第9章 災害、事故と警察活動

1 災害の発生状況

 平成5年における主な自然災害は、釧路沖地震災害(1月)、北海道、南西沖地震災害(7月)、大雨による災害(6~8月)、台風による災害(7~9月)、雲仙岳噴火による災害(1~12月)等であった。
 7月12日午後10時17分ころ、北海道南西沖を震源とする大きな地震が発生し、震源に近い奥尻島や北海道の日本海沿岸を大津波が襲い甚大な被害を発生させた。津波は青森県から中国地方にかけての日本海沿岸にも達した。この地震及び津波による主な被害は、平成5年12月末で、死者202人、行方不明者29人、負傷者307人、家屋損壊(全壊、半壊、全焼、流失)760棟に上った。
 5年の台風の上陸は、7月下旬に第4号、第5号、第6号、8月下旬から9月上旬にかけて第11号、第13号、第14号と相次ぎ、気象庁が現観測体制をとって以降最多(2年と同数)の6個を記録した。中でも、台風第13号は、上陸時の中心気圧が930ヘクトパスカル、最大風速が毎秒50メートルと非常に強い勢力で、九州、四国、中国地方を中心に大きな被害を発生させた。
 また、7月下旬から8月上旬にかけて、台風の来襲と活発な前線活動により、九州南部を中心に記録的な大雨となった。特に、8月6日の鹿児島県を中心とした集中豪雨は、河川の氾(はん)濫やがけ崩れ等により多数の死傷者や家屋損壊等を出す大きな災害となった。
 これらの災害の発生に際して、全国で警察官延べ約20万6,000人が出動し、関係機関と協力して、災害情報の収集、伝達、被災者の救出、救護、避難誘導、交通規制等の災害警備活動を行い、被害の未然防止と拡大防止に努め、約3,900人の被災者を救助又は避難誘導した。5年における自然災害による被害状況は、表9-1のとおりである。

表9-1 自然災害による被害状況(平成5年)

2 災害警備対策の推進

 警察では、災害から国民を守るため各種の災害対策を推進している。とりわけ大規模地震対策は、世界有数の地震発生国である我が国では、緊急かつ重要な課題であり、東海地震や南関東地域直下の地震への対策を中心に、関係機関と協力して、防災に関する各種の訓練、行事を行い、国民の防災意識の高揚に努めた。
(1) 住民との災害警備訓練
 9月1日の「防災の日」に行われた中央防災会議主催による東海地震、南関東地域における大地震を想定した総合防災訓練では、地震防災対策強化地域とその周辺地域及び南関東地域の11都県において、地域住民約430万人のほか、警察庁、関係管区警察局、関係都県警察から、警察官約11万1,000人、ヘリコプター等23機、警察用船舶30隻が参加して、東海地震の判定会招集連絡報等の受理及び伝達、情報の収集、繁華街、ターミナル駅等不特定多数の者が集まる場所における社会的混乱の防止、交通規制、緊急輸送路の確保、人命の保護に重点を置いた高齢者、障害者等いわゆる災害弱者の避難誘導、被災者の救出、救護等の各種訓練を行った。このほか、平成5年中に、警察では、関係機関、地域住民と協力して、風水害、火山噴火災害等の自然災害や地下街、石油コンビナート、原子力施設等における特殊災害を想定した訓練を行った。
(2) 防災広報の推進
 警察では、地域住民を災害から守り、平素から防災意識の高揚を図るため、各種の広報手段を使って防災広報を行っている。地域警察官が日常的に行う巡回連絡の際の防災指導をはじめ、交番新聞等による防災に関する呼び掛け、訓練等の際のチラシの配布や防災広報板の設置、地域住民との各種会合における防災広報等住民の防災意識の高揚を図るための各種の活動を行った。また、国や自治体の主催する防災フェア等に協力し、災害装備資機材等の展示や説明を行い、防災広報に努めた。
(3) 人命救助活動~レスキュー隊等の活動
 平成5年には、北海道南西沖地震や風水害による大きな災害が発生したが、警察では、災害の発生に伴い、早急にレスキュー隊等を投入して、被災者の救助活動を行った。特に、鹿児島県における豪雨災害において、電車の乗客や自動車の運転者等多数の者が国道上に孤立した現場においては、関係機関と協力し、海から船で救助するなどの活動を行った。5年中の災害で、警察が関係機関と協力して、救助又は危険地帯から避難誘導した者は約3,900人に上った。

