第5章 安全かつ快適な交通の確保

 自動車は、現代社会に欠かすことのできない移動・輸送手段であり、そのもたらす恩恵は計り知れない。しかしその一方、交通事故によって毎年多くの尊い人命が失われ、負傷者も増加の一途をたどり、また、交通事故に伴う経済的損失もばくだいなものとなっている。平成10年も、交通事故死者数は6年連続して減少したとはいえ、9,211人を数え、負傷者数は99万675人と昭和45年の記録を更新し過去最悪となるなど、依然として厳しい情勢にある。
 警察は、交通の安全と円滑の確保のため、交通安全教育、免許行政、交通指導取締り、交通安全施設の整備等様々な施策を推進している。

1 50年の歩み

(1) 交通事故情勢の推移
 戦後の経済成長に伴い、自動車の普及は急速に進み、交通事故死者数も図5-1のとおり昭和20年代後半から著しい増加傾向を示すようになり、45年には1万6,765人に達し、その死傷者数の多さから交通戦争(第1次)と呼ばれた。
 その後、交通安全教育の推進、交通安全施設の整備等の交通安全対策の充実が図られたことにより、交通事故死者数は54年には8,466人となり、45年に比べてほぼ半減した。しかし、55年から、交通事故死者数は再び増加に転じ、63年以降は1万人を超えるようになり、第2次

図5-1 交通事故発生件数及び死者数等の推移(昭和21~平成10年)

交通戦争と呼ばれる情勢になった。その後、交通事故死者数は、平成4年の1万1,451人をピークに徐々に減少し、8年以降は3年連続して1万人以下となったが、交通事故発生件数の減少はみられず、5年から6年連続して過去最悪を更新し続けるなど、現在の交通事故情勢はなお厳しいものがある。
 ここ数年、交通事故発生件数及び交通事故負傷者数が増加しているにもかかわらず、交通事故死者数が減少傾向にある原因としては、死亡事故率(交通事故発生件数に占める死亡事故件数の割合)が低い車両相互事故、特に追突事故の発生件数が大幅に増加している一方で、死亡事故率が高い人対車両事故発生件数が減少していること、低速で走行する車両の事故が増加し、高速で走行する車両の事故が減少していること、シートベルト着用率が上昇し事故の被害が軽減されていることなどが考えられる。
 モータリゼーションが急速に進展し始めた時期の昭和29年、第1次交通戦争がピークを迎えた45年及び直近の平成10年の年齢層別、状態別の交通事故死者数を比較すると、それぞれ、図5-2、図5-3のとおりである。また、昭和29年から平成10年までの状態別死者数の構成率の変化は、図5-4のとおりである。
 昭和29年は、車両保有台数が約200万台にすぎなかったにもかかわらず、6,374人が交通事故により死亡している。歩行中の死者が3,221人と全体の過半数(50.5%)を占めていること、15歳以下の死者の構成率が高いことなどが特徴である。
 45年は、歩行中の死者が5,939人であり、28年に比べて数こそ増加しているものの、構成率は35.4%と低下した。一方、車両保有台数が2,800万台を超え、高速道路が次々に開通するなどモータリゼーションの進展により、自動車乗車中の死者が5,612人に達し、構成率も33.5%となった。
 平成10年は、歩行中の死者が2,605人(構成率は28.2%)まで減少し、特に飛び出しを原因とする事故が減少しているが、これは、交通安全施設の整備の進展、交通安全教育の充実等の効果と考えられる。自動車乗車中の死者については、シートベルト着用率の向上等により3,972人まで減少しているものの、その構成率は43.1%となり、2年から9年連続して40%を超えている。
 なお、高齢者(65歳以上の者をいう。)については、平成10年を昭和45年と比較すると、人口が2.7倍に、免許保有者数が29.7倍になったことに関連して、次のような傾向がみられる。年齢層別の構成率でみると、高齢者の死者の占める割合は、一貫して増加傾向にあり、昭和45年に16.3%だったものが、平成10年には34.4%となり、初めて3分の1を超えた。また、死者数でみても、昭和45年は2,734人であり、52年に1,526人まで減少したものの、その後は一貫して増加傾向にあり、平成10年には3,174人に達している。特に自動車運転中の死者については、昭和52年には47人であったものが、平成10年には461人に急増している。

図5-2 年齢層別死者数の比較

図5-3 状態別死者数の推移

図5-4 状態別死者数の構成率の推移(昭和29~平成10年)

(2) 警察の対応
ア 道路交通法等の改正等
 昭和22年に制定された道路交通取締法は、数次にわたり部分的な改正が加えられたが、交通情勢の著しい変化に対応するため35年に廃止され、新たに現在の「道路交通法」が制定された。この法律は単に取締りの根拠法ではなく、すべての者が安全に道路を通行するため遵守すべき道路交通の基本法たる性格を有するものである。
 その後も、43年に、大量に発生する交通違反に対応するため、違反者が反則金を納付すれば刑事手続に移行しないこととする交通反則通告制度が導入されたほか、自動車の排気ガスその他の交通公害の深刻化に対応して、45年に同法の目的に「道路の交通に起因する障害の防止に資すること」が加えられた。また、暴走族による暴走行為、暴走族同士の対立抗争事件の多発等が大きな社会問題となったことから、53年には共同危険行為等が禁止されるなど、道路交通の秩序を維持し、交通の安全と円滑を確保するための諸制度の整備が進められてきた(表5-1)。

表5-1 道路交通法等の主な改正等の経緯

イ 交通安全教育
 警察では、関係機関・団体と連携して交通安全教育を行っており、その内容は広報・啓発的なものから、危険を予測し回避するためにより効果的な参加・体験・実践型のものへと充実・強化されてきている。
 かつては、歩行者や自転車利用者、特に子供に対する教育に重点が置かれ、主に、幼稚園、保育所、小学校等を単位として実施されていた。50年代に入ると、交通事故死者数が減少する中で、若者の二輪車事故が社会問題化したことから、高校において「3ない運動」が盛んに展開される時期もあったが、近年では、将来の免許取得者等に対する教育との位置付けで、学校関係者と連携した教育が充実されつつある。運転免許取得時教育については、自動車教習所を中心に行われているが、運転免許取得後の教育については、運転免許証の更新時等、機会をとらえた各種講習の充実が図られている。また、最近では、高齢者事故の増加に対応して、これまで交通安全教育を受ける機会が少なかった高齢者に対する交通安全教育に特に力を入れるなど、時代のすう勢に応じた交通安全教育を展開している。
ウ 運転免許制度等の変遷
 我が国の運転免許保有者数は、27年末には約125万人であったが、その後急激に増加し、平成10年には約7,273万人となった。このようなモータリゼーションの進展に対応して、運転免許制度等は、表5-2のとおり変遷している。

表5-2 運転免許制度等の主な変遷

エ 交通違反の取締り体制等の充実・強化
 昭和24年には約20万5,000件であった交通違反取締り件数が、平成10年には約900万件となった。モータリゼーションの進展に対応して指導取締り体制の強化が図られてきたところであり、例えば、機動力をいかした強力な指導取締りが可能な白バイ・パトカーについては、徐々にその配置数が増加され、白バイ隊、交通機動警ら隊等の名称で運用され効果を上げていたが、昭和48年以降「交通機動隊」の名称に統一され、交通秩序の維持と交通事故防止に日夜活躍している。また、30年代後半からの全国的な高速道路の開通に伴い高速道路上における交通秩序の維持等のために設置されていた高速道路交通機動警ら隊等が、46年には「高速道路交通警察隊」の名称で統一され、高速道路の延伸に伴い、順次各都道府県警察に発足した。
 一方、交通取締り用資機材についても、その整備・拡充が進められている。警察は、交通事故の重大な原因となっている速度違反を抑止するために、パトカー、白バイ、レーダースピードメーター等による取締りを実施しているが、51年以降は、速度違反自動監視装置を全国に設置し、悪質な速度違反の取締りに効果を上げている。
オ 暴走族の歴史と警察の対応
 暴走族は、30年代初めに「カミナリ族」と呼ばれる暴走グループとして出現し、「オトキチ族」、「マッハ族」等といった暴走グループも出現した。さらに、40年代初めには、多くの見物人の前で周回型の暴走を繰り返す「サーキット族」と呼ばれるグループも出現し、大規模な暴走行為を敢行するに至った。40年代後半からは、これらの暴走グループを総称して「暴走族」と呼ぶようになった。そのころから、暴走族の組織化が急速に進み、対立抗争、集団公務執行妨害等の不法事案が頻発した。近年においては、組織としては小規模化したものの、暴走行為にとどまらず、強盗、強姦、薬物乱用等のほか、殺人行為に及ぶものもあるなど、凶悪化、粗暴化の傾向が強まっている。
 これに対して警察では、暴走族に関する情報を幅広く収集してその実態を把握し、個別的な指導や補導を強化するほか、強力白色ストロボ付連写カメラ等の採証資機材を搭載した「暴走族採証車」等を活用して、53年の道路交通法の一部改正により禁止された共同危険行為等の取締り等を強力に推進し、グループの解体や構成員の離脱を図っている。
カ 交通安全施設等の整備
 警察は、信号機、道路標識等の交通安全施設等の整備に努めてきたが、30年代までは、交通安全施設等の整備に要する費用の大部分は都道府県の負担とされ、国は、そのごく一部を補助するにすぎなかった。このため、その整備は十分に行われず、モータリゼーションの進展に即応した道路交通環境の整備が著しく立ち遅れ、35年度末の全国の信号機設置数は2,536基にとどまっていた(表5-3)。
 そこで、41年、費用の一部について国が補助することなどを内容とした交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法が制定され、交通安全施設等整備事業三箇年計画に基づき事業を推進することとなった。
 その後、45年には、交通安全対策基本法が制定されるとともに、46年から新たに交通安全

