第2節 暴力団対策法施行前後の暴力団の変化

暴力団の孤立化
 平成14年3月で、暴力団対策法が施行されて10年が経過した。第2節では、暴力団対策法施行以来の暴力団の変化と今後の課題について概説する。
(1)地域からの暴力団排除
 暴力団事務所の撤去活動は、暴力団の基盤を根底から切り崩すとともに、周辺住民の生活の平穏を維持するための重要な活動である。暴力団対策法施行前後で1年当たりの暴力団事務所の撤去件数を比べると、施行後では施行前(昭和61~平成3年)の2割以上増加している(図5-4)。
(2)企業等からの暴力団排除
 企業等と暴力団等との関係については、平成9年に大企業に係る商法違反事件が相次いで検挙され、依然として総会屋等との関係を続けていた企業等が相当数存在することが明らかとなったことから、政府は、同年9月に、企業経営者の意識改革、企業行動基準の策定、総会屋等との絶縁などを柱とする「いわゆる総会屋対策要綱」を制定した。
 総会屋等の総数は減少してきており、企業等からの暴力団等の排除が定着しつつある(図5-5)。
(3)公共工事からの暴力団排除
 警察では、公共工事から暴力団を排除するため、発注者たる地方公共団体の指名停止基準に暴力団排除規定を設けることを要請しており、平成13年末現在、既に市町村を含めた全国3,288自治体の6割以上において整備されている(図5-6)。
(4)公共施設からの暴力団排除の活動
 警察では、公共施設が暴力団の資金源となる義理かけ行事や威力誇示活動に使用されないよう、各自治体の公共施設の管理に関する条例やその審査基準に、暴力団の利益となる場合には当該公共施設の使用を認めないこととする規定を設けるよう働き掛けてきた。
 営利活動を含む各種の集会、行催事等、広範囲な形態の利用を予定している全国の公共施設のうち、暴力団排除条項等を整備している施設は、平成13年末現在、1万1,863施設となっている(図5-7)。
(5)都道府県センターの活動
 都道府県センターは、暴力団対策法の施行を契機に設置され、暴力団排除活動の中核としての役割を担っている(第1節「民事介入暴力対策及び暴力団排除活動の現状」参照)。
 特に、暴力団による被害者に対する支援については、平成4年以降13年までの間に、全国で654件、総額2,300万円を超える見舞金を支給し、119件、総額1億円を超える暴力団を相手方とする民事訴訟費用の貸付けを行ってきた。
[事例] 徳島県暴力追放運動推進センターは、競売に付された暴力団事務所の敷地を1,900万円で競落し、立ち退きを求める民事訴訟に勝訴して、平成9年7月、この暴力団事務所を完全に撤去した(徳島)。
(6)日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会との連携
 日本弁護士連合会は、昭和55年3月に「民事介入暴力対策特別委員会」を設立し、56年3月に同特別委員会を常設委員会に改める一方、各都道府県の弁護士会に「民事介入暴力被害者救済センター」を設置した。
 日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会及び関係弁護士による暴力団を相手方とする民事訴訟は、暴力団による違法・不当な行為を防止し、暴力団の勢力を弱体化させる上で大きな成果を上げてきた。  警察では、日本弁護士連合会と緊密な連携をとりつつ、被害者を始めとする関係者の身辺の保護、暴力団の組織実態等に関する情報の適切な提供等により、民事訴訟の支援を行っている(第1節「民事介入暴力対策及び暴力団排除活動の現状」参照)。

