第4節 少年の健全育成を図るための総合的な取組み

1 「強くやさしい」少年警察の運営
 警察では、昭和35年に制定された「少年警察活動要綱」に基づき、少年警察活動を推進してきた。少年非行が質・量ともに悪化し国民的な課題となっていた昭和57年に、総合的な少年非行対策の推進、少年の補導及び保護の強化、少年警察体制の充実等を内容とする「少年非行総合対策要綱」を制定した。
 その後、少年非行の凶悪・粗暴化が進んだことにより、深刻化した少年非行情勢に的確に対処するためには、それまでの要綱による対策を踏まえつつ少年警察運営の新たな方向付けを行うことが必要となった。平成9年8月、警察庁は、今後の少年警察の運営の指針として「少年非行総合対策推進要綱」を制定した。同要綱では、「強くやさしい」少年警察運営を基本方針として、少年事件等に係る捜査力を強化し、悪質な非行や少年の福祉を害する犯罪には厳正に対処するとともに、少年を非行から守りこれを保護するため、被害少年対策等の諸対策を積極的に推進していくこととしている。
2 少年事件捜査力の充実強化
 最近の少年事件は、凶悪・粗暴な犯罪が多発する中で、社会を震撼させる特異・重大事件が相次いで発生している。しかも、全刑法犯検挙人員の半数近くを少年が占めるなど、少年犯罪が治安に及ぼす影響は極めて大きい。このため、警察では次のとおり少年事件捜査の体制及び技能の向上を図っている。
(1) 捜査体制の強化
ア 少年事件捜査指導官の設置
 凶悪・粗暴化し、かつ複雑・困難化する少年事件に対しては、各都道府県警察本部の少年事件担当課に少年事件捜査指導官を設置して、少年の特性及び少年審判の特質を踏まえ、非行事実の厳密な立証の徹底等の指導に当たらせている。
イ 少年事件特別捜査隊等の設置
 続発する凶悪・粗暴な少年事件に対処するため、限られた捜査力を最大限発揮し得る体制を構築するよう努めている。
 平成13年6月までに、全国の都道府県警察本部に少年事件特別捜査隊等を設置し、警察署捜査員と連携した捜査活動を行い、捜査力の集中投入による迅速・的確な捜査に努めている。また、警察署員の中から、少年事件の捜査技能に優れた者をあらかじめ指定しておき、個別の事件捜査の際に招集する「少年事件指定捜査員」制度が、13年4月現在、5県警察で導入されている。
(2) 捜査技能の向上
 少年事件を担当する捜査員の技能向上と計画的育成のため、各都道府県警察において、これらの捜査員に対する各種教養の充実を図っているほか、若手の捜査員が警察本部少年担当課でベテラン捜査員の下で捜査手法の指導を受けながら実務研修を行う制度の導入、弁護士や裁判官等の部外講師を招いた教養の実施等の様々な施策を講じている。
 また、少年部門以外の捜査員にも、各種教養や会議等、様々な機会をとらえて、少年事件捜査の特質や捜査上配意すべき事項等を周知徹底させている。
3 少年サポートセンターを中心とした非行防止対策等の活動
(1) 少年サポートセンター
ア 少年サポートセンターの構築
 少年の非行を防止し、その健全育成を図るためには、非行の入口となり得る不良行為を早期に認知すること、非行少年、不良行為少年及びその家族に対して早期の指導・助言を行うこと、少年の規範意識の形成を促すこと、少年非行等に対する社会全体の問題意識を醸成することが重要である。また、少年が犯罪等により被害を受けた場合には、被害少年及びその家族に対し、早期の支援を行うことが重要である。
 こうした活動は、専門的知識を有する者が継続的に行うことが必要であるため、警察は、平成10年から、少年補導職員や少年相談専門職員を中核とする少年問題に関する専門組織である「少年サポートセンター」の設置を進め、12年までに全都道府県警察に設置した。
 少年サポートセンターは、警察本部所在地及び主要な都市を中心に設置され、学校関係者等との共同での補導活動の強化、関係機関・団体等とのネットワークの構築、少年やその家族等に対する支援活動の充実強化、広報啓発のための情報発信活動の充実強化等に取り組んでいる。また、少年サポートセンターを設けるに当たっては、少年や保護者等の心情に配慮して、警察施設以外の場所への設置を進めており、警察施設に設置する場合でも専用の出入口や相談室を設ける等の配慮を行っている。
