第2節 国境を越える犯罪への対応

 我が国社会の国際化に伴い、警察事象も年々国際化してきている。これに対応するため、警察は、それぞれの時代に必要な対策を講じてきた。警察事象の国際化の進展状況は、都道府県によって異なるため一律に論ずることはできないが、近年では、警察事象の本格的な国際化に対応するため、警察の総力を挙げた体制を構築する時代に入ったということができる。とりわけ、国の警察機関である警察庁の外国治安担当機関のカウンターパートとしての役割が、近年、高まりつつある。

1 我が国警察の国際犯罪対策

 近年急増している来日外国人犯罪の捜査については、次のような特徴が認められる。
 第一に、来日外国人犯罪は、広域にわたり敢行されているのみならず、同一人が多種多様な犯罪に関与している。例えば、集団密航を手配している「蛇頭」は、密航のあっせんのみならずその請負料の取立てをめぐって監禁、誘拐、殺人等の事件を引き起こし、また、ベトナム人の窃盗・故買グループの構成員が薬物密売グループの構成員ともなっている実態もみられる。このことから、同時に複数部門にわたる専門捜査員が共同して捜査に当たる必要がある。
 第二に、言葉の壁がある。来日外国人犯罪捜査に際しては、来日外国人被疑者の取調べ及び参考人の事情聴取はもとより、聞き込み捜査や証拠資料の分析においても外国語の能力が必要である。近年検挙人員の増加しているアジア地域の出身者の取調べ等に必要な通訳要員は、警察部内はもとより部外においても確保することが困難なことが少なくない。また、捜査に係る通訳人には事件・事故や刑事手続に関する予備知識が必要とされるため、事前に通訳人と捜査員との十分な打合せが必要となるなど、通訳人を介した取調べ等においては、捜査員が日本語によって直接に行う場合よりも多くの時間と労力を要することとなる。
 第三に、被疑者の身元確認及び所在確認の困難性がある。悪質な不法滞在者の中には故意に旅券を廃棄する者や偽造又は他人名義で取得された旅券を所持する者がおり、また、戸籍制度が十分に整備されていない国や旅券発給手続が必ずしも厳格でない国から来日した外国人がいるなど、来日外国人被疑者の身元確認が困難な場合が少なくない。さらに、来日外国人、特に不法滞在者は、居所や就労先を転々とする場合が多く、被疑者だけでなく参考人についても所在確認が困難な場合が多い。そのため、被疑者の身元を確認するにも外国捜査機関との連携が必要であり、また、犯行後の国外逃亡を防止するためには、入国管理局等の関係機関との緊密な連携が不可欠である。
 警察では、以上のような点を考慮し、具体的に以下のような対策に取り組んでいる。
(1) 取締り体制の確立と法制の整備
ア 国際捜査体制の整備
 警察庁の体制としては、昭和29年の警察庁創設時以来、出入国管理令に規定する犯罪の捜査等を所掌する警備第二課が設置され、36年に外事課と改称されて現在に至っている。また、30年代以降、ICPOとの連絡事務や国際捜査共助に関する業務については刑事局調査統計官が、国際犯罪捜査の業務については主として刑事局捜査第一課が担当していたが、ICPOを中心とした国際捜査共助体制及び国際刑事犯罪の捜査体制の強化を図るため、50年にこれらの業務を所掌する国際刑事課が新設された。さらに、平成6年には、国際刑事課が所掌していた事務を含め国際協力業務、外国の警察行政機関等との連絡及び来日外国人問題への対応を統一的かつ効果的に推進する体制を整備することを目的として、長官官房に国際部が設置された。
 都道府県警察では、従来、外事課又は外事部門を担当する課が設置されており、また、その他の各事件主管課においてもそれぞれ来日外国人犯罪に対処している。このような中、主として国際犯罪捜査を担当する国際捜査課が、昭和63年に全国で初めて警視庁に設置され、その後、平成5年に大阪府警察、9年に愛知県警察、10年に千葉県警察、11年に神奈川県警察にそれぞれ設置された。また、10年には警視庁に外事特別捜査隊及び国際組織犯罪特別捜査隊が設置されるなど、専任捜査体制を拡充している。
 さらに、来日外国人犯罪に関する諸対策を一体的に推進するため、9年には、警察庁に「来日外国人犯罪対策室」を設置し、各都道府県警察にも同様の組織を置いて対応していたが、11年5月、これを発展的に改組して警察庁に次長を長とする「国際化対策委員会」を設置し、犯罪対策のほか来日外国人に係る防犯・保護等の諸対策及び国際情勢に的確に対応する諸対策を総合的に推進することとした。
イ 国際捜査力の強化
(ア) 国際捜査官の育成
 国際犯罪の捜査に従事する警察官には、外国語はもとより、出入国管理、国際捜査共助、刑事手続等に関する条約その他内外の法制等極めて幅広い分野に関する特別の知識、手法が要求される。
 そこで、警察では、これまでも部内で又は部外委託により語学研修を行うとともに、国際捜査実務に関する研修を行ってきた。昭和60年には、国際捜査官の体系的な養成を目的として語学研修及び国際捜査実務研修を行うため、警察大学校の附置機関として国際捜査研修所を設立した。現在、国際捜査研修所では、国際捜査に関する実務研修、北京語、韓国語等アジア諸国の言語を中心とした語学教育、海外研修等を実施している。
 都道府県警察においても、国際捜査に従事する捜査員に対する教育や、通訳担当者も参加する実務的な語学研修等を実施するとともに、平成6年度からは、特に高い語学能力を備えた者を国際犯罪捜査官として特別に採用を開始し、国際捜査力の確保に努めている。
(イ) 通訳体制の整備
 来日外国人被疑者の人権に十分に配慮した適正な捜査を推進するためには、被疑者等の供述を正確に把握することはもとより、我が国の刑事手続を理解させ、権利の告知を確実に行うことが不可欠である。都道府県警察においては、高い語学能力を備えた者を警察職員として採用し、取調べにおける通訳等に当たらせている。
 また、近年におけるアジア出身者を中心とする来日外国人犯罪の急増の結果、アジア系言語等の通訳人の需要が急増し、警察部内でそのすべてに対応することは極めて困難であることから、取調べにおける通訳の一部を部外の通訳人に依頼して対応している。これらの部外通訳人に対しては、刑事手続等の理解が深められるよう、「通訳ハンドブック」等を配布したり、研修会を開催したりしている。
 通訳人の運用に当たっては、夜間等に突発的に発生する事件に迅速に対応するなどの必要があるため、都道府県警察及び管区警察局に通訳センターを設置するなどして、その体制の整備に努めている。
 なお、被疑者に対しては、刑事手続の流れ等について各国語の対訳を作成し、適宜被疑者に提示しながら通訳を介して説明するなど、被疑者の権利内容等の理解の徹底を図っている。
[事例] 10月、部外通訳人7人を対象に研修会を開催し、通訳センター次長等が、来日外国人犯罪の現状と刑事手続の概要や部外通訳人の心構えについて講義を行った。また、部内通訳人の育成を重点に「通訳センターニュース」を発行するとともに、交番のミニ広報紙等を活用して即戦力となる部外通訳人の確保に取り組んだ(和歌山)。
ウ 法制の整備
(ア) 不法入国・不法滞在者問題対策
 深刻な不法入国・不法滞在者問題に対処するため、入管法が数次にわたり改正されている。まず、元年に就労資格のない外国人の雇用やそのあっせん等を罰する不法就労助長罪が設けられ、9年には、いわゆる集団密航に係る罪として、集団密航を助長する各種行為が新たな犯罪類型として設けられた。10年までに警察では、不法就労助長罪により3,542件3,302人を検挙し、集団密航に係る罪では104件191人を検挙した。
 11年8月、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律が成立した。改正後の入管法には、いわゆる不法在留罪の新設及び退去強制された者に係る上陸拒否期間を1年から5年へ延長する旨の規定が盛り込まれている。また、2000年(平成12年)策定をめどに作業が行われている国際組織犯罪対策条約の移民の密輸(密入国の助長)に関する議定書(注)においても、移民の密輸すなわち他国への不法入国の助長等の行為を犯罪化すべき旨の規定が盛り込まれる見通しである。
