第1節 地域の安全を守る諸活動

 平成11年には,いわゆるストーカー事案の増加,少年非行の深刻化,一般市民が被害者となる発砲事件,大量の覚せい剤密輸事件,景気低迷下での多重債務者の弱みにつけ込む金融事犯,悪質な産業廃棄物事犯を始め,市民生活の安全と平穏を脅かす様々な問題が発生した。
 警察では,これらの状況に的確に対応するため,相談体制の整備・充実,地域住民,企業,地方公共団体等との協働による地域安全活動の強化,地域の「生活安全センター」としての交番の基盤整備等に努め,地域住民に身近な犯罪,事故の予防活動,犯罪の検挙活動等を行うとともに,ストーカー行為による被害防止,少年の非行防止,けん銃等の摘発及び供給の遮断,薬物乱用の防止,良好な風俗環境の保持,正常な経済活動の確保のための諸対策等を強力に推進することとしている。
 1 地域の「生活安全センター」~交番,駐在所
 交番,駐在所(以下「交番等」という。)は,地域警察活動の拠点として全国各地に置かれており,その受持ち区域において,住民の要望にこたえるための活動を行うとともに,すべての警察事象に即応する活動を行うことにより,地域住民のための「生活安全センター」としての役割を果たしている。
 全国の交番の数は約6,600か所,駐在所の数は約8,100か所である。
 (1) 地域の「生活安全センター」としての諸活動
 ア 地域に密着した活動
 (ア) 地域住民と協力した活動
 全国の交番等では,地域の安全と平穏を守るため,住民の要望等を把握する「要望把握活動」や,地域の身近な問題を解決する「問題解決活動」を行っている。
 交番等の地域警察官は,受持ち区域の家庭,事業所等を訪問し,防犯,事故防止等についての指導連絡,住民の困りごとや要望等の聴取に当たる巡回連絡を行っている。
 また,交番等の地域警察官と,各界,各層の住民等が,相互に検討・協議し,協力して犯罪,事故,災害のない明るいまちづくりを進めるため,交番等を単位として「交番・駐在所連絡協議会」が平成11年末現在,全国で1万3,728協議会設置されている。
 [事例] 巡回連絡で訪問した高齢者宅で,「11年4月ころ,孫のアトピーに良く効くと言われてクリームの購入を契約したが,71万円も請求されて困っている。助けて下さい」との相談を受け,消費者相談センター等関係機関に連絡したところ,契約の解除に至った(北海道)。
 (イ) 地域住民に身近な安全情報を提供する活動
 全国の交番等では,受持ち区域の事件,事故等の発生状況とその防止方策,住民の声等の住民にとって身近な話題を伝える「情報発信活動」としてミニ広報紙等を発行している。
 また,犯罪,事故の発生状況や多発箇所等,地域の安全確保のため必要な情報を迅速・的確に地域住民に提供するため,地域住民との間にFAXネットワークを構築するとともに,公共施設等の人目に付く場所に掲出する「交番速報」,CATV等の各種広報媒体の効果的な活用を図っている。
 さらに,地域住民との触れ合いを深めるために,警察官本人の顔写真や似顔絵等を刷り込んだ「CR名刺」の配布を進めている。
 イ パトロール等による犯罪,事故等への対応
 交番等の地域警察官は,受持ち区域をパトロールしながら,不審な者に対する職務質問,危険箇所等の把握,犯罪多発地域の家庭等に対する防犯指導,パトロールカードによる地域の安全確保に必要な情報の提供等に当たっている。
 また,全国の警察本部や警察署に配置された合計約3,000台のパトカーは,管内のパトロールを行うとともに,その機動力を生かして犯罪,事故等の発生時における初動措置に当たっている。
 さらに,地域警察官の職務質問技能の向上を図るため,卓越した職務質問技能を有する者を「警察庁指定広域技能指導官」等に指定して,地域警察官に対する専門的な実務指導に当たらせている。
 11年中の重要犯罪検挙人員9,307人のうち3,614人(38.8%)が,地域警察官の検挙によるものであった(表2-1)。
