第7章 国際化社会と警察活動

 近年,ヒト,モノ及びカネが国境を越えて自由かつ迅速に移動することが一層可能になり,また,インターネットを始めとする情報通信ネットワークの急速な発達により,国境のないサイバー・スペースが出現し,世界中の情報を居ながらにして容易に入手できるなど,社会・経済のグローバリゼーションが進んでいる。
 これらヒト,モノ,カネ及び情報の国境を越えた自由かつ迅速な移動は,世界中の人々の活動に多くの利便をもたらした反面,犯罪活動も容易に国境を越えることが可能になり,犯罪のグローバリゼーションともいうべき問題を生じさせ,なかでも国際組織犯罪(注)の深刻化が進んでいる。
 さらに,近年における我が国の厳しい経済情勢にもかかわらず,我が国と近隣諸国との賃金格差を背景として流入した多数の不法就労を目的とした外国人の定着化という問題がある。これらの者の中には,不法就労よりも効率的に利益を得る手段として犯罪に手を染め,地縁,血縁等によって我が国国内で犯罪グループを形成し,あるいは我が国の暴力団や外国に本拠を置く国際犯罪組織と連携をとるものが現れている。
 このように量的にも質的にも悪化の一途をたどっている国際犯罪に対して,警察では,取締りはもとより,より根本的な解決を目指した総合的な対策に取り組んでいる。サミット,国際連合等の国際協議の場においては,国際犯罪の問題はもはや各国の国内治安のみの問題ではなく,人類が共有する地球規模の問題であるとの共通認識の下に,21世紀にふさわしい国際犯罪対策の新たな枠組みを構築する作業が進行中であり,我が国の警察はこれに対して積極的に貢献している。
 (注) 国際組織犯罪とは,国際的には,国・地域や手段を問わず国境を越えて組織的に行われる犯罪全般を指すことが多い。なお,現在国際連合の場で,2000年(平成12年)末までの採択を目標に国連国際組織犯罪条約(United Nations Convention against Transnational Organized Crime)の策定について議論されているほか,様々な国際会議等の場で国際組織犯罪に対する諸対策が検討されている。
 1 警察事象の国際化の概況
 (1) 来日外国人による犯罪
 平成元年に約300万人であった外国人入国者総数は,11年には約1.6倍の約490万人となっており,これを反映して,来日外国人による犯罪も増加している。
 ア 来日外国人による刑法犯
 11年中の来日外国人による刑法犯の検挙件数は2万5,135件(前年比3,446件(15.9%)増),検挙人員は5,963人(581人(10.8%)増)である(第1章第2節4(4)ア参照)。
 また,来日外国人犯罪の検挙状況を包括罪種別にみると,知能犯,風俗犯を除き増加しており,特に,凶悪犯,窃盗犯の増加が目立っている(表7-1)。
 (ア) 凶悪犯
 凶悪犯の検挙件数は267件(前年比39件(17.1%)増),検挙人員は347人(96人(38.2%)増)である。
 なかでも,強盗事件の検挙件数は195件(前年比65件(50.0%)増),検挙人員は278人(118人(73.8%)増)大幅に増加している。その態様も,被害者を粘着テープや手錠等で緊縛したり,けん銃や刃物等を使用するなど凶悪化が進んでいる。また,「蛇頭」が密航費用回収のため,密航者に強盗グループを組織させている事例もみられる。
 [事例] 10年11月,中国人の男(39)らは,模造けん銃を携行して都内時計店に押し入り,店員の顔面を殴打し,手錠で緊縛した上,現金65万円及び陳列中の腕時計等約2億円相当を強取した。11年6月,強盗傷害罪等で検挙した(警視庁)。
 (イ) 窃盗犯
 窃盗犯の検挙件数は2万2,404件(前年比3,326件(17.4%)増),検挙人員は3,404人(306人(9.9%)増)であった。なかでも,来日外国人グループによる組織窃盗事件が目立っており,その態様は,貴金属店や衣料品店等を対象とした出店荒し,飲食店内でいすやハンガーに掛けてある客の上着から財布を窃取するいわゆるブランコすり等である。また,暴力団が関与する事例もみられる。
 [事例] 7年7月ころ,中国から我が国に不法入国した中国人の男(41)は,他の不法滞在者や日本人を配下にして,居酒屋等における飲食客を対象としたいわゆるブランコすりを敢行し,さらに,窃取したクレジットカードを使用して腕時計,バッグ等をだまし取ったほか,衣料品店等を対象とした出店荒しも敢行し,盗品を国内の闇市場で処分していた。11年3月までに20都道府県下における515件(被害総額12億2,517万円相当)の犯行を確認し,窃盗罪等で検挙した(広島,愛知,岐阜,愛媛,香川)。
 (ウ) 知能犯
 知能犯の検挙件数は523件(前年比217件(29.3%)減),検挙人員は264人(55人(17.2%)減)であった。その多くは,偽造クレジットカードを使用した詐欺事件や身分を証明するための旅券,外国人登録証明書等の公文書を偽造・行使した事件となっている。
 イ 来日外国人犯罪の国籍別検挙状況
 11年中の来日外国人の刑法犯の国籍・地域別検挙状況は,表7-2のとおりで,アジア地域が依然として高い割合を占めており,とりわけ,中国が,検挙件数で全体の48.9%,検挙人員で全体の45.6%を占めている。
 ウ 大都市圏以外の地域への拡散