[事例] 北海道警察少年サポートセンターでは、犯罪やいじめの被害を受けた少年のほか、薬物乱用少年や暴走族少年等の不良行為少年、非行少年の支援・援助や環境改善等に当たるため、8年9月、教育機関、医療機関、少年鑑別所、保護観察所等の22の機関の参加・協力を得て、「少年サポートチーム」を組織した。少年サポートチームでは、個別の事案ごとに、関係機関による専門チームを編成し、数か月間から、時には1年間に及ぶ長期的な支援活動に取り組んでいる。
 また、道教育委員会及び札幌市教育委員会と合同で、児童・生徒の問題行動の未然防止やその発生時の対応における連携のためのマニュアルを作成し、各警察署、教育委員会はもとより、道内の全交番及び全公立小・中・高等学校に配布し、学校警察連絡協議会等において活用している。
イ 少年非行防止対策等の推進
 警察は、少年サポートセンターを中心として、次のような少年非行防止対策等の取組みを推進している。
(ア) 少年相談活動
 警察では、少年の問題行動の未然防止とその兆候の早期発見、被害少年等の保護のため、「ヤング・テレホン・コーナー」等の名称で電話による相談窓口を設けているほか、ファックスの設置やフリーダイヤルの導入等を進めるなど少年等が相談しやすい環境の整備を図っている。
 少年相談の受理件数の推移は図1-31のとおりであり、その内容は、少年自身からの相談では交友問題、学校問題、健康問題が多く、保護者等からの相談では非行問題、家庭問題が多いなど多岐にわたっている(図1-32)。
 相談担当者にはより専門的な知識・技能が求められるため、少年サポートセンター等に、少年相談専門職員等を配置し、少年相談体制の充実を図っている。
 また、少年の問題に関する相談先は、警察以外にも、教育委員会、児童相談所、地方公共団体、保健所、精神保健センター等の行政機関や民間の相談機関が、分野ごとに多数設けられており、警察でも相談の内容に応じてより適切な相談先を紹介するなど、これらの機関との連携に努めている。
(イ) 不良行為少年に対する継続補導、継続的支援
 警察は、盛り場や公園等の少年のたまり場となりやすい場所での街頭補導等の活動を推進し、不良行為少年を把握して指導を行っている。必要が認められる場合は、補導した不良行為少年及びその家庭に対し、相談活動や家庭訪問等を実施して、継続的な助言、指導を行い立ち直りを支援している。
 また、暴走族からの離脱指導の強化として、少年補導員等の少年警察ボランティアや保護司との連携の下に、社会参加活動を促進することなどにより、暴走族の解体、加入阻止、離脱等の支援、指導等を行っている。
[事例] 広島県警察では、少年サポートセンターがボランティア等と連携して、暴走族構成員等に公園、公衆便所の清掃や老人ホームへの慰問等を通じて自立心・達成感等を得させて立ち直らせるなど、暴走族等集団非行グループからの脱会や少年の更生を支援する活動を推進している。
(ウ) 被害少年等に対する支援活動
 犯罪やいじめ等の被害を受けた少年やその家族等に対し、少年補導職員等が、カウンセリングの実施等立ち直りのための支援を、家庭や学校と連携して継続的に行っている(4(1)参照)。
(エ) 広報啓発のための情報発信活動の充実強化
 警察は、少年の規範意識を形成し家庭等の関心を高めるため、学校に警察職員を派遣し、少年非行等について分かりやすく説明する非行防止教室や薬物乱用防止教室の開催、父親に少年非行の実態等の情報を提供する父親教室の開催等、様々な情報発信活動を行っている。
[事例] 兵庫県警察では、少年補導職員を団員とする劇団「麦の穂」を結成し、学校での薬物乱用防止教室やPTAの会合へ積極的に派遣している。同劇団では、最近の少年の生活実態や感覚を踏まえて団員自らが作成する脚本を用い、寸劇を中心とした効果的な指導を行っている。
[コラム3] 少年サポートセンターの1日