表5-3 信号機の設置数の推移

施設等整備事業五箇年計画を作成して事業を推進することとなった。以後、5次にわたる五箇年計画を経て、現在、平成8年度を初年度とする交通安全施設等整備事業七箇年計画に基づく事業を推進しており、昭和55年度に10万基を超えた信号機の設置数は、平成9年度末には16万5,883基となっている。
 また、モータリゼーションの進展による交通の広域化・高速化に伴い、交通の規制を広域にわたって総合的に行う交通管制の重要性が高まったことから、昭和46年に交通管制センターの整備を開始した(56年に全都道府県において交通管制センターの中核となる本部センターの整備が完了)ほか、58年には路側通信設備の整備を、63年には旅行時間提供システムの整備を、平成5年には光学式車両感知器の整備をそれぞれ開始するなど、交通管制システムの整備・構築を着実に推進している。さらに、8年からは、UTMS(新交通管理システム)の中核となる高度交通管制システム(ITCS)の実現に向けて交通管制センターの高度化を推進するとともに、UTMSの各サブシステムの実現に向けて、光ビーコンの整備を全国的に推進している(6(5)イ参照)。

2 平成10年の交通情勢

(1) 道路交通の現況
ア 車両保有台数の伸び
 我が国の車両保有台数は年々増加傾向にあり、平成10年末には約8,799万台となっている。車種別車両保有台数の推移は、図5-5のとおりである。
イ 運転免許保有者数の増加
 運転免許保有者数は、交通事故死者数が過去最高であった昭和45年には約2,600万人であったが、59年には5,000万人を超え、平成10年末には7,273万3,411人となった。運転免許を取得することができる16歳以上の者のうち、男性では1.19人に1人、女性では1.85人に1人、全体では1.46人に1人が運転免許を保有していることになる。運転免許保有者数の推移は、図5-6のとおりである。
 高齢化社会の進展に伴い、運転免許保有者数に占める高齢者の割合は年々高くなっており、昭和45年末には0.8%(約21万人)であったが、平成10年末には8.7%(約636万人)と

図5-5 車種別車両保有台数の推移(昭和51~平成10年)

図5-6 運転免許保有者数の推移(昭和51~平成10年)

なっており、この傾向は、今後更に顕著になっていくものと考えられる。
(2) 平成10年の交通事故発生状況
ア 概況
 平成10年中に発生した交通事故は、件数が80万3,878件(前年比2万3,479件(3.0%)増)、死者数が9,211人(429人(4.5%)減)、負傷者数が99万675人(3万1,750人(3.3%)増)であった。死者数は3年連続して1万人を下回ったものの、発生件数は過去最悪の記録

図5-7 交通事故件数等の推移(昭和51~平成10年)

を6年連続して更新した。また、負傷者数も28年ぶりに過去最悪を更新した。
 過去の交通事故件数等の推移は、図5-7のとおりである。
 なお、10年中の交通事故発生から30日以内の交通事故死者数は1万805人(前年比449人(4.0%)減)である。
イ 交通死亡事故の発生状況
(ア) 状態別、年齢層別にみた交通事故死者数
 10年中の状態別死者数は、図5-8のとおりで、自動車乗車中の死者数が3,972人で最も多く、全死者数の43.1%を占めている。各状態別死者数は、自動二輪車乗車中を除き、9年に比べ減少しており、なかでも、自動車乗車中の死者数(279人(6.6%)減)の減少が顕著である。
 また、10年中の年齢層別にみた死者数の構成率と人口構成率を比較すると図5-9のとおりで、後期高齢者(75歳以上の者をいう。)、前期高齢者(65歳以上74歳以下の者をいう。)、若年者(16歳以上24歳以下の者をいう。)の順に死者数の構成率が人口構成率より高くなっており、それぞれ2.8倍、1.7倍、1.6倍である。なお、若年者の死者数が8年連続して減少し10年は1,790人(構成率は19.4%)

図5-8 状態別交通事故死者数(平成10年)

図5-9 年齢層別にみた交通事故死者数の構成率と人口構成率の比較(平成10年)

となる一方、前期・後期を併せた高齢者の死者数は3,174人(34.4%)に達しており、増加傾向にある。
 10年中の状態別死者数と年齢層別死者数を組み合わせて図解すると図5-10のとおりであり、その主な特徴は、次のとおりである。

図5-10 状態別、年齢層別死者数(平成10年)

○ 自動車乗車中の死者数については、若年者が最も多い(25.7%)。
○ 自動二輪車乗車中の死者数については、若年者が最も多い(51.5%)。
○ 自転車乗用中の死者数については、後期高齢者が最も多い(30.7%)。
○ 歩行中の死者数については、後期高齢者が最も多い(37.4%)。
(イ) シートベルト着用有無別の死者数
 自動車乗車中の死者数をシートベルト着用有無別にみると、非着用死者数が2,588人(前年比108人(4.0%)減)で、着用死者数の1,225人(113人(8.4%)減)を大きく上回っている。
 また、シートベルト着用率調査によれば、低下傾向にあった着用率は、6年から上昇傾向を示している。
 なお、自動車乗車中のシートベルト着用有無別の致死率(注)を比較すると、シートベルトを着用していない場合の致死率(2.1%)は、シートベルトを着用している場合の致死率(0.3%)の約7倍となっている。
(注) 死者数/(死者数+負傷者数)×100
(ウ) 昼夜別にみた死亡事故の発生状況
 10年中の死亡事故件数を昼夜別にみると、昼間(日の出から日没まで)が3,936件(全体の44.7%)、夜間(日没から日の出まで)が4,861件(55.3%)で、夜間の死亡事故件数は昼間の約1.2倍である。前年と比べると、昼間(230件(5.5%)減)、夜間(193件(3.8%)減)とも減少している。
(エ) 曜日別にみた死亡事故の発生状況
 10年中の死亡事故件数は8,797件で、1日当たり24.1件の死亡事故が発生している。これを曜日別にみると、平日(月曜日から金曜日まで)が1日当たり23.7件、週末(土曜日・日曜日)が25.0件で、週末に多発する傾向にある。

