第1章 組織犯罪との闘い 

イ ロシア人犯罪組織

 ロシア人犯罪組織は,ソ連崩壊に伴う混乱や市場経済への移行の過程の中で,国内の様々な分野に浸透し,国外では薬物の取引等の非合法ビジネスを行っているといわれている。外国で行われた分析の一つによれば,約1,000の犯罪グループから構成される約90の主要な組織があり,数万人の構成員がいるとされる。また,組織の特徴としては,構成員のつながりが一般的に地理的,民族的な同一性や共通の活動目的(犯罪形態)によるという点や,対立抗争を繰り返すなど強い暴力性を持つ一方で,社会経済に浸透し,合法・非合法に獲得した資金を用いて,表向きには会社経営等の合法的な事業活動を行っている点が指摘されている。
 我が国では盗難車の密輸出,ロシア人女性の売春等の捜査過程において,検挙被疑者を始めとする事件関係者がロシア人犯罪組織の関与はほのめかしつつも,組織の報復を恐れて詳細な供述をしないなど,組織の強い暴力性がうかがえる。
 我が国に関係するロシア人犯罪組織の活動としては,カニを始めとする海産物の密漁,密輸入が重要な資金源となっているとみられる。15年4月に韓国釜山市内で発生したロシア人男性の射殺事件は,サハリンを拠点にロシア極東地域で海産物取引を支配下におく有力組織の首領が,利権をめぐる組織間の対立の結果殺害されたものと伝えられている。また,13年6月にも北海道稚内市内でロシア人男性が射殺される事件が発生しているが,本件は上記首領をねらったものともいわれている。
 他方,盗難車の輸出もロシア人犯罪組織の大きな資金源となっているものとみられる。北海道,富山県等,多くのロシア船が入港する場所では,観光客や木材船,漁船等の船員として上陸するロシア人が,携行品として中古自動車を船舶に積載し,持ち帰る状況がみられるが,自動車窃盗事件の捜査から,盗難車をロシアに送るために,マフィアグループの幹部から指示を受け来日している状況や,ロシア人犯罪組織と関係がある人物が累次にわたって複数の港から盗難車をロシアに運んでいる状況等がうかがわれている。

コラム7 ロシアマフィアによる盗難車ビジネス(被疑者の声)
 いわゆるロシアマフィアの資金獲得活動の一端として,盗難車の密輸出事件に関連して検挙されたロシア人の窃盗実行犯,ロシアマフィアと日本人窃盗グループとの仲介を行った日本人(暴力団関係者)らの取調べ過程で,次のように話している例がみられる。
 ・ロシアマフィアの最大組織の幹部に日本へ行って盗難車を送れと指示された。盗難車を仕入れるごとに幹部に電話をして許可を取り,指示されたロシア船に積み込み,密輸した。
 ・これまでロシアマフィアの関係者から指示されて車を運んだことが数回ある。その者は小樽港のほか石巻港や新潟港からも盗難車をロシアに運んでいる。
 ・盗難車の密輸出の主な取引相手はウラジオストックに所在する船舶運航会社であり,同社はロシアマフィアが経営している。
 ・船の積載責任者にロシアマフィアの幹部の名前を出してその注文車両だと告げると,積載責任者も幹部から指示を受けているらしく,優先して乗せてくれるし,税関や警察の取締りを考えて最も安全な場所へ積載してくれる。

 
ロシアに輸出される中古車

ロシアに輸出される中古車

事例
 ロシア人の女A,パキスタン人中古車販売業者は,14年8月,Aとともに来日したロシア人の女Bら2人に対し,日本人との売春をあっせんしたものである。同月,Bら2人を売春防止法違反で検挙した。主犯格のAはロシア人犯罪組織との関係がうかがわれた(北海道)。

 

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