 11年中の来日外国人による刑法犯の地域別検挙状況は,図7-1のとおりで,昭和60年では東京を除き来日外国人犯罪は目立たなかったものの,平成3年には神奈川,大阪等の大都市圏においても多発する一方,地方へも拡散している状況がみられるようになった。11年には更に地方への拡散が進み,来日外国人犯罪が全国的な問題となっている。
 エ 来日外国人による特別法犯
 11年中の来日外国人による特別法犯の送致状況は,図7-2のとおりである。2年ころから急激に増加し,その後若干上下しているものの,11年中の送致件数は9,263件(前年比827件(8.2%)減),送致人員は7,473人(563人(7.0%)減)であり,元年に比べ件数で約4.2倍,人員で約4.6倍となっている。
 オ 来日外国人による薬物事犯
 11年中の来日外国人による薬物事犯の検挙件数は1,039件(前年比254件(19.6%)減),検挙人員754人(119人(13.6%)減)とそれぞれ減少している。国籍別にみると,依然としてイラン人の占める割合が高い(第2章第3節2(1)参照)。
 (2) 我が国における国際犯罪組織の活動状況
 近年,外国に本拠を置く国際犯罪組織の我が国への進出が顕著である。特に国際的な密航請負組織である「蛇頭」が暗躍しており,中国人による集団密航のほとんどに関与している。また,香港の国際犯罪組織「香港三合会」の構成員による凶悪事件も発生している。
 他方,国内に根付いた不法滞在者等が犯罪グループを形成し,犯罪組織化の傾向を強めており,特に中国人犯罪グループによる身の代金目的誘拐事件,広域多額窃盗事件,ブラジル人犯罪グループによる広域車上ねらい事件,イラン人密売組織による薬物事犯等悪質かつ組織性の高い犯罪が目立っている。
 これら外国に本拠を置く国際犯罪組織と国内に根付いた犯罪グループは,我が国国内の地理に不案内であることや盗品の国内外での処分が困難であることなどの理由から互いに協力するなど,両者が連携して犯罪を引き起こしているものもみられる。
 そのほか,暴力団員等日本人と結び付いて犯罪を引き起こしている事例もみられる。
 ア 外国に本拠を置く国際犯罪組織
 近年,外国に本拠を置く国際犯罪組織の活動が全国的にみられるようになった。
 現在,我が国に進出しているとみられる国際犯罪組織と主な検挙事例を挙げれば,次のようなものがある。
 (ア) 蛇頭
 中国での密航者の勧誘,引率,搬送,船舶や偽造旅券の調達,日本での密航者の受入れ,隠匿等を行う「蛇頭」と呼ばれる犯罪組織は,我が国に不法滞在している中国人を集めて,受入れ組織を構築するなど,広域的に活動している。また,一部には「蛇頭」と暴力団等が連携した事件もみられた。「蛇頭」は,また,密航請負料の取立てをめぐり,殺人,誘拐等の凶悪事件を引き起こしている。さらに,「蛇頭」は在日中国人や日本人から刃物等を使用し現金を強奪し,傷害を負わせるなどの事件も引き起こしている。
 [事例] 11年6月,「蛇頭」構成員である中国人の男(26)ら2人は,東京都文京区内のラーメン店事務所に押し入り,日本人女性に対して暴行を加え,頭頸部に重傷を負わせたほか,日本人男性に対して催涙ガスを噴射して逃走,さらに,追い掛けてきた同男性の左胸等をサバイバルナイフで刺し,傷害を負わせた。8月,強盗致傷罪で検挙した(警視庁)。
 (イ) 香港三合会
 「香港三合会」とは,中国の伝統的秘密結社を源流とする香港の犯罪組織の総称であり,「和勝和」,「新義安」,「14K」等15~20の組織が活発に活動している。
 我が国においては,貴金属店における強盗・窃盗事件や広域にわたる偽造クレジットカード使用詐欺事件等の犯罪を引き起こしている。
 (ウ) 韓国人すりグループ
 韓国人によるすりは,4,5人がグループを組んで短期滞在の在留資格等により短期間滞在して広域にわたりすりを行うものであり,犯行が発覚すると,刃物や催涙スプレー等を用いて警察官や被害者に抵抗し,逮捕を免れようとするところに特徴がある。
 [事例] 11年5月,すりが増加していたことから,特別な捜査体制をとり,警戒中のところ,捜査員が駅構内において不審な行動をする韓国人の男4人を発見,電車内において被害者を取り囲み,被害者が着用している背広内ポケットをカミソリで切り裂き,財布を取ろうとしたので,4人を窃盗(すり)未遂罪で検挙した(警視庁)。
 イ 国内に居住する外国人犯罪者のグループ化
 我が国において,不法滞在者等が,より効率的な利益の獲得を目的として,国籍,出身地等の別によりグループ化し,悪質かつ組織的な犯罪を引き起こしている。
 (ア) 中国人犯罪グループ
 中国人犯罪グループ間の利権争いを原因とする殺人事件等の凶悪事件のほか,貴金属店,衣料品店,家電量販店等を対象とする広域窃盗事件,変造通貨を利用した自動販売機荒し事件,集団すり事件,ピッキングによる空き巣ねらい事件等が検挙されている。
 [事例] 不法入国していた中国人の男3人と日本人の男1人は,関東一円と新潟県,石川県等で変造500ウォン硬貨を使用して自動販売機から現金を窃取する犯行を重ねており,11年6月までに,4人を窃盗罪で検挙し,使用車両から変造500ウォン硬貨約2,000枚を押収した(富山)。
 (イ) ブラジル人犯罪グループ
 ブラジル人による犯罪は,全国的に増加傾向にあり,日系ブラジル人グループによる広域にわたる自動車盗,侵入盗等の窃盗事件や凶器を使用しての強盗事件が検挙されている。