 ウ 遺失物の取扱い
 交番等の地域警察官は,遺失物を速やかに遺失者等に返還するため,遺失・拾得届の受理業務を行っている。
 11年中に警察が取り扱った遺失届は約302万件(現金約429億円,物品約655万点)であり,拾得届は約438万件(現金約132億円,物品約844万点)であった。拾得届のあった金品のうち,現金については70.4%,物品については32.9%が遺失者に返還されている。最近5年間の遺失物・拾得物の取扱状況は,表2-2のとおりである。
 (2) 「生活安全センター」としての機能の向上
 ア 交番等の運用形態
 交番は,原則として,犯罪,事故等が多い都市部の地域に設置され,1当番当たり3人以上の交替制勤務の地域警察官により運用するものとされており,駐在所は,原則として,都市部以外の地域に設置され,勤務場所と同一の施設内に居住する1人の地域警察官により運用するものとされている。
 近年の社会情勢の変化に伴い,都市部で「都市型駐在所」が設置されるなど,交番等は,地域の実態に即して多様に運用されている。
 イ 交番所長制度と交番等のブロック運用
 交番には,日勤制の勤務を行いながらその業務全体を把握し,統括する交番所長を置くものとされている。この制度は,地域住民の要望等を集約し,地域の実情に即した活動を促進することを目指したものであるとともに,交替制勤務の弊害であった事務引継ぎの問題を解消する上で有効である。
 また,昼夜の人口,治安情勢等の地域実態に即した弾力的な警察活動を推進し,地域における警戒活動を一層充実させるため,近接する2以上の交番等を組み合わせてブロック単位で運用し,夜間の合同パトロール等を行っている。
 ウ 交番相談員の配置
 都市部の主要な交番には,警察官OB等から成る交番相談員が配置されている。警察では,交番相談員が住民の困りごとや要望等の聴取,地理案内,遺失・拾得届の受理,犯罪・事故の届出の警察官への取次ぎ等を行うことにより,警察官がパトロール等の所外活動に従事している間においても,交番を訪れた住民に適切な対応がなされるよう努めている。
 エ 交番等の施設,設備の充実強化
 警察では,地域住民が警察への相談,防犯についての会合等を行うためのコミュニティ・ルームを交番等に設けるなど,交番等の施設,設備の充実強化に努めている。
 また,警察官が不在の場合でも地域住民が警察に連絡を取ることができるように,受話器を取ると警察署につながるホットラインを整備している。
 2 事件,事故等に即応する警察
 (1) 市民に定着した110番
 ア 110番通報の現状
 平成11年中に全国の警察で受理した110番通報の件数は約722万件で,10年に比べ約32万件増加した。つまり,4.4秒に1回,国民17人に1人の割合でなされたことになる。110番通報の受理件数を内容別にみると,図2-1のとおりであり,過去10年間の110番通報の受理件数の推移は,表2-3のとおりである。
 警察では,毎年1月10日を「110番の日」と定め,市民に対して110番の適切な利用を呼び掛けるとともに,警察による緊急の対応を必要としない電話による相談等については,「#(シャープ)9110番」を利用するよう呼び掛けている。
 また,移動電話からの110番通報については,通報者が通報場所を正確に伝えにくく,受理及び指令に時間を要することもあることなどから,通話中にはできるだけ場所を移動しないこと,移動電話からの通報であることを告げること,通話終了後に電源を切らないことなどを呼び掛けている。
 イ 通信指令システムの概要
 110番通報に迅速かつ的確に対応するため,都道府県警察ごとに通信指令室が設けられている。110番通報を受理した通信指令室では,直ちにパトカーや交番等の地域警察官を現場に急行させるとともに,必要に応じて緊急配備の発令,他の都道府県警察への通報等を行い,人命の救助,被疑者の早期検挙等に努めている(図2-2)。
