第2節 ボランティアとともにある地域安全活動

 地域安全活動は、交番等の地域警察活動のほか、犯罪、事故等の被害に遭う地域住民の立場に立って行われなければならないものであり、ひとり警察の活動のみでは不十分であり、生活の安全を自ら守ろうとする地域住民との連携に負うところが大きい。
 一方、地域社会において、地域の問題は地域で解決していこうとする意識やボランティア活動への参加に価値を見いだす傾向が高まってきており、また、企業においても地域の一員として社会貢献のための活動を強化する動きがみられる(注1)。
 こうした状況を踏まえ、警察としては、防犯協会員、防犯指導員や保護司等の各種のボランティアと積極的に連携し、侵入盗、交通事故から暴力団の介入事案まで地域住民の多様なニーズに応じた地域安全活動を展開している(注2)。
(注1) ボランティア活動一般に対する人々の関心は高く、平成5年11月の総理府世論調査によると、ボランティア活動への参加意欲を有する人は過半数に上っている。また、地域安全のためのボランティア活動についてみると、6年2月、(財)全国防犯協会連合会が全国6,600人に対して行ったアンケート調査では、これまでに地域安全のためのボランティア活動を行ったことのない人4,724人中、過半数(53.8%)が、活動内容に魅力のある地域安全のためのボランティア活動が身近にあれば、これにかかわってもよいと答えている。
(注2) 地域安全活動におけるボランティアとしては、防犯協会員等の組織されたボランティアから地域住民や地域の企業等の草の根的なボランティアまで多種多様である。また、その種類も、犯罪の防止を主な任務とする防犯協会員、防犯連絡所員、防犯指導員、交通安全を行う地域交通安全活動推進委員、少年非行を防止し、少年の健全育成を図る少年指導委員、少年補導員、少年警察協助員等である。

1 犯罪等のない地域社会を目指して

 警察では、各種ボランティアとの連携により、犯罪等のない地域社会を目指した活動を行っている。以下、こうした活動を概観するとともに、ボランティア及び安全産業とのかかわりを見ていく。
(1) 地域に密着した防犯活動
ア 地域住民に身近な犯罪の防止活動
(ア) 侵入盗の防止対策
 侵入盗は、居宅という最もプライベートな空間が侵されることにより、地域住民が強い不安感を抱く犯罪である。警察では、地域住民の協力を得ながら、パトロールを行うとともに、防犯相談、防犯診断、防犯広報等を実施し、侵入盗の防止に努めている。
 また、各都道府県内で侵入盗の発生が最も多い警察署の管内を中心に「侵入盗防止重点地区」を指定することとし、平成5年度においては、全国で65地区を指定した。これらの地区においては、住民の代表、民間防犯団体の役員、警察官等で構成される推進協議会が設置され、地域住民と警察が一体となって侵入盗防止のための活動を積極的に進めている。
(イ) 自動車盗、オートバイ盗及び自転車盗の防止対策
 自動車盗、オートバイ盗、自転車盗は、発生件数が多く、地域住民が最も被害に遭いやすい犯罪であるとともに、これらは初発型非行として少年によって単純な動機で安易に行われることも多い。
 また、近年、盗難に遭った自動車が極左暴力集団のテロ、ゲリラ事件、金融機関対象強盗事件等の凶悪な事件に使用される事例もあった。
 警察では、自動車盗の防止対策として、自動車のユーザーに対して「キー抜取り、ドアロック」の励行等についての広報啓発活動を行うとともに、(社)日本自動車工業会等の自動車関係業界、駐車場管理者等に対して自動車盗難防止装置の機能強化等を要請した結果、現在この強化された防止装置の付いた自動車が生産販売されている。
 一方、オートバイ盗及び自転車盗の防止対策としては、(社)日本防犯設備協会と協力してハンドルロックの強化等オートバイの盗難防止対策について検討を行うとともに、駐輪場の整備拡大に関する関係機関への働き掛け等の諸対策を推進している。
 なお、自転車防犯登録は、自転車の盗難を防止するだけでなく、盗難に遭った自転車の早期回復にも役立つものであり、警察では、その勧奨に努めている。5年中に回復された防犯登録済み自転車は19万1,496台で、回復された自転車の総数中77.7%を占めた。5年12月には、自転車の安全利用の促進及び自転車駐車場の整備に関する法律が改正され、自転車の防犯登録が義務付けられた。