 [事例] 日系ブラジル人の男(25)ら5人は,11年9月,日系ブラジル人の男女3人を駐車中の車内から引きずり出し,バットで殴打する等の暴行を加えて現金を強取し,うち2人に重傷を負わせた。同月,強盗致傷罪で検挙した(長野)。
 (ウ) イラン人薬物密売組織
 イラン人密売組織による薬物密売事犯は,街頭での無差別密売が影を潜めて活動が潜在化しており,メモ,携帯電話等を利用して巧妙に密売を行う事例が増加している(第2章第3節2(1)エ参照)。
 [事例] 11年1月,密売場所,使用車両及び密売担当者を次々と変え,携帯電話を巧妙に利用して複数回密売していたイラン人(31)ら2人を覚せい剤取締法違反(営利目的所持等)で検挙するとともに,覚せい剤約220グラム,大麻樹脂約70グラム,乾燥大麻約18グラム,あへん約6グラムのほか,密売代金とみられる現金約1,600万円等を押収した(岐阜,滋賀)。
 ウ 外国人犯罪グループによる「地下銀行」及びマネー・ローンダリング
 依頼者の金をその本人に代わって国外に不正に送金する業務を行う「地下銀行」が摘発されている。その態様は,我が国に不法滞在する外国人が,旅券等による本人確認を求められる正規の海外送金システムを避け,「地下銀行」を利用し,不法就労で得た収益や犯罪によって得た不法収益等を本国へ送金していたものであった。
 [事例] 不法滞在の中国人から集めた金を中国に送金する「地下銀行」を営んでいたとして,偽造有印公文書行使等で既に検挙済みの中国人留学生ら4人を,11年5月,銀行法違反(無免許営業)で検挙した。同人らは,10年1月から11年2月までの間に,中国人ら24人から47回にわたり合計約2,600万円を受領し,中国国内に送金していた。なお,推計によると,この地下銀行による中国への送金は,約2万人の中国人から依頼されたものであり,その額は約300億円に上るものとみられる(大阪)。
 (3) 不法入国・不法滞在者問題
 近年の我が国の厳しい経済情勢にもかかわらず,依然として就労を目的として来日する外国人は多いが,これらの中には,観光等を目的とする在留資格で入国したにもかかわらず就労をし,また,在留期間の経過後に不法残留をしながら就労するなどの不法就労者(注1)もいる。これらは,主として,就労の在留資格として出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)に設けられている「興行」,「技術」,「人文知識・国際業務」等以外のいわゆる単純労働に従事している。
 不法就労者の大半は不法滞在者(注2)であるとみられ,これら不法滞在者のうち,法務省の推計による不法残留者数は,ピーク時の平成5年には30万人近くに達し,その後徐々に減少する傾向にあるものの,12年1月1日現在で25万1,697人と依然として大量の不法残留者が存在している。
 もともと就労目的で来日した不法滞在者の中には,不法就労よりも効率的に利益を得る手段として犯罪に手を染める者も多く,大量の不法滞在者の存在は来日外国人による犯罪の温床となっている。
 (注1) 不法就労者とは,就労している不法滞在者及び無許可で資格外活動を行っている者をいう。
 (注2) 不法滞在者とは,入管法第3条違反の不法入国者,同条第9条違反の不法上陸者及び適法に入国した後,在留期間を経過して残留している不法残留者をいう。
 ア 国籍・地域別の不法残留者及び不法入国者の状況
 法務省の推計による不法残留者数を国籍・地域別にみると表7-3のとおりであり,韓国が6万693人(構成比24.1%)と最も多く,次いでフィリピンの3万6,379人(14.4%),中国の3万2,896人(13.1%),タイの2万3,503人(9.3%)となっている。
 また,11年中,警察及び海上保安庁が検挙した不法入国者は合計して1,221人(前年比262人(17.7%)増)であり,これを国籍・地域別にみると,中国が1,047人と最も多く,次いでバングラデシュの46人,韓国の33人となっている。
 イ 集団密航事件
 警察及び海上保安庁では,11年中に,770人の集団密航者(注)を検挙した(表7-4)。国籍別でみると,中国人の占める割合は,全検挙人員の9割強に当たる701人に上っている。
 「蛇頭」は,我が国に受入れ組織を構築し,広域的に活動しているとみられ((2)ア(ア)参照),集団密航事件の発生場所は,11年中に検挙された事件をみると,22都道府県に及んでいる。このため,警察では,海上及び沿岸部での警戒,海上保安庁,法務省入国管理局等関係機関との連携,沿岸地域住民への協力要請等により,全国的に水際対策を強化している。
 (注) 集団密航者とは,「入国審査官から上陸の許可等を受けないで,又は偽りその他不正の手段により入国審査官から上陸の許可等を受けて本邦に上陸する目的を有する集合した外国人」(入管法)であり,「集合した」とは2人以上の者が集まっている状態をいう。
 また,第145回通常国会において,入管法の改正により,不法入国者等が引き続き我が国に在留する行為を処罰する「不法在留罪」が新設されたこと,同じく,いわゆる組織的犯罪対策三法が成立し,集団密航を助長する罪が通信傍受の対象犯罪とされ,同罪の犯罪行為により得た犯罪収益の隠匿,収受等が処罰の対象とされたことから,これらの法令の適正かつ効果的な執行に努めることとしている。
