第3節 警察活動のささえ

1 警察の組織

 我が国の警察組織は、都道府県の警察機関と国の警察機関から構成されている。まず、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、公共の安全と秩序の維持に当たるという警察の責務を遂行するため、都道府県を単位として、都道府県警察が置かれ、これら都道府県の警察機関をその所掌事務の範囲内で指揮監督する国の警察機関として、警察庁が置かれている。さらに、警察庁には、その地方機関として、管区警察局等が置かれている。
(1) 国と都道府県の警察組織の概要
ア 警察庁の組織
 警察庁には、警察庁長官とその補佐機関としての次長のほか、内部部局として、長官官房、生活安全局、刑事局、交通局、警備局、情報通信局が置かれ、長官官房には国際部が、刑事局には暴力団対策部がそれぞれ置かれている。また、警察庁の附属機関として、警察大学校、科学警察研究所及び皇宮警察本部が置かれ、地方機関として、管区警察局、東京都警察通信部及び北海道警察通信部が置かれている。
 警察庁長官は、国家公安委員会の管理の下に、警察庁の所掌事務について都道府県の警察機関を指揮監督するほか、内閣総理大臣から大規模災害等に際して緊急事態の布告が発せられたときは、布告地域を管轄する都道府県警察の警視総監又は道府県警察本部長に対し必要な命令、指揮を行うなど警察法に基づく権限を有している。
イ 都道府県警察の組織
 都道府県警察は、都道府県に置かれる機関であり、都警察の本部として警視庁が、道府県警察の本部として道府県警察本部が置かれ、都道府県の各地域を管轄する警察署とその下部機構としての交番、駐在所が置かれている。また、都道府県警察の長として、都警察には警視総監が、道府県警察には道府県警察本部長が置かれている。なお、北海道は、その区域を5つの方面に分け、道警察本部の所在地(札幌)を管轄する方面以外の方面については、それぞれ方面本部が置かれている。
(2) 管区警察局の役割とその活動状況
ア 管区警察局の組織
 管区警察局は、警察庁の機能を地域を分けて分掌する機関で、東北管区警察局、関東管区警察局、中部管区警察局、近畿管区警察局、中国管区警察局、四国管区警察局及び九州管区警察局が設けられている。なお、北海道及び東京都は、管区警察局の管轄区域外とされている。
イ 管区警察局の役割と活動状況
 管区警察局は、広域対応を必要とする警察事象その他の国の公安に係る警察事象に関する警察活動をはじめ、監察や教育訓練、警察情報通信等の業務について、主体的な役割を果たしている。
(ア) 広域犯罪の捜査
 広域対応を必要とする銃器・薬物事犯や広域にわたる殺人、強盗等の重要事件に係る合同・共同捜査、広域捜査隊の運用、捜査員の広域運用等に関して管轄区域内の各府県警察に対する必要な指導調整を行っている。
[事例] 4月、九州管区警察局は、広域にわたる身の代金目的誘拐事件を想定し、捜査力の向上を図るとともに、広域的な事件にも対応できる体制を確立することを目的として、管区警察局に設置した事件対策室の指揮、各県警察間の連携、現場における捜査指揮と捜査活動、資機材の活用等について実践的な訓練を実施した。
(イ) 広域組織犯罪対策
 外国人犯罪組織や暴力団に係る広域事件の捜査に関して、管轄区域内の各府県警察に対する指導調整を行うとともに、それらの情報収集等に努めている。
[事例] 6月、近畿管区警察局は、組織犯罪対策の一環として、横断的・集中的な取締り活動の強化及び犯罪組織の実態の解明と事件化の推進を図るため、暴力団の資金獲得犯罪の取締りの在り方について「組織犯罪対策会議」を開催した。同会議には、同管区警察局関係課と、同管区内各府県警察の組織犯罪対策関係部門(刑事、生活安全、警備、外事各部門)幹部等が出席し、今後の組織犯罪対策について協議を重ねた。
(ウ) 大規模災害対策
 管区警察局は、大地震等の大規模災害が発生した場合には、被災情報、交通状況等に関する情報の収集に当たるとともに、管区警察局ごとに編成された管区機動隊、広域緊急援助隊、管区警察局等に設置された機動警察通信隊の派遣に関する必要な調整を行っている。また、警察車両の緊急通行を確保するための広域的な交通規制を的確に実施するための措置を講じている。
[事例1] 東北管区警察局は、「8月末豪雨」に際し、災害対策官を長とする「災害警備連絡室」を設置するとともに、多大な被害が発生した福島県に対し、局職員を派遣して被災状況等の情報収集に努めた。
 また、現地から、警察庁、東北管区警察局及び福島県警察本部までの映像通信を確保するため、機動警察通信隊を衛星通信車とともに派遣して情報の収集等に当たった。
[事例2] 6月、関東管区警察局は、埼玉県大宮市において同管区内各県警察の広域緊急援助隊を召集し、部隊出動訓練、地震災害対策訓練(被害情報収集訓練、被害者の救出救助訓練)、事故災害対策(航空機墜落対策)訓練等の総合的な災害警備訓練を実施した。
 また、情報通信部や各県通信部から機動警察通信隊員を召集し、同訓練に参加させ、臨時通信回線を確保するとともに、訓練状況を衛星通信システムを使用して全国に放映した。