 このほか、警察では、各都道府県内で乗物盗の発生が最も多い警察署の管内を中心に「乗物盗防止重点地区」を指定することとし、5年度においては、全国で65地区を指定した。これらの地区においては、住民の代表、民間防犯団体の役員、警察官等で構成される推進協議会が設置され、地域住民と警察とが一体となって乗物盗防止のための活動が進められている。
(ウ) 路上犯罪等の防止対策
 近年、路上強盗、ひったくり等の道路上における犯罪が増加傾向にある。また、強制猥褻(わいせつ)等の性的犯罪の5年中の認知件数は5,695件で、最近3年間連続して増加しており、被害者も幼児から成人に至るまでの広い年齢層にわたっているなど、地域住民にとって深刻な問題となっている。一方、幼児等を対象とする誘拐事件の認知件数は5年中106件で、前年に比べ44件減少したものの、下校途中の児童等に声を掛ける事案も後を絶たない。
 警察では、路上強盗、ひったくり等の防止対策として、自治体と連携し、防犯灯の増設、歩道と車道を分離するフェンスの設置等を進めるとともに、地域住民に対し、パンフレット、ビデオテープ等を活用した防犯広報、防犯研修会等を実施している。また、携帯用防犯ブザー、自転車用ひったくり防止ネット等防犯器具の紹介、普及に努めている。
 性的犯罪の防止対策としては、夜道、公園等の危険箇所を重点的にパトロ-ルするとともに、多発、危険箇所に立看板等を掲示するなどして注意の喚起に努めているほか、市町村に対しては、防犯灯の増設、点検を促している。また、防犯懇談会等を設けて、児童を対象とする事犯を防止するため児童、保護者、学校機関に対しそれぞれの注意すべき事項について指導するなど、被害に遭わないための防犯心得を被害対象に応じて指導している。さらに、女子寮等の管理者に対する防犯施設の整備と管理体制の強化要請、扉をガラス入りにして内部が見えるようにするなどのエレべーターの構造改善、防犯ブザー等の防犯機器の推奨等、地域住民の側での防犯体制の構築を促している。
〔事例〕 新興住宅地で帰宅途中の女性が襲われる事件が連続して発生したことから、開発業者に働き掛け、地下鉄の駅で防犯ブザーを無料で貸し出す制度を発足させるとともに、防犯指導員等の協力を得て痴漢防止のためのパンフレットを配布したほか、防犯広報車による防犯広報を実施した(神奈川)。
 幼児等を対象とする誘拐事件の防止対策としては、教育機関、PTA、家庭等に対し、防犯研修会等を通じて防犯指導を推進するとともに、幼稚園児や児童向けに、防犯キャラバン車等を利用して、劇や紙芝居を取り入れた出張広報活動を行っている。
(エ) 放火の防止対策
 ここ数年、やや減少傾向で推移していた放火の認知件数は、5年中は1,754件で、前年に比べ327件(23.1%)増加した。
 放火は、家屋、財産ばかりか住人の身体、生命をも脅かすものであり、地域住民が恐怖心を抱く犯罪である。警察では、防犯広報や地域住民との協力による防犯パトロールを推進するとともに、廃屋、空家等の管理者に対して管理強化の要請を行っている。また、連続放火事件等が発生した場合には、関係機関、地域住民との密接な連携の下、発生が予想される場所に対する重点的警戒を行うことなどにより、未然防止の徹底を図っている。
(オ) 悪質商法の防止対策
 悪質商法による被害は、主婦、高齢者、少年等幅広い層に及んでいる。警察では、各自治体の消費者行政担当課、消費生活センター等と連絡会議等を開催して情報の収集に努めているほか、パンフレット等を配布して消費者に対する広報啓発活動を展開している。また、各都道府県警察には「悪質商法110番」等の消費者相談窓口を設けている。
〔事例〕 駐在所勤務の地域警察官が、付近の主婦や高齢者を駐在所に招き、駐在所夫人とともに、悪質商法の被害に遭わないための応対を寸劇で紹介した(新潟)。
イ 金融機関等犯罪の被害に遭いやすい場所の防犯対策
(ア) 金融機関対象強盗事件の防犯対策
 5年における金融機関対象強盗事件は140件で、前年に比べ25件増加しており、依然として高水準で推移している。このような事件は、社会的な反響が大きく、模倣されて続発するおそれもあることから、警察では、金融機関との連絡会議の開催や防犯訓練等を行っているほか、防犯設備、管理体制の充実を促進するため「金融機関の防犯基準」を作成し、(財)日本防災通信協会等と協力してこの基準に基づいた防犯指導を行っている。金融機関の防犯設備の設置率は年々高くなっているが、警察では、さらに防犯設備の設置を促していくこととしている。
 また、無人の現金自動支払機等の現金をねらった窃盗事件が多発したことから、これらの施設に対するパトロールを強化するとともに、設置者、管理者、製造会社、警備業者等を交えた連絡会議を開催している。
 さらに、「現金自動支払機(CD)等の防犯基準」を策定して、関係機関、団体に対し、基準に基づいた防犯対策の強化を要請している。
(イ) 深夜スーパーマーケット対象強盗事件の防犯対策
 深夜スーパーマーケット対象強盗事件の認知件数は、2年61件、3年93件、4年127件、5年145件と急激に増加している。
 地域的には、大都市圏を中心に発生しているが、地方への波及傾向もみられるため、警察では、県単位、警察署単位の職域防犯組織の結成を促進し、業界全体の防犯意識を高めるとともに、各店舗の構造、営業時間、勤務体制、防犯設備等を点検するなどの防犯指導を行っている。
(ウ) 防犯ビデオ、カメラ
 防犯ビデオ、カメラは、設置場所を対象とした犯罪を未然防止するとともに、万一犯罪が発生した場合には、犯人の人相、特徴、犯行態様等を記録し、事後の捜査活動に資するものである。
 警察では、防犯ビデオ、カメラの普及に努め、金融機関をはじめ、深夜スーパー、ぱちんこ景品買取り所等の犯罪被害に遭いやすい店舗の犯罪防止対策に努めている。5年3月現在、全国の7万2,370店舗の金融機関の36.3%に当たる26,298店舗に防犯ビデオが設置されている。
ウ 安全な街づくり
 防犯対策の一つとして、犯罪が発生する場である建物、道路、公園、街区構成等のデザイン、構造等を犯罪が行われにくいものに設計、改変するという手法がある。警察では、犯罪のない安全な街づくりを目指して、(財)都市防犯研究センター等の研究機関と協力してこうした環境設計による防犯対策に関する調査研究を進めており、これらの調査研究