(注) 現在策定作業中であり、条約、議定書名については仮称である。以下、その他の策定作業中の条約名についても同様とする。
(イ) 女性・児童の性的搾取問題対策
 我が国で風俗営業等に従事する外国人女性の中には、ブローカーや営業者等に入国費用等の名目で高額の借金を背負わされた上、旅券を取り上げられ、事実上売春を強要されるなど、性的搾取の対象とされる例がみられる(第1節2(6)参照)。
 このような状況に対応するため、平成10年4月、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律が改正され、外国人女性を違法に雇用した者を風俗営業から排除する規定や風俗営業者等が接客業務に従事する者に対し不相当に高額な債務を負担させた上、旅券等を保管する拘束的行為を行うことを禁止する規定等が整備された。同一部改正法は、11年4月に施行されている。
 また、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律が、11年5月に成立したところであるが、この法律には、外国における日本国民の児童買春やインターネット等による児童ポルノの頒布等を処罰する内容が盛り込まれており、今後とも海外の捜査機関等との連携を強化して取締りに当たるなど、適切に対処していくこととしている。
(ウ) 薬物・銃器の密輸入対策
 薬物の密輸入対策については、1988年(昭和63年)、薬物事犯取締りのためのマネー・ローンダリング対策、コントロールド・デリバリー(注1)等を規定した麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国連条約(以下「国連麻薬新条約」という。)が採択されたことを受け、我が国では、平成3年10月、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るため、麻薬特例法が制定された(第2章第4節2(4)参照)。
 また、最近の銃器の密輸入対策としては、7年5月に銃刀法の一部が改正され、けん銃実包の輸入罪等の新設、けん銃等の密輸入等に関する罰則の強化を図ったほか、クリーン・コントロールド・デリバリー(注2)を行うための根拠規定等が整備されている(第2章第4節1(3)参照)。
(注1) コントロールド・デリバリーとは、取締機関が規制薬物等の禁制品を発見しても、その場で直ちに検挙することなく、十分な監視の下にその運搬を継続させ、関連被疑者に到達させてその者らを検挙する捜査手法をいう。
(注2) クリーン・コントロールド・デリバリーとは、コントロールド・デリバリーの中でも銃器等の禁制品を発見した際に、別の物品と差し替えて行うものをいう。
(エ) マネー・ローンダリング対策
 我が国におけるマネー・ローンダリング対策は、麻薬特例法において薬物犯罪に係るマネー・ローンダリングの処罰(第9条及び第10条)、マネー・ローンダリングの対象となった不法収益等の没収(第14条から第18条まで)、金融機関等による疑わしい取引の届出等(第5条及び第6条)が規定されている。しかし、薬物犯罪以外の組織犯罪や国際犯罪はマネー・ローンダリング対策の対象となる犯罪(前提犯罪)とされていないことから、我が国は、FATF(金融活動作業部会)における対日審査等国際社会の協議の場において批判を受けているところである(2(3)ア参照)。
 こうした状況を背景に、11年8月、通貨偽造、強盗等の一定の犯罪に係るマネー・ローンダリング対策等の規定が盛り込まれた組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律が成立した。
(2) 関係行政機関及び地域住民との連携
 来日外国人問題は、総合的な観点からの対策を必要とする問題であり、各関係行政機関や地域住民との連携が不可欠である。
 警察では、法務省、労働省、地方公共団体等の関係機関・団体との情報交換を積極的に行い、行政全体として総合的な対策が講じられるように様々な形で働き掛けを行っている。3月には、警察庁、法務省及び労働省の担当局長によって構成される「不法就労外国人対策等関係局長連絡会議」が開催され、不法就労等外国人対策について、緊密な情報交換、合同摘発の強化等に取り組むことを合意し、これに基づき、都道府県警察では、地方入国管理局との合同摘発の強化や不法就労等外国人労働者問題地方協議会を通じるなどした積極的な指導啓発活動を行っている。
 また、6月には、政府の「外国人労働者問題啓発月間」に合わせて「来日外国人犯罪対策及び不法滞在・不法就労防止のための活動強化月間」を実施した。
 さらに、都道府県警察では、漁協関係者等と海上合同パトロールを実施するなど、各種協議会等を通じた地域住民との協力活動を推進している。
(3) 国際刑事警察機構(ICPO-Interpol)への貢献
 1952年(昭和27年)、国家地方警察本部長官(当時)がICPOの前身である国際刑事警察委員会(ICPC)に加盟し、警察法が改正された1954年(昭和29年)、警察庁長官が引き続き会員となった。1956年(昭和31年)にICPCがICPOに改組され、各国の警察機関等が構成員となったことに伴い、我が国からは警察庁がその構成員となった。以後、警察庁は、ICPOの日本国国家中央事務局(NCB)として捜査協力を積極的に実施するとともに、ICPOの機能強化のため、分担金の拠出、通信技術の供与、事務総局への警察職員の派遣等以下に掲げる貢献を行っている。
ア 財政的貢献
 ICPOに対して加盟各国が拠出する分担金の中で、我が国は、平成10年度予算で1億9,780万円を拠出しており、その負担率は米国に次いで高く、全体の5.8%を占める。
イ 情報通信に関する支援
 1970年(昭和45年)以来、東南アジア地域通信局として、アジア地域内の各国間及びICPO事務総局との間の通信の中継を担当している。あわせて、域内各国に対して、情報通信技術に関する指導、支援を行っている。
ウ 人的貢献
 警察庁では、ICPOに対する人的貢献も積極的に行っている。1985年(昭和60年)から1990年(平成2年)まで、ICPO事務総局警察局長(現在の犯罪情報局長)に警察庁職員が就任したほか、これまで多くの警察庁職員がICPO事務総局に派遣され、組織の運営に携わってきた。なお、1999年(平成11年)6月現在では、4人が派遣されている。
 また、1996年(平成8年)第65回総会(トルコ)において、警察庁国際部長が第15代総裁(任期4年)に選出されており、2000年(平成12年)までの任期中、文字どおりICPOの代表として運営をリードしている。このほか、警察庁職員は、ICPOの活動方針の決定や事務総局の監督等を行う執行委員会の構成メンバーである副総裁や執行委員にも度々選出されてきた(2(4)参照)。
 犯罪のグローバル化により、国際的な犯罪対策の協調、調整の必要性が認識され、捜査協力の問題が各種国際協議の場で喫緊の課題として取り上げられる中で、犯罪捜査における国際協力を目的とした唯一の国際的機関であるICPOの活動に携わることによって、我が国警察は、国際的に大きく貢献している。
(4) 外国捜査機関との協力
 国際犯罪の増加に伴って、外国捜査機関に対する各種照会や証拠資料の収集の依頼等を行うことが一層重要になっており、そのため、警察庁では、ICPOルートや外交ルート等により外国捜査機関と情報交換等を行っている。過去10年間に警察庁が行った国際犯罪に関する情報の発信、受信の総数は、表1-12のとおりである。また、国際捜査共助法に基づき外国からの要請に応じて捜査共助を実施した件数は、表1-13のとおりであり、その大半はI

