第6章 社会的危険の除去と環境の浄化

 犯罪、事故等の発生する要因を社会から除去し、良好な社会生活環境の形成を図るため、警察では、次のような活動を推進している。
 けん銃については、暴力団員のけん銃所持の常態化と、暴力団勢力以外の者へのけん銃の拡散傾向に対処するため、けん銃摘発を推進するなど、引き続き取締りの強化に努めている。
 薬物乱用については、大麻等の乱用が増加し、青少年にも乱用が広がるなど拡大、多様化の傾向を強めていることから、供給ルートの遮断と乱用の根絶を柱とした総合的な対策を進めている。
 風俗環境については、風俗営業の健全化のための施策を積極的に推進するとともに、悪質な事犯に重点を置いた取締りによる浄化に努めている。
 火薬類等の危険物については、保管方法、運搬方法等についての指導、取締りを通じ、事件、事故の発生防止に努めている。
 悪質商法については、マルチ商法等による被害が問題となっていることから、積極的な取締りを行う一方、その被害の未然防止、拡大防止のため、広報啓発活動等を展開している。
 環境事犯については、市民の健康を保護するとともに生活環境の保全を図るため、廃棄物の不法投棄や水質汚濁事犯に重点を置いた取締りを行っている。
 また、防犯システムの一環としての役割を担う古物営業等の健全育成に努めており、調査業についても営業活動の健全化に向けて働き掛けている。

1 けん銃事犯の取締りと銃砲の適正管理

(1) けん銃事犯の状況
ア けん銃使用犯罪の状況
 最近5年間における銃砲使用犯罪の検挙件数の推移は表6-1のとおりで、使用される銃砲の大半がけん銃である。

表6-1 銃砲使用犯罪の検挙件数の推移(平成元~5年)

イ けん銃の押収状況
 最近5年間のけん銃押収丁数の推移は、表6-2のとおりである。

表6-2 けん銃押収丁数の推移(平成元~5年)

 平成5年は、全国一斉特別取締りを実施するなどけん銃摘発を進めた結果、1,672丁(前年比222丁(15.3%)増)を押収し、そのうち暴力団勢力以外の者からの押収が476丁(28.5%)で、丁数、割合ともに前年を上回っており、暴力団勢力以外の者へのけん銃の拡散傾向が依然として続いていることがうかがわれる。
 押収したけん銃に占める真正けん銃の割合は、図6-1のとおりである。押収けん銃の大半が真正けん銃であるが、5年は改造けん銃の割合が18.9%(316丁)で最近5年間で最も高くなっている。これは、モデルガンショップ経営者らによる大量モデルガン改造、密売事件を検挙したことなどにより、改造けん銃の押収丁数が増加したためである。

図6-1 押収けん銃に占める真正けん銃の割合(平成元~5年)

〔事例1〕 1月、中国製トカレフ型けん銃等を暴力団組員等に密売していた暴力団幹部(33)らを銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)違反等で逮捕、けん銃24丁を押収(茨城)
〔事例2〕 1月、借金返済のため、モデルガンの銃身を鉄パイプで補強するなどした改造けん銃を全国のガンマニアに密売していたモデルガンショップ経営者(38)らを銃刀法違反等で逮捕、改造けん銃84丁を押収(広島)
ウ けん銃の密輸入状況
 最近5年間のけん銃密輸入事犯の検挙状況は、表6-3のとおりである。

表6-3 けん銃密輪入事犯の検挙状況(平成元~5年)

 5年に密輸入事件で押収したけん銃は60丁(前年比33丁(122.2%)増)で、押収けん銃全体に占める割合は依然として低い(3.6%)。我が国で不法に所持されているけん銃の大半が真正けん銃であり、そのほとんどが海外で製造されたものであることから、けん銃密輸入の水際での阻止が今後の大きな課題となっている。
〔事例〕 2月、アメリカから航空機でけん銃を密輸入したアメリカ在住の日本人(58)を、銃刀法違反等で逮捕し、けん銃28丁を押収(千葉)
(2) けん銃対策の推進
 市民生活の安全に重大な脅威を与えるけん銃を使用した凶悪犯罪を未然に防止するため、警察では、潜在するけん銃の発見摘発を進めるとともに、関係省庁、機関との連携の強化による密輸けん銃の水際摘発に努めている。また、海空港、交番等にけん銃に関する情報の提供を呼び掛けるポスターを掲示したり、海外旅行者にチラシを配布したりして、けん銃対策に対する国民の理解と協力の確保に努めている。
 また、警察庁では、我が国で押収された外国製けん銃の流入ルートを解明し、海外からのけん銃の密輸入を阻止するため、ICPO、国際会議等を通じて、関係各国間の情報交換及び捜査共助体制の強化を促進している。
(3) 銃砲刀剣類所持等取締法等の改正とその成果
 最近、けん銃等の不法所持事件が急増しており、とりわけ暴力団勢力以外の者によるけん銃等の不法所持事件やけん銃等を使用した凶悪犯罪が多発し、大きな社会問題となっている実情にかんがみ、けん銃等の不法所持の根絶を図るため、平成5年7月15日、けん銃等の所持、輸入及び製造に関する罰則の強化、けん銃等の譲渡し、譲受け等の禁止、けん銃等を不法に所持する者がそのけん銃等を提出して自首した場合の刑の減軽、免除等を内容とする銃砲刀剣類所持等取締法及び武器等製造法の一部を改正する法律(平成5年法律第66号)が施行された。
 5年中、改正後の銃刀法の規定の適用によるけん銃摘発に努め、けん銃等と実包等を共に所持した者に対する加重所持罪を適用して151件を検挙し、けん銃等の譲渡い譲受け罪を適用して2事件を検挙した。また、けん銃等を提出して自首した者44人からけん銃64丁を押収した。

〔事例1〕 暴力団を離脱しようとしていた暴力団員(29)は、改正後の銃刀法によりけん銃を提出して自首すれば刑が減免されるようになったことを知り、7月、けん銃1丁を提出して自首した(北海道)。
〔事例2〕 暴力団幹部(45)は、自宅内にけん銃1丁、自宅前に駐車中の乗用車内に実包1個を所持していた。8月、けん銃と実包の加重所持罪を適用して逮捕(福島)
〔事例3〕 モデルガンショップ経営者(46)らは、モデルガンを改造したけん銃をガンマニアに密売していた。 12月、経営者を営利目的譲渡し罪で逮捕、その従業員2名を営利目的譲渡し罪、けん銃を買い受けたガンマニア(34)を譲受け罪でそれぞれ検挙(警視庁)
(4) 銃砲の適正管理
 平成5年末における都道府県公安委員会の所持許可を受けた銃砲の数は、50万6,767丁である。このうち、猟銃及び空気銃(以下「猟銃等」という。)は46万776丁で、全体の90.9%を占めているが、その数は15年連続して減少している。
 5年の猟銃等による事故の発生件数は52件、死傷者数は53人であった。また、猟銃等を使用した犯罪の検挙件数は22件で、このうち許可を受けた猟銃等を使用したものは7件であった。
 銃砲の所持許可は、銃砲を狩猟、標的射撃、産業、試験、研究等の社会的有用性のある用途に供する者に限って与えられているが、銃砲は人を殺傷する威力を有するものであるので、警察では、銃砲の所持許可を受けた者に対し適正な保管、取扱いについての指導等を行い、銃砲による危害の発生防止に努めている。