 私は、この春、勤続30年を迎えたベテラン少年補導職員。
 学生のころから子どもと接する仕事をしたかった私は、大学で教育学や児童心理学を学んだこともあって、卒業後の進路は、教師か、当時、婦人補導員と呼ばれていた県警の少年補導職員かとさんざん思い悩んだあげく、自宅の近所にあった交番のお巡りさんのさわやかな笑顔を思い出し、県警の採用係に電話したのが、事の始まり。
 以来、何人の非行少年や被害少年、そして、その家族や関係者とかかわりをもってきたことか。採用当時と平成の現在とは、社会の様相も子ども達の感性も「隔世の感」があるが、今も昔も変わらないのは、私たち少年補導職員の子どもを思う気持ち。
 今日も少年サポートセンターでの慌ただしい一日が始まろうとしている。
(午前9時00分)
 相談者等が訪問しやすいよう民間ビルの一室を間借りして設置された少年サポートセンターへ出勤。朝刊には、少年によるひったくり事件と児童虐待に関する記事が載っていた。身が引き締まる思い。
 朝礼で、サポートセンター所長から、昨日取扱った少年補導、相談内容等に関する指示を受ける。しっかり記録して、少年相談に的確に対応することが大切。
(午前10時30分)
 県下一番の繁華街へ向けて街頭補導に出発。今日は、この春、採用された新人と二人で、非行少年がたまりやすい地下街から始める。
 30分後、男子高校生4人を怠学で補導する。特に、何の理由もないけれど友達に会ったからぶらぶらしていたと、素直に答える。一人が「俺達これからどうなるの」と素直な質問。「大丈夫。どうにもならないよ。でも、同じことを二度と繰り返さないでね。それと今日のことは、後で家に連絡するから、帰ったら親に話して謝っておくこと」と我が子を諭すように言い聞かせる。
 これから学校へ行くと言うので、途中まで一緒に歩き出す。「何か照れるな。母ちゃんと歩いているみたい」という思春期の微妙な心を感じる。
(午後1時30分)
 「中2男子による家庭内暴力事案」についての第一回サポート会議を会議室で開催。所轄警察署から生活安全課長、少年サポートセンターから私が出席。そのほか、少年の担任教師、児童相談所の担当官によるサポートチームを編成し、少年や家族にとって最善の処置をとるため、真剣な討議を重ねる。
 このような個別の事案に対応して、その都度必要な関係機関を招致し、サポート会議を開催することも、少年サポートセンターの重要な仕事の一つだ。
(午後3時00分)
 継続補導中のA子が来所。彼女は、深夜はいかいを繰り返し、怠学気味の中学3年生。「今日は学校へ行った」と制服のままやってきた。とにかく、約束の時間を守らせることが第一目標。今日は、約束どおりの来所だったことを認めてほめてあげる。
 約50分で面接終了、次回の約束をして帰す。しばらくして母親から電話がある。A子が約束どおり来たことを告げ、明日の母親の面接時間を確認する。
(午後5時30分)
 駅前での非行防止キャンペーン。今夜は、少年警察ボランティアや学校の先生と合同で実施。お父さんに少年非行防止に関心を持ってもらうためにも、会社帰りの男性をターゲットに広報啓発用のチラシを配布する。
(午後7時30分)
 昼間に補導した少年の補導票、面接したA子の相談受理票に面接記録をようやく書き終える。今日出会った少年達の顔や少年達との会話を思い出しながら「がんばれ!がんばれ!」と心の中で彼らにエールを送り、家路につく。
[コラム4] 少年補導職員の独り言
 「話を聞いてくれる人が欲しかった」と涙を流しながら話してくれたB子は、いわゆる援助交際で補導された少女である。
 B子は、幼い時に両親が離婚した。小学校までは、父親の不在をあまり疑問にも思っていなかったが、成長するにつれて、「父親のことを知りたい」という気持ちが次第に募っていった。
 そのような状況の中、同じ悩みを持つ中学の先輩と一緒になって行動するようになり、深夜はいかい、無断外泊、そして援助交際へと非行の道を走りはじめたのである。