表1-12 国際犯罪に関する情報の発信、受信状況(平成元~10年)

表1-13 外国からの要請に基づき捜査共助を実施した件数(平成元~10年)

CPOルートによるものである。
 さらに、警察では、密入国の助長、銃器・薬物の密輸入、国際的なマネー・ローンダリングをはじめとする国際犯罪を効果的に捜査するため、外国捜査機関との協力関係の強化に努め、具体的な事件につき情報交換や共同捜査を推進している。
[事例1] 警察庁が我が国側の窓口となり、平成9年9月、香港警察と、10年5月、中国広東省公安庁及び香港警察と、10月、中国上海市公安局と、それぞれ集団密航事件の密航組織の共同摘発(事前の協議による同時期における関連被疑者の検挙、関係場所の捜索等)を行った(千葉、茨城、群馬、山口、警視庁、大阪、奈良)。
[事例2] 7月、タイ人女性を不法就労者として供給する犯罪組織の運び屋で、タイのバンコク市在住の日本人の男(26)を入管法違反(不法就労助長罪等)で日本において検挙した。その後の捜査により、タイに拠点を置く女性供給組織の実態が明らかになり、9月、担当官をタイへ派遣し、同組織を壊滅するため連携捜査を行うこととした。11月、両国警察の緊密な連携捜査により、タイ在住で女性をあっせんしていた別の日本人幹部(36)を入管法違反(不法就労助長罪)で検挙した(千葉)。
(5) アジア諸国との地域的連携の強化
 我が国において活動する国際犯罪組織は、アジアの国々の中に本拠を置くものが多く、その実態解明と検挙の推進には、関係各国による共同の取組みが必要である。
 来日外国人犯罪(刑法犯)検挙人員の約4割を占める中国との間においては、平成9年5月以降、警察庁次長と中国公安部長助理による2回の定期協議を開催している。また、10年5月には、国家公安委員会委員長の訪中による中国公安部長との初の閣僚級会合を開催し、国際組織犯罪対策につき、実務レベルでの協議を更に一層進めていくことに合意した。同年11月の江沢民・中国国家主席の来日時における小渕首相との首脳会談の際には、銃器、密航、マネー・ローンダリング、金融経済犯罪、ハイテク犯罪等の各種の国際犯罪対策の面で協力を強化すること、薬物犯罪の取締りにつき引き続き協力していくことなどが合意された。
 また、近年、覚せい剤の密造は、従来の中国に加えて、ミャンマー、タイ、ラオスにまたがる「黄金の三角地帯」及びその周辺の国々に拡大している。そこで、警察では、覚せい剤の国境を越えた供給の遮断に向け、国連薬物統制計画(UNDCP)と協力して、「黄金の三角地帯」及びその周辺諸国との協力関係を強化し、これらの国々における薬物対策を積極的に支援するため、11年1月31日から2月3日までの間、外務省と共催で「1999アジア薬物対策東京会議(ADLEC Tokyo)」を開催した。
 同会議には、東アジア地域の6箇国を含む15箇国2機関から閣僚クラスを含む薬物取締機関のトップ級やUNDCP事務局長等が参加し、薬物問題の現状や参加各国とUNDCPの協力の現状及び今後の進め方について発表・討議が行われた。また、同会議においては、国境地域の薬物取締官の薬物取締り能力の向上を図ることなどを目的としたUNDCPの新規プロジェクトに対し、我が国から、財政的・技術的支援が表明されたほか、東アジア地域における薬物問題の解決に向けての地域的な協力関係の強化等を合意する「コミュニケ」が採択された。