2 薬物乱用の現状と対策

 麻薬、覚せい剤等の薬物の乱用は、乱用者個人の生命や身体に害悪を及ぼすばかりでなく、平和な家庭を破壊し、社会秩序を乱すなど、社会生活に量り知れない悪影響を与えるものであり、世界的にも深刻な問題となっている。
 平成5年は、覚せい剤、大麻、ヘロイン、向精神薬のいずれの検挙人員も増加するなど、薬物事犯は増加、多様化の傾向が顕著となっている。また、大麻事犯の拡大、来日外国人による薬物事犯の急増、覚せい剤等薬物に起因する事件・事故の激増、依然として高い暴力団の薬物事犯への関与等が特徴として挙げられる。
 また、販路の拡大を求めて我が国に進出してきている南米のコカイン・カルテルは、暴力団等の主要な密売組織との結び付きを図るなど活発な動きを見せており、我が国の薬物情勢は、予断を許さない状況にある。
 警察では、このような厳しい情勢を踏まえ、供給ルートの遮断と乱用の根絶を重点に総合的な対策を推進している。
(1) 我が国の薬物乱用の現況
ア 覚せい剤事犯
 平成5年の覚せい剤事犯の検挙件数は2万1,342件(前年比489件(2.3%)増)、検挙人員は1万5,252人(190人(1.3%)増)であり、依然として高い水準で推移している。また、5年の覚せい剤の押収量は96.2キログラム(前年比67.5キログラム(41.2%)減)である。過去10年間の覚せい剤事犯の検挙状況は、図6-2のとおりである。

図6-2 覚せい剤事犯の検挙状況(昭和59~平成5年)

(ア) 不正取引に深くかかわる暴力団
 5年に覚せい剤事犯で検挙された暴力団勢力は6,401人で、覚せい剤事犯の総検挙人員の42.0%(前年比2.0ポイント減)を占めている。また、5年中の覚せい剤の大量押収事例(1キログラム以上を一度に押収した事例をいう。)8件、62.4キログラム(総押収量の64.9%)のうち、暴力団の関与したものは6件、11.1キログラム(同11.5%)で、依然として暴力団が覚せい剤の不正取引に深く関与していることがうかがわれる。過去10年間の暴力団による覚せい剤事犯の検挙状況は、図6-3のとおりである。

図6-3 暴力団による覚せい剤事犯の検挙状況(昭和59~平成5年)

〔事例〕 2月、「暴力団がみかん畑に大量の覚せい剤を隠匿している」という情報を入手したことから、警察犬を活用するなどして広範に捜索した結果、土中から覚せい剤4.8キログラムを発見、押収し、暴力団幹部(48)ら2人を検挙(福岡)
(イ) 青少年への浸透が顕著
 5年に覚せい剤事犯で検挙された30歳未満の者は6,997人(前年比299人(4.4%)増)で、覚せい剤事犯の総検挙人員の45.9%(1.4ポイント増)を占めており、青少年への乱用の浸透が一層進んでいることがうかがわれる。特に、学生、生徒の検挙人員は、2年以降増加傾向にあり、5年は135人(前年比23人(20.5%)増)である。
〔事例1〕 覚せい剤の乱用によって顔にゴミが付いているとの幻覚に陥り、顔中をかきむしり、血だらけになってはいかいしていた男子高校生(17)を検挙。さらに、同高校生と一緒に覚せい剤を使用していた、男子高校生2人を逮捕(福島)
〔事例2〕 暴力団から覚せい剤を仕入れ、友人らに密売していた女子高校生(17)ら4人を検挙(神奈川)
(ウ) 覚せい剤の品薄傾向
 5年10月、全国13の都道府県警察において、覚せい剤事犯被疑者の供述等から覚せい剤の密売状況を調査したところ、全国的に覚せい剤が品薄状態となり、密売価格が高騰している状況がうかがわれた。
〔事例1〕 以前は1グラム当たり約10万円であったものが約20万円に値上がりした(北海道)。
〔事例2〕 これまで密売価格が1キログラム200万円前後といわれていたものが500~600万円になっており、弱小組織では購入できなくなってきた(神奈川)。
〔事例3〕 これまで卸売価格が1キログラム約400万円であったものが、最近では800~1,000万円に値上がりした(福岡)。
 また、6年1月に実施した同様の調査では、一部、価格の低下がみられるものの、依然として品薄状態が続いていることがうかがわれた。これは、覚せい剤の密造地である台湾、中国において取締りが著しく強化されていることに加え、5年6月、岡山県警察、警視庁、北海道警察の合同捜査により、台湾から毎月約100キログラムの覚せい剤を密輸入していたルートが摘発、遮断されたことが影響しているものと思われる。
(エ) 密輸入の状況
 我が国で不正に流通している覚せい剤は、そのほとんどが海外から密輸入されたものであるが、5年の大量押収事例8件、62.4キログラム(総押収量の64.9%)を仕出地別にみると、台湾が1件、30.7キログラム(同31.9%)、中国が1件、20.6キログラム(同21.4%)、仕出地不明が6件、11.1キログラム(同11.5%)となっている。
 また、密輸入の手口も鳥餌(えさ)の缶詰内に隠匿したり、覚せい剤を貨物船で密輸し、荷受人が航空機で入国するなど、ますます巧妙化する傾向にある。
〔事例1〕 6月、「台湾からの鳥餌(えさ)の缶詰に隠匿された大量の覚せい剤が北海道旭川に密輸入されている」との情報に基づき、岡山県警察、警視庁、北海道警察による合同捜査を実施し、覚せい剤30.7キログラムを発見、押収するとともに、関連被疑者3人を逮捕した。

〔事例2〕 10月、航空機で我が国に入国すると同時に、貨物船の船員に覚せい剤を密輸入させ、国内で受領していた中国人から覚せい剤20.6キログラムを押収するとともに、関連被疑者3人を逮捕(警視庁)
イ 警戒を要する大麻事犯
 5年の大麻事犯の検挙件数は2,751件(前年比515件(23.0%)増)、検挙人員は1,933人(404人(26.4%)増)である。5年の大麻の押収量は、乾燥大麻が606.9キログラム(前年比374.8キログラム(161.5%)増)、大麻樹脂が29.6キログラム(18.6キログラム(169.1%)増)である。検挙件数、検挙人員、押収量いずれも過去最高を記録し、大麻事犯が一段と拡大していることがうかがわれる。過去10年間の大麻事犯の検挙状況は、図6-4のとおりである。