 見ず知らずの男性と性的な関係を持つことで、自己の存在を確認する。「援助交際で得たお金は、大切なものとは思えなかった」と話すなど、B子にとっての援助交際は、性交渉そのものよりも自己の価値を見いだし、寂しさを紛らわす手段になっていたのかもしれない。
 B子は、補導されたことがきっかけで、今までの自分を反省し、少年サポートセンターの指導もあって何とか中学校を卒業した。それでも、安らぎの場所であるはずの家庭環境は、一向に好転しなかった。
 卒業後、知り合った男性との間にできた子どもを、周囲の反対を押し切って出産したが、その男性ともすぐに別れてしまった。
 B子は、現在、母親と一緒に暮らしながら子育てをしている。子育てや将来に対する不安な気持ちを、時々電話で訴えてくるなど、私との関係は、今でも続いている。
 警察に補導されたことをきっかけに立ち直る意欲を示しても、周囲の大人の眼は冷たい。
 「悪い子」というレッテルをはり、立ち直る意欲を示した少年を暖かく受け入れようとはしない厳しさがある。その中で、子ども達は、現実の社会で生きる難しさを感じている。
 子ども達が危険を冒し、身体を張って訴えてくるものは何なのか。
 少年補導職員である私自身、暗中模索の中で今日も少年補導活動を続けている。
(2) 少年の社会活動への参加、スポーツ活動
 少年が地域社会の活動に参加することや、スポーツ活動を行うことは、地域の人々や少年相互の交流を通じて地域社会の一員としての自覚をはぐくむことにつながり、少年の規範意識を高めるために重要である。そのため、警察では、これらの活動への少年の参加を促進するための取組みを行っている。
ア 社会活動への参加の促進
 警察は、関係機関・団体、地域社会と協力しながら、環境美化活動、社会福祉活動等の社会奉仕活動、伝統文化の継承活動、地域の産業の生産体験活動等の様々な社会活動に少年が参加できるよう、地域の実情に即して支援を展開している。
[事例] 山口県警察では、児童福祉施設の少年に対し田植えから稲刈りまでの一連の農作業を体験させた。この活動を通じて、少年に「作る人」の苦労を理解させ、食べ物に対する感謝の心を養うとともに、地域住民との連携を醸成することによって、少年の健全育成を図っている。
イ スポーツ活動の促進
 警察では、少年のスポーツ活動を促進するため、警察署の道場において、地域の少年に柔道や剣道の指導を行う少年柔剣道教室を展開しており、平成12年中は全国約850警察署において、約5万2,000人の少年が参加した。このほか、野球、ソフトボール、サッカー等の大会を実施するなど、様々な活動の促進に努めている。
(3) ボランティアとの連携
 少年サポートセンターは、各地域の少年警察ボランティアと連携して、地域に密着したきめ細かな街頭補導活動や有害環境の浄化活動を展開している。
 また、犯罪やいじめの被害を受けた少年やその家族に対するカウンセリングの実施による立ち直りのための支援等、被害少年支援活動も、効果的な連携体制に基づいて継続的に行っている。
4 少年の保護対策の推進
 人格形成期にある少年が、犯罪、いじめ、児童虐待等による被害を受けた場合、その心身に受ける傷が大きく、その後の非行や問題行動の原因となるケースもある。そのため、警察では、少年の保護対策を重要な任務と位置付け、以下の諸施策を推進している。
(1) 被害少年対策
 警察では、犯罪等により被害を受けた少年の精神的負担を軽減し、その立ち直りを支援するため、被害少年を支援する体制を整え、担当職員の指導、教養に努めるとともに、関係機関との連携を強化して、カウンセリング等の継続的支援を積極的に実施している。
ア 支援体制の整備・充実
 被害少年に対しては、長期にわたる継続的な支援が必要とされることから、警察では、少年補導職員等の増員や適切な配置等に努めている。また、専門的な知識・技能を有する者を被害少年カウンセリングアドバイザーとして、被害少年に対する継続的な支援のための地域の民間ボランティアを被害少年サポーターとして、それぞれ委嘱し、少年補導職員等の警察職員との連携の強化を図っている(第1節2(1)ウ(イ)参照)。