(6) 外国警察に対する技術協力
 我が国警察は、発展途上国の警察機関への技術協力等を行うなどの国際貢献を継続して行っている。
ア 技術協力の推移
 我が国警察の有する技術、ノウハウは、世界各国から高い関心・が寄せられているところであり、開発途上国から、警察運営、交番制度、捜査手法、犯罪鑑識等の各種分野での技術協力が強く求められている。
 昭和37年からは、警察庁と国際協力事業団(JICA)(注)との共催により、外国の警察幹部を対象とした各種国際研修を開催しており、我が国の警察制度、刑事手続、捜査手法・技術等の紹介とともに情報交換や討議等を行って、関係国相互間の理解と協力を深めることに役立たせている。63年以降は、警察庁独自でも各種セミナーを開催し、研修の機会を多く設けている。
(注) 49年8月、海外技術協力事業団及び海外移住事業団等の業務を継承し設立。
 また、相手国の担当者を我が国に招いて指導を行うだけでなく、JICAからの依頼により、交番制度、鑑識技術、交通管制技術、情報通信システム等の専門家を各国に派遣し、積極的な技術移転を進めている。
 このような技術協力の中でも、交番制度については、56年、シンガポール政府から導入のための協力要請があり、警察庁は、57年以降専門家派遣や研修員の受入れを行ってその移転に成功した。同制度は、ほかにも多数の国に紹介され、現在、モンゴル、フィジー等の国においても類似の制度が運営されている(注)。
(注) このほか、諸外国の警察から注目を集めているものとして、鑑識分野では指紋自動識別システム(第3章第2節3(3)ア(イ)参照)、交通分野ではITS(高度道路交通システム)(第5章6(5)ア参照)、情報通信分野では緊急通報システム等がある。
イ 平成10年における警察活動に関するセミナー等の実施
 10年中に警察が独自に又はJICAとの共催により実施した主なセミナーは、表1-14のとおりである。特に、同年は、「パキスタン女性警察官セミナー」の中で、パキスタン研修生、部外有識者及び日本で被害者対策に従事している女性捜査官等をパネリストとして、「女性警察官の現状と課題」と題するパネルディスカッションを開催したほか、民主的警察の確立に向けた南アフリカ警察の積極的な取組みを支援するため、8年以降3年連続して「南アフリカ警察行政セミナー」を開催した。

表1-14 警察が開催した主な国際セミナー、研修(平成10年)

ウ 10年における専門家の派遣
 10年には、表1-15のとおり、JICAからの依頼により鑑識専門家をフィリピン、モンゴル、南アフリカ等に派遣し、指紋鑑識や写真鑑識等の技術指導を実施したほか、交通管制システム、交番制度等の技術協力を推進した。

表1-15 警察がJICAからの依頼により実施した主な専門家の派遣(平成10年)

(7) 来日外国人の生活の安全を確保するための活動
 外国人は、生活習慣の相違等から、地域住民とのコミュニケーションが希薄になりやすく、地域の安全に関する情報を入手し難い立場に置かれている。警察では、来日外国人向けの防犯教室の開催、外国語で記述された防犯パンフレットの配布等により、生活の安全に関するアドバイスを実施しているほか、来日外国人のための相談窓口を設置し、日常生活における不安の解消に努めている。そのほか、来日外国人を雇用し、又は研修生として受け入れている企業等が各地で結成している連絡協議会と連携して、外国人従業員、研修生に対し、事件事故等の被害に遭わないためのアドバイスを行うなど各種保護活動を展開している。
[事例] 富山県警察では、10月、中国人技術研修生を対象に「交通安全講習会」を開催し、中国語ビデオや自作の絵本を活用して、日本と中国の交通ルールの違いや事故に遭った時の対応等について指導した(富山)。
(8) 海外における邦人の安全対策
 近年、国際社会における我が国のプレゼンスが顕著になっているが、一般市民を巻き込む国際テロや、不特定多数の者の殺傷をねらった無差別テロが発生する中、我が国の企業の海外拠点、駐在員、観光客等がテロ行為の被害に遭う可能性が高まっている。また、依然として世界各地で地域紛争、内乱、暴動等が発生している。
 こうした情勢を踏まえ、警察庁は、恒常的に各国治安機関との連携を密にして世界各国のテロ情勢等治安に関する情報入手に努め、その分析結果を随時外務省に提供して邦人の海外における安全対策に貢献している。
 特に1998年(平成10年)5月に発生したインドネシアの暴動の際には、1万人以上の在留邦人が大挙して脱出するという緊急事態が発生し、警察庁は、外務省の要請に基づき、担当官を現地に派遣し、現地治安当局との情報交換等に努めるとともに、邦人が安全に脱出できるよう現地日本大使館への支援活動を行った。
 また、(財)公共政策調査会が開催した、「第6回海外安全対策会議(9月、オーストラリアのシドニーにおいて開催。)」に、担当官を講師として派遣するなど、在外邦人の安全確保のための活動を行った。

