第2節 少年の非行防止と健全育成

1 少年非行と少年を取り巻く社会環境の現状

(1) 少年非行
ア 刑法犯少年の概況
 平成8年の刑法犯少年は13万3,581人(前年比7,332人(5.8%)増)、刑法犯少年の人口比(注)は13.7(1.2ポイント増)、刑法犯総検挙人員に占める割合は45.2%(2.1ポイント増)で、いずれも増加した。特に、刑法犯少年が増加したのは、昭和63年以来8年振りである。
 なお、主要刑法犯で補導した少年の人員、人口比の推移を少年法が施行された24年以降についてみると、図3-3のとおりである。
(注) 人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの補導人員をいう。
 平成8年の刑法犯少年の包括罪種別補導状況は表3-11のとおりで、窃盗犯が8万5,306人(全体の63.9%)で最も多く、次いで占有離脱物横領が2万7,217人(20.4%)となっているが、凶悪犯や粗暴犯が増加傾向にある。なお、単純な動機から安易に行われ、粗暴犯、薬物乱用等の本格的な非行の入口となることが多い初発型非行(万引き、自転車盗、オートバイ盗、占有離脱物横領の4種をいう。)で補導した少年は9万8,056人で、刑法犯少年総数に占める割合は73.4%(前年比1.6ポイント増)となっている。

図3-3 主要刑法犯で補導した少年の人員・人口比の推移(昭和24年~平成8年)

表3-11 刑法犯少年の包括罪種別、学職別補導状況(平成8年)

 また、年齢別にみると、14歳から16歳までの低年齢層が刑法犯少年全体の66.3%を占めている。
 さらに、学職別では、高校生が6万748人(45.5%)で最も多く、次いで中学生が3万6,787人(27.5%)となっているが、特に高校生の増加が目立っている。
イ 少年の薬物乱用
 8年に覚せい剤事犯で補導した犯罪少年は1,436人で、前年に比べ357人(33.1%)増加し、平成に入ってから最高となった。シンナー等の乱用で補導した犯罪少年は4,489人と依然として少年の薬物事犯の中で最も多いが、前年に比べ967人(17.7%)減少した。また、大麻事犯で補導した犯罪少年は145人で、前年に比べ44人(23.3%)減少した。
 これらの学職別状況は、表3-12のとおりで、シンナー等の乱用では無職少年が全体の36.0%、覚せい剤事犯では無職少年が全体の51.3%、大麻事犯では高校生が全体の35.9%を占めて最も多くなっている。
 元年以降に覚せい剤事犯で補導した犯罪少年の数の推移は図3-4のとおりであり、前記のとおり、ここ数年大幅に増加している。そのうち、特に高校生の乱用の増加が目立ってお

表3-12 シンナー等の乱用及び覚せい剤、大麻事犯で補導した犯罪少年の学職別状況(平成8年)

図3-4 覚せい剤事犯で補導した犯罪少年の推移(平成元~8年)

り、補導人員も図3-5のとおり214人(前年比122人(132.6%)増)で、前年に比べ約2.3倍に、6年(41人)に比べると5倍以上に急増している。また、覚せい剤乱用少年全体に占める高校生の割合も、14.9%と前年に比べ約1.7倍になっている。
 これらの事犯では、同級生同士で安易に乱用に及んだり、学校内が取引や乱用の場となっている事例がみられるなど、極めて憂慮すべき状況となっている。
 このような状況の背景としては、少年でも駅前、繁華街等で外国人等の密売人から容易に覚せい剤を入手できる状況が出てきていること、少年が覚せい剤に対し、「ダイエット効果が

図3-5 覚せい剤事犯で補導した犯罪少年のうち中・高校生の推移(平成元~8年)

