第4章 暴力団総合対策の推進

 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)の施行を契機とした暴力団排除気運の高まりと取締りの一層の強化により、暴力団は、社会から孤立しつつある。しかしながら、金融・不良債権関連事犯を多数引き起こすなど、その資金獲得活動は、社会経済情勢の変化に対応して一層多様化、巧妙化しつつある。
 また、暴力団は、けん銃を使用した凶悪な犯罪や薬物事犯を多数引き起こすなど、市民社会にとって大きな脅威となっており、対立抗争事件も、依然として多数発生している。
 さらに、暴力団排除活動等の成果により企業対象暴力の件数は減少傾向にあるものの、平成9年の商法改正により新設された利益供与要求罪で総会屋が検挙されるなど、引き続き総会屋等の活動については徹底した警戒が必要である。
 このような情勢の下、警察は、暴力団を解散、壊滅に追い込むため、総力を挙げて、暴力団犯罪の取締りの徹底、暴力団対策法の効果的な運用及び暴力団排除活動の推進を3本の柱とした暴力団総合対策を強力に推進している。

1 50年の歩み

 我が国の暴力団は、戦後の混乱期に発生し、高度経済成長の時代、安定成長の時代、バブル経済の時代、そしてバブル経済の崩壊に至る社会・経済情勢の変化に対応して、その組織を変化させ、活動を多様化、巧妙化させてきた。
 なかでも、大正4年に神戸市を本拠として沖仲仕を集めて結成された「山口組」に起源を有する五代目山口組は、特に三代目組長の下、昭和30年代以降大幅に勢力を拡大し、その後、同組から分離独立した一和会との長期にわたる対立抗争(いわゆる山一抗争)を経て、現在の五代目体制となっており、その規模及び悪質性は際立っている。
 また、昭和24年ころ静岡県熱海市を本拠として結成された「稲川組」に起源を有する稲川会、大正7年ころ東京都内を本拠として結成された「住吉一家二代目」に起源を有する住吉会も、各地で対立抗争を繰り返しながら、規模を拡大してきた。
(1) 暴力団情勢の推移
ア 暴力団構成員数等の推移
 昭和20年代に、賭博を主な資金源とする博徒、露天商を主な資金源とする的屋といった古くからの暴力集団に加え、戦後の混乱に乗じて愚連隊という新たな暴力集団が発生した。これら三者は、それぞれが闇市の支配、覚せい剤「ヒロポン」の密売等を行うとともに、これらの利権をめぐって対立抗争や離合集散を繰り返すが、その過程において資金源及び活動に際立った差異はみられなくなり、30年代には、三者を一括して「暴力団」と呼称することが社会的にも定着した。
 この30年代には、暴力団構成員及び準構成員(注)の総数も、一貫して拡大し続け、38年には約18万4,100人と、そのピークに達した。また、暴力団の組織数についても36年に約5,400とピークに達している。その後、39年からのいわゆる第一次頂上作戦及び45年からのいわゆる第二次頂上作戦等を経て、構成員及び準構成員の総数は大幅に減少し、ここ数年は、8万人前後でおおむね横ばいとなっている。組織数についても、40年代後半から60年までは2,000台で推移し、61年からも3,000台で推移している。
(注) 暴力団準構成員とは、構成員ではないが、暴力団と関係を持ちながら、その組織の威力を背景として暴力的不法行為等を行う者、又は暴力団に資金や武器を供給するなどして、その組織の維持、運営に協力し若しくは関与する者をいう。
 しかし、その一方で、とりわけ60年以降、山口組、稲川会及び住吉会の3団体の構成員及び準構成員の数が大幅な増加を続けており、60年には3団体合計が総数の24.8%を占めていたが、平成10年には67.3%を占め、現在に至るまで、これら3団体による寡占状態が続いている(図4-1)。

図4-1 暴力団構成員及び準構成員の数の推移(昭和38~平成10年)