2 国際社会における国際犯罪対策への取組み

 国際犯罪の問題は、我が国だけでなく諸外国においても治安上の重要課題となっている。国境を越えて引き起こされる国際犯罪に対抗するためには、国際的な捜査協力が不可欠であることから、近年、サミット、国連をはじめとした国際協議の場でも国際犯罪対策が重要なテーマとなっている(図1-18)。
 国際化の進んだ現代においては、犯罪者は、国境を越えて容易に移動することができ、また、犯罪によって得た収益を取締りの弱い国へ容易に移転することもできる。そこで、国際社会においては、犯罪者や犯罪収益にとっての「抜け穴」を作らないよう各国が協力して国際犯罪対策を進めていかなければならないという認識が形成されつつある。
 我が国警察としては、我が国治安維持の目的とともに、国際社会への責務を果たすという観点からも、国際社会における国際犯罪対策への取組みに積極的に参加し、貢献していかなければならない。

図1-18 国際社会における国際犯罪対策の取組み

(1) サミットにおける取組み
ア これまでの取組み
 サミットにおいては、早くから薬物やハイジャック、国際テロの問題が取り上げられてきた。薬物問題について初めて取り上げられたのは、1985年(昭和60年)に開催されたボン・サミットであり、その後も、薬物問題は毎年のように取り上げられ、国連麻薬新条約の採択(1988年(昭和63年))やFATFの創設(1989年(平成元年))に至っている。
 1994年(平成6年)に開催されたナポリ・サミットにおいては、国際犯罪問題がそれまでのテロや薬物等のような個別問題としてではなく、これらを包括した形で全体的に取り上げられた。また、翌1995年(平成7年)に開催されたハリファクス・サミットにおいては、今日におけるG8の国際犯罪対策協議の中核となっている「国際組織犯罪対策上級専門家会合(リヨン・グループ)」の設置が決定され、以後、国際犯罪対策は、サミットにおいて毎年取り上げられる課題となっている。
 なお、リヨン・グループにおいては、警察庁国際部長が我が国代表団団長を務めているほか、同グループ内に設置された銃器サブグループでは、我が国(警察庁)が議長国となっている(第2章第4節1(4)ウ(ウ)参照)。
 1997年(平成9年)のデンヴァー・サミットでは、「コミュニケ」において「国際組織犯罪への取組み強化」がうたわれた。同年の12月には米国において、国際組織犯罪関連では初めてのG8司法・内務閣僚級会合が開催され、我が国からは警察庁長官、法務事務次官が出席した。同会合では、特にハイテク犯罪対策について議論され、「ハイテク犯罪と闘うための原則と行動計画」が策定された。
 翌1998年(平成10年)5月に開催されたバーミンガム・サミットでは、主要議題の1つとして、初めて「国際犯罪」が取り上げられた。
 同サミットの「コミュニケ」で、まず、国際犯罪についての基本的な認識が示された。具体的には、グローバリゼーションの進展が同時に薬物及び武器の不正取引、人の密輸(密入国の助長及び女性・児童の不正取引)、新技術の濫用による窃盗、詐取及び脱法行為並びに犯罪収益の洗浄等の国際犯罪の劇的な増加をもたらすことになったこと、これらの犯罪はG8各国の市民及び社会に対する脅威のみならず世界的な脅威となっていること、この脅威と闘うためには国際的な協力が不可欠であることが示された。続いて、リヨン・グループのこれまでの作業を評価し、G8各国における更なる取組みの強化を要請するとともに、薬物と国際犯罪に対する諸対策が示されたが、これらの諸対策は、国連における国際組織犯罪対策条約の2000年(平成12年)までの策定、ハイテク犯罪対策、マネー・ローンダリング対策、人の密輸対策、銃器対策、犯罪収益を用いた贈収賄対策、薬物対策等における国際協力を主たる内容とするものであった。
 また、同年12月には、初めて同時テレビ会議方式により、G8司法・内務閣僚会議が開催され、我が国からは、国家公安委員会委員長及び法務大臣が参加し、各国の閣僚等が自国に居ながらにして、国際組織犯罪対策やテロリストの資金調達問題について率直な意見交換を行った。