3 交通安全教育及び交通安全活動の推進

(1) 交通安全教育指針に基づく交通安全教育
 交通安全教育は、これまでも全国で様々な形で実施され、一定の成果を上げてきた。しかし、交通安全教育についての共通の考え方が確立していなかったため、交通安全教育の内容や進め方が専ら現場で教育を行う者の裁量に委ねられており、年齢別、通行の態様別に全国規模で体系化するこれまでの試みは必ずしも十分ではなかった。
 そこで、市町村、民間団体等が、効果的かつ適切に交通安全教育を行うことができるようにするとともに、都道府県公安委員会が行う交通安全教育の基準とするため、国家公安委員会は、交通安全教育指針(以下「指針」という。)を作成・公表した(平成10年9月告示)。
 指針には、交通安全教育を行う者の基本的な心構えや年齢、通行の態様や心身の発達段階に応じた交通安全教育の内容及び方法が明示されており、警察では、段階的かつ体系的な交通安全教育の実施に向け、指針の活用を推進している。
 なお、交通安全教育の推進に際しては、運転者はもとより、歩行者等に対しても交通社会の一員としての責任をもって行動し、交通事故を誘発することないよう交通ルールとマナーを遵守させる点についても留意している。
ア 警察の交通安全教育
 警察では、関係機関・団体と協力しつつ、指針を基準として、幼児から高齢者に至るまでの各年齢層を対象に、交通社会の一員としての責任を自覚させるような交通安全教育を段階的かつ体系的に実施している。
 幼児に対しては、道路の歩き方、横断の仕方等について、幼稚園、保育所等を単位として交通安全教育を行うとともに、交通ルールや交通マナーを遊びながら学ぶことができる幼児交通安全クラブの結成及びその活動の活発化を図っている。
 小中学生に対しては、自転車の安全な乗り方教室を開催しているほか、交通安全推進のための少年達のリーダーとなる交通少年団の結成及びその活動の活発化を図っている。
 高校生に対しては、安全で正しい自転車の利用、原付、普通自動二輪車等の特性に応じた安全運転の方法等についての交通安全教育を推進している。特に、普通自動二輪車等の安全運転に関する指導については、教育委員会及び学校と連携し、法令講習及び実技指導員(白バイ隊員等)の派遣による実技講習を推進している。
 高齢者に対しては、交通事故現場において実際の事故事例に基づく教育を行ったり、夜間の反射材効果実験を盛り込んだりするなど、参加・体験・実践型の交通安全教育を積極的に推進し、交通社会の一員としての責任を自覚させ、事故を誘発しないような行動をとらせるようにしているほか、高齢者自身が積極的に各種交通安全活動に参加できるよう老人クラブへの交通安全部会の設置や高齢者交通安全指導員(シルバー・リーダー)による自発的な活動を推進するよう働き掛けている。
 なかでも、高齢運転者に対しては、自らの身体機能や運転技能を認識し、これらに応じた運転ができるようにするため、運転適性に関する相談・診断を行うとともに、運転免許証の更新時講習の機会に高齢者学級を設けたり、希望者を対象として運転シミュレーターや、1台で7種類の運転適性診断ができるCRT型運転適性診断器等を用いた参加・体験・実践型の講習会を開催したりするなどして、高齢の運転者に対する教育の充実に努めている。
イ 事業所等における交通安全教育活動
 一定台数以上の自動車を使用する事業所等においては、安全運転管理者及び副安全運転管理者を選任することとされており、10年度末現在、約36万事業所において安全運転管理者約36万人、副安全運転管理者約5万人が選任されている。
 警察では、これらの安全運転管理者等に対し、安全運転管理に必要な知識等に関する講習を実施しており、10年度中の実施回数は3,605回、受講者数は延べ約40万人であった。
 また、9年の道路交通法の一部改正により、安全運転管理者の業務として指針に従った交通安全教育の実施が義務付けられたことから、警察としてもこの交通安全教育が適切に実施されるよう、必要な指導を行っている。
 なお、都道府県ごとに安全運転管理者等を会員とする安全運転管理者協(議)会が結成され、交通安全運動、シートベルト着用推進運動、無事故無違反コンクール等を積極的に推進しているほか、安全運転管理に関する各種講習会の開催、教育資料の作成・配布等を通じ、職域における交通安全思想の普及に努めている。
(2) 交通安全意識を高めるための交通安全活動
ア 民間団体、市町村による交通安全活動の促進
 交通安全教育、交通安全に関する広報啓発活動等の交通安全活動は、安全で快適な交通社会を実現する上で大きな役割を果たすものであり、警察の活動のみならず、民間団体、市町村等の活動が効果的に行われるようにすることが重要である。このため、警察は、平成9年の道路交通法の一部改正により整備された交通の安全と円滑に資するための民間の組織活動等の促進を図るための規定に基づき、官民が一体となった交通安全対策の充実を図るよう努めている。
イ 全国交通安全運動
 交通安全に関する知識の普及、交通安全意識の高揚を図るとともに、交通ルールの遵守と交通マナーの実践が図られるようにすることを目的として、毎年春と秋に全国交通安全運動を実施している。期間中は、国、地方公共団体及び交通安全協会等の民間団体が一致協力して、幅広い国民運動を展開しており、各地域の実態に即して、ヒヤリ地図の作成活動、交通安全総点検等をはじめとした地域住民参加型の諸活動を活発に行うことによって交通安全意識の高揚を図るよう努めている。


コラム[1] ヒヤリ地図
 ヒヤリ地図とは、自転車乗用中や歩行中等といった通行の態様に応じ、日常、高齢者等がヒヤリとした体験を持つ場所を白地図の上にシールをはるなどして作成する地図をいう。
 ヒヤリ地図の作成は、(財)国際交通安全学会の研究プロジェクトの中で提唱されたもので、誰でも気軽に参加でき、ヒヤリとした実体験を語り合いながら危険体験地図を作成する参加型活動であり、10年秋の全国交通安全運動期間を中心に、高齢者や小学生による作成活動が全国的に行われた。
 完成した地図は、広報紙に掲載したり、地域の交通安全情報としてパンフレットにして配布したりするなど、その活用方法も幅広く、住民の交通安全活動への参加意識及び交通安全意識の向上を図ることができる活動として全国的な広がりをみせている。


ウ 市町村と連携した交通安全活動
 住民の交通安全意識を高め、地域社会における交通の安全を確保するために、市町村が大きな役割を果たすことが期待されている。警察では、市町村と協力してシートベルトの着用促進や反射材の普及促進のための広報啓発活動を積極的に推進しているほか、市町村が実施する講習会に警察官等を講師として派遣するなど、市町村による交通安全対策が効果的に行われるようにするための協力を行っている。
エ 地域ボランティア等の自主的な交通安全活動の促進
 交通安全活動に従事しているボランティアとして、全国で約2万人(11年4月1日現在)の地域交通安全活動推進委員、約23万人(10年末現在)の交通指導員等が広報啓発活動、街頭における交通安全指導等の活動を行っている。
 警察は、これらの活動に対して、関係機関・団体と連携して、地域交通安全活動推進委員等の民間の指導者を対象とする研修会の開催、交通事故実態に関する資料の配付等、地域における交通安全活動が効果的に行われるように必要な協力を行っている。
(3) 交通安全を目的とする諸団体の活動
ア 都道府県交通安全活動推進センター及び全国交通安全活動推進センター
 平成10年4月から、従来、主に車両の駐車や道路の使用に関する事業を行ってきた各都道府県の道路使用適正化センターの事業に、交通の安全に関する事項についての広報啓発活動、交通事故に関する相談、運転適性指導等の事業が加えられ、同センターが都道府県交通安全活動推進センター(以下「都道府県センター」という。)として改組され、これに対応する形で、全国道路使用適正化センターも、全国交通安全活動推進センターとして改組された。
 都道府県センターは、警察と連携し、被害者対策の一環としての交通事故相談等の業務を積極的に推進するほか、民間の交通安全活動の中心的な役割を担う団体として、他の民間団体の活動を支援している。
 また、全国交通安全活動推進センターは、都道府県センターの業務に関する研修及び交通安全に関する広報啓発活動等を積極的に推進しており、都道府県センターの業務の充実を図っている。
 なお、都道府県センターには、各都道府県の交通安全協会(連合会)が、全国交通安全活動推進センターには、(財)全日本交通安全協会が、それぞれ指定されている。
イ 自動車安全運転センター
 自動車安全運転センターは、自動車安全運転センター法に基づき、道路の交通に起因する障害の防止及び運転免許を受けた者等の利便の増進に資することを目的として、運転免許を受けた者の自動車の運転に関する経歴に係る資料及び交通事故に関する資料の提供、自動車の運転に関する研修の実施、自動車の安全運転に必要な調査研究等を行っている。
 また、同センターが設置している安全運転中央研修所においては、安全運転の実践的かつ専門的な技能及び知識についての体験的研修を行い、地域における交通安全教育の担い手の育成に当たるなど体系的な交通安全教育の推進を図っている。
ウ 交通事故調査分析センター
 交通事故調査分析センター(以下「分析センター」という。)は、道路交通法の規定に基づき、交通事故の防止と交通事故による被害の軽減を図ることにより、安全で快適な交通社会の実現に寄与するため、交通事故に関する各種の分析・調査研究を行っている。
 分析センターでは、交通事故、運転者、車両、道路等に関する各種データを統合した交通事故統合データベースを作成し、多角的なマクロ統計分析を実施するとともに、実際の交通事故現場に臨場し、交通事故を総合的かつ科学的に調査する事故例調査(ミクロ調査)を実施しており、10年中には、407件の事故例を収集し、これまでに1,650件の交通事故例のデータが蓄積された。今後とも、交通事故原因を究明し、官民それぞれが実施する交通安全対策をより一層効果的なものにするため、マクロ、ミクロ両面からの総合的な交通事故分析・調査研究が更に進められることが期待される。