対立抗争の沈静化
(1)対立抗争事件の減少と短期化
 対立抗争事件の発生件数は、暴力団対策法制定の前後を境にして大幅に減少した(図5-8、図5-9)。
 また、暴力団対策法制定後は、対立抗争の継続期間が短期化しており、大部分の対立抗争が1週間未満で終結している(図5-8、図5-10)。
(2)対立抗争事件の減少と短期化の原因
 暴力団による対立抗争の減少と短期化の原因としては、警察等において次の対策が行われたことが挙げられる。
・ 暴力団対策法第15条(事務所使用制限命令)の積極的運用
・ 組長に対する損害賠償訴訟の提起
①事務所使用制限命令とその効果
 暴力団対策法施行当時における暴力団対策法第15条の規定では、指定暴力団相互間に対立が生じ、指定暴力団員による一連の凶器を使用した暴力行為が発生した際には、都道府県公安委員会が暴力団事務所の使用制限命令を発出できることとされていた。しかし、対立抗争が指定暴力団員により敢行されたものであると判明することが少なかったことから、平成9年の暴力団対策法の改正により、事務所使用制限命令を発出するための要件が緩和され、対立抗争に関係する指定暴力団等の事務所や指定暴力団員の住宅に対して凶器を使用した一連の暴力行為が行われれば、その行為者が判明しなくても、事務所使用制限命令が発出できることとされた。また、暴力団の寡占化が進み、経済不況により細り始めた暴力団の利権を巡って指定暴力団の内部で争いが起こるようになってきた状況に対応するため、一の指定暴力団の傘下組織相互間に対立が生じた際にも事務所使用制限命令を発出できることとされた。
 暴力団社会における精神的支柱であり、組織の存在拠点である事務所の使用を制限されることへの心理的抑制力は非常に大きく、事務所使用制限命令の制度の存在自体が相当の威嚇力になって対立抗争の減少と短期化につながっていると考えられる(表5-10)。
②組長の民事責任追及
 対立抗争を発生させ組員の発砲により他人に損害を与えた暴力団の組長に対し損害賠償請求訴訟が提起されるようになったことも、対立抗争の減少と短期化につながっていると考えられる。
 こうした対立抗争に係る暴力団組長の使用者責任を追及する訴訟は、沖縄県で発生した対立抗争によって高校生が誤って射殺された事件の損害賠償請求訴訟(平成3年提起)を発端として、これまでに5件提起されている。

資金獲得活動の困難化
(1)資金獲得活動の現状
 警察や都道府県センターの活動により暴力団の資金獲得活動が困難化し、暴力団員が金銭的に苦しい立場に追い込まれていることは、次のような暴力団員の声からもうかがわれる(表5-12)。
 また、暴力団構成員及び準構成員の検挙人員を罪種別にみると、暴力団がその威力を利用する典型的な犯罪である恐喝・脅迫の検挙人員は、過去10年間横ばい又は減少の傾向にあるが、強盗・窃盗の検挙人員は増加する傾向にある(図5-11、図5-12)。
 このような傾向は、暴力団対策法の施行による暴力的要求行為の規制、社会における暴力団排除活動の高揚等による資金獲得活動の困難化の一面を示している。
(2)資金獲得活動への対策
 暴力団員による暴力的要求行為等の資金獲得活動を困難化させるため、警察では次のような対策を推進している。
①中止命令等の発出
 暴力団対策法施行以来、暴力的要求行為に係る中止命令の発出件数は、ほぼ一貫して増加しており、平成13年の発出件数は4年の12倍を超えている(図5-13)。
 暴力的要求行為に係る中止命令違反及び再発防止命令違反の検挙件数は、中止命令等の発出件数に比べて極めて少ない状況にあり、中止命令等が暴力団の資金獲得を防止する上で大きな効果を発揮していると認められる。
②不当要求防止責任者講習の実施
 都道府県警察の援助の下で、各事業所において不当要求防止責任者が選任され、暴力団対策法第14条第2項及び第31条第2項第6号の規定に基づき、警察及び都道府県センターが、不当要求防止責任者講習を実施している。
 不当要求防止責任者の数は、図5-14のとおり増加を続けており、暴力団員による不当要求を拒絶する社会的な力が着実に増大している。
③適切な暴力相談への対応
 暴力団排除意識の高揚、都道府県センターの発足等により、暴力団対策法の施行後、暴力団員による不当な要求に泣き寝入りすることなく、その被害を積極的に申告・相談する動きが強まった(図5-15)。
 暴力団関係相談は、被害者の被害の回復・援助を図るだけでなく、事件検挙や中止命令等の発出の端緒としても活用されている。平成13年中の相談内容については、暴力的要求行為等に関する相談が最も多く、全体の約4分の1を占めている。

