第8章 国際化社会と警察活動

 近年の交通・通信手段等の飛躍的発展に伴い、我が国と諸外国との交流はますます活発化している。
 これに伴い、来日外国人による犯罪が多発しているほか、海外からの薬物、けん銃の流入、日本人の海外における犯罪及び我が国において犯罪を犯した者が国外へ逃亡する事案も依然として後を絶たない状況にある。特に、多くの集団密航事件に介在する「蛇頭」等の外国人犯罪組織は、我が国の治安に対する重大な脅威となっている。また、依然約28万人の不法残留者が存在し、それらの者による犯罪の発生、不法就労や不法入国を手引きするブローカーの存在、住民とのトラブルの発生等の社会問題が生じている。
 これらの問題に対して、警察は国際捜査力、国際捜査協力を強化するとともに、不法滞在の防止及び取締りに努めている。
 また、諸外国に対して、警察分野に関する協力を目的とした各種セミナーの開催、技術専門家の派遣等を行っており、相手国の治安の向上等に貢献している。

1 警察事象の国際化

(1) 来日外国人犯罪
 昭和62年に約220万人であった外国人入国者総数は、平成8年には約1.9倍の約425万人となっており、これを反映して、来日外国人(注)による犯罪も増加している。
(注) 来日外国人とは、我が国にいる外国人から定着居住者(永住者等)、在日米軍関係者及び在留資格不明の者を除いた者をいう。
ア 検挙人員全体に占める来日外国人構成比の高さ
 日本の総人口(満14歳以上)に対する来日外国人人口の構成比は1.0%であるとみられるが、8年の刑法犯検挙人員全体に対する来日外国人検挙人員の構成比は2.0%である。このように人口構成比との比較でみた場合、検挙人員全体に占める来日外国人の割合の高いことは国際化がもたらす治安上の問題として注目する必要がある。
イ 来日外国人による犯罪
 8年における来日外国人による刑法犯検挙状況をみると、検挙件数は、1万9,513件(前年比2,300件(13.4%)増)、検挙人員は6,026人(501人(7.7%)減))である(図8-1)。

図8-1 外国人入国者数及び来日外国人刑法犯検挙状況(昭和62~平成8年)

(ア) 凶悪犯
 来日外国人犯罪の検挙状況を包括罪種別にみると表8-1のとおりで、凶悪犯の検挙件数は162件(前年比14件(8.0%)減)、検挙人員は212人(11人(5.5%)増)となっている。
 凶悪事件を内容的にみると、日本人を被害対象とする凶悪事件が依然として多発する一方で、同国籍の来日外国人同士の殺人や強盗事件の増加が目立っている。その犯行の態様をみると、刃物等で客ら約30人を緊縛して現金と貴金属を強取した強盗事件等、凶悪な手口の事件が目立っている。

表8-1 来日外国人刑法犯の包括罪種別検挙状況(昭和62~平成8年)

〔事例〕 中国人の男(28)ら5人は、被害者である中国人男性(35)と、ぱちんこ店に侵入してロムを取り替え大量に出玉を確保するなどの不正を行うグループを組織していたが、被害者が組織の統制を乱す行為をとったことに激こうし、1月31日、自動車内にら致して所携のナイフで顔面、胸部等を十数回突き刺して殺害し、天白大橋から水中に死体を遺棄した。5月10日に検挙した(愛知)。
(イ) 窃盗犯
 窃盗犯の検挙件数は15,952件(前年比1,807件(12.8%)増)と増加している。来日外国人による窃盗犯は、大型紳士服専門店等を対象に出入口ドアを破壊して侵入し、商品を大量に窃取する事件や、オートバイ等を大量に盗み、これらの盗品を組織的に海外輸出するなどの大胆な事件が多発しており、その犯行区域は数県に及ぶなど広域化している。
(ウ) 知能犯
 知能犯の検挙件数は1,513件(前年比743件(96.5%)増)、検挙人員は497人(195人(64.6%)増)とそれぞれ大幅に増加している。知能犯の増加の主たる要因は、ぱちんこプリペイドカード等の有価証券偽(変)造・同行使等事件の増加である。
(エ) 薬物事犯
 薬物事犯の検挙状況は、検挙件数1,153件(前年比37件(3.1%)減)、検挙人員784人(41人(5.0%)減)であったが、特にイラン人の検挙人員の増加が目立った。詳細については、第3章第3節2参照。
ウ 来日外国人犯罪の国籍別検挙状況
 8年の来日外国人犯罪の刑法犯の国籍、地域別検挙状況は、表8-2のとおりであり、アジア地域出身者の検挙件数が15,960件(全体の81.8%)、検挙人員が4,763人(全体の79.0%)で依然として高い割合を占めており、とりわけ、中国出身者が、検挙件数で全体の約3割、検挙人員で全体の約4割を占めている。