 なお、分析センターには、(財)交通事故総合分析センターが指定されている。

4 きめ細やかな運転者施策の推進

(1) 運転者の資質の向上
ア 運転免許を取得しようとする者に対する施策の充実
(ア) 自動車教習所における教習
a 指定自動車教習所の教習課程等の見直し
 国民皆免許時代にあって、運転免許取得に伴う国民の負担の軽減を図りつつ、指定自動車教習所の教習課程等をより効果的、効率的かつ実践的なものにするため、学識経験者から成る「運転免許制度に関する懇談会」における提言を踏まえ、学科教習項目の統合や技能教習項目への移行、技能教習の段階の合理化等により教習課程を短縮し、また、1日の技能教習の限度時限数を仮免許取得後の段階では2時限から3時限に延長することなどを内容とする法令の整備等所要の措置を講じた(平成10年12月施行)。
b 指定自動車教習所における教習の充実
 指定自動車教習所は、10年末現在、全国で1,521箇所ある。また、指定自動車教習所の卒業者で10年中に運転免許試験に合格した者は約210万人で、合格者全体の93.8%を占めており、指定自動車教習所は、初心運転者教育の中心的役割を果たしている。都道府県公安委員会では、その社会的役割にかんがみ、指定自動車教習所における教習や技能検定の充実強化に努めている。
 また、国民の運転免許取得機会の拡大と安全運転教育の充実を図るため、8年9月から、総排気量400ccを超える大型自動二輪車についても、指定自動車教習所において教習及び技能検定を受けることができることとされ、10年末現在、472箇所が指定を受けている。これに併せて、大型自動二輪車及び普通自動二輪車の教習カリキュラムについても、危険への対応力を向上させるための教習を取り入れ、運転シミュレーターを活用するなど、実践的な内容の教育を行っている。
c 指定自動車教習所以外の自動車教習所における教習水準の向上
 都道府県公安委員会に届出をした自動車教習所のうち、同公安委員会の指定を受けていないものは、10年末現在、全国で253箇所ある。同公安委員会では、これらの自動車教習所に対し、教習の適正な水準を確保するため必要な指導及び助言を行っている。
(イ) 運転免許試験の見直し
 道路交通の安全を損なわずに効率よく運転免許を取得することができるようにするため、普通仮免許の技能試験の課題である方向変換又は縦列駐車を普通免許の技能試験の課題へ移行した(10年12月施行)。
 また、運転免許試験のうち、学科試験は、国家公安委員会が作成する教則の範囲内で、自動車等の運転に必要な知識について行うこととされているが、より実践的なものとするため、イラストを使用して現実の交通場面での危険の認知力・判断力を問う問題を導入した。
(ウ) 取得時講習
 原付免許を受けようとする者は、原付講習を受けなければならないこととされている。また、普通免許、大型二輪免許又は普通二輪免許を受けようとする者は、それぞれ普通車講習、大型二輪車講習又は普通二輪車講習のほか、応急救護処置講習を受けなければならないこととされている。
 原付講習は、原付の操作方法、走行方法、安全運転に必要な知識等について、普通車講習、大型二輪車講習及び普通二輪車講習は、それぞれの自動車の運転に係る危険の予測等安全な運転に必要な技能及び知識について、応急救護処置講習は、気道確保、人工呼吸、心臓マッサージ等の応急救護処置に必要な知識について行われる。10年には、47万791人が原付講習を、2万7,829人が普通車講習を、6,063人が二輪車講習(大型二輪車講習及び普通二輪車講習)を、2万8,962人が応急救護処置講習を受講した。
(エ) 運転免許試験場のコースの開放
 運転免許取得希望者に対し、練習場所を提供するため、運転免許試験場のコースの開放に向けた取組みを推進している。
イ 運転免許取得後の教育の充実
(ア) 優良運転者制度
 運転者に対する安全運転の動機付けとなるように、6年から、継続して運転免許を有する期間が5年以上であり、かつ、5年間無違反である優良運転者については、運転免許証の有効期間が、5回目の誕生日(年齢によっては3回目又は4回目の誕生日)が経過するまでの期間とされている。10年中の運転免許証の更新者のうち優良運転者は331万6,436人で全更新者の27.2%であった。
(イ) 更新時講習
 運転免許証の更新を受けようとする者は、更新時講習を受けなければならないこととされている。更新時講習は、優良運転者等講習と一般運転者講習に区分される。
 優良運転者等講習ではビデオ等を活用し、簡素な講習を実施している。10年には、約771万人が受講した。
 一般運転者講習では、若年者学級、二輪車学級、高齢者学級等の特別学級を編成して、運転者の態様に応じた講習の実施に努めている。10年には、約380万人が一般運転者講習を受講し、このうち約43万人がこの特別学級による講習を受講した。
 また、一定の基準に適合する講習(特定任意講習)を受講した者は、更新時講習を受講する必要がないこととされている。特定任意講習では、地域、職種等が共通する運転者を集めて、その態様に応じた講習を行っている。10年には、約2万5,000人が受講した。
(ウ) 高齢者講習
 9年の道路交通法の一部改正により、更新期間が満了する日における年齢が75歳以上の者は、高齢者講習を受けなければならないこととされた(10年10月施行)。高齢者講習は、自動車等の運転や運転適性検査器材を用いた検査を通じて、運転に必要な適性に関する調査を行い、受講者に自らの身体機能の変化を自覚してもらうとともに、その結果に基づいて助言、指導を行うことを内容としている。この講習を受講した者は、更新時講習を受講する必要がないこととされている。
(エ) 二輪運転者講習
 各都道府県の二輪車安全運転推進委員会は、(社)二輪車安全普及協会の協力を得て、7年10月から原付及び総排気量125cc以下の普通自動二輪車(以下「原付等」という。)を運転することができる運転免許を受けている者に対して、原付等の安全運転に関する知識及び技能を指導する原付等安全講習を実施している。また、総排気量125ccを超える普通自動二輪車及び大型自動二輪車を運転することができる者を対象に、学科講習と技能講習から成る二輪車安全運転講習を実施している。警察では、講師として警察官等を派遣するなど積極的な指導及び協力を行っている。
(オ) 指定自動車教習所における交通安全教育
 指定自動車教習所は、地域住民のニーズに応じ、いわゆるペーパードライバーや高齢運転者等の運転免許保有者に対する交通安全講習会をはじめ、地域住民に対する交通安全教育を行っており、地域における交通安全教育機関としての役割を果たしている。10年春及び秋の全国交通安全運動の期間中には、多数の指定自動車教習所において「1日開放」を実施し、運転実技講習や各種のイベントを行い、参加者に対して交通安全意識の高揚を促した。
ウ 身体に障害を有する運転免許取得希望者に対する利便性の向上
 7年12月、政府の障害者対策推進本部において「障害者プラン」が策定され、生活環境面での物理的な障壁の除去(バリアフリー化)を促進するために、身体に障害を有する運転免許取得希望者等に対する利便の向上を図ることとされた。
 警察では、運転免許試験場において身体障害者用の技能試験車両の整備に努めているほか、受験者である身体障害者が持ち込んだ車両による技能試験を実施している。また、運転免許試験場施設の整備・改善のほか、字幕入り講習用ビデオの作成・活用等、身体障害者のニーズに応じた施策の推進に努めている。
 このほか、指定自動車教習所に対しても、身体障害者用教習車両の整備や、身体障害者が持ち込んだ車両による教習の実施等に努めるよう指導している。
(2) 危険運転者の排除と改善
ア 運転者の危険性に応じた行政処分の推進
 警察では、道路交通法違反を繰り返し犯したり、交通事故を起こしたりする運転者を、道路交通の場から早期に排除するため、行政処分の迅速、確実な実施に努めている。最近5年間の運転免許の行政処分件数の推移は、表5-4のとおりである。
 また、平成9年の道路交通法の一部改正により、運転免許の取消し等を受けた者が新たに運転免許を受けることができないものとして指定される期間(欠格期間)の上限が従来の3年から5年に延長されるとともに、暴走行為を指揮した暴走族のリーダーのように自ら運転していないものの、運転者を唆(そそのか)して共同危険行為等重大な道路交通法違反をさせた者について、新たに運転免許の取消し等ができることとされた(10年4月施行)。

表5-4 運転免許の行政処分件数の推移(平成6~10年)

イ 危険運転者の改善のための教育
(ア) 初心運転者講習
 普通免許等取得後1年未満の初心運転者に安全に運転するよう動機付けを行うとともに、道路交通法等に違反する行為をし、一定の基準に該当する者に対しては、初心運転者講習の受講の機会を与えることにより、技能及び知識の定着が図られている。
 初心運転者講習は、少人数のグループを編成して行われ、路上訓練や運転シミュレーターを活用した危険の予測や回避の訓練を取り入れるなど実践的な内容とされている。10年には、15万7,997人がこの講習を受講した。
 なお、初心運転者講習を受講しなかった者等に対して行う再試験では、運転免許試験と同等の基準で合格判定が行われ、10年は、1万936人が受験し、不合格となった8,085人が運転免許を取り消された。
 運転免許取得後1年以内の運転者を第1当事者とする交通死亡事故件数は、元年は1,331件であったが、この制度施行後着実に減少し、10年は692件となっている。
(イ) 取消処分者講習
 取消処分者講習は、運転免許の取消し等の処分を受けた者を対象に、その者に自らの運転適性を自覚させ、それに応じた運転の方法を指導することにより、その運転態度の改善を図ろうとするものである。運転免許の取消し等の処分を受けた者が新たに運転免許試験を受けようとする場合には、この講習を終了していることが受験資格となっている。この講習においては、運転適性に関する調査を実施し、これに基づく個別的かつ具体的な指導が行われている。10年には、3万5,180人がこの講習を受講した。
 なお、取消処分者講習については、運転免許を取り消された後に新たに運転免許を再取得した者の事故率が一般の運転者と比較してなお高い値を示していることから、運転シミュレーターの導入等、講習内容の充実を図った(10年10月施行)。
(ウ) 停止処分者講習
 停止処分者講習は、運転免許の効力の停止又は保留等の処分を受けた者を対象に、その者の申出に基づいて行われるものである。受講者は、効力の停止等の期間が短縮される。10年には、この講習を受けることができる者の86.6%に当たる約119万人が受講した。
 なお、停止処分者講習については、自動車等の運転や運転シミュレーターの操作等をさせることにより運転適性に関する調査を行い、それに基づく指導を行うこととするなど、講習内容の充実を図った(10年10月施行)。
(エ) 違反者講習
 9年の道路交通法の一部改正により、違反行為に付する点数が3点以下である違反行為をし一定の基準に該当する者に対し、違反者講習の受講が義務付けられることとされた(10年10月施行)。この講習においては、講習を受けようとする者からの申出により、運転者の資質の向上に資する活動の体験を含む課程、又は、自動車等の運転や運転シミュレーターの操作をさせることなどにより運転について必要な適性に関する調査を行い、それに基づく個別指導を含む課程を選択することができることとされ、また、この講習を終了した者については、運転免許の効力の停止等の行政処分が行われないこととされた。
(3) 国際化に対応した運転免許行政
 国際化の進展に伴い、人的な交流が活発化し、外国において自動車等を運転する日本人や、我が国において自動車等を運転する外国人が増加しており、警察ではこれらに対応した施策を推進している。
ア 国外運転免許証の交付等
 国外へ出国する者の増加に伴い、国外運転免許証の交付件数も増加傾向にあり、平成10年の交付件数は40万4,729件で、10年前と比べて約1.5倍となっている。警察では、国外運転免許証の申請・交付窓口の拡大、電子計算機処理による国外運転免許証の発行事務の迅速化等、国際化に対応した事務の合理化を促進している。
イ 国内の外国人運転者施策
 我が国に滞在する外国人のうち、我が国の運転免許を有する者は、10年末には50万8,247人となっている。
 外国の行政庁の運転免許を有する者については、一定の条件の下に運転免許試験のうち技能試験及び学科試験が免除されることとされている。10年中の当該免除に係る我が国の運転免許の件数は3万1,679件であり、また、外国の行政庁の数は135に上っている。
 一方、国際化の進展に伴い、偽造又は不正取得された国際運転免許証を購入し、その運転免許証により自動車を運転する事案が発生しているほか、真正でない外国の運転免許証を使用して運転免許試験の一部免除により我が国の運転免許を取得しようとする事案が発生していることから、警察では、これらの事案の発見検挙に努めている。
ウ 運転免許管理技術等の移転
 発展途上国から我が国の運転免許管理技術や運転者教育制度に対して高い関心が寄せられており、これらの技術や制度を積極的に紹介している。
 10年は、インドに対して運転免許管理技術等に関するセミナーを開催した(10月)ほか、バングラデシュに運転免許管理技術の専門家を派遣し、協力の実施に向けた調査を実施した。
(4) 運転免許証の高機能化の検討
 運転免許証の偽変造防止、業務の合理化・効率化等を図る観点から、高度なセキュリティ機能を有する電子技術を応用した運転免許証のICカード化について検討を進めている。