 一方,密航者の多くが中国人であることにかんがみ,警察は,関係各省庁と合同で中国側に累次密航防止を申し入れている。11年は,7月,小渕首相と朱鎔基首相との会談の際,集団密航等の国際組織犯罪対策における協力について話し合われたほか,8月及び9月の国家公安委員会委員長と中国公安部長との二度にわたる会談,12月の日中治安当局間協議等を通じ,密航問題等における日中警察の緊密な連携について合意された。警察としては,これらを踏まえ,引き続き中国捜査機関との積極的な情報交換等により,「蛇頭」の摘発等を強力に推進していくこととしている。
 [事例1] 11年2月,神奈川県江ノ島沖合に不審な船を発見した漁業関係者からの通報を受けて,海上保安庁と連携の上,現場に急行し,海上保安庁が韓国籍漁船で不法入国した中国人53人と同中国人らを不法入国させた韓国人船員3人を入管法違反(不法入国,集団密航者を本邦に入らせ又は上陸させる罪)で検挙した。その後,同庁との連携捜査で,12月までに,同事件に関与した中国人4人,韓国人1人及び暴力団員1人を含む日本人2人の計7人を,同法違反(集団密航者を収受等する罪の未遂等)で検挙した(神奈川)。
 [事例2] 11年9月,長崎県佐世保市浅子町の沿岸住民からの通報により,同町の海岸から不法入国した中国人48人と出迎えの暴力団員1人を含む日本人2人を入管法違反(旅券不携帯,集団密航者を収受等する罪等)で検挙した。また,警備艇を出動させて海上を捜索した結果,密航者の上陸に利用されたとみられる日本籍漁船2隻を捕捉し,日本人船長2人を同法違反(集団密航者を輸送する罪)で検挙し,さらに,11月までに,同事件に関与した暴力団員1人を含む日本人3人を,同法違反(集団密航者を収受等する罪等)で検挙した(長崎)。
 ウ 不法滞在を助長する文書偽造事件
 11年中も合法的な入国・在留を装うための文書偽造事件が多発し,偽造旅券を使用した不法入国事件の検挙件数は407件で,前年に比べ,149件増加した。国籍別では,中国(249件),韓国(35件),フィリピン(28件)の順であった。また,日本人配偶者として在留資格を不正に取得する偽装結婚事件,外国人登録証偽造事件も検挙されている。
 エ 雇用関係事犯
 就労を目的として入国する外国人の数は,我が国の景気が厳しい情勢であるにもかかわらず,依然として高水準にある。その原因の一つとして,外国人労働者を雇用しようとする者や就労あっせんブローカーの存在が挙げられ,一部暴力団の関与するケースもみられる。外国人労働者の雇用主の中には,彼らを低賃金で雇用する者がみられ,また,就労あっせんブローカーは,外国人労働者と雇用主との間に介在して不当な利益を得るなどしている。
 このため,警察では,入管法に規定するいわゆる不法就労助長罪のほか,職業安定法,労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。),労働基準法等の雇用関係法令を適用して,外国人の不法就労を助長する悪質雇用主,暴力団等に対する取締りとともに,ブローカーへの突き上げ捜査,国際協力及び関係機関との連携の強化により不法就労外国人の供給の遮断を図っている。
 最近5年間の外国人労働者に係る雇用関係事犯の法令別検挙状況は,表7-5のとおりである。また,11年中に検挙した就労あっせんブローカーは44人(前年比5人増)となっており,その中には,外国人ブローカーが日本人ブローカーと結び付いて外国人労働者をあっせんするケースがみられる。就労あっせんブローカー44人のうち外国人ブローカーを国籍・地域別にみると,韓国13人,タイ9人,コロンビア2人,その他3人の合計27人であり,関東地方を中心に6都県で検挙されている。
 また,雇用関係事犯の検挙件数に占める飲食店等で外国人女性をホステスや売春婦等として従事させた事犯の割合は,62.5%となっている。
 [事例] 11年8月,日本の風俗店での稼働を希望するフィリピン人女性約60人を偽造旅券等により不法に入国させていたフィリピン在住の就労あっせんブローカーである日本人の男(52)を入管法違反(営利目的等不法入国等援助)で検挙した(愛知)。
 最近5年間の雇用関係事犯として検挙した事務所,飲食店等に雇用されていた外国人の国籍・地域別状況は,表7-6のとおりである。
 (4) 女性・児童の性的搾取問題
 近年,性的搾取目的での女性・児童の不正取引(トラフィッキング)や児童買春・児童ポルノ事犯等女性・児童の性的搾取問題は,国連において国際的な協力を促進するための国際文書(議定書)の策定が審議されるなど,国際的にも重要な課題となっている。
 我が国においては,短期滞在,興行等の在留資格で入国し,風俗関係事犯に関与する外国人女性は依然として多く,これら外国人女性は,深夜飲食店等における接待行為,さらに,売春,わいせつ事犯等にまで関与しており,地域的にも大都市圏以外の地域にまで広がりをみせている。
 11年中に風俗関係事犯において被疑者又は参考人として取り扱った外国人女性は1,437人である。国籍・地域別では,韓国が617人と最も多いほか,タイ,フィリピン等東南アジア諸国の女性が依然として多い(表7-7)。
