第4節 正常な経済活動等の確保

1 経済事犯の取締り

(1) 悪質商法の現況と取締り
 直接、家庭を訪問し、強引又は言葉巧みに商品等を売り付ける従来からの悪質商法に加え、電話で勧誘して講習受講料名下に金員をだまし取る事犯、著名会社との関連をかたり金員をだまし取る事犯、人の悩みにつけ込んで祈とう料名下に金員をだまし取る事犯等、より巧妙化した、特異な手口の商法が目立っている。
 平成7年中の悪質商法の検挙状況は、事件数は138事件、人員は47人、被害者数は約33万2,700人、被害額は約632億7,000万円に上っている。
ア 資格商法に係る事犯
 近年の資格取得ブームを背景に、電話で勧誘して資格取得講座教材を売り付ける「電話勧誘による資格商法」を中心に消費者相談窓口に対する苦情・相談件数が激増している。
 7年の同商法に係る事犯の検挙は、事件数は5事件、検挙人員は39人で、被害額は約14億円であった。また、この商法の被害者の中には、一度被害に遭った後被害救済の名目で再び被害に遭う例もみられた。
〔事例〕 国家試験の講習会の開催等を業務とする2つの会社の社長(46)らは、主として中小企業経営者を対象に、架空の資格に関して「近く国家資格となる。今回に限り講習を受講すれば簡単に資格が取れ、月々20万円の副収入が得られる。」などと偽り、約2,000人から講習受講料の名目で約7億7,000万円をだまし取っていた。8月までに、詐欺で26人を検挙(うち逮捕6人)(北海道)
イ 訪問販売等に係る事犯
 「押し付け商法」「工事商法」等の強引な方法や、「かたり商法」「催眠商法」等の言葉巧みに契約を締結させる商法が後を絶たず、訪問販売等に係る事犯は、大幅に増加し、7年は、130事件、421人を検挙した。このうち、マルチ商法事犯については、6年に重点取締りを実施したことから、7年は、苦情や相談が減少したが、引き続き悪質な営業を続けていた4事件、27人を検挙した。
 また、阪神・淡路大震災による被災家屋修繕等に係る訪問販売事件や、義援金の募集を名目とした詐欺事件等の大震災に便乗した悪質事犯が目立った。
〔事例〕 山口組傘下組織準構成員や元暴力団員らが、市販されている紳士録の登載者を対象に、電話で「紳士録登録から削除してやる。」などと言って、登載打切り料、右翼団体からの恐喝防止代、登録抹消料等の名目で、約800人から約7億5,000万円をだまし取っていた。11月までに、詐欺で10人を検挙(うち逮捕7人)(広島)
ウ 訪問販売等に関する法律の一部改正
 電話勧誘による資格商法等の被害が多発し、また、マルチ商法について従来規制を受けていなかったマルチ組織の下位加盟者によるトラブルが問題となったことから、電話勧誘販売に対して書面交付、クーリング・オフ等の制度を設けるとともに、マルチ商法については実質的に勧誘を行う下位加盟者を新たに規制対象とするなどの訪問販売等に関する法律の一部改正が行われた。
(2) 消費者被害防止のための諸施策の推進
ア 消費者相談と啓発活動
 各都道府県警察の「悪質商法110番」等の消費者相談窓口には、多数の悪質商法に関する苦情、相談が寄せられている。
 警察では、これらの消費者相談を基に市民の取締り要望を把握するとともに、消費者の立場に立った効率的な取締りを実施して多数の事件を検挙した。
 また、警察では、悪質商法による被害の未然防止、拡大防止を図るため、防犯協会、消費者行政担当機関等と連携して、パンフレットの配布等の消費者に対する広報啓発活動を積極的に推進した。
イ 関係機関、団体等との連携強化
 警察では、消費者被害の未然防止、拡大防止のため、国民生活センターをはじめ各地方公共団体の消費者行政担当課、消費生活センター等と悪質商法に係る連絡会議、研修会等を開催するなどして連携の強化を図った。
(3) その他の経済事犯の取締り
ア 不動産取引をめぐる事犯の取締り
 平成7年の不動産取引をめぐる事犯の検挙件数は229件、検挙人員は224人であり、検挙した事件の主な適用法令は、宅地建物取引業法、建築基準法、建設業法であった。
〔事例〕 経営不振に陥った東京都内の食品会社の社長らは、資金獲得のため、バブル景気時に取得した伊豆半島所在の山林を宅地開発し、宅地建物取引業の免許を受けないで、宅地13画を顧客8名に9,200万円余りで分譲販売した。9月に、宅地建物取引業法違反(無免許営業)で社長ら2人を検挙(静岡)
イ 国際経済関係事犯の取締り
 7年の外国為替及び外国貿易管理法(外為法)違反の検挙件数は15件、検挙人員は6人で、関税法違反の検挙件数は40件、検挙人員は27人であった。
 主な検挙事例としては、中国から数千トンの安い玄米を大理石粉砕粒と偽って密輸入し、国内で「茨城産こしひかり」として販売していた関税法、外為法等違反事件や香港から数百トンの中国産生糸を金属屑として偽って密輸入し、数億円の関税をほ脱していた関税法違反事件等が挙げられる。最近5年間の国際経済関係事犯の法令別検挙状況は、表2-35のとおりである。