[事例] 茨城県警察では、いわゆる援助交際の被害者となった女子高校生(17)の非行の一因が母親との険悪な関係にあると考えられたことから、平成11年6月から12年3月までの間、被害少年サポーターが母親と娘の間に立ってお互いがそれぞれの心情を理解できるように支援活動を行った結果、母子関係が良好となり、立ち直りが見られた。
 また、警察では、被害を受けた女子少年が相談しやすいように、女性警察職員による相談受理体制を整備するとともに、性に係る福祉犯等の被害少年が警察の事情聴取により受ける精神的な負担を緩和するため、捜査能力を有する女性警察官の配置、運用に努めている。13年4月現在、各都道府県警察において勤務している少年部門担当の女性警察官は約440人、常勤の女性少年補導職員は約680人である。
イ カウンセリング等の継続的支援の実施
 警察では、被害少年が精神的ダメージを早期に克服して、立ち直ることができるよう、少年補導職員や少年相談専門職員等による個々の少年の特性を踏まえたカウンセリング、保護者等と連携した家庭環境の改善等のきめ細かな継続的な支援を行っている。
[事例] 大阪府警察では、13年6月に大阪府池田市内の小学校で発生した児童等殺傷事件において、特別被害者支援班を編成し、関係機関・団体等により設置された「メンタルサポートチーム」との連携の下、被害児童及びその家族に対して、支援要員を個別に指定して、病院、自宅等への付添い、専門カウンセラーと連携した支援等を実施した。
ウ 関係機関との連携の強化
 警察では、被害少年の継続的な支援に当たって、専門的な知識・技能に基づいたカウンセリング、きめ細かな支援活動を行うため、被害少年支援ネットワークを構築するなど、児童相談所、カウンセリング専門機関、保健医療機関等やボランティア団体との連携の強化に努めている。
エ 警察職員に対する指導、教養
 警察では、被害少年の継続的支援を担当する少年補導職員、少年相談専門職員等に対し、被害少年の心理等に関する知識やカウンセリング技術を修得・向上させるため、臨床心理士、精神科医等の部外講師を招いた教養等を実施している。このほか、被害少年と接する警察職員に対し、被害少年対策の必要性、被害少年に接する際の留意事項等について教養を実施している。
(2) 児童虐待対策
 警察では、児童虐待問題を少年保護対策の重要課題の一つとして位置付け、児童虐待防止法の趣旨を踏まえ、様々な取組みの強化に努めている。
ア 児童虐待の早期発見と事件化
 児童虐待は、早期に認知することが重要であることから、警察では、少年部門のみならず、地域警察活動、刑事捜査、被害者対策等に当たる各部門において、児童を被害者とする事件の捜査、街頭補導、少年相談、110番通報の取扱い等の様々な警察活動の機会をとらえて、その早期発見に努めており、発見した場合には、速やかに児童相談所に通告するほか、児童虐待事案が犯罪に当たる場合には、児童を保護する観点から、適切な事件化に努めている。
イ 警察官の援助
 児童虐待防止法により、児童相談所長等は、児童の安全確認、一時保護、立入調査等の職務執行に際し、必要があると認めるときは警察官の援助を求めることができることとされている。警察では、児童相談所長等からの援助の要請を受けた場合には、対応の方法、役割分担等を速やかに検討し、事案に即した適切な援助を行うよう努めている。具体的には、警察官が児童相談所長等の職務執行に際して、現場に臨場し、現場付近で待機し、状況に応じて児童相談所長等と一緒に立ち入るなどしている。同法施行の12年11月から13年6月末までの間に、同法による援助が78件なされている。
ウ 児童の支援
 警察は、少年サポートセンターを中心に、児童虐待の被害を受けた児童に対する支援体制の充実を図っており、少年相談専門職員、少年補導職員による被害児童のカウンセリング、保護者に対する助言指導や訪問活動による家庭環境の改善等の支援を実施している。
エ 関係機関との連携の強化