 このような風俗関係事犯に関与する外国人女性で,風俗営業,性風俗特殊営業,酒類提供飲食店営業等に従事する者の中には,現地のブローカー及びこれと結び付いた国内のブローカーにだまされて我が国に連れてこられ,ブローカーや経営者等に入国費用等の名目で多額の借金を背負わされた上,旅券を取り上げられ,売春を強要され,また,賃金を搾取されるなどの被害に遭う事案が目立っていることから,背後組織の摘発に重点を指向した取締りを強化している。
 [事例] 11年2月,コロンビア人女性を国内のストリップ劇場等に踊り子,売春婦等としてあっせんしていた供給ブローカーである日本人の男(30)を入管法違反(不法就労助長)で検挙するとともに,同コロンビア人女性を日本に供給していたブローカー,売春クラブ経営者ら107人を売春防止法違反等で検挙し,コロンビア人女性に係る人身売買組織の実態を解明した(警視庁,埼玉)。
 また,日本人による海外での児童買春行為や,我が国から発信される児童ポルノのインターネット上での氾濫が,国際会議や海外の報道機関で取り上げられるなど国際的に批判を受けている。
 いわゆる児童買春・児童ポルノ法には,外国における日本人の児童買春やインターネット等による児童ポルノの頒布等を処罰する内容が盛り込まれており,海外の捜査機関等との連携を更に強化して積極的な取締りを推進している(第2章第2節2(3)参照)。
 [事例] 11年11月,ICPOを通じてドイツ国家警察から捜査情報の提供を受けるなどした結果,インターネットを利用して児童ポルノ画像を多数のインターネット利用者に閲覧させていた無職の男(38)を,いわゆる児童買春・児童ポルノ法違反で検挙した(神奈川)。
 (5) 銃器・薬物の密輸入
 ア 銃器の密輸入
 平成11年中に押収されたけん銃1,001丁のうち真正けん銃は837丁(83.6%)で,そのほとんどが外国製であり,海外から密輸入されたものであると考えられる。11年中に密輸入事件で押収したけん銃の仕出国をみると,従来のフィリピン,米国に,トルコ,ブラジル等が加わり多様化している。
 密輸入の手口としては,従来からある貨物船等による持込みに加え,最近は,航空携帯荷物への隠匿や国際航空小包郵便を利用した持込み等もみられる。
 警察では,銃器の密輸入を阻止するため,関係機関,外国捜査機関等との捜査協力を強化し,密輸入を敢行するおそれのある密輸・密売組織やガンマニア等の実態解明及び検挙を推進している(第2章第3節1参照)。
 イ 薬物の密輸入
 我が国で乱用されている覚せい剤等の薬物のほとんどは,国際的な薬物犯罪組織と暴力団の関与の下に海外から密輸入されている。11年中の薬物の密輸入に係る大量押収事件(一度に1キログラム(コカインは500グラム)以上を押収した事件をいう。)は88件で,前年に比べ30件(51.7%)大幅に増加した。このうち仕出国(積出地)が明らかな大量押収事件は67件で,これらの事件における主な仕出国を薬物の種類別にみると,覚せい剤は中国,北朝鮮,乾燥大麻はフィリピン,タイ,大麻樹脂はタイ,オランダ,コカインはメキシコ,ブラジル,あへんはロシア,シンガポールとなっている。
 密輸入の手口としては,船舶貨物,航空貨物等への偽装隠匿や身体への巻き付け,手荷物等への隠匿が目立っている。
 薬物の流入を阻止するため,警察では,関係機関との連携による水際対策の強化,関係諸国の取締り機関との協力関係の緊密化等,薬物の密輸・密売組織の壊滅に向けた強力な取締りを推進しており,特に11年中は,大型の覚せい剤密輸入事件を相次いで摘発し,覚せい剤の年間押収量が過去最高を記録した(第2章第3節2(1)参照)。
 (6) 被疑者の国外逃亡事案等
 平成11年末現在の国外逃亡被疑者は460人と,過去10年間で最も多い。警察では,被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合は,港や空港に手配するなどしてその出国前の検挙に努めており,出国した場合でも,関係国の捜査機関等の協力を得ながら,被疑者の所在確認に努めている。また,国際刑事警察機構(ICPO)に対し,国際手配書の発行を請求するなどしている。
 日本人の逃亡被疑者が発見されたときは,逃亡犯罪人引渡に関する条約又は相手国の国内法に基づく国外退去処分等により,その者の身柄の引取りを行っている(第1章第2節4(4)ア(イ)参照)。
 2 国際化社会への対応
 (1) 国際捜査力の強化
 ア 総合的取組み体制の確立
 近年急増している来日外国人犯罪の捜査については,外国語の問題を始めとして日本人による犯罪の捜査とは種々異なる点が認められるところである。また,来日外国人犯罪者は同一の個人又はグループで多種多様な犯罪を引き起こしていることから,同時に多方面にわたる専門捜査員が共同して捜査に当たる必要がある。
 警察では,組織の総力を挙げて来日外国人犯罪対策を推進するため,平成11年5月に警察庁に「国際化対策委員会」を設置し,各都道府県警察にも同様の組織を置いて,犯罪対策のほか来日外国人に係る防犯,保護等の諸対策を総合的に推進している。
 イ 国際捜査官の育成と通訳体制の整備
 警察庁では,警察大学校国際捜査研修所において,国際捜査に関する実務研修,北京語,韓国語等アジア諸国の言語を中心とした語学教育,海外研修等を実施している。11年中には,警察庁から米国等に計52人の青年警察官を派遣したほか,計30人の国際捜査官を韓国,メキシコ等に派遣した。また,都道府県警察においても,国際捜査に従事する捜査員に対する教育や,通訳担当者も参加する実務的な語学研修等を実施するとともに,6年度からは,特に高い語学能力を備えた者を国際犯罪捜査官として特別に採用を開始し,国際捜査力の確保に努めている。
