第3章 犯罪情勢と捜査活動

 平成7年以降、刑法犯認知件数は増加を続けており、12年には244万3,470件と、前年に比べ27万7,844件(12.8%)増加し、戦後最高を記録している。特に、強盗、ピッキング用具を使用した侵入盗、傷害、暴行等の増加が目立っており、犯罪情勢は深刻化している。
 このような情勢に的確に対応するため、警察では、捜査体制の充実、捜査官の育成、科学捜査力の強化等の諸施策を講じ、国民の期待にこたえる捜査を遂行していくこととしている。
1 平成12年の犯罪の特徴
(1) 重要凶悪事件
ア 社会の耳目を集める事件の発生
 平成12年には、少年による高速バス乗っ取り事件が発生し、国民に大きな衝撃を与えた(第1章第2節(2)イ(ア)参照)。また、悪質かつ計画的な身の代金目的誘拐事件が多発したほか、営団地下鉄列車脱線衝突事故事件や、乳製品による被害者多数の食中毒事件等大規模な業務上過失事件が発生した。
[事例1] 12年4月、無職の男(37)は、自営業の男(55)と共謀の上、下校途中の小学生男児をむりやり車両内に押し込んで略取し、同男児の父親に対して金員を要求する電話をし、現金790万円を指定する口座に振り込ませて交付させた。同月、無職の男ら2人を身の代金拐取罪等で検挙した(神奈川)。
[事例2] 12年3月、営団地下鉄日比谷線中目黒駅付近において死者5名、負傷者40名を伴う、営団地下鉄列車脱線衝突事故が発生した。13年3月、営団幹部等5名を業務上過失致死傷及び業務上過失往来危険罪で検挙した(警視庁)。
イ 増加する路上犯罪
(ア) 路上強盗の増加
 強盗の認知件数の増加が続いており、12年は5,173件と、戦後最低の認知件数であった元年の1,586件の約3.3倍となっている(図3-1)。
 特に、路上強盗の増加が目立っており、12年中の認知件数は2,070件と、前年に比べ575件(38.5%)増加している。
 一方、12年の路上強盗の検挙件数は930件、検挙人員は1,645人であったが、うち、少年の検挙人員は1,122人で、検挙人員の68.2%を占めている(図3-2)。
(イ) ひったくりの増加
 12年のひったくりの認知件数は4万6,064件と、元年の約4.5倍となっている。被害者の93.1%が女性で、被害者の年齢構成は、50歳代が最も多く、次いで20歳代、60歳代の順となっている。
 一方、12年の検挙件数は1万4,796件、検挙人員は3,072人で、そのうち少年の検挙人員は2,179人と、検挙人員の70.9%を占めている(図3-3)。
(2) 増加する窃盗犯
 窃盗犯は刑法犯の認知件数の87.2%(平成12年)を占め、国民にとって最も身近な犯罪である。12年の窃盗犯の認知件数は213万1,164件で、前年に比べ22万771件(11.6%)増加している(図3-4、図3-5)。
ア 特定重要窃盗犯
 ピッキング用具を使用した侵入盗、組織的に敢行される自動車盗、少年等によるひったくりが増加しており、これらの中には、強盗等の凶悪犯に転じるおそれのあるものや組織的に敢行されているものが多い。
 ピッキング用具を使用した侵入盗については、12年に全国で2万9,211件を認知しており、都市部での発生が目立っている(図3-6)。また、自動車盗の認知件数は、ほぼ横ばいであったが、9年以降増加し、12年の認知件数は5万6,205件と、前年に比べ1万3,113件(30.4%)増加している。キーを付けたままにしていなくても自動車盗の被害に遭う事案が増えており、また、高級車の被害も目立ち、組織的に高級車を窃取し海外に密輸する事案や、暴力団が関与する事案が検挙されている(図3-7)。なお、ひったくりについては、(1)イ(イ)参照。
 このため、警察では、これらのピッキング用具を使用した侵入盗、組織的に敢行される自動車盗、少年等によるひったくりの三類型を特定重要窃盗犯として位置付け、捜査、防犯両面から諸対策を推進している。
[事例] 中国人の男(27)らは、窃盗グループを組織し、10年1月以降、主に駅周辺の中高層マンションを対象にピッキング用具を使用して空き巣ねらい事件等を連続的に敢行した。12年5月までに、1都3県下において空き巣ねらい事件等258件、被害総額1億2,000万円相当の犯行を確認し、4人を窃盗罪等で検挙した(埼玉)。