5 交通秩序の確立

(1) 効果的な交通指導取締りの推進
ア 悪質・危険性、迷惑性の高い違反に対する取締りの強化
 道路における交通の安全と円滑を確保するためには、無免許運転、飲酒運転、著しい速度超過、信号無視、過積載運転等交通事故に直結する悪質・危険性の高い違反の検挙に努め、交通事故を抑止する必要がある。このため、交通事故発生状況等地域の交通実態を調査・分析するなどして、効果的な指導取締りに努めている。
 また、暴走族による騒音運転、幹線道路の交差点等における駐停車違反、朝夕の通勤時間帯でのバス専用レーン等におけるバス運行妨害等迷惑性が大きく、住民からの取締り要望の

表5-5 主な道路交通法違反の取締り状況(平成6~10年)

多い違反に対する取締りも強化している。
 最近5年間の主な道路交通法違反の取締り状況は、表5-5のとおりである。
イ 背後責任追及の徹底
 企業の事業活動に関して行われた放置駐車、過積載運転、過労運転、最高速度等の違反やこれらに起因する事故事件については、運転者の取締りにとどまらず、これらの行為を下命・容認した自動車の使用者等についてもその背後責任の追及に努めている。なかでも、過積載については、使用者に対する指示及び自動車の使用制限命令並びに荷主等に対する再発防止命令を、最高速度違反については、使用者に対する指示及び自動車の使用制限命令を積極的に行っている。使用者等の背後責任追及状況は、表5-6のとおりである。
(2) 迅速・適正な交通事故事件捜査活動の推進
ア 交通事故事件の発生検挙状況
 平成10年中、交通事故に係る業務上(重)過失致死傷事件の検挙件数は65万6,721件(前年比3万8,211件(6.2%)増)、検挙人員は68万2,541人(3万8,654人(6.0%)増)であった。

表5-6 使用者等の背後責任の追及状況(平成9、10年)

 これは、過去20年間で最も交通事故発生件数の少なかった昭和54年に比べ、検挙件数は46.2%、検挙人員は44.5%、それぞれ増加している。
 また、物件事故の発生は約306万件であった。
イ 適正な交通事故事件捜査の推進
 交通事故事件捜査に対する事故原因の徹底究明を求める声の高まりを踏まえ、都道府県警察本部の交通捜査担当課に事故捜査指導官を配置するなどして、死亡・重傷事故、重大特異事故等の事故を重点とした適正な捜査の推進に努めた。特に、一方の当事者が死亡、重体等のため事情聴取ができなかったり、当事者の言い分が食い違ったりする場合や歩行者、自転車といったいわゆる交通弱者が当事者となった場合には、各当事者の責任の軽重を公平に見極める必要があるため、事故現場、関係車両等の実況見分、鑑定等の捜査を徹底するとともに、周辺の聞き込み捜査等目撃者確保のための捜査を組織的、集中的に行い、事故原因の徹底究明に努めた。
ウ 交通事故事件捜査業務の簡素合理化
 交通事故の発生件数が依然として増加傾向にある中で、交通事故当事者の負担軽減や迅速な事故処理による円滑な交通流の早期回復等の要請にこたえるため、交通事故簡易見分システム等の機器の活用、比較的軽微な人身事故に適用する捜査書類である簡約特例書式の適用範囲を拡大しての運用、一定の要件を満たす軽微な物件事故について現場見分を省略する現場見分省略制度の積極的な運用等に努めている。
エ ひき逃げ事件に対する捜査の強化
 迅速かつ適正な初動捜査を徹底するとともに、現場こん跡画像検索システム等の交通鑑識資機材の整備充実に努め、被疑者の検挙に努めている。
 最近5年間の死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況は、表5-7のとおりである。

表5-7 死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況(平成6~10年)

オ 交通特殊事件に対する捜査の強化
 保険金詐欺事件をはじめとした交通特殊事件の最近の傾向として、犯罪の組織化、広域化が挙げられる。警察では、このような情勢に対応するため、関係都道府県警察が連携した合同・共同捜査を積極的に推進している。
 最近5年間の偽装交通事故による自動車保険金詐欺事件等交通特殊事件の検挙状況は、表5-8のとおりである。
(3) 総合的な暴走族対策の推進
ア 暴走族の実態と動向
 平成10年末現在、警察が把握している全国の暴走族の総数は約3万4,400人である。この内訳は、爆音暴走等を集団で行う共同危険型の暴走族約2万5,700人(1,053グループ)、山岳道路等でコーナリング等の運転技術を競う「ローリング族」、400メートルの直線区間の走行速度を競う「ゼロヨン族」等の違法競走型の暴走族が約8,700人となっている。
 なお、共同危険型の暴走族の年齢構成は、少年が全体の約75%(約1万9,300人)を占めている。
 最近の暴走族の傾向としては、大集団での暴走は減少し、グループの小規模化が一層進んでいる一方、縄張や組織を維持するため、大きなグループの傘下に入ったり、連合組織を形成して多数のグループによる合同暴走をしたりするなどの傾向がみられるほか、活動範囲が複数の都府県にまたがるなどの広域化の傾向が顕著になっている。
 暴走族の引き起こす犯罪は、道路交通関係法令違反のほか、強盗、強姦、薬物乱用等様々

表5-8 交通特殊事件の検挙状況(平成9、10年)

な罪種にわたっており、特に10年中には、暴走族同士の縄張をめぐる対立抗争や脱会者に対する暴行から8件の殺人事件や傷害致死事件が発生するなど、凶悪化、粗暴化の傾向が深まっている。
[事例] 11月、女性のみで構成されている暴走族(通称「レディース」)の構成員9人(いずれも16歳から20歳の女性)は、同じグループの構成員(16)に対して悪口を言い触らしたとしてリンチを加え、金属製のごみ箱をぶつけたり、生木等で頭を殴ったりするなどして、脳挫(ざ)傷で死亡させた。同月、9人全員を傷害致死罪で検挙した(長野)。
 また、暴力団とのかかわりが深く、その予備軍的な存在となっているグループも多数確認されている。
 最近5年間の暴走族の勢力と動向は、表5-9のとおりである。

表5-9 暴走族の勢力と動向(平成6~10年)