図6-4 大麻事犯の検挙状況(昭和59~平成5年)

(ア) 少年を中心に乱用が拡大
 5年に大麻事犯で検挙された者のうち、10歳代の検挙人員は247人(前年比36人(17.1%)増)で、元年の約2倍となっている。また、学校の教室内で大麻を密売していた高校生を検挙するなど、少年大麻事犯は増加傾向にある。
〔事例〕 11月、外国人から購入した乾燥大麻に含まれていた大麻種子を空き地で栽培し、乾燥大麻として、学校の教室内で密売していた男子高校生ら6人を検挙(茨城)
(イ) 介入を一段と強める暴力団
 5年に大麻事犯で検挙された暴力団勢力は518人で、前年に比べ152人(41.5%)増加しており、暴力団が覚せい剤に次ぐ資金源として大麻の密売に深く関与している状況がうかがわれる。
(ウ) 密輸入の状況
 5年の密輸入に係る大麻の大量押収事例33件を仕出地別にみると、タイが8件、フィリピンが3件、カンボディア、ベトナム、香港が各1件、その他が19件となっており、依然として東南アジアからの密輸入が主流を占めている。また、密輸手段も体内に飲み込んで持ち込むなど、一層巧妙化している。
〔事例1〕 6月、貨物用の木製パレット内に大量の乾燥大麻を隠匿し、カンボディアから密輸入した事犯について、コントロールド・デリバリーを実施し、タイ人(31)を検挙するとともに、乾燥大麻465.3キログラムを押収(大阪)

〔事例2〕 8月、靴底内に大麻樹脂を隠匿し、フィリピンから密輸入しようとしたイギリス人(44)を検挙。取調べの結果、体内にもビニールで包んだ大麻樹脂を飲み込んでいることを自供、大麻樹脂1.3キログラムを押収(千葉)
(エ) 不正採取、不正栽培事件の多発
 自生大麻の不正採取事犯は、例年北海道を中心に発生しているが、5年は20件(前年比11件(22.2%)増)、32人(21人(190.9%)増)を検挙し、乾燥大麻13.2キログラム(9.3キログラム(239.5%)増)、大麻草35.8キログラム(前年検挙なし)を押収した。自生大麻の不正採取者のほとんどは初犯者で、他の乱用者から教えられ、又は市販されている大麻に関する本を読んで不正採取を行っていた。また、不正栽培事犯では全国で39件、19人を検挙した。
ウ 増加傾向の続く麻薬等事犯
 5年の麻薬等事犯の検挙件数は602件(前年比71件(13.4%)増)、検挙人員は438人(60人(15.9%)増)であり、前年に引き続き向精神薬事犯の検挙人員が増加したほか、あへん事犯の増加も目立っている。最近5年間の麻薬等の種類別押収状況及び過去10年間の麻薬等事犯の検挙状況は、それぞれ表6-4、図6-5のとおりである。

表6-4 麻薬等の種類別押収状況(平成元~5年)

図6-5 麻薬等事犯の検挙状況(昭和59~平成5年)

(ア) コカイン事犯
 5年のコカイン事犯の検挙件数は179件(前年比17件(10.5%)増)、検挙人員は116人(17人(12.8%)減)である。また、コカインの押収量は25.7キログラム(前年比5.7キログラム(18.2%)減)である。検挙人員、押収量は減少したが、コロンビア人の検挙が増加していること、暴力団が本格的に密売に進出していることなどから、引き続き警戒を要する。
 5年にコカイン事犯で検挙された来日外国人は48人(前年比3人増)で、このうち、コロンビア人は29人(9人(40.9%)増)である。また、我が国に密輸入されるコカインの仕出地は、そのほとんどが中南米であり、南米のコカイン・カルテルの国内での密売活動が一層活発化していることがうかがわれる。
〔事例〕 1月、ボーリング用のボール内にコカインを隠匿し、ペルーから密輸入しようとしたコロンビア人(41)を検挙、コカイン7.1キログラムを押収(千葉)

 また、5年にコカイン事犯で検挙された暴力団勢力は31人(前年比9人(40.9%)増)で、全体の26.7%(10.2ポイント増)を占めており、暴力団勢力によるコカインの大量隠匿事犯の検挙が相次ぐなど、暴力団が覚せい剤、大麻に次ぐ資金源としてコカイン密売にも介入している状況がうかがわれる。
〔事例〕 2月、恐喝被疑事件で捜索中の暴力団幹部宅から5.9キログラムのコカインを発見、これを押収するとともに、同人を検挙(静岡)
(イ) ヘロイン事犯
 5年のヘロイン事犯の検挙件数は131件(前年比3件(2.2%)減)、検挙人員は101人(11人(12.2%)増)であり、昭和49年以降19年ぶりに検挙人員が100人を超えた。5年のヘロインの押収量は14.1キログラム(前年比2.0キログラム(16.5%)増)である。5年中のヘロインの大量押収事例は3件、9.6キログラムで、その仕出地はいずれもタイであった。
 これまで、我が国におけるヘロイン事犯の大半は、東南アジアから我が国を中継点として欧米諸国へ密輸しようとするものであったが、5年の大量押収事例のうち2件が日本人による国内での密売を目的としたものであるなど、今後、国内での乱用の拡大が懸念される。
〔事例〕 11月、木製飾り額にヘロインを隠匿し、タイから密輸入を図ったタイ人ブローカー(32)を検挙、ヘロイン5.0キログラムを押収(兵庫)
(ウ) 向精神薬事犯
 5年の向精神薬事犯の検挙件数は101件(前年比11件(12.2%)増)、検挙人員は75人(26人(53.1%)増)であり、鎮静剤10万8,915錠(8万7,476錠(408.0%)増)、興奮剤1,309錠(2,428錠(65.0%)減)を押収した。向精神薬は、近年、乱用が拡大し、検挙人員も毎年増加している。また、向精神薬の盗難事件等も多発しており、5年は、病院、薬局等からの盗難が54件、看護婦を装った詐欺が1件発生した。向精神薬は医療分野で幅広く使用されており、国民がこれに接する機会も増大していること、危険性に関する認識が必ずしも十分浸透していないことから、今後、乱用の拡大が危ぐされる。
〔事例1〕 9月、製薬会社の研究所事務所の高窓がこじ開けられ、キャビネットに保管中の睡眠導入剤(ハルラック)1万6,000錠が盗難に遭った(愛知)。
〔事例2〕 2月、病院の看護婦を装い、薬局に鎮静剤系の向精神薬50アンプルを注文し、病院の玄関前でこれを詐取した詐欺事件が発生した(大分)。
(エ) あへん事犯
 5年のあへん事犯の検挙件数は157件(前年比67件(74.4%)増)、検挙人員は126人(46人(57.5%)増)で、けし(けしがら)6,897本(2,065本(42.7%)増)、生あへん12.8キログラム(1.6キログラム(11.1%)減)を押収した。来日外国人による薬物事犯が増加している中、5年は、特にイラン人によるあへん事犯の増加が著しく、60人(前年比48人(400.0%)増)を検挙した。また、イラン人同士による密売はもとより、日本人への密売事犯も目立った。
〔事例〕 3月、代々木公園内において不審な行動をしていたイラン人(28)を職務質問したところ、生あへん42.8グラムを所持していたことから現行犯逮捕(警視庁)
エ シンナー等有機溶剤の乱用
 5年のシンナー等有機溶剤事犯の検挙人員は1万5,021人(前年比6,062人(28.8%)減)である。このうち乱用者(摂取又は使用目的の所持で検挙された者をいう。)の検挙人員は1万2,401人で、そのうち少年が9,396人で、全体の75.8%を占めている。
 また、シンナー等有機溶剤の乱用から覚せい剤、コカイン等他の薬物

