第2節 少年の非行防止と健全な育成

1 少年非行の現状

(1) 刑法犯少年の状況
ア 概況
 平成7年の刑法犯少年は12万6,249人(前年比5,019人(3.8%)減)で、刑法犯総検挙人員に占める割合は43.1%(0.5ポイント増)である。また、刑法犯少年の人口比(注)は12.5(前年同数)で、成人の刑法犯検挙人員の人口比の約7倍である。主要刑法犯で補導した少年の人員、人口比の推移を少年法が施行された昭和24年以降についてみると、図2

図2-4 主要刑法犯で補導した少年の人員・人口比の推移(昭和24~平成7年)

-4のとおりである。
 7年の刑法犯少年の包括罪種別補導状況は図2-5のとおりで、窃盗犯が8万1,060人(全体の64.2%)で最も多く、次いで占有離脱物横領が2万4,413人(19.3%)となっている。
(注)人口比とは、同年齢層の人口1,000人当たりの補導人員をいう。

図2-5 刑法犯少年の包括罪種別補導状況(平成7年)

イ 凶悪犯、粗暴犯の増加
 7年に凶悪犯、粗暴犯で補導した少年は1万6,740人で、6年に比べ703人(4.4%)増加した。特に、恐喝が4年以降連続して増加しているほか、殺人、暴行、傷害等が増加しており、内容的にも非行グループによる悪質事犯が目立っている。
ウ 14歳から16歳が非行の中心
 7年の刑法犯少年の年齢別補導状況は図2-6

図2-6 刑法犯少年の年齢別補導状況(平成7年)

表2-16 刑法犯少年の包括罪種別、学職別状況(平成7年)

のとおりで、14歳から16歳までの低年齢層の少年が刑法犯少年総数の66.3%を占めている。
 なお、7年の触法少年(刑法)は2万2,888人で、6年に比べ923人(3.9%)減少した。
エ 凶悪、粗暴な非行が目立つ、有職少年、無職少年
 7年の刑法犯少年の学職別補導状況は表2-16のとおりで、高校生が5万4,726人、(43.3%)で最も多いが、人口構成比では3.1%にすぎない無職少年が、刑法犯少年総数の10.8%を占めている。また、凶悪犯、 粗暴犯等の非行に占める有職少年、無職少年の割合が極めて高いことが注目される。
(2) 少年の薬物乱用
 平成7年にシンナー等の乱用で補導した犯罪少年は5,456人で、前年に比べ1,888人(25.7%)減少した。また、大麻事犯で補導した犯罪少年は189人で、前年に比べ108人(36.4%)減少したが、覚せい剤事犯で補導した犯罪少年は1,079人で、前年に比べ252人(30.5%)増加し、元年以降最高となった。
 これらの学職別状況は、表2-17のとおりで、シンナー等の乱用では、

表2-17 シンナー等の乱用及び覚せい剤、大麻事犯で補導した犯罪少年の学職別状況(平成7年)

無職少年、有職少年がほぼ同数で、全体の36.3%、35.9%ずつを占めて最も多い。覚せい剤事犯、大麻事犯では、無職少年がそれぞれ全体の52.9%、36.0%を占めて最も多いが、覚せい剤事犯における高校生の大幅な増加(前年比124.4%増)が特に目立っている。

図2-7 いじめに起因する事件で補導した少年の推移(平成3~7年)

(3) いじめに起因する事件
 平成3年以降のいじめ(注)に起因する事件で補導した少年の数の推移は図2-7のとおりであり、7年には補導人員が534人(前年比162人(43.5%)増)に上るなど増加傾向が続いている。罪種別では、傷害が160人と最も多く、次いで恐喝(135人)、暴行(81人)の順となっている。
 いじめにより少年を補導した事件について、いじめた原因、動機をみると、被害者が「力が弱い・無抵抗」だからとするものが71件(44.4%)で最も多い。また、いじめの発生場所をみると、学校外が80件(51.9%)で、学校内よりも多くなっている。
(注) 「いじめ」とは単独又は複数の特定人に対し、身体に対する物理的攻撃又は言動による脅し、いやがらせ、無視等の心理的圧迫を反復継続して加えることにより、苦痛を与えること(ただし、番長グループや暴走族同士による対立抗争事案を除く。)をいう。
〔事例〕 中学2年生の男子(13)は、上級生や同級生からいじめを受けていた旨の遺書を残し、自室で首をつって自殺した。遺書に名前を挙げられた者のうち、クラブの先輩である中学3年生の男子(14)を、暴行により検挙(福岡)
(4) その他の少年非行の形態
ア 校内暴力
 平成7年に警察が処理した校内暴力事件の状況は表2-18のとおりで、処理件数は464件(前年比30件(6.1%)減)である。そのうち、教師に対する暴力事件は258件(前年比44件(14.6%)減)である。