(エ) その他の広域的な警察活動
 このほか、警衛、警護、警備の実施や、都道府県を越えて活動する鉄道警察隊員の活動、高速道路における交通規制、指導取締り、機動装備隊の運用等においても、管区警察局が管轄区域内の各府県警察に対して指導調整を行い、警察事務の統一的かつ能率的な遂行を図っている。
[事例]12月、四国管区警察局は、毎年暴走族により行われる、いわゆる「初日の出暴走」の取締り強化のため、管区内各県警察の暴走族担当者を集めて会議を開催し、情報の共有化や県境検問等の実施等について必要な指導調整を行った。
(オ) 監察
 管区警察局では、管轄区域内の各府県警察に対する監察を随時又は計画的に行い、管轄区域内の各府県警察の事務執行の合理化、適正化に努めている。
 平成10年中は、来日外国人犯罪の実態解明と検挙、関係機関との連携、体制の確立等に向けて講じている各種施策の推進状況に重点を置いた来日外国人犯罪対策の推進状況に関する業務監察等を行った。
(力) 教育訓練
 管区警察局では、管轄区域内の各府県警察における教育水準の維持向上を図るとともに、特に専門的な警察活動に係る警察職員の能力を充実させるため、中堅幹部職員に対する教育訓練や身の代金目的誘拐事件等の捜査手法に関する研修会等を開催しているほか、管区機動隊や広域緊急援助隊等の各種訓練を行っている。
[事例] 9月、中部管区警察局は、管区内各県警察の暴力団犯罪取締り担当幹部を集め、捜査能力の向上を目的とする研修会を開催した。同研修会では、山口組傘下組織による企業活動を利用した資金獲得犯罪である破産法違反(詐欺破産)事件の検挙事例を題材に検討が行われた。
(キ) 警察情報通信
 管区警察局では、警察活動を行う上で必要不可欠である情報通信の中核として、警察庁と各管区警察局等を結ぶ管区間系無線多重回線及び管区警察局とその管轄区域内の各府県警察本部等を結ぶ管区内系無線多重回線等の情報通信システムの維持管理に当たっている。
 また、機動警察通信隊の編成、運用や、警察統合情報通信ネットワークシステムの運用等に関する中核的役割を果たしている(5(2)イ、5(3)ア参照)。
(ク) その他
 このほか、管区警察局では、高等検察庁、地方入国管理局、管区海上保安本部等の他のブロック単位の関係機関等と共に連絡協議会を開催するなど、連携の強化に努めている。
 なお、緊急事態の布告が発せられた場合は、管区警察局長は、布告区域を管轄する府県警察の警察本部長に対し、必要な命令をし、又は指揮をするものとされており、管区警察局は、緊急事態に際して国が治安責任を全うするために不可欠な機関として位置付けられている。
[事例] 8月、中国管区警察局は、中国地方を管轄する海上保安本部、入国管理局、税関等の関係機関に呼び掛けを行い、「中国地方における集団密入国対策関係機関連絡会議」を開催した。会議では、集団密入国事件の対策について意見交換等が行われるとともに、関係機関の緊密な連絡通報体制の必要性が確認された。

2 警察職員

 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察職務の遂行に当たっている。
 警察が、その責務を全うしていくためには、現在警察で勤務している職員の高い士気を維持するとともに、今後の警察を担っていく優秀な人材を確保する必要がある。そのため、職員の待遇改善、勤務環境の整備等に努めているところであり、現在の職員だけでなく、将来警察で勤務する者にとっても、更に魅力ある職場づくりを積極的に推進しているところである。
(1) 定員
 平成11年度の警察職員の定員は、総数26万3,402人で、その内訳は、表8-2のとおりである。