3 各種事故と警察活動

(1) 水難
ア 水難の発生状況
 平成5年の水難の発生件数は2,127件(前年比105人(4.7%)減)、死者、行方不明者数は1,264人(85人(6.3%)減)、警察官等に救助された者の数は1,263人である。最近5年間の水難発生状況は、表9-2のとお

表9-2 水難発生状況(平成元~5年)

表9-3 水難による死者、行方不明者の年齢層別状況(平成4、5年)

りである。また、水難による死者、行方不明者を年齢別にみると表9-3のとおりで、前年に比べ、幼児と65歳以上の者の死者、行方不明者が増加している。
 死者、行方不明者を発生場所別にみると図9-1のとおりで、海が最も多く、全体の約5割を占めている。行為別にみると図9-2のとおりで、魚とり・魚釣り中、水泳中、通行中の順に多く、特に、川岸や海辺等からの転落や飲酒等の無謀遊泳による事案が目立った。

図9-1 水難による死者、行方不明者の発生場所別構成比(平成5年)

図9-2 水難による死者、行方不明者の行為別構成比(平成5年)

イ 水難の防止活動
 警察では、水難を防止し、国民が安心して水に親しめるようにするため、水難の発生しやすい危険な場所の実態を調査し、その所有者、管理者や関係機関、団体に対し、危険区域を指摘するとともに、危険な施設の補修等を働き掛けている。特に人出の多い海水浴場では、臨時交番を設置して海浜パトロールを強化しているほか、警察用船舶やヘリコプターによる監視を強化し、海水浴客に対する広報、遭難者の早期発見、救出、救護に努めるとともに、関係機関、団体と協力して、救急法講習会や各種の救助訓練を実施している。
 また、水上安全条例を制定している福島県等では、海水浴場開設業者等に対し、遊泳区域の明示、救命浮輪の備付け、監視人又は水難救助員の配置等水難防止に関する指導を行っている。
〔事例〕 10月、海でダイビング訓練中の女性が、シュノーケルの操作を誤り、海水を飲んで溺れるという事故が発生したため、この訓練を行っていたダイビング業者に対し、水上安全条例に基づき、事故防止のための安全指導を行った(長崎)。
(2) 山岳遭難
ア 山岳遭難の発生状況
 平成5年の山岳遭難の発生件数は669件(前年比6件(0.9%)減)、遭難者数は814人(5人(0.6%)減)である。最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表9-4のとおりである。

表9-4 山岳遭難の発生状況(平成元~5年)

 近年は、登山の大衆化に伴い、中高年者をはじめ女性や家族連れ等の登山者が増え、本格的な登山、軽装のハイキング、自然観賞等登山の目的が多様化している。これに伴い、遭難者の年齢も幼児から高齢者まで広がってきており、特に40歳以上の中高年者の遭難が増えている。また、遭難の形態も登山道での滑落、転倒、発病のほか、道迷いによるものなどが多く、その原因は、体力、技術不足、装備の不備及び気象判断の誤り等登山の基本的な知識や心構えを欠いたことによるものが多い。
イ 遭難者の捜索、救助活動
 警察では、遭難者の迅速な捜索、救助活動を行うため、全国の警察に山岳警備隊等を編成し、平素から実践的な救助訓練を行い、救助技術の向上を図るとともに、救助用装備資機材の整備拡充を行うなど、救助体制の強化に努めている。
 5年に遭難者の救助活動に出動した警察官は延べ約8,200人、警察用ヘリコプター出動回数は延べ304回で、民間救助隊員等との協力による活動を含め、遭難者572人を救助したほか、181遺体を収容した。
ウ 山岳遭難の防止活動
 警察では、山岳遭難を防止するため、遭難の発生場所、原因等遭難の発生実態を的確に把握、分析し、関係機関等との遭難対策検討会を開催するとともに、各種広報媒体を活用して国民の安全登山の意識向上に努めている。
 また、主要山岳(系)を管轄する警察においては、関係機関等と協力して登山道等の実地踏査、道標及び危険箇所の点検、整備を行うとともに山岳情報を収集して、広く登山者に提供しているほか、登山口等に臨時交番や登山指導センターを開設して、登山計画書の提出の奨励、装備等の点検、指導を行っているほか、山岳パトロール等の活動を通じて安全登山への指導を積極的に行うなど、遭難の防止対策を強力に推進している。
(3) レジャースポーツに伴う事故
 近年、余暇の増加とレジャー用具の多様化、大衆化により、水上オートバイ、パラセーリング等の新しいレジャースポーツが登場し、これに伴う事故が多発している。平成5年のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は318件(前年比17件(5.1%)減)、被災者数は587人(56人(8.7%)増)である(表9-5)。