ある」などと誤った認識を持ったり、「S(エス)」とか「スピード」などと呼び、抵抗感が希薄になっているなど、少年に薬物の危険性・有害性についての認識が欠如していることが考えられる。
〔事例1〕 無職少年(16)は、イラン人密売人から覚せい剤を入手し、遊び仲間の小学生(12)、中学生(14)、中学生(15)の3人と乱用した。2月に覚せい剤を所持していた無職少年を逮捕し、さらに3月に覚せい剤を使用した小学生ら3人を補導した(千葉)。
〔事例2〕 女子高校生(17)等5人は、覚せい剤でやせられると思い込み、イラン人密売人から覚せい剤を入手して乱用した。1月に女子高校生1人を逮捕し、さらに5月に女子高校生4人と覚せい剤を密売していたイラン人1人を逮捕した(埼玉)。
 また、新たな動向として、ライター用ガスボンベ等のガスを吸引する事案(通称「ガスパン遊び」)が目立ち、8年には、これらを乱用した少年16人が死亡した。
ウ 凶悪・粗暴な非行
 8年に凶悪犯(殺人、強盗、放火及び強姦)で補導した刑法犯少年は1,496人(前年比205人(15.9%)増)で、3年以降増加傾向が続いている。罪種別では、強姦を除きいずれも増加したが、なかでも強盗が大幅に増加し、元年以降増加傾向が続いており、グループで短絡的に重大事件を引き起こす傾向がみられる。また、粗暴犯で補導した刑法犯少年は1万5,568人(前年比119人(0.8%)増)で、罪種別では、傷害と恐喝が増加しており、なかでも恐喝が5年連続増加している。
 学職別にみると、特に高校生の事犯の増加が顕著で、4年と比べ、強盗が約2.2倍、恐喝が約1.9倍に急増している。
〔事例〕 男子高校生(17)等7人は、ゲーム代等の遊ぶ金欲しさから、「おやじ狩り」と称して、通行中の会社員(56)に因縁を付け、逃げられないように取り囲み、殴る、蹴るの暴行を加えた上、現金在中のセカンドバッグを強取した。2月に全員逮捕した(千葉)。
エ いじめに起因する事件
 4年以降のいじめ(注)に起因する事件で補導した少年の数の推移は図3-6のとおりであり、8年の補導人員は426人で、前年に比べ108人(20.2%)減少したが、件数は162件で、前年に比べ2件増加しており、依然として憂慮される状況にある。罪種別では、傷害が161人と最も多く、次いで暴行(97人)、恐喝(73人)の順となっている。
 いじめにより少年を補導した事件について、いじめた原因、動機をみると、被害少年が「力が弱い・無抵抗」だからとするものが63件(38.9%)で最も多い。また、いじめの発生場所をみると、学校内が80件(53.7%)で、学校外よりも多くなっている。
(注) 「いじめ」とは、単独又は複数の特定人に対し、身体に対する物理的攻撃又は言動による脅し、いやがらせ、無視等の心理的圧迫を反復継続して加えることにより、苦痛を与えること(ただし、番長グループや暴走族同士による対立抗争事案を除く。)をいう。

図3-6 いじめに起因する事件で補導した少年の推移(平成4~8年)

(2) 少年を取り巻く社会環境
ア 少年の性にかかわる有害環境
 近年、ツーショットダイヤル(注1)を含むテレホンクラブが全国的に広がりをみせている。平成4年以降のテレホンクラブ営業所数、テレホンクラブに係る福祉犯の被害少年数の推移は図3-7のとおりで、8年には福祉犯被害少年数が1,475人に上るなど、テレホンクラブが少年の健全育成に有害な影響を与えている実態がみられる。また、デートクラブについ

図3-7 テレホンクラブの営業所数・テレホンクラブに係る福祉犯の被害少年数の推移(平成4年~8年)