イ 組織窃盗事件
 多数の被疑者が首領の指揮の下、下見、窃取、盗品の運搬、処分等の役割を分担して行う組織窃盗による被害が深刻化している。例えば、窃盗の検挙件数に占める共犯ありの割合は表3-1のとおりであり、来日外国人や暴力団構成員、準構成員による共犯事件の割合の高さが目立っている。
 このため、警察では、9年以降、全国の警察本部に組織窃盗対策官、組織窃盗捜査班を設置して専従体制を整備するとともに、警察庁組織窃盗事件登録制度を設け、窃盗組織の実態解明を行い、組織中枢に至る検挙に努めている。警察庁登録組織窃盗事件として、9年以降、12年末までに945人を検挙しており、その被害総額は243億1,409万円相当に及んでいる。
[事例] 中国人の男(30)らは、窃盗グループを組織して、11年1月ころから関東地方を中心に会社事務所等を対象とした事務所荒し、金庫破り事件及び調剤薬局を対象とした出店荒し事件を敢行し、窃取した手形・株券等の有価証券を暴力団幹部等を通じて売却し、また医薬品を日本人ブローカーを通じて売却していた。12年7月までに、1都4管区8県下における金庫破り事件235件、被害総額約5億8,000万円相当の犯行を確認し、関連被疑者23人を窃盗罪等で検挙した(警察庁登録組織窃盗第28号事件)(警視庁、群馬、埼玉)。
(3) 増加する粗暴犯
 粗暴犯の認知件数は、近年増加傾向にあったが、平成12年は、前年に比べ2万596件(47.0%)増加と著しく増加し、6万4,418件となった。これは、粗暴犯の大部分を占める傷害、恐喝、暴行の増加による。
 認知の増加とともに検挙も増加し、12年の粗暴犯の検挙件数及び検挙人員は、前年に比べそれぞれ1万723件(37.6%)、1万2,545人(33.1%)増加し、3万9,211件、5万419人となっている(図3-8)。
2 犯罪情勢及び捜査活動の現況
(1)全刑法犯の認知及び検挙の状況
ア 認知状況
 平成12年の刑法犯認知件数(注)は244万3,470件で、前年に比べ27万7,844件(12.8%)増加している(図3-9)。
 12年の刑法犯認知件数の包括罪種別構成比をみると、窃盗犯が213万1,164件で、全体の87.2%を占めている。
(注) 罪種別認知件数は、資料編統計3-3参照。
イ 検挙状況
 12年の刑法犯検挙件数は57万6,771件で、前年に比べ15万4,513件(21.1%)減少し、検挙人員は30万9,649人で、5,706人(1.8%)減少している(図3-10)。
(2) 重要犯罪及び重要窃盗犯の認知及び検挙の状況
 警察では、刑法犯のうち個人の生命、身体及び財産を侵害する度合いが高く、国民の脅威となっている重要犯罪、重要窃盗犯の検挙に重点を置いた捜査活動を行っている。
ア 重要犯罪の認知及び検挙の状況
 12年の重要犯罪(殺人、強盗、放火、強姦の凶悪犯に略取・誘拐・強制わいせつを加えたものをいう。)の認知件数は1万8,281件で、前年に比べ3,599件(24.5%)増加している。また、検挙件数は1万1,049件で、前年に比べ558件(5.3%)の増加、検挙人員は9,954人で、前年に比べ647人(7.0%)の増加となっている。
イ 重要窃盗犯の認知及び検挙の状況
 12年の重要窃盗犯(侵入盗、自動車盗、ひったくり、すりをいう。)の認知件数は42万3,281件で、前年に比べ5万6,107件(15.3%)増加している。また、検挙件数は14万351件で、前年に比べ5万6,660件(28.8%)の減少、検挙人員は2万2,126件で、前年に比べ2,407人(9.8%)の減少となっている。
(3) 組織的犯罪処罰法等の運用状況
 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)は、平成12年2月に施行され、12月末までに刑の加重規定(第3条第1項等)を6件に適用するとともに、犯罪収益等隠匿(第10条第1項)を3件検挙している(第4章2(2)参照)。また、起訴前における没収保全命令が警察の請求により3件発出されている。
