第4節 銃器・薬物問題の現状と対策

銃器犯罪の現状と対策
(1)銃器発砲事件の発生状況
 最近の銃器発砲事件の発生状況をみると、平成8年を底に増加傾向にあり、社会に相当数の違法銃器が潜在していることが推測される。また、銃器発砲事件が繁華街や住宅街で発生するなど、国民に不安と脅威を与えている。
・ 13年中の銃器発砲事件の発生件数は215件。7年ぶりに200件を超えた。
・ 13年中の銃器発砲による死者数は39人。過去10年間で最悪となった。
(2)けん銃を使用した凶悪事件の発生状況
 平成13年中のけん銃(けん銃様のものを含む。)を使用した凶悪事件は206件であり、過去10年間で最悪となった(図3-29)。
[事例1] 13年1月、岐阜市内の自宅前の路上において、男性が、同人の妻(64)が依頼した山口組傘下組織組員(23)らにけん銃で撃たれ死亡した。5月末までに、殺人罪及び銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)違反で検挙した(岐阜)。
[事例2] 13年10月、東京都小平市内の農業協同組合支店横路上において、現金輸送車に現金を積み込んでいた警備員が、後ろから近づいてきた男2人組に右足をけん銃で撃たれ、現金約1億220万円と手形類を強奪された。14年1月、強盗致傷罪及び銃刀法違反で検挙した(警視庁)。

銃器摘発の現状
(1)銃器の押収状況
 過去10年間で、合計1万3,000丁を超えるけん銃を押収した。
 平成13年中のけん銃押収丁数は922丁で、マカロフ型けん銃が113丁と最も多く、次いでS&W社製けん銃が58丁、トカレフ型けん銃が48丁、CRS(フィリピン製密造けん銃)が45丁押収されている。
コラム
密輸の様々な手口
 我が国で押収されるけん銃の多くは、海外から密輸入されたものと考えられる。その手口は多様化・巧妙化している。
(最近の密輸の手口)
・ ヨットを利用して密輸入
・ 外国船籍の船員が体に巻き付ける、船室のベッドのマットを加工するなどして密輸入
・ 部品に分解して、航空機の預託荷物として密輸入
(2)暴力団構成員以外の者によるけん銃所持事件等の摘発状況
 平成13年中の暴力団構成員及び準構成員以外の者からのけん銃の押収は331丁で、内訳は、真正けん銃が287丁(86.7%)、改造けん銃が44丁(13.3%)で、真正けん銃のうち108丁は旧日本軍の軍用けん銃であった。
(3)密輸入事件の摘発状況
 平成13年中は、12年に押収したけん銃86丁の密輸入事件を検挙したほか、国粋会傘下組織関係者らによるけん銃部品及び実包密輸入事件を検挙し、けん銃部品12個、けん銃実包200個を押収した。
[事例] 13年3月、けん銃部品12個、実包200個を靴底に隠匿して密輸入した国粋会傘下組織関係者(33)らを銃刀法違反で検挙した(千葉、神奈川)。
(4)武器庫の摘発状況
 最近摘発した暴力団の武器庫(組織管理の下に3丁以上のけん銃が隠匿されている場所)の実態をみると、けん銃を小口に分散させる、隠匿者が特定されにくい場所を選定するなど、隠匿方法が巧妙化している。
[事例1] 平成13年2月、山口組傘下組織関係者(54)の知人(50)宅を捜索した結果、押入れの天井裏からけん銃20丁、実包307個を発見、押収し、同人及び保管を依頼した同関係者を銃刀法違反で検挙した(兵庫)。
[事例2] 13年5月、稲川会傘下組織組員(33)の前妻(33)宅を捜索した結果、ベッドの下からけん銃5丁、実包127個を発見、押収し、同女、同女に保管を依頼した同組員及び同組員に保管を指示した稲川会傘下組織幹部(40)を銃刀法違反で検挙した(山梨)。

総合的な銃器対策の推進
(1)政府における諸対策の推進
○ 平成7年9月、内閣官房長官を本部長とする「銃器対策推進本部」を設置
○ 7年12月、同本部が「銃器対策推進要綱」を決定
○ 毎年度、各省庁が「銃器対策推進計画」を策定
 13年度の警察庁の「銃器対策推進計画」
・ 銃器犯罪の摘発と違法銃器の押収の推進