ても、テレホンクラブと同様に、経営者自身は淫(いん)行、売春等に関与しない形態のものが現れているが、これらの営業を利用して女子少年に性的被害を与える大人も後を絶たないほか、女子少年が安易に金銭を得る手段としてこれらの営業を利用している実態もみられ、女子少年の性に関する価値観の変容が懸念される。
 8年に性の逸脱行為で補導した女子少年(注2)は5,378人(前年比103人(1.9%)減)で、その動機についてみると、遊ぶ金欲しさによるもの(46.8%)が最も多く、興味(好奇心)によるもの(29.6%)がこれに次いでおり、安易に金銭を得る手段となり、女子少年自身の好奇心をも刺激するような有害環境の存在が、女子少年の性の逸脱を誘発し、助長しているものと考えられる。
 また、パソコンの急速な普及により、パソコンを通じて少年が有害な情報に接する機会が増加しており、露骨な性描写を盛り込んだパソコン用ゲームソフトが氾(はん)濫しているほか、最近では、パソコン通信やインターネットにより少年が直接わいせつ画像にアクセスできるような状況も出現している。
(注1) 「ツーショットダイヤル」とは、不特定多数の男女に通話させる営業をいい、具体的には、自動販売機で利用カードを購入した男性が、カードに記載してある電話番号や暗証番号を利用して電話を架けると業者が設置した交換機によってフリーダイヤルで電話してくる女性と会話することができるものをいう。
(注2) 「性の逸脱行為で補導した女子少年」とは、売春防止法違反事件の売春をしていた女子少年、児童福祉法違反(淫行させる行為)事件、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為)事件及び刑法上の淫行勧誘事件の被害女子少年、ぐ犯少年のうち不純な性行為を行っていた女子少年並びに不良行為少年のうち不純な性行為を反復していた女子少年をいう。
イ 少年をねらう暴力団
 8年に暴力団が関与する福祉犯の被害者となった少年は2,210人で、福祉犯被害少年総数の17.4%を占め、暴力団が少年に対する薬物の密売や少女売春等悪質性の高い事案に関与している実態がみられる。
 また、8年中に把握された少年の暴力団員の総数は全国で414人で、1,189人の少年が暴力団の影響を強く受け加入を勧誘されており、さらに、139の暴走族等の集団が暴力団の影響下にあるとみられている。

2 少年の非行防止、健全育成対策の推進

(1) 非行少年等の補導活動
 警察では、少年係の警察官、少年補導職員等を中心に、少年補導員等地域の少年警察ボランティアと協力して、盛り場、公園等非行の行われやすい場所での街頭補導等の補導活動を日常的に実施し、非行少年等の早期発見・補導に努めている。非行少年を発見したときは、少年の特性に十分配慮しつつ、保護者等と連絡を取りながら、非行の原因、背景、少年の性格、交友関係、保護者の監護能力等を検討し、再非行防止のための処遇に関する意見を付して関係機関に送致、通告するなどの措置をとっている。不良行為少年については、警察官等がその場で注意や助言を与えたり、特に必要と認められる場合には、少年に対し継続補導を行っている。
(2) 少年の薬物乱用防止対策
 警察では、最近の少年の覚せい剤乱用事犯の増加に伴い、[1]覚せい剤等の供給源に対する取締りの強化、[2]薬物乱用少年の発見・補導の強化、[3]教育委員会、学校等との連携の強化、[4]家庭、地域に対する広報啓発活動の強化を四本柱として少年の薬物乱用防止のための総合的な対策を推進している。特に、少年に薬物の危険性・有害性についての正しい認識を持たせることが重要であることから、教育委員会、学校等と連携し、警察職員を学校に派遣して行う薬物乱用防止教室の開催に力を入れている。
 また、薬物乱用少年については、再乱用を防止し、立ち直りを支援するために関係機関の有機的な連携が必要とされることから、警察、学校、医療機関等の実質的な連携が図れるよ

う各機関の実務担当者によるチームを結成し、継続的な指導・助言を行うモデル事業を実施している。
(3) 少年を取り巻く有害環境の浄化
 前記のとおり、近年、少年非行や福祉犯被害のきっかけとなるおそれの高いテレホンクラブ等各種営業の増加を背景として、少年への影響が懸念される図書類、ツーショットダイヤル営業を利用するためのカード等が自動販売機で販売されたり、違法なピンクビラが公衆電話ボックス等に大量にはり付けられたりするなど、少年の健全育成に有害な影響を与えるおそれのある社会環境がますます拡大している。このような実態にかんがみ、警察では、地域住民や関係団体、関係機関と連携して、こうした自動販売機等の撤去を要請したり、ピンクビラの一掃活動を行うなど、少年を取り巻く社会環境の浄化に努めている。特に、環境浄化の必要性の高い地域を「少年を守る環境浄化重点地区」(全国310地区(平成8年度))に指定しており、少年のたまり場等の浄化運動、環境浄化住民大会の開催等の環境浄化活動を推進している。
 また、テレホンクラブに係る女子少年の性被害が増加していることから、テレホンクラブを規制することを目的とした条例が45道府県(9年5月末現在)で制定されており、これらの道府県においては、広告・宣伝に関する規制等に違反する行為の取締り等条例の適切な運用に努めている。
〔事例〕 テレホンクラブの従業員が女子中・高校生らに対し、路上においてテレホンクラブの広告文書を頒布した事犯で、従業員4人とテレホンクラブ1法人を青少年保護育成条例違反で11月に検挙した(神奈川)。
(4) 少年の福祉を害する犯罪の取締り
 警察では、少年の心身に有害な影響を与え、また、少年の非行を助長する原因ともなる福祉犯の取締りを推進するとともに、その被害を受けている少年の発見、保護に努めている。平成8年の福祉犯の検挙人員は9,365人で、7年に比べ273人(2.8%)減少した。その法令別検挙状況は図3-8のとおりで、青少年保護育成条例違反が最も多く、次いで毒物及び劇物取締法違反となっている。