表8-2 来日外国人刑法犯の国籍、地域別検挙状況(平成3~8年)

エ 大都市圏以外の地域への拡散
 来日外国人の刑法犯の地域別検挙状況をみると、東京、神奈川、大阪等の大都市において多発しているが、その一方で、図8-2のとおり、地方へ拡散しつつある状況もうかがわれる。

図8-2 都道府県別来日外国人刑法犯検挙件数の推移(平成3、8年)

(平成3年)


(平成8年)

(2) 外国人犯罪組織
ア 外国人犯罪組織の日本社会への浸透
 外国に本拠を置く犯罪組織による犯行についてみると、平成8年においても、韓国人グループによる暴力すり事件、ナイジェリア人等グループによる盗難・偽造クレジットカード使用詐欺事件、香港爆窃団によるとみられる広域集団窃盗事件等が発生するなど、なお後を絶たない状況にある。
 また、ロシア・マフィアは、ソ連崩壊に伴う社会の混乱や市場経済への移行の過程でロシア国内のあらゆる分野に浸透し、現在、組織数約5,700グループ、活動メンバーは約10万人に及ぶとみられている。このうち我が国と関連の深い極東地方では、約200グループ、約2,000人が活動しているといわれ、中古車の販売、武器・麻薬の取引等を行っている。
 北海道警察は、8年4月、ロシアに向けて盗難自動車を輸出しようとした日本人グループを盗品運搬罪で検挙したところ、この事件は、サハリン州に事務所を置く日本人貿易商がロシア・マフィア等からの注文を受け、我が国の暴力団幹部等と共謀して盗難自動車を調達、運搬したというものであった。また、中古車の大量買い付けを図るロシア船にはマフィアの意を受けた偽装船員が乗り込んでいるとも伝えられており、ロシア・マフィアが各種ビジネスを通じて我が国への進出を図っている動向がうかがわれ、今後我が国での活動基盤を求めて本格的な進出を目指してくることも懸念される。
 こうした外国人犯罪組織は、我が国の治安に対する重大な脅威であり、ひいては我が国の国益を脅かしかねないため、外国人犯罪組織の国内活動拠点、組織の構成員、活動状況、資金源等を把握するなど、組織自体に着目した対策を講じることによって、組織の壊滅を図ることが必要である。
イ 国際的密航請負組織「蛇頭」の暗躍
 8年中に警察が検挙した集団密航事件は18件270人と、前年と比べて8件72人増加した。このうち中国からの集団密航事件については14件179人と、前年と比べて10件95人も増加している。これは、警察が検挙した中国からの集団密航事件としては、過去最高の検挙件数である。
 中国からの密航手口は、船を仕立てて行う従来のものから、密航者が貨物船内に小人数で潜伏したり、コンテナを使用するようになるなど多様な方法が取られるとともに、出迎え者と綿密に連絡を取りつつ、警戒の薄い地点から上陸するなど犯行が巧妙化している。中国からの集団密航事件の背後には、多くの場合、国際的密航請負組織「蛇頭」が介在しているものとみられる。
 また、偽造旅券による不法入国に加え、日本国旅券を不正取得し日本人になりすまして入国する事案も増加しており、これらの不法入国の背後でも「蛇頭」が暗躍している実態が明らかとなっている。
 このような中国人の集団密航等不法入国事件の増加に対しては、関係機関との連携により水際での取締りを強化するとともに、諸外国の捜査機関との情報交換を通じて「蛇頭」の摘発に重点を置いた諸対策を講じている。
ウ 国内に本拠を置く来日外国人犯罪グループ
 8年は、従来の単発的、偶発的な犯罪や外国に本拠を置く香港爆窃団等による犯罪のほか、不法滞在の長期化に伴い、国内に根付いた来日外国人が組織化、グループ化し、犯罪を敢行する傾向がみられた。来日外国人による刑法犯のうち、約半数近くが共犯のある犯行形態となっている(表8-3)。
 来日中国人については、特にこうした傾向が強く、福建省等の出身地域によってグループを形成し、縄張りをめぐりせい惨な対立抗争を引き起こすまでに至っている。来日中国人の犯罪組織化の背景には、「香港三合会」、「蛇頭」等の組織が暗躍している状況もみられる。また、こうしたグループが我が国で得た多額の不正収益が海外に送金されている。今後は、来日中国人の不法滞在の長期化や、中国本土の治安の悪化を背景に、これらの者の犯罪組織化がより一層本格化することが予想される。
 犯行の態様をみると、来日外国人犯罪グループによる犯罪は、衣料品等を対象とした広域