イ 暴力団の資金源の推移
 暴力団は、昭和20年代には、闇市の支配、「ヒロポン」の密売、各種興行への介入、パチンコの景品買い等を行い、特に「ヒロポン」による覚せい剤乱用が大きな社会問題となった。
 その後、暴力団は、伝統的な資金獲得犯罪である覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博及び公営競技関係4法違反(ノミ行為等)(以下「伝統的資金獲得犯罪」という。)に加え、40年代からは、民事介入暴力にも資金源を求めるようになった。いわゆるバブル経済の時期においては、都市部における地価高騰を背景として不動産取引に介入したり、証券取引に絡み利益を得ようとする事案の発生もみられ、バブル崩壊後の最近においても、企業対象暴力、金融・不良債権関連事犯等が大きな問題となるなど、その資金獲得活動を著しく多様化、知能化させている。
ウ 対立抗争事件の発生状況の推移
 20年代から、暴力団は、闇市の支配等の利権をめぐって対立抗争を繰り返してきた。
 30年代には、大分県の暴力団同士の大規模な対立抗争(いわゆる別府事件)等銃器を用いた凶悪な対立抗争事件の多発が大きな社会問題となり、こうした情勢を受け、刑法の凶器準備集合罪の新設、銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)による規制の強化、いわゆる愚連隊防止条例の制定等の法令の整備がなされた。この時期には、対立抗争の発生事件数は、最も多い年では年間100件を超えていた。その後、寡占化の進行に伴い対立抗争の発生事件数は減少したものの、発生回数は、60年にいわゆる山一抗争等により年間293回とピークに達した。
 このような対立抗争の過程で暴力団は武装化を進め、末端構成員までがけん銃を持つに至った。平成3年の暴力団対策法の制定を経て、対立抗争の発生事件数及び発生回数は共に大幅に減少しているものの、9年に山口組「若頭」等射殺事件が発生し、たまたま居合わせた医師が巻き添えになって死亡するなど、暴力団の対立抗争においては、度々市民がその巻き添えになっており、市民生活に重大な脅威を与えている。
(2) 警察の対応
ア いわゆる頂上作戦
 警察は、戦後一貫して暴力団の取締りに全力を挙げ、最近では年間約3万数千人の構成員及び準構成員を検挙している。
 特に、昭和30年代後半の暴力団の大規模化に対し、39年から、全国警察が一体となっていわゆる第一次頂上作戦を実施し、悪質な組織の中枢幹部等に的を絞った取締りにより、錦政会(現在の稲川会)、住吉会等を相次いで解散させた。
 しかし、40年代後半に入ると、服役していた暴力団の首領、幹部が相次いで出所し、第一次頂上作戦により解散させた組織の復活、再編が図られたことから、警察では、45年以降いわゆる第二次頂上作戦を実施した。さらに、山口組と松田組の対立抗争事件等を契機に、50年からは、いわゆる第三次頂上作戦を実施した。
イ 暴力団対策法
 3次にわたる頂上作戦をはじめとする徹底的な取締りにより、暴力団の構成員及び準構成員の総数が大幅に減少するなど、一定の成果がみられた。
 しかしながら、取締りの強化を受け、民事介入暴力事案等の多発にみられるように、暴力団の不当な行為は、その多様化、巧妙化の傾向を強めていった。  さらに、60年代にいわゆる山一抗争が発生し、この抗争の集結後も、各地で対立抗争の巻き添えになって市民や警察官が死亡する事件が相次いだことなどから、暴力団対策の強化を求める世論が大きな盛り上がりをみせた。
 そこで、平成3年に、暴力団対策法が制定され、対立抗争時の事務所使用制限命令や、従来の刑罰法令には触れない類型の暴力的要求行為等に対する中止命令等の行政的措置を行うことが可能となった。このような新たな手法は、現在の暴力団対策の重要な柱の一つとなっている。
 また、暴力団対策法の施行を契機に、警察は、暴力団対策に係る体制を大幅に強化し、現在に至るまで、総力を結集した徹底した取締りを実施しているところである。
ウ 暴力団排除活動
 暴力団を根絶するためには、強力な取締りとともに、暴力団の経済的基盤を切り崩し、暴力団を社会的に孤立させる暴力団排除活動が重要である。
 昭和20年代には、闇市からの暴力団排除が特に重要な課題であり、警察は、一般市民の支持の確保に努めながら、取締りを強化した。また、30年代に入ると、一般市民の支持の確保にとどまらず、言論、出版等において暴力を容認するような表現をなくす国民運動の展開に努めるなど、政府を挙げて暴力否定の気運の醸成が図られた。その後、40年代には、暴力団の縄張として最も利益が多い盛り場からの暴力団排除が大きな課題となり、全国各地で各種団体等による「暴力団排除委員会」等が結成され、警察もこれを積極的に支援した。また、60年代からは、関係機関との連携により、建設業、宅地建物取引業その他の業からの暴力団排除が推進されることとなった。
 さらに、56年に、日本弁護士連合会に民事介入暴力対策委員会が設置され、その後、全国各地において、警察と弁護士との連携の下、暴力団事務所撤去活動等が積極的に推進されている。また、平成4年に暴力団対策法の規定に基づき指定を受けた都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)は、警察その他の関係機関・団体との連携の下に、現在、暴力団排除活動の中核として暴力団員による不当な行為に関する相談事業等様々な活動を活発に展開している。
 これらの暴力団排除活動は、取締りの強化とあいまって、暴力団に着実に打撃を与えてきたところである。

