第7章 災害、事故と警察活動

 平成10年は、台風、大雨等の自然災害が多発した。警察では、これらの災害の発生に際して、直ちに体制を確立し、被災者の避難誘導や救助活動に当たるとともに、被害の未然防止と拡大防止に努めた。
 また、雑踏事故、水難、山岳遭難、レジャースポーツに伴う事故等に対しても、それぞれ関係機関・団体と連携して必要な諸対策を推進した。

1 50年の歩み

 昭和24年から平成10年までの50年間における台風、大雨、地震等の自然災害による被害は、死者・行方不明者約3万5,000人、負傷者約16万人に上る。このほか、航空機の墜落、船舶の沈没、さらには火災や水難、山岳遭難等事故による被害も相当数に上るが、これらの災害等のうち、主なものについては、表7-1のとおりである。
 各種の災害に対して、警察は、災害現場において被災状況等の情報収集、被災者の避難誘導や救出救助、行方不明者の捜索活動等を行ってきた。
 近年、我が国においては、都市部における過密化、土地利用の高度化、地域の開発等が一層進展し、地下街、石油コンビナート、原子力施設等が増加し、さらには高齢化社会の到来等により、大規模災害が発生した場合には、甚大な人的・物的被害が予想される。
 警察では、7年に発生した「阪神・淡路大震災」における災害警備活動の貴重な経験を踏まえて検討を重ね、大規模災害に即応でき、かつ、高度の救出救助能力と自活能力等を備えた災害専門のエキスパートチームである広域緊急援助隊を創設するとともに、平素から災害危険箇所の調査警察職員に対する教養・訓練、装備資機材の整備充実及び各種事態を想定した災害警備計画の策定等に努めている。

表7-1 主な災害・事故の発生状況



2 各種災害への対応

(1) 広域緊急援助隊の活動
 警察では、大規模な自然災害、事故災害等緊急の対応を要する事案に対して、被災者の救出救助活動等の迅速かつ効果的な対応を図るため、全国の都道府県警察に広域緊急援助隊を設置している。
 平成10年中には、台風をはじめ、「8月上旬豪雨」や「8月末豪雨」等の風水害に出動し、現地における警察部隊の中核として、情報収集、救出救助、避難誘導、交通規制等の活動を行った。
 同部隊は、平素から救出救助活動等の災害警備活動の練度の向上を図っているほか、広域的な派遣訓練等を実施するなど、災害の発生や、発生が予想される際の緊急出動に備えている。



(2) 自然災害の発生状況と警察活動
 平成10年中の台風、大雨、強風、地震等の自然災害による被害の発生状況は、表7-2のとおりである。
 警察では、平素から災害危険箇所の点検、パトロール等の活動を行うとともに、災害の発生に際して、現場に広域緊急援助隊をはじめとする警察部隊、ヘリコプター等を派遣して情報収集、救出救助、住民の避難誘導、交通規制等の災害警備活動を実施した。

表7-2 自然災害による被害状況(平成10年)

ア 風水害
(ア) 台風被害
 10年中に発生した16個の台風のうち、第5号、第7号、第8号及び第10号の4個が上陸し、これらによる被害は、死者・行方不明者38人、負傷者674人、住家全・半壊1,131棟、床上・床下浸水2万6,827棟に上った。

 特に、台風第7号は、9月22日から23日にかけて日本を襲い、四国地方から北海道地方にかけて大雨をもたらした。その被害は27都道府県に及び、死者18人、負傷者543人、住家全・半壊866棟等であった。
(イ) 大雨被害
 「8月上旬豪雨」や「8月末豪雨」等、前線の停滞等による大雨のため、福島県、栃木県、高知県等各地で土砂崩れや河川の氾濫等が発生した。
 10年中の大雨による被害は、死者・行方不明者38人、負傷者74人、住家全・半壊263棟、床上・床下浸水6万5,436棟、道路損壊1,019箇所、山崖崩れ2,845箇所に上った。

イ 地震災害
 8月7日から、長野県中部(上高地付近)を震源とする地震が連続して発生し、8月12日には、最大震度5弱(マグニチュード4.7)の地震が発生した。また、9月3日には、岩手県内陸北部(雫石町付近)を震源とする最大震度6弱(マグニチュード6.1)の地震が発生した。
 10年中の地震による被害は、負傷者14人、道路損壊14箇所、山崖崩れ6箇所等であった。
ウ その他の被害
 10年中の降積雪等による被害は、死者・行方不明者45人、負傷者283人、住家全・半壊31棟等であった。
(3) 国際警察緊急援助隊の派遣
 昭和62年に国際緊急援助隊の派遣に関する法律が制定され、我が国政府は、海外における大規模な災害の発生に際し、国際緊急援助隊を派遣することができることとされた。
 平成11年1月には、大地震の発生したコロンビアに、警察、外務省、消防、JICAから成る国際緊急援助隊の救助チームが派遣され、人命救助等の活動を行った。
 同法の施行以後11年6月までの間に、警察が行った国際緊急援助活動は、表7-3のとおりである。

表7-3 警察がこれまでに行った国際緊急援助活動

3 各種事故と警察活動

(1) 水難
ア 水難の発生状況
 平成10年中の水難の発生件数は1,947件(前年比70件(3.5%)減)、死者・行方不明者数は1,188人(55人(4.4%)減)、警察官等に救助された者の数は1,049人であった。 最近5年間の水難発生状況は、表7-4のとおりである。また、水難による死者・行方不明者数を年齢層別にみると、表7-5のとおりである。

