最近の風俗環境をめぐる情勢にかんがみ、平成10年4月、風営適正化法の一部が改正された。
この改正により、「風俗関連営業」の名称がより実態に即したものとなるよう「店舗型性風俗特殊営業」と改められたほか、いわゆるダンススクールのうち一定の要件に該当するものを風俗営業(第2条第1項第4号に規定する営業)から除外するなどの風俗営業に係る規制緩和、風俗営業等に関して行われる売春事犯の防止のための規制等が行われた。また、性風俗特殊営業については、従来の店舗型の性を売り物とする営業に、アダルトビデオの通信販売営業等の無店舗型の性を売り物とする営業、インターネットを利用してポルノ映像を送信する営業等が追加されたほか、接客業務の委託を受けて当該営業の営業所において接客業務の一部を行うことを内容とする営業が規制対象に追加された。
警察では、風営適正化法等に基づき、風俗営業に対する必要な規制を加えるとともに、風俗営業者による自主的な健全化のための活動を支援し、その業務の適正化を図っている。
(1) 風俗営業の健全化
ア 風俗営業の状況
最近5年間の接待飲食等営業等(第2条第1項第1号から第6号までに規定する営業)及び遊技場営業(第2条第1項第7号及び第8号に規定する営業)の営業所数の推移は、それぞれ表3-22及び表3-23のとおりである。
接待飲食等営業等の営業所数は、全体として減少傾向にある中で、ダンスホール等(第2条第1項第4号に規定する営業)では増加傾向を示している。遊技場営業の営業所数は、ぱちんこ営業で一昨年に引き続き減少したこともあり、全体の減少傾向が続いている。
イ 風俗営業の健全化に向けた施策の推進
(ア) 風俗営業からの暴力団排除
ぱちんこ営業等の風俗営業に対する暴力団の関与は、その営業の健全化を阻害する大きな要因となっているが、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行後、風俗営業者の間でも暴力団排除気運が盛り上がりをみせている。しかし、依然として、用心棒料等名下にみかじめ料を提供したり、暴力団から高額で芳香剤等を購入したりするなど、暴力団に関与する営業者がみられるほか、暴力団が関与する風俗関係事犯も後を絶たない。このため、警察では、暴力団が関与する事件の取締りを強化するとともに、風俗営業者の管理者講習や
表3-22 風俗営業(料飲関係営業等)の営業所数の推移(平成5~9年)
表3-23 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(平成5~9年)
各種会合において暴力団排除講習等を行うなど、風俗営業者の自主的な暴力団排除活動を積極的に支援している。
(イ) ぱちんこ営業の健全化
ぱちんこ営業は、国民の身近で手軽な大衆娯楽となっているが、不正に改造された遊技機を使用した違法な営業が後を絶たないほか、平成9年中、ぱちんこプリペイドカードの変造・行使事犯の検挙件数が62件、検挙人員が91人に上っており、依然として健全化を阻害する要因は少なくない。このため、警察では、遊技機の不正改造事犯等の取締りを強化するとともに、関係団体による自主的な健全化のための活動を支援するなど、ぱちんこ営業の健全化を図っている。
(2) 風俗関連営業等の状況
ア 風俗関連営業の状況
最近5年間の風俗関連営業(第2条第4項に規定する営業)の営業所数は表3-24のとおりであり、平成9年の風俗関連営業の違反態様別検挙状況は図3-15のとおりである。
風俗関連営業の営業所数は、全体として減少傾向にある中、個室マッサージ等(第2条第
表3-24 風俗関連営業の営業所数の推移(平成5~9年)
図3-15 風俗関連営業の違反態様別検挙状況(平成9年)
4項第5号に規定する営業)の営業所数は、年々増加している。
イ 深夜飲食店営業の状況
最近5年間の深夜飲食店営業(第32条第1項に規定する営業)の営業所数の推移は表3-25のとおりである。
表3-25 深夜飲食店営業の営業所数の推移(平成5~9年)
(3) 売春事犯等及び風俗関係事犯の現状
最近5年間の売春防止法違反の検挙状況は、表3-26のとおりである。これらの売春事犯の総検挙人員に占める暴力団の構成員及び準構成員の割合は16.9%(252人)であり、売春事犯が暴力団の資金源となっていることがうかがわれる。最近の売春事犯は、公衆電話ボックス等にビラをはり付け、客との連絡に携帯電話や転送電話等を利用して売春をあっせんするなどの派遣型が主流となっているが、悪質な飲食店経営者等が外国人女性に売春を強要する事犯も目立っている。
表3-26 売春防止法違反の検挙状況(平成5~9年)
わいせつ事犯の検挙状況は、表3-27のとおりである。
わいせつ事犯については、わいせつビデオテープを販売する事犯が依然としてその主流を占めているが、パソコン通信やインターネットを利用してわいせつな映像を送信したり、わいせつな画像情報を記憶させたCD-ROM等を販売したりするという新たな形態の事犯が増加している。