 また,警察では,リスポンス・タイム(エ参照)の短縮のため,事案発生場所の早急な把握のための地理情報システムの導入やパトカーの活動状況が容易に把握できるカーロケータ・システムの導入等,通信指令システムの機能の高度化に努めている。
 ウ 緊急配備
 重要事件等の発生に際し,被疑者を迅速に検挙し,事後の捜査資料を得るため,交番等の地域警察官を中心として,必要な警戒員を臨時かつ集中的に検問,検索,張り込み等のために配置することを緊急配備と呼んでいる。11年中の緊急配備(2以上の都道府県警察が協力して行う広域緊急配備を含む。)の実施件数は7,211件で,検挙率は36.5%であった。
 エ リスポンス・タイム
 通信指令室が110番通報を受理し,パトカー等に指令してから警察官が現場に到着するまでの所要時間のことをリスポンス・タイムと呼んでいる。11年中の110番集中収容地域(注)におけるリスポンス・タイムの平均は5分58秒であった(表2-4)。
 (注) 110番集中収容地域とは,その地域からの110番通報を警察本部の通信指令室で直接受理するシステムが設けられている地域をいう。これ以外の地域では,警察署で110番通報を受理している。
 オ 外国語による110番通報
 警察では,外国語による110番通報に対応するため,通信指令室に外国語に通じた警察官を配置するほか,通訳センター(第7章2(1)イ参照)の係員やあらかじめ委託している民間の通訳人を含めた三者間通話を行うなどの手法も導入している。
 (2) 水上,鉄道等の安全のための諸活動
 ア 水上警察活動
 警察では,主要な港湾,離島,河川,湖沼等を管轄する全国の警察署等に警察用船舶約200隻を配備し,パトカーや警察用航空機との連携を図ることにより,パトロール,各種犯罪の取締り等に当たるとともに,訪船連絡等による安全指導を行っている。
 イ 鉄道警察隊
 鉄道警察隊は,鉄道施設における犯罪等の発生状況の分析結果に基づき,列車への警乗,駅構内のパトロール等を行い,すり,置き引き等の犯罪の予防及び検挙,少年補導,迷い子の保護等に当たるとともに,鉄道事故における人命の救助等を行っている。
 また,鉄道事業者との連絡協議会の設置,列車事故を想定した鉄道事業者との共同訓練の実施等により,鉄道施設内の治安維持に努めている。
 ウ 警察用航空機の活動
 警察用航空機(ヘリコプター)は全国に約80機配備され,その機動性,高速性,広視界性という利点を活用し,交通情報の収集,災害危険箇所の調査,環境犯罪の監視等を行っている。また,犯罪,事故及び災害の発生に際しては,通信指令室,パトカー及び警察用船舶との連携を図り,情報収集,被疑者の捜索及び追跡,被災者等の救難救助等の活動を行っている。
 11年中の警察用航空機の出動回数は2万3,836回である。また,山岳遭難,水難等の救助活動については,1,710回出動し,525人を救助している。
 3 地域住民の保護・支援活動等
 (1) 住民の立場に立った相談業務の推進
 警察では,従来から困りごと相談等の各種相談業務を推進し,住民の様々な相談に対して必要な助言等を行ってきたが,現在,犯罪等の被害の未然防止を求める国民の要望等に十分にこたえるため,警察本部における「警察総合相談室」及び警察署における「困りごと相談所」の体制の整備・充実を推進している。
 特に,住民から寄せられる相談に適切に対応するため,各警察署における相談員及び相談対応要員の配置等を進め,相談に係る事案が刑罰法令に抵触する場合には検挙等の措置を採ることはもとより,刑罰法令に抵触しない場合であっても防犯指導,相手方に対する指導警告等を行うことにより,被害の未然防止活動の徹底を図っている。
 平成11年中における困りごと相談及び警察総合相談の受理件数は34万3,663件で,前年に比べ4,186件(1.2%)減少したが,依然高水準で推移している。なお,困りごと相談及び警察総合相談の受理件数の推移は,表2-5のとおりである。
