はじめに

 平成10年中の治安情勢は、「和歌山市園部における毒物混入事件」等の毒物等混入事件、少年による凶悪事件及び金融機関対象強盗事件の相次ぐ発生をはじめ、数々の重要事件、事故及び災害が発生し、また、交通死亡事故の多発、北朝鮮のミサイル発射等による極東情勢の緊迫化等、極めて厳しい状況であった。
 さらに、社会・経済のグローバリゼーションの進展の中、犯罪活動も容易に国境を越えることが可能な状況になっており、国際社会において、このような国境を越える犯罪への対応が急務となっている。1998年(平成10年)5月に英国で行われたバーミンガム・サミットで「国際犯罪」に対する国際協調の重要性が確認されたのに続き、1999年(平成11年)6月にドイツで行われたケルン・サミットにおいても、その継続的な取組みが求められた。我が国においても、来日外国人による犯罪が組織化、悪質化の傾向を強めるなど、来日外国人犯罪対策を含め国際犯罪対策が急務となっている。
 このような情勢の中で、警察としては当面、次のような施策を重点的に推進していくこととしている。
○ 国境を越える犯罪への対応
 国境を越える犯罪へ対応するため、捜査能力と語学能力の双方を兼ね備えた捜査員の養成、通訳体制の整備等国際捜査力を強化するとともに、関係行政機関や外国捜査機関等との連携を強化するほか、国際社会における国際捜査協力の枠組み作りに積極的に取り組み、国際犯罪組織の実態解明と検挙を推進する。
○ 市民の安全と平穏の確保
 地域安全活動の推進、交番等の「生活安全センター」としての機能の強化等を図る。
 また、凶悪化の進展等深刻化する少年非行情勢に対しては、関係機関等と連携しつつ、「強くやさしい」少年警察運営を基本方針として総合的な対策を推進する。
 さらに、風営適正化法の適切な施行、悪質な生活経済事犯等の取締り等を推進する。
○ 銃器・薬物対策の推進
 銃器・薬物対策については、「銃器対策推進本部」と「薬物乱用対策推進本部」を中心に関係機関が連携の上、政府を挙げて総合的に推進している。警察では、銃器対策については、暴力団等の組織管理に係るけん銃の押収とけん銃等の密輸・密売事件の摘発を重点とした取締り等を積極的に推進し、薬物対策については、薬物犯罪組織の壊滅に向けた薬物の供給ルートの解明、麻薬特例法を活用した不法収益対策の強化、末端乱用者の徹底検挙等を積極的に推進する。
○ 環境犯罪対策の推進
 環境問題が世界的にますます重要となり、我が国においても社会問題化している情勢を踏まえ、産業廃棄物事犯等を「環境犯罪」ととらえて、広域にわたる産業廃棄物の不法投棄事犯等に対する取締りを強化するなどの対策を推進する。
○ 捜査力の充実強化
 平成10年においては、刑法犯の認知件数が200万件を超え戦後最高を記録しただけでなく、犯罪の広域化、スピード化及び国際化が進んだ。また、重要犯罪等に加え、来日外国人や暴力団等の組織犯罪の脅威が深刻化している。
 こうした情勢に対処するため、警察では、広域捜査力、専門捜査力、国際捜査力及び科学捜査力の強化、国民協力の確保等を図る。
○ 金融・不良債権関連事犯対策
 融資過程又は債権回収過程における詐欺、背任、競売入札妨害等の金融・不良債権関連事犯の捜査を徹底的に行い、不正事案の摘発及び防圧に努める。
○ ハイテク犯罪対策の推進
 ハイテク犯罪に的確に対処するため、高度な技術力を備えたサイバーポリスともいうべき体制の充実・強化を進めるとともに、不正アクセス行為を禁止・処罰する法律の整備に取り組んでおり、さらに、産業界との連携、国際捜査協力等の一層の推進を図る。
○ 暴力団総合対策の推進
 暴力団が市民生活に対する重大な脅威となっている情勢に対処し、暴力団を壊滅させるため、暴力団犯罪の徹底検挙、暴力団対策法の適正かつ効果的な運用及び暴力団排除活動の積極的推進を、3本の柱として暴力団総合対策を強力に推進する。
○ 安全で快適な交通の確保
 交通安全教育指針に基づく段階的かつ体系的な交通安全教育の推進や、悪質・危険性、迷惑性の高い違反に対する取締りの強化等、交通事故を防止し、その被害軽減を図るための施策を総合的に展開する。また、交通渋滞や交通公害が大きな社会問題となっていることから、最先端の情報通信技術を利用した交通管理システムの高度化を図るなど、快適な交通の確保のための諸施策を推進する。
○ オウム真理教関連事件の全容解明
 オウム真理教による組織的違法事案の全容解明と再発防止を図り、また、警察庁長官狙撃事件と教団との関連を解明するためにも、依然逃走中の特別指名手配被疑者等の早期検挙に全力を尽くす。さらに、事件後勢力を回復しつつある教団の動向把握に積極的に取り組む。
○ 各種テロ対策の強化及び各種違法事案の未然防圧、徹底検挙
 極左暴力集団による凶悪なテロ、ゲリラ事件及び各種違法事案の未然防圧と徹底した取締りを推進する。また、右翼によるテロ等重大事件の未然防圧及び銃器摘発の強化や悪質な資 金源活動等の取締りを推進する。さらに、国内外の厳しいテロ情勢を踏まえ、各種情報の収集及び分析の強化、特殊部隊(SAT)等の強化、サイバーテロやNBC(核・生物・化学)テロ対策の検討、国際協力の促進等について積極的に推進する。
○ 警察力強化のための総合的な取組み
 組織、人員の効率的運用、職員の資質の向上、業務処理方法の見直し、装備資機材の近代化等を更に積極的に推進するとともに、多様な人材の確保、女性警察職員の職域拡大等を図る。
 また、職員の高い士気を維持するとともに、今後の警察を担う優秀な人材を確保するため、中途採用等の採用の複線化を図るとともに、勤務環境の改善、職員住宅や独身寮の整備充実、給与の改善、海外研修制度の拡充等を積極的に推進する。
○ 警察の情報通信システムの充実及び事案に即応する体制の強化
 事件、事故及び災害に迅速かつ的確に対応するため、警察統合情報通信ネットワークシステム、WIDE通信システム等の充実を図るとともに、機動警察通信隊の体制強化に努める。
○ 被害者対策の推進
 被害者の支援をより充実させていくため、被害者に対する情報提供、相談・カウンセリング体制の整備、捜査過程における被害者の負担の軽減等の各種の施策の一層の推進を図るとともに、被害者と直に接する機関である警察署における体制の整備、民間の被害者援助団体の活動に対する支援の強化等を行っていく。

 なお、平成10年は、旧警察法が施行されてから50年を経過した年であることから、第2章以降の各章の冒頭に、「50年の歩み」として50年の情勢の推移とそれに対する警察の対応を簡潔に記述した。


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