表6-5 シンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員の推移(平成元~5年)

へ移行するケースも多く、シンナー等有機溶剤が薬物乱用への入り口となっている状況がうかがわれる。最近5年間のシンナー等有機溶剤乱用者の検挙人員の推移は、表6-5のとおりである。
オ 薬物乱用に起因する事件、事故
 覚せい剤、コカイン等の習慣性薬物は、幻覚、妄想等の精神障害をもたらすとともに、使用をやめた後も、少量の再使用や疲労をきっかけに乱用時と同様の精神障害を突然起こすことがあり(フラッシュバック現象)、悲惨な事件、事故を引き起こすことが少なくない。
 5年の習慣性薬物の乱用に起因する事件、事故の発生状況は表6-6のとおりで、殺人、放火、強盗及び強姦の凶悪犯罪が21件、暴行及び傷害が24件、購入代金欲しさ等による窃盗が201件、乱用による中毒死及び自殺が53人である。5年は、特に、覚せい剤の乱用に起因する事件、事

表6-6 習慣性薬物に係る事件、事故の発生状況(平成5年)

故の発生が267件で、前年に比べ60件(30.0%)大幅に増加した。
〔事例1〕 8月、覚せい剤常用者である無職の男(27)は、新幹線「のぞみ号」の車内において、乗り合わせた会社員の胸をナイフで刺して死亡させ、さらに、同人を検挙しようとした警察官にも重傷を負わせた(静岡)。
〔事例2〕 4月、覚せい剤常用者である無職の男(27)は、覚せい剤の常用により精神錯乱状態に陥り、意味不明の言葉を発しながら、全裸で水深約2.5メートルの川に飛び込み溺死した(福岡)。
(2) 世界の薬物情勢
 薬物乱用及びこれに関連する問題は、世界のほとんどの国や地域で悪化の一途をたどっており、コカイン、ヘロイン、大麻、覚せい剤等の薬物は依然として多くの国で乱用されている。また、薬物密売による莫大な利益を背景に、薬物密売組織が、国家の政治、経済に悪影響を及ぼしている国もみられる。世界の主な薬物別の情勢は、次のとおりである。
ア コカイン
 コカインは、南米を原産地とするコカ葉から作られる薬物で、強力かつ速効性のある神経興奮剤である。主要密造国の一つであるコロンビアには巨大な薬物密売組織(いわゆるコカイン・カルテル)があり、国際的なコカイン市場の多くを独占している。これらのコカイン・カルテルは新たな市場を求めて、我が国を含めた世界各国に進出を図っており、アルゼンチン、ブラジル、チリは、コカイン・カルテルの重要な中継地となりつつある。
イ ヘロイン
 ヘロインの原料となるけしの主な不正栽培地は、タイ、ミャンマー及びラオスにまたがる「黄金の三角地帯」、アフガニスタン、パキスタン及びイランにまたがる「黄金の三日月地帯」並びにメキシコの三地域である。これらの地域に点在する密造工場では、武装集団による保護の下で、組織的にヘロインが密造されており、世界の麻薬市場へ密輸されている。
ウ 大麻
 乾燥大麻や大麻樹脂の原料となる大麻草は、繁殖力の強い植物で、世界の広い地域で自生している。また、米国やオランダでは大麻の室内栽培が流行しており、家庭のクロゼットの中で栽培する小規模なものから、地下壕で栽培する大規模なものまで広く行われている。
エ 覚せい剤
 覚せい剤は、ヨーロッパでは、主にオランダ、ポーランドで密造されている。また、主要な消費国は北欧三国とイギリスであるが、最近では東欧諸国でも消費されるようになってきている。米国では、国内で密造された覚せい剤が、西海岸を中心に主要な都市で乱用されており、今後、更に乱用が拡大するおそれがある。東南アジアでは、台湾、中国で密造された覚せい剤が直接又は他の国や地域を経由して日本、フィリピン、韓国等に密輸されているケースが多く、台湾、フィリピン、タイ等で覚せい剤の密造、密売事案が増加し、その乱用も拡大している。
(3) 総合的な薬物乱用防止対策の推進
 警察では、薬物対策を平穏な社会生活や治安の根幹にかかわる重要な課題ととらえ、薬物の供給ルートの遮断と乱用の根絶を主な柱に、総合的な対策を推進している。
ア 供給ルートの遮断
 我が国で乱用される薬物のほとんどは海外から密輸入されるものであることから、警察では、これを水際で阻止するため、税関、入国管理局等の関係機関と緊密に連携して、密輸入関係者の発見と動向監視に努めているほか、薬物の生産国や密輸入中継国の取締り当局等との連携を強化し、薬物の供給源や供給ルートの解明、壊滅に努めている。また、捜査体制や装備資機材の整備を図るとともに、コントロールド・デリバリー等の効果的な捜査手法を積極的に活用することにより、薬物の密輸、密売に深く関与する暴力団等の薬物犯罪組織に対する徹底した取締りを行っている。平成5年には17件のコントロールド・デリバリーを実施し、これらの組織の壊滅に努めた。
〔事例〕 3月、コンパクトケースや口紅等の化粧品にコカインを隠匿し国際郵便小包としてコロンビアから密輸入した事犯について、コントロールド・デリバリーを実施し、コロンビア人女性(23)を逮捕するとともにコカイン133.2グラムを押収した。(宮城、警視庁)
 また、薬物の密売により得られるばくだいな不法収益が、犯罪の誘因となり、かつ、暴力団等の主要な活動資金にもなっているという状況を踏まえ、マネー・ローンダリング罪の積極的な適用等により、資金面からの取締りに努めるとともに、関係機関と協力して、不法収益対策を推進している。
〔事例〕 4年11月、覚せい剤の密売を行っていた暴力団員を検挙。その後の捜査で、覚せい剤密売の売上げ金700万円を市内の銀行に仮名口座で預金していることが判明。5年3月、全国で初めて国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例に関する法律(麻薬特例法)第9条(不正収益等隠匿)違反で起訴。その後、売上げ金没収の判決が確定した(岐阜)。
イ 乱用の根絶
 警察では、薬物乱用の根絶を図るため、末端乱用者の検挙を徹底するとともに、乱用がもたらす様々な害悪についての広報啓発活動を活発に展開し、薬物問題に関する国民の理解を高めるなど、薬物乱用を拒絶する社会環境づくりに努めている。5年には、啓発用資料「ザ・ドラッグ」を14万部作成し、全国の職場、学校等に配布したほか、関係機関、団体と連携し、乱用問題解決のための方策について、有識者、実務家等によるシンポジウムを開催した。また、薬物乱用相談、再乱用防止のための指導等にも積極的に取り組んでいる。
ウ 国際協力の推進
 薬物の不正取引は、国際的な薬物犯罪組織により国境を越えて敢行されており、一国のみでは解決することができないことから、警察では、各種国際会議等における情報交換や関係国との捜査員の相互派遣等による国際捜査協力の推進を図っている。また、生産国等における薬物問題への取組みを支援することを目的として、セミナーの開催、途上国への技術援助を行っている。

