第4章 暴力団対策の推進

 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」という。)施行後、警察による暴力団犯罪の取締りの徹底、国民の暴力団排除気運の高揚等により、暴力団組織の解散、壊滅、構成員の組織離脱傾向の顕在化等組織の動揺がうかがわれる一方、暴力団の壊滅を求める国民の警察に対する期待はかつてないほどの高まりをみせている。
 このような暴力団をめぐる現在の情勢は、暴力団組織の弱体化を図る上で絶好の機会であることから、警察では、強力かつ集中的な取締りを推進するとともに、暴力団対策法の確実かつ効果的な運用と暴力団排除活動の多面的な展開を図っている。

1 暴力団情勢

(1) 暴力団勢力の状況
 暴力団勢力(注)は約8万6,700人で、前年に比べほぼ横ばいであるが、暴力団の構成員は約5万2,900人で、前年に比べ約3,700人(6.5%)減少した。また、山口組、稲川会及び住吉会の3団体(以下「重点対象3団体」という。)の構成員は約3万4,600人で、前年に比べ約2,500人(6.7%)減少した。
(注) 暴力団勢力とは、暴力団の構成員及び準構成員(構成員ではないが、暴力団と関係をもちながら、その組織の威力を背景として暴力的不法行為等を行う者、又は暴力団に資金や武器を供給するなどして、その組織の維持、運営に協力若しくは関与する者)をいう。
(2) 組織の解散、壊滅の状況
 平成5年中の組織の解散、壊滅は222組織(構成員数2,604人)であり、このうち、重点対象3団体の傘下組織の解散は136組織(構成員数1,616人)で、全組織の61.3%(全構成員数の62.1%)を占めている。また、暴力団組織の解散、壊滅の推移をみると、暴力団対策法成立前の2年が80組織(構成員数1,131人)、同法が成立した3年が131組織(構成員数1,430人)、施行後の4年が158組織(構成員数2,051人)であり、暴力団の解散、壊滅が増加している状況がうかがわれる。
〔事例1〕 山口組の傘下の平澤組は、警察の相次ぐ取締りにより構成員等を大量に検挙され、組織が弱体化した上、不況等により組長が実質的に経営する建設会社が倒産し、資金が枯渇したため、組織運営ができなくなった。11月、組長の引退に伴い解散(大阪)
〔事例2〕 稲川会の傘下の三代目渋沢一家は、警察の相次ぐ取締りにより、賭博(とばく)、ノミ行為等の活動が困難になったため、新たな資金源として覚せい剤の密売を始めたが、組長が覚せい剤取締法違反で逮捕され、さらに、警察の取締りが一層強化されたことから、同組長が解散を表明し、組員も離散した。9月解散(神奈川)
(3) 暴力団員の組織離脱傾向
 暴力団対策法の施行後、警察及び都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)が、相談活動等を通じて、暴力団から離脱する意志を有することを認知し、又は離脱するように説得し、かつ、その者に対する援護の措置等を行うことにより暴力団から離脱させた暴力団員は1,410人(平成4年3月~5年12月)に上るほか、5年中に発出した中止命令のうち、暴力団からの脱退妨害等に係るものが263件に上るなど、暴力団員の組織からの離脱傾向がうかがわれる。
(4) 暴力団活動の国際化
 近年、暴力団は、銃器、覚せい剤等の調達、不動産投資等の資金獲得活動等を目的として海外に進出する一方、外国人の不法入国を手引きするブローカーとして暗躍し、外国人女性を売春婦等として、外国人男性を工事現場等における労働者等としてあっせんし、その労賃をピンハネすることにより資金を獲得するなど、その活動を国際化させている。平成5年中においては、暴力団が中国人の集団密航に介在し、これを新たな資金源としている実態が明らかになったほか、暴力団が関与している企業による外国為替及び外国貿易管理法違反事件等もみられた。
〔事例1〕 4月、山口組の傘下組織の組長(44)、稲川会の暴力団員(40)らは、中国人らと共謀し、東シナ海洋上において、有効な旅券等を所持していない中国人145人を、船名不詳の船舶から日本船籍の漁船に乗船させ、鹿児島県阿久根新港沖合に至らせ、日本への不法入国を幇助した。4月検挙(鹿児島、長崎、熊本)
〔事例2〕 2年10月、暴力団フロント企業の元代表取締役(66)らは、大蔵大臣の許可なく、約4億8,000万円を延べ738回にわたって日本国内の銀行から韓国内の銀行の架空口座に送金した。9月検挙(滋賀)