イ 取締り状況
 警察では、交通、少年、刑事等各部門の連携により、暴走族に関する情報を幅広く収集してその実態を把握し、個別的な指導や補導を強化したほか、共同危険行為等禁止違反等の道路交通法違反や番号表示義務違反等の道路運送車両法違反の取締りを強化し、グループの解体や構成員の離脱を図っている。
 また、毎年6月に暴走族取締り強化期間を設け、不法改造車両の押収等を通じて、暴走族と車両の分離を図るとともに、車両を運転した者だけでなく、改造等を行った業者に対しても徹底した背後責任の追及を行っている。
 10年中の検挙人員は10万8,734人であり、また、運転免許の行政処分件数は、取消処分が1,336件、停止処分が842件であった。
ウ 暴走族を許さない社会環境づくり
 警察では、関係機関・団体等で構成される暴走族対策会議等と協力し、「暴走を『しない』、『させない』、『見に行かない』」運動を推進して暴走族を許さない世論の醸成に努めたほか、暴走族のい集場所として利用されやすい公共施設等の管理者に対し、夜間における閉鎖措置や看板設置等のい集しにくい措置を呼び掛けるとともに、暴走族へのガソリン販売の自粛、変形ハンドル等暴走行為を助長する部品の販売自粛、タクシー運転者等に対して暴走行為目撃時の通報を要請するなど、地域と一体となった各種対策を展開している。
 また、暴走行為が行われやすい道路について、効果的な交通規制や集中的な取締りを実施するとともに、道路管理者等と協力して暴走行為がしにくい道路環境づくりを推進している。
エ 少年が暴走族に加入することを阻止するための対策等
 警察では、関係機関・団体等と連携しつつ、中学校、高校において暴走族加入阻止教室を開催して、暴走族の悪質性、危険性についての理解を深めさせることなどにより、少年が暴走族に新たに加入することを阻止するための対策を行っている。
 また、暴走行為等で検挙した少年や暴走族構成員として把握されている少年に対しては、家庭、学校、保護司等と連携して、少年を暴走族から離脱させる措置を推進しているほか、交通ルールを遵守し、交通マナーを実践する意識の醸成、自動車等の正しい利用方法に関する個別指導を行うなど再犯の防止に努めている。
(4) 高速道路における交通警察活動
ア 高速道路ネットワークの現状
 平成10年末現在、高速道路の全供用距離は80路線、7,724.6キロメートル(高速自動車国道6,418.4キロメートル、指定自動車専用道路1,306.2キロメートル)である。4月5日には、中央支間長(橋を支える中央の支柱の間の距離)が世界一の吊(つ)り橋である明石海峡大橋の供用開始とともに、神戸淡路鳴門自動車道が全線供用された。
 現在、従来の高速道路に比べてかなり高規格となる第二東名・名神高速道路等の建設が進められている。他方、列島横断道路として整備される路線は、非分離2車線の部分が極めて多くなり、また、山間部を通過することから雪氷対策が必要となるなど、交通管理の難しい路線も増加する傾向にある。
イ 高速道路における交通事故の現状
 高速道路における交通事故は、図5-11のとおり増加傾向にあるものの、死者数は3年連続して減少している。
 高速道路においては、高速走行のため、わずかな運転上のミスが重大事故に結び付きやすく、しかも死傷者が多数に及ぶ場合が多い。10年中の高速道路の死亡事故率(発生件数に占める死亡事故件数の割合)は、その他の道路の2.5倍となっている。
 また、高速道路を走行する車両には貨物自動車が多いこともあり、貨物自動車による重大事故が多く発生している。10年中の高速道路における死亡事故のうち、39.9%が貨物自動車によるものであった。
ウ 高速道路における交通の安全と円滑の確保
(ア) 大型貨物自動車等に対する事故防止対策
 大型貨物自動車等について、最も左側の車線を通行すべき車両通行帯として指定する交通規制(第一通行帯通行区分規制)を関越自動車道等5路線の区間において追加実施するとともに、9年から実施している同規制の一層の定着化を図るなどして、事故の防止に努めている。
 また、危険物運搬車両の運行の適正化を図るため、指導取締りを強化するとともに、関係省庁との緊密な連携のもと、各都道府県で危険物運搬車両事故防止対策協議会を設立し、各

図5-11 高速道路関係指標(平成元~10年)

種の事故防止対策を講じている。
(イ) 先行対策の積極的展開
 高速道路の計画段階から道路管理者と、道路線形の改良、ランプウェイの取付け位置等について必要な協議を行うとともに、最高速度規制等の交通規制の決定に当たっては、道路構造、気象条件等を総合的に勘案し、その適正を期している。また、交通安全施設の整備についても、道路管理者との間において、環境観測施設、融雪・凍結防止施設、排水性舗装等の整備や中央分離帯施設の改良に関して事前に協議し、また、交通規制の内容を運転者がより認識しやすいようにオーバーヘッド型の標識の採用等の対策を進めている。
 さらに、既に供用されている区間における事故多発地点においては、事故の実態に照らし、規制の見直し、交通安全施設の改良整備等の事故防止対策を積極的に推進している。
(ウ) 従来に比べ高規格の高速道路に対応した規制、取締り手法等の調査研究
 従来の高速道路に比べ、設計速度の高い高規格の高速道路における規制の在り方について、人間工学的観点を含めた調査研究を行うとともに、当該道路においてはこれまでの装備では取締りが危険かつ困難となることが予測されるため、受傷事故防止の観点を踏まえながら、高速走行に対応できる取締り手法や機器の研究を進めている。

6 快適な交通の実現

(1) 交通安全施設等の整備
ア 交通渋滞の緩和に向けた交通安全施設等の整備
(ア) 交通安全施設等整備事業七箇年計画
 平成8年度を初年度とする交通安全施設等整備事業七箇年計画の内容及び10年度の実施状況は、表5-10のとおりで、新交通管理システム(UTMS)の整備、生活の場における安全確保、交通需要マネジメント及び災害時に対応した交通管理の4点を重点事項として交通安全施設等の整備を推進することとしている。

表5-10 交通安全施設等整備事業七箇年計画実施状況

(イ) 交通管制センター等の整備
 交通管制センターは、都市及びその周辺の交通を安全で円滑なものとするため、信号機、可変標識、中央線変移装置等に対する集中制御、双方向通信機能を有する光ビーコン(交通情報収集提供装置)等を活用した交通情報の提供等を行う施設であり、交通管理の中枢を担っている。10年度は、4都市の交通管制センターの中央装置を高度化した。
 また、災害時の道路交通状況を即座に把握し、緊急通行車両等の通行及び円滑な避難誘導活動を確保するため、主要幹線道路等において、各種車両感知器、交通監視用カメラ、交通情報板等の整備を進めるなど、災害に強い交通管制システムの構築を推進している。
(ウ) 交通安全施設等の高度化
 速度超過に起因する交通事故が多発している区間において、高速走行中の車両に対し警告を与えることにより事故防止を図る高速走行抑止システム、見通しの悪いカーブ等において、対向車の接近を警告することにより衝突事故の防止を図る対向車接近表示システム等の整備を推進している。
イ 地域の特性に応じた道路交通環境の整備
(ア) 地域の特性に応じた交通規制の点検・見直し
 警察では、地域における交通の実態に応じ、幹線道路等を重点として、最高速度規制等の交通規制の点検・見直しを進めている。
 特に、交通量の多い幹線道路の区間等における駐車規制を強化する一方で、特定の時間帯、曜日に交通需要の減少する官公庁・ビジネス街では、夜間、週末の駐車禁止規制を解除するなど、道路の構造や地域の交通実態に応じ、駐車規制の見直しを進めている。
[事例] 福岡市中洲地区における客待ちのためのタクシー等に係る駐車の整序化を図るため、違法駐車を排除する対策を講じるだけでなく、同地区の幹線道路における駐停車禁止規制を強化する一方で、地区内道路における一方通行の方向の逆転、タクシーベイの新設等の交通規制の見直しを行った結果、幹線道路における客待ちのためのタクシーの違法駐車及び地区内道路における一般車両の違法駐車が著しく減少した(福岡)。
(イ) コミュニティ・ゾーンの整備
 住居系地区等を対象に、都道府県公安委員会によるゾーン規制等の交通規制と道路管理者によるハンプや狭さく等が整備されたコミュニティ道路等の面的整備を適切に組み合わせたコミュニティ・ゾーンの形成を推進している(図5-12)。
(ウ) 交通事故多発地点対策
 身近な生活の場に潜む交通事故の多発地点を抽出し、未然に防止する活動を行うため、(財)交通事故総合分析センターの統合データを基に抽出された約3,200箇所の交通事故多発地点について、道路管理者と連携して合同現場点検及び事故原因の詳細な分析を実施するとともに、交通安全施設等の重点的整備を行うなど、総合的かつ計画的な対策を行っている。
(エ) 交通安全総点検
 高齢者、身体障害者をはじめ、だれもが安心して利用できる道路交通環境を創造するため、道路管理者と連携し、地域住民の参加による交通安全総点検を実施し、それに基づき、地域の実情に応じた交通安全施設等の整備を推進している。
(オ) 交通ボトルネック解消対策
 交差点、踏切、トンネル、橋等は、交通容量が他の区間に比べて小さいなどの理由により、交通渋滞が発生しやすい。このような交通ボトルネックを解消するため、適切な信号機の制

図5-12 コミュニティ・ゾーン

御、右折矢印信号制御、踏切信号機の設置等の対策を進めるとともに、道路管理者等に対し道路環境の改善を行うよう働き掛けている。
(2) 交通流の変化に対応した事前対策
ア 先行的交通対策
 現在の交通社会においては、都市構造や物流システムの変化等が交通流・量に大きな影響を与えることから、警察では、都市計画地方審議会等に参画して、都市計画事業、各種の開発事業、駐車場の整備、大規模施設の建設等について、交通管理面からの必要な指導、提言を行うことなどにより、交通管理上望ましい都市交通が形成されるよう働き掛けている。
イ 中心市街地活性化施策への対応
 平成10年7月に施行された中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律に基づき、各市町村において各種の中心市街地活性化施策が行われているが、警察では、交通安全施設等の整備等によりこの施策を積極的に支援しているほか、この施策について交通管理面からの必要な指導、提言を行うことなどにより、交通管理上望ましい施策が行われるよう働き掛けている。
ウ 道路使用の適正化
 道路工事、路上競技、祭礼等の通行目的以外の目的による道路使用は、年々増加傾向にあるが(表5-11)、これらの道路使用が交通渋滞等の要因となっていることも少なくなく、道路使用の適正化を推進していく必要がある。警察では、工事方法等の改善、競技コースの変更等について指導を行うとともに、許可に当たり必要な条件を付すなどして、交通渋滞の防止をはじめ交通の安全と円滑の確保に努めている。
 なお、道路工事に係る道路使用許可の運用の在り方については、公共工事のコスト縮減対策にも関係することから、適正な運用が行われるよう配慮している。