表8-3 共犯の有無による犯行形態の推移

多額窃盗事件、海外輸出を目的とした広域にわたるオートバイ盗事件、変造プリペイドカードを使用してぱちんこ玉を窃取する事犯等多様である。
(ア) 中国人犯罪グループによる犯罪
 中国人犯罪グループ間の抗争事件、利権争いを原因とする殺人事件等の凶悪事件のほか、貴金属店、衣料品店、家電量販店等を対象とする広域窃盗事件が検挙されている。
〔事例〕 中国人の男(35)ら13人は、1都6県下において、大型紳士服専門店等を対象に出入口を破壊して侵入した上、商品を大量に窃取する出店荒し事件25件(被害総額3億8,012万円相当)を引き起こした。4月5日に検挙した(宮城、青森、埼玉、岐阜、熊本、警視庁、静岡)。
(イ) その他の犯罪グループによる犯罪
 ベトナム人犯罪グループが一般住宅の駐車場や農家の倉庫に駐車されているオートバイや農耕用トラクターを大量に盗み、これらの盗品を組織的に海外輸出する事案、多国籍窃盗グループによる貴金属・洋酒等を対象とした広域出店荒し事件等が検挙されている。犯行区域は広域化しており、数県に及ぶ事案が目立っている。
〔事例1〕 ベトナム人の男(28)らは、5年6月以降、東北を含む関東一円において、銀行駐車場、農家の倉庫等からオートバイや農耕用トラクターを1万312台(6億9,915万円相当)盗み、船便で海外に密輸出するなどしていた。8年4月22日以降24人を検挙した(群馬、栃木、新潟、埼玉、警視庁、神奈川)。
〔事例2〕 ペルー人の男(26)らは、実行犯をペルー人、イラン人、故買屋を日本人とする多国籍窃盗グループを組織し、6年4月から8年4月までの間に、15県下で貴金属、洋酒等を対象に出店荒し等事件581件(被害総額10億625万円相当)を引き起こし、飲食店経営者に盗品を処分していた。5月8日までに32人を検挙した(愛知、三重、岐阜、宮城、埼玉)。
(3) 不法滞在者問題
ア 大量の不法滞在者の存在
 近年、我が国と周辺諸国の経済格差を背景として、就労等を目的とした外国人の入国が急増している。法務省の推計によれば、不法残留者が平成2年7月1日現在10万6,497人であったものが、3年、4年と激増し、5年5月1日現在の29万8,646人をピークとしてやや減少に転じたものの、9年1月1日現在28万2,986人と依然として大量の不法残留者が存在している(表8-4)。
 こうした不法残留者を含めた不法滞在者(注1)のほとんどが不法就労者(注2)であるとみられるほか、来日外国人による凶悪犯の6割以上が不法滞在者によるものであること、不法滞在者による組織的、計画的な犯罪が増加していることなどから、大量の不法滞在者の

表8-4 国籍、地域別不法残留者数の推移(平成5~8年)