の成果に立脚して、地域開発等の時点において防犯的な視点からの提言を行っている。
〔事例〕 学識経験者や建築家等で構成する「福島県犯罪のない街づくり懇談会」を設置して「犯罪のない街づくりのための提言」を作成し、県民に対してその思想の普及を図るとともに、知事部局、関係業界等に防犯的な観点を取り入れた街づくりを働き掛けた。その結果、同提言の内容を取り入れ、建物の配置、構造、錠の設備等に配慮した防犯モデル住宅が建設、分譲された(福島)。
(2) 地域住民による地域安全活動
ア 防犯協会、防犯連絡所、防犯指導員の活動
 防犯協会は、地域における民間防犯活動の中心的担い手として、警察と協力して、地域の実情に応じ、地域における犯罪の予防、風俗環境の浄化、少年の非行防止、覚せい剤等薬物の乱用防止等、犯罪等のない安全な街づくりのための活動を行っている。
 防犯連絡所は、地域における民間の自主防犯活動の拠点として、平成5年末現在、全国で68万2,471箇所(63世帯に1箇所)設置されており、防犯座談会の開催、地域住民の要望の取りまとめ、防犯協会や警察が作成した資料の住民への配布等の活動を行っている。
 防犯指導員は、地域住民による地域の生活の安全のための各種活動のうち、防犯懇談会の開催、侵入盗を防ぐ戸締まりの方法等の指導、駐車車両等の施錠状況の点検パトロール、防犯広報等の活動において中心的役割を果たしている。
〔事例〕 栃木県防犯協会では、誘拐事件の発生を契機として、協会内に「幼児対象誘拐防止指導員」を置き、車で県内の幼稚園、保育園等を巡回し、幼児及びその母親等を対象とした誘拐防止指導を行っている。

イ 草の根的なボランティアによる活動
 近年、防犯連絡所、防犯指導員等防犯を目的とした既存の組織によるボランティア活動のほかに、地域住民や地域の企業等の草の根的なボランティアが行う防犯活動が強まりつつある。これらの草の根的なボランティア活動の参加者は、主婦、年長者、青少年、企業の従業員等様々であり、防犯という目的に共鳴した個人単位のボランティアから、団地住民、商店街の関係者等一定の生活環境を共有する人々の自治的なボランティアまで、広範な層から成っている。
〔事例1〕 女性ボランティアグループ「ヤングリーブス」は、空き巣被害や自転車盗被害の防止を訴えるチラシの配布、催し物会場の駐車場やデパート駐車場における自動車防犯診断の実施、自転車販売店に対する自転車防犯登録の実施要請、朝夕の通学路等における児童に対する声かけ運動等、各種の活動を実施している(北海道)。
〔事例2〕 地域住民の有志による「栃ノ実ボランティア」は、独居老人や高齢者の家庭を訪問し、各種犯罪被害や交通事故防止のための指導、悪質商法事案の相談等の活動を展開している(新潟県)。
ウ 各種防犯運動の展開
 (財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会が中心になって毎年実施している全国防犯運動は、暴力追放(暴力団の排除)、少年の非行防止及び自動車盗、自転車盗の防止を全国統一重点として、5年10月11日から20日までの10日間実施された。運動期間中、全国各地で暴力団排除活動、暴力追放宣言の決議、少年補導、有害環境浄化活動、自動車のドアロック、ハンドルロック、自転車の防犯登録の励行の呼び掛け、オートバイ、自転車の防犯診断等が積極的に展開された。
 このほか、行楽期の4月から5月にかけては春の防犯運動、夏休み時期の7月から8月にかけては夏の防犯運動、また、犯罪や事故の多発が予想される12月から1月にかけては、年末、年始における特別警戒の実施等、それぞれの実情に沿った各種防犯運動が展開されている。
エ 職域防犯団体の活動
 犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪のため利用されやすい業種等を中心として、組織的な防犯対策を講ずるための防犯団体が結成されている。5年末におけるこれら職域防犯団体の結成状況は、表1-14のとおりである。

表1-14 職域防犯団体の結成状況(平成5年12月)


 これらの団体では、警察と連携し、それぞれの業種における特徴的な犯罪等を防止するため、協議会等の開催、犯罪等の発生に関する情報交換等の活動を行うとともに、各種の地域安全活動に参加している。
(3) 地域住民の活動に対する警察の支援活動
ア 地域安全情報の提供と活動への助言等
 地域住民による活動が推進されるためには、犯罪の発生状況等地域の安全に関する情報が継続的に提供されることが重要である。
 警察では、地域住民に身近な犯罪等がどのように発生しているかを的確に把握し、防犯対策に役立てるため、犯罪現場臨場等による資料の収集、分析を行っており、こうして得た犯罪、事故の発生状況やこれを防止するためのノウハウ等の地域安全情報について、できる限り地域住民に提供するよう努めている。また、「地域安全活動を行いたいが、どのような活動をすればよいか分からない。」という要望にこたえ、地域住民が行う活動に対して、防犯等の専門的立場からその内容、方法について助言を行う防犯活動アドバイザーの配置を進めており、6年4月現在、全国の警察本部、警察署に50人が配置されている。さらに、地域住民の活動に便宜を図るため、腕章等の提供や防犯座談会開催のための場所の提供等による支援を行っている。
〔事例〕 新聞、テレビ等では報道されないような地域住民に身近な犯罪等の発生状況等に関する具体的情報を掲載した「地域安全ニュース」を定期的に発行している(北海道)。
イ 共同、連携活動の推進
 地域住民による活動が活発になるためには、警察と地域住民、団体との共同、連携活動も効果的である。警察では、地域住民が行うパトロール等の活動にできる限り同行するなどの共同活動に努めるとともに、連絡会議を開催するなど地域住民と防犯協会等の団体が相互に連携して地域安全活動を行えるよう配意している。
ウ 民間防犯組織に対する協力と自治体等との連携強化
 警察では、地域住民による地域安全活動を活性化させるとともに、警察の行う地域安全活動との有機的な連携を図るため、その活動の中心となっている防犯協会、防犯連絡所、防犯指導員等民間防犯組織の体制の強化、犯罪情勢に応じた効果的な活動の推進についての協力を行っている。
 また、警察、自治体の緊密な連携によって行われる支援が地域住民のボランティア活動に対して極めて効果的であることから、警察では、地域安全活動に関する自治体、関係団体等との連携を強化し、地域住民の自主活動が盛り上がるような環境の整備を図っている。
〔事例〕 市との人事交流により、地域安全活動に関する連携を強化した(愛知)。
(4) 地域社会へ貢献する安全産業
ア 警備業の安全への貢献
(ア) 警備業の現況
 警備業の業務は、空港等から一般家庭に至るまでの様々な施設における施設警備、工事現場等における交通誘導警備、各種イベント等の場での雑踏警備、現金等の輸送警備、ボディーガード等幅広い分野に及んでおり、地域住民の自主防犯防災活動を支える「安全産業」として、社会に定着している。特に、最近は、ホーム・セキュリティ・システム等、一般家庭や事務所等に侵入感知機等のセンサーを設置して、基地局において犯罪や事故の発生を警戒し、防止する機械警備業が順調な発展を遂げており、地域住民の多様な需要にこたえている。
 平成5年末現在、我が国の警備業者数は7,062業者、警備員数は32万1,721人で、前年に比べ484業者、3万401人それぞれ増加した。最近5年間の