 (2) 女性・子どもを守る活動
 最近,女性・子どもが被害者となる犯罪が増加傾向にあるとともに,女性に対するつきまとい事案や夫から妻への暴力事案に係る相談件数も増加傾向にあることから,警察では,平成11年12月に「女性・子どもを守る施策実施要綱」を制定し,女性・子どもが被害者となる犯罪等の未然防止活動を推進している。
 ア ボランティア,自治体等との連携による女性・子どもを守る防犯対策
 警察では,ひったくり,性犯罪,幼児を対象とした誘拐事件,児童等への声掛け事案等の女性・子どもが被害者となる犯罪等を防止するため,地域におけるこの種事案の発生場所,時間帯,犯罪手口等の地域安全情報の提供,危険箇所の重点的なパトロール,護身術や防犯機器の活用方法等についての講習会の実施,防犯ブザー等の防犯機器の普及活動等に努めている。
 また,児童に対する声掛け事案等が発生した場合に通学路及びその周辺の商店,コンビニエンスストア等が緊急避難場所となる「子ども110番の家」の活動を支援するほか,行方不明児童の捜索・発見活動を行う「子ども発見ネットワーク」の構築に努めるなど,地域住民の協力を得た地域安全活動を推進している。さらに,(財)全国防犯協会連合会を中心として,誘拐防止対策を呼び掛けるため,連れ去り防止のためのポスター,絵本,ビデオテープ等が作成された。
 イ つきまとい事案及び夫から妻への暴力事案への対応
 つきまとい事案(いわゆるストーカー事案)及び夫から妻への暴力事案については,殺人等の凶悪事件に発展するケースがみられることなどから,近年,特に社会的問題となっている。警察では,この種事案については,刑罰法令に抵触する場合には被害者の意思を踏まえて適切に検挙その他の適切な措置を講じることはもとより,刑罰法令に抵触しない場合であっても防犯指導,関係機関の教示等を行うほか,必要に応じて相手方に対する指導警告を行うなど,被害女性の立場に立った対応に努めている。
 また,ストーカー行為等の規制等に関する法律が,12年5月に成立したところであるが,この法律では,つきまとい等に対する警告,禁止命令等の行政上の措置,ストーカー行為に対する処罰及び被害者に対する援助措置について定められており,今後,その適正な運用を図っていくこととしている。
 (3) 家出人,行方不明者等の発見・保護活動
 警察では,でい酔者,迷い子等応急の救護を要する者の保護活動を行っており,平成11年中の保護取扱い数は,16万7,305人であった。
 また,家出人の発見・保護活動も行っており,犯罪に巻き込まれ,又は自殺するおそれがあるなどの家出人については,特にその迅速な発見・保護に努めている。11年中の家出人捜索願の受理件数は8万8,362件であり,家出人の発見数(捜索願の届出がない家出人の発見数を含む。)は7万9,875人であった。
 (4) 高齢者を支援する活動
 警察では,犯罪,事故からの高齢者の保護及び地域安全活動への取組みを通じた高齢者の社会参加を二本柱とする「長寿社会総合対策要綱」により,高齢者に対する支援活動を推進している。
 ア 高齢者に対する保護活動
 警察では,巡回連絡等を通じて高齢者に対し防犯指導等を行っている。また,はいかい高齢者の増加が問題となっていることから,自治体等と連携して「はいかい老人SOSネットワーク」を構築するなど,これらの者の早期発見・保護のための取組みを推進している。
 イ 高齢者の社会参加活動
 警察では,高齢者が安心して生きがいを持って生活できるように,老人クラブ等と連携して地域安全活動への取組みを通じた高齢者の社会参加を支援し,地域の連帯感や相互扶助機能の強化を図っている。
 (5) 障害者を支援する活動
 障害者は,犯罪,事故の被害に遭う危険性が高く,これらに対する不安感も強いことから,警察では,障害者の利便と気持ちに配意した各種施策の推進に努めている。