知能暴力事犯の多様化
(1)バブル利用から不況利用へ
 いわゆるバブル経済期における暴力団による知能暴力事犯は、地価・株価の高騰等を背景としたものであったが、バブル経済の崩壊とともに、金融機関等の不良債権の処理を巡るものへと移行した。
バブル経済期(昭和60年以降平成3年頃までの間)における主な資金獲得活動
【背景】地価・株価の高騰とそれに伴う金融機関等の乱脈融資
【内容】土地所有者に対する立ち退き強要(いわゆる地上げ行為)
不動産取引等への不法な関与
大量の株取引
リゾート開発への介入
*裏社会から表の経済社会への進出を図るようになる
バブル経済崩壊後における主な資金獲得活動
【背景】地価・株価の暴落と金融機関等による多額の不良債権処理
【内容】債権回収過程への関与
違法占有や賃借権の濫用による競売入札妨害
破産財団に属すべき財産を隠匿するなどの破産法違反
弁護士を装い報酬を得て法律事務を行う弁護士法違反
融資過程への関与
中小企業金融安定化特別保証制度等の公的融資制度の悪用
*金融機関等の抱える多額の不良債権の処理に関与するとともに、不況対策として創設された各種公的融資制度を悪用するようになる
(2)新たな資金源の開拓
①廃棄物処理業への進出
 暴力団対策法施行後、暴力団構成員及び準構成員の検挙人員が増加した罪種の一つとして、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)違反が挙げられる(図5-17)。
 平成12年に廃棄物処理法が改正され、産業廃棄物収集運搬業者の許可等について暴力団排除条項が新たに盛り込まれるとともに、不法投棄、無許可営業等に対する罰則が強化された。
②ベンチャー事業への介入
 暴力団対策法施行後、情報通信技術の発展に伴いIT関連事業等が成長したが、暴力団員等が、融資過程等を通じてベンチャー企業に不当に介入し、新たな資金源とする動きが見られるようになった。
 ベンチャー企業向け証券新市場を創設した東京証券取引所及び大阪証券取引所は、こうした暴力団の介入を防止するため、警察の要請に基づき、上場公開審査基準等に新たに暴力団排除条項を盛り込むなど暴力団排除の姿勢を明確にした。
(3)多様化する知能暴力事犯への対応
①組織的犯罪処罰法の適用
 経済情勢に連動した巧妙な資金獲得活動によって暴力団組織の上部に蓄積された資金は、将来の犯罪活動に再投資され、あるいは暴力団組織の維持拡大に利用される。知能暴力化が進む暴力団の活動を封じるためには、個別の資金獲得犯罪等について暴力団員等を検挙するのみならず、暴力団の資金運用実態を解明し、犯罪収益をはく奪することが重要である。
 警察では、組織的犯罪処罰法が施行された平成12年2月以前においても、薬物犯罪については「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」により犯罪収益への規制を行ってきたところであるが、組織的犯罪処罰法の施行に伴い、広範囲にわたる犯罪収益規制を行うことが可能になった。
②課税通報

暴力団の国際化
(1)国際犯罪組織等の関与がうかがわれる犯罪
 我が国の国際化の進展に伴い、国内における来日外国人犯罪が増加しており、国際犯罪組織の我が国への浸透もうかがわれるところであるが、来日外国人が暴力団員等と連携し、任務分担をして犯罪を敢行する事例も近年増加している(表5-13)。
(2)暴力団の海外進出
【バブル経済期における暴力団の活動実態】
・ 銃器、薬物等の調達、不動産投資、売春、恐喝等の資金獲得活動、逃亡先としての拠点づくり等を目的として海外に進出
[事例] 平成2年8月、山口組傘下組織組長(56)が、カナダに住宅を購入する契約を締結し、大蔵大臣の許可を受けず支払代金を送金した。3年7月、外為法違反で検挙した(大阪)。
【警察による主な対策】
・ 全国暴力追放運動推進センター(以下「全国センター」という。)及び公共政策調査会の主催による「海外安全対策会議」を後援
・ 海外に進出している企業に対する暴力団の海外進出動向に関する講演
・ 海外安全対策に関する広報啓発活動
・ 現地警察及び現地企業との暴力団情勢に係る意見交換会
・ 暴力団の海外における活動に関する情報の収集と分析