 警察では、自らが中心となる被害少年支援ネットワークを構築するとともに、児童相談所を中心に学校、保健医療機関等関係機関・団体により構成されるネットワークに積極的に参加することにより、各機関・団体がその特性に応じた機能を十分に発揮し、総合的な被害児童支援対策を講じることができるよう努めている。
[事例] 三重県警察では、関係機関との連携を円滑にするため、県福祉部及び県内の5つの児童相談所と協議を行い、児童虐待事案を認知した場合の対応方法及び警察職員の援助を要請する場合の要領について、具体的な指針を策定した。
オ 警察職員に対する指導、教養
 警察では、様々な部門で活動する警察職員に対し、児童虐待防止法の内容等について、各種教養の機会を活用して指導しており、児童の保護及び保護者への支援を行う職員に対しては、カウンセリング技術その他の専門的知識・技能の向上のための教養を実施している。
(3) 児童買春・児童ポルノ事犯対策
 児童買春・児童ポルノ事犯に対し、警察は、徹底した取締りに加え、国際協力及び被害児童の保護を推進している。
ア 国際協力の推進
(ア) 児童の性的搾取に対する国際的動向への対応
 児童買春や児童ポルノに代表される児童の性的搾取は、その防止及び根絶が国際的にも重要な課題となっており、警察でもこのような国際的な取組みに対して積極的に貢献していくこととしている。
 平成12年5月には、国連総会において「児童売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」が採択された。11月には、国連総会において、「人の密輸に関する議定書」が採択され、売春、強制労働を目的として人(特に女性と子ども)を強制的に移送する行為等の犯罪化、移送された者への支援等が規定された。
 さらに、13年7月にイタリアで開催されたジェノバ・サミットにおいては、インターネット上の児童ポルノ問題が国際組織犯罪対策の柱の一つとして取り上げられ、現在、G8リヨン・グループ(国際組織犯罪対策上級専門家会合)等で国際協力による対応の強化が検討されている。
 13年12月には、児童の商業的性的搾取に対する国際的な取組みを促進するため、横浜において、我が国政府、ユニセフ、ECPAT(End child prostitution, child pornography and trafficking in children for sexual purposes:子ども買春・子どもポルノ・性的目的の人身売買を根絶する国際NGO)及び児童の権利条約NGOグループの共催による「第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」の開催が予定されている。
(イ) 国際捜査協力の推進
 日本人による海外における児童買春・児童ポルノ事犯に対する国際的な批判は強く、警察では、児童買春・児童ポルノ法に設けられた国外犯の処罰規定を適用した取締りを推進している。そのため、外国捜査機関やICPO(国際刑事警察機構)との連携を強化しており、外国捜査機関等に児童買春・児童ポルノ法の周知を図るとともに、警察職員を派遣して情報交換を始めとする緊密な協力関係の構築に努めている。
 また、インターネットを利用した児童ポルノ事犯についても、外国捜査機関から多くの情報提供がなされるなど、外国捜査機関等との連携の重要性が高まっている。
[事例] ビデオ制作販売会社社長(51)らは、11年12月、タイ国内において、販売する目的で同国籍の女子児童2人をビデオで撮影して、児童ポルノビデオを制作した。12年11月、ICPOを通じたタイ警察の捜査協力により、児童買春・児童ポルノ法違反で検挙した(神奈川)。
イ 被害児童の保護等
 児童買春・児童ポルノ事犯による被害児童に対して、警察では、女性警察官に事情聴取を担当させるなど被害児童の精神的負担の軽減に努めるとともに、少年補導職員等の警察職員が中心となって、カウンセリング等の継続的な支援を行っている。
5 有害環境浄化対策