表5-11 道路使用許可件数(指数)の推移状況(昭和50~平成9年)

エ 行楽期等における交通円滑化対策
 行楽期等には、大規模な交通渋滞が発生することから、その発生を予測し、事前広報を行うとともに、臨時交通規制、交通情報の提供、警察官等による交通整理、道路における工事・作業の抑制等の対策を実施している。
(3) 交通の円滑化対策の推進
ア 快適な運転を実現するための交通情報の収集・提供
 交通の安全と円滑を確保するためには、交通規制等の手法に加え、運転者に対する適切な交通情報の提供により、自律的な交通流の分散を図ることが効果的である。
 警察は、交通管理者としての立場から、各種の交通情報収集装置を整備し、交通量、車両速度、旅行時間等の情報を収集している。その情報は、交通管制センターにおいて統合、処理され、信号制御方式の決定に用いられるほか、交通情報板、路側通信設備、光ビーコン等の交通情報提供施設、テレビ・ラジオ放送及び電話照会に対する回答等の様々な手段を利用して幅広く提供されている。
イ TDMの推進
 近年、特に都市部においては、交通需要の増加に対応した交通容量の拡大を図ることが困難であることから、交通渋滞、交通公害対策として、交通需要そのものを軽減し、又は平準化するTDM(Transportation Demand Management:交通需要マネジメント)の手法が注目されており、警察としても、関係機関と連携しながら積極的に推進することとしている。
 さらに、TDMの手法とバイパス・環状道路の整備や信号制御の高度化等の交通容量拡大策、交通結節点の整備等のマルチモーダル施策を組み合わせた都市圏交通円滑化総合対策を関係機関とともに推進し、交通の円滑化等を図ることとしている。
(ア) 交通需要軽減対策
a 大量公共輸送機関への転換対策
 マイカー利用者の利用交通手段を路線バス等の大量公共輸送機関に転換させ、都市部等における交通需要を軽減するため、バス専用・優先レーンの設定、バスの走行実態に応じた信号制御を行うためのバス感知器及びバス感応式信号機の整備、PTPS(公共車両優先システム)の導入等のバス優先対策を推進している。
 また、バス、鉄道事業者等に、パーク・アンド・ライドシステム(注)の導入を促すとともに、バス運行時間の見直し、低床式バスの導入等利用者の利便性の向上を図るための対策を働き掛けている。
(注) マイカーで最寄りの駅又はバス停まで行き、そこで駐車し、鉄道又はバスにより、都心の目的地に向かう交通形態をいう。
b 自動車利用の効率化
 自動車利用の効率化を図るため、大量公共輸送機関への転換対策と併せて、バス事業者等によるMOCS(車両運行管理システム)の導入、工業団地等における共同企業バスの運行、事業所単位等の相乗り組織等の結成を働き掛けている。
 また、自動車が物流を担う中心手段となっている一方で、交通渋滞等による輸送効率の低下、駐車場所の不足等の問題が生じていることから、警察では、荷主、運送事業者等に対して共同集配システムの構築等の働き掛けを行っている。
(イ) 交通需要平準化対策
 交通渋滞情報、旅行時間情報等の交通情報を迅速かつ的確に提供することにより、交通流・量の誘導及び分散を促している。また、通勤や業務に伴う交通需要を平準化するため、関係機関・団体等に対して、時差出勤、フレックスタイム制の導入を働き掛けている。
(4) 高齢者等に優しい道路交通環境の整備
 高齢者等の交通弱者が安心して通行できる空間を作り出すため、高齢者が利用する施設の周辺等を中心として、最高速度規制、大型車通行禁止等の交通規制を組み合わせたシルバーゾーン等を設置するほか、高齢者の携帯する無線発信器を感知して歩行者用信号の青の時間を延長する弱者感応信号機、歩行者をセンサーにより感知し歩行者用信号の青の時間を調整する歩行者感応信号機及び信号の変化を音で認識できる音響信号機の整備を行うとともに、信号機の付加機能の一層の高度化に向けた研究開発を進めている。
 また、道路標識や道路標示を見やすく分かりやすいものにするため、道路標識の大型化、内照式道路標識や太陽電池を用いた自発光式道路標識の設置を進めるとともに、道路標示の視認性を向上させる高輝度化を推進している。


コラム[2] 音声案内情報システム
 警察では、視覚障害者、高齢者等の交通弱者が道路を横断する際の安全を確保するため、従来から弱者感応化と歩行者感応化をはじめとする信号機の付加機能の高度化に力を注いできたところであるが、高齢者や障害者により優しい道路交通環境を整備するため、現在、更に高度な付加機能の実用化に向けた研究開発を進めている。
 その一環として、平成10年、横浜市内の交差点において、音声案内情報システムの実証実験を行った。このシステムは、歩行者が、歩行者専用信号機のある信号交差点において、携帯用送受信機を進行方向の歩行者専用信号機に向けると、歩行者専用信号機に併設された光ビーコンがそれを感知し、赤外線により携帯用送受信機に誘導案内情報が送信されるものである。誘導案内情報を受信した携帯用送受信機からは、「○○交差点に向かっています」、「信号は青になりました」等の音声案内情報がスピーカーから流れる仕組みとなっている。
 このシステムは、視覚障害者に対して信号機の表示する信号を正確に知らせることができ、また、設備が小型で、医療機器への影響が少ないという特長がある。実証実験の結果、参加した視覚障害者から高い評価を得ることができ、このシステムが視覚障害者にとって非常に有益であることが示されたことから、今後、このシステムの実用化に向けた研究開発を続けていくこととしている。


(5) 道路交通のインテリジェント化の推進
ア ITSの推進
 ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)とは、最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両とを一体のシステムとして構築することにより、ナビゲーションシステムの高度化、交通管理の最適化等を図り、安全性、輸送効率及び快適性の飛躍的向上を実現するとともに、渋滞の軽減等の交通の円滑化を通じ、環境保全に大きく寄与するものである。


コラム[3] ITSの推進
 警察は、地域に根ざしたITSを推進するための各種の試みを行っている。例えば、平成10年9月、兵庫県警察が中心となって、県の交通安全対策担当部署、バス業界代表、トラック業界代表等から成る「兵庫ITS推進連絡協議会」を設立したのをはじめとして、他の都道府県警察においても同様の協議会を設立する動きがある。これらの協議会において、警察は、ITSについての構成員の理解の促進を図るとともに、その都道府県におけるUTMSをはじめとするITSの利活用方策について、構成員との間で意見交換を行っている。警察庁では、各都道府県警察のこうした取組みを積極的に支援していくこととしている。


イ UTMSの推進
 警察は、ITSの実現に向けて、光ビーコンを用いた個々の車両と交通管制システムとの双方向通信により、ドライバーに対してリアルタイムの交通情報を提供するとともに、交通の流れを積極的に管理し、「安全・快適にして環境にやさしい交通社会」の実現を目指すUTMS(Universal Traffic Management Systems:新交通管理システム)を推進している。
 このUTMSは、図5-13のとおり、高度交通管制システム(ITCS)を中心に、交通情報提供システム(AMIS)、公共車両優先システム(PTPS)、車両運行管理システム(MOCS)、動的経路誘導システム(DRGS)、交通公害低減システム(EPMS)、安全運転支援システム(DSSS)、緊急通報システム(HELP)、高度画像情報システム(IIIS)の8つのサブシステムから構成されている。
 このうち、AMIS、PTPS、MOCS、DRGSについては、既に実用化の上、長野オリンピック交通対策において実施されたほか、EPMSについては、8年から9年にかけて実証実験を行った結果、車両速度と二酸化炭素等の濃度の間には一定の相関が認められ、交通管制システムの活用により自動車からの二酸化炭素等の排出量が減少することが示されたことから、11年度中に、神奈川県川崎市、静岡県静岡市、兵庫県神戸市において運用を開始することとしている(図5-14)。
 また、8年4月には、(社)新交通管理システム協会が設立され、UTMSに係る技術的な研究開発等の推進を行っている。

図5-13 新交通管理システム(UTMS)