2 平成10年の暴力団情勢

(1) 暴力団構成員数等
 暴力団の構成員及び準構成員は、平成10年末現在、約8万1,300人で9年に比べ約1,200人(1.5%)増加し、うち構成員は約4万3,500人で、9年に比べ約1,200人(2.7%)減少した。また、山口組、稲川会及び住吉会の3団体の構成員は約2万9,700人で、9年に比べ約200人(0.7%)増加した。
(2) 暴力団組織の解散、壊滅の状況
 平成10年中に解散し又は壊滅した暴力団組織は192組織(構成員数約1,390人)で、このうち、山口組、稲川会及び住吉会の3団体の傘下組織の解散・壊滅数は109組織(構成員数約820人)であり、全体の56.8%(全構成員数の59.0%)を占めている。

3 暴力団犯罪の取締り

(1) 全般的な検挙状況
 平成10年中の暴力団の構成員及び準構成員の検挙人員は3万2,985人で、9年に比べ876人(2.7%)増加している。このうち、構成員の検挙人員は1万615人であり、9年に比べ131人(1.2%)減少している。
 10年中の山口組の構成員及び準構成員の検挙人員は1万5,903人、うち構成員の検挙人員は4,913人(直系組長7人を含む。)で、それぞれ総検挙人員の4割を超えており、事件の内容をみても、その悪質性は際立っている。
[事例] 山口組傘下組織組長(54)らは、共謀の上、9年4月、中央区内の路上において、同組関連企業と金銭トラブルのあった男性を乗用車内にら致し、手錠をかけロープで縛るなどして、江東区内の倉庫内に監禁するなどした後、山形県米沢市内の自動車解体場に運び込んで廃車のトランク内に男性を監禁し、監禁に伴う暴行により死亡させ、同所に死体を埋めて遺棄した。10年6月、逮捕監禁致死罪及び死体遺棄罪で検挙した(警視庁、茨城)。
 10年中の暴力団の構成員及び準構成員の検挙人員を刑法犯、特別法犯の別にみると、刑法犯は2万207人、特別法犯は1万2,778人であり、9年に比べ、刑法犯は1,667人(9.0%)増加し、特別法犯は791人(5.8%)減少している。また、罪種別では、覚せい剤取締法違反が7,193人(構成比21.8%)で最も多く、次いで傷害4,882人(14.8%)、窃盗3,062人(9.3%)、恐喝3,044人(9.2%)の順となっている。

図4-2 暴力団構成員及び準構成員の検挙人員(平成元~10年)

図4-3 暴力団構成員の検挙人員(平成元~10年)

(2) 対立抗争及び銃器犯罪
ア 対立抗争事件の発生状況
 平成10年中の暴力団の対立抗争の発生事件数は11件、発生回数は48回で、その8割以上にけん銃が使用されている。9年に比べ発生事件数は5件増加し、発生回数は5回減少している(図4-4)。
[事例] 山口組傘下組織間の資金源をめぐるトラブルに端を発し、4月、大阪府下及び和歌山県下において、6回のけん銃発砲等事件を伴う内部対立抗争事件が発生し、1人が死亡した。抗争の当事者となった傘下組織に対して集中取締りを実施し、11年1月までに殺人罪、逮捕監禁罪、銃刀法違反等で、被疑者23人を検挙、けん銃10丁を押収した(大阪、和歌山)。
イ 銃器発砲事件の発生状況
 10年中の暴力団等によるとみられる銃器発砲事件の発生回数は134回であり、9年に比べ10回(8.1%)増加している。これらの銃器発砲事件に伴い13人が死亡、28人が負傷した(図4-4)。

図4-4 銃器発砲事件、対立抗争事件の発生状況(平成元~10年)