3 風俗営業の健全化と風俗環境の浄化

(1) 風俗営業の健全化
 警察では、風営適正化法等に基づき、風俗営業に対して必要な規制を加えるとともに、風俗営業者の自主的な健全化のための活動を支援し、業務の適正化を図っている。
ア 風俗営業の状況
 最近5年間の料飲関係営業等(風営適正化法第2条第1項第1号~第6号)の営業所数の推移は、表6-7のとおりである。また、遊技場営業(風営適正化法第2条第1項第7号、第8号)の営業所数の推移は、表6-8のとおりである。

表6-7 風俗営業(料飲関係営業等)の営業所数の推移(平成元~5年)

表6-8 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(平成元~5年)

 ぱちんこ屋の営業所数は、毎年500軒前後の増加を続けていたが、平成5年の営業所数は1万7,242軒で、279軒(1.6%)の増加にとどまった。また、風営適正化法第2条第1項第8号の許可を受けたゲームセンター等についてみると、5年の1営業所当たりの遊技設備の平均設置台数は昭和60年の約1.5倍、100台を超える遊技設備を設置している平成5年の営業所数は昭和60年の約3倍であるなど、ゲームセンター等の大型化の傾向がみられる。
イ 風俗営業の健全化に向けた施策の推進
(ア) 風俗営業からの暴力団排除
 ぱちんこ営業等の風俗営業に対しては、その営業の健全化を阻害する大きな要因である暴力団の関与が依然としてみられるが、暴力団対策法施行後、風俗営業者の間でも暴力団排除機運が盛り上がりをみせており、暴力団排除総決起大会、暴力団撃退研修会等の開催、みかじめ料支払拒否運動等の暴力団排除活動が活発に展開されるようになってきている。警察では、暴力団が関与する事件の取締りを推進するとともに、風俗営業者の自主的な暴力団排除活動を積極的に支援している。
〔事例1〕 みかじめ料に代えて出玉が極端に多くなるように不法に改造した遊技機を暴力団員に優先的に使用させるなどしていたぱちんこ屋4軒、暴力団幹部が無許可で営業していたまあじゃん屋及びスナック店を風営適正化法違反で摘発したほか、暴力団関係者等が関与するキャバレー等3軒を売春防止法違反で摘発(富山)
〔事例2〕 長崎県遊技業組合は、警察の支援を受けて「遊技業暴力排除総決起大会」を開催し、県下のぱちんこ屋の経営者、従業員等約800名が参加した。
(イ) ぱちんこ営業の健全化
 ぱちんこ営業については、国民に身近な娯楽を提供する産業として急速に成長する一方、営業所数の増加に伴い、営業者同士が出玉競争に走るあまり、著しく客の射幸心をそそるおそれのある遊技機を使用した違法な営業が増加しているほか、依然として暴力団の関与がみられるなど健全化を阻害する要因を抱えている。このため、警察では、遊技機の違法改造事犯等の取締りを推進するとともに、関係団体による自主的な健全化のための活動を支援するなど、ぱちんこ営業の健全化を図っている。
〔事例〕 遊技機を不法に改造した上、事務所のコンピュータで客の反応を見ながら出玉を操作していたぱちんこ営業者(49)と遊技機の違法な改造を行った改造ブローカー(49)を風営適正化法違反で逮捕するとともに、ぱちんこ営業者の営業許可を取り消した(北海道)。
(ウ) 管理者講習の実施
 警察では、風俗営業の営業所ごとに選任された管理者を対象とした管理者講習を実施しており、その中で、風営適正化法に規定する遵守事項等のほか、暴力団からみかじめ料等を要求された場合の対応要領等についても指導を行っている。管理者講習の最近5年間の実施状況は、表6-9のとおりである。

表6-9 管理者講習の実施状況(平成元~5年)

(2) 深夜飲食店営業の状況
 最近5年間の深夜飲食店営業の営業所数の推移は、表6-10のとおりである。

表6-10 深夜飲食店営業の営業所数の推移(平成元~5年)

(3) 風俗関連営業の状況
 最近5年間の風俗関連営業の営業所数の推移は表6-11のとおりで、昭和59年以降漸減傾向にある。平成5年の風俗関連営業の違反態様別検

表6-11 風俗関連営業の営業所数の推移(平成元~5年)

図6-6 風俗関連営業の違反態様別検挙状況(平成5年)

挙状況は図6-6のとおりで、風俗関連営業の検挙総数314件の62.1%を売春防止法違反が占めている。
 また、風俗関連営業とされていないデートクラブ、テレホンクラブ等の性風俗に関する営業の営業所数は漸減傾向にある。警察の把握する最近5年間のテレホンクラブの営業所数の推移は表6-12のとおりである。

表6-12 テレホンクラブの営業所数の推移(平成元~5年)

(4) 売春事犯等及び猥褻(わいせつ)事犯の現況
ア 売春事犯等
 平成5年の売春防止法違反の検挙件数は5,093件で、最近5年間の検挙状況は、表6-13のとおりである。これらの売春事犯の総検挙人員に占める暴力団勢力の割合は16.7%(297人)であり、売春事犯が暴力団の資金源となっていることがうかがわれる。最近の売春事犯は、公衆電話ボックス等にいわゆるピンクビラをはり付け、客との連絡に携帯電話や転送電話を利用して売春をあっせんするなどのいわゆる派遣型が主流を占めているが、悪質な飲食店経営者等が外国人女性に売春を強要する事犯、テレホンクラブ等を利用した少女が被害者となる売春事犯等も目立ってきている。
〔事例1〕 4月、ピンクビラを見て電話してきた客に家出少女等を紹介し、売春させていたデートクラブ経営者(26)ら6人を売春防止法違反等で検挙するとともに、ピンクビラの印刷業者を同幇助で検挙し、少女6人を保護(岡山)