2 暴力団犯罪の検挙状況

 平成5年の暴力団犯罪の検挙状況は、前年に引き続き、傷害、暴行事件の粗暴犯の検挙人員は減少したが、潜在的な暴力団フロント企業(注)に係る犯罪や、バブル崩壊後の不況を背景とした企業の倒産等に絡む犯罪の検挙が増加し、暴力団が社会、経済情勢の変化に対応し、表の経済社会に進出して、巨額の資金の獲得を図っている状況が、一層明らかとなった。また、一方で、東京都内における山口組関与の対立抗争事件等暴力団の対立抗争事件の発生回数が前年に比べ増加した。
(注) 暴力団フロント企業とは、暴力団が設立し、現にその経営に関与している企業又は暴力団準構成員等暴力団と親交のある者が経営する企業で、暴力団に資金提供を行うなど、暴力団組織の維持、運営に積極的に協力し、若しくは関与するものをいう。
(1) 暴力団員の大量反復検挙
ア 暴力団員の検挙状況
 平成5年中における暴力団勢力の検挙人員は3万3,970人(前年比1,120人(3.4%)増)であり、このうち、構成員の検挙人員は1万4,648人(前年比1,658人(10.2%)減)である(図4-1、図4-2)。

図4-1 暴力団勢力の検挙人員(昭和59~平成5年)

図4-2 暴力団構成員の検挙人員(昭和59~平成5年)

 重点対象3団体の暴力団勢力の検挙人員は2万3,672人(暴力団勢力の総検挙人員の69.7%)で、このうち、構成員の検挙人員は1万311人(暴力団構成員の総検挙人員の70.4%)である。特に、山□組については、暴力団勢力を1万3,207人(暴力団勢力の総検挙人員の38.9%)、構成員を6,017人(暴力団構成員の総検挙人員の41.1%)、直系組長を20人検挙している。また、5年は、重点対象3団体の構成員による悪質な犯罪が目立った。
〔事例1〕 山口組の暴力団員(42)らは、無差別に刑務官を襲撃しようと企て、6月、徳島刑務所から帰宅する刑務官(30)の車を尾行し、途中で進路に割り込み停止させ、鉄棒で車のフロントガラス、ボンネット等をたたき壊した。6月検挙(徳島)
〔事例2〕 2年4月、住吉会の暴力団員(56)らは、大手家電量販会社の展開した商品センター開発事業について、同社社長(56)を「商品センターの開発には不正がある。会社をつぶしていいのか」などと言って脅迫した。4年11月から5年3月までに9人を検挙(大阪)
イ 暴力団犯罪の傾向
 暴力団勢力の検挙人員は、前年に比べ、刑法犯が937人(4.8%)、特別法犯が183人(3.4%)それぞれ増加している。また、罪種別では、覚せい剤取締法違反が6,401人(構成比18.8%)で最も多く、次いで傷害4,914人(同14.5%)、賭博4,026人(同11.9%)、恐喝3,089人(同9.1%)の順となっている。
 なお、暴力団構成員の検挙人員は、刑法犯が639人(6.5%)、特別法犯が1,019人(15.7%)それぞれ減少している。
(2) 暴力団の資金獲得活動に対する取締り
ア 企業等に対する暴力事案等の取締り
 平成4年中は、総会屋の表立った活動はみられなかったが、5年は、総会屋グループと暴力団が共同して企業に質問状を送り付けるなどその動きが活発化し、総会屋による企業対象暴力事犯や商法第497条違反(株主の権利行使に関する利益供与の罪)事件が相次いだ。5年の総会屋等の検挙人員は94人(47件)(前年比44人(7件)増)であり、また、恐喝、傷害等により社会運動等標ぼうゴロ714人(510件)を検挙している。
 さらに、最近は、企業やその幹部が暴力団員や総会屋にけん銃、刃物等で襲撃される事件が相次いで発生している。警察では、これらの犯罪の防圧、検挙を図るため、企業との連携を強化するなどして企業に絡む不穏な動向の早期把握に努めている。
〔事例1〕 大手ビールメーカーの総務部長(55)ら4人は、3月開催の同社株主総会を円滑に、かつ、短時間で終了させることの謝礼として、住吉会の傘下組織の総会屋(45)ら40数人の総会屋に対し、合計約3,900万円の利益供与を行った。7月検挙(警視庁)
〔事例2〕 6月、右翼標ぼう総会屋である政治結社総裁(48)は、物品販売の展示要求を拒否された会社の幹部社員に対し、「総攻撃をかけるぞ」、「山口組と共闘している」などと組織の威力を示して脅迫した。6月検挙(福岡)
〔事例3〕 山口組傘下組織の暴力団員(26)は、同組が予約していたディナーショー会場が直前に予約を断った報復として、6年3月、同会場の関連会社社長宅にけん銃数発を発射した.6年4月検挙(愛知)
イ 暴力団フロント企業による資金獲得犯罪の取締り
 5年中における暴力団フロント企業に係る犯罪の検挙件数は210件(前年比95件増)である。これを適用罪種別にみると、刑法犯は20罪種86件、特別法犯は28罪種124件で、特別法犯の割合が多くなっている(表4-1)。特に、労働者を他の企業の工事現場に派遣して単純労働に従事させ、労賃をピンハネするなどの労働者派遣事業法違反が27件で最も多くなっている。また、山口組系の暴力団フロント企業に係る犯罪の検挙件数が118件で、全体の56.2%を占めており、同組が表の経済社会に進出している実態が浮き彫りになっている。
 検挙した210事件に関与していた暴力団フロント企業は238社であり、これを業種別にみると、建設業が71社で最も多く、次いで金融・保険業38社、不動産業36社の順となっており、これら3業種で全体の60.9%を占めている(表4-2)。このほか、自動車販売等の卸売・小売業、廃棄物処理業、運輸業等様々な業種にわたっており、暴力団の経済社会への進出が多種多様な分野に広がっていることがうかがわれる。
〔事例1〕 人材派遣会社の代表者である稲川会の傘下組織の幹部(41)