存在は、我が国の治安に対する重大な脅威となっている。
(注1) 不法滞在者とは、出入国管理及び難民認定法第3条違反の不法入国者、同法第9条違反の不法上陸者及び適法に入国した後在留期間を経過して残留している不法残留者等をいう。
(注2) 不法就労者とは、就労している不法滞在者及び無許可で資格外活動を行っている者をいう。
イ 不法就労を助長する犯罪
(ア) 身分事項等を偽るための文書偽造事件
 8年も合法的な入国・在留を装うための文書偽造事件が頻発し、偽造旅券を使用した不法入国事件の検挙件数は199件である。国籍別にみると、中国(125件)、フィリピン(33件)、イラン(13件)の順になっている。
 また、在留資格に係る証印の偽造や就労を目的に日本人の配偶者として在留資格を不正に取得する偽装結婚事件も依然発生している。こうした偽造事犯は、不法滞在を助長するものであり、その多くが偽造ブローカーにより引き起こされている。
〔事例1〕 3月、長期滞在の資格を装うために、在留期間更新許可印を偽造し、不法滞在を続けていた中国人を検挙した。ゴム証印等の偽造用具一式は、一見して真正証印と見分けがつかない極めて精巧なものであった。同中国人は、「就労」、「永住」、「留学」等の様々な在留資格に係るゴム証印も偽造しており、他の不法滞在者に対しても同偽造印を用いて滞在資格の偽装を行ったものと推測される(大阪)。
〔事例2〕 1月、外国人女性の在留資格取得を目的とした偽装結婚事案の捜査・検挙を通じて、休眠会社を買収して設立した株式会社を拠点として、不法滞在者に対する就労先のあっせん、就学生に対する保証人のあっせん等、適法、違法を問わず来日中国人相手の受入れ業務を行っていたブローカーグループの実態を解明し、組織を壊滅に追い込んだ(静岡)。
(イ) 不法就労を目的とした集団密航事件
 8年の集団密航事件の検挙は、警察、海上保安庁を合計して29件679人となっており、前年(13件324人)と比べて16件355人の増加であった。これは、件数、人員とも過去最高であった(表8-5)。

表8-5 集団密航事件の検挙状況(平成4~8年)

 特に、8年の中国人による集団密航事件の検挙は21件542人で、前年(5件151人)と比べて、件数で4.2倍、人員で約3.6倍と大きく増加しており(16件391人の増加)、国際的密航請負組織「蛇頭」の組織的介在が認められる。
 国籍別でみると中国人542人、パキスタン人68人、バングラデシュ人21人、ヴィエトナム人12人、タイ人7人、インド人5人、スリ・ランカ人1人、その他6人となっている。
(ウ) 雇用関係事犯
 就労を目的として来日する外国人は、我が国の景気が一時期ほど良好ではないにもかかわらず、依然として高水準にあるが、その要因として、就労あっせんブローカーや外国人労働者を雇用しようとする者の存在が挙げられる。就労あっせんブローカーは、外国人労働者と雇用主との間に介在して不当な利益を得ており、また、雇用主の中には、外国人労働者を低賃金で酷使する悪質な者がみられるなど、不法滞在の助長という観点からはもとより、外国人労働者の保護という観点からも問題となっている。
 そのため、警察では、出入国管理及び難民認定法第73条の2に規定する罪(いわゆる不法 就労助長罪)や職業安定法、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)、労働基準法等の雇用関係法令を適用して、ブローカー、暴力団、悪質な雇用主等の取締りを推進している。最近5年間の外国人労働者に係る雇用関係事犯の法令別検挙状況は表8-6のとおりで、これに関与した外国人の国、地域別状況は表8-7のとおりである。
〔事例1〕 東京に本店を置き、全国に居酒屋等48店舗を経営する飲食店チェーン経営会社が、全国の系列飲食店において約200人のミャンマー人を不法就労させていた事件で、6

表8-6 外国人労働者に係る雇用関係事犯の法令別検挙状況(平成4~8年)

表8-7 雇用関係事犯に関与した外国人の国、地域別状況(平成4~8年)

月に経営者ら会社幹部を不法就労助長罪で検挙した(宮城)。
 8年中に検挙したブローカーは72人(前年比7人(10.8%)増)となっている。その中でも外国人ブローカーの検挙が目立っているが、その出身国、地域は表8-8にみられるとおり多数に及び、日本人ブローカーと結託して外国人労働者をあっせんするケースも多い。ブローカーは、以前は関東地方を中心に暗躍していたが、最近は地方都市でも多数検挙されており、その活動が全国に広がっているものと認められる。

表8-8 外国人ブローカーの国、地域別検挙状況(平成6~8年)