 警察では,聴覚障害者のため,手話ができる地域警察官等を配置した「手話交番」を,平成11年末現在18都府県65交番等で開設しており,これらの手話ができる地域警察官等は,(財)全日本ろうあ連盟の作成した「手話バッジ」を着用している。
 また,電話機による意思の伝達が困難な障害者のため,緊急通報をファックスにより受け付ける「FAX110番」を全国で設置しているほか,視覚障害者のため,点字や録音テープによる地域安全情報の提供を行っている。
 さらに,交番等にスロープ,点字付きインターホン等を設けるなど,交番等のバリアフリー化を促進している。
 (6) ホームレス対策の強化
 最近,大都市を中心に,特定の住居を持たずに道路,公園,河川敷,駅舎等での野宿生活を送っている者(以下「ホームレス」という。)が増加傾向にある。このような情勢を踏まえ,警察では,関係地方公共団体及び公共施設管理者との緊密な連携を図りながら,地域住民が不安を覚えるような地域のパトロール活動,緊急に保護を要するホームレスの一時的な保護等所要の活動を強化している。
 4 ボランティア等と共にある防犯活動
 警察では,防犯ボランティア団体や地域住民,自治体等と連携して,犯罪等による被害の未然防止活動を推進している。
 (1) 犯罪等のない地域社会を目指して
 ア 安全・安心まちづくりの推進
 近年,道路,公園等の公共施設や共同住宅等の住居における犯罪が増加していることから,警察では,平成12年2月,「安全・安心まちづくり推進要綱」を制定して,自治体等と連携しながら,見通しや明るさの確保等犯罪防止に配慮した構造・設備を有する道路,公園等の施設の普及を図ることにより,犯罪被害に遭いにくいまちづくりを積極的に推進している。
 [事例] 愛知県警察では,路上犯罪の防止を目的として,昭和56年から「防犯モデル道路」を設定しており,平成11年4月現在合計100路線に達している。これは,学校,公園,駅等の周辺で人々の通行が多く,かつ,路上犯罪の発生が危ぶまれる道路を「防犯モデル道路」として指定し,自治体等と連携しながら,ひったくり防止のための歩車道の分離,防犯ベル,防犯灯や非常時に被害者等の受入先となる防犯連絡所の設置等により,防犯機能を高めている。防犯モデル道路では,犯罪認知件数が設定前と比較して平均で23.4%減少した(愛知県)。
 イ 自動車盗,オートバイ盗及び自転車盗の防止対策
 警察では,自動車盗及びオートバイ盗の防止対策として,施錠の励行等の広報啓発活動,オートバイの全国的な防犯登録制度の推進を行っているほか,(社)日本防犯設備協会と協力して有効な盗難防止対策の検討を行っている。また,関係業界等に対し,イモビライザー(注)等盗難防止のための機器の開発及び普及拡大の要請を行うとともに,関係機関に対する防犯カメラ等が完備された駐車(輪)場の整備拡大の要請,駐車場の管理者等に対する不審者等の発見時における警察への迅速な通報の呼び掛け等を行っている。
 (注) 一般に,ICチップ付エンジンキーと車両本体の電子制御装置のIDコードを照合し,一致しないと電気的にエンジンが始動しない電子式盗難防止システムをいう。
 また,自転車盗の防止対策としては,施錠の励行等の広報啓発活動,防犯登録の完全実施に向けた取組みのほか,関係業界等に対する破壊されにくい錠の開発等の要請を行っている。
 ウ 金融機関等の防犯対策
 警察では,金融機関との連絡会議や防犯訓練を実施しているほか,防犯設備や管理体制を充実させるため,11年10月に「金融機関の防犯基準」について店舗における警戒要領等を具体的に盛り込むなどの見直しを行い,(財)日本防災通信協会等と協力して,同基準に基づいた防犯指導を行っている。また,深夜スーパーマーケット等の職域についても,県単位や警察署単位の職域防犯組織の結成を促進するとともに,「深夜スーパーマーケットの防犯基準」を作成して,業界全体の自主防犯体制の整備促進と防犯設備等の点検,改善等の防犯指導を実施している。
 エ その他