表1-15 警備業者数、警備員数、機械警備業務対象施設数の推移(平成元~5年)

 警備業者数、警備員数、機械警備業務対象施設数の推移は表1-15のとおりで、それぞれ増加傾向にある。
(イ) 警備業の犯罪検挙への協力
 5年の警備業者又は警備員の届出による刑法犯認知件数は、全刑法犯認知件数の0.6%に当たる1万622件であり、また、5年の民間協力等による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況は表1-16のとおりで、「警備業者又は警備員の協力」によるものが、「第三者の協力」によるものとほぼ同数となっている。

表1-16 民間協力等による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況(平成5年)

〔事例〕 警備員が夜間、巡回車で走行中、バール様の物を持った不審な男を発見し、窃盗犯人と思われたため、同人が乗って立ち去った車両のナンバーをメモしておき、周辺を見回ったところ、同人が前に立っていた事務所のドアガラスが割られていたため、警察へ通報した。この通報を受けて行われた捜査により、犯人は早朝逮捕された(茨城)。
(ウ) 警備業者等に対する指導、監督
 警察では、警備業が民間における防犯システムの一環として地域の防犯活動、職域防犯活動と並んで重要な役割を果たしていることから、警備業務の実施の適正を確保するため、警備業者に対する指導、監督を行うとともに、警備業協会等を通じた指導を行うことにより、警備業の健全育成を図っている。
(エ) 警備員等に対する検定の実施
 警備員等に対する検定制度は、警備業法に基づき、都道府県公安委員会が警備員又は警備員になろうとする者について試験を行い、合格した警備員等が一定水準以上の知識及び能力を有することを公的に認めるものである。この制度が社会に定着するに従い、利用者が警備業者を選択する際の目安となると考えられる。
 5年末までに検定に合格した者の数は2万6,262人で、検定に合格した者は、その旨を証する標章(QGマーク)を用いることができることとされている(図1-5)。

図1-5 QGマーク

〔事例〕 東京都武蔵野市等では、条例等により、違法駐車防止活動の委託を受ける警備業者は、交通誘導警備検定合格者証の交付を受けた警備員を一定割合以上配置しなければならないこととしている。
イ 優良な防犯機器の普及、推奨
 侵入盗等に対する自主防犯体制の整備、充実のためには、優良な防犯機器の普及が重要であるが、近年広く利用されている防犯警報機やホーム・セキュリティ・システムは、利用者の操作ミスや機器の性能等による誤報が発生するなどの問題点がある。
 警察では、誤報を減少させて機器の信頼性の向上を図るとともに防犯機器の性能の向上と普及に資するため、優良な防犯機器の研究、開発を関係業界等に働き掛けているほか、(社)日本防犯設備協会等と連携して、その性能に関する自主基準づくりを促進している。さらに、防犯機器の設計、施工及び保守管理を行う者の資質を向上させ、これらの業務の実施の適正化を図るため、(社)日本防犯設備協会が行う防犯設備士制度を3年に認定し、5年末までに、1,400人が資格認証試験に合格している。
 また、(財)全国防犯協会連合会では、優良な防犯機器の普及を図るため、優良住宅用開き扉錠の型式認定制度を実施し、優良な住宅用開き扉錠を広く一般に推奨している。

2 交通事故のない地域社会を目指して

(1) 地域における交通安全活動
ア 段階に応じた交通安全教育
 警察では、関係機関、団体と協力して、地域住民の道路交通への参加の態様、心身の発達段階に応じて、必要な事項を身に付けてもらうための交通安全教室等を開催するなど、地域における交通安全教育を推進している。
 幼児、子供に対しては、道路の歩き方や横断の仕方等について、地域や幼稚園、保育所等を単位として安全教育を行うとともに、遊びながら交通ルールやマナーを学ぶことができる幼児交通安全クラブの結成の促進とその活動の活発化を図っている。
 幼児交通安全クラブは、平成5年9月末現在、全国で約1万4,400が組織され、幼児約125万人、保護者約114万人が加入している。クラブの交