 一方、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律は、12年8月に施行されたが、同年中には、傍受令状の請求、通信傍受の実施等はなかった。
(4) 政治・行政とカネをめぐる不正事案
 平成12年には、元建設大臣や中央省庁幹部職員による汚職事件等が相次いで顕在化する一方で、買収等の選挙違反も依然としてみられ、政治・行政とカネをめぐる構造的不正の追及を求める国民の声の高まりはとどまることがない。警察では、捜査体制の整備を図るとともに、専門的知識・技能を有する捜査員の育成強化に努め、こうした不正事案の摘発を推進している。
ア 贈収賄事件
 平成12年の贈収賄事件の検挙件数は64件、検挙人員は187人で、検挙状況は図3-11のとおりである。検挙人員のうち、首長、地方議会議員の検挙人員は、それぞれ11人、18人となっており、引き続き高い水準で推移している。
[事例] 農林水産省課長補佐(47)は、同省の補助事業に関し、有利便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び将来にわたり同様の便宜を図ってほしい趣旨で供与されるものであることを知りながら、9年2月中旬ころ、農協組合長(70)から現金50万円を収受した。12年3月、収賄罪で検挙した。また、農林水産省調査官(44)は、自己が飲食店に支払うべき代金合計約290万円を9年7月ころから11年10月ころまでの間、前後30数回にわたり、同組合長らから代払いを受けた。12年3月、収賄罪で検挙した(警視庁、香川、北海道)。
イ 談合・競売入札妨害事件
 12年中の談合及び競売入札妨害事件の検挙件数は20件、検挙人員は126人である。
[事例] 大阪府議会議員(59)は、府発注の公共工事の指名競争入札に関し、特定の建設業者に落札させることを企て、11年6月ころ、府職員から予定価格を聞き出して同社に内報し、よって同社に同工事を落札させ、偽計を用いて公の入札の公正を害した。12年11月、競売入札妨害罪で検挙した。その後、同議員が本件に関して賄賂を収受したことが判明したため、12月、あっせん収賄罪で検挙した(大阪)。
ウ 選挙違反の取締り
(ア) 第42回衆議院議員総選挙違反取締り状況
 第42回衆議院議員総選挙(6月25日投票)における公職選挙法違反事件の検挙状況(投票日後90日現在)は、件数が552件、人員が1,375人(うち被逮捕者210人)で、前回に比べ、件数で334件(37.7%)、人員で338人(うち被逮捕者77人)(19.7%(26.8%))それぞれ減少している。
 罪種別にみると、買収事件の検挙件数が390件、検挙人員が1,133人で、全検挙に占める割合は、検挙件数で70.7%、検挙人員で82.4%と最も高くなっている。また、その他の罪種としては、特定の寄附の禁止違反事件、公務員の地位利用事件等が検挙されている(表3-2)。
[事例] 選挙運動員(51)らは、共謀の上、国と公共工事の請負契約を締結している建設業者10数社の代表取締役らから候補者の選挙運動に充てるための資金として現金合計数百万円の寄附を受けた。7月、公職選挙法違反(特定の寄附の禁止)で検挙した(北海道)。
(イ) 国政補欠選挙及び一般地方選挙における違反取締り状況
 12年には、衆議院議員総選挙以外の国政補欠選挙及び一般地方選挙の違反取締りにおいて、首長、各種議会議員等を検挙している。
[事例] 長野県の土木部幹部(57)らは、共謀の上、部下職員に対し、その職務上の地位を利用して、候補者への投票、投票取りまとめ等の選挙運動を依頼した。10月、公職選挙法違反(公務員の地位利用)で検挙した(長野)。
(5) 金融・不良債権関連事犯を始めとする企業犯罪
ア 金融・不良債権関連事犯
 平成12年の金融・不良債権関連事犯の検挙件数は、216件(117件(注))で、前年に比べ18件(15件)増加した。その内訳をみると、融資過程における詐欺、背任事件等が28件(19件)、債権回収過程において民事執行を妨害するなどした競売入札妨害、公正証書原本不実記載事件等が117件(98件)、その他の金融機関役職員による詐欺、背任事件等が71件となっている(図3-12)。
