第1章 サリン・銃・大震災に対峙(じ)した警察

 我が国の治安は、これまで諸外国に比べ良好であるといわれてきた。
 しかし、平成6年においては、ラッシュ時の駅構内における医師射殺事件、住友銀行名古屋支店長射殺事件等の銃器使用犯罪が相次いだほか、松本市内においてサリンという猛毒ガスを使用した殺人事件が発生した。また、7年に入って、阪神・淡路大震災、都内地下鉄駅構内におけるサリンを使用した多数殺人事件、警察庁長官狙(そ)撃事件等の重大特異な事案が相次ぎ、市民生活の安全と平穏を大きく脅かした。
 これらの事案は、銃口が市民や治安の衝に当たる者に向けられたということ、また、サリンという猛毒ガスが無差別的に市民に対して使用されたということ、あるいは、地震により一瞬のうちに多くの人命が奪われ、多大な混乱に見舞われたということにおいて、我が国の治安の根幹を揺るがし、「安全な国 日本」という国民の評価・信頼に陰りを生じさせた。
 このような事態に対して警察は総力を挙げた取組みを行ったところであるが、残された課題は少なくない。警察は、いかなる事案が発生しようとも適確に対応できる有事即応力を有していなければならないものであり、今後、新しい発想に基づき、警察活動の基盤や運用の在り方について、より有効な対応策を真剣に探求していかなければならない。
 こうした観点から、本章では、「サリン等の有毒ガスを使用した事案」、「銃器犯罪」、「阪神・淡路大震災」の3つに焦点を当て、警察活動を振り返るとともに今後の課題を検討することとする。


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