表8-2 警察職員の定員(平成11年度)

 11年度は、地方警察職員たる警察官の増員は行われなかった。警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で555人である(ただし、人口は10年3月31日現在の住民基本台帳人口による。)。
(2) 教育訓練
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いことから、適正に職務を執行するための良識と高度な実務能力が必要とされる。このため、警察では、警察学校と職場において、あらゆる機会を通じて現場に即した教育訓練を行い、プロとしての実務能力と資質の向上に努めている。また、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法等の術科訓練においては、最近の犯罪情勢にかんがみ、凶悪犯罪、特に銃器使用犯罪に的確に対処するための実戦的な訓練に力を入れている。
 警察学校においては、新たに採用した警察官に対して、警察官として必要な基礎的知識や技能を修得させる採用時の教育訓練、各階級昇任者に対して、幹部として必要な知識と技能を修得させる昇任時の教育訓練、特定の分野に関して高度の専門的な知識と技能を修得させる各種の教育訓練等を実施している。また、その教育効果を高めるため、ゆとりのあるカリキュラムの設定やクラブ活動の実施、学生のプライバシーに十分配慮した学生寮の改善等の教育環境の整備を行っている。
 職場においては、警察官の能力開発の基本的な手法として、上司等による日常の勤務を通じての個人指導(OJT)をはじめ、各種の研修会・講習会の開催、小集団活動の推進等の多角的な教育訓練を積極的に行うとともに、各種資格取得奨励制度等の自己啓発を支援するシステムの拡充に努めている。
 なお、極めて卓越した専門的技能や知識を有する職員を「警察庁指定広域技能指導官」に指定するなどして、職員に対する専門的な実務指導に当たらせている。
 さらに、国際化に的確に対応するため、各種語学教育を積極的に推進するとともに、職員を外国の語学学校や警察機関等に派遣し、語学力と実務能力の向上を図っている。
 また、警察官に求められる職業倫理の確立と使命感の醸成を図るため、その指針として制定した「警察職員の信条」を中心とする職業倫理教育に力を入れているほか、市民の立場から親切かつ適切に職務を行うため、民間企業への派遣研修、部外講師による応接マナー講習会、応接指導者研修等を行っている。
(3) 勤務
ア 警察職員の勤務
 警察では、その責務を果たすため、24時間警戒態勢を確保している。そこで、交番勤務等を行う地域警察官をはじめ、全警察官のおおむね4割は、交替制勤務で3日ないし4日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、1週間に1度程度の割合で夜間勤務に従事している。また、犯罪捜査をはじめ、事件、事故、災害への対応のため、勤務時間外に長時間にわたり困難な業務に当たることが多い。
 このような警察職員の勤務の特殊性にかんがみ、これまで、駐在所勤務員の複数化、交番等の勤務環境の改善、階級別定数の見直し、巡査長制度の見直し、完全週休二日制導入に伴う勤務制度の改善、年次休暇の計画的取得の促進、超過勤務手当等の給与の改善等を図ってきたが、今後とも職員の待遇改善を積極的に推進することとしている。
イ 警察官の殉職、受傷
 警察官は、個人の生命、身体及び財産を保護し、公共の安全と秩序の維持に当たるため、自らの身の危険を顧みず職務を遂行し、その結果、不幸にして職に殉じたり受傷したりする場合がある。平成10年においては、物件事故現場において交通規制を行っていた警察官が、前方不注視の車両に跳ねられて殉職する事案、職務質問に対しけん銃を発砲して逃走した被疑者を追跡した警察官が、被疑者を取り押さえようとした際にけん銃で撃たれて受傷する事案等が発生した。
 このように、職に殉じたり受傷した警察官又はその家族に対しては、公務災害補償制度による公的補償のほか、警察関係厚生団体による子弟に対する奨学金等、各種の手厚い保護の措置がとられている。
[事例] 12月、A巡査長(38)は、高速道路における物件事故現場に臨場した際、交通規制を行うため、トランクからセーフティコーンを取り出そうとしていたところ、減速せずに規制車線に進入してきた乗用車に跳ね飛ばされ、出血性ショックのため殉職した。同人の遺族に対しては、公務災害として法律に基づく給付金が支給されたほか、同人の果敢な職務執行をたたえるために賞じゅつ金等が支払われた(滋賀)。
(4) 女性警察職員
 平成11年4月1日現在、全国の都道府県警察には、警察官約8,300人、交通巡視員、少年補導職員等の一般職員約1万2,400人の女性が勤務している。
 女性の警察官の働く分野も次第に拡大され、交通の指導取締り、少年補導、女性の留置、保護、広報等の分野のみならず、犯罪捜査、鑑識活動、暴力団対策、警衛・警護、情報分析、レスキュー、ヘリコプター操縦等の幅広い分野に及んでいる。また、警察本部の課長や警察署長をはじめ上級幹部への登用も進められている。
 なお、民間企業と契約した「ベビーシッター制度」等、女性が働きやすい職場環境の整備も積極的に進められており、全国の警察組織において、更に多くの女性が幅広い分野で活躍することが期待されている。