表4-1 暴力団フロント企業に係る犯罪検挙事件数の適用罪種別内訳(平成5年)

表4-2 検挙に係る業種別暴力団フロント企業数(平成5年)

らは、雇用した少年らを建設会社等に派遣して工事現場等で単純労働に従事させ、少年らの賃金の約半分をピンハネし、数千万円の利益を挙げていた。2月検挙(山梨)
〔事例2〕 山口組の直系組長(51)は、同人の妻他2人と共謀の上、法定の除外事由がないのに貸金業の登録を受けないで、昭和63年3月ごろから平成4年8月ごろまでの間、9人の者に対し、約70回にわたり総額約21億円を月3歩から5歩の利息で貸し付けていた。2月検挙(奈良)
ウ 不況を背景とした企業の倒産等に絡む犯罪の取締り
 暴力団は、長引く不況を背景に相次ぐ企業の倒産等に介入し、企業やその資産の乗っ取り、倒産整理、債権取立て、競売物件に絡む民事執行妨害等の各種資金獲得活動を行っている。
 5年中における不況を背景とした企業の倒産等に絡む犯罪の検挙件数は47件(前年比29件増)である。
 検挙した事件を暴力団別にみると、山口組が関与しているものが28件で、全体の約6割を占めている。形態別では、企業等の乗っ取り、倒産整理、債権取立てに関するものが36事件で、全体の76.6%を占めている(表4-3、表4-4)。

表4-3 不況を背景とした企業の倒産等に絡む犯罪組織別検挙状況(平成3~5年)

表4-4 不況を背景とした企業の倒産等に絡む犯罪形態別検挙状況(平成3~5年)