・ 外国捜査機関との連携強化
・ 銃器に対する拒絶感の醸成
(2)銃器摘発の推進
○ 取締りの徹底強化
 暴力団等によるけん銃密輸・密売事件や武器庫等の摘発を重点とした取締り
○ 水際対策の強化
 水際での銃器取締りを強化するため、税関、海上保安庁等関係機関との連携を推進
・ 共同捜査や合同訓練の実施
・ 連絡協議会の開催
(3)国際的な銃器対策の推進
○ 国際会議の開催
・ 「銃器管理セミナー」
 平成13年6月、外務省との共催でアジア地域の7か国の実務担当者を招き、我が国の銃器鑑定技術の紹介・技術移転を行った。
・ 「北東アジア地域銃器対策国際ワークショップ」
 13年11月、ロシア、中国及び韓国から法執行機関幹部を招き、北東アジア地域におけるけん銃密輸ルートの解明について協議した。
○ 国際連合における取組み
 国際連合において、銃器議定書(コラム参照)の起草作業を進めてきた国際組織犯罪条約起草特別委員会の開催の都度、担当者を派遣してその起草作業に積極的に協力してきた。その結果、13年5月、ニューヨークで開催された国連総会において銃器議定書が採択された。
コラム
銃器議定書
 銃器議定書は、銃器やその部品、弾薬の密造・不正取引を各国が犯罪化すること、銃器への刻印、刻印の記録保管等に関する制度を確立すること、各国間の協力関係を構築することなどを定めた条約で、これを締結することにより、国際的に不正取引された銃器の追跡調査が容易になること、各国の情報交換等の国際協力が更に円滑になることなどが期待される。
コラム
けん銃110番
 「けん銃110番」は、違法銃器に関する情報を市民から受け付ける専用電話として各都道府県警察本部に設けられたもので、寄せられた情報は、けん銃など違法銃器の押収につながっている。
(4)違法銃器の根絶に向けた国民等の理解と協力の確保
○ 積極的な広報啓発活動の推進
・ 「けん銃110番」(コラム参照)の周知
・ 銃器犯罪根絶に向けた広報用ビデオの作成
・ 関係機関との合同キャンペーンの実施
・ 「銃器犯罪根絶の集い」の開催
 警察庁は、平成14年2月、「銃器犯罪根絶の集い・広島大会」を開催し、銃器犯罪の根絶を訴える高校生による創作劇等により、銃器に対する拒絶感が希薄になっているとみられる少年を主たる対象として、銃器犯罪のない社会を築くことの重要性を訴えた。
○ 「銃器対策推進本部」の設置
 13年末までに、全国40都道府県において、都道府県知事や副知事を本部長とし、都道府県警察等の関係機関で構成する「銃器対策推進本部」が設置された。
(5)猟銃等の適正管理の推進
 平成13年末における都道府県公安委員会の所持許可を受けた銃砲の数は43万5,645丁であり、このうち猟銃及び空気銃が39万2,074丁と全体の90.0%を占めている。
 猟銃等の盗難及び事故を防止するため、猟銃等講習会や関係団体との会合において、猟銃等の所有者に対する指導を行っている。

深刻な薬物情勢
 平成13年中の覚せい剤の押収量は406.1キログラムで、11、12年に続き大量の覚せい剤が押収された。覚せい剤事犯については次のような傾向がうかがえる。
・ これまで以上に巧妙な密輸入の手口が目立ったこと
・ 依然として海外から相当量の覚せい剤が我が国に流入し、それを支える大きな需要が存在していること
・ 覚せい剤事犯の検挙人員は1万7,912人で、高水準での推移が続いていること
・ 検挙者全体における初犯者(初めて覚せい剤取締法により検挙された者)の検挙人員に占める割合は48.8%と、全体の約半数を占めており、乱用者のすそ野が拡大していると認められること
 このほか、13年中の薬物情勢には、大麻取締法違反の検挙人員が大幅に増加するとともに、
・ 乾燥大麻の押収量が過去最高になったこと
・ MDMA等錠剤型麻薬の押収量が過去最高となったこと
・ 来日外国人の覚せい剤事犯検挙者が増加したこと