表2-18 警察が処理した校内暴力事件の状況(平成7年)

イ 暴走族少年
 7年に犯罪少年として補導した暴走族少年の数は3,148人(前年比372人(10.6%)減)である。その罪種別補導状況は、表2-19のとおりで、窃盗、傷害が高い比率を占めている。
 また、暴力団が暴走族の結成や対立抗争に関与する例もみられ、暴走族少年が暴力団の影響を強く受けていることがうかがわれる。
ウ 家庭内暴力
 7年に少年相談等を通じて警察が把握した家庭内暴力の対象別状況は表2-20のとおりで、総数は688人(前年比34人(5.2%)増)である。対象別では、母親に対するものが411人(59.7%)で最も多い。

表2-19 暴走族少年の補導状況(平成6、7年)

表2-20 家庭内暴力の対象別状況(平成7年)

(5) 問題行動
ア 不良行為少年
 平成7年に補導した不良行為少年は67万3,345人である。その態様別状況は図2-8のとおりで、喫煙や深夜はいかいが多数を占めている。

図2-8 不良行為少年の態種別状況(平成7年)

イ 家出
 7年に警察が発見し、保護した家出少年は2万4,895人(前年比2,482人(9.1%)減)である。その学職別状況は表2-21のとおりで、中学生が38.9%で最も多い。
ウ 自殺
 7年に警察が把握した少年の自殺者は515人(前年比65人(11.2%)減)である。その学職別状況は表2-22のとおりで、男女とも高校生の自殺が最も多い。自殺の動機についてみると、学校問題が141人(27.4%)で最も多く、次いで家庭問題、異性問題、病苦等の順となっている。

表2-21 家出少年の学職別状況(平成7年)

表2-22 自殺した少年の学職別状況(平成7年)

2 少年の被害の実態

(1) 犯罪による少年の被害
ア 刑法犯による被害
 平成7年における少年が被害者となった刑法犯の発生件数は表2-23のとおりで、31万2,604件に及んでおり、包括罪種別では、窃盗犯が約29万件(91.5%)で最も多く、次いで粗暴犯となっている。

表2-23 少年が被害者となる刑法犯発生件数(平成7年)

 少年を被害者とする刑法犯の過去10年間の発生件数の推移は図2-9のとおりで、7年の件数は昭和61年に比べ35.8%増加している。罪種別では、窃盗が総件数とほぼ並行して増加しているほか、61年に比べ、強盗(47.0%増)、略取誘拐(79.0%増)、強制わいせつ(47.7%増)等の罪種による被害が増加している。
イ 福祉犯による被害
 7年に少年の福祉を害する犯罪(以下「福祉犯」という。)の被害者となった少年(以下「福祉犯被害少年」という。)の総数は1万3,867人であり、うち女子が9229人(66.6%)を占めている。

図2-9 少年被害の刑法犯発生状況の推移(昭和61~平成7年)

表2-24 福祉犯被害少年の法令別状況(平成7年)

その法令別の状況は表2-24のとおりで、男子は毒物及び劇物取締法、女子は青少年保護育成条例に係る被害が最も多い。
 また、福祉犯被害少年の学職別状況は表2-25のとおりで、高校生が4,640人(33.5%)で最も多く、次いで無職少年が4,257人(30.7%)となっている。また、福祉犯被害少年のうち、家出少年は1,266人で、全体の9.1%を占めている。

表2-25 福祉犯被害少年の学職別状況(平成7年)

(2) 少年の性にかかわる有害環境
 近年、ツーショットダイヤル営業(注1)を含むテレホンクラブが全国的に広がりをみせている。平成4年以降のテレホンクラブ営業所数、テレホンクラブに係る福祉犯の被害少年数の推移は図2-10のとおりで、平成7年には福祉犯被害少年の数が1,410人に上るなど、テレホンクラブが少年の健全育成に有害な影響を与えている実態がみられる。また、デートクラブについても、テレホンクラブと同様、経営者自身は淫行、売春等に関与しない営業形態のものが現れているが、女子少年が安易に金銭を得る手段としてこれらの営業を利用している実態がみられ、女子少年の性に関する価値観の変容が懸念される。
 7年に性の逸脱行為で補導した女子少年(注2)は、5,481人(前年比766人(16.2%)増)で、その動機についてみると、遊ぶ金欲しさに

図2-10 テレホンクラブにかかる福祉犯の検挙人員の推移(昭和63~平成7年)