〔事例1〕 山口組の直系組長(52)らは、ゴルフ練習場を経営する会社の経営者(52)に5,000万円を貸し付けていたが、返済が滞ったことから、同社を乗っ取ろうと企て、架空の臨時株主総会の議事録を偽造するなどして商業登記の変更手続を行った。また、同社の事務所が火災で消失したことから、火災保険金に債権を設定しようと企て、同経営者を脅迫し、虚偽の公正証書を作成した。3月検挙(北海道)
〔事例2〕 山口組系暴力団フロント企業の社長(53)らは、金融会社から受皿の会社に5億円の融資を受けて都内のホテルを買収し、更地にして転売利益を得ようとしたが、受皿の会社が倒産し、同ホテルに抵当権を設定していた金融会社が競売を申し立て、差押えが行われたため、抵当権の実行を免れようと3年7月から同年8月までの間、同ホテルの解体工事を行った。2月検挙(警視庁)
エ 伝統的な資金獲得犯罪に対する取締り
 5年中に検挙した暴力団勢力のうち、伝統的な資金獲得犯罪である覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博(とばく)及び公営競技関係4法違反(ノミ行為等)の4罪種に係る検挙人員は1万6,524人(暴力団勢力の総検挙人員の約5割)で、このうち、暴力団構成員は5,909人(暴力団構成員の総検挙人員の約4割)である。特に、賭博(とばく)の検挙人員は、前年に比べ、暴力団勢力が1,277人(46.5%)、構成員が112人(17.0%)それぞれ大幅に増加した。
〔事例1〕 6月、会津小鉄の傘下組織の組長(61)らは、個室付浴場業を営む店に対し、同店に入った客を写真撮影するなどの嫌がらせをした上、同店経営者らを脅迫し、現金10万円を喝取した。9月検挙(滋賀)
〔事例2〕 山口組の傘下組織の組長(55)らは、6月、プロ野球の試合について、多数の客に勝敗を予想させる野球賭博(とばく)を開張した。6月検挙(岐阜)
(3) 銃器、薬物の取締り
ア 対立抗争事件の発生状況
 平成5年中の対立抗争事件数は12件で、前年と同数である。このうち、重点対象3団体が10件に関与しており、中でも山口組は8件に関与している。特に、東京都内で発生した8件のうち、山口組が一方の当事者である事件が5件あり、山口組の東京進出に伴う他の暴力団との対立が顕

図4-3 対立抗争事件、銃器発砲事件の発生状況(昭和59~平成5年)

著になっていることが認められる(図4-3)。また、これらの対立抗争に伴い、銃器発砲事件が77回(前年比38回増)発生した。
〔事例1〕 7月、札幌市内において、極東会の傘下組織の組長(49)が山口組の傘下組織の幹部(49)を殺害した事件を発端に対立抗争事件に発展し、全国で43回(うち東京都内19回)の銃器発砲等が繰り返され、3人が死亡、6人が負傷した。警察庁及び関係都道府県警察においては、緊急対策会議を開催し、広範囲にわたる捜索、山口組及び極東会の総本部事務所等に対する立入検査を実施して抗争事件の鎮圧を図り、12月末日までに21人を検挙、けん銃10丁を押収(北海道、警視庁ほか11県)
〔事例2〕 2年6月29日、山口組対波谷組の対立抗争事件において、山口組の暴力団員が元NTT職員(66)を波谷組の暴力団員と間違えて射殺した事件が発生したが、長期にわたる捜査の結果、被疑者である山口組の傘下組織の幹部2人を割り出した。10月検挙(大阪)
イ 銃器発砲事件の発生状況
 5年中における暴力団員による銃器発砲事件は178回(前年比4回(2.3%)増)であり、これらの銃器発砲に伴い、16人が死亡、34人が負傷した(図4-3)。5年は、全国規模で敢行された山口組対極東会の対立抗争事件(前述ア〔事例1〕参照)において計42回の銃器発砲があったほか、金銭や地位をめぐる争い等を原因とした同一組織内のけん銃発砲に係る殺人等の事件が相次いだ。
〔事例1〕 9月、山口組の傘下組織の元幹部(44)は、パトカーの警察官に職務質問を受けた際、いきなりけん銃を取り出して発砲した。同月検挙(大阪)
〔事例2〕 1月、山口組の幹部(43)らは、傘下組織の内部のもめ事から、組事務所前において、同組の幹部(43)らが、同組の暴力団員等2人に対してけん銃を発砲し、1人を殺害、他の1人に傷害を負わせた。3月検挙(大阪)
ウ けん銃の押収状況
 5年中における暴力団勢力からのけん銃押収丁数は1,196丁(前年比124(11.6%)増)で、このうち1,014丁が真正けん銃である(図4-4)。

