はじめに

 平成9年中は、「神戸市須磨区における小学生殺人・死体遺棄事件」、「山口組「若頭」等射殺事件」、「エジプトにおける観光客襲撃事件」、「動燃・東海事業所における放射性物質漏出事故」、「ナホトカ号海難・流出油災害」等、数々の重大事件、事故及び災害が発生し、世間の耳目を集めた。
 また、外国人犯罪組織の暗躍、総会屋等による企業対象暴力の顕在化、薬物情勢の悪化、深刻化する少年非行情勢、現金輸送車襲撃事件の多発、依然として1万人近くの尊い命が失われている交通情勢等を考えると、今後も厳しい局面が続いていくことは否定できない。
 さらに、米国をはじめとする欧米諸国では、政府機関のコンピュータ・システム等が犯罪の攻撃に遭う事例やインターネットを利用した国際犯罪が深刻な問題となっており、1998年(平成10年)5月、英国で行われたバーミンガム・サミットでも、「ハイテク犯罪」に各国首脳の高い関心が集まった。我が国においても、今まさに高度情報通信社会を迎えつつあり、ハイテク犯罪対策が急務となっている。
 このような情勢の中で、警察としては当面、次のような施策を重点的に推進していくこととしている。
○ ハイテク犯罪対策の推進
 高度情報化の進展に伴いハイテク犯罪対策の推進が我が国の内外で急務となっている。
 警察では、このような情勢を踏まえ、高度の技術力を備え、かつ、外国警察機関等からの捜査協力要請に対応することができる「サイバーポリス」とも呼ぶべき体制を確立するための取組みを進めるとともに、グローバル・スタンダードを満たすための法制の整備、産業界との連携の強化、国際捜査協力の枠組みづくりに関係省庁と一体となって取り組む。
○ 被害者対策の推進
 近年、被害者やその遺族の受ける様々な被害の深刻な実態について、国民の関心が高まるとともに、警察に期待される役割も大きなものとなっている。
 警察では、被害者に対する情報提供、相談・カウンセリング体制の整備、捜査過程における被害者の負担の軽減等を積極的に進めるとともに、性犯罪・暴力団犯罪等の被害者の特性に応じたきめ細やかな施策の推進、関係機関・団体等との連携の強化等、総合的な被害者対策を一層推進する。
○ 銃器・薬物対策の推進
 銃器対策については、「銃器対策推進本部」を中心に関係機関と連携の上、政府を挙げて総合的に推進する。特に、けん銃等の密輸・密売ルートの壊滅と暴力団等の組織管理に係るけん銃等の摘発を重点とした取締り、広報啓発活動、国際的な取組み等を積極的に推進する。
 また、薬物対策については、政府の「薬物乱用対策推進本部」を中心とした関係機関等との連携強化及び国際協力の強化に努め、薬物の供給ルートの解明と薬物犯罪組織の壊滅、麻薬特例法を活用した不法収益対策の強化、末端乱用者の徹底検挙、広報啓発活動等供給の遮断と需要の根絶の両面から総合的に推進する。
○ 市民の安全と平穏の確保
 地域安全活動の推進、交番等の「生活安全センター」としての機能の強化等を図る。
 また、少年非行の凶悪化、薬物乱用の拡大、性の逸脱行為のまん延等深刻化する少年非行情勢に対処するため、「強くやさしい」少年警察運営を基本方針として、関係機関・団体と連携しつつ、少年非行等に係る総合的な対策を推進する。
 さらに、風俗営業の健全化の推進、悪質な生活経済事犯等の取締り等を推進する。
○ 捜査力の充実強化
 平成9年においては、刑法犯の認知件数が戦後最高を記録しただけでなく、情報通信の高度化、交通手段の発達、外国人入国者数の増加等の社会情勢の変化に伴って、犯罪の広域化、スピード化、国際化が進んだ。それと同時に、「人からの捜査」や「物からの捜査」が一層困難となっている。
 こうした情勢に対処するため、警察では、広域捜査力の強化、専門捜査力の強化、国際捜査力の強化、科学捜査力の強化、国民協力の確保等を図る。
○ 金融・不良債権関連事犯対策
 融資過程又は債権回収過程における詐欺、背任、競売入札妨害等の金融・不良債権関連事犯の捜査を徹底的に行い、不正事案の摘発及び防圧に努める。
○ 暴力団総合対策の推進
 暴力団が市民生活に対する重大な脅威となっている情勢に対処し、暴力団を壊滅させるため、暴力団犯罪の徹底的な取締り、暴力団対策法の効果的な運用及び暴力団排除活動の積極的な推進を3本の柱として暴力団総合対策を強力に推進する。
○ 安全で快適な交通環境の確保
 交通事故死者の減少を図るため、交通の安全と円滑に資する民間の組織活動を促進するなど、地域社会と連携した総合的な交通安全対策の推進に努めるほか、交通安全教育指針を活用することにより、段階的かつ体系的な交通安全教育の推進を図る。また、交通渋滞や交通公害が大きな社会問題となっていることから、高度情報通信技術を活用した交通管理システムの高度化を推進するなど、安全で快適な交通環境を確保するための諸施策を推進する。
○ オウム真理教関連事件の全容解明等
 オウム真理教による組織的違法事案の全容解明と再発防止を図り、また、警察庁長官狙撃事件と教団との関連を解明するためにも、依然逃走中の特別指名手配被疑者等の早期発見、 検挙に全力を尽くすとともに、教団の動向把握にも積極的に取り組む。
○ 各種テロ対策の強化及び各種違法事案の未然防圧、徹底検挙
 極左暴力集団による凶悪なテロ、ゲリラ事件及び各種違法事案の未然防圧、検挙等を図るため、徹底した取締りを行う。また、右翼によるテロ等重大事件の未然防止を図るため、銃器摘発の強化及び悪質な資金源活動等の取締りを推進する。さらに、国内外の厳しいテロ情勢を踏まえ、情報収集及び分析の推進、特殊部隊(SAT)等の強化、サイバーテロ等新たな形態のテロへの対応、国際協力の促進等各種テロ対策を積極的に推進する。
○ 来日外国人犯罪・国際犯罪対策
 近年、来日外国人による犯罪は、件数が急激に増加しているのみならず、質的にも凶悪化、組織化の傾向を強めている。
 警察では、外国人犯罪組織の実態解明と検挙を強力に進めるとともに、国境を越えた国際犯罪に対処するため、グローバル化の時代にふさわしい国際捜査協力の枠組みづくりに向け積極的に取り組むこととしている。
○ 警察力強化のための総合的な取組み
 組織、人員の効率的運用、職員の資質の向上、業務処理方法の見直し、装備資機材の近代化等を更に積極的に推進するとともに、多様な人材の確保、女性警察職員の職域拡大等を図る。
 また、職員の高い士気を維持するとともに、今後の警察を担う優秀な人材を確保するため、中途採用等の採用の複線化を図るとともに、勤務環境の改善、職員住宅や独身寮の整備充実、給与の改善、海外研修制度の拡充等を積極的に推進する。
○ 警察の情報通信システムの充実及び事案に即応する体制の強化
 事件、事故及び災害に迅速かつ的確に対応するなどのため、警察統合情報通信ネットワークシステム、WIDE通信システム等の充実を図るとともに、機動警察通信隊の体制の強化に努める。


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