(注) ( )内は、暴力団、暴力団構成員、準構成員、総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロに係る金融・不良債権関連事犯の件数を示す。
[事例] 信用組合理事長(72)らは、共謀の上、自己及び融資先である不動産業者の利益を図る目的をもって、同組合から融資先に対する総額300億円以上に上る貸付が大幅な担保不足を生じ、その貸付金の回収が危ぶまれており、追加融資をすれば、その回収が困難になることを認識しながら、十分な担保を徴することなく、7年4月から同年10月までの間、合計約9億円の貸付を実行し、同組合に対し、同額の財産上の損害を与えた。12年3月、背任罪で検挙した(和歌山)。
イ 企業犯罪
 バブル経済崩壊後、多くの企業が経営破綻に至ったが、破綻に至る過程又は破綻処理の過程における企業経営陣による経済取引の健全性・公正性を大きく害する不正事犯が顕在化した。これらの企業を舞台にした犯罪は、多くの国民に多額の金銭的被害をもたらすだけでなく、経済・社会に与える影響も甚大であることから、摘発を推進している。
[事例] 検査機器メーカー役員(60)らは、共謀の上、同社の9年6月1日から10年5月31日までの事業年度の決算を行うに当たり、配当可能利益は皆無であったにもかかわらず、架空売上を計上するなどの方法により、当期利益を水増しして計上し、株主に対し利益配当を行う旨の利益処分案を作成して定時株主総会に提出し承認させ、配当金合計約7,000万円を支払い、もって違法な利益配当を行った。5月、商法違反(違反配当)で検挙した(神奈川)。
(6) 告訴・告発の取扱いの状況
 告訴・告発に係る相談件数が大幅に増加し、それに伴って告訴・告発受理件数も増加しており、平成12年の受理件数は3,449件で、前年に比べ1,077件(45.4%)の増加となっている。
 このような告訴・告発を取り巻く現状を踏まえ、告訴・告発の取扱いの適正化と迅速的確な捜査の推進を図るべく、警察庁では、告訴専門官会議等の各種会議の開催、都道府県警察に対する告訴・告発に係る業務指導等を実施している。また、都道府県警察においても、告訴・告発事件取扱要領等の改正や告訴・告発事件捜査強化月間等を実施するなどの取組みを行っている。
 これらの取組みの結果、12年の処理件数は2,713件で、前年に比べ285件(11.7%)増加した。しかし、12年末現在の未処理件数が3,715件で、前年同期に比べ740件(24.9%)増加していることから、体制の強化を図るなどし、告訴・告発事件捜査に対する取組みの一層の強化を図ることとしている(表3-3、表3-4、表3-5)。
(7) カード犯罪
 平成12年のカード犯罪(注)の認知件数は6,970件、検挙件数は4,514件、検挙人員は1,803人となっている。検挙したカード犯罪に係るカードの取得原因を見ると、窃取・拾得したカードを使用したものが3,298件(検挙件数の73.1%)、偽造したカードを使用したものが660件(同14.6%)、他人名義で不正取得したカードを使用したものなどその他のものが556件(同12.3%)となっている。検挙したカード犯罪に使用された偽造カードはすべてクレジットカードで、来日外国人による事案が目立っている。また、偽造クレジットカードは、真正なカードの電磁的記録の情報を磁気情報読取装置を用いて取得し(スキミングと呼ばれる。)、偽造されたものが目立っている。
(注) クレジットカード、キャッシュカード又は消費者金融カードを悪用した犯罪をいう。
[事例] マレーシア人らを主犯とするクレジットカード偽造組織は、組織のメンバーの知人である日本人にクレジットカードのスキミングを持ち掛け、同人をガソリンスタンドにアルバイト店員として送り込み、同人にあらかじめ渡しておいた携帯型磁気情報読取装置を用いて客が提示するクレジットカードの電磁的記録をスキミングさせ、それを用いて偽造クレジットカードを作成し、同偽造カードを組織のメンバーの日本人らに使用させて約3億円相当の商品をだまし取っていた。12年3月、マレーシア人の男(33)及び日本人のアルバイト店員(26)ら6人を私電磁的記録不正作出罪等で検挙した(警視庁)。