(5) 採用への総合的取組み
 平成10年度に都道府県警察の警察官採用試験を受験した者は約14万4,700人、合格した者は約6,900人(うち大学卒業者は約4,600人)であり、競争倍率は約21倍であった。
 警察官としてふさわしい能力と適性を有する人材を確保することは、警察力の基盤強化を図る上で極めて重要な意義を有しており、このため警察ではこれまでも人材の確保に努めてきた。しかし、今後、警察官の採用必要数が増加していくことが見込まれる反面、若年人口は減少していくことなどから、警察官の採用をめぐる情勢についても、厳しさを増すことが予想される。このような情勢を踏まえ、今後とも優秀な人材の確保を図るため、中途採用、受験年齢の引上げ等採用の複線化を行うとともに、勤務環境を改善し、快適な独身寮の整備、拡充等をはじめとする各種施設の整備を図るなど、魅力ある職場づくりのための施策を積極的に推進している。
 なお、中途採用については、悪質、巧妙化する知能犯や化学物質を悪用した犯罪、多発する来日外国人犯罪等に対処するため、財務、情報処理、化学物質等に関する専門的知識、能力を有する者や外国語による取調べ、折衝能力を有する者等の警察官としての採用を推進している。
(6) 適切な業務運営
 警察運営を国民の期待と信頼にこたえるものとしていくためには、すべての警察職員が職責を自覚し、その持てる能力を十分に発揮して、職務に精励することが大切である。このため、警察庁及び都道府県警察は、「業務適正化委員会」を設置し、警察各部門における業務運営や服務に関する問題点を抽出、検討して、現場活動の充実、強化等の具体的かつ効果的な業務改善方策等を講じている。

3 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費のみならず、都道府県警察が使用する警察用車両やヘリコプターの購入費、警察学校等の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等の都道府県警察に要する経費や都道府県警察への補助金が含まれている。
 平成10年度の警察庁予算は、当初予算において、テロ等緊急事案対策の強化、来日外国人組織犯罪対策の強化、交通安全対策の強化等について重点的に予算措置したほか、第1次及び第3次の補正予算において、情報通信基盤の整備、科学捜査力の充実強化等について予算措置している。
 10年度の警察庁当初予算は、総額2,529億646万円で、前年度に比べ11億7,549万円(0.5%)の減少であり、国の一般歳出総額の0.57%を占めている。また、最終補正後の警察庁予算現額の内訳は、図8-2のとおりである。
 10年度の都道府県警察予算は、各都道府県において、それぞれの財政事情、犯罪情勢等を勘案しながら編成されているが、その総額は3兆4,692億5,600万円で、前年度に比べ309億9,000

図8-2 警察庁予算(平成10年度最終補正後)

図8-3 都道府県警察予算(平成10年度最終補正後)

万円(0.9%)増加し、都道府県予算総額の6.0%を占めている。その内訳は、図8-3のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を国の人口で割ると、10年度の国民一人当たりの警察予算額は約2万9,000円となる。

4 装備

(1) 機動装備隊の活動
 機動装備隊は、事件、事故及び災害が発生したときに、現場における装備面からの支援をこれまでよりも更に充実・強化する目的で全国的に設置された警察装備に関する特別部隊である。
 日常的には、装備品を維持・管理し、その操作方法の指導、各種装備品に関する部門間の調整等を任務としている。また、事件、事故等に際しては、必要な装備品を現場に搬送して操作するなどの各種支援活動に取り組んでいる。
[事例] 「8月末豪雨」の発生に伴い、福島県警察機動装備隊は、救命ボート、エアーテント、投光車、毛布等をはじめとする災害救助用装備品を被災現場に大量に搬送した。現場到着後は、家屋倒壊現場において搬送した装備品を自ら操作して救出活動の援助に当たったほか、冠水現場や堤防決壊のおそれの高い現場等へも出動し、それぞれ多数の救助用装備品を搬送し、その操作方法を指導するなどの支援活動を数日にわたって行った。
(2) 車両、船舶、航空機
ア 車両
 警察用車両には、捜査用車、鑑識車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ等の交通警察活動用車両、警らパトカー、移動交番車等の地域警察活動用車両等がある。現有警察用車両の用途別構成は、図8-4のとおりである。

