はじめに

 少年非行は、戦後から現在に至るまで、その時々の社会経済情勢、国民の意識や生活様式の変化に応じて、増減を繰り返してきた。警察は、時代の変遷の中で少年非行と向き合い、その原因、態様に対応した様々な取組みを行ってきた。
 近年、少年非行情勢は、凶悪犯及び粗暴犯の増加が著しく、非行の凶悪・粗暴化の状況がうかがわれるほか、特に平成12年には、社会を震撼させる特異・重大事件が発生するなど極めて憂慮すべき状況にある。他方、児童虐待が深刻な社会問題となるとともに、犯罪やいじめによる被害少年が増加している。このような状況の下、国民は、将来を担う少年にかかわる問題に大きな不安を感じ、危機感を抱いている。
 第二次ベビーブーム以後の社会全体の少子化によって、総人口に占める20歳未満の少年の割合は、昭和25年には45.7%であったものの、平成12年には20.6%にまで減少している。しかし、刑法犯少年の検挙人員が、刑法犯総検挙人員に占める割合は、昭和25年には、23.6%であったのが、平成12年には42.7%を占めるまでに至っており、少年犯罪が我が国の犯罪情勢に及ぼす影響は次第に大きくなっている。
 このような状況は、人口比(同年齢層の人口1,000人当たりの検挙人員をいう。)によって、成人と少年とを比較した場合、より一層明らかである。すなわち、成人の刑法犯の人口比は、成人人口の増加及び成人検挙人員の減少により戦後一貫して下降してきたが、少年の刑法犯の検挙人員及び人口比は高い水準のまま推移してきた。12年においては、20歳以上の成人の推計人口は1億80万8,000人で、成人の刑法犯の人口比が1.8であるのに対して、14歳から20歳未満の少年の推計人口は886万2,000人で、少年の刑法犯の人口比は14.9であり、実に、成人の8.3倍にも達しているのである。
 少年犯罪の態様についてみると、凶悪犯、とりわけ強盗の検挙人員が急増するとともに、それまで非行を行ったことのない少年がいきなり重大な非行を引き起こす事例が少なくない。また、路上強盗、恐喝、ひったくり等の「手っ取り早く」金銭を得る目的の路上での犯罪が多発している。多くの国民が少年犯罪の不安を身近なものとして感じている背景には、このような状況があると考えられる。
 警察は、国民の不安を軽減させ、安心して暮らせるようにするため、国民の期待に応えて真しに対応する必要がある。その際に、少年非行情勢の分析が必要であるが、検挙人員の推移等の量的な分析にとどまらず、現在の少年非行の実態及び特徴を的確にとらえその背景・原因まで分析することにより、適切な対応が可能となる。
 警察庁では、少年による重大事件の実態等を探るため、各都道府県警察に対して、12年中に人を死に至らしめる犯罪で検挙された少年201人について特別調査を行い、この結果、被疑少年の約4割に、何らかの前兆的行動が認められた。また、13年2月から3月にかけて、強盗、恐喝及びひったくり事件で検挙された少年のうち371人について特別調査を行った結果、被疑少年の間に、これらの犯罪行為は金銭を得るための安易な手段であるという認識があることがうかがわれた。
 さらに、少年非行一般の背景としては、少年の規範意識の希薄化、家庭や学校の在り方、地域社会の少年問題への無関心、少年を取り巻く環境の悪化等の要因が複雑に絡み合っているものと考えられるが、科学警察研究所や総務庁等の調査結果により、その状況を概観した。
 警察としては、少年の非行を防止し少年を犯罪から守るため、9年に「少年非行総合対策推進要綱」を定めて諸対策に取り組んでいるところであるが、最近の諸情勢を踏まえて、少年事件捜査力の充実強化を図り、少年サポートセンターを中心とした非行防止活動を行うとともに、被害少年対策や児童虐待対策、児童買春・児童ポルノ事犯対策等の少年保護対策についても積極的に推進している。
 少年を取り巻く問題への対応には、次代の我が国を担う少年の健全育成、ひいては将来の我が国社会の在り方がかかっていると言っても過言ではない。新しい世紀を迎えた今、警察においても、関係機関・団体と連携して、社会と一体となった取組みをこれまで以上に強力に推進しなければならない。


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