[事例] 山口組傘下組織組員(30)は、同じ傘下組織に所属する組員が、元山口組傘下組織組員に殴打されたことに憤激し、4月、名古屋市内の路上等において、同元山口組傘下組織組員に対し、けん銃を発射し殺害した。同月、殺人罪及び銃刀法違反で検挙した(愛知)。
ウ けん銃の押収状況
 警察による取締りの徹底や7年の銃刀法の一部改正等を受け、暴力団は、けん銃の保管について、小口に分散させたり、情を知らない第三者を利用したりするなど、その隠匿方法をより巧妙化させている。10年中の暴力団の構成員及び準構成員からのけん銃押収丁数は576丁と、9年に比べ185丁(24.3%)減少した(図4-5)。

図4-5 暴力団構成員及び準構成員からのけん銃押収丁数の推移(平成元~10年)

[事例1] 山口組傘下組織が関係する政治結社の総裁(49)らは、法定の除外事由がないのに、仙台市内のアパートや同政治結社の関連企業が管理するビルの空き室に、けん銃14丁、散弾銃1丁、けん銃実包733個及び散弾実包49個を隠匿所持していた。2月、同総裁らを銃刀法違反で検挙した(宮城)。
[事例2] 住吉会傘下組織会長(64)らは、法定の除外事由がないのに、川崎市内の倉庫に、けん銃16丁、けん銃実包555個を隠匿所持していた。8月、同会長らを銃刀法違反で検挙した(警視庁)。
(3) 総会屋等による企業対象暴力
 平成10年中の総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロの検挙件数、検挙人員は464件、667人で、9年に比べ、検挙件数は98件(17.4%)、検挙人員は91人(12.0%)それぞれ減少している(表4-1)。このうち、総会屋の検挙件数、検挙人員は18件、26人である。

表4-1 総会屋等及び社会運動等標ぼうゴロの罪種別検挙状況(平成9、10年)

[事例1] 総会屋(31)らは、共謀の上、10年6月開催の大手化学製品製造会社の株主総会におけるその株主の権利の行使に関し、産業廃棄物処理の請負代金名下に金員を得ようと企て、9年12月ころ、同社社員に、株主の権利の不行使に対する対価として、産業廃棄物請負処理代金名下に暗に金員を要求した。10年5月、商法違反(利益供与要求)で検挙した(大阪)。
[事例2] グループ総会屋幹部(51)及び会社代表(53)は、共謀の上、大手航空会社に係る株主の権利の行使に関し、同社の取締役らから7年11月から10年5月までの間、33回にわたり、同社の定時株主総会への出席発言を差し控えるなどして議事の進行に協力したこと、又は協力することの謝礼として、人工鉢植木のリース料名目で、同社の計算において供与されるものであることを知りながら、同会社代表が関係する会社名義の普通預金口座への振込送金により、現金合計約2,300万円の供与を受けていた。8月、商法違反(利益供与・受供与)で検挙した(警視庁)。
(4) 金融・不良債権関連事犯
 平成10年中の暴力団等に係る金融・不良債権関連事犯の検挙件数は85件で、9年に比べ6件増加しており、金融・不良債権関連事犯の捜査を強化した8年以降、増加傾向が続いている。このうち、競売入札妨害事件、強制執行妨害事件等の債権回収過程におけるものが、その大部分を占めており、暴力団等が金融機関の債権回収に絡んで不正に資金獲得を図ってい

図4-6 暴力団等に係る金融・不良債権関連事犯検挙状況(平成6~10年)