等の特徴点が見られるが、それらの原因として、薬物に対する正確な知識の欠如、警戒意識の低下とも密接に関係していることもうかがわれ、我が国の薬物情勢は極めて憂慮すべき状況にある。
「第三次覚せい剤乱用期」の深刻な状況が継続
(1)覚せい剤の大量流入
・ 我が国で乱用されている薬物のほとんどは、国際的な薬物犯罪組織の関与の下に海外から密輸入されており、最近では、中国及び北朝鮮を仕出地とする覚せい剤が大部分を占める。
・ 平成13年中の覚せい剤の押収量は、406.1キログラムで過去6番目の大量押収を記録。
・ 密輸入事件も続発(46件)。
押収量をはるかに上回る量の覚せい剤が我が国に流入していると推認された。
・ 国際的な薬物犯罪組織は我が国を覚せい剤の有力な消費国と認識
・ 暴力団等と結びついた上、様々な方法で密輸入を敢行
[事例] 13年4月に検挙した、台湾人らによる覚せい剤密輸入事件の関連被疑者として判明した暴力団組長(38)の使用車両を捜索したところ、同車両のトランク内から、覚せい剤約118キログラムを発見したため押収し、同人を覚せい剤取締法違反で検挙した(警視庁、千葉、神奈川)。
(2)最近の密輸入事案の特徴
極めて巧妙に覚せい剤を隠匿する事例が顕著にみられた。
[事例1] 13年5月、香港から成田空港への航空貨物便を利用して、浄水フィルター内部に覚せい剤を隠匿して密輸入した中国人男性(33)ら2人を覚せい剤取締法違反で検挙するとともに、覚せい剤約18.2キログラムを押収した(千葉、神奈川)。
 国際的な薬物犯罪組織は新たな手口での覚せい剤密輸入を図るおそれがある。
日本国内での覚せい剤製造(精製)事件が摘発される。
[事例2] 13年8月、マンションの一室を利用して、覚せい剤の半製品から覚せい剤を精製していた中国人男性(44)を覚せい剤取締法違反で検挙するとともに、覚せい剤及び覚せい剤の半製品合計約6.5キログラムを押収した(警視庁)。
 国際的な薬物犯罪組織による覚せい剤の半製品の密輸入が組織的に敢行されている実態がうかがわれ、今後も同種事案の増加が懸念される。
(3)不正取引に深くかかわる暴力団
・ 暴力団は、我が国における覚せい剤の密輸・密売の中核的な存在として、香港、台湾等に拠点を置く国際的な薬物犯罪組織から覚せい剤を密輸入し、それを国内で組織的に密売している。
・ 国内での取締りから逃れるため密売の手口の一層の巧妙化を図っている。
○ 暴力団員による覚せい剤事犯の検挙状況
・ 暴力団員の検挙人員の約4分の1は覚せい剤事犯によるもの
・ 平成13年中に覚せい剤事犯で検挙された暴力団員は7,307人(前年比422人(5.5%)減)で、覚せい剤事犯の総検挙人員に占める割合は昨年と同じく40.8%であった
・ 13年中に、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)第5条違反(注)で検挙した18事件のうち、6事件が暴力団による組織的かつ継続的な密売事件であった。
(注) 麻薬特例法第5条は、組織的かつ継続的に行われる薬物の不正取引を効果的に取り締まるため、薬物の密輸・密売等を「業とした」者を重く処罰する規定である。
[事例] 携帯電話や転送電話を巧みに利用して覚せい剤を密売し、その利益を資金源にしていた暴力団について、徹底した内偵捜査を実施し、密売実態を解明した上、13年1月から7月にかけて、組長(53)を始めとする暴力団幹部ら5人を覚せい剤取締法違反で検挙し、密売組織を壊滅させた(京都、滋賀)。
○ 暴力団員による主な密売手口の例
・ 他人名義の携帯電話や転送電話等を使用
・ 購入者と直接面接せず間接的に密売
・ 電話番号を短期間で変更
・ 密売場所を転々と移動
・ 宅配便を利用して密売
(4)来日外国人による覚せい剤事犯の増加
①不正取引に深くかかわるイラン人密売組織
 イラン人密売組織は依然として覚せい剤を始めとする薬物の不正取引に深く関わっており、なかには我が国の暴力団と結びついているものもみられる。イラン人密売組織は、街頭で覚せい剤を始めとする薬物を無差別に売りさばいており、薬物乱用に一層の拍車をかけている。