表3-27 わいせつ事犯の検挙状況(平成5~9年)
ゲーム機等を使用した賭博事犯の検挙状況は、表3-28のとおりである。最近は、トラン
表3-28 ゲーム機等を使用した賭博事犯の検挙状況(平成5~9年)
プゲームやルーレット用の設備を設けて遊技をさせる「カジノバー」といわれる営業における賭博事犯が多くなっている。また、ノミ行為事犯の検挙状況は、表3-29のとおりである。
表3-29 ノミ行為事犯の検挙状況(平成5~9年)
(4) 風俗環境の浄化活動
ア 風俗環境浄化協会の活動
風俗環境浄化協会は、民間における環境浄化の気運を一層促進するため、風俗環境に関する苦情の処理、風営適正化法に違反する行為を防止するための啓発活動、少年指導委員の活動に対する援助等を行っているほか、都道府県公安委員会の委託を受けて、風俗営業の営業所ごとに選任された管理者を対象に、風営適正化法に規定する遵守事項や暴力団からみかじめ料等を要求された場合の対応要領等について指導を行う管理者講習を実施している。
イ 地域住民と連携した風俗環境浄化活動
警察では、売春やわいせつビデオテープの販売等を目的として一般家庭にまで大量に配布されているピンクチラシの作成、配布に関与した者を取り締まるなど、悪質な風俗関係事犯の積極的な取締りを推進するとともに、地域住民や関係団体と協力して風俗環境の浄化に努めている。
[事例] 港区六本木では、深夜から早朝にかけて若者や外国人等が多数い集・はいかいし、客引きやピンクチラシの配布、暴行・傷害事案、酔っ払いによる迷惑行為等が多発したため、地元の自治会等と協力の上、平成9年7月から10年1月までの間、環境浄化対策を実施した。同期間中は、夜間の街頭活動を強化したほか、悪質な飲食店や不良外国人等に対する集中取締りを実施し、飲食店経営者等33人を無許可風俗営業や不法就労助長等で、28人を覚せい剤等の不法所持で検挙した。また、関係機関・団体の協力を得て、環境浄化対策連絡会議や環境浄化記念パレード等の広報・啓蒙活動を実施したほか、街頭における違法立看板、ピンクチラシ等の撤去、清掃等「きれいなまちづくり」のための活動を推進した(警視庁)。
(1) 経済事犯の取締り
ア 悪質商法の現況と取締り表3-30 金融関係法令違反の法令別検挙状況(平成5~9年)
ウ その他の経済事犯の取締り
(ア) 不動産取引をめぐる事犯の取締り
9年中の不動産取引をめぐる事犯の検挙件数は168件、検挙人員は211人であり、検挙した事件の主な適用法令は、宅地建物取引業法、建築基準法であった。
[事例] 不動産業者が、競売で取得した山林約9,000市を知事の許可を得ずに宅地造成し、「今すぐ家が建てられます」などと虚偽の内容を告げて顧客9人に約2,600万円で販売した。2月までに宅地建物取引業法違反(重要事項不実告知)及び宅地造成等規制法違反(無許可宅地造成)でこの不動産業者(35)ら9人を検挙(うち3人を逮捕)した(兵庫)。
(イ) 国際経済関係事犯の取締り
9年中の外国為替及び外国貿易管理法違反の検挙件数は21件、検挙人員は11人で、関税法違反の検挙件数は61件、検挙人員は36人であった。最近5年間の国際経済関係事犯の法令別検挙状況は、表3-31のとおりである。
表3-31 国際経済関係事犯の法令別検挙状況(平成5~9年)
[事例] 輸入販売業者(33)らが、スノーボードブーツ約5万足を輸入するに当たり、実際の契約価格より低価で輸入申告を行い、差額に係る関税約2,100万円をほ脱していた。8月、外国為替及び外国貿易管理法及び関税法違反等で1法人2人を検挙(兵庫)
(ウ) 諸法令違反の取締り
9年中の主な諸法令違反の検挙状況をみると、電波法違反を1,029件、1,017人検挙するなど、計1,631件、1,688人に上っている。
また、有線ラジオ放送の設備が道路法の許可又は所有者等の承諾を得ないで他人の電柱等に設置されている事案については、郵政省等関係行政機関等で構成される有線音楽放送正常化中央連絡協議会に参画し、関係行政機関等の正常化に向けた取組み状況、不法架設の実態等を把握しつつ、その正常化に努めている。
警察では、今後とも、関係行政機関と連携して、こうした諸法令違反に対し、更に厳正に対処することとしている。
エ 悪質商法からの消費者被害防止活動の推進
(ア) 消費者相談活動の推進
各都道府県警察に設置する「悪質商法110番」等の消費者相談窓口には、悪質商法に関する苦情・相談が多数寄せられている。
これらの苦情・相談により、消費者被害の実態を把握するとともに、捜査活動に反映させて悪質な事件を多数検挙している。
(イ) 広報啓発活動の推進
消費者の意識高揚を図り、その被害を防止するため、各種会合における講話や寸劇、パンフレット、インターネットのホームページ等あらゆる媒体を介した広報啓発活動を推進した。
(2) 知的所有権保護対策の推進
ア 海賊版事犯の増加
海賊版事犯の検挙件数は433件、検挙人員は171人で、平成8年に比べ、検挙件数で85件、検挙人員で44人増加した。