図5-14 EPMS

 UTMSは、交通の安全と円滑はもとより、車両から排出される二酸化炭素の量の削減による地球温暖化の抑止、自動車排ガスの削減による交通公害の防止、物流の効率化、大量公共輸送機関の利用促進、中心市街地の活性化等に大きな効果が期待されている。
ウ VICSの推進
 VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)とは、ち密な交通情報の収集と提供を同時に行う光ビーコンの双方向通信機能の活用等により、渋滞、事故、規制等の道路交通情報を車載のカーナビゲーション装置等に直接リアルタイムに提供し、ドライバーに適正なルート選択を促すものであり、AMISを実現するためのものとして位置付けられる。
 7年7月に、事業主体となる(財)道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)が設立され、10年末現在、9都府県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、長野県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県)の一般道路及び全国の高速道路において運用を開始しており、12年度末までには全都道府県の一般道路において運用できるよう、逐次運用地域の拡大を図る予定である。
エ ITSに関する国際協調の推進
 ITSについては、日米欧を中心とした世界的規模の開発が進められている。
 10年10月には、第5回ITS世界会議が、世界50箇国から産官学の関係者約3,600人の参加を得て、韓国のソウルで開催され、我が国の警察からも多数参加した。また、我が国においても、国際UTMSセミナー(2月、10月)やITS国際光通信ミーティング(4月、7月)を開催するなど、積極的に交通管理技術に関する最新情報を発信し、ITSに関する国際協調の推進を図った。
 また、ISO(国際標準化機構)における、交通管制システム、音響信号機等の国際標準の策定に協力した。
(6) 総合的な駐車対策の推進
ア 違法駐車の現状
 違法駐車は、幹線道路における交通渋滞を悪化させる要因となるだけでなく、歩行者等の安全な通行の障害となるほか、緊急自動車の活動に支障を及ぼすなど住民の生活環境を害し、国民生活全般に大きな影響を及ぼしている。また、違法駐車は、交通事故の原因ともなっており、平成10年中の駐車車両への衝突事故の発生件数は2,574件で、136人が死亡している。さらに、110番通報された苦情・要望のうち、駐車問題に関するものが24.3%を占めており、駐車問題に関する国民の関心は相当に高いことがうかがわれる。
 なお、特別区(東京都23区)及び大阪市における瞬間路上駐車台数は、表5-12のとおりである。

表5-12 特別区(東京都23区)及び大阪市における瞬間路上駐車台数の推移(平成4~10年)

イ 違法駐車の効果的な取締り
(ア) 駐車違反取締りの現状
 駐車違反の取締りは、幹線道路の交差点、横断歩道、バス停留所等における悪質・危険性、迷惑性の高い違反に重点を置いて行っている。10年中の駐車違反取締り件数は228万3,164件であり、約50万台をレッカー移動した。
 また、違法駐車が常態的に行われている道路の区間について、都道府県公安委員会が「車輪止め装置取付け区間」を指定し、当該区間の違法駐車車両に対して車輪止め装置の取付け措置を講じており、10年中には1万7,764件の措置を行った。
(イ) 背後責任の追及
 自動車の使用者、安全運転管理者等が運転者に対し放置行為を下命・容認している場合については、その背後責任の追及を徹底している。10年中の放置行為の下命・容認の検挙件数は124件であった。
 また、都道府県公安委員会は、放置行為を防止するために必要な運行の管理を行っていると認められない使用者に対しては、必要な指示及び自動車の使用制限命令を行い、駐車に係る車両の運行管理の適正化に努めている。10年中の指示件数は1万9,960件(1万9,972台)、自動車の使用制限命令件数は150件(151台)であった。
ウ 駐車対策のための各種システムの整備
 警察では、交差点に設置されたテレビカメラ及びスピーカーを用いて、違法駐車車両を監視し、必要に応じ音声で警告することにより違法駐車の抑止を図る違法駐車抑止システムの整備を計画的に進めており、10年度中には、会津若松市で新たに運用が開始され、同年度末現在105都市で運用されている。
 また、駐車場を探したり、その空き待ちをしたりしている車両による交通渋滞の緩和や交通事故の防止を図るとともに、違法駐車の抑止を図るため、交通管制システムと連動して、駐車場の位置、満空状況、駐車場までの経路、交通渋滞の状況等に関する情報を運転者に提供し、空き駐車場へ誘導する駐車誘導システムの整備を計画的に進めており、10年度中には、青森市等で新たに運用が開始され、同年度末現在63都市で運用されている。
エ 関係機関・団体との連携による総合的な駐車対策の推進
 警察では、都道府県交通安全活動推進センター、地域交通安全活動推進委員等の協力を得て、違法駐車に起因する交通事故の実態、交通渋滞の状況等違法駐車の危険性、迷惑性についての情報の提供を積極的に行うほか、トラック協会、安全運転管理者協(議)会等を通じて、各企業に対し従業員による車両の自宅持ち帰りの自粛を推進するキャンペーン等を行うなど、違法駐車抑止のための広報啓発活動を進めている。
 また、地方公共団体、道路管理者等とともに駐車対策協議会を設立し、地域における駐車問題を協議・検討し、各種の駐車対策を推進しているほか、自治体に違法駐車の防止に関する必要な施策の策定及び実施を、市民に違法駐車防止の努力及び自治体が行う駐車対策への協力をそれぞれ義務付ける条例(違法駐車防止条例)、一定の建築物を新設しようとする者等に対して駐車施設の設置を義務付ける条例の制定等に協力している。10年末現在違法駐車防止条例を制定しているのは、177市9区141町14村であり、警察もその運用に必要な協力と支援を行っている。
オ 保管場所の確保対策
 道路が自動車の保管場所として使用されることを防止するため、警察では、自動車の保管場所の確保等に関する法律に基づき、保管場所証明書の交付、軽自動車の保管場所に係る届出の受理等を行うとともに、道路を自動車の保管場所として使用するいわゆる青空駐車や、自動車の使用の本拠の位置、保管場所の位置等を偽り、保管場所証明を受けるいわゆる車庫とばしの取締りを行っており、10年中の青空駐車及び車庫とばしの検挙件数は、それぞれ3万9,860件、634件となっている。
[事例] 清掃会社社長(54)は、自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法に規定する特定の地域内(大阪府藤井寺市)に使用の本拠の位置がある、窒素酸化物の排出基準に適合しない道路維持作業車等2台について、同法の適用を逃れるため、当該自動車の使用の本拠の位置が特定の地域以外の地域(奈良県)にあると偽り、登録を受け、運行の用に供していた。2月、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪、自動車の保管場所の確保等に関する法律違反で検挙した(奈良)。
 なお、軽自動車の保管場所に係る届出義務等の適用地域については、11年1月から、人口20万人以上の市及び人口20万人未満の市であって県庁所在地であるものが追加されており、今後、更にその地域を拡大することとしている。
(7) 環境問題への対応
ア 交通公害等の現状
 近年、道路交通騒音による沿道住民等の日常生活への影響や自動車から排出される窒素酸化物等による人の心肺機能への影響、さらには、二酸化炭素による地球の温暖化等が懸念されている。
 自動車騒音については、道路の種別ごとの環境基準の達成状況は、表5-13のとおりであり、全国の測定地点4,772地点のうち、4時間帯のいずれかにおいて環境基準が達成されなかった地点は4,135地点(86.7%)に及んでおり、依然として厳しい状況にある。

表5-13 道路の種類別の騒音の環境基準の達成状況(平成9年)

 自動車の走行に伴い発生する排気ガスには、窒素酸化物、浮遊粒子状物質(SPM)等の大気汚染物質が含まれている。このうち、二酸化窒素や浮遊粒子状物質については、都市部を中心に依然として深刻な状況にあり、その環境基準の達成状況は、表5-14のとおりである。
 環境庁の推計によると、二酸化炭素については、平成8年度において、自動車の利用等の運輸部門が、我が国の二酸化炭素排出量の20.1%を占めている。
イ 道路交通騒音対策
 道路交通騒音を減少させるため、警察では、交通管制システムの高度化による交通流の分散、交通状況に即応した信号機の制御、自動車の走行速度を落とし、エンジン音等を低く抑えるための最高速度規制や相対的にエンジン音等の大きい大型車を沿道から遠ざけるための中央寄り車線規制等の交通規制、著しい騒音を生じさせている速度超過車両や消音器等の不法改造車両等の取締りの徹底等の対策を推進している。
ウ 大気汚染・地球温暖化対策

表5-14 二酸化窒素及び浮遊粒子状物質の環境基準の達成状況(平成4~9年度)

 窒素酸化物等の大気汚染物質及び地球温暖化の一因となっている二酸化炭素の排出量は、自動車の発進・停止回数の増加や渋滞時の低速走行に伴って増加するとされている。このため、警察では、交通管制システムの整備、各種の交通規制、総合的な駐車対策等の道路交通の円滑化対策を推進するとともに、バス専用・優先レーンの設定等による大量公共輸送機関優先対策を実施し、マイカーから大量公共輸送機関への転換を促進することなどにより、交通総量の抑制を図っている。
 なお、地球温暖化対策推進大綱(10年6月19日地球温暖化対策推進本部決定)においては、2010年に向けて緊急に推進すべき対策の中に、交通安全施設の整備、TDMの推進、VICSの情報提供サービスエリアの拡大、UTMSの基盤となる光ビーコン等の整備、PTPS及びEPMSの整備、モデル事業「環境にやさしい交通管理」の実施等の警察が推進する施策が盛り込まれている。このため、警察では、これらの施策を重点的に推進するとともに、モデル事業の実施に当たっては、併せて調査研究も行い、二酸化炭素の排出量の削減等に資する交通管理の手法を確立することとしている。


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