○ 平成13年中の来日イラン人による覚せい剤事犯の検挙人員は157人(前年比22人増)
・ 依然として国籍別にみた覚せい剤事犯の検挙人員では最多
・ 来日外国人による営利犯(営利目的所持及び営利目的譲渡)の検挙人員に占めるイラン人の割合も高く、検挙人員64人のうち50人がイラン人であり、依然として薬物の密売に深く関与
○ イラン人密売組織の組織防衛
・ 密売人、密売場所、使用車両等を短期間に頻繁に変更
・ 他人名義の携帯電話、メモ等を使用
・ 最近では取締りの厳しくなった大都市を避け地方に拠点を拡散
②来日外国人による覚せい剤事犯
 13年中の来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員は621人(前年比138人(28.6%)増)で、来日外国人による薬物事犯検挙者数の70.6%を占めている。
○ 来日外国人による覚せい剤事犯の国籍別検挙人員
 イラン人 157人(前年比22人増)
 フィリピン人 146人(前年比15人増)
 ブラジル人 133人(前年比39人増)
 中国人 40人(前年比22人増)
○ 来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員全体の違反態様別検挙人員
・ 単純所持、使用の割合が急増(単純所持は248人で85人(前年比52.1%増)増加、単純使用は224人で51人(前年比29.5%増)増加)
・ 特に、フィリピン人(単純所持61人、単純使用59人)、ブラジル人(単純所持34人、単純使用90人)等によるものが顕著

社会を汚染し続ける薬物乱用
(1)大麻事犯
平成13年中の乾燥大麻の押収量が過去最高の818.7キログラムを記録
・ 13年中の大麻事犯の検挙件数は2,240件、検挙人員は1,450人で、件数は501件(前年比28.8%増)、人員は299人(前年比26.6%増)増加
・ 押収量は大麻樹脂は減少(110.5キログラム、前年比60.3%減)したが、乾燥大麻が大幅増加(512.3キログラム、前年比167.2%増)(表3-31)
(2)麻薬等事犯
①MDMA等の錠剤型合成麻薬の流入
 平成13年中、MDMA等の合成麻薬(LSDを除く。)の押収量は、過去最高の11万2,358錠を記録
・ 3万5,282錠(前年比45.8%増)増加
・ MDMAは、錠剤型であるため、使用に対する抵抗感が希薄であることなどから、更なる乱用の拡大が懸念
②コカイン事犯
 13年中のコカイン事犯の検挙件数、検挙人員、押収量は、それぞれ、検挙件数が23件増加(前年比18.3%増)し、検挙人員が5人減少(前年比5%減)し、押収量は8.1キログラム増加(前年比51.9%増)した(表3-32)。
③ヘロイン事犯
・ 13年中のヘロイン事犯の検挙件数、検挙人員、押収量は、それぞれ検挙件数が16件(前年比23.2%減)、検挙人員が15人(前年比31.3%減)、押収量が2.7キログラム(前年比38.6%減)減少した(表3-33)。
・ 検挙人員の63.6%を来日外国人が占めている
④向精神薬事犯
 向精神薬事犯は、検挙件数が減少し、検挙人員、押収量は増加した(表3-34)。
⑤あへん事犯
 13年中のあへん事犯の検挙件数、検挙人員、押収量はそれぞれ前年に比べ、検挙件数が35件減少(前年比29.2%減)し、検挙人員が21人減少(前年比32.3%減)し、押収量は2.4キログラム増加(前年比26.7%増)した(表3-35)。
(3)シンナー等有機溶剤及び脱法ドラッグへの対応
①シンナー等有機溶剤
・ 平成13年中のシンナー等有機溶剤の乱用者(摂取し、若しくは吸入し、又はその目的の所持により毒物及び劇物取締法違反で検挙又は補導された者をいう。)の検挙人員は4,724人
・ 全検挙人員のうち少年が3,109人(65.8%)
②脱法ドラッグ
 最近、薬物取締法令に触れず、多幸感や性的快感等の薬理作用が得られる旨の宣伝をして、いわゆる脱法ドラッグを販売する事案が散見される。