図4-4 暴力団勢力からのけん銃押収丁数の推移(昭和59~平成5年)

 特に、旧ソ連軍等の制式銃であるトカレフ型けん銃については、昭和63年に初めて押収されて以来、平成4年までに677丁押収されており、5年も237丁が押収されている。
〔事例1〕 稲川会の傘下組織の幹部(26)がけん銃を不法に所持しているとの情報を入手し、5月、広範囲にわたる捜索を実施し、けん銃27丁、マシンガン1丁、実包等を押収し、同人を逮捕(愛知)
〔事例2〕 7月、銃刀法違反事件で逮捕されている山口組の傘下組織の幹部(51)の自供したけん銃の隠匿場所を捜索し、トカレフ型けん銃5丁及び実包1,000発を発見、押収(長崎)
エ 薬物の取締り
 5年の覚せい剤事犯の総検挙人員は1万5,252人で、このうち、暴力団勢力の検挙人員は6,401人で全体の42.0%を占め、暴力団勢力からの覚せい剤押収量は42.7キログラムで全押収量の44.3%を占めている。
〔事例1〕 稲川会の傘下組織の幹部(33)らは、都内のホテルの客室の天井裏に約1.6キログラムの覚せい剤を隠匿所持していた。5月検挙(警視庁)
〔事例2〕 山口組の傘下組織の組長(31)らがコカイン約6キログラムを隠匿所持していたことが発覚し、3月、共犯者を検挙したが、同組長は南米に逃亡していることが判明し、捜査中(静岡)

3 暴力団対策法の施行状況

(1) 指定状況
 平成5年中は、新たに7団体が指定され、全暴力団員約5万2,900人の82.0が暴力団対策法の規制の対象となった(表4-5)。
(2) 中止命令等の発出状況
 平成5年中は610件の中止命令を発出しており(表4-6)、4年の暴力団対策法施行以降発出した中止命令は851件に上っている。
 5年中の中止命令を形態別にみると、資金獲得活動である暴力的要求行為に対するものが335件(54.9%)、脱退妨害、加入強要に対するもの

表4-5 指定暴力団の指定の状況(平成6年4月27日現在)

表4-6 暴力団対策法に基づく中止命令及び再発防止命令件数(平成4、5年)