暴力団の高齢化
(1)20歳代の減少と50歳代以上の増加
平成5年以降の暴力団構成員及び準構成員の年齢構成の変化
○ 20歳代及び40歳代の割合が減少し、これに代わる形で30歳代及び50歳代以上の割合が増加
○ 全体を40歳未満と40歳以上の年齢層に分けた場合の構成比はほぼ一定で推移
・ 40歳未満の年齢層において20歳代の割合が減少
・ 40歳以上の年齢層において50歳、60歳代の割合が急増
暴力団組織全体における暴力団構成員及び準構成員の高齢化
(2)暴力団の高齢化の原因
 次のような施策が暴力団の高齢化をもたらしていると考えられる。
① 加入阻止・離脱促進対策
 特に20歳代が減少している要因としては、暴力団対策法において暴力団を反社会的集団として位置づけ、加入強要・脱退妨害に対する中止命令等を発出していることの効果が大きい。
② 相談活動の強化
 暴力団対策法の施行により、警察及び都道府県センターにおける暴力団からの離脱及び勧誘、加入強要に関する相談活動が強化された。
③ 社会復帰対策の充実
 警察及び都道府県センターは、暴力団対策法の規定に基づき、少年に対する暴力団の影響の排除及び離脱希望者等に対する援助措置を積極的に推進している。
①加入阻止・離脱促進対策について
 暴力団対策法施行後、加入強要については、1,533件、脱退妨害については、1,663件の中止命令等が発出されている。これらの命令のうち、未成年者及び20歳代が加入強要の相手方であるものが75%、脱退妨害の相手方であるものが59%となっている。
 このように、暴力団対策法に基づく中止命令等が、未成年者を含む若年層の暴力団への加入を阻止し、暴力団からの離脱を促進している(図5-19)。
②相談活動の強化について
【平成13年中の相談件数に占める相談者が未成年者及び20歳代であるものの割合】
○ 加入強要
・ 未成年―33%・ 20歳代―40%
全体の約7割を占める
○ 脱退妨害
・ 未成年―12%・ 20歳代―38%
全体の約5割を占める
③社会復帰対策の充実について
 警察及び都道府県センターでは、矯正施設、更生保護施設との情報交換や関係行政機関、民間団体との連携を図る一方、すべての都道府県に社会復帰対策協議会等を設立して、暴力団構成員の離脱促進と就労支援を推進している(図5-21)。なお、就業に成功した元暴力団員は、暴力団対策法施行後平成13年末までに約660人である。

暴力団の不透明化
(1)準構成員への移行
 暴力団対策法は、暴力団が公然とその存在を誇示するとともに、暴力団の威力を行使して不当な要求行為を行い、また、一般市民を巻き添えにする対立抗争を繰り広げていた実態を踏まえ、行政措置によってこれらの動きを規制しようとすることを目的に立法された。
 暴力団の威力を示す暴力的要求行為を禁止し、暴力団事務所に代紋や看板を掲示することを禁止し、対立抗争時において暴力団事務所の使用を禁止したのは、その趣旨に基づくものである。
 暴力団対策法施行後、暴力団は事務所から代紋、看板、提灯、当番表等を撤収し、名簿や回状(注)に構成員の氏名を記載せず、暴力団を示す名刺を使用しないなど、自ら属性を名乗らない傾向にある。
 こうした動向は、構成員の減少、準構成員の増加という現象(第1節「暴力団情勢」参照)の一因ともなっており、構成員でなくなった者の6割から7割は、準構成員として組織の外で暴力団と関わりを持つようになっている(図5-22)。
(注) 回状とは、他の暴力団に通達される書状のことをいう。祝儀等の際に出される回状や組員の制裁処分を通知する回状等がある。
(2)企業活動への移行
 暴力団の表の経済活動への進出は、バブル経済の利用と暴力団対策法の適用逃れという2つの側面を持っており、その勢いを増してきた。暴力団関係企業のなかには、暴力団構成員が直接に設立、経営する企業や暴力団構成員が親族を表の名義人として設立した企業もあるが、最も多く見られるのが、暴力団の実質的な支配の下に暴力団準構成員や元構成員が経営する企業である。こうした暴力団関係企業の実数については、その消長が激しく、正確に把握することが困難であるが、最近における準構成員の増加に伴い、暴力団の企業活動への進出は一層強まっているとみられる。
 暴力団が実質的に経営を支配する暴力団関係企業は、バブル経済期においては、不動産開発や金融機関による不正融資に関与することが多かったが、最近では、不良債権の回収に絡んで競売に不正に関与する事案が目立つようになっている。
(3)えせ右翼、えせ同和行為への移行
 最近、暴力団等による資金獲得活動として目立ってきているのが、いわゆるえせ右翼やえせ同和行為である。
 図5-23は、平成12年12月に、全国の企業3,000社を対象として全国センターが実施した企業対象暴力に関するアンケート調査の結果(複数回答)であり、金品等の要求を受けたことのある企業863社が「企業に要求等を行ってきた者」として回答したものの割合である。
 警察が把握しているえせ右翼等の政治活動標ぼうゴロのグループ数及びえせ同和行為者等の社会運動標ぼうゴロの人員は、ここ数年増加する傾向となっている(図5-24)。