 少年を取り巻く環境は大きく変化しており、テレホンクラブ等の性を売り物とする営業の増加、カラオケボックス等の深夜営業する娯楽施設の増加、インターネットを始めとする各種メディアによる性や暴力に関する有害情報の氾濫等は、最近の少年非行の深刻化と少年犯罪被害の増加の背景の一つとなっている。
 警察では、関係機関・団体や地域住民と連携して、これらの有害環境の実態を把握し、性を売り物とする営業に対する指導取締り、有害図書販売の取締り等による少年に対する有害情報の氾濫の抑止、深夜の遊興や不良行為を助長する環境の浄化、少年に対する暴力団等の影響の排除等の対策を推進している。
 警察庁が学識経験者等の参加を得て開催した「少年の問題行動を助長する社会環境対策の在り方に関する調査研究会」の報告書(平成12年7月)では、家庭、学校、営業者・業界、警察等の各主体における今後の取組みが提言され、警察に対しては、関係他省庁との連携の強化、テレホンクラブ営業・カラオケボックス営業等少年の問題行動を助長する可能性のある業界に対する取組み、未成年者の飲酒・喫煙問題への取組み等が提言された。警察ではこれを受けて様々な施策を着実に推進している。
(1) テレホンクラブ等の性を売り物とする営業に対する指導取締り等
 テレホンクラブ営業や性風俗特殊営業等の性を売り物とする営業は、女子少年の性の逸脱行為や福祉犯被害のきっかけとなるおそれが大きく、特に、テレホンクラブ営業は、いわゆる援助交際の温床となっている。
 警察では、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営適正化法」という。)やテレホンクラブ等規制条例等の関係法令を適用して、これらの性を売り物とする営業に対する指導取締りを徹底するとともに、テレホンクラブ営業等に関する福祉犯の捜査を強化している。さらに、関係機関・団体及び地域住民と連携して、少年がテレホンクラブを利用することがないよう、非行防止大会等の機会を通じて広報啓発活動を行っている。
 また、13年の風営適正化法の一部改正により、テレホンクラブ営業を営む者に対し、電話による会話の申込みをした者が18歳以上であることの確認を義務付ける等の措置が講ぜられた。
(2) 少年に対する有害情報の氾濫の抑止
ア 有害図書類の販売等に対する取締り
 近年、性や暴力に関する過激な情報を含む雑誌、ビデオ、コンピュータ・ソフト等の有害図書類が一般書店やコンビニエンスストア等で販売されており、少年が簡単に入手できる状況にある。
 これらの図書類のうち、都道府県の青少年保護育成条例により有害図書類として指定されたものについては、青少年に対する販売等が規制されており、警察では、青少年保護育成条例に基づき業者の取締りを行うとともに、関係機関・団体や地域住民と連携して、有害図書を少年に販売しないように、関係業界による自主的措置の働き掛けや個別の業者に対する指導に努めている。
イ インターネットの普及への対応
 最近、インターネットを通じて、違法薬物の販売情報、性や暴力に関する有害情報等に少年が容易に接触できる機会が急速に拡大している。また、いわゆる出会い系サイトを利用した少年が児童買春等の被害に遭う事件が多発する一方、出会い系サイトを通じて知り合った者の間でトラブルが発生し、それが犯罪に発展することもある。
[事例1] 12年12月、無職男性2名(28、29)は、携帯電話から接続できるインターネットの掲示板にモデル募集と掲載し、応募してきた中学3年生に対し児童買春したほか、その状況をビデオ撮影して児童ポルノを製造していた。13年5月、児童買春・児童ポルノ法違反等で検挙した(大阪、石川)。
[事例2] 13年4月、有職少年(18)は、インターネットの出会い系サイトで知り合った主婦の背部を刃物で刺して殺害した。同月、殺人罪で検挙した(茨城)。
 このように、インターネット上の少年に対する有害情報は、それを利用する少年に被害を与え、何らかの問題行動のきっかけとなるおそれがあることから、少年の利用を防止する対策を講じる必要がある。児童ポルノの頒布、わいせつ図画の頒布等の取締りを強化するとともに、プロバイダによる自主的措置の働き掛けを行っている。また、10年の風営適正化法の一部改正により、映像送信型性風俗特殊営業(インターネット等を利用して客にポルノ映像を見せる営業)が規制の対象とされ、18歳未満の者を客とすることを禁止する規制等が設けられている。