よるもの(39.1%)が最も多く、興味(好奇心)によるもの(34.4%)がこれに次いでおり、安易に金銭を得る手段となるとともに、女子少年自身の好奇心を刺激するような有害環境の存在が、女子少年の性の逸脱を誘発し、助長しているものと考えられる。
 また、パソコンの急速な普及により、パソコンを通じて少年が有害な情報に接する機会が増加しており、露骨な性描写を盛り込んだパソコン用ゲームソフトが氾(はん)濫しているほか、最近では、パソコン通信ネットワークにより少年が直接わいせつ画像にアクセスできるような状況も出現している。
〔事例〕 有限会社社長(32)は、NTT電話回線利用のパソコン通信ネットワークを開設し、高校生を含むネットワークの不特定の顧客に対し、わいせつ画像等のデータを送信、再生閲覧させていた。3月にわいせつ図画公然陳列で被疑者1名を検挙(神奈川)
(注1) 「ツーショットダイヤル営業」とは、不特定多数の男女に通話させる営業をいい、具体的には、男性が街頭に設置された自動販売機から電話番号・暗証番号等を記載したカードを購入し、又は一定金額を銀行に振り込み、業者から通知された暗証番号を使って電話を掛けると、業者が設置したツーショット交換器と呼ばれる電話交換設備を通して、フリーダイヤルで掛けてきた女性と会話することができるものである。
(注2) 「性の逸脱行為で補導した女子少年」とは、売春防止法違反事件の売春をしていた女子少年、児童福祉法違反(淫行させる行為)事件、青少年保護育成条例違反(みだらな性行為)事件及び刑法上の淫行勧誘事件の被害女子少年、ぐ犯少年のうち不純な性行為を行っていた女子少年並びに不良行為少年のうち不純な性行為を反復していた女子少年をいう。
(3) 少年を狙(ねら)う暴力団
 平成7年に暴力団が関与する福祉犯の被害者となった少年は2,455人で、福祉犯被害少年総数の17.7%を占め、暴力団が少年に対する薬物の密売や少女売春等悪質性の高い事案に関与している実態がみられる。
 また、7年中に把握された少年の暴力団員の総数は全国で524人であり、また、1,217人の少年が暴力団の影響を強く受け加入を勧誘されており、159の暴走族等の集団が暴力団の影響下にあるとみられている。

3 少年の非行防止、健全育成対策の推進

(1) 非行少年等の補導活動
 警察では、少年係の警察官、少年補導職員等を中心に、少年補導員等地域のボランティアと協力して、盛り場、公園等非行の行われやすい場所での街頭補導等の補導活動を日常的に実施し、非行少年等の早期発見、補導に努めている。非行少年を発見したときは、少年の特性に十分配慮しつつ、保護者等と連絡を取りながら、非行の原因、背景、少年の性格、交友関係、保護者の監護能力等を検討し、再非行防止のための処遇に関する意見を付して関係機関に送致、通告するなどの措置をとっている。不良行為少年については、再非行防止の観点から、警察官等がその場で注意や助言を与えたり、必要な場合には保護者等に対して指導や助言を行っている。
(2) 少年を取り巻く有害環境の浄化
 近年、社会の享楽的風潮を背景として、少年非行や福祉犯被害のきっかけとなるおそれの高いテレホンクラブ等の営業が増加しているほか、少年への影響が懸念される図書類やツーショットダイヤル営業を利用するための電話番号・暗証番号等を記載したカードが自動販売機で販売されたり、違法なピンクビラが公衆電話ボックス等に大量にはり付けられるなど少年の健全育成に有害な影響を与えるおそれのある社会環境がますます拡大している。このような実態にかんがみ、警察では、地域住民や関係団体、関係機関と連携して、こうした自動販売機等の撤去を要請したり、ピンクビラの一掃活動を行うなど、少年を取り巻く社会環境の浄化に努めている。特に、環境浄化の必要性の高い地域を「少年を守る環境浄化重点地区」(全国287地区(平成7年度))に指定しており、少年のたまり場等の浄化運動、環境浄化住民大会の開催等の環境浄化活動を推進している。
(3) 少年の福祉を害する犯罪の取締り
 警察では、少年の心身に有害な影響を与え、また、少年の非行を助長する原因ともなる福祉犯の取締りを推進するとともに、その被害を受けている少年の発見、保護に努めている。平成7年の福祉犯の検挙人員は9,638人で、6年に比べ11人(0.1%)減少した。その法令別検挙状況は図2-11のとおりで、青少年保護育成条例違反が最も多く、次いで毒物及び劇物取締法違反となっている。

図2-11 福祉犯の法令別検挙状況(平成7年)