通教室等には、警察官、交通巡視員等を派遣し、幼児と保護者に対し、歌やゲーム等の遊びを通じて、基本的な交通ルールや正しい交通マナーを体得させるよう指導を行っている。
 小中学生に対しては、学校等と協力して、自転車の安全な乗り方教室を開催しているほか、交通少年団の結成の促進と活動の活発化を図っている。交通少年団は、交通安全推進のための少年リーダーとして、学校や地域において同級生や下級生の模範となり、さらに、一般運転者や家族に対する交通安全のアピールを行うなど、その活動範囲は多岐にわたっており、将来の良き交通社会人を育成する観点からも、その結成の促進と育成に努めている。
 高校生に対しては、自転車の安全な利用、二輪車、自動車の特性、交通事故防止についての安全教育を推進している。特に、二輪車の安全に関する指導については、教育委員会や学校と連携し、法令講習や実技指導員(白バイ隊員等)の派遣による安全運転実技指導を推進している。
 高齢者に対しては、市町村や地域の老人クラブ等との連携により、高齢者自身の交通事故防止意識の定着、高揚を図るため、全国の老人クラブ、老人ホーム等に交通安全部会等の設置を促すとともに、高齢者を交通安全指導員に委嘱するなど、高齢者自身による交通安全活動を促進している。5年9月末現在、全国で交通部会を置く組織が約5万、老人交通指導員を置く組織が約5万4,000あり、約10万人の交通指導員が組織内の老人に対する交通安全教育を行っている。さらに、高齢者が多数集まる場において指導を行い、積極的、自主的な活動の促進を図っている。5年中に警察が主催し、あるいは警察官等を講師として派遣して実施した講習会等は約4万9,000件で、約281万人の高齢者が参加した。講習会等においては、具体的な事故実態を踏まえ、道路の横断や右左折時における通行方法、反射材の活用、加齢に伴う身体機能の低下等について必要な指導を行っている。
イ 地域交通安全活動のささえ
 地域の交通問題を解決するためには、行政機関の活動だけでは不十分で、地域ぐるみでの交通安全活動が必要である。この活動を推進するため、交通安全協会や地域交通安全活動推進委員等の民間団体や民間ボランティアが活動している。
 交通安全協会は、都道府県交通安全協会のほか、警察署単位に設置されている地区交通安全協会が一丸となって、警察と連携して、全国交通安全運動やシートベルト着用推進運動をはじめ、自転車、二輪車教室等各種講習会の開催、交通安全広報の実施、広報啓発及び交通安全教育資料の作成、配布、優良運転者、交通安全功労者の表彰等幅広い活動を展開している。
 地域交通安全活動推進委員の制度は、地域において道路交通に関するモラルを向上させるための運動等のリーダーとして活動するボランティアに法律上の資格を付与し、その活動の促進を図るため、2年の道路交通法の一部改正により新設され、3年1月から全国でスタートしたものである。5年末現在、全国で約1万9,000人が都道府県公安委員会の委嘱を受けて、違法駐車防止のための広報啓発活動や、地域における交通の安全と円滑に資するための活動を行っており、違法駐車防止気運の醸成等に大きく寄与している。
 警察では、関係機関、団体と協力して、地域交通安全活動推進委員等民間の交通安全指導者を対象とする研修会の開催、交通事故実態に関する資料の配布等、地域における交通安全活動が効果的に行われるよう必要な協力を行っている。
(2) 交通安全環境の整備
ア 交通事故多発箇所に対する施策
 警察では、交通事故多発箇所を重点に、信号機等の交通安全施設等の整備を進めている。
 右折時における衝突事故の多発している交差点では、右折矢の付加を行うなど信号機の多現示化を進め、交通の円滑化を図る必要性が特に高い主要幹線道路等では、信号機の系統化を行うなどして、交通流、交通量を整序している。このほか、歩行者用の青信号をメロディ等により知らせる視覚障害者用付加装置を備えた信号機や、高齢者等が携帯している無線発信機等を操作することにより、歩行者用の青信号の時間を長め

図1-6 弱者感応信号機

に設定する弱者感応信号機の整備を図るなど信号機の高度化に配慮している。平成5年度末現在、全国で、視覚障害者用付加装置を備えた信号機は7,483基、弱者感応信号機(図1-6)は599基それぞれ設置されている。
 出会い頭事故、歩行者横断中の事故等が多発している箇所では、その事故類型に応じて、速度規制、一時停止規制、横断歩道の設置等必要な規制を実施するとともに、関係機関に対し、交差点形状の改良、段差舗装、夜間照明の整備等を働き掛けている。また、交通事故が発生しやすいカーブ等では、いわゆる減速マークの路面表示、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制、自動車のヘッドライトの光をよく反射する素材を用いた道路標示の設置等を行っている。
イ 生活ゾーン規制の実施
 子供や高齢者等の交通弱者を保護し、良好な生活環境を保全するため、住宅地域、学校や高齢者が利用する施設の周辺等の地域を対象に区域を設定し、その区域ごとに歩行者専用、車両通行止め、大型車通行止め、一方通行等の交通規制を総合的に組み合わせて、スクールゾーン規制、シルバーゾーン規制等の生活ゾーン規制を実施している。また、自転車交通の多い路線については、自転車利用者の通行の安全を図るため必要な交通規制を進めている。
 5年春の全国交通安全運動終了時において、生活ゾーンは3万8,090箇所(うちスクールゾーンは2万6,289箇所、シルバーゾーンは2,142箇所、その他の生活ゾーンは9,659箇所)設置されている。
(3) 暴走族を許さない社会環境づくり
 暴走族を追放するため、関係機関、団体等で構成される暴走族対策会議が中心となって、地域ぐるみで「暴走を『しない』、『させない』、『見に行かない』」運動を展開し、ボランティアを中心とした暴走族の更生活動、暴走族へのガソリン不売、深夜営業の自粛等を行っている。また、暴走族がい集する地域、暴走行為の頻発する路線について、交通規制のほか、道路管理者等の協力を得て、照明灯の設置、駐車場等の閉鎖措置等、い集や暴走ができない環境づくりを推進している。
〔事例〕 熊本県八代市では、集団暴走を繰り返して警察に検挙された暴走族グループのメンバーを更生させようと、メンバーが居住する地域の警察官と保護司やボランティア、企業主等が更生連絡協議会を結成し、マンツーマンの生活指導、就職相談等の暴走族をやめさせる活動を推進した結果、メンバーを更生させることに成功した。