が263件(43.1%)である。暴力的要求行為のうち、伝統的な資金獲得活動であるみかじめ、用心棒料等要求行為に対するものは187件(30.7%)である。
 団体別にみると、山口組に対するものが301件、稲川会に対するものが94件、住吉会に対するものが90件であり、重点対象3団体に対する中止命令件数が全体の79.5%を占めている。
 なお、5年8月1日、暴力的要求行為の禁止等の規制の強化、暴力団への加入の強要等の規制の強化、暴力団員の暴力団からの離脱を阻害する不当な行為の規制を内容とする暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律(平成5年法律第41号。以下「改正法」という。)が施行され、同年末までに、改正法により新たに禁止されることとなった不当入場券等購入要求、競売等妨害行為、暴力的要求行為を現場で助ける行為、人を威迫して行うその密接関係者に対する加入強要、指詰めの強要等の違反行為を行った者に対して50件の中止命令を発出している。
 また、再発防止命令は35件発出している(表4-6)。
 なお、都道府県公安委員会においては、暴力団対策法に基づき、中止命令が発出された事案のうち被害者の申出を受けたものについて、援助を行っており、これにより、中止命令を受けた指定暴力団員が支払いの免除又は猶予を要求していた債務を弁済するなど、指定暴力団員による暴力的要求行為の相手方の被害の回復が図られている。
〔事例1〕 8月、住吉会の暴力団員(27)は、居酒屋の経営者に対し「マスター、プロレスの券を買ってくれ」などと言ったが、同人に拒絶され、「俺たちだって、組の者に売れと言われているから買ってもらわないと困るんだ」などと言って、日常業務に関してプロレス入場券の購入を要求した。9月、中止命令(埼玉)
〔事例2〕 8月、沖縄旭琉会の暴力団員(46)は、裁判所から不動産引渡命令が発出されている住宅に居住を続けて支配を誇示し、同住宅の買受人に対し、支配の誇示をやめる対償として金品等を要求した。9月、中止命令(沖縄)
〔事例3〕 8月、山口組の暴力団員(36)は、同組への加入勧誘を拒絶したタクシー運転手の勤務する営業所の所長に対し、同暴力団員が同運転手の連絡を求めている旨を伝えるよう強要した。同月、中止命令(奈良)
〔事例4〕 11月、自宅のエアコンの工事を行った業者に工事代金債務の免除又は履行の猶予を要求していた住吉会の暴力団員に対し、中止命令が発出された。さらに、同業者の申出を受け、公安委員会から同暴力団員に対し、同業者が債務の履行を求めている旨連絡したところ、同暴力団員が債務を全額履行した(大阪)。
(3) 暴力団員の離脱促進・社会復帰対策の状況
 暴力団対策法施行後、暴力団員の組織離脱傾向が顕在化していることにかんがみ、組織からの離脱の障害となるような行為を防止するとともに、暴力団員の暴力団からの離脱と暴力団から離脱した者の社会復帰を促進するため、改正法により、指詰めの強要、少年に対する入れ墨の強要、人を威迫して行うその者と密接な関係を有する者に対する加入の強要等の行為が規制されるとともに、暴力団から離脱する意志を有する者に対する援護が公安委員会の責務として法律上明記された。
 これに伴い、警察及び都道府県センターにおいては、関係行政機関や民間団体と連携を図り、暴力団員の離脱促進・社会復帰対策を講じており、平成5年11月8日までに全国47都道府県において社会復帰対策協議会等を設立するなど、暴力団員の暴力団からの離脱の促進と離脱した暴力団員の社会復帰を積極的に推進している。同協議会等には5年末までに全国で約5,200社の協賛企業が加入しており、同協議会等を通じて100人を超える元暴力団員が就業に成功している。
(4) 責任者講習の実施状況
 警察及び都道府県センターでは、暴力団対策法に基づく各事業所の不当要求防止責任者に対する講習(以下「責任者講習」という。)を平成5年3月までに全国28都県において実施し、暴力団員の不当要求による被害を受けやすいぱちんこ営業や金融、保険業等を中心に約1万1,700人の不当要求防止責任者が受講した。責任者講習においては、暴力団員への応対方法について、模擬訓練(ロールプレイング)形式の実習等を行っている。
〔事例1〕 9月、銀行支店の不当要求防止責任者は、「責任者講習修了書」、「暴力団等排除の申合せ」を掲示し、賛助金を要求してきた社会運動標ぽうゴロに対して、責任者講習の模擬訓練で学んだとおり、支店長に面会させない、多数の者で応対する、要求者の人定を確認するなどした結果、社会運動標ぼうゴロが要求を断念した(福島)。
〔事例2〕 10月、銀行支店の不当要求防止責任者が、取引停止宣告されたことに因縁をつけ慰謝料を要求してきた暴力団員に応対し、会話内容を録音するとともに、直ちに警察に通報するなど適切な対応をとった結果、警察において暴力団員を恐喝未遂で逮捕し、被害の未然防止が図られた(岩手)。