 なお、クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカードに対する不正行為に的確に対応するため、支払用カードを構成する電磁的記録等の不正作出、所持、これらの電磁的記録の情報の不正取得等の行為を処罰する改正刑法が13年6月に成立し、7月24日に施行された(図3-13)。
(8) 女性に対する暴力
ア 強姦・強制わいせつ
 平成12年の強姦の認知件数は2,260件で、前年に比べ403件(21.7%)増加している。また、強制わいせつの認知件数は7,412件で、前年に比べ2,066件(38.6%)増加している。
 一方、12年の強姦の検挙件数は1,540件、検挙人員は1,486人で、前年に比べ171件(12.5%)、94人(6.8%)増加している。また、12年の強制わいせつの検挙件数は3,602件、検挙人員は2,286人で、前年に比べ214件(6.3%)、360人(18.7%)増加している(図3-14、図3-15)。
 警察では、性犯罪の被害者がしゅう恥心等から警察に対する被害申告をしゅん巡する傾向が強いことを踏まえ、性犯罪捜査指導官及び性犯罪捜査指導係等の設置、女性の警察官による事情聴取の拡大等の施策を推進している。
イ 夫から妻への暴力
 12年中の夫から妻(内縁関係にある場合を含む。)への暴力(殺人、傷害又は暴行)の検挙件数は1,096件で、前年に比べ580件(112.4%)大幅に増加している(表3-6)。
 警察では、夫婦間の事案という事情に配慮しつつ、事件化を含めて厳正かつ適切な対応に努めている。また、各都道府県警察の相談窓口の利便性を向上させたり、夫とは別の部屋で被害者からの事情聴取を行うなどし、被害者が相談・申告しやすい環境の整備を図っている。
 なお、12年4月には、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律が成立した(第2章第1節3(2)ウ参照)。
(9) 犯罪による被害者の状況
ア 生命、身体の被害
 平成12年に認知した刑法犯により死亡し、又は負傷した者の数はそれぞれ1,345人(前年比11人(0.8%)増)、3万9,552人(前年比1万1,913人(43.1%)増)である(表3-7)。
イ 財産犯による被害
 12年に認知した財産犯(強盗、恐喝、窃盗、詐欺、横領、占有離脱物横領をいう。)による財産被害の総額は約3,544億円(前年比約737億円(26.3%)増)であり、このうち、現金の被害は約928億円(前年比約118億円(14.6%)増)である(表3-8)。
3 捜査力の充実強化のための施策
 近年の情報通信システムの高度化、交通手段の発達、外国人入国者数の増加等の社会情勢の変化を背景に、犯罪も多様化の度合いを強めている。加えて、広域化、スピード化、国際化等犯罪の質的な変化も著しい。
 また、都市化の影響等を背景に、聞き込み捜査等の「人からの捜査」が一層困難になるとともに、大量生産、大量流通の著しい進展により、遺留品等、事件と関係ある物から被疑者を割り出す「物からの捜査」も難しくなるなど、捜査活動を取り巻く環境も厳しさを増している。
 一方、警察は、直接被害者と接し、その捜査を行う最も被害者に身近な立場にあり、その期待にこたえるため、被害者からの相談、被害届、告訴・告発といった被害者からの声に真しに耳を傾けなければならない。
 このため、警察では、業務管理の徹底、捜査体制の整備、科学捜査力の強化等の各種施策を推進し、国民の期待にこたえる捜査を遂行していくこととしている。
(1) 業務管理の徹底
 警察では、被害者からの相談や被害申告に適切に対応し、事件を迅速、確実に解決するため、事件等の受理やその後の捜査について組織的な業務管理を強化している。