3 健全な少年の育つ地域社会を目指して

(1) 地域社会と連携した非行防止、健全育成対策
ア 少年を非行から守るパイロット地区活動
 警察では、特に少年を非行から守る必要性の高い地域を「少年を非行から守るパイロット地区」に指定して、地域社会と連携した総合的な非行防止活動を展開しており、平成5年度には、全国で405地区を指定した。これらの地区においては、警察が、非行少年等の補導活動を強力に推進しているほか、地域のボランティアも街頭補導活動を計画的に行っている。また、警察では、最近の少年非行の原因、背景の一つとして少年の規範意識の低下が挙げられることから、家庭、学校、地域社会等と連携しながら、その向上を図るための活動を推進している。特に、健全育成ハンドブック等の広報啓発資料を活用して、主に小学校高学年と中学生を対象とした非行防止教室や少年及びその保護者等との非行防止座談会を積極的に開催しており、5年度には、約1万回の非行防止教室を開催し、延べ約117万人の少年が参加した。
イ 少年の社会参加、スポーツ活動
 少年が地域社会の様々な活動に参加したりスポーツ活動を行うことは、少年相互や地域の人々との触れ合いを通じて社会の一員としての自覚をはぐくむとともに、努力することの大切さを学ぶ良い機会で、少年の健全育成に資するものである。
 このため、警察では、関係機関、団体、地域社会と協力しながら、環境美化活動、社会福祉活動等の社会奉仕活動や伝統文化の継承活動、地域の産業の生産体験活動等地域の実態に即した様々な少年の社会参加活動を展開している。また、スポーツ活動については、特に警察署の道場を開放して地域の少年に柔道や剣道の指導を行う少年柔剣道教室を全国的に開催しており、5年中に約1,100警察署において、約10万人の少年が参加した。5年8月には、これらの教室に通う少年が参加して、(財)全国防犯協会連合会主催の第6回全国警察少年柔道・剣道大会が開催された。
ウ 少年を取り巻く社会環境の浄化
 近年、社会の享楽的風潮を背景として、少年非行の温床となるおそれの高い各種営業が増加しているほか、少年への影響が懸念される図書類や玩具等が自動販売機で販売されたり、違法なピンクビラが公衆電話ボックス等に大量に貼付されるなど、少年の健全な育成に有害な影響を与えるおそれのある社会環境がますます拡大している。このような実態にかんがみ、警察では、地域住民や関係団体、関係機関と連携して、こうした自動販売機撤去の要請や、ピンクビラの一掃活動を行うなど、少年を取り巻く社会環境の浄化に努めている。また、環境浄化の必要性が高い地域を「少年を守る環境浄化重点地区」に指定しており、5年度には全国で268地区を指定した。これらの地区では、地域住民や民間ボランティアが中心となって、少年のたまり場等の浄化運動、環境浄化住民大会の開催等の環境浄化活動を推進している。
エ 少年の非行防止、健全育成対策のささえ
 近年、家庭や地域社会の非行抑止機能が低下していると言われており、これを補完するものとして、地域のボランティアの活動に対する期待は極めて大きいものとなっている。警察では、少年の非行を防止し、その健全な育成を図るため、少年指導委員、少年補導員、少年警察協助員等の民間ボランティアを委嘱しており、これらのボランティアは地域に密着したきめ細かな活動を展開している。
 全国で約5,000人の少年指導委員が少年補導活動や風俗営業者等への協力要請を行っており、また、全国で約1,100人の少年警察協助員が非行集団の解体補導活動を行っているほか、全国で約5万5,000人の少年補導員が街頭補導活動をはじめとする幅広い非行防止活動に従事している。警察では、少年補導員を中心とするこれらのボランティアの連携を強化し、研修の実施等により、その活動を支援している。これを受けて、少年の非行防止と健全育成を目指した活動を推進するため、5年5月20日、社

団法人全国少年補導員協会が設立された。
(注) 少年指導委員、少年補導員、少年警察協助員の数は、平成6年4月1日現在のものである。
〔事例〕 愛媛県大洲警察署の少年補導員が、伊予長浜駅を利用している中、高校生約40人に呼び掛け、駅及びその周辺の落書き消しと清掃、施設の修繕等を行った。
オ 関係機関、学校、職場等との連携
 警察では、少年の非行防止、健全育成対策の実効を期するため、教育委員会等の関係機関との緊密な連携を図っており、昭和54年からは、地域社会と一体となった総合的な非行防止活動を展開するため、「青少年を非行からまもる全国強調月間」において、知事部局等の関係機関と連携した各種の活動を実施している。
 また、無職少年の非行防止対策の観点から、関係機関と連携し、民間ボランティアの協力を得て、就労、就学を希望する無職少年の支援活動を推進している。
 さらに、児童、生徒や勤労少年の非行を防止し、その健全な育成を図るためには、学校や少年を雇用している職場との緊密な連携が不可欠であることから、全国で約2,700の学校警察連絡協議会と約700の職場警察連絡協議会が結成されている。
(注) 学校警察連絡協議会、職場警察連絡協議会の数は、平成6年4月1日現在のものである。
(2) シンナー等の薬物乱用の根絶
 シンナー等の薬物乱用は、乱用者本人の心身を害するばかりでなく、乱用による幻覚等から他人を傷つけたり、薬物の購入を通じて暴力団とのつながりができるなど、少年の健全な育成の大きな障害となっている。
 警察では、乱用される薬物が、暴力団等によって組織的に密売されている例が多いことから、その取締りを強化するなど薬物乱用の供給遮断対策を強力に進める一方、小・中学校の児童、生徒に対する薬物乱用防止教室等を積極的に開催している。
 また、地域のボランティア等も薬物乱用少年の早期発見のための街頭補導活動、薬物乱用防止の広報啓発活動等を行っている。これらの対策が一層の効果を挙げるため、警察では、地域住民等に対して、薬物乱用防止への取組みに積極的に参加するよう働き掛けを行うなど、薬物乱用を拒絶する社会環境づくりの推進に努めている。
〔事例〕 茨城県警察では、シンナー乱用による女子中学生の集団自殺が発生したことから、地元の村役場、議会、中学校、少年指導委員等の関係機関、団体に働き掛け、緊急対策会議を開催した。同会議において「青少年を育てる村民の会」の設置を決定し、地域社会と関係機関、団体が一体となって、薬物乱用の防止をはじめ青少年の健全育成のための活動を推進している。