図3-8 福祉犯の法令別検挙状況(平成8年)

〔事例〕 家出中の女子高校生を発見し、事情聴取したところ、テレホンクラブで知り合った会社員にホテルに連れ込まれ、「精力剤」等と言われて、覚せい剤を溶かしたジュースを飲まされた上に淫行被害に遭っていたことが判明したため、覚せい剤を飲用させて淫行した会社員2人を覚せい剤取締法違反と青少年保護育成条例違反で4月に逮捕した(宮城)。
(5) 少年相談活動
 警察では、少年の非行、家出、自殺等の未然防止とその兆候の早期発見や被害少年等の保護のために少年相談の窓口を設け、自分の悩みや困りごとを親や教師に打ち明けることのできない少年、子供の非行その他の問題で悩む保護者等からの相談を受け、心理学、教育学等に関する知識を有する専門職員や経験豊かな少年補導職員、少年係の警察官が必要な助言や指導を行っている。また、「ヤング・テレホン・コーナー」等の名称で電話による相談業務も行っており、深刻な社会問題となっているいじめ問題に対応するため、「いじめ110番」等の名称で専用窓口を開設している都道府県もある。
 平成8年に警察が受理した少年相談の件数は10万3,109件で、7年に比べ1万3,649件

図3-9 少年相談の内容(平成8年)

(15.3%)増加した。少年自身からの相談では、学校問題等に関するものが多く、保護者等からの相談では、非行問題等に関するものが多い(図3-9)。また、いじめに関する相談は3,543件で、7年に比べ増加(71件(2.0%)増)したほか、ここ数年、相談後も継続的な指導を必要とするケースが増加している。
(6) 少年の社会参加、スポーツ活動
 警察では、関係機関、団体、地域社会と協力しながら、環境美化活動、社会福祉活動等の社会奉仕活動や伝統文化の継承活動、地域の産業の生産体験活動等地域の実態に即した様々な少年の社会参加活動を展開している。また、スポーツ活動については、特に、警察署の道場を開放して地域の少年に柔道や剣道の指導を行う少年柔剣道教室を全国的に開催しており、平成8年中は約1,000警察署において、約8万人の少年が参加した。これらの教室に通う少年が参加して、8年8月には、(財)全国防犯協会連合会及び(社)全国少年補導員協会の共催による「第9回全国警察少年柔道・剣道大会」が開催された。
(7) ボランティア活動
 警察では、少年の非行を防止し、その健全な育成を図るため、約6,000人の少年指導委員、約5万2,100人の少年補導員、約1,100人の少年警察協助員等のボランティアを委嘱しており(平成9年4月1日現在)、これらのボランティアは、地域に密着したきめ細かな活動を展開している。少年指導委員は、風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律に基づき、都道府県公安委員会の委嘱を受け、少年を有害な風俗環境の影響から守るための少年補導活動や風俗営業者等への協力要請活動等に、少年補導員は街頭補導活動、環境浄化活動をはじめとする幅広い非行防止活動に、少年警察協助員は非行集団の解体補導活動に、それぞれ従事している。
 また、(社)全国少年補導員協会においては、これらの活動を支援するとともに、8年11月には、ボランティア、PTA等約400人の参加を得て少年問題シンポジウム「助けを求める少

年たち~いま、少年を覚せい剤等の薬物乱用からまもるために」を(財)社会安全研究財団と共催するなど、少年の非行防止と健全育成を目指した活動を推進している。


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