 また、外国人労働者に係る雇用関係事犯には暴力団が関与するケースもあり、外国人労働者のあっせん等によって得る利益は、暴力団の資金源になっているものとみられる。
〔事例2〕 人材派遣会社がフィリピン人、ペルー人らを食品製造会社等に派遣し、不法就労させていた事件で、2月に、人材派遣会社、食品製造会社等の経営者らを不法就労助長罪等で検挙するとともに、これら不法就労外国人を人材派遣会社にあっせんしていたフィリピン在住の日本人ブローカーを職業安定法違反で検挙した(茨城)。
(エ) 風俗関係事犯
 短期滞在、興行等の在留資格で入国し、風俗関係事犯に関与する外国人女性は依然多いが、これら外国人女性は、深夜飲食店等における接待行為、さらに売春、わいせつ事犯等にまで関 与しており、地域的にも大都市から地方都市まで広がりをみせている。
 これらの中には、多額の借金を背負わされて実質的に無報酬で売春を強要されたり、賃金をピンハネされたりするなど劣悪な条件下で働かされている者も認められる。
 一方、2年ころから新宿地区、池袋地区において外国人による街娼型の売春が目立ち始めたが、現在では、名古屋市、大阪市等にまで広がりをみせ、売春防止法違反(勧誘等)による検挙が多くみられるほか、経営者等として検挙される外国人も目立っている。
 このような事犯の背後には、現地のブローカーと結託した国内のブローカーの存在や暴力団の関与等も認められるため、警察では、これらの背後の組織の摘発を重点に取締りを強化している。
 8年中に風俗関係事犯に関与した外国人女性は934人である。国、地域別では、タイ人が316人と最も多くなっているなど、依然として東南アジア諸国の女性が多くなっている(表8-9)。

表8-9 風俗関係事犯に関与した外国人女性の国、地域別状況(平成4~8年)

〔事例〕 飲食店におけるタイ人女性の売春事件に関与していた日本国内のタイ人売春婦あっせん組織の首領らを職業安定法違反及び不法就労助長罪等で検挙した。これにより、タイの売春婦あっせん組織と結託して、中部地区一帯でタイ人女性を売春婦として多数あっせんしていた同組織を壊滅させた(三重)。
(4) 銃器・薬物の流入
ア 銃器の密輸入
 平成8年に押収された真正けん銃は1,400丁(前年に比べ302丁(17.7%)減)であるが、そのほとんどが外国製であり、海外から輸入されたものであると考えられる。また、これまでに摘発した密輸事件や国内で押収されたけん銃の流通ルートを分析すると、これらの真正けん銃のうち相当数は、犯罪組織により組織的に密輸入されたものであると考えられる。
 このため、こうした密輸・密売組織を壊滅することを目的として、その解明及び摘発を進 めるとともに、外国捜査機関等との捜査協力の強化を図っている。
 なお、銃器犯罪の現状と対策については、第3章第3節1参照。
イ 薬物の密輸入
 我が国で乱用されている薬物のほとんどは海外から密輸入されたものであり、8年の大量押収事例(一度に1キログラム(コカインは500グラム)以上を押収した事例をいう。)59件のうち、水際における大量押収事例は31件であった。特に、7月には中国を仕出し国とする覚せい剤約528キログラム、9月にはネパールを仕出し国とする大麻樹脂約52.5キログラムが押収され、それぞれ史上最高の大量押収を記録した。大量押収事例における主な仕出し国を薬物別にみると、覚せい剤では、中国(約528キログラム)、大麻樹脂ではネパール(約60.2キログラム)、イラン(約36.5キログラム)、乾燥大麻ではタイ(約5.5キログラム)、コカインではコロンビア(約15.0ログラム)、ブラジル(約10.9キログラム)、ヘロインではタイ(約2.1キログラム)、あへんではシンガポール(約11.0ログラム)、タイ(約7.4キログラム)等となっている。
 なお、薬物乱用の現状と対策については、第3章3節2参照。
(5) 日本人の国外における犯罪
 平成8年中の日本人の出国者総数は1,669万4,769人であり、前年に比べ、9.1%増加している。
 日本人が外国においてその国の法令に触れる行為をした場合、我が国の警察が国際刑事警察機構(ICPO)や外務省等を通じて通報を受けることがある。このようにして把握された日本人の国外犯罪者数はここ数年横ばい状態であるが、最近の日本人の出国者数の急激な伸びから考えると、通報を受けていない日本人の国外犯罪が増加していることが懸念される。
(6) 被疑者の国外逃亡事案
 平成8年末現在の国外逃亡被疑者は293人(うち日本人72人)である(表8-10)。これらの者の逃亡先は、フィリピン、中国が多いものとみられる。
 8年末現在の国外逃亡被疑者のうち、出国年月日の判明している121人について、その犯行から出国までの期間をみると、犯行当日に出国した者が5人、翌日に出国した者が18人であり、犯行から10日以内に51人(42.1%)が出国しており、犯行後短期間のうちに出国する計画的な事案が多い。
 警察では、被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合は、港や空港に手配するなどしてそ