図8-4 警察用車両の用途別構成(平成10年度)



 平成10年度は、テロ等緊急事案対策用車両のほか、来日外国人組織犯罪対策用車両、薬物乱用防止対策用車両、交通安全対策用車両等を増強整備した。
 今後も、警察事象の広域化、複雑化等に的確に対応して、国民の負託にこたえていくため、警察機動力のかなめである警察用車両の整備、充実を一層図っていく必要がある。
イ 船舶
 警察用船舶は、全長3メートル級から23メートル級のものまで全国で合計230隻あり、港湾、離島、湖沼等に配備され、多様化する水上レジャーの安全指導、水難救助、けん銃、覚せい剤等の密輸事犯の取締り等の水上警察活動に活用されている。
 今後の警察用船舶の整備に当たっては、水上警察事象の広域化、高速化に対応するため、大型化、高速化、高性能化を更に図っていく必要がある。
 なお、水上警察活動については、第2章第2節2(2)ア参照。
ウ 航空機
 警察用航空機は、昭和35年より配備を始め、空からのパトロール、犯人の捜索や追跡等の捜査活動、交通指導取締り、災害時等の救難救助や情報収集等警察活動全般にわたる幅広い分野で活動している。平成10年度末現在、警察用航空機の配備数は、47都道府県警察で合計72機(すべてヘリコプターである。)となっている。
 今後とも、災害対策を含む警察活動全般をより効果的に遂行するため、引き続き警察用航空機の整備、充実を図っていく必要がある。
 なお、警察用航空機の活動については、第2章第2節2(2)ウ参照。



(3) 警察装備の開発改善・整備
 警察では、警察活動の基盤となる装備品に、最先端科学技術を導入することによって、警察業務の効率化と高度化に努めている。
 平成10年度においては、第一線警察からのニーズが高い薬物事犯対策用装備品等の開発改善に努めた。
(4) 制服
 警察官の制服は、国民の期待と信頼にこたえ得る象徴性を有し、警察官の端正さ及び品位の保持に資するもので、警察活動を円滑に実施し得る機能を有することを基本としている。
 昭和31年に男子警察官の制服を全国統一し、その後43年に時代に即したデザイン及び色調への改正、51年に女性の警察官の制服を全国統一、さらに平成6年には流動する社会情勢を踏まえ、警察活動にふさわしい機能性等に優れた制服に改正し、現在に至っている。