4 思いやりのある優しい地域社会を目指して

(1) 高齢者を守る活動
 警察では、犯罪や事故からの高齢者の保護、防犯運動や交通安全運動等への高齢者の社会参加を二本柱とする「長寿社会総合対策要綱」により、地域の実情に応じた長寿社会対策を推進している。また、都道府県防犯協会、地区防犯協会等でも、高齢者部会を設け、高齢者の保護と社会参加活動を高齢者自身の立場から推進するための活動を行っている。
ア 独居高齢者等に対する保護活動
 警察では、高齢者を犯罪や事故から保護するため、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問し、その実態を把握するとともに、防犯指導を行って

いる。また、シルバーデー、独居高齢者宅訪問日を設定して、計画的、集中的に巡回訪問等の活動を行っているほか、各種パンフレットの配布、老人クラブや老人ホーム等における防犯教室、防犯講習会の開催等の活動を積極的に行っている。
〔事例1〕 独居老人に、身体の調子が良いときには黄色い旗を玄関先に掲げてもらうこととし、旗の掲げられていない時には、すぐに地域警察官が訪問に行くこととして、好評を博している(宮崎)。
〔事例2〕 痴呆性老人が歯医者に出掛けたまま帰らないという届出がなされたため、交番の警察官が同人を捜索し、路上をはいかいしていた同人を発見、保護した(熊本)。
イ 高齢者の社会参加活動の推進
 警察では、高齢者が安心して生きがいをもって生活できるように、高齢者による地域に密着した自主防犯活動、環境浄化活動等の社会参加活動を促進し、地域の連帯感や相互扶助機能の強化を図っている。
 また、世代間の交流を通じ、高齢者がその知識と経験をいかして青少年の健全育成活動に当たるための様々な行事等も行っている。
ウ 長寿社会パイロット地区活動
 警察では、長寿社会対策の効果的な推進を図るため、昭和62年度から、高齢化が進んでいる地域90地区を「長寿社会パイロット地区」に指定している。これらの地区においては、関係機関、団体等と連携して、犯罪や事故の被害者となりやすい高齢者を対象とした防犯座談会、防犯教室を開催し、犯罪や事故の防止について啓発を行うとともに、希望者を募り、防犯運動、交通安全運動等の地域に密着した活動への参加を促進している。
(2) 障害者を支援する活動
 警察では、障害者の気持ちに配意した活動を推進しているところであり、地域警察官が巡回連絡等を通じて障害者を積極的に訪問し、防犯指導を行うとともに要望、意見の聴取に努めている。また、個々の警察官の発意により障害者を支援するための様々な取組みを行っている。
〔事例〕 平成5年11月、布施警察署近鉄駅前交番では、聴覚障害者が気軽に警察に相談できるように手話通訳のできる地域警察官を配置し、「手話交番相談所」を開設した(大阪)。

 このほか、全国の約3分の2の都道府県警察において、聴覚障害者からファクシミリで緊急通報を受けるファックス110番を実施しているほか、交番等において障害者の便宜に配意した改善を進めている。
〔事例〕 6年4月、車いすでの利用を考慮し、入口にスロープを設け、車いすの高さに合わせたインターホンを設置するなどの措置を講じた交番を開設した(島根)。

(3) 外国人を支援する活動
 来日外国人の増加は、地域社会における外国人の増加となって現れている。その結果、日本人の中には、外国人に対する認識や理解の不足から、漠然とした不安感、違和感を抱いている者が多い。一方、外国人の側でも、地域住民とのコミュニケーションが希薄であり、不安を感じたり、犯罪や事故に遭ったときにどのように対処したらよいのか分からない者も多い。
 警察では、このような外国人が犯罪や事故の被害に遭うのを防止する

ため、防犯懇談会等を開催し、外国語で書かれたパンフレットを配布して防犯上の心得や警察への通報要領等について指導を行っているほか、相談窓口を整備するなどして外国人からの困りごと相談に対応している。
 また、外国人を雇用したり、研修生を受け入れている企業等に対し、連絡協議会の結成を促し、これらの協議会と連携しながら、外国人に対する防犯指導の徹底を図っている。
 さらに、外国人と警察とのパイプ役として、要望の把握や相談の受理等を行う外国人の防犯連絡所責任者や外国人労働者を事件、事故等から守る外国人防犯指導員を委嘱するなど、外国人の防犯、保護関係のボランティアの支援にも力を注いでいる。
〔事例1〕 滋賀県警察では、外国人が日常生活や就労の場でコミュニケーションを適切に図ることができるように、知事部局と協力し、警察編、生活編、労働編の3篇からなる「外国からきた皆さんのためのガイドブック」(中国語、英語、スペイン語、ポルトガル語)を作成し、配布した。

〔事例2〕 愛媛県警察では、外国人雇用企業等が、自主的に又は警察と協力して、外国人労働者を事件、事故による被害又は悪質ブローカーによる被害から守るため、各企業の人事、労務担当者37人を外国人防犯指導員として委嘱した。
(4) 住民の立場に立った相談業務の推進
 警察では、困りごと相談、少年相談、消費者被害相談、覚せい剤相談、民事介入暴力相談、交通相談等各種の相談業務を推進し、住民の様々な相談に対して必要な助言等を行うとともに、警察だけでは対応できないものについては、他の機関を紹介するなどの措置を講じている。また、相談受理体制を整備して、相談者の利便とプライバシーに配意した適切な相談業務の推進に努めている。
ア 総合相談室
 警察では、従来、相談の種類ごとに窓口を設置し、相談業務の充実を図ってきたが、その反面、窓口が多数になり、相談者にとって分かりにくいという問題が生じてきたため、平成2年から窓口を一本化した総合相談室を警察本部に設置している。
 また、電話による各種の相談についても、これまでは、「ヤング・テレホン・コーナー」、「悪質商法110番」、「困りごと110番」等、相談の種類ごとに各種の相談専用電話を設置してこれに応じていたが、相談者の利便を図るため、警察本部の総合相談室に全国統一番号の相談専用電話「#(シャープ)9110番」を設置し、プッシュホン電話で「#9110」を押せば、警察本部の総合相談室につながるようにしている。
イ 困りごと相談
 5年における困りごと相談の受理件数は20万2,800件で、前年に比べ3,033件(1.5%)増加した。また、5年に受理した困りごと相談の内容は表1-17のとおりで、防犯問題が最も多く全体の35.8%を占めており、前年に比べ民事問題は6,741件(17.0%)減少した。
 5年における困りごと相談の処理状況は、表1-18のとおりである。