表6-13 売春防止法違反の検挙状況(平成元~5年)

〔事例2〕 8月、配下の組員等が店長をするスナック等3店舗でタイ人女性に売春を強要し、約2年間で約1億円以上の不法利益を得ていた暴力団組長(36)ら4人を売春防止法違反等で検挙するとともに、稼働中のタイ人女性24人を入管法違反、あっせんブローカー1人を職業安定法違反で検挙(千葉)
イ 猥褻(わいせつ)事犯
 5年の猥褻(わいせつ)事犯の検挙件数は1,452件で、最近5年間の検挙状況は、表6-14のとおりである。猥褻(わいせつ)物頒布等では、猥褻(わいせつ)ビデオテープを販売する事犯が依然としてその主流を占めている。5年には、猥褻(わいせつ)な画像情報を記憶させたCD-ROMを販売するという新しい形態の事犯もみられた。
〔事例1〕 5月、宅急便を利用して、全国各地の約2万人に猥褻(わいせつ)ピデオテーブ約2万6,000巻を販売し、約9箇月間で約4億2,000万円の不

表6-14 猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況(平成元~5年)

法利益を得ていた販売業者(36)ら5人を猥褻(わいせつ)図画販売目的所持等で逮捕するとともに、猥褻(わいせつ)ビデオテープ約9,000巻を押収(神奈川県)
〔事例2〕 6月、猥褻(わいせつ)な画像情報を記憶したCD-ROMを販売していたコンピュータ・ソフト販売業者(41)ら3人を猥褻図画販売目的所持等で検挙、CD-ROM67枚を押収(警視庁)
(5) その他の風俗関係事犯の現況
ア ゲーム機使用賭博(とばく)事犯
 平成5年のゲーム機を使用した賭博(とばく)事犯の検挙件数は274件、検挙人員は1,919人、検挙営業所数は274軒であり、ゲーム機の押収台数は2,503台、押収賭(かけ)金は約1億6,200万円に上っている。最近5年間の検挙状況は、

表6-15 ゲーム機使用による賭博(とばく)事犯の検挙状況(平成元~5年)

6-15のとおりである。これら事犯の中には、暴力団が関与してその活動資金としている事例もみられることから、警察では、引き続き強力な取締りを推進している。
〔事例1〕 6月、妻の経営する飲食店にゲーム機を設置し、客に賭博(とばく)をさせ、約5年間で約1億5,000万円を得ていた暴力団幹部(55)を逮捕(宮崎)
〔事例2〕 約2箇月間にわたるゲーム機使用賭博(とばく)事犯の集中的な取締りの結果、ゲーム機等を設置し、客等に賭博(とばく)をさせていた喫茶店等22箇所を摘発し、経営者、従業員及び客ら144人を検挙、ゲーム機等280台及び賭(かけ)金約1,900万円を押収(神奈川)
イ ノミ行為事犯等
 競馬、競輪等の公営競技をめぐるノミ行為事犯の最近5年間の検挙状況は、表6-16のとおりである。ノミ行為事犯のほとんどが競技場の外で行われており、ノミの受付に転送電話を使用したり、受付場所を転々とするなど悪質、巧妙化している。総検挙件数の8割以上に暴力団が関与しており、暴力団の有力な資金源となっていることがうかがわれる。

表6-16 ノミ行為事犯の検挙状況(平成元~5年)

〔事例1〕 山口組系暴力団幹部(28)らは、喫茶店等7箇所を拠点として、ノミ行為を行い、約7年間で約1億4,000万円を不法に得ていた。5月までに、暴力団幹部等の暴力団組員3人を含む胴元9人、ノミ客61人を競馬法違反等で検挙(愛知)
〔事例2〕 10月、競輪の電話投票に加入していることを利用して、約50人の客から委託を受け車券を購入し、約6箇月間で約200万円の利益を得ていた無職の男性(60)を自転車競技法違反で逮捕(富山)
(6) 風俗環境の浄化活動
(ア) 風俗環境浄化協会の活動
 風俗環境浄化協会は、風俗環境に関する苦情の処理、風営適正化法に違反する行為を防止するための啓発活動、少年指導委員の活動に対する援助等を行っている。
(イ) 地域住民と連携した風俗環境浄化活動
 盛り場等の風俗環境の悪化に対して、警察では、悪質な風俗関係事犯の積極的な取締りを推進するとともに、地域住民や関係団体と協力して風俗環境の浄化に努めている。
〔事例〕 宮城県仙台市国分町周辺において、売春を助長するピンクビラが著しく街の美観を乱していたため、地域住民、防犯協会等と連携して「’93杜の都仙台・風俗環境クリーン作戦」を展開した(宮城)。

4 危険物対策の推進

(1) 火薬類対策の推進
 平成5年の猟銃用火薬類等(専ら猟銃、けん銃等に使用される実包、銃用雷管、無煙火薬等)の譲渡、譲受け等の許可件数は9万4,578件であった。また、5年の火薬類の盗難事件の発生件数は27件、実包を除く火薬類(ダイナマイト等)を使用した犯罪の発生件数は10件であった。
 警察では、火薬類取締法に基づき、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等に対して立入検査を実施し、火薬類の保管方法等についての指導取締りを行っている。
(2) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 平成5年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が485件発生し、死傷者は462人に上った。
 警察では、高圧ガス、石油類等による事故を防止するため、関係機関との連携の下に取締りを行っており、5年には、高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反により308件、353人を検挙した。
(3) 放射性物質の安全対策の推進
 平成5年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質の運搬届出件数は、核燃料物質等に係るものが1,204件、放射性同位元素等に係るものが392件であった。核燃料物質等を運搬するためには、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律により、都道府県公安委員会から運搬証明書の交付を受け、運搬中はこれを携帯し、かつ、これに記載された内容に従って運搬しなければならないこととされている。また、放射性同位元素等を運搬するためには、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律により、都道府県公安委員会に届け出て、その届出内容に従って運搬しなければならないこととされている。
 警察では、核燃料物質等の使用者等に対し事前指導を行うなど、核燃料物質等の運搬の安全確保に努めている。