5 警察活動と情報通信

(1) 警察情報通信の過去50年における発展及び変遷
 警察は、その時代の先端の情報伝達の手段を取り入れてきた。警察活動においては、屋外で活動することが多い警察官等に対して、指令及び相互の通信手段を確保することは必要不可欠であり、それには、無線による通信手段が最適であることから、無線機等の整備を推進してきた。このため、昭和25年から音質が良く、小型化が容易なFM方式による車両搭載形の警察用移動無線機を導入し、45年には自動車電話システムを導入した。そして、58年にデジタル方式による移動無線システムを導入し、さらに、デジタル無線のデータ通信機能をいかし、警察車両に搭載したコンピュータによる各種照会や緊急配備等の指令を受信して表示するパトカー照会指令システムを60年に導入した。平成3年に、広域犯罪等に対処するため、WIDE通信システム(表8-3)を導入している。こうした警察情報通信の発展に併せて、無線局の数は飛躍的に増大し、昭和23年に約1,000局であったものが平成10年度末には約16万局となっている。
 このほか、警察機関相互の文書伝達手段として昭和22年にファクシミリを導入し、その後、27年にファクシミリによる全国通信網の運用を開始した。また、事案現場の状況等を警察本部等で把握し、効率的な指令等を行うため、36年にテレビカメラで撮影した映像の通信を行うようになった。43年にはヘリコプターテレビを導入し、災害現場等の映像を見ることができるようになった。58年からは衛星通信システムの利用を開始した。
 一方、警察事務の機械化、効率化を図るため、早くから、警察庁及び都道府県警察等にコンピュータ・システムを導入してきた。まず、34年には統計情報のコンピュータによる処理を実施し、39年には大型コンピュータを導入し、運転免許の不正取得を防止するための照会等の業務を開始した。コンピュータの能力は時の流れとともに高性能化しており、57年には運転免許証の即日交付が可能となった。58年には指紋を作成した原紙から自動的に読み取り、照合を行うことのできる指紋自動識別システムによる遺留指紋照合業務を開始した。これにより、照合能力が向上するとともに、照合時間も大幅に短縮され、事件解決に大きく寄与した。また、平成10年にはライブスキャナの整備等により同システムの高度化を図った(第3章第2節3(3)ア(イ)参照)。この間、3年には写真や手書き文字を画像情報化して検索する画像情報検索システムを整備した。
(2) 危機管理を支える警察情報通信
 警察では、全国のあらゆる場所、あらゆる形態で発生する事件、事故及び災害に即座に対応できるように、警察の神経系統となる各種情報通信システムを独自に開発、導入し、その全国的整備、高度化に努めている(主要な警察の情報通信システムは、表8-3参照)。
 また、各都道府県単位に国の機関である通信部を設置し、各種情報通信システムの間断ない管理、運営に努めているとともに、管区警察局には情報通信部を設置して、広域・重大事案発生時の通信施設の運用等に関する指導調整等の業務を行っている。
 なお、警察の情報通信基盤は、自営の無線多重回線、衛星通信回線、電気通信事業者から借り上げた専用回線等により構成されており、これらを活用して、警察庁から警察本部はもちろん、第一線の警察署や交番に及ぶ全国的な各種情報通信システムを構築し、警察業務上不可欠な情報伝達を行っている。



ア 大規模災害に対して強じんな警察情報通信
 警察では、大規模災害発生時等には、通信需要が急増する箇所に必要な回線を割り当てたり、被災地における警察無線やヘリコプターテレビの映像を警察庁等へ送ったりするなど、警察独自の情報通信システムを適宜柔軟に活用している。また、全国に警察通信職員を配置

表8-3 主要な警察の情報通信システム

し、被災した箇所の迅速な復旧や平時における維持管理に努めている。
イ 機動警察通信隊の活動
 大規模な災害、事故、事件等が発生した際に、現場の警察官と警察本部との間における連絡や指揮命令が円滑に行われるように、各都道府県の通信部に設置された機動警察通信隊が出動して、応急用回線を確保している。
 機動警察通信隊は、平成10年4月より活発化した岩手山火山性地震、「8月末豪雨」等の災害発生時において、ヘリコプターテレビや地上のテレビカメラで撮影した現場の映像を、衛星通信車等を利用して警察庁、警察本部等に伝送したほか、小型航空機墜落事故等の山中における捜索等の際には、臨時の無線中継所の開設や臨時電話の設置等を行い、応急通信回線の確保に活躍した。
 また、どのような事案においても臨機応変に対応することができるようにするため、実践的訓練を行っている。

ウ 広域事件捜査における警察情報通信
 被疑者が頻繁に移動するような広域事件の場合は、捜査活動の範囲も広域にわたることとなる。
 このため、警察では、WIDE通信システムや自動車ナンバー自動読取システム(第3章第2節3(3)ア(ア)参照)を導入し、広域事件捜査の効率化に努めている。
エ 市民生活を守る警察情報通信
 市民生活を守る警察活動を迅速かつ的確に行うためには、市民からの通報の第一線の警察官への伝達や、第一線の警察官相互間の情報交換が円滑に行われることが必要である。
 このため、警察では、指令通信システムやその支援システムの高度化を図っているほか、第一線警察官の使用する警察移動無線の整備拡充に努めている。
(3) 警察行政の情報化
 警察においては、情報化推進のための計画を策定し、警察行政の情報化を総合的・計画的に推進しているところである。平成10年5月には、「警察行政情報化推進計画」を10年度を初年度とした5箇年計画として策定し、警察内部における各種情報の共有化を一層推進することにより、業務の効率化、合理化及び市民サービスの向上に努めているほか、インターネット・ホームページを利用し、情報の提供、政策決定過程における意見の受付等を実施している。
ア コンピュータ・ネットワークによる情報共有化の推進
 警察においては、犯罪捜査、運転者管理等多方面にわたる各種業務の効率的遂行を支えるため、全国的なコンピュータ・ネットワークを構築し情報の共有化を推進している(表8-3)。
イ 犯罪捜査のための照会業務の効率化
 警察では、各都道府県警察から手配された「人(家出人等)」、「車(盗難車等)」、「物(盗難品等)」に関するデータを大型コンピュータで管理し、第一線の警察官からの照会に対して回答する業務を24時間体制で運用している。これらの照会は、各都道府県警察の警察本部やパトカーの端末装置等から、速やかに行うことが可能である。
 また、各都道府県警察が保管している被疑者写真等や犯罪手口原紙等の画像情報を警察庁に登録し、各都道府県警察からオンラインで検索できる画像情報検索システムや、被疑者指紋を登録し、犯罪現場に残された遺留指紋と登録された指紋との照合等を行うことができる指紋自動識別システム(第3章第2節3(3)ア(イ)参照)を整備し、被疑者の割り出し等犯罪捜査の効率化を図っている。
ウ 市民サービスの情報化
 10年末現在、日本での運転免許保有者数は約7,300万人を数える。警察では、免許証の迅速な交付、免許証の二重取得の防止等を図るため、運転免許保有者に関するデータ及び交通違反に関するデータを警察庁の大型コンピュータで管理することにより、免許の取消し、停止等の行政処分の業務の効率化を図っている。
 また、警察署における遺失・拾得物の受理、遺失者への返還等の窓口業務や自転車防犯登録業務等にコンピュータを活用して、業務の効率化を図っている。