 また、平成12年中に、不適切な告訴処理事案、捜査情報の漏えい事案、証拠品の紛失事案等が発生したため、4月、「巡回業務指導要綱」を制定し、警察庁職員を各都道府県警察に派遣して、業務管理が適正になされているかについて指導を行っている。
(2) 捜査体制の整備
 警察では、犯罪情勢の変化に伴い、各種事案に的確に対応できる体制の整備に努めるとともに、警察組織が全体として最大限効率的に機能するよう、人員の弾力的な運用を行っている。例えば、多発するひったくりに対処するため、事件の発生実態に応じ、関係部門からなるプロジェクトチームを編成するなど、警察の組織力を結集した体制の確立に努めている。
 事務の合理化を推進するとともに、捜査支援システムを充実させ、関係情報を効率的に管理することとしている。
(3) 捜査官の育成
 警察官は、常に捜査関係法令の研究及び捜査に関する知識・技能の修得に努め、捜査手法の工夫改善を行う必要がある。警察では、各階級の警察官に対して、採用、昇任等の機会に、それぞれの階級に応じた教育訓練を実施している。
 また、捜査に必要な各種技能を確実に修得するためには、警察学校において知識、理論及び技能についての教育を図る一方で、実務を通じてその技能を実戦的に体得させることが有効であることから、平素の業務を通じて、日常的、計画的な指導を行うとともに、各種の捜査技能について、個別の研修を行っている。さらに、現実に発生した重要事件を素材として、その教訓や捜査手法等を共有できる研修を実施し(刑事実戦塾)、同種の捜査を担当する捜査員がその経験を今後の捜査に活用することができるようにしている。
 このほか、財務解析、国際犯罪捜査、ハイテク犯罪捜査等の分野においては、公認会計士や語学能力、情報処理技術に卓越した者等の専門知識等を有する者の中途採用を推進している。
(4) 広域捜査力の強化
 広域重要犯罪の発生時には、指揮系統を一元化し、関係都道府県警察が一体となって捜査を行う「合同捜査」や、指揮系統の一元化までは行わないが、捜査事項の分担やその他捜査方針の調整を図りつつ捜査を行う「共同捜査」を積極的に推進している。
 また、平成6年には警察法の一部が改正され、犯罪の広域化に効果的に対応するため、複数の都道府県警察との共同事案処理のための指揮の一元化に関する規定、都道府県警察管轄区域の境界周辺における権限行使に関する規定等の整備が行われた。さらに、8年の警察法の一部改正により、地下鉄サリン事件を始めとするオウム真理教関連事件のような広域組織犯罪等を処理するため、都道府県警察はその固有の判断と責任の下に管轄区域外においてその権限を行使することができるようになり、また、警察庁長官が都道府県警察の役割分担等について指示を行うことにより、広域組織犯罪等に対処するための態勢を迅速かつ的確に整備することが可能となった。
 なお、一の都道府県警察では捜査に必要な知識を有する捜査員を確保することが困難な場合は、他の都道府県警察からの応援派遣が有効であることから、都道府県公安委員会が相互に協定を結び、一定の事案の捜査に必要な知識、技能及び経験を有する捜査員を専門捜査員として派遣する制度(専門捜査員制度)を確立し、その円滑な実施を推進している。
(5) 科学捜査力の強化
ア 捜査支援システムの活用
(ア) 自動車ナンバー自動読取システム
 自動車利用犯罪や自動車盗の捜査のために自動車検問を実施する場合、実際に検問が開始されるまでに時間を要すること、徹底した検問を行えば交通渋滞を引き起こすおそれがあることなどの問題がある。警察庁では、これらの問題を解決するために、走行中の自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムを開発し、整備を進めている。
 その結果、多くの自動車盗事件を解決しているほか、殺人、強盗等の凶悪犯罪等の重要犯罪の解決に多大な効果を挙げている。
(イ) 指紋自動識別システム
 指紋自動識別システムは、コンピュータによるパターン認識の技術を応用したシステムであり、犯罪現場に遺留された指紋から犯人を特定する遺留指紋照合業務や、逮捕した被疑者の身元と余罪の確認業務等に活用している。さらに、平成9年度から、指紋を光学的に短時間で採取できるライブスキャナの各警察署への設置、優れた画像鮮明化機能等を備えた遺留指紋照会端末装置の各警察本部への設置をそれぞれ進めるとともに、これらと警察庁の指紋情報管理システム等を通信回線で結ぶことにより、各種指紋業務を効率的に実施している。
