はじめに

 平成13年の刑法犯検挙率は19.8%となり、戦後初めて20%を割り込んだ。同年の刑法犯認知件数は273万5,612件に上り、戦後最高を記録した。過去10年間で約100万件の増加となっている。このようなデータをみれば、国民の多くは、程度の差こそあれ、社会の安全に関し不安を抱くことになろう。確かに、我が国の治安は、重大な岐路に立っている。では、どうすればよいか。
 我々は、まず、マクロの統計数値からは必ずしも明らかにならない犯罪情勢の実相に迫ろうと考えた。犯罪が増えたといっても、すべての罪種が一律に増加しているわけではなく、また増加の原因も一様ではない。真に脅威と見るべきは何であるのか。この点についての正確な知見を国民と警察が共有することが、対策の出発点であろう。そこで第1節では、特に増加が目立つ罪種を中心に、より詳細な統計分析を行い、また特別の実態調査を行った。
 次に、犯罪捜査をめぐる諸条件の分析である。犯罪の増加であれ、捜査の困難化であれ、関係する要因は極めて複雑多岐であるから、単純な説明は困難であるが、これを丹念に解き明かすことが、対策の方向性や国民と警察との役割分担についての社会的な合意を形成するための前提条件であろう。そのため、第一線の警察活動の実態調査等を行い、できる限り具体的に、警察活動を取り巻く課題について明らかにした。
 最後は、対策である。現在の警察に足らざる点があれば、率直に認めこれを補う措置を講じるべきである。また、警察が現に有する能力や資源を最大限発揮し、活用すれば、相当の効果が見込まれるところであり、運用の高度化が必要である。さらに、これらと同時に、個人の意識や社会経済の仕組みの中に、防犯意識や防犯のための仕組みが組み込まれることも、今後社会の安全を保つ上で必要不可欠である。そこで第3節では、今後の警察の取組みについて、社会の各層との連携を期待するものも含め、取りまとめた。
 つい最近に至るまで、各種の世論調査において我が国について誇るべきものの第一は治安水準が極めて高いことであった。これに対し、「良好な治安はもはや過去のものである」と論じる向きもある。確かに情勢は楽観を許さないが、我が国社会には、また我々警察にも、厳しい犯罪情勢に対し、自らの知恵と努力で立ち向かうに足りる潜在能力が残されているのではないだろうか。本特集は、そのような取組みの第一歩となるものである。


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