表8-10 国外逃亡中の被疑者数の推移(昭和62~平成8年)

の出国前の検挙に努めており、出国した場合でも、関係国の捜査機関等の協力を得ながら、被疑者の所在確認に努めている。また、ICPOに対し、国際手配書の発行を請求することもある。
 逃亡被疑者が発見されたときは、逃亡犯罪人引渡しに関する条約又は相手国の国内法、国外退去処分等により、その者の身柄の引取りを行っている。
〔事例〕 強盗殺人事件を引き起こした後に国外逃亡した男(43)につき、警察は、逮捕状の発付を受けてその所在を捜査中であったが、同人がフィリピンにおいて不法滞在により逮捕され、退去強制処分に付されたため、9年1月31日、公海上の航空機内において被疑者を逮捕した(兵庫)。

2 国際化社会への対応

(1) 国際化対応の推進
ア 国際捜査力の強化
(ア) 国際捜査官の育成
 来日外国人犯罪等の国際犯罪の捜査には、外国語はもとより、国際条約、出入国管理、国際捜査共助、刑事手続等に関する内外の法制等極めて幅広い分野に関する特別の知識、手法が要求される。
 そこで、警察では、警察大学校国際捜査研修所において国際捜査に関する実務研修等を行っており、都道府県警察においても、国際捜査に関する実務能力を備え、国際感覚をもった捜査官を養成するための各種の研修を行っている。
 従来から、警察職員に対する英語、北京語、韓国語等の語学教育、海外研修等を実施してきたが(表8-11)、アジア地域出身の来日外国人が被疑者や被害者として犯罪にかかわる事案が増加しており、タガログ語、タイ語、ヴィエトナム語等への対応の必要性が高まっていることから、これらの言語についても部外の語学研修機関に委託し語学教育を推進している。

表8-11 警察職員を派遺した主な海外研修(平成8年)

このほか、都道府県警察において、国際捜査に従事する捜査員に対する教育や、通訳担当者も参加する実務的な語学研修等が実施されている。
 また、国際捜査課(室)、国際犯罪捜査係等専門組織の設置、拡充、専任の捜査員の配置・増強を図るとともに、語学のたん能な者を、国際捜査官として中途採用するなどの措置が採られている。
(イ) 通訳体制の整備
 来日外国人の関与する犯罪の捜査に当たって、最も問題になるのは言語の壁である。来日外国人被疑者の人権に十分に配慮した適正な捜査を推進するためには、被疑者等の供述を正確に把握することはもとより、我が国の刑事手続を理解させ、権利の告知を確実に行うことが不可欠である。そのため、都道府県警察においては、高い語学能力を備えた者を警察職員として採用し、取調べにおける通訳等に当たらせている。また、これら通訳専門職員の語学力を維持、向上させるための海外実務研修を実施している。
 しかし、近年、アジア系言語等の通訳の需要が急激に増加しており、警察部内でそのすべてに対応することが極めて困難であるため、部外の通訳人に対し、取調べにおける通訳を依頼している。特に、警察では被疑者の人権の保護のため優秀な通訳人を確保する必要があること、夜間等に突発的に発生する事件等に迅速に対応する必要があることなどにかんがみ、部外通訳人の確保に努めている。さらに、都道府県警察及び管区警察局に通訳センターを設置し、通訳人の相互派遣制度の整備に努めている。
イ 国際捜査協力の強化
(ア) 外国捜査機関との協力
 国際犯罪の増加に伴って、外国捜査機関に対する各種照会や証拠資料の収集の依頼等を行うことが一層重要になっており、そのため、警察庁では、従来に増して、ICPOルートや外交ルート等により外国捜査機関との相互協力を実施している。
 過去10年間に警察庁が行った国際犯罪に関する情報の発信、受信の総数は、表8-12のとおりである。また、国際捜査共助法に基づき外国からの要請に応じて捜査共助を実施した件数は、年々増加しており、その大半はICPOルートである(表8-13)。