表1-17 困りごと相談の内容(平成5年)

表1-18 困りごと相談の処理状況(平成5年)

ウ 少年相談
 警察では、少年の非行、家出、自殺等の未然防止及びその兆候の早期発見のために少年相談の窓口を設け、自分の悩みや困りごとを親や教師に打ち明けることのできない少年、子供の非行その他の問題で悩む保護者等からの相談に対して、心理学等に関する知識を有する専門職員や経験豊富な少年係の警察官、婦人補導員が必要な指導や助言を行っている。また、ヤング・テレホン・コーナー等の名称の電話による相談業務やデパート等での出張相談業務も行っている。
 5年に警察が受理した少年相談の件数は8万8,935件で、少年自身からの相談では、性、健康問題、交友問題に関するものが多く、保護者等からの相談では、非行問題等に関するものが多い(図1-7)。

図1-7 少年相談の内容(平成5年)

5 暴力を許さない地域社会を目指して

(1) 地域暴排活動
 暴力団は、日常的に、その組織の威力を背景とした民事介入暴力などの不法、不当な手段により一般市民を対象として資金の獲得を図っているほか、その縄張りの維持拡大をめぐって頻繁に対立抗争を引き起こすなど、地域社会の安全にとって重大な脅威となっており、暴力を許さない地域社会を実現するためには、地域社会における暴力団の存立基盤を掘り崩すための地域暴排活動が大変重要となっている。
 この地域暴排活動は、平成3年5月の暴力団対策法の制定及び警察の暴力団に対する強力な取締りや暴力相談活動の強化を契機として、国民の暴力団壊滅を求める機運がかつてないほど高まったことにより、全国各地で草の根活動的に発生し、かつてない勢いで展開されることとなったが、翌年、民間の自主的な暴排活動を支援する暴力追放運動推進センターが全国47都道府県に設置されると、さらに活発化し、今日に至っている。
 その結果、全国各地において、暴力追放県(市、町、村)民大会の開催、「暴力団ゼロの町」宣言等自治体における暴力団排除決議(既に、全国約3,300自治体の約8割に当たる自治体で実施済み。)や暴力追放パレードの実施、暴力団事務所の進出阻止及び撤去活動、祭礼における露天市場からの暴力団露天商の排除、暴力追放モデル地区活動、暴力追放モデルビルの指定等多種多様な地域暴排活動が行われている。
〔事例1〕 福岡県大牟田地区及び熊本県荒尾地区に勢力をもつ指定暴力団二代目道仁会の傘下組織である暴力団の組長の殺害事件が発生したことを契機に、県境をまたがって両地区に所在する福岡県大牟田市並びに熊本県荒尾市及び高田町の約1,000人の住民を集めて暴力団排除総決起大会が行われ、大会に引き続き、参加者全員による暴力団事務所へ向けてのパレードが行われた(平成6年4月、福岡)。
〔事例2〕 愛知県警察においては、昨年来、深夜飲食店やパチンコ店等の風俗関係営業店が密集し、暴力団の介入が容易であると認められる数地区の繁華街を暴力追放モデル地区として指定し、同地区において暴力団の強力な取締りを行うほか、関係機関、団体との緊密な連携を図りながら、暴力追放決起大会の開催、暴排パレード、暴排キャンペーンの実施、暴力団事務所撤去活動の推進等により同地区からの暴力団の排除を図っている。
(2) 暴力団事務所の建設阻止及び撤去活動
 暴力団事務所は、暴力団活動の拠点であり、対立抗争が発生した際の拠点となることなどから、周辺の住民に著しい危険や不安感を与えているが、暴力団対策法の制定、施行を契機に、全国的に暴力団排除気運が著しく高まったことによって、各地域において住民、警察、都道府県センター及び関係機関等が一体となって暴力団事務所の建設阻止及び撤去活動が推進されている。その結果、住民が暴力団事務所に対する使用禁止の仮処分や執行官保管の仮処分等を求める民事訴訟を提起し、あるいは地方公共団体が暴力団事務所建設予定地を買い取るなど、様々な形での運動が活発に行われている。平成5年中においては、193箇所において暴力団事務所が建設を阻止され、又は撤去された。
(3) 地域社会における職域暴排活動
 暴力団対策法の制定、施行を契機として、従来、暴力団の資金源となり、暴力団の介入を受けることの多かった建設業、遊技業、飲食店業、風俗営業等の各種業界が、暴力団との絶縁のための立ち上がりをみせている。地域や地区ごとに団結して暴力団排除組織を結成したり、暴力団排除総決起大会を開催したりすることにより、暴力団との絶縁宣言を行い、みかじめ料や用心棒料の提供を拒否したり、暴力団からの年末のしめ飾りや門松等の購入を拒否したりするなどの職域暴排活動が活発に行われている。
〔事例〕 5月、浪江地区暴排協議会並びに同地区の遊技業業者及び飲食店業者は、県警による同地区を縄張りとする暴力団員の検挙を契機にみかじめ料の提供を拒否することを決定し、同地区の遊技業業者及び飲食店業者の連盟によるみかじめ料拒絶状を暴力団幹部に交付し、今後はいかなる名目によってもみかじめ料を支払わないことを通告した(福島)。


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