る状況が顕著にうかがえる(図4-6)。
 警察では、かねてより、預金保険機構、整理回収機構(11年4月、住宅金融債権管理機構及び整理回収銀行の合併により発足)、裁判所等の関係機関との連携により、金融・不良債権関連事犯の検挙及び債権回収過程からの暴力団等の排除を推進するとともに、9年10月、全国銀行協会連合会傘下の150の銀行との間で、銀行が警察に対して個別事案の相談を積極的に行うこと、警察が銀行の債権回収担当者を対象としたセミナーに対し協力することなどについて合意し、連携を行ってきたところであるが、10年2月には、信用金庫、信用組合、生命保険会社、一部ノンバンク等と同趣旨の合意をし、連携強化を図っている。9月までにこれらの合意に基づいて警察が銀行等から相談を受けた事案のうち、99件の金融・不良債権関連事犯を検挙している。
[事例1] 稲川会傘下組織組長(56)は、農業協同組合長らと共謀の上、同組合の融資について、回収が困難であるのにもかかわらず、8年2月、十分な担保も取らずにう回融資等により、9,700万円の融資を実行させ、同組合に同額相当の財産上の損害を与えた。10年2月、背任罪で検挙した(埼玉)。
[事例2] 政治活動標ぼうゴロ(66)らは、不動産会社代表取締役から、競売開始決定がなされた同社及び同代表取締役の居宅の土地及び建物の任意売却による整理を依頼され、共謀の上、いずれも弁護士でなく、かつ法定の除外事由がないのに、報酬を得る目的で、9年2月ころから同年4月ころまでの間、債権者である銀行の本店ほか2か所において、前後数回にわたり、債務者を代理して同銀行ほか2社に競売申立ての取下げ手続や抵当権等の設定登記の抹消手続をさせるなどの法律事務を行い、その報酬として小切手5通額面合計6,400万円の交付を受けた。10年10月、弁護士法違反で検挙した(警視庁)。
(5) 資金獲得犯罪の検挙状況
ア 伝統的資金獲得犯罪の検挙状況
 平成10年中の伝統的資金獲得犯罪に係る暴力団構成員及び準構成員の検挙人員は1万3,695人、うち構成員の検挙人員は3,871人で、それぞれ総検挙人員の41.5%、36.5%を占めている。
[事例] 山口組傘下組織幹部(38)らは、4月、高校野球大会及びプロ野球の各試合において、賭客に勝ちチームを予想指定させた上、1口1万円の割合で954口の申込みを受け、野球賭博を開張して利益を図った。5月、賭博場開張等図利罪で検挙した(岡山)。
イ 企業活動を利用した資金獲得犯罪
 暴力団の資金獲得活動は時代に応じて変化しており、伝統的資金獲得犯罪のほかに、暴力団が自ら設立し、又は関与する企業等を通じて、資金獲得を図るといった企業活動を利用した資金獲得犯罪がみられる。
[事例1] 山口組傘下組織関連企業の実質経営者(43)らは、8年11月、同社での稼働実態のない者を建設業法所定の専任技術者として同社で稼働している者とした虚偽の事実を記載した書類を申請書とともに提出して、知事から特定建設業の許可の更新を受けた。
 さらに、同人らは、徳島県発注の土木工事の指名競争入札に際し、9年8月、同県土木事務所職員に最低制限価格を要求する金額に決定させ、その金額をわずかに上回る金額で落札した。10年6月、建設業法違反で、8月、競売等妨害罪で検挙した(徳島)。
[事例2] 沖縄旭琉会傘下組織幹部(44)は、業として金銭の貸付けを行っていたが、それを行うに当たって法定の利息をはるかに超える金利を受領していた。6月、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反で検挙した(沖縄)。

4 暴力団対策法の施行状況

(1) 指定状況
ア 指定状況
 平成10年末現在、23団体が指定暴力団として指定されているが、これらのうち、10年は、五代目山口組(兵庫)、稲川会(東京)及び住吉会(東京)(いずれも6月16日。ただし、効力発生は同月23日)を皮切りに、15団体が三度目の指定を受けた(表4-2)。

表4-2 指定暴力団の指定の状況(平成11年3月2日)