表2-35 国際経済関係事犯の法令別検挙状況(平成3~7年)

ウ 金融関係事犯の取締り
 7年の金融関係事犯の検挙件数は445件、検挙人員は290人であった。違反形態としては、無登録貸金業、高金利貸付けが全体の約8割を占めており、資金繰りに苦しむ中小企業経営者や商店主等を対象にした「紹介屋」による詐欺事犯や、高金利貸付けにより暴利を得る事犯が目立った。また、暴力団の介在する事件の検挙件数は145件(前年比202件(28.2%)減)であった。最近5年間の金融関係事犯の法令別検挙状況は、表2-36のとおりである。
〔事例〕 山口組傘下組織組長が、実際は実質的経営者でありながら同組幹部に貸金業登録を受けさせ、登録営業所となっていない暴力団事務所を営業所にして、自営業者等に法定利息の3~5倍で高金利貸付けを行っていた。10月までに、貸金業の規制等に関する法律(登録営業所外営業)及び出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(高金利)違反で組長ら3人を検挙(京都)

表2-36 金融関係法令違反の法令別検挙状況(平成3~7年)

2 知的所有権保護対策の推進

(1) 知的所有権侵害事犯の取締り
 国際化の進展と高度情報化の中で、知的所有権の保護の必要性が国内外において一段と高まっていることから、警察では、知的所有権侵害事犯の取締りを重点に掲げ、悪質業者の早期検挙に努めている。
 最近5年間の知的所有権関係の法令別検挙状況は、表2-37のとおりである。
ア 海賊版事犯
 海賊版事犯では、海賊版ビデオをレンタルした事犯、ホテルで無断上映した事犯のほか、パソコン通信を悪用した広域的な海賊版コンピュータ・ソフトの販売事犯等、情報化社会を反映し、手口が多様かつ巧妙になっている。
〔事例〕 パソコン通信の会員が、パソコン通信を悪用して、ゲームソフト約160種を複製収録したCD-ROM等を全国のパソコン愛好者約1,000人に販売し、約1,200万円の売上げを得ていた。8月に、

表2-37 知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況(平成3~7年)

 著作権法違反で販売者1人を逮捕するとともに、海賊犯CD-ROM約100枚を押収(神奈川)
イ 偽ブランド商品事犯
 偽ブランド商品事犯としては、依然として海外から密輸入した偽ブランド品の販売が目立ち、特に来日外国人による組織的大量密売事件や精巧な偽商品を本物として販売した事件等、その手口はますます悪質、巧妙化している。
〔事例〕 韓国人、台湾人及び日本人のブローカーが、韓国等から有名ブランドの偽商品等を大量に密輸入し、全国的に販売していた。12月までに、商標法違反で28人を検挙(うち逮捕17人)し、偽ブランド品約4万5,000点を押収(群馬・三重)
(2) 知的所有権保護のための広報啓発活動
 警察では、検挙した事件の適時適切な広報、知的所有権侵害事犯取締り強化期間と連動した広報紙の発行、不正商品の展示等、積極的な広報啓発活動を実施した。また、不正商品対策協議会(権利者団体10団体で構成する民間団体)と連携し、同協議会が5月に那覇市で実施した知的所有権保護と消費者保護をテーマとした「不正商品防止フェア」や、10月に札幌市で実施した生涯学習フェスティバル「まなびピア’95」における「不正商品防止フェア」を後援するなどの施策にも取り組んでいる。