5 悪質商法の現況と経済事犯の取締り

(1) 悪質商法の現況と取締り
 従来からの訪問販売等による各種悪質商法に加え、人の弱みに付け込んで祈とう師等が金銭を脅し取る霊視商法が出現する一方で、依然として若者をねらったマルチ商法が多発している。これら悪質商法は、特異な手法や新たな形態をとり、ますます悪質、巧妙化している。
 平成5年中の悪質商法の検挙状況は、事件数は118事件、人員は351人、被害者数は約22万7,500人、被害額は約505億円に上っている。
 警察では、これら悪質商法による消費者被害を防止するため、関係機関との連携を強化し、相談・啓発活動を行うとともに、強力な取締りを推進している。
ア マルチ商法をめぐる事犯
 架空のもうけ話をえさに次々と新規の販売員を増やしていくマルチ商法は、商取引に不慣れな若者を中心に被害が全国に広がっており、多数の苦情や相談が寄せられている。
 5年のマルチ商法をめぐる事犯の検挙状況は、事件数は8事件、人員は42人、被害者数は約16万人、被害額は約295億円に上った。検挙した事例では、商取引に疎い若者を対象に、「商品を買って会員になれば、友人、知人を会に紹介するだけでマージンが入り、高収入が得られる。海外旅行に行くことも、好きな車をすぐに買うこともできる。」などと言って不必要な高額商品を購入させ、販売のあっせんをする者を勧誘する「あっせん方式」の事犯が大半を占めたが、商品を買い受けてそれを更に販売する者を勧誘する「再販売方式」の事犯も2事件検挙した。
〔事例〕 浴用気泡器等の販売会社の社長(29)らは、20歳代前半の若者を対象に連鎖販売取引の勧誘を行うに当たり、「これはマルチ商法ではない。入会すれば必ずもうかる。月7桁(100万円)は堅い。」などと事実と異なることを告げたほか、契約内容を明らかにする書面等を交付せず、43都道府県の約4,500人に総額約11億円の浴用気泡器等を販売していた。7月までに、訪問販売法違反で、逮捕4人を含む19人を検挙(警視庁)
イ 預り金をめぐる事犯
 預り金をめぐる事犯は、これまで貸金業者等の資金確保を目的とした小規模な事犯が大半を占めていたが、最近の事犯は、会社を設立し、有名紙(誌)に大々的に広告を掲載し、安全性や確実性を強調して多額の金をだまし取るなど組織化、大規模化している。
〔事例〕 海外投資コンサルタント会社社長(47)らは、オーストラリア国債等の運用金名下に、約500人から約70億8,000万円をだまし取り、不動産購入やイベントへの出資、会社運営費等に充てていた。9月までに、詐欺で3人を逮捕(警視庁)
ウ 原野商法をめぐる事犯
 5年の原野商法をめぐる事犯の検挙状況は、事件数は2事件、人員は35人、被害者数は約420人、被害額は約8億円に上った。
〔事例〕 原野商法詐欺事件で摘発された会社に勤務しその詐欺手口を熟知した無職の男(38)らは、以前に原野商法により二束三文の土地を購入しその処分に窮している土地所有者を対象に、「あなたの土地は高値で売れますが、転売するには測量しなければなりません。測量代金を出してほしい。」などと言って、16都府県の被害者約100人から、総額約3億1,000万円をだまし取っていた。5月までに、詐欺で逮捕3人を含む5人を検挙(愛知)
エ その他の悪質商法をめぐる事犯
 その他の悪質商法をめぐる事犯では、主婦や高齢者等を対象に強引な方法で契約を締結する「押し付け商法」、屋根瓦修理や白蟻駆除等に関する「工事商法」、官公庁等の職員を装って商品を販売する「かたり商法」等が多くみられた。
 また、人の悩み等に付け込んで祈とう料等をだまし又は脅し取る「霊視商法」、デート等を口実に営業所に誘い出し高額商品を強引に販売する「デート商法」等悪質な事犯が目立った。
〔事例1〕 自称宗教団体教祖の祈とう師(53)は、心配ごと、悩みごとを霊能力によって解決できるなどとだまして相談者を募集し、「先祖霊がついているため災いが起きる。」などと脅し、除霊料名下に約80人から総額約4億円を取っていた。1月、詐欺、恐喝で1人を逮捕(徳島)
〔事例2〕 貴金属販売会社役員(31)らは、女性従業員に男性宅に電話をかけさせ、デートに誘うと思わせ言葉巧みに営業所に誘い出し、暴行、脅迫を加え、1個40万円以上するダイヤモンドの売買契約を締結させるなどして総額約16億円の売上げを挙げていた。12月までに、恐喝、訪問販売法違反等で7人を逮捕(大阪)
(2) 消費者被害防止のための諸施策の推進
ア 消費者相談と啓発活動
 各都道府県警察の「悪質商法110番」等の消費者相談窓口には、多数の悪質商法に関する苦情、相談が寄せられている。
 警察では、消費者相談を基に国民が困っている事案、迷惑している事案に対する重点的な取締りを実施して多数の事件を検挙した。
 また、警察では、悪質商法による被害の未然防止、拡大防止を図るため、防犯協会、消費者行政担当機関等と連携して、消費者に対する広報啓発活動を積極的に推進した。全国の警察で消費者に配布したパンフレット、チラシ等の広報啓発資料は約511万部に達した。
イ 関係機関、団体等との連携強化
 警察では、消費者被害の未然防止、拡大防止のため、各地方公共団体の消費者行政担当課、消費生活センター等と悪質商法に係る連絡会議、研修会等を開催するなど連携の強化を図った。
 警察では、こうした関係機関、団体等との連携を通じて得た情報を基に積極的な取締りを推進して多数の事件を検挙した。
(3) 不動産取引をめぐる事犯の取締り
 平成5年の不動産取引をめぐる事犯の検挙件数は281件、検挙人員は331人であり、主な検挙法令は、宅地建物取引業法違反、建築基準法違反であった。検挙した事例では、地価や土地利用目的に関する規制を免れるため必要な届出をしない事犯、無免許で長期にわたり多数の顧客と宅地建物取引を行っていた事犯が目立った。
〔事例〕 建設会社等の経営者(51)らは、高価格で農地を転売し暴利を得ようと企て、国土利用計画法上届出の必要な農地を二分割して届出不要な土地取引を装い売買契約を締結した。4月までに、国土利用計画法違反で、逮捕4人を含む8法人14人を検挙(兵庫)
(4) 国際経済関係事犯の取締り
 平成5年の外国為替及び外国貿易管理法(外為法)違反の検挙件数は26件、検挙人員は26人、関税法違反の検挙件数は44検挙人員は17人であった。
(5) 金融関係事犯の取締り
 バブル経済の崩壊等による長期不況等を背景として、平成5年の金融関係事犯の検挙件数は500件で、前年に比べ106件(26.9%)増加した。最近5年間の金融関係法令違反の法令別検挙状況は、表6-17のとおりである。違反形態としては、無登録貸金業、高金利貸付けが全体の約7割を占めており、暴力団等の関与する悪質業者が、資金繰りに苦しむ中小企業経営者や商店主に高利で貸し付け、倒産に追い込むという事犯が目立った。
 また、暴力団の資金源の枯渇をねらった取締りを推進した結果、暴力団の介在する事件の検挙件数は236件で、前年に比べ87件(58.4%)増加した。