イ ケルン・サミット
 1999年(平成11年)6月18日から20日にかけて、ドイツのケルンにおいて第25回主要国首脳会議(ケルン・サミット)が開催された。8箇国共同による「コミュニケ」で、国際組織犯罪が世界中の政治、金融及び社会の安定に与える脅威について言及され、これと闘うため引き続き国際的な努力を行っていくことが示された。この関連で、リヨン・グループ等の国際組織犯罪及びテロリズムに関するそれぞれの上級専門家グループが行っている現在の取組みを賞賛し、国連における国際組織犯罪対策条約及び議定書についての交渉の早期終結に向けた作業を引き続き行うとともに、テロリズムに対する資金供与に関する国連条約の交渉を迅速に進めるよう要請した。こうした取組みについては、2000年(平成12年)に我が国が議長国となるサミットにおいて、改めて各上級専門家グループが各国首脳に報告を行うこととされた。また、1999年(平成11年)秋には、モスクワで犯罪に関するG8司法・内務閣僚級会合が開催されることが記された。このほか、薬物については、1998年(平成10年)の国連総会麻薬特別会期における採択文書(第2章第4節2(4)ウ(ア)a参照)が積極的に実施されるよう再確認された。このような動きは、「第三次覚せい剤乱用期」を迎え、覚せい剤対策が喫緊の課題となっている我が国にとって極めて有意義なものであると考えられる。また、汚職問題については、より多くの国がOECDの国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(以下「外国公務員に対する贈賄防止条約」という。)((5)参照)を締結することを希望し、国連の国際組織犯罪対策条約において公務員の関与する汚職行為を犯罪化するよう求めている。
 一方、G7諸国においては、これまで主として経済問題についての議論の中で金融犯罪についても取り上げられてきたところであるが、今回のケルン・サミットにおけるG7首脳声明では、マネー・ローンダリングを含む金融犯罪について「金融市場のグローバリゼーション及び新たな情報技術の導入によってもたらされる恩恵を確保するために、金融犯罪との闘いは、各国の政策及び国際的政策における優先課題の一つであり続けなければならない。」との認識が示された。その上で、オフショア金融センター(注)を含め、金融犯罪との闘いにおいて、規制が不十分で非協力的な国・地域がもたらす問題について懸念が表明され、この問題に対し、現在FATFが進めている取組みを支持するとともに、各国の大蔵大臣に対して、法務・内務大臣等と協力し、諸対策を実施するよう要請した。
(注) 非居住者間の取引のための金融サービスに租税、為替管理等における特典が与えられている金融センターのことを指す。
(2) 国際連合における国際組織犯罪対策条約策定への取組み
 1994年(平成6年)11月にイタリアのナポリにおける国際組織犯罪世界閣僚会議で採択された「ナポリ政治宣言及び世界行動計画」において、各国の法制度の相違等による困難を克服しつつ、国際組織犯罪に対し効果的に対処できるよう締約国間の協力を促進することを目的とした国際組織犯罪対策条約の検討が提唱された。これをきっかけとして、1998年(平成10年)12月9日、国連総会において、本条約の策定の討議と女性・児童の不正取引、銃器の密造及び不正取引、移民の密輸(密入国の助長)の3つの分野に関する本条約を補足するための国際文書(議定書)の策定の討議を目的とした政府間特別委員会の設立が決議された。
 本条約においては、共同謀議・犯罪組織加入の処罰化、マネー・ローンダリングに係る措置、公務員の汚職、裁判管轄、犯罪人引渡し、捜査・司法共助、国際資産没収、被害者・証人の保護、法執行協力と情報交換、技術協力と訓練等に係る条項で構成される見込みとなっている。また、各議定書に関しては、不正取引された人の保護、銃器の製造・取引記録の保存、海上における密航船に対する措置、旅券等の偽造防止等を含む様々な事項が検討の対象とされている。
 第1回政府間特別委員会は、91箇国、23国際機関、18NGO、4専門機関の参加を得て、1999年(平成11年)1月19日から29日までの間、ウィーンにおいて開催された。
 なお、我が国は、同委員会の副議長国(9箇国)のうちの1つに選出されており、これらの条約が実効あるものとなるよう積極的にその審議に参加している。警察庁職員も我が国代表団に参加し、銃器の密造及び不正取引に関する議定書についての議論をリードするなどの貢献を果たしている。
(3) 金融活動作業部会(FATF)等における国際的マネー・ローンダリング対策
 マネー・ローンダリングを防止するとともに、緊密な国際捜査協力を行っていくため、FATF、エグモント・グループ、アジア・太平洋マネー・ローンダリング対策グループ(APG)等複数の国際フォーラムが形成されている(図1-18参照)。
 特に、犯罪組織が、薬物犯罪以外にも様々な違法行為によって得た収益のマネー・ローンダリングを行っていることから、国際社会における議論では、マネー・ローンダリング対策の対象となる前提犯罪を薬物犯罪以外にも拡大すべきことが取り上げられている。
ア FATFにおける活動
 FATFは、1989年(平成元年)のアルシュ・サミットで設置が決定されたマネー・ローンダリング対策に関する国際協力を推進するための国際フォーラムであり、現在、我が国を含め主にOECD加盟国の26箇国・地域と2国際機関が参加している。
 1990年(平成2年)には、マネー・ローンダリングに対する包括的な諸対策を示した「40の勧告」を策定し、1996年(平成8年)には、「40の勧告」について、前提犯罪の拡大、疑わしい取引の届出の義務化等を内容とする大幅な改訂を行った。
 FATFでは、「40の勧告」の適正な実施を図るため、参加国が互いに勧告遵守状况を監視しあう相互審査を実施しており、我が国に対しては、1993年(平成5年)と1997年(平成9年)の2回審査が行われた。
 この第2回目の対日審査では、疑わしい取引の届出件数が他国に比べて少ないことなどを挙げて、我が国のマネー・ローンダリング対策が効果的でないと厳しく指摘がなされる一方で、当時立案中であった組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律にみられるような、我が国のマネー・ローンダリング対策の取組みを歓迎する旨の報告書がまとめられた。
 現在、FATFは、当面の課題として、「40の勧告」に代表されるマネー・ローンダリング対策を世界的規模に拡大し、マネー・ローンダリングの規制の「抜け穴」を塞ぐことに主眼を置いている。この観点から、FATFのメンバー国を拡大し、関係する地域・機関との連携を強化していくことが計画されている。
 金融市場に占める高い国際的地位という観点からも、我が国が、マネー・ローンダリング対策の世界的ネットワーク拡大のために果たすべき役割は非常に大きくなっている。なお、我が国は、1999年(平成11年)6月現在、議長国を務めている。
イ エグモント・グループの活動
 犯罪によって得た収益は、怪しまれないよう小口に分割され、異なる幾つかの金融機関に預けられたり、隠匿のために海外に送金されたりすることもあることから、こうしたマネー・ローンダリングを探知するためには、金融機関が認知した疑わしい取引の情報を効果的に収集するとともに、国際的な情報交換を行うネットワークを構築することが重要である。そのため、疑わしい取引情報を一元的に収集、分析して捜査機関に提供するFIU(Financial Intelligence Unit)と呼ばれる政府機関が1990年代に入って各国において相次いで設立されている。1995年(平成7年)、べルギーのエグモント宮殿でFIU機能を持った各国機関が非公式に会合を開催した。この会合はその後毎年開催されており、エグモント・グループと呼ばれている。我が国においては、1995年の第1回会合以降警察庁が連絡窓口になって会議に出席してきたところである。バーミンガム・サミットにおいても、FIUの設置について首脳間の意見の一致をみたところであり、我が国におけるFIUの設立が国際的な要請となっている。平成11年8月には、我が国のFIU機能を金融監督庁に付与するための組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律が成立した。我が国でFIUが設立されれば、マネー・ローンダリング対策分野での一層の国際協力が期待される。
ウ アジア・太平洋マネー・ローンダリング対策グループ(APG)の活動
 マネー・ローンダリングと闘うための国際的な取組み強化の動きは、カリブ地域、欧州地域、アジア・太平洋地域といった各地域においても進展している。FATFは、今後「40の勧告」を含むマネー・ローンダリング対策を全世界的に拡大することとしており、アジア・太平洋地域における取組みの強化にも注目してきたところである。こうした中、1997年(平成9年)、タイで開催されたFATF第4回アジア・太平洋マネー・ローンダリングシンポジウムにおいてAPGの設置が決定され、我が国もその参加国の一つとなった。第1回APG年次総会は、1998年(平成10年)3月に東京で開催された。