イ 指定をめぐる争訟の状況
 指定暴力団の指定をめぐっては、四代目会津小鉄(9年2月に名称が五代目会津小鉄に変更されている。)から、再度の指定の取消しを求める訴訟が提起されていたが、10年1月、五代目会津小鉄からの訴えの取下げにより終結した。
(2) 中止命令の発出状況等
 平成10年中は、1,900件の中止命令及び43件の再発防止命令を発出しており(表4-3)、暴力団対策法の施行以降発出した中止命令、再発防止命令の総件数は、10年末現在、それぞれ、8,322件、258件に上っている。また、5件の少年脱退措置命令の発出があった。
 10年の中止命令を形態別にみると、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが1,235件(65.0%)、加入強要及び脱退妨害(16条)に対するものが486件(25.6%)となっている。また、暴力的要求行為のうち、伝統的な資金獲得活動であるみかじめ料、用心棒料等要求行為に対するものは391件(20.6%)となっている。
 団体別にみると、山口組に対するものが846件(44.5%)、次いで稲川会に対するものが347件(18.3%)、住吉会に対するものが243件(12.8%)の順であり、これら3団体に対する中止命令件数が、全体の75.6%を占めている。
 また、8件の命令違反事件(中止命令1件、再発防止命令7件)を検挙している。
[事例1] 山口組傘下組織幹部(48)は、造園業者から債権取立ての依頼を受け、報酬を得る約束をして、同造園業者に対し債務を負う建材会社の役員に対し、粗野で乱暴な言動を交え、自己が所属する指定暴力団の威力を示して、その債務の履行を要求したため、4月、中止命令を発出した(兵庫)。
[事例2] 山口組傘下組織組員が代表を務める政治団体の構成員(33)は、同組員の名刺を利用するなどして指定暴力団の威力を示すことを常習としている者であるが、交際していた女性から別れ話を持ち掛けられるや、自己と同組員との関係を強調した上、「別れたかったら40~50万円用意せえや。」等と告げて、不当贈与を要求したため、7月、中止命令を発出した(大阪)。
[事例3] 稲川会傘下組織幹部(24)は、9年5月、静岡県公安委員会から、静岡県内の9町内及びその周辺において、飲食店等を営む者に対し、付き合いその他これに類する名目で、営業所における日常業務に用いる正月用飾り物を購入することを要求することなどを禁止する旨の再発防止命令を受けたものであるが、同年11月から12月までの間、数回にわたり、同再発防止命令に違反した。10年4月、暴力団対策法違反で検挙した(警視庁)。
(3) 暴力団員の離脱促進、社会復帰対策の状況
 警察及び都道府県センターが援護の措置等を行うことにより暴力団から離脱させた暴力団員は、平成10年中は約570人であり、暴力団対策法の施行後約4,250人に上っている。また、

表4-3 暴力団対策法に基づく中止命令及び再発防止命令件数(平成7~10年)

関係機関・団体と連携を図り全国に設立された社会復帰対策協議会を通じて就業に成功した元暴力団員は、同法施行後10年末までに約540人である。さらに、社会復帰対策を効果的に推進するため、暴力団から離脱し、就業した者について、社会復帰アドバイザーが、本人、その家族、雇用事業者等を訪問するなど、アフターケアの充実にも努めているところである。
[事例] 松葉会傘下組織組員(19)が同傘下組織幹部から離脱を妨害されたため、5月、同幹部に対し、中止命令を発出した。この結果、同組員は同傘下組織からの離脱に成功し、その後、社会復帰対策協議会の支援の下、運送会社に就業し、社会復帰を果たした(群馬)。

5 暴力団排除活動の現状

(1) 暴力追放運動推進センターを中心とした暴力団排除活動
 都道府県センターは、暴力団排除活動の中核として、相談事業をはじめ、少年を暴力団から守る活動、民間の暴力団排除活動に対する援助、暴力団事務所撤去活動の支援、被害者に対する見舞金の支給、民事訴訟の支援等の事業を行い、警察その他の関係機関・団体との連携の下に暴力団排除活動を活発に展開している。
 平成10年中に警察及び都道府県センターに寄せられた相談を相談種別にみると、表4-4のとおりである。
 また、暴力団対策法に基づき、警察及び都道府県センターは、暴力団員による不当要求の被害を受けやすい金融・保険業、建設・不動産業、ぱちんこ営業等を中心に、各事業所の不当要求防止責任者に対する講習(以下「責任者講習」という。)を実施しており、10年4月以降11年3月までに約5万2,000人が受講した。この責任者講習においては、教本、視聴覚教材等が用いられているほか、暴力団員への応対方法について模擬訓練形式の実習も行われている。
[事例] 山口組傘下組織幹部(46)が、飲食店経営者に対し、飲食代金の支払いの免除を要求した事案において、同経営者が、暴力追放運動推進センターの行う責任者講習において指導を受けた対応方法に基づき、警察との緊密な連携を図り、同幹部に対し、5月、中止命令が発出された。
 なお、違反行為の相手方の申出により、被害回復を行う場としての警察施設の提供等の援助措置を行った結果、違反行為者から飲食代金が支払われ、被害が回復した(京都)。
(2) 企業の暴力団、総会屋等との関係遮断に対する支援等
 警察においては、都道府県警察に設置された「企業対象暴力特別対策本部」等を中心として、企業からの暴力団、総会屋等に係る各種相談に適切に対応するため相談体制の充実を図るとともに、企業、業界団体に対する自主警戒に係る指導や情勢に応じた的確な保護対策を