3 環境・保健衛生事犯の取締り

(1) 環境事犯の取締り
 警察では、市民の健康を保護するとともに生活環境の保全を図るため、悪質な産業廃棄物の不法処分事犯や水質汚濁事犯に重点を置いた取締りを行っている。最近5年間における環境事犯の法令別状況は、表2-38のとおりである。

表2-38 環境事犯の法令別検挙状況(平成3~7年)

ア 廃棄物事犯
 平成7年の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)違反の検挙件数は1,965件であり、これを態様別にみると、不法投棄事犯が多く、全体の75%を占めている。
 産業廃棄物事犯の検挙件数は698件であり、廃油・医療廃棄物等の特別管理産業廃棄物に係る事犯が目立ったほか、形態別では都市部から排出された産業廃棄物が県境を越えて不法処分される事犯等が相次いでいる。なお、7年中に検挙した産業廃棄物事犯において不法処分された産業廃棄物の総量は約133万トンに上り、その種類別、場所別状況は、 2-14のとおりである。

図2-14 不法処分された産業廃棄物の種類別、場所別状況(平成7年)

 警察では、関係行政機関、団体との緊密な連携により、産業廃棄物の不適正処理、不法投棄等を防止し、これらの事犯に対する迅速、的確な対応を行うため、「産業廃棄物不法処理防止連絡協議会」を設置している。
〔事例〕 廃棄物処理業者が、日本赤十字血液センターから処理委託を受けた特別管理産業廃棄物である廃血液約860リットルから遠心分離機を使って血清、血しょうを分離抽出していた。11月に、廃棄物処理法違反(特別管理産業廃棄物無許可処分業等)で業者ら2人を検挙(埼玉)
イ 水質汚濁事犯
 7年の水質汚濁事犯の検挙件数は13件であった。このうち、工場等が水質汚濁防止法で定められている基準に違反して汚水等を排出する事犯の検挙は7件であった。
〔事例〕 大手養豚業者が、排出基準の8~17倍を超える豚の排泄物を含む汚濁水を公共用水路に排出していた。6月に、水質汚濁防止法(排出水の排出制限)違反で1人を検挙(宮城)
(2) 保健衛生事犯の取締り
 高齢化社会への急速な移行に伴い、健康に対する国民の願望が年々高まっている中、平成7年の薬事関係事犯の検挙件数は228件、医事関係事犯の検挙件数は51件、公衆衛生関係事犯の検挙件数は160件であった。
〔事例〕 最近のダイエットブームに目を付けた健康食品会社の経営者らが、ダイエット食品を販売するに当たり、「血糖値を下げて糖尿病を治す。」などと医薬品的効能・効果を宣伝し、全国の主婦等約2万人から約50億円の暴利を得ていた。10月までに、薬事法違反で2法人14人を検挙(うち逮捕4人)(神奈川)

4 危険物対策の推進

(1) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 平成7年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が345件発生し、死傷者は376人に上った。
 また、7年中に高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反により215件、224人を検挙した。
(2) 放射性物質の安全対策の推進
 放射性物質を運搬するためには、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律及び放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律により、都道府県公安委員会から運搬証明書の交付を受け、運搬中はこれを携帯し、かつ、これに記載された内容に従って運搬しなければならないこととされている。これらの法律の規定に基づき、平成7年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質の運搬届出件数は、核燃料物質等に係るものが1,214件、放射性同位元素等に係るものが558件であった。
 警察では、核燃料物質等の使用者等に対し事前指導を行うなど、核燃料物質等の運搬の安全確保に努めている。
(3) 火薬類対策の推進
 平成7年の猟銃用火薬類等(専ら猟銃、けん銃等に使用される実包、銃用雷管、無煙火薬等)の譲渡、譲受け等の許可件数は10万5,184件であった。また、7年の火薬類の盗難事件の発生件数は15件、実包を除く火薬類(ダイナマイト等)を使用した犯罪の発生件数は5件であった。警察では、火薬類取締法に基づき、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等に対して立入検査を実施し、火薬類の保管方法等についての指導取締りを行っている。


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