第1章 組織犯罪との闘い 

イ コロンビア人窃盗グループ

(ア)グループ形成の背景
 コロンビア人窃盗グループには,祖国での貧困等を理由に正業を求めて来日する者や,「日本では泥棒で簡単に金を稼ぐことができる」,「日本では売春で祖国の数倍稼ぐことができる」などの風評から,そもそも売春,窃盗等の違法行為を敢行する目的で来日した者らが,相互に仲間を募り合いながら我が国国内で窃盗グループを形成する例や,コロンビアであらかじめ犯行の役割分担,成功時の利益配分等を打ち合わせた上,グループで入国する例等がみられる。後者の中には,コロンビア国内でも窃盗を敢行している者が首領格となって加入の勧誘や偽造旅券の手配をしたり,メンバーに対して,「人が大勢いるところへ行って,肩をたたいたり,声を掛けたりして気を引きつけろ。その間に,他の者が金を盗む。声を掛ける時は,必ず日本語で「すいません」を入れろ」などと具体的な犯行方法を指導しているものもある。
 また,入国の背景には,コロンビア国内で失業者等を対象に来日を勧誘し,旅費の貸付け等を行うコロンビア人ブローカーの存在がうかがわれており,コロンビア人女性のなかには当初レストラン等で働けると聞かされて来日したが,請負料としてこうしたブローカーに負った数百万円の借金に拘束され,ブローカーと関係のある者から売春を強要された者や,窃盗グループのメンバーの中にも,こうした借金を返済するためにグループに加わったという者がみられるなど,コロンビア人に係る犯罪が発生する要因となっているとみられる。
 入国に用いられた旅券は,こうしたブローカーの手配により,あるいは自ら,本国で知人を通じて自己の写真を貼付した自己名義の偽造旅券を入手したり,隣国で飲食店を通じて偽造旅券を入手するなどにより入手している実態がみられる。最近は,メキシコに住む親戚に依頼して,同国で身分を証明する書類を取得し,これを用いて同国の旅券を取得して我が国に入国するという例も少なくない。
 来日後の窃盗グループ形成の経緯は,コロンビア人が集まる南米料理店を訪れた際やコロンビア人が多く住むマンションに居住することにより周囲から勧誘されたという例が多い。
 窃盗グループの規模・構成は,概して,数人から十数人のメンバーが友人関係に基づくなどして,緩やかにつながっているものとみられる。

(イ)犯行手口等
 コロンビア人窃盗グループの犯行手口は,侵入盗のほか,宝石商を対象として被害者の駐車した車両のガラスを破って宝石,貴金属を盗み取る車上ねらいや置引き,銀行で多額の現金を引き下ろした者に声をかけて,気を引いているすきに他のメンバーが盗み取る手口等がある。
 窃盗で得た収益については,グループ内で均等に分けたり,地下銀行を通じて本国に送金したりするほか,帰国する際に荷物の中に隠して持ち帰るつもりであったなどと供述する例もみられる。
 窃盗グループのメンバーの女性には,当初売春目的で来日した者が散見されるところであるが,我が国の暴力団が,コロンビア人女性の売春に絡んでみかじめ料を徴収するなどして,資金を得ている例があるほか,コロンビア人ブローカーとつながってこれらのコロンビア人女性の受入れに関与しているともいわれている。

事例
 コロンビア人グループは,14年9月,東京都中央区の銀行支店内において,被害者の会社員女性に外国語で話しかけ,同時に小銭をばらまいて周囲の客の注意をそらすなどして,被害者がATM機の上に置いた封筒入りの現金200万円を窃取したものである。12月までに同グループの構成員2人を検挙した。
 同グループは,8月ころから,東京,埼玉及び神奈川で,類似する手口の窃盗合計17件を敢行し,被害総額は約1億2,000万円に上った(警視庁)。

コラム6 来日目的(被疑者の声)
 コロンビア人窃盗グループのメンバーが我が国を訪れる目的は,資金獲得という点で共通しているが,当初から窃盗や売春の敢行を意図している者がおり,例えば,都内で検挙された数グループの被疑者の取調べの過程で,次のように話している例がみられる。
 ・友人が日本で売春を行い相当稼いだと話していたので,日本に行けばコロンビアの数倍の稼ぎがあると思い,売春目的で来日した。
 ・「日本は泥棒で簡単にお金を稼ぐことができる」と聞いていたので,生活費を稼ぐため来日した。査証免除で入国しやすい。日本のお金は高い価値がある。
 ・コロンビアで泥棒をしている男から,「日本に行って泥棒で稼ごう」と誘われ,コロンビア国内でグループの一員となった。
 ・友人が名古屋で街娼(しょう)をして稼いだと聞いたので,母親を助けるため,街娼となる目的で来日した。
 ・日本で大量の貴金属を窃取するのに成功して帰国した者がいたことから,うわさが広まり,うわさを信じて来日した。

 

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