表8-12 国際犯罪に関する情報の発信、受信状況(昭和62~平成8年)

表8-13 外国からの要請に基づき捜査共助を実施した件数(昭和62~平成8年)

(イ) 国際組織犯罪対策への取組み
 近年、国際犯罪組織による銃器・薬物の不正取引、マネー・ローンダリング(資金洗浄)、テロ行為等の防止対策が、国際的な政治課題となっている(テロ対策については、第1章第2節参照)。1995年(平成7年)のハリファクス・サミットの議長声明に基づき設置された「P8国際組織犯罪上級専門家会合」(P8については、第1章第1節1(5)の(注)参照)においては、各国法執行機関間の情報交換の推進や各国間の捜査共助の円滑化等、広く国際組織犯罪対策一般についての協議が進められており、その成果は1996年(平成8年)にフランスで開催されたリヨン・サミットにおいて「国際組織犯罪対策に関する40の勧告」として承認されている。また、マネー・ローンダリング対策については、1989年(平成元年)のアルシュ・サミットの経済宣言に基づき設置された「資金洗浄に関する金融活動作業部会(FATF)」において、「資金洗浄に関する40の勧告」が策定された。各国では、これに基づいて諸対策の推進を図ってきたが、マネー・ローンダリング情勢の変化や各国における対策の推進状況を踏まえ、1996年(平成8年)に同勧告の改定が行われた。さらに、同年には、国連総会において「犯罪と公共の安全に関する国連宣言」が採択された。このほか、ICPOにおいても国際組織犯罪対策についての検討が進められているとともに、二国間協力の強化に向けた各国間の連携推進の動きもみられるところである。
 警察庁では、これらの国際的な取組みに積極的に参加するとともに、特に、銃器の海外から我が国への流入が大きな脅威になっていることにかんがみ、1996年(平成8年)11月、東京において、P8諸国の関係法執行機関等による「P8銃器対策会議」を主催し、各機関相互の協力体制の強化を図った(第3章第3節1(4)ウ(イ)〔事例1〕参照)。また、犯罪組織からの不正収益のはく奪は最も有効な国際組織犯罪対策の一つであることから、マネー・ローンダリング等不正収益対策の推進にも努めている。
ウ ICPOとの協力
 ICPOは、国際犯罪捜査に関する情報交換、犯人の逮捕と引渡しに関する円滑な協力の確保等の国際的な捜査協力を迅速、的確に行うための、各国の警察機関を構成員とする国際的な機関であり、その前身である国際刑事警察委員会(ICPC)の発展的解消により1956年(昭和31年)に創設され、1996年(平成8年)末現在、177箇国(地域を含む。)が加盟している。ICPOの活動は、国際犯罪に関する情報の収集や交換のほか、逃亡犯罪人の所在確認や身柄の確保を求める国際手配書の発行、各種国際会議の開催等多岐にわたっている。
 我が国において、警察庁は、ICPOの国家中央事務局として捜査協力を積極的に実施するとともに、事務総局への警察職員の派遣、分担金の拠出、通信技術の提供等、ICPOに対し多大な貢献を行っている。さらに、1996年(平成8年)10月トルコで開催された第65回年次総会において、警察庁国際部長が第15代総裁(任期4年)に選出され、ICPOの運営に大きな役割を果たしている。
(2) 来日外国人に対する施策の総合的推進
 警察では、不法滞在を助長する犯罪の徹底的な取締りや来日外国人による凶悪犯罪の確実な検挙に努めるとともに、来日外国人の生活の安全を確保するための活動をはじめ、関係省庁とも協議の上、来日外国人問題に対する施策の総合的な推進に努めている。
ア 来日外国人の生活の安全を確保するための活動
 外国人は、生活習慣の相違等から、地域住民とのコミュニケーションが希薄になりやすく地域の安全に関する情報を得難い立場に置かれている。警察では、来日外国人向けの防犯教室の開催、外国語で記述された防犯パンフレットの配布等により、生活の安全に関するアドバイスを実施しているほか、来日外国人のための相談窓口を設置し、日常生活における不安の解消に努めている。そのほか、来日外国人を雇用し、又は研修生として受け入れている企業等が各地で結成している連絡協議会と連携して、外国人従業員、研修生に対し、事件、事故等の被害に遭わないためのアドバイスを実施している。
イ 地域住民との連携及び関係行政機関との情報交換の推進
 来日外国人問題は、総合的な観点からの対策を必要とする問題であることから、地域住民との連携はもとより、法務省、労働省、地方公共団体等の関係機関・団体との情報交換を積極的に行い、行政全体として総合的な対策が講じられるように様々な形で働き掛けを行っている。
 また、8年6月には、政府の「外国人労働者問題啓発月間」に合わせて「不法滞在・不法就労防止のための活動月間」を実施し、国レベルにおいては、法務省及び労働省と合同で日本経営者団体連盟等の経済団体に対して不法就労防止への協力を要請したほか、地方レベルでも、不法就労防止協議会を通じるなどして、積極的な指導啓発活動を行った。
(3) 海外における安全対策
 近年、我が国の企業の海外拠点や駐在員等がテロ行為の対象となったり、海外進出した暴力団による被害を受けたりしており、海外安全対策に関する関係機関への期待が高まっている。こうした情勢の下、平成8年には、インドネシア及びマレイシアにおいて「第4回海外安全対策会議」が開催された(詳細については、第1章第2節3(4)参照)。