・ 警察では、その成分中に規制薬物が含まれるなど取締法令等に違反するような場合は関係行政機関と連携して厳正な取締りを推進している
・ いわゆるマジックマッシュルーム(注)については、14年6月に「麻薬及び向精神薬取締法」における麻薬原料植物として指定されたことから、警察ではその栽培、輸入、譲渡、譲受、所持、施用等の取締りに努めている
(注) マジックマッシュルームとは、麻薬成分であるサイロシン又はサイロシビンを含有するきのこ類のこと。

薬物対策の推進
(1)政府の薬物対策
 平成10年に内閣総理大臣を本部長とする「薬物乱用対策推進本部」が策定した「薬物乱用防止五か年戦略(以下「五か年戦略」という。)」に基づき、関係省庁が協力して「第三次覚せい剤乱用期」の早期終息等に向けた薬物対策を強力に推進している。
・ 五か年戦略における目標
基本目標
・ 第三次覚せい剤乱用期の早期終息
・ 世界的な薬物問題解決のための国際貢献
具体的目標
・ 青少年の薬物乱用傾向の阻止
・ 密売組織の取締りの徹底
・ 密輸の水際阻止と密造地域における対策の支援
・ 薬物依存・中毒者の治療と社会復帰の支援
(2)警察の薬物対策
 警察では、政府の薬物対策の中枢を担う機関として、薬物問題を治安の根幹に関わる重要な問題ととらえ、薬物の供給の遮断及び需要の根絶を目指し総合的な薬物対策を推進しており、五か年戦略における目標の実現に向けて、
・ 密輸入事犯取締りの強化
・ 密売事犯取締りの強化
・ 薬物組織犯罪対策の推進
・ 末端乱用者の徹底検挙
・ 効果的な広報啓発活動の推進
を重点推進事項とする緊急対策を推進している。
①供給の遮断
・ 我が国で乱用されている薬物のほとんどは、海外からの密輸入されたものであることから、水際での阻止を強力に推進している。
・ 薬物犯罪組織の壊滅に向けて、効果的な捜査手法の活用、薬物犯罪収益のはく奪を推進している。
・ 税関、海上保安庁、入国管理局、地方厚生(支)局麻薬取締部等の関係機関との連携を強化するとともに、外国の取締り当局等との緊密な情報交換を実施
・ コントロールド・デリバリー等の効果的な捜査手法を積極的に活用した捜査の推進(平成13年中には28件のコントロールド・デリバリーを実施)
・ 麻薬特例法による薬物犯罪収益の隠匿及び収受(マネー・ローンダリング)の事件化、薬物犯罪収益の没収・追徴の徹底等の薬物犯罪収益対策を強力に推進(表3-36)
②需要の根絶
○ 薬物乱用を拒絶する社会環境づくり
・ 末端乱用者の徹底検挙
・ 広報啓発活動の活発な展開
による薬物の危険性・有害性に関する正しい知識の周知徹底、乱用を拒絶する規範意識の形成、維持を図る。
(具体例)
・ 薬物乱用防止教室、薬物乱用相談等
・ 啓発用ポスターの全国掲示、啓発用資料「DRUG」の様々な会合、キャンペーン等における活用
○ 薬物乱用が身体及び社会に及ぼす影響
・ 薬物乱用は、乱用者自身の精神、身体を蝕むばかりでなく、社会の安全を脅かす。
・ 薬物の需要の根絶を図るためには、社会全体に薬物を拒絶する規範意識が堅持されていることが極めて重要。
・ 覚せい剤、麻薬等の乱用は、急性中毒により死亡することもある。
・ 薬物の乱用による幻覚、妄想等により、殺人、放火等の凶悪な事件や重大な交通事故等を引き起こすことがある。
・ 13年の薬物乱用に起因する事件の検挙人員は、表3-37のとおりであり、うち凶悪犯の検挙人員は11人で、前年に比べ5人減少したものの、放火は2人、強盗は1人それぞれ増加した。
・ 薬物乱用に起因する事故は、乱用による中毒死は26人、自殺・自傷は8人、交通事故は34人である。
(3)薬物対策における国際協力の推進
①薬物対策に関する国際協力の枠組み
 薬物の不正取引は、国際的な薬物犯罪組織により国境を越えて行われ、一国のみでは解決できない問題であることから、サミット、国際連合等の国際的な枠組みの中でも、地球規模の重大な問題として、その解決に向けた取組みがなされている。