 10月にはニュージーランドにおいてアジア・太平洋地域におけるマネー・ローンダリングの実態、手口、類型等を討議するため、犯罪類型分析専門家会合(APGタイポロジー会合)が開催された。第2回APGタイポロジー会合は、1999年(平成11年)3月、警察庁のホストによって東京で開催され、アジア・太平洋地域を中心とする25箇国・地域及び6国際機関の専門家が参加し、我が国においても問題となっている「地下銀行等違法送金ビジネス」を主要テーマとしたマネー・ローンダリング犯罪の手口について情報交換、討議がなされた。同会合では、今後「地下銀行」を通じたマネー・、ローンダリングについて集中的に検討するための作業部会を設置することなどが決定された。APGの現在の参加国は、16箇国・地域である。
(4) ICPOの活動
 ICPOは、国際犯罪捜査に関する情報交換、犯人逮捕と引渡しに関する円滑な協力の確保等の国際的な搜査協力を迅速、的確に行うための、各国の警察機関を構成員とする国際的な機関であり、1998年(平成10年)末現在、177箇国・領域(注)が加盟している。
(注) アルバ及びオランダ領アンチルの2領域。
 現在の本部は、フランスのリヨン市に所在し、加盟国の警察機関等から派遣された職員及び現地採用職員の約340人が在籍し、図1-19の組織の下で国際犯罪に関する情報の収集や交換のほか、逃亡犯罪人の所在確認や身柄の確保を求める国際手配書の発行、各種国際会議

図1-19 ICPOの組織

の開催等多岐にわたる活動を行っている。また、犯罪情報システムや通信網の拡充を図るとともに加盟国の国家中央事務局(NCB)に対して、24時間体制を確保するよう要請し、情報連絡網の体制整備に努めている。
 また、ICPOは、1997年(平成9年)の第51回国連総会から、総会におけるオブザーバー・ステータスが与えられている。
 最近のICPO総会における主な国際犯罪に関する決議等は以下のとおりである。
○ 1995年(平成7年)第64回年次総会(北京)では、警察庁が提出した銃器規制決議案が全会一致で採択された。
○ 1997年(平成9年)7月には、アナン国連事務総長と兼元ICPO総裁(警察庁国際部長)がニューヨーク国連本部で会談し、国際犯罪対策に関してICPOと国連が相互に協力することを定めた協定に署名し、今後国際的な連携を強化することで合意した。
○ 1998年(平成10年)第67回年次総会(カイロ)において国際組織犯罪に対し、より効率的に対処するため事務総局及び加盟国のNCBの組織や機能を見直すことを内容とする「戦略的発展計画」が発表され、検討されることとなった。

(5) その他の取組み
 犯罪の国際化に伴い、その防止及び捜査のために、国際的な対策の実施、関係国間の情報・資料の交換等が必要不可欠となっている。
 このため、サミット、国連、ICPOのほかにも数多くの多国間又は二国間の国際会議が設定され、犯罪問題について議論がなされるようになってきている。例えば、OECDでは、国際商取引に関連して行われる外国公務員に対する贈賄行為を処罰する旨を定めた外国公務員に対する贈賄防止条約が1997年(平成9年)に作成され、我が国は本条約の担保として不正競争防止法の一部を改正した上で、1998年(平成10年)10月に本条約を締結、1999年(平成11年)2月には本条約の発効と同時に改正不正競争防止法が施行され、外国公務員等に対する不正利益の供与等が禁止されることとなった。また、欧州評議会では、ハイテク犯罪に関する条約案についての検討が進められている。このような中で、警察としても、国際会議に積極的に参加するとともに、銃器・薬物対策、マネー・ローンダリング対策関係の国際会議を我が国で開催し、犯罪の防止等に向けて関係諸国との協議を行っている(表1-16)。