3 国際協力の推進

(1) 警察活動に関するセミナー等の実施
 開発途上国から我が国の警察が有する捜査手法等に対して高い関心が寄せられており、その技術移転が強く求められている。 警察では、これらの要望にこたえるため、捜査手法、警察運営、犯罪鑑識、警察通信に関

表8-14 警察が開催した主な国際セミナー、研修(平成8年)

するセミナーを開催し、これらの技術を積極的に紹介している。平成8年に警察が独自に又は国際協力事業団(JICA)の協力を得て実施した主なセミナーは、表8-14のとおりである。特に、同年は、新たにアジア、南米、中東等の諸国から警察のマネジメントに当たっている最高級幹部らを招き、「第1回国際警察トップリーダーズセミナー」を開催したところである。
(2) 専門家の派遣
 開発途上国に対する協力の実施に当たっては、相手国の担当者を我が国に招請して指導を行うだけでなく、現地において指導を行うことも重要である。平成8年には、JICAの協力を得て通信専門家をフィリピン、モンゴルに派遣し、ICPO通信技術に関する指導を行うとともに、鑑識専門家をマレイシア、カンボディアに派遣し、指紋鑑識や写真鑑識等の指導を行った。さらに、市民緊急通報システムについての専門家をタイに11年までの予定で派遣している(表8-15)。

表8-15 警察がJICAの協力により実施した主な専門家の派遣(平成8年)

(3) 国際会議への参加と開催
 犯罪の国際化に伴い、その防止、捜査及び検挙のために、国際的な対策の実施、関係国間の情報・資料の交換、国際捜査のノウハウの交換等が必要不可欠となっている。警察では、国際連合等が主催する会議に積極的に参加するとともに、銃器・薬物対策関係の国際会議を我が国で開催し、犯罪の防止等に向けて関係諸国との協議を行った(表8-16)。

表8-16 警察職員が参加した主な国際会議等(平成8年)

(4) 国際警察緊急援助隊の活動
 警察では、開発途上にある海外の地域等における大規模な災害の発生に際し、国際緊急援助隊の派遣に関する法律に基づいて、国際警察緊急援助隊を派遣している。平成8年10月に発生したエジプトにおけるアパートビル倒壊に際しては、9人を派遣し、ファイバースコープ等を活用してがれきの下敷きとなった被災者の救助活動を行った。
 また、迅速かつ効果的な活動を実施するため、平素から携行資機材の整備と習熟訓練、救出・救護訓練等に参加し、救助技術の向上に努めている。


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