(ウ) 掌紋自動識別システム
 犯人を特定する手がかりとして現場に遺留されるものの中には、掌紋がある。掌紋は、指紋と同様に万人不同・終生不変であるため、個人識別資料として極めて有効である。警察庁では、現場に遺留された掌紋を有効かつ効率的に活用するため、掌紋自動識別システムの13年度中の運用の開始に向け、準備を進めている。このシステムの運用を開始し、指紋自動識別システムと併用すれば、より効果的に現場から採取した指掌紋が活用され、犯人の特定等に資することが期待される。
イ 鑑識活動の強化
(ア) 鑑識活動の強化
 警察では、科学技術の発達に即応した鑑識資機材の開発・整備を進めるとともに、機動鑑識隊(班)や現場科学検査班等を設置、運用し、現場鑑識活動の強化に努めている。
 また、警察庁の鑑識資料センターでは、収集した各種資料の分析結果等をデータベース化し、都道府県警察が採取した微量・微細な資料と比較照合することによって、資料の性質を解明し、製造業者等を迅速に割り出すなど犯罪捜査に役立てている。
(イ) 鑑定の高度化
 警察では、的確な鑑定を行うため、鑑定の高度化に努めている。例えば、DNA型鑑定を導入し、その個人識別能力を活用して、被害者の特定や、現場に残された血液、精液等による犯人の特定を行うなどしている。DNA型鑑定は、ヒトの身体組織の細胞内に存在するDNAの塩基配列の多型性に着目し、これを分析することによって個人識別を行う鑑定方法である。元年度に科学警察研究所が、4年度から順次各都道府県警察の科学捜査研究所が導入を進め、現在、各都道府県警察では、4種類の鑑定法を実施している。型分類が豊富で個人識別能力に優れるDNA型鑑定は、ABO式血液型鑑定と併せて実施することにより、同一の型が現れる割合は最も出現頻度が高いものでもおよそ日本人数万人に1人となる。
(ウ) 鑑定技術職員の育成
 的確な鑑定を行うためには、鑑定技術職員の知識、技能の修得、向上を図っていかなければならない。
 各都道府県警察では、鑑定技術職員の計画的な育成に努めている。また、科学警察研究所の法科学研修所では、警察鑑定技術の高度化、標準化を図るため、都道府県警察の鑑定技術職員に対する法医学、化学、工学、指紋、写真、足こん跡等各専門分野の研修を実施している。
ウ 科学捜査のための各種研究
 多様化する犯罪に対処するために、警察では、法医学、血清学、工学、化学等の分野において、新しい鑑定法や検査法の研究開発を行っている。また、更なる知識、技能の向上を図ることを目的に、大学、民間企業、諸外国の研究機関等において職員の研修を実施するとともに、職員を各種学会へ参加させるなどし、鑑識科学分野における先端技術の導入を推進している(第9章第3節8参照)。
4 国民の協力確保のための取組み
 犯人検挙・事件解決のためには、犯罪捜査に対する国民の理解と協力が不可欠である。しかし、犯罪捜査に対する国民の意識は変化し、国民の理解と協力を得ることが、従前と比べ困難となりつつある。警察では、各種広報媒体を積極的に活用し、事件発生時の速やかな通報、聞き込み捜査に対する協力、事件に関する情報の提供等を広く国民に呼び掛けているほか、必要に応じ、公開捜査(注)を行っている。また、ホームページを設け、事件に関する情報提供を電子メールにより受け付けることや、携帯電話サービスを利用して情報提供を呼び掛けることなどを行っている。警察では、今後とも、犯罪捜査に対する国民の理解と協力を得るための取組みを強化していくこととしている。
(注) 公開捜査とは、被疑者の発見、検挙や、犯罪の再発防止を目的に、その氏名等を広く一般に公表し、積極的に国民の協力を求めるものであり、凶悪犯罪等の被疑者について、その追跡捜査の状況、再犯の可能性、捜査上の支障等を検討して実施される。


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