表9-5 レジャースポーツに伴う事故の発生状況(平成5年)

 こうした事故の原因の主なものは、技術の未熟、不注意等であり、また、無免許や無資格運転、無謀行為等を原因とするものも多いことから、警察では、事故防止を呼び掛けるパンフレットの配布等の安全広報に努めるとともに、レジャースポーツ現場におけるパトロール等を通じての指導取締り、関係機関、団体に対する事故防止指導等を推進し、レジャースポーツ事故の防止に努めている。
(4) 降積雪による災害
 平成5年の降雪期は、東日本や西日本(九州、四国を除く。)では7年連続、北日本では5年連続の暖冬となり、北海道を除く地域では降雪量が平年の半分以下となったところが多く、降積雪に伴う災害被害は、死者16人(前年比1人増)、負傷55人(22人減)、建物被害6棟(2棟増)である。
 これらの災害に際し、関係都道府県警察では、警察官が出動して被災者の救出、救護活動や雪崩等の発生のおそれのある危険箇所の点検、パトロール、交通の安全の確保等を行うとともに、独居高齢者家庭等に対する除排雪の支援活動、通学路における児童、生徒の安全指導等雪害事故の防止のための幅広い施策を推進した。

4 雑踏警備活動

(1) 一般雑踏警備活動
 平成5年に警察官が出動して雑踏警備に当たった行楽地や催物への人出は、延べ約5億4,900万人に上り、警察では、延べ約48万人の警察官を動員して、雑踏事故の防止に努めた。正月三が日の初詣の人出は、約8,490万人(前年比約231万人(2.8%)増)である。また、正月三が日のスキー場等行楽地の人出は約538万人であった。一方、ゴールデンウィークの人出は約5,344万人で、全国的に天候が不順であったことに加え、近年の不況を反映して近郊型、節約型のレジャー傾向となったことなどにより、前年に比べ約1,542万人(22.4%)減少した。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表9-6のとおりである。
 5年の雑踏事故は15件発生し、死者は6人、負傷者は59人に上った。このうち、山車(だし)、神輿(みこし)等の運行に伴うものが8件、死者5人、負傷者7人、大祭に伴うものが1件、死者1人で、また、花火大会等イベント会場における事故が6件、負傷者52人であった。

表9-6 雑踏警備実施状況(平成元~5年)

 これら雑踏事故の多くは、行事の主催者等による自主警備の不徹底や安全に関する配慮の欠如が大きな原因となっており、このため、警察では、行事の主催者、施設の管理者等に対して、事前連絡の徹底、自主警備体制の強化、危険予防の措置、施設の改善等を要請するとともに、混雑する場所等に警察官を配置して、雑踏事故の未然防止に努めている。
(2) 公営競技場の警備活動
 平成5年における競輪場、競馬場等の公営競技場への総入場者数は、延べ約1億9,300万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約10万5,000人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表9-7のとおりである。

表9-7 公営競技場警備実施状況(平成元~5年)

 5年の公営競技をめぐる紛争事案は4件であり、その内容はいずれもレースの判定をめぐる抗議形態のものであった。警察では、これらの紛争事案の防止のため、競技の適正な運営を関係機関、団体に働き掛けるとともに、自主警備体制の確立、施設、設備の改善、酒類販売の自粛等を要請しているほか、競技開催の都度、警察官を派遣して紛争事案の未然防止に努めている。


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