その内容としては、来日外国人向けの海賊版ビデオを工場を設けて大量に複製、販売等していた事犯や、パソコン通信を悪用した広域的な海賊版コンピュータ・ソフトの販売事犯が増加するなど、現在の社会状況を反映した事犯の検挙が目立った。
また、偽ブランド事犯では、外国から密輸入した偽ブランド品の販売事犯が多くを占める一方で、有名ブランド装飾品の国内製造事犯や、若者等に人気がある運動靴等の流行商品の偽物販売事犯、雑誌等の広告を使った通信販売事犯等が目立つなど、商品や販売方法が多様化している。
最近5年間の知的所有権関係事犯の法令別検挙状況は、表3-32のとおりである。
[事例] 韓国人(39)らは、韓国貨物船で偽ブランド品等を大量に密輸入するとともに、国内においても密造、販売していた。12月までに、関税法及び商標法違反等で1法人5人を検挙(うち3人を逮捕)し、偽ブランド品約8,000点を押収した(神奈川)。
表3-32 知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況(平成5~9年)
イ 知的所有権保護のための広報啓発活動
警察では、検挙した事件の適時適切な広報や不正商品の展示等、積極的な広報啓発活動を実施した。また、不正商品対策協議会(権利者団体9団体で構成する民間団体)が5月に開催した「不正商品防止フェア」(広島市)や、10月に開催された生涯学習フェスティバル「まなびピア’97」(新潟市)での広報活動を後援するなどの施策にも取り組んでいる。
(3) 環境・保健衛生事犯の取締り
ア 環境事犯の取締り
(ア) 廃棄物事犯
平成9年の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。) 違反の検挙件数は2,117件であり、これを態様別にみると、不法投棄事犯が全体の69.9%を占めている。このうち、産業廃棄物事犯の検挙件数は912件であり、8年に比べ183件増加している。
なお、最近5年間における環境事犯の法令別検挙状況は、表3-33のとおりである。
警察では、産業廃棄物の不適正処理、不法投棄を防止し、これらの事犯に対する迅速、的確な対応を行うため、関係機関・団体と「産業廃棄物不法処理防止連絡協議会」を設置し、緊密な連携に努めている。
表3-33 環境事犯の法令別検挙状況(平成5~9年)
[事例] 暴力団員らが、知事に無許可で、1府2県の建設会社等から処理委託された建設廃材約2万6,000トンを他県の山中の不法処分場に運搬投棄していた。7月までに廃棄物処理法違反で、暴力団幹部(52)をはじめ6法人41人を検挙(うち9人を逮捕)した(兵庫、奈良)。
(イ) 水質汚濁事犯
9年の水質汚濁事犯の検挙件数は、14件であった。このうち、工場等が水質汚濁防止法で定められている基準に違反して汚水等を排出する事犯の検挙は、9件であった。
イ 保健衛生事犯の取締り
9年の薬事関係事犯の検挙件数は239件、医事関係事犯の検挙件数は61件、公衆衛生関係事犯の検挙件数は155件であった。
[事例] 美容器具及び化粧品販売業者が、アトピー性皮膚炎の専門治療クリニックを開設し、医師の免許を受けていないのに治療行為をしていた。11月までに医師法違反で、社長(55)ら16人を検挙(うち2人を逮捕)した(宮城)。
(4) 危険物対策の推進
ア 高圧ガス、消防危険物等による事故の状況
平成9年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が276件発生し、死傷者は310人に上った。また、9年中に高圧ガス保安法、消防法、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律等の違反により238件、283人を検挙した。
[事例] 動力炉・核燃料開発事業団東海事業所副所長(54)らは、3月に同所の再処理施設において発生した火災爆発事故に関し、科学技術庁長官に提出した事故報告書に虚偽の記載をした。7月、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律違反(虚偽報告)で法人としての動力炉・核燃料開発事業団及び同副所長ら6人を検挙した。なお、同事故については、10年5月現在、業務上過失激発物破壊罪容疑で捜査中である(茨城)。
イ 放射性物質及び特定物質等の安全対策の推進
放射性物質及び化学兵器の原料となるような特定物質の運搬に当たっては、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律及び化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律に基づき、都道府県公安委員会に届け出ることとされている。9年中の届出件数は、核燃料物質等関係が1,000件、放射性同位元素等関係が472件、特定物質関係が5件であった。警察では、運搬の安全確保を図るため、放射性物質及び特定物質の使用者等に対し事前指導や必要な指示等を行っている。