6 留置業務の管理運営

 平成10年末現在、全国の留置場の設置数は1,284箇所で、年間延べ約330万人(1日平均約9,000人)の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
 警察では、捜査を担当しない総務部門又は警務部門が留置業務を担当し、捜査と留置の分離の徹底を図っている。
 留置場施設については、被留置者の人権に配意しつつ、その改善、整備に努めている。例えば、被留置者のプライバシーを保護し、その生活環境の改善を図るため、留置室を横一列の「くし型」に配置し、その前面にはしゃへい板を設置することとしているほか、留置室内トイレの構造の改善、留置場内の冷暖房化等の施設改善や、感染症対策資機材の設置、ラジオ、日刊新聞紙の備付け、食事内容の改善を進めている。また、急増する外国人被留置者の処遇の適正を図るため、洋式便器やシャワ-装置を設置したり、被留置者の母国語の音声と文字によって留置場における処遇等を教示できる機器の整備に努めている。さらに、女性の被留置者についても、従来から女性の特性に十分に配慮した処遇を行っているが、その処遇全般を女性の警察官が行う女性専用留置場の設置も推進している。



 警察庁では、以上のような、留置業務の運用面、施設面での適正を確保しつつ、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について計画的に巡回視察を実施している。
 ところで、警察の留置場については、被留置者の処遇の内容、設置の根拠等が法律上は必ずしも明確でない。そこで、監獄法の改正が行われるのを機会に、法制審議会の答申の趣旨に沿って、被留置者の処遇の内容を定め、警察の留置場に留置される被勾留者等と拘置所に収容される者との処遇の平等を保障するとともに、捜査と留置の分離を法律上の制度として明確にするため、刑事施設法案と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法律案は、3年4月、第120回国会に提出され、5年6月、衆議院の解散に伴い、審査未了となった。

7 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済

 市民が社会公共のため現行犯人を逮捕したり、人命救助を行うなど警察官の職務に協力援助して、負傷し、疾病にかかり、障害を負い、又は死亡した場合は、本人やその家族の生活の安定を図るため、その程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 平成10年に、警察官の職務に協力援助して死亡し、又は受傷した市民は、死者12人、受傷者28人で、前年に比べ死者は3人増加し、受傷者も6人増加した。
[事例] 6月、飲食店にいた協力援助者が、女性の悲鳴が聞こえたので店外に出たところ、覆面をした男が女性に馬乗りになって顔面を殴っているのを発見し、止めに入ったが、その男は、協力援助者に体当たりをして逃走した。協力援助者は、追跡し格闘の末取り押さえたが、突然、男は、隠し持っていた刃物で協力援助者の左胸部を刺した。協力援助者は、その負傷のため1週間後に死亡した。この事案については、入院中の療養給付のほか、葬祭給付と遺族給付が支給された(群馬)。