 警察では,来日外国人被疑者の取調べにおける通訳の一部を部外の通訳人に依頼して対応しているところであるが,これらの部外通訳人に対しては,刑事手続等の理解が深められるよう,「通訳ハンドブック」等を配布するほか,各種研修会等を開催している。通訳人の運用に当たっては,夜間等に突発的に発生する事件に迅速に対応するなどの必要があるため,都道府県警察及び管区警察局に通訳センターを設置するなどして,その体制の整備に努めている。
 なお,被疑者に対しては,刑事手続の流れ等について各国語の対訳を作成し,適宜提示しながら通訳人を介して説明するなど,その権利内容等の理解の徹底を図っている(第1章第2節4(4)イ(ア)参照)。
 (2) 国際捜査協力の強化
 ア 外国捜査機関との協力
 国際犯罪の増加に伴って,外国捜査機関に対する各種照会や証拠資料の収集の依頼等が一層重要になっている。そのため,警察庁では,ICPOルートや外交ルート等により外国捜査機関との情報交換を始めとした相互協力を実施している(第1章第2節4(4)イ(イ)参照)。
 イ 国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)との協力
 ICPOは,国際犯罪捜査に関する情報交換,犯人逮捕と引渡しに関する円滑な協力の確保等の国際的な捜査協力を迅速かつ的確に行うための,各国の警察機関を構成員とする国際的な機関であり,1999年(平成11年)末現在,178か国・領域(注)が加盟している。
 (注) アルバ及びオランダ領アンチルの2領域。
 ICPOの活動は,国際犯罪に関する情報の収集や交換のほか,逃亡犯罪人の所在確認や身柄の確保を求める国際手配書の発行,各種国際会議の開催等多岐にわたっている。また,犯罪情報システムや通信網の拡充を図るとともに加盟国の国家中央事務局(NCB)に対して,24時間体制を確保するよう要請し,情報連絡網の体制整備に努めている。
 警察庁は,ICPOの国家中央事務局として捜査協力を積極的に実施するとともに,事務総局への警察職員の派遣,分担金の拠出,通信技術の提供等,ICPOに対する各種貢献を積極的に行っている。
 また,1996年(平成8年)第65回総会(トルコ)において警察庁国際部長が第15代総裁(任期4年)に選出され,文字どおりICPOの代表としてICPO総会を主催し,長期的方針,予算の決定における調整を行うなど運営をリードしている。
 ウ 国際社会における国際犯罪対策への取組み
 国境を越えて引き起こされる国際犯罪に対抗するためには,国際的な捜査協力が不可欠であることから,近年,サミット等の国際協議の場でも国際犯罪対策が重要なテーマとなっている。
 (ア) サミット等における取組み
 a これまでの取組み
 1995年(平成7年)に開催されたハリファクス・サミットにおいて設置が決定された「国際組織犯罪対策上級専門家会合(リヨン・グループ)」は,国際組織犯罪対策のための国際協力の枠組みづくりを進めており,現在までに「国際組織犯罪と闘うための40の勧告」を策定したほか,ハイテク犯罪を始めとする各種犯罪分野において刑事法制や法執行協力の在り方等について検討を進めている。
 1999年(平成11年)6月に開催されたケルン・サミットにおいては,8か国共同による「コミュニケ」において,国際組織犯罪が世界中の政治,金融及び社会の安定に与える脅威と闘う決意が示され,引き続き国際協力を進めていくこととされた。
 また,10月には,モスクワにおいて国際組織犯罪対策G8閣僚級会合が開催され,我が国からは,国家公安委員会委員長及び法務大臣が参加し,国際組織犯罪の資金的側面からの対策,ハイテク犯罪対策等について議論が行われた。
 b 九州・沖縄サミットにおける取組み
 2000年(平成12年)7月に開催された九州・沖縄サミットにおいて,国際犯罪及び薬物問題が首脳会合の議題として取り上げられた。特に,ハイテク犯罪がグローバル社会の安全性と信頼性に対して深刻な脅威となっているとの認識の下,各国首脳は,ハッキングやコンピュータ・ウィルスへの対策の必要性を強調するとともに,産業界との対話の促進を呼び掛け,2001年(13年)中に,我が国においてパリ会議に続く2回目の産業界とのハイレベル会合を開催することを合意した。また,国連国際組織犯罪条約及び銃器,不法移民,人の密輸議定書について,2000年(12年)中に採択することを確認した。薬物については,覚せい剤の問題について,サミット文書として初めて特記したほか,専門家会合の開催を始め,国連と協調しつつG8間協力を進めていくことが合意された。マネー・ローンダリングについては,FATF(金融活動作業部会)が策定・公表したマネー・ローンダリング対策に非協力的な15か国・地域への対策を支持することが表明された。さらに,腐敗・汚職問題について,新たな国連文書の交渉開始に触れつつ,リヨン・グループにおいて,この問題について作業を進めることが指示された。その他,国際組織犯罪と闘う枠組みにおける「抜け穴」を作らないよう,途上国の刑事司法制度の強化を支援する必要性が示されるとともに,犯罪被害者対策の重要性について初めて言及された。
