5月までに更に5人を検挙した(警視庁)。