(3) 不良行為を助長する環境の浄化
 深夜に営業するカラオケボックス等の娯楽施設、飲食店、コンビニエンスストア等は、不良行為少年のたまり場となる場合があり、飲酒、喫煙、深夜はいかい等の不良行為を助長している。
 警察は、関係機関・団体と積極的に情報交換を行うなど連携を強化して、家庭、学校、関係営業者等を含む地域における少年非行に関する問題意識を喚起し、地域社会が一体となった環境浄化対策を推進している。その一例として、住宅街、学校、通学路、児童公園、図書館等と歓楽街、商店街が接しているような市街地で特に環境浄化の必要性の高い地域等を「少年を守る環境浄化重点地区」(平成13年3月現在、全国273か所)として指定し、少年のたまり場等における補導活動、有害広告物の撤去活動、環境浄化住民大会の開催等を行っている。また、風営適正化法、未成年者飲酒禁止法、未成年者喫煙禁止法等による指導取締りを徹底するとともに、深夜に少年を立ち入らせたり、少年に酒やたばこを販売したりすることのないように、関係業界による自主的措置の働き掛けを行っている。
 12年には、未成年者喫煙禁止法及び未成年者飲酒禁止法が改正され、営業者等による未成年者へのたばこ、酒類等の販売に対する罰金の引上げ等が行われた。
(4) 少年に対する暴力団等の影響の排除
 警察では、少年に対する暴力団の影響を排除し、暴力団への人的供給と資金の供給を遮断するため、少年の暴力団からの離脱の促進、加入の防止及び暴力団が関与する福祉犯の取締りを重点とする「少年を暴力団から守る活動」を推進している。
 補導や少年事件捜査等の活動を通じて少年の暴力団員等を把握するとともに、機を失することなく少年自身及び保護者に対して脱退させるための働き掛けを行うほか、暴力団が少年の加入を勧誘している場合や離脱を妨害している場合には、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)による中止命令等を発出している。暴力団対策法に基づく中止命令については、平成12年中に、少年に対する加入強要・勧誘について44件、少年に対する脱退妨害について3件を発出しており、同法施行の4年3月から12年末までの中止命令の発出件数は、少年に対する加入強要・勧誘について328件、少年に対する脱退妨害について73件となっている。
 12年中に福祉犯の取締りにより検挙した6,504人のうち、暴力団構成員、準構成員、ゴロ・総会屋等が732人となっている。
6 少年の薬物乱用防止対策
 少年による薬物乱用が依然として高い水準にあることから、警察では、覚せい剤等の供給源に対する取締りの強化、薬物乱用少年の発見・補導等の強化、教育委員会や学校等との連携の強化、家庭や地域に対する広報啓発活動の強化を四本柱として、少年の薬物乱用防止のための総合的な対策を推進している。
 また、薬物乱用少年に対しては、再乱用を防止する観点から、継続的な指導・助言を行うなどの支援を行っている。
 少年が薬物の危険性・有害性を正しく認識することが薬物乱用防止のために重要であることから、警察では、警察職員を学校に派遣して薬物乱用防止教室を開催し、薬物乱用の具体的事例を紹介している。平成12年度は、全国の高校の67.2%に当たる3,679校、中学校の55.9%に当たる6,266校で開催した。また、地域の座談会、学校の文化祭、街頭キャンペーン等の機会を活用して幅広く広報啓発活動を推進している。薬物乱用防止教室等を機動的に開催するため、大型スクリーン、パネル、パソコン、薬物標本等の視覚効果を有する資機材を搭載した薬物乱用防止広報車を11年度中に全都道府県警察に配備し、その効果的な運用を図っている。


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