○ 国際連合における枠組み
 国際連合においては、経済社会理事会に麻薬委員会が置かれており、その下で国連薬物統制計画(UNDCP)が薬物問題全般にわたって幅広い活動を行っている。UNDCPは、薬物の供給源対策の一環として、我が国の薬物対策上重要な地域であるミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム、中国にわたる「黄金の三角地帯」及びその周辺国に対する各種プロジェクトを推進している。
 2001年(平成13年)3月には、オーストリアのウィーンで112か国が参加し、「第44回国連麻薬委員会」が開催され、薬物の不正取引と供給、需要削減等について幅広く意見交換が行われた。
 また、10月には、オーストラリアのシドニーにおいて、オーストラリアとUNDCPの共催で「第25回アジア・太平洋薬物取締機関長会議」が開催され、30か国2地域7国際機関の長が参加して、薬物の取締り状況等について情報交換を行った。
○ サミットにおける取組み
 1985年(昭和60年)のボン・サミット以来、経済宣言、政治宣言、議長声明等において、薬物対策に関する国際協力の強化が取り上げられている。
 2001年(平成13年)7月に開催されたジェノバ・サミットでは、コミュニケの中で、薬物の不正取引及び使用を抑制するための努力を強化することが確認された。
○ 「国際麻薬統制サミット」の開催
 14年4月には、「国際麻薬統制サミット2002」が麻薬・覚せい剤乱用防止対策推進議員連盟、日本国政府及びUNDCPの共催で東京にて開催された。今回の会合には、39か国1地域及び6国際機関から閣僚、国会議員を中心に約180名が参加した。今回は、アジアで初めての開催であることを踏まえ、アジアで大きな脅威となっている覚せい剤の問題について生産から消費まで多面的に議論を行った。また、最近のアフガニスタン情勢の急速な変化を踏まえ、同国を巡る薬物情勢についても活発な議論が行われた。
②国際協力の推進
 警察では、薬物捜査に関する技術支援、関係国との捜査員の相互派遣、各種国際会議への参加等を通じた情報交換等、国際捜査協力を積極的に推進している。
○ 警察が行った技術協力等の国際協力
 1999年(平成11年)2月に外務省との共催による「1999アジア薬物対策東京会議(ADLEC Tokyo)」において、東アジアにおける国境地帯の取締り協力を発展させるためのUNDCPの新規プロジェクトに対する日本政府の財政的、技術的支援が表明された。警察では、この会議の結果を受けて、次のとおり薬物専門家を派遣し、各国の薬物取締官や薬物鑑定要員を対象にした「薬物取締りセミナー」等を開催し、我が国の薬物対策に関する技術の移転を行った。
 1999年(平成11年)11月 タイヘ薬物分析・鑑定の専門家を派遣
 2000年(平成12年)9月 カンボジアへ薬物取締りの専門家を派遣
 2000年(平成12年)1月、11月 ミャンマーへ薬物取締り及び分析・鑑定の専門家を派遣
 2001年(平成13年)1月 タイへ薬物分析・鑑定の専門家を派遣
 10月 フィリピンへ薬物取締りの専門家を派遣
 中国へ薬物取締り及び分析・鑑定の専門家を派遣
 ミャンマーへ薬物取締り及び分析・鑑定の専門家を派遣
 11月 ベトナムへ薬物取締りの専門家を派遣
 以上のほか、薬物生産国等における薬物問題への取組みを支援することを目的として、
・ 「薬物犯罪取締セミナー」(各国の薬物取締官を日本に招へいしてのセミナー)等の開催
・ 途上国への技術支援のための調査等が行われた。
○ 国際会議を通じての情報交換
 覚せい剤の不正取引対策、薬物犯罪組織の動向と国際協力等について討議、意見交換を行うため、
・ 「第7回アジア・太平洋薬物取締会議」(ADEC)
 〈14年2月、29か国2地域2機関の参加を得て東京で開催。同会議では「薬物犯罪の地球規模化に対する闘い」をテーマに、覚せい剤対策、国際捜査協力等について活発な意見交換が行われた。〉
が開催された。


目次