 警察では,通話料前払い方式(プリペイド方式)携帯電話が誘拐事件や覚せい剤の取引等に悪用されている実態にかんがみ,12年4月,郵政省及び関係業界団体等に対し,契約時において身分確認を徹底するなど,犯罪に悪用されることのない通信手段として利用されるための措置を講ずるよう要請している。
 (2) 地域住民による地域安全活動
 ア 防犯協会を中心とした地域住民等による地域安全活動
 地域安全活動は,生活に危険を及ぼす犯罪,事故及び災害による被害の未然防止,拡大防止,回復等を行い,安全で住みよい地域社会を実現するための総合的な活動である。「地域安全ニュース」の発行等地域安全情報の提供,暗がり,空き家等犯罪発生の危険度の高い箇所に対するパトロール等の活動を,防犯協会を主体として,地域住民,警察及び自治体がそれぞれの立場で相互に連携しながら推進している。また,地域の安全に対する住民の気運が盛り上がり,青年層や女性によるボランティア組織が結成され,活発な活動が展開されている。
 [事例] 岡山県防犯協会の附属機関として,大学生を中心とするボランティア防犯組織「岡山ガーディアンズ」が10年4月に結成され,「安心して暮らせる街づくり」を目指して,街頭パトロール,広報啓発活動等の地域安全活動を実施している(岡山県)。
 イ 職域防犯団体の活動
 犯罪の被害を受けやすい業種,犯罪に利用されやすい業種等を中心として,組織的な防犯対策を講ずるための職域防犯団体が結成されており,企業による地域安全を目的としたボランティア活動が活発化している。
 ウ 全国地域安全運動の展開
 (財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会を中心として,平成11年10月11日から20日までの10日間,「全国地域安全運動」が展開された。この運動を通じて,ひったくり等の身近な犯罪防止活動等,各地域の実情に応じた様々な地域安全活動が実施された。
 (3) 地域住民の活動を支援する警察
 警察では,地域住民に身近な犯罪,事故等に関する情報や,犯罪類型別の防犯ノウハウ等地域の安全確保に必要な情報を提供するとともに,ボランティアによる地域安全活動の推進方法や防犯診断等について専門的知識・経験に基づく助言を行っている。また,地域住民による地域安全活動を活性化させ,警察活動との有機的な連携を図るため,地域安全活動の内容,方法について防犯等の専門的立場から助言を行う「防犯活動アドバイザー」を平成12年3月末現在,全国25都府県の警察本部,警察署に計115人配置している。
 5 セキュリティシステムの確立
 (1) 社会環境の変化に対応したセキュリティシステムの確立
 情報通信技術の急速な進歩に伴う社会環境の急激な変化に起因して,ハッキング(不正アクセス行為)や電子商取引において他人になりすまして行う詐欺等情報通信ネットワークの特殊性に起因する新しい形態の犯罪や不正行為が発生するなど,様々な問題が顕在化しつつある。このような状況において市民生活の安全と平穏を確保していくためには,経済社会システムにおける犯罪抑止力の形成を図ること,すなわち,セキュリティシステムを確立していくことが必要となる。
 そのためには,不正アクセス行為を防止するとともに,電子商取引における本人確認を行う電子認証システムをセキュリティに留意したものとしていくことが必要である。このため,不正アクセス行為の禁止等に関する法律に基づき不正アクセス行為の再発を防止するための援助措置を行うとともに,「なりすまし」犯罪の実態に基づき,認証機関のセキュリティを向上させるための情報提供を行い,企業や消費者が被害を受けることを未然に防止することとしている。
 また,このような技術進歩や社会環境の変化に対応して,情報通信ネットワークに係る防犯技術の開発・提供や,画像伝送システム等多様な防犯技術を活用した警備業等のセキュリティサービスの適切な発展を指導していくことも重要である。警察においては,警察庁生活安全局生活安全企画課セキュリティシステム対策室を中心として,情報セキュリティ施策策定のための調査研究等に取り組むほか,産業界及び関係機関・団体との連携を図るなどにより,セキュリティシステムの形成に努めている。