 (イ) 国際連合における国際組織犯罪条約策定への取組み
 1994年(平成6年)11月にイタリアのナポリにおける国際組織犯罪世界閣僚会議で採択された「ナポリ政治宣言及び世界行動計画」において,各国の法制度の相違等による困難を克服しつつ,国際組織犯罪に対し効果的に対処できるよう,締約国間の協力を促進することを目的とした国連国際組織犯罪条約の検討が提唱された。これをきっかけとして,1998年(10年)12月,国連総会において,本条約の策定の討議と人の密輸(女性・児童等の不正取引等),銃器の密造・不正取引,不法移民(密入国の助長等)の三つの分野に関する本条約を補足するための国際文書(議定書)の策定の討議を目的とした政府間特別委員会の設立が決議された。
 政府間特別委員会は,91か国,23国際機関,18NGO及び4専門機関の参加を得て,1999年(平成11年)1月,ウィーンにおいて第1回会合が開催され,2000年(12年)7月末現在までに10回の会合が開催されている。
 なお,我が国は,同委員会の副議長国(9か国)のうちの一つに選出されており,これらの条約が実効あるものとなるよう積極的にその審議に参加している。警察庁職員も我が国代表団に参加し,銃器議定書に関し,その方向性を示したり,各国間の調整を行うなどの貢献を果たしている。
 (ウ) 金融活動作業部会(FATF)等における国際的マネー・ローンダリング対策
 a FATFにおける活動
 FATFは,1989年(平成元年)のアルシュ・サミットで設置が決定されたマネー・ローンダリング対策に関する国際協力を推進するための国際フォーラムである。現在,マネー・ローンダリングに対する包括的な諸対策を示した「40の勧告」を世界全体に広めていくとともに,マネー・ローンダリングの規制の「抜け穴」を塞ぐため,金融機関に対する規制が不十分で国際的な司法・捜査協力に非協力的な15の国・地域(注)を特定し,金融機関がこれらの国・地域からの個人,企業,金融機関との取引について特別の注意を払うよう勧告した。
 (注) バハマ,ケイマン諸島,クック諸島,ドミニカ,イスラエル,レバノン,リヒテンシュタイン,マーシャル諸島,ナウル,ニウエ,パナマ,フィリピン,ロシア,セントクリストファーネヴィス,セントビンセント・グレナディーン
 b エグモント・グループの活動
 マネー・ローンダリングを探知するためには,金融機関が認知した疑わしい取引の情報を効果的に収集するとともに,国際的な情報交換を行うネットワークを構築することが重要である。このため,疑わしい取引情報を一元的に収集,分析して捜査機関に提供するFIU(Financial Intelligence Unit)と呼ばれる政府機関が1990年代に入って各国で相次いで設立され,1995年(平成7年),ベルギーのエグモント宮殿でFIU機能を持った各国機関や法執行機関等が非公式に会合を開催した。この会合はその後毎年開催されており,エグモント・グループと呼ばれている。
 我が国においては,平成11年8月にFIU機能を金融監督庁に付与するための組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律が成立し,12年2月1日に施行され,同日,同庁に特定金融情報室が設立された。
 c アジア・太平洋マネー・ローンダリング対策グループ(APG)の活動
 アジア・太平洋地域においては,1997年(平成9年)タイで開催されたFATF第4回アジア・太平洋マネー・ローンダリングシンポジウムで,APGの設置が決定された。我が国もその参加国の一つとして,1998年(10年)の第1回APG年次総会を始め,1999年(11年)にはAPG犯罪類型分析専門家会合を東京において開催するなど,地域対策に積極的に貢献している。
 エ アジア諸国との地域的連携の強化
 我が国において活動する国際犯罪組織は,アジアの国々の中に本拠を置くものが多く,その実態解明と検挙の推進には,関係各国による共同の取組みが必要である。国際組織犯罪対策は,自国の治安問題のみならず,国際社会に対する責務でもあるという国際社会における共通認識の下で,アジアにおける国際犯罪組織の最大の活動の場の一つである我が国も,応分の責任を負担し,アジアにおける国際犯罪対策の推進に貢献しているところである。
 来日外国人犯罪(刑法犯)検挙人員の約4割を占める中国との間においては,平成11年7月の小渕首相訪中の際の首脳会談,8月及び9月の閣僚級会談に続いて,12月,北京において日中治安当局間協議第1回会合が開催された。我が国からは警察庁のほか外務省,法務省,海上保安庁,大蔵省及び厚生省が参加し,両国間で密航,薬物,銃器問題,その他の組織犯罪について協議され,捜査協力の強化,犯罪の防止・抑止のための活動の推進,技術協力・交流の促進,情報交換ネットワークの強化,国際的な場における両国間の協力の5項目について合意した。11年中に警察職員が出席した主な国際会議は,表7-8のとおりである。
 (3) 来日外国人に対する施策の総合的推進
 ア 来日外国人の生活の安全を確保するための活動