4 暴力団排除活動の現状

 国民の暴力団排除意識は、警察の徹底した取締りや都道府県センターを中心とした積極的な暴力団排除活動により飛躍的に高揚し、各地域、職域団体の暴力団排除に向けた結束は一段と強まった。その結果、多くの地域、職域団体が「みかじめ料・賛助金等拒否」を宣言したり、事業者自らが暴力団員による不当な要求を断固拒否したりするなど、暴力団を排除しようとする動きが全国的規模で着実に展開された。
(1) 暴力団フロント企業、暴力団利用者等の排除
 国や地方公共団体等の発注する公共事業の請負業者から暴力団フロント企業等の不良業者を排除するなど、公共団体における暴力団排除活動が積極的に推進された。とりわけ、平成5年は、暴力団フロント企業に加えて、暴力団を事業遂行に利用する暴力団利用企業の公共工事からの排除が推進された。
 警察としても、暴力団犯罪の検挙にとどまらず、捜査の結果判明した事実を基に、税務当局に対する課税通報を行うなど、関係機関と連携して暴力団対策上必要な多様な措置を講じている。
〔事例1〕 4年6月、暴力団フロント企業役員らによる生コンクリート工業組合非組合員に対する恐喝事件、同組合元理事長による背任事件を検挙したが、捜査の過程で、同組合及び役員らによる非組合員の事業活動排除のための独占禁止法違反事実を解明したため、2月、公正取引委員会に通報し、10月、公正取引委員会は同組合等に対して勧告等を行った(滋賀)。
〔事例2〕 白島洋上備蓄基地建設工事に関し地元対策等に二代目工藤連合草野一家の関係者を利用していた大手ゼネコンと同一家に資金を提供していた暴力団フロント企業5社について、関係機関と連携を図り、公共工事等からの排除措置を講じていたが、10月、排除措置期間の満了に伴い、排除措置の延長、再延長、再々延長を継続した結果、暴力団フロント企業のうち数社が廃業し、二代目工藤連合草野一家の資金源の封圧が図られた(福岡)。
〔事例3〕 暴力団員を雇用したように装って社会保険事務所から同人の健康保険被保険者証の交付を受け、給料という名目で同人にみかじめ料を支払っていた建設業者について、11月、関係機関に排除要請を行い、公共事業から排除した(岡山)。
(2) 暴力追放運動推進センターの活動状況
 都道府県センターは、各都道府県ごとに設立された財団法人が指定されており、同センターにおいては、暴力追放相談委員として委嘱された弁護士、少年相談委員、保護司、元警察官等が暴力団に関する困りごと等の相談を受け、それぞれの専門的知識、経験をいかして相談者に対して必要な助言や援助を行うとともに、警察等関係機関、団体と連携して迅速かつ適切な処理を図っている。
 平成5年1月から6月までに都道府県センターに寄せられた暴力団に関する困りごと等の相談を相談種別にみると表4-7のとおりで、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第九条各号に関する相談が最も多く、中でも、「因縁をつけての金品等要求行為」、「高利債権取立て行為」、「不当債務免除要求行為」等に関するもの等市民生活に不当に介入する形態での資金獲得活動に関する相談が多い。このほか、暴力団員の離脱に関する相談も多く、4年に引き続き暴力団員の暴力団からの離脱傾向がうかがわれる。
 また、都道府県センターは、このような暴力団に関する困りごと等の相談のほか、少年を暴力団から守る活動、暴力団から離脱する意志を有する者を助ける活動、民間の暴力団排除活動に対する援助、暴力団事務所の建設阻止及び撤去活動の支援、暴力団を相手取った訴訟の支援、暴力団犯罪等の被害者に対する見舞金の支給等の事業を行うなど、警察等関係機関、団体との連携の下に暴力団排除活動を活発に展開している。

表4-7 相談種別暴力団関係相談件数(平成5年)

(3) 全国暴力追放運動中央大会の開催
 平成5年11月29日、暴力団対策法の施行を契機として盛り上がった暴力追放運動の定着を図り、暴力団総合対策を推進することを目的として、警察庁、全国暴力追放運動推進センター、都道府県警察及び都道府県センターの主催により、総理府等の中央省庁、経団連、日本弁護士会等の後援を得て、第1回全国暴力追放運動中央大会が開催された。
(4) 暴力団員を相手取った民事訴訟の動向
 平成5年は、地域住民の申立てにより、暴力団組長等の所有する土地、建物について組事務所としての使用を差し止める仮処分が認められたほか、暴力団員による犯罪行為の被害者が実行行為者に対して民法第709条(不法行為責任)に基づき損害賠償請求訴訟を提起するとともに、その者の所属する暴力団の組長に対して民法第715条(使用者責任)に基づき損害賠償請求訴訟を提起するなど、4年に引き続き、地域住民や暴力団による犯罪行為等の被害者が民事訴訟により暴力団から自らの権利や生活を守ろうという事例が目立った。
〔事例〕 住吉会の傘下組織の暴力団員が、縄張内のぱちんこ店の経営者にみかじめ料の支払い要求を拒絶されたため、同店に乗用車を激突させ、さらに、店内のぱちんこ遊技機を損壊させるなどした。10月、同店の経営者が、同暴力団員に対し、民法第709条(不法行為責任)に基づき損害賠償請求訴訟を提起するとともに、同暴力団員の所属する暴力団の組長に対して民法第715条(使用者責任)に基づき損害賠償請求訴訟を提起した(栃木)。


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