(4) 被害少年の保護活動
 近年、少年を被害者とする刑法犯は、年間約30万件にも及んでおり、最近では、いじめに起因する事件の被害者が増加しているほか、福祉犯被害少年も年間約1万4,000人に上るなど、これらの犯罪等による被害が心身ともに未成熟な少年の成長に悪影響を与え、その健全な育成を阻害することが懸念されている。警察では、犯罪等の被害者となった少年 (以下「被害少年」という。)に対して、これまで少年相談等において相談を受けた場合に個別に対応してきたところであるが、精神的な支援を必要としている被害少年が多数認められることから、その精神的ダメージの回復等を図るため、少年相談専門職員、少年補導職員等によるカウンセリング活動や、保護者、関係機関・団体等と連携した支援活動を組織的に推進していくこととしている。
(5) 少年相談活動
 警察では、少年の非行、家出、自殺等の未然防止及びその兆候の早期発見のために少年相談の窓口を設け、自分の悩みや困りごとを親や教師に打ち明けることのできない少年、子供の非行その他の問題で悩む保護者等からの相談に対して、心理学、教育学等に関する知識を有する専門職員や経験豊かな少年補導職員、少年係の警察官が必要な助言や指導を行っている。
 また、ヤング・テレホン・コーナー等の名称で電話による相談業務も行っており、深刻な社会問題となっているいじめ問題に対応するため、「いじめ110番」等の名称で専用窓口を開設している都道府県警察もある。
 7年に警察が受理した少年相談の件数は、8万9,460件で、6年に比べ3,079件(3.6%)増加した。少年自身からの相談では、性、健康問題、交友問題に関するものが多く、保護者等からの相談では、非行問題等に関するものが多い(図2-12)。また、いじめに関する相談は3,472件で、6年に比べ大幅に増加(1,385件(66.4%)増)したほか、相談後も継続的に指導するケースが増加している。
(6) いじめ対策の推進
 警察では、いじめ問題に対し、少年相談活動の充実、学校との連携の強化等により、いじめ事案の早期把握に努めるとともに、事案を把握し

図2-12 少年相談の内容(平成7年)

た場合には、真相究明の徹底により加害少年の適切な処遇を図っている。また、被害少年に対しては、その性格、環境、ダメージの程度等に応じたきめ細かなフォローアップを実施しているほか、解明した事案の背景等参考になる事項を関係方面の諸活動の利用に供することなどにより、いじめ事案の解決及びその再発防止に努めている。
(7) 少年を暴力団から守る活動
 警察では、少年に対する暴力団の影響を排除して少年の健全育成を図るとともに、暴力団への人的供給とその資金源を遮断するため、少年の暴力団加入防止・離脱対策と暴力団が関与する悪質福祉犯の取締りを重点として、「少年を暴力団から守る活動」を推進している。
 暴力団が関与する悪質福祉犯の取締りについては、平成7年中に1,006人の暴力団員を検挙した。これは、福祉犯総検挙人員の10.4%に当たるが、特に覚せい剤取締法、職業安定法等の違反については、検挙人員に占める暴力団員の割合が高くなっている。
(8) 少年の社会参加、スポーツ活動
 警察では、関係機関、団体、地域社会と協力しながら、環境美化活動、社会福祉活動等の社会奉仕活動や伝統文化の継承活動、地域の産業の生産体験活動等地域の実態に即した様々な少年の社会参加活動を展開している。また、スポーツ活動については、特に、警察署の道場を開放して地域の少年に柔道や剣道の指導を行う少年柔剣道教室を全国的に開催しており、平成7年中に約1,300警察署において、約9万人の少年が参加した。これらの教室に通う少年が参加して、7年8月には、(財)全国防犯協会連合会及び(社)全国少年補導員協会の共催による第8回全国警察少年柔道・剣道大会が開催された。
(9) 重要な役割が期待されるボランティア活動
 警察では、少年の非行を防止し、その健全な育成を図るため、少年指導委員、少年補導員、少年警察協助員等のボランティアを委嘱しており、これらのボランティアは、地域に密着したきめ細かな活動を展開している。
 全国で約6,000人の少年指導委員が少年補導活動や風俗営業者等への協力要請を行っており、また、全国で約1,100人の少年警察協助員が非行集団の解体補導活動を行っているほか、全国で約5万1,300人の少年補導員が街頭補導活動、環境浄化活動をはじめとする幅広い非行防止活動に従事している。また、(社)全国少年補導員協会においては、これらの活動を支援するとともに、平成7年12月には、ボランティア、PTA等約400人の参加を得て、少年問題シンポジウム「助けを求める少年たち~犯罪被害少年への支援と警察・ボランティアの役割~」を(財)社会安全研究財団と共催するなど、少年の非行防止と健全育成を目指した活動を推進している。
(注)少年指導委員、少年警察協助員、少年補導員の数は、8年4月1日現在のものである。


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