3 今後の課題

 第1節において述べたように、国際犯罪の多発をはじめとする警察事象の国際化は、今後一層進展するものと予想される。警察としては、第2節において述べた国際捜査力の強化、関係行政機関、外国捜査機関等との連携強化、グローバルな国際組織犯罪対策の構築等の諸対策を引き続き行っていくとともに、今後は、諸外国、特にアジア諸国との共同行動をより強力に推進していく必要があることから、そのための体制整備や新たな国際捜査協力のための枠組みづくりを行っていかなければならない。
 また、2000年(平成12年)には我が国でのサミット開催が決定されており、国際組織犯罪対策等への我が国のリーダーシップが求められる。
(1) 国内における総合的取組み体制の確立
 警察における国際犯罪対策は、国際組織犯罪の実態解明と検挙の推進を中心とするが、このためには、捜査能力と語学能力の双方を兼ね備えた捜査員、優秀な通訳専門職員等が不可欠である。特に外国捜査機関との共同行動を展開していくためには、アジアの言語を中心とした高度の語学能力を有するとともに、国際犯罪捜査のノウハウに精通した捜査員をより多く確保、育成していかなければならない。また、警察全体としても、国際組織犯罪に対応した新たな捜査手法を開発していく必要がある。
 さらに、国際犯罪は、社会・経済のグローバリゼーション(第1節1参照)に由来するものであることから、その根本的な解決のためには、諸外国との協力はもとより、関係行政機関や産業界が連携して総合的に取り組んでいかなければならない。関係行政機関と産業界との連携については、国際的にも求められているところであり、これは例えば、国際会議の場においてマネー・ローンダリング対策やハイテク犯罪対策の分野で、プライバシーの保護や産業界のコストといった課題とどう調整しながら枠組みを構築していくかが議論されていることに表れている。我が国としても、こうした国際的な動きに対応していくことが必要である。
(2) 捜査・司法共助の分野での条約締結の動き
 現行の国際捜査共助法においては、図1-20のとおり、外国からの共助の要請は、緊急そ

表1-16 警察職員が出席した主な国際会議(平成10年)

の他特別の事情がある場合を除いて、当該外国による相互主義の保証その他の要件が充足されている場合に、外務大臣及び法務大臣を経て警察に伝えられ、その結果収集された証拠は、その逆に法務大臣及び外務大臣を経て外国に提供されることとされている。諸外国においてもおおむね同様の手順を経て共助が実施されている。
 共助の要請は、口上書その他の外交文書により個別の相互主義の保証の下で行われることが通例であるが、要請を受けた国が実際に共助を行うか否かは、国家間で一般的に行われている便宜、好意等に関する慣習である国際礼譲に期待するほかなく、国際的な義務とはなっていないため、捜査に必要な証拠が入手できるか否かは不確実で、国際的な犯罪捜査を円滑に行う上で支障となる場合がある。
 このことから、国際社会では、円滑な捜査・司法共助の実施を通じて国際組織犯罪を効果的に阻止するなどのため、捜査・司法共助の分野での条約締結の動きもみられる。捜査・司法共助に関する条約の締結は、一定の共助の実施を両国間で義務とし、個別の相互主義保証を不要とするほか、相手国の刑事事件の捜査に必要な証拠の提供その他の援助の円滑な実施の確保にその目的がある。例としては、1988年(昭和63年)に採択された国連麻薬新条約(1(1)ウ(ウ)参照)や1997年(平成9年)に採択された外国公務員に対する贈賄防止条約(2(5)参照)が挙げられる。また、このほか、国連において国際組織犯罪対策条約及び3つの議定書(2(2)参照)の策定に向けた審議が進められているところであり、我が国も積極的に審議に参加するなど、国際社会における捜査・司法共助の分野の新たな動きに対応している。

図1-20 現行の国際捜査共助法による基本的な国際捜査共助手続

(3) 国際社会の取組みへの積極的な協力
 これまでみたように、国際社会における国際犯罪問題への取組みは近年急速に広がりをみせている。こうした取組みは、しばしば新たな犯罪に対抗するための刑事司法や法執行の枠組みを再構築することを求めている。我が国としても、犯罪の「抜け穴」を作らないようこうした取組みに協力し、21世紀に向けて新たな国際犯罪対策のスタンダード作りに積極的に参加していくことが極めて重要である。
ア 次期サミット及びリヨン・グループ作業への貢献
 ケルン・サミットでは、国際犯罪対策等について2000年(平成12年)の我が国でのサミットにおいても各国首脳への報告が求められることとなったことから、国際犯罪対策については引き続きリヨン・グループを中心として作業を進めていくこととなる。特に、2000年は、我が国がリヨン・グループの議長を務めることとなることから、我が国が国際犯罪対策の推進のために国際社会において果たすべき責務はますます大きくなると考えられる。また、国連国際組織犯罪対策条約については、3つの議定書(2(2)参照)とともに、我が国が議長国である2000年中に締結することとなっており、我が国が果たすべき役割は非常に大きい。
 一方、G7やFATF等において議論されている金融犯罪、マネー・ローンダリングに対する取組みにおいても、経済的に重要な地位を占める我が国が積極的に参加していくことが求められる。
イ アジアにおける国際犯罪対策の推進
 主要国間の取組みに加え、アジア地域においても国際犯罪対策の推進に我が国がリーダーシップを果たしていくことが求められる。アジア地域と我が国とは、薬物の供給と需要、あるいは不法入国と来日外国人犯罪、「地下銀行」による海外送金といった形で、犯罪の面でも深いつながりを持っており、アジア地域の犯罪対策は我が国の治安にとっても重要な問題である。こうした観点から、これまでもアジア地域に対し、国際犯罪対策の分野において技術協力のほか種々の協力を行っており、また、多国間の会議・セミナーとして、1999年(平成11年)2月に「1999アジア薬物対策東京会議(ADLEC Tokyo)」を開催したほか、同地域における不法収益対策の強化のためにAPGに貢献するなど、アジア地域における犯罪対策の強化に積極的に取り組んでいる。
 法を執行する立場にある警察では、今後、更に一層アジア地域の各国と連携して国境を越える犯罪対策の強化を図っていかなければならない。


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