8 シンクタンクの活動

(1) 警察政策研究センターにおける活動
 警察政策研究センターでは、警察が現在直面する課題や将来生じ得る治安かく乱要因に関する調査研究を進めるとともに、警察と学者等有識者との交流の窓口として活動している。
 平成10年には、6月に発足した「警察政策学会」をはじめとする各種学会に参加したほか、(財)公共政策調査会等との共催により、ハイテク犯罪に関するフォーラムや、組織犯罪対策に関するフォーラム等を開催した。
[活動例] 組織犯罪対策の国際的動向に関するフォーラム
 12月、米国から学者や司法省担当者を招き、米国の法制を主な題材として、中央大学との共催でフォーラムを開催した。同フォーラムでは、組織犯罪による不法収益対策に関する講演と意見交換が行われた。
(2) 警察通信研究センターにおける活動
 警察通信研究センターでは、無線通信技術、情報通信システムのセキュリティに関する技術、データ処理技術、暗号技術等、警察活動にかかわる情報通信技術について研究し、これらを応用した新しい警察通信機器等の開発や捜査活動等の支援を行っている。さらに、急速に進展する高度情報通信社会に対応するため、ハイテク犯罪の技術的な遂行過程を解明するための研究を行うなど、研究活動の充実に努めている(このほか、警察通信研究センターの活動については、第3章第3節2(9)イ参照)。
[研究例1] VTR画像の鮮明化に関する研究
 銀行、コンビニエンスストア等に設置された防犯ビデオカメラにより撮影されたVTR画像を、現場写真や見取図等の情報と関連付けることにより、犯行の状況や犯人の着衣、所持品等の色柄形状を正確に再現する総合的な画像処理技術の研究を行った。
[研究例2] 無線通信の通信品質の向上に関する研究
 パトカー等に搭載している無線機の通信品質の向上を図るため、品質劣化の原因の一つである電波干渉の発生メカニズムの解明を行うとともに、電波干渉の影響を受けないようにアンテナの指向性を電気的に制御できるアダプティブ・アレー・アンテナ技術に関する研究を行った。
(3) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、社会で問題となっている事件、事故等の背景、原因等を科学的に分析して、これに基づいて政策提言を行うなど多様な研究を行っている(このほか科学警察研究所の活動については、第3章第2節3(3)参照)。
[研究例1] 少年の薬物乱用防止対策に関する研究
 刑法犯及び覚せい剤取締法違反等で検挙・補導された少年(635人)を調査対象者として、薬物使用の実態、薬物に関する知識、今後薬物を使用する意図、飲酒喫煙との関連等について調査した。その結果、薬物使用の違法性や短期的な薬物の影響(致死性)についてほとんどの者が知識を有していた(違法性について98.5%、致死性について85.8%)が、長期的な影響(耐性・依存性)については知らない者がかなりいた(耐性について26.8%、依存性について33.8%)。また、薬物乱用少年のほとんどが喫煙経験を有し(97.5%)、喫煙との関連が顕著であることを明らかにした。
[研究例2] 地域安全情報のデータベース化に関する研究
 住民が安心して暮らせる安全な町づくりに資するため、事件や事故の発生状況等をコンピュータ地図上に登録してそのパターンを分析する「地域安全情報データベース・システム」に関する研究を行っている。
 これまでに、事件の発生地点等をコンピュータ地図上に自動的に登録する手法や、類似事件の多発している地区等を迅速に検出、表示する手法を開発するとともに、犯罪を誘発したり住民に不安感を抱かせる環境要因に関する調査研究を実施し、地域の安全性診断等の基礎となるデータベースの構築を進めている。
[研究例3] 交通公害対策の評価手法に関する研究
 都市圏を中心とした自動車交通公害は依然として深刻な状況にあり、対策の更なる充実が望まれている。そこで、交通総量削減を意図したバスレーンの設置、居住地域への車両通行抑制等様々な交通管理対策による交通公害低減効果を、交通の安全性や円滑性と同時に評価する総合型の評価システムを開発した。このシステムにより、個々の自動車交通公害問題に対して、具体的な対策の実施前に評価・検討を行うことが可能になった。
[研究例4] 高齢運転者の講習に関する研究
 高齢運転者の行動機能を客観的に測定し、教育効果及び指導の容易さを目指した運転操作機器の評価基準の作成を行った(調査対象者2,336人)。その結果、いずれの機種も客観的に運動機能等の機能低下を測定し得ることが示され、教育効果も期待できることが明らかとなった。
 また、加齢に伴って低下する認知・判断の基礎能力を測定する簡便なペーパー式の運転適性検査を開発するとともに、実際の運転技能や法規知識との関係を調べる実験を行った。その結果、受検者の成績と、運転技能や法規知識との間には相関があることが判明した。


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