 (2) セキュリティビジネスの育成
 ア 時代の変化に対応した良質なセキュリティサービスの提供
 (ア) 活躍する警備業
 警備業の業務は,施設警備を始め,交通誘導警備,雑踏警備,現金輸送警備,ボディーガード等の幅広い分野に及んでいる。また,ホーム・セキュリティ・システム等に係る機械警備の普及拡大等に伴い,警備業務が民間におけるセキュリティサービスとして定着してきており,平成11年末現在の警備業者数は9,722業者,警備員数は40万6,109人に達している。さらに,最近では,情報通信技術の高度化を背景として,画像伝送システム等を利用した新たなセキュリティサービスが普及しつつあるほか,GPS(注)等を利用し,交通事故等が発生した際に関係機関への迅速な連絡を行うことを目的とした自動車に係る緊急通報サービスが進展を遂げている。
 (注) 人工衛星から発した電波を用いた電波航法システムをいう。
 また,大規模災害発生時に,警備業者によって交通誘導,避難所の警戒活動等の警察活動に対する支援が迅速かつ的確に行われるよう,札幌市と42都道府県において,地方公共団体又は都道府県警察の長と都道府県警備業協会との間で支援協定が締結されるとともに,東北,関東,中部,近畿,中国の5地区において,都府県警備業協会間での広域支援協定が締結されている(11年末現在)。また,全国各地で都道府県警備業協会が地方公共団体主催の防災訓練に参加するなど,警備業の防災分野での活躍が目立っている。
 警備業務は,人の生命,身体,財産等を守る業務であることから,警察では,その業務が適正に行われるように指導,監督を行っているところであるが,更に優良な警備員の育成を図るため,警備員の検定制度の充実強化に取り組んでいる。
 (イ) 優良な防犯機器の普及,推奨
 警察では,自主防犯体制の整備・充実のため,防犯カメラ等の防犯機器の研究・開発を関係業界等に働き掛けるとともに,それらを広く紹介することにより,その性能の向上と普及に努めている。また,(社)日本防犯設備協会では,その性能に関する自主基準づくりを促進しているほか,防犯機器の設計,施工及び保守管理を行う者の資質を向上させ,これらの業務の実施の適正化を図るため,防犯設備士制度を実施しており,11年末までに5,829人が資格認定試験に合格している。
 さらに,関係団体と協力して,優良な錠前の普及等を図るほか,(財)全国防犯協会連合会では,破錠やピッキングに強い優良住宅用開きとびら錠等の型式認定制度を実施し,これらを広く一般に推奨している。
 イ 流通を通じたセキュリティの確保
 古物営業法及び質屋営業法は,古物商,質屋等に取引の相手方の身分確認や取引の記録等を義務付け,その取引状況を明確にすることによって盗品等の市場への流入を抑止し,窃盗その他の犯罪の防止とともに被害者の保護を図ることを目的としている。警察では,犯罪情勢や取引実態に配意しつつ,その適正な施行に努めている。
 また,流通を通じた犯罪を抑止するセキュリティシステムの形成には,警察による古物営業法等の施行のみならず,盗品等に関する情報の交換・共有を始めとする業界団体の自主的取組みが重要なものとなるため,警察では,全国古物商組合防犯協力会連合会,全国質屋組合防犯協力会連合会,(財)全国防犯協会連合会等との緊密な連携の下,質屋及び古物商等に対する更なる啓発活動に努めている。
 ウ その他
 探偵社,興信所等の調査業は,経済的リスクの分析等のセキュリティサービスを提供するものであるが,詐欺事案等,悪質な業者による不適正な営業活動が後を絶たないことから,警察では,悪質な調査業者の取締り等を行うことによって,調査業の健全な発展に取り組んでいる。


目次