表7-4 水難発生状況(平成6~10年)

表7-5 水難による死者、行方不明者の年齢層別状況(平成9、10年)

 死者・行方不明者数を発生場所別にみると、図7-1のとおりで、海における発生が最も多く、全体の48.2%を占めている。行為別にみると、図7-2のとおりで、魚とり・釣り中、水泳中、通行中の順に多かった。

図7-1 水難による死者、行方不明者の発生場所別構成比(平成10年)

図7-2 水難による死者、行方不明者の行為別構成比(平成10年)

イ 水難の防止活動
 警察では、水難の発生しやすい危険な場所について遊泳者等に広報し注意喚起するとともに、その場所の管理者等に対し施設の整備等を働き掛けている。特に人出の多い海水浴場では、臨時詰所の設置、海浜パトロール等を行うほか、船舶やヘリコプターによる監視等を通じて、海水浴客に対する広報、遭難者の早期発見、救出、救護に努めるとともに、関係機関・団体と協力して、救急法講習会や各種の救助訓練を実施している。
 また、兵庫、滋賀、沖縄、和歌山等の県においては、海水浴場開設業者等による遊泳区域の明示、水難救助員の配置等を定めた、いわゆる水上安全条例が制定されている。
(2) 山岳遭難
ア 山岳遭難の発生状況
 平成10年中の山岳遭難の発生件数は1,077件(前年比262件(32.1%)増)、遭難者数は1,341人(380人(39.5%)増)であった。最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表7-6のとおりである。
 遭難の特徴としては、[1]遭難者に占める中高年登山者の比率が依然として高いこと、[2]体力及び技術の不足のほか、気象判断の誤りや装備の不備、登山計画書の未提出等の登山の基本的な知識を欠いたことによる遭難が多いこと、[3]遭難が発生した際に自救能力のないパーティーが増えていること、[4]ツアー登山では、ガイドの人員不足、経験不足によりガイドが登山道に同行しておりながら遭難するケースが増えていることなどが挙げられる。

表7-6 山岳遭難の発生状況(平成6~10年)

イ 遭難者の捜索、救助活動
 警察では、遭難者の迅速な捜索、救助活動を行うため、山岳警備隊等を編成し、平素から各種訓練を行うとともに、救助用装備資機材の整備拡充を行うなど、救助体制の強化に努めている。
 10年中に遭難者の救助活動に出動した警察官は延べ約1万1,600人、ヘリコプター出動回数は延べ440回で、民間救助隊員等の協力によるものを含め、遭難者1,090人を救助したほか、223遺体を収容した。
ウ 山岳遭難の防止活動
 警察では、山岳遭難を防止するため、遭難の発生場所、原因等を分析し、関係機関等との遭難対策検討会を開催するとともに、各種広報媒体を活用して登山の安全に関する国民の意識の向上に努めている。
 主要山岳(系)を管轄する都道府県警察においては、関係機関等と連携して、ツアー登山関係企業等にツアー登山事故防止の申入れ等を行うとともに、登山道等の実地踏査、道標及び危険箇所の点検等のほか、登山者への山岳情報の提供を行っている。また、登山口等に臨時詰所を開設し、登山計画書の提出の奨励、装備の点検等を行っているほか、山岳パトロール等の活動を通じて登山の安全に関する指導を行っている。
(3) レジャースポーツに伴う事故
 近年、水上オートバイ、サーフィン等のレジャースポーツに伴う事故が多発している。平成10年中のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は403件(前年比23件(5.4%)減)であった(表7-7)。
 こうした事故の原因の主なものは、技術不足、不注意等であり、無謀操縦等を原因とするものも多いことから、警察では、事故防止を呼び掛けるパンフレットの配布等により安全広報に努めるとともに、レジャースポーツ現場におけるパトロール等を通じての指導取締り、関係機関・団体に対する事故防止指導等を推進している。

表7-7 レジャースポーツに伴う事故の発生状況(平成10年)

4 雑踏警備

(1) 一般雑踏警備活動
 平成10年中、警察では延べ約54万2,000人の警察官を動員して、雑踏事故の防止に努めた。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表7-8のとおりである。10年中は13件の雑踏事故が発生し、死者は6人、負傷者は49人に上った。このうち、山車(だし)、神興(みこし)等の運行に伴うものが11件、死者6人、負傷者40人であった。
 警察では、行事の主催者、施設の管理者等に対して、事前連絡の徹底、自主警備体制の強化、危険予防の措置、施設の改善等を要請するとともに、混雑する場所等に警察官を配置し、雑踏事故の未然防止に努めている。

表7-8 雑踏警備実施状況(平成6~10年)

(2) 公営競技場の警備活動
 平成10年中の競輪場、競馬場等の公営競技場への総入場者数は、延べ約2億400万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約9万1,000人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表7-9のとおりである。

表7-9 公営競技場警備実施状況(平成6~10年)

 10年中の公営競技をめぐる紛争事案の発生件数は3件で、その内容はすべてレース結果等についての抗議形態のものであった。警察では、関係機関・団体に、自主警備体制の確立、施設、設備の改善、酒類の販売等の自粛を要請しているほか、競技開催の都度、警察官の派遣等により雑踏事故及び紛争事案の未然防止に努めている。


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