表6-17 金融関係法令違反の法令別検挙状況(平成元~5年)

〔事例〕 山口組の傘下組織の元幹部(48)らは、新たに組織を結成し、組織拡大のため、東京、大阪等9都府県の中小企業経営者等に対し、約4億7,000万円を高利で貸し付けるなどしていた。11月までに、同幹部及び配下組員3人を出資法違反等で逮捕(大分)

6 知的所有権保護対策の推進

(1) 知的所有権侵害事犯の取締り
 警察では、知的所有権(知的財産権)保護の必要性が国際的に一段と高まっていることから、知的所有権侵害事犯の取締りを重点に掲げるとともに、国内における不正商品の流通情報を総合的に収集している不正商品対策協議会(権利者団体10団体で構成する民間団体)等の関係団体との連携を図り、悪質業者の早期検挙に努めている。
 平成5年の知的所有権関係法令違反の検挙件数は895件、検挙人員は428人であり、最近5年間の法令別検挙状況は、表6-18のとおりである。

表6-18 知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況(平成元~5年)

ア 海賊版事犯
 海賊版事犯としては、関東圏においてのみ放映されるテレビ番組を録画、複製した海賊版ビデオを全国の大学生等に通信販売していたもの、海賊版コンピュータ・ソフトをパソコンネットワークを通じて会員に通信販売していたもの、女優の写真集をスキャナーでフロッピーディスクに取り込み、そのフロッピーディスクを販売していたものなどがあり、手口が多様化している。
〔事例〕 コンピュータ・ソフト販売業者(43)らは、無許諾でコンピュータ・ソフト約2万枚を複製し、パソコン通信で全国に販売して1,000万円以上の売上げを得ていた。4月までに、著作権法違反で2人を逮捕、海賊版コンピュータ・ソフト約6,000枚を押収(愛知)
イ 偽ブランド商品事犯
 偽ブランド商品事犯としては、有名ブランドのかばん、袋物等の偽商品を海外から輸入し販売する事犯がほとんどを占めている。また、暴力団員等が偽商品を露店販売していたもの、外国人が偽商品を貨物船に積み込み、日本国内に密輸入したもの、外国人が地方都市で露店販売していたものなども検挙されている。
〔事例〕 イスラエル人販売業者(26)らは、大分市内の繁華街で露店を出し、外国有名ブランドの偽バック等を販売して300万円以上の売上げを得ていた。10月までに、商標法違反等で7人を逮捕、偽バック、アクセサリー等約4,000点を押収(大分)
(2) 知的所有権保護のための広報啓発活動
 警察では、検挙した事件の適時適切な広報等により、我が国における知的所有権侵害の実態、知的所有権保護の重要性を訴えた。また、不正商品対策協議会と協力して「不正商品防止フェア」を横浜市(5月)、名古屋市(11月)で実施したり、パンフレット「不正商品Q&A」を作成、配布したりするなど、積極的な広報啓発活動を展開した。また、都道府県では全国で初めて「京都不正商品対策協議会」が発足した。

7 環境事犯の取締り

 警察では、市民の健康を保護するとともに生活環境の保全を図るため、悪質な産業廃棄物の不法処分事犯や水質汚濁事犯に重点を置いた取締りを行っている。最近5年間における環境事犯の法令別検挙状況は、表6

表6-19 環境事犯の法令別検挙状況(平成元~5年)

-19のとおりである。
(1) 廃棄物事犯
 平成5年の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)違反の検挙件数は1,976件であり、これを態様別にみると、廃棄物をみだりに捨てる不法投棄事犯が依然として多く、全体の70.0%を占めている。
 産業廃棄物事犯の検挙件数は、最近5年間で最高の899件であり、大都市圏で排出された産業廃棄物を都道府県境を越えて運び、山林等で不法処分する事犯が目立っている。また、検挙した産業廃棄物事犯に係る不法処分された産業廃棄物の総量は約145万トンに上るものとみられ、その種類別、場所別状況は、図6-7のとおりである。

図6-7 不法処分された産業廃棄物の種類別、場所別状況(平成5年)

〔事例〕 暴力団幹部(46)らは、注射器、建設廃材等を収集して不法処分し、これを隠蔽するため、廃棄物を適正に処分した旨のマニフェスト(管理票)を偽造していた。3月までに、有印私文書偽造等及び廃棄物処理法違反で逮捕3人を含む1法人5人を検挙(大阪、和歌山)  また、警察では、産業廃棄物の処理をめぐる問題が深刻化していることから、産業廃棄物の不適正処理、不法投棄等を防止し、これらの事犯に対する迅速的確な対応を推進するため、12月、産業廃棄物不法処理防止連絡協議会を設置し、関係機関、団体との連携を図っている。
(2) 水質汚濁事犯
 平成5年の水質汚濁事犯の検挙件数は29件であった。このうち、工場等が水質汚濁防止法等に基づいて定められている基準に違反して汚水等を排出する事犯の検挙は13件であった。
〔事例〕 水産食品製造会社工場長(45)は、過去に水質汚濁防止法違反で摘発を受け、その後も再三にわたる行政指導を受けながら、これを無視して操業し、基準の約23倍の生物化学的酸素要求量(BOD)等を含有する汚水を未処理のまま公共用水路にたれ流していた。7月までに、水質汚濁防止法違反で1法人1人を検挙(滋賀)

8 古物営業等の健全育成

(1) 古物営業、質屋の健全育成
 古物営業法、質屋営業法により都道府県公安委員会から許可を受けている古物商、質屋等の数の推移は表6-20のとおりで、古物商は漸増し、質屋は漸減している。
 平成5年に古物商、質屋等が盗品等を発見することなどにより、被害者に被害品を返還できた件数は、古物商が件、質屋が件であり、これらの業者の協力によって犯人を検挙した事例も数多くみられた。古物商、質屋等は、業務を通じて盗品等を発見する機会が多く、民間における防犯システムの一環として重要な役割を果たしていることから、警察

表6-20 許可を受けている古物商、質屋等の数の推移(平成元~5年)

では、全国古物商組合防犯協力会連合会、全国質屋防犯協力会連合会等の関係団体と緊密な連携を保ちつつ、その指導、健全育成に努めている。
(2) 調査業の健全化
 探偵社、興信所等の調査業については、違法な方法による調査を常習とする業者、暴力団が経営に関与している業者、料金トラブルを多発させる業者等の悪質な業者による不適正な営業活動が後を絶たない。警察では、悪質な調査業者の取締りに努めるとともに、関係団体に対して、営業活動の健全化に向けた自主的な活動を推進するよう働き掛けている。これを受けて、(社)日本調査業協会では、秘密の保持等を定めた業務倫理網領を制定して、協会加盟員に対しその徹底を図るとともに、顧客からの苦情処理等営業活動の適正化に向けた各種の活動を行っている。


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