暴力団の寡占化
(1)寡占化の状況
 日本の暴力団は、山口組を最大勢力とし、次いで住吉会、稲川会がこれに続く勢力となっている。
 これらの3団体による寡占化の状況を平成13年と20年前の昭和57年とで比べてみると、暴力団構成員及び準構成員の数の割合は、3団体全体で2.9倍(山口組3.3倍、稲川会2.7倍、住吉会2.2倍)となっている。3団体による寡占化は、山口組の勢力拡大に端を発して進展したが、山口組は、組織の一時的分裂から再編に至る過程(昭和59年以降61年まで)と東日本への拡大等を図った平成元年以降3年までに大きく組織勢力を伸ばした。暴力団対策法施行後は、大きな変動はないものの、少しずつ寡占化が進み、13年末現在、3団体の暴力団構成員及び準構成員の全暴力団に占める割合は約7割となっている(図5-25)。
(2)全検挙人員に占める主要3団体の割合
 暴力団構成員及び準構成員の全検挙人員のうち、山口組、稲川会及び住吉会の暴力団構成員及び準構成員の占める割合は8割近くに至っており、暴力団構成員及び準構成員の総数の7割弱を占める主要3団体に対し、集中的な取締りが行われていることの成果が現れている。
 特に、山口組については、その弱体化、壊滅を最重点としてきたところであり、最近5年間では全検挙人員の約半数を占めている(図5-26)。
(3)中止命令等の発出件数に占める主要3団体の割合
 中止命令及び再発防止命令の発出件数に占める主要3団体の割合は、暴力団対策法施行直後は90%を占めていたが、指定暴力団の指定が順次進められるにしたがって若干低下し、最近では、全発出件数のほぼ4分の3で推移している(図5-27)。

暴力団対策の課題
 今後の暴力団対策の課題は、暴力団そのものを中心に見据え、その巧妙化する犯罪を徹底検挙することを基本とするものであるが、特に、暴力団対策法施行後の変化に対応するという観点から次の対策を推進していく必要がある。
(1)不透明化する暴力団への対策
①えせ右翼、えせ同和行為等への対策
現状
 暴力団対策法の施行によって、準構成員や元構成員が、暴力団の実質的な支配の下に、政治団体や社会運動団体を装い、又は企業等の経済活動を装って暴力団の資金獲得活動を図る動きが強まってきた。
対策
 いわゆるえせ右翼、えせ同和行為者等の社会運動等標ぼうゴロ、暴力団関係企業等に対しては、その実態を社会に周知して被害の未然防止を図るとともに、その者が指定暴力団の構成員であるかどうかを問わず、違法行為の徹底検挙と行政命令の的確な発出に努める必要がある。
②暴力団と共生するものへの対策
現状
 暴力団に資金を提供し、又はその資金提供を受けて暴力団に利益を還元するなど暴力団の肥大化に積極的に協力・関与する組織や個人も存在する。これらの組織や個人は、いわば暴力団と共生する存在となっている。
対策
 暴力団の資産拡大の阻止とそのはく奪を念頭に、暴力団と共生するものの活動実態を解明し、組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリングの処罰に関する規定、没収、追徴等に関する規定の積極的な適用に努めるなど徹底した検挙を行うとともに、その活動を規制する枠組みについても検討を進める必要がある。
(2)暴力団排除活動の促進
①行政からの暴力団排除
暴力団による地方自治体等の行政機関やその職員に対する主な不当要求
○ 機関誌の購読、賛助金の提供等の要求
○ 公共工事の些細な瑕疵に因縁をつけて行う金員等の要求
警察における主な対策
○ 地方自治体等の職員を対象とする不当要求防止責任者講習の拡大
○ 暴力団排除条例制定の支援
○ 公共工事等から暴力団等を排除するための発注者、受注者双方との連絡体制の確立
 今後、社会からの暴力団排除をより徹底するためには、「行政からの暴力団排除」を重要な課題として推進していく必要がある。
②暴力団利用者対策の推進
 暴力団対策法は、暴力団を反社会的集団として初めて法的に位置づけ、暴力団排除を国民全体の課題としたところに一つの大きな意義があった。施行から10年が経過し、暴力団排除が社会共通の認識として定着した今日、その徹底を図るためには、暴力団を利用する者に対する姿勢をより明確にしていくことが重要である。
③民事訴訟支援の推進
 こうした動きの中で、実行行為者である暴力団組員の不法行為責任のみならず、暴力団組長の使用者責任や共同不法行為責任を認める判決も出されるようになった。
 今後、弁護士会との緊密な連携の下に、民事訴訟支援を更に推進していくことが重要である。
(3)暴力団の国際化への対応
暴力団及び各国の犯罪組織の国際的な活動への対策
○ 各国捜査機関との国際的な協力体制の強化
○ 情報交換等の捜査協力の積極的な推進
○ 国際捜査官の育成
○ 通訳体制の充実


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