 来日外国人は,生活習慣の相違等から,地域住民とのコミュニケーションが希薄になりやすく,地域の安全に関する情報を入手し難い立場に置かれている。警察では,来日外国人向けの防犯教室の開催,外国語の防犯パンフレットの配布等により,生活の安全に関するアドバイスを実施しているほか,来日外国人のための相談窓口を設置し,日常生活における不安の解消に努めている。このほか,来日外国人を雇用し,又は研修生として受け入れている企業等が各地で結成している連絡協議会と連携して,外国人従業員・研修生に対し,事件事故等の被害に遭わないためのアドバイスを行うなど各種保護活動を展開している。
 [事例] 徳島県警察では,11年5月,徳島大学国際交流会館において外国人留学生ら(中国,韓国,マレーシア等)に対し,「地域安全フォーラム」を開催し,日常生活上の諸注意,ビデオ上映,110番通報訓練等を行った(徳島)。
 イ 関係行政機関及び地域住民との連携
 来日外国人問題は,総合的な観点からの対策を必要とする問題であり,各関係行政機関や地域住民との連携が不可欠である。
 警察では,法務省,労働省,地方公共団体等の関係機関・団体との情報交換を積極的に行い,行政全体として総合的な対策が講じられるように様々な形で働き掛けを行っている。平成11年3月には,警察庁,法務省及び労働省の担当局長によって構成される「不法就労外国人対策等関係局長連絡会議」が開催され,不法就労等外国人問題対策について,緊密な情報交換,合同摘発の強化等に取り組むことを合意し,これに基づき,入国管理局との合同摘発及び労働基準監督機関による強制捜査との連携強化を図っている。
 また,6月には,政府の「外国人労働者問題啓発月間」に合わせて「来日外国人犯罪対策及び不法滞在・不法就労防止のための活動強化月間」を実施した。
 さらに,都道府県警察では,漁協関係者等との海上合同パトロールを実施するなど,各種協議会等を通じた地域住民との協力活動を推進している。
 (4) 海外における邦人の安全対策
 近年,世界各地で宗教問題や民族問題等を背景としたテロが多発しているが,我が国企業の海外展開の広がり及び海外旅行の増加に伴い,海外駐在員,邦人観光客等がテロ行為の被害に遭う危険性が高まっている。1999年(平成11年)には,キルギスにおける誘拐事件,タイのミャンマー大使館における人質立てこもり事件,スリランカにおける爆弾テロ事件,インド上空におけるハイジャック事件等,海外において邦人が巻き込まれる国際テロ事件が発生した。
 こうした情勢を踏まえ,警察庁は,各国治安機関との連携を密にして,世界各国のテロ情勢等治安に関する情報交換を行い,その分析結果を随時外務省に提供して邦人の海外における安全対策に貢献している。
 特に,キルギスにおける誘拐事件に際しては,「在ペルー日本国大使公邸占拠事件」の経験を踏まえ,解決に向けて関係機関と連携し,各国治安機関からの情報収集を積極的に行った。
 また,(財)公共政策調査会が平成11年7月にニューヨークで開催した「第7回海外安全対策会議」には,担当官を講師として派遣して,国際テロの発生状況,世界各国のテロ組織,新たなテロの動向等について講演を行った。同会議では,邦人企業等関係者が多数参加し,活発な質疑応答が行われ,在外邦人の安全対策への関心の高さがうかがわれた。
 3 国際協力への取組み
 (1) 外国警察に対する技術協力
 ア 警察活動に関するセミナー等の実施
 平成11年中に警察が独自に又はJICAとの共催により実施した主なセミナーは,表7-9のとおりである。特に,6月に開催した「銃器管理セミナー」の中で,現在国連で起草中の国連国際組織犯罪条約の補足文書である銃器議定書草案の主な内容の周知を図るとともに,同条約及び議定書の早期採択に理解を求めた。
 また,11月には「アジア地域組織犯罪対策セミナー」を開催し,我が国の組織犯罪に関する取締り技術等を紹介するとともに,8月に制定されたいわゆる組織的犯罪対策三法の概要を説明した。
 イ 専門家の派遣
 11年中には,表7-10のとおり,JICAからの依頼により鑑識専門家をフィリピン,カンボジア,パキスタン等に派遣し,指紋鑑識や写真鑑識等の技術指導を実施したほか,交番制度,緊急通報システムに関する専門家を東南アジアだけでなく中南米等にも派遣し,技術協力を推進した。このほか,地球規模の問題として援助の必要性の高まっている薬物対策のため,特に深刻な情勢にあるタイへ専門家を派遣し,薬物鑑定・鑑識及び薬物分析の技術指導を実施している。
 (2) 国際緊急援助隊等への貢献
 ア 国際緊急援助隊の派遣
 国際緊急援助隊の派遣に関する法律に基づき,警察では,平成11年1月には大地震の発生したコロンビアに,また9月には台湾に,国際緊急援助隊の救助チームとして派遣され,人命救助等の活動を行った。
 同法の施行(昭和62年)以後平成11年までの間に,警察が行った国際緊急援助活動は,表7-11のとおりである。
 イ 国際平和協力活動への貢献
 11年7月から9月にかけ,国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律に基づき,警察庁から6人の東チモール国際平和協力隊(文民警察要員3人及び連絡調整要員3人)がインドネシアに派遣され,国際連合東チモール・ミッション(UNAMET)の下で現地警察への助言,指導,監視の任務に当たった。


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