表4-4 相談種別暴力団関係相談件数(平成10年)

講じているほか、被害防止要領等に関する講演等を積極的に行うなど、暴力団、総会屋等との関係遮断に向けた企業等に対する各種の支援、指導等を行っている。また、都道府県センターの相談事業においても、暴力追放相談委員が、専門的知識をいかし相談に応じているところである。
 さらに、警察庁では、平成10年4月、刑事局暴力団対策部暴力団対策第一課に企業に対する暴力団員による不当な行為の防止に関する事務並びに都道府県暴力追放運動推進センター及び全国暴力追放運動推進センターに関する事務をつかさどる「企業対象暴力排除対策官」を新設し、暴力団、総会屋等との関係遮断に向けた企業等に対する各種の支援、指導等のための体制の一層の強化を図った。
(3) 暴力団等の公共事業からの排除
 国や地方公共団体等の発注する公共事業の請負業者から暴力団、暴力団利用者等の不良業者が排除されるなど、公共事業における暴力団排除活動が積極的に推進されている。
 警察としても、暴力団の資金源を遮断するため、暴力団犯罪の検挙にとどまらず、捜査の結果判明した事実を基に、税務当局に対する課税通報を行っているほか、関係機関と連携して、暴力団、暴力団利用者等の不良業者を公共事業から排除するなど、積極的な暴力団排除活動を推進している。
[事例1] 山口組傘下組織組長(49)が実質的経営者となっている株式会社が、建設業の許可を受ける際に、虚偽の事実を記載した書類が申請書類に添付されていた事実が判明したため、平成9月11月、同組長らを建設業法違反で検挙した。その旨を関係地方公共団体に通報したところ、同社は、10年1月、1年間の指名停止処分を受け、さらに、3月、建設業の許可も取り消された(大阪)。
[事例2] 山口組傘下組織組長(53)及び建設会社役員(59)は、公共工事の指名入札参加者に対して、威力を用いて入札の公正を妨害したため、8月、同組長らを競売入札妨害罪で検挙した。また、その旨を関係地方公共団体に通報したところ、同建設会社は、9月、9箇月の指名停止処分を受けた(香川)。
(4) 債権管理回収業に関する特別措置法
 金融・不良債権問題の迅速な処理が国の重要な課題となっていることなどを背景に、平成10年10月、法務大臣の許可を受けた債権回収会社が、債権管理回収業を行うことなどを認めることなどを内容とする債権管理回収業に関する特別措置法(いわゆるサービサー法)が制定された。
 この法律は、暴力団員等がその事業活動を支配することなどを許可の欠格要件とし、警察庁長官が、法務大臣に対し、暴力団排除等に係る許可の欠格要件の有無等について意見を述べることとするなどの、暴力団排除のための仕組みを整備している。
 また、この法律は、暴力的不法行為等による被害の予防又は回復のための警察庁長官の債権回収会社に対する援助についても規定を設けている。
(5) 暴力団員を相手取った民事訴訟の支援の動向
 全国各地で、暴力団事務所の明渡しや使用差止めの請求訴訟、暴力団員の違法行為による被害に係る損害賠償請求訴訟等、暴力団員を相手方とした民事訴訟が提起されている。とりわけ、暴力団犯罪の被害者が、当該犯罪等の実行行為者のみならず、その所属する暴力団の組長等の使用者責任や共同不法行為責任を追及する損害賠償請求訴訟を複数提起しており、被害回復はもとより、暴力団組織に打撃を与えるという面からも注目される。警察は、危害防止の観点から関係者に対する保護対策を徹底するとともに、都道府県センターにおいても、訴訟費用の貸付け等の支援を積極的に行っている。
[事例1] 山口組傘下組織の事務所として使用されていた建物について、その所有者が(財)島根県暴力追放県民センターから訴訟費用の貸付けを受け、建物の明渡し請求訴訟を提起していたが、2月、和解が成立し、同事務所の撤去に成功した(島根)。
[事例2] 警察、(財)和歌山県暴力団追放県民センター等の支援の下、中野会傘下組織事務所の付近住民が、和歌山地方裁判所に対し同事務所の使用差止めを求めて、民事保全法に基づき仮処分命令の申立てを行っていたところ、8月、同事務所の建物について、暴力団事務所としての使用を禁止するとともに、同事務所の執行官保管を命ずる旨の仮処分命令が発せられた(和歌山)。


目次