第1節 地域を守る警察活動

 地域警察は、交番、駐在所を中心として、地域住民にとって最も身近なレベルの地域安全活動を行っており、安全で安心な生活の実現が求められる今日、このような地域安全活動の重要性はますます高まっている。
 すなわち、交番、駐在所、警ら用無線自動車(パトカー)等に勤務する地域警察官は、「生活安全センター」として位置付けられた交番、駐在所において直接地域住民と接しながら、昼夜にかかわりなく発生するすべての警察事象に即応する活動を行い、地域住民の日常生活の安全と平穏を守っている。
 また、事件、事故等が発生した場合には、110番通報や通信指令の機能を活用して、迅速、的確な対応を行っているほか、水上警察や鉄道警察等の活動を通じて、あらゆる地域における人命の救助や犯人の検挙等の活動を行っている。

1 地域の「生活安全センター」-交番、駐在所

 伝統的な地域社会が変貌するに伴い、地域警察は、地域住民とともに、地域住民が安心できる安全で快適な住環境(アメニティー)づくりを進めていくことが求められている。このため、地域社会における生活安全センターたる交番、駐在所を中心として、パトロール等地域の安全を守るための諸活動に従事するとともに、より地域に根ざした警察活動を行うため、地域住民との触れ合いを深める様々な活動を推進している。また、最近の社会情勢の変化に伴う地域住民の多様なニーズにこたえるため、交番、駐在所の機能の充実を図っている。
(1) 地域住民に身近な交番、駐在所
 交番、駐在所(以下「交番等」という。)は、地域警察活動の拠点として各地に所在し、地域住民のための「生活安全センター」としての役割を果たしている。
 平成5年4月現在、交番は、事件、事故等警察事象が比較的多い都市部を中心に全国に約6,500箇所設置されており、原則として1当務3人以上の交替制勤務の警察官によって運用され、一定の地域を受持ち区域(所管区)とし、その地域の安全について第一次的な責任を担っている。

 また、駐在所は、5年4月現在、主として町村部を中心に全国に約8,700箇所設置されており、警察官が、勤務場所と同一の施設内に居住しながら、地域の治安の第一次的な責任者として常時警戒に当たるとともに、勤務時間内はもとより、それ以外の時間においても事件、事故、急訴、住民の要望等に素早く対応している。
 駐在所では、夫である警察官の業務をその夫人が陰で支えている。夫が事件、事故の処理やパトロールのために駐在所を不在にした場合には、夫に代わり、地理案内、駐在所を訪れる地域住民からの落とし物の届出

や事件、事故発生の届出に対する警察署等への通報、連絡等を的確に行い、地域住民の信頼を得ている。このように、駐在所夫人は、夫とともに駐在所に居住し、家事、育児に追われながら、夫の仕事を助けるパートナーとして苦楽を分かち合いながら日々の生活を送っている。
〔駐在所夫人体験記〕
~心の触れ合い~

大分県中津警察署洞門駐在所 提 紀久代

 「お元気ですか・・・」と独り暮らしの老人の方々にハガキを書き始め、2年が経ちました。主人が、小説「恩讐の彼方に」で有名な「青の洞門」のある駐在所勤務となったのは、2年6か月前のことです。
 駐在所生活で、私の心を引き付けたものは、ピンク色の「高齢者連絡カード」でした。管内は590世帯なのですが、なんと人口の約1割が独り暮らしの老人なのです。カードをめくるたび、「駐在所夫人として、何とかしてあげなければ・・・」と心は重くなりました。
 ある朝、駐在所のドアに新鮮なお野菜と手紙の入った紙袋が下がっていました。近所のおばあちゃんが、私が届けた煮物のお礼に来られたことが分かりました。心のこもった手紙を拝見し、これなら独り暮らしの方々との触れ合いがもてると思い、早速、ハガキを買い、皆さんに我が家の近況などを書きました。これをきっかけに、たくさんの方が駐在所に遊びに来られるようになりました。
 主人が駐在所勤務になって、我が家では、それぞれが自覚をもって行動し、協力し合うようになりました。3歳だった娘も、覚えたひらがなで、皆さんに手紙を書きました。今、娘は4歳、皆さんに4回目の手紙を書き終えたばかりです。
 昨年上陸した台風19号は、県下に大きなダメージを与えました。主人は、町の明かりが消え、吹き付ける風の中を被害の確認に出て行きました。私は、懐中電灯の明かりを頼りに、皆さんに電話を掛けることにしました。私の声を聞くなり、「奥さん」と後は言葉にならない方など、どなたも不安と恐怖の夜を独り寂しく耐えられていたのです。台風が去った後、多くの方が駐在所に無事な姿を見せてくださいました。あれから1年、63人だった独り暮らしの方も今は57人、亡くなられた方、体調を壊され子供さんの所へ行かれた方と様々です。これからも、娘と一緒に、月1回のハガキでのお便りは続けていきたいと思います。
 駐在所での生活には、驚くこともたくさんありました。夜寝静まったところへ、通りすがりの人がお手洗いを借りに来たり、夫婦喧嘩の末、血を流し駆け込んで来られたり、ついお説教をしたり、交通事故に遭った方の応急手当をしたりと、挙げれば切りがありません。
 駐在所生活で何が変わったって、私自身が一番変わったのかもしれません。以前は対人関係を煩わしいとさえ思っていたのですから。駐在所は、私のたった一度の人生の中で、自分を成長させる最高の場所だと感謝しております。少々危険もありますが、これからも私にできる精一杯のことをして、たくさんの方々と心の触れ合いを深めていこうと思います。
 ~地域警察官・家族の体験記「赤い門燈」第7集から抜粋~
 このように、交番等は、住民にとって最も身近な警察機関であり、そこに灯された「赤い門燈」は、地域の人々の安心感のよりどころとなっている。
(2) 地域警察官の日々の活動
ア 身近な相談の機会、巡回連絡
 巡回連絡は、交番等の地域警察官が受持ち区域の家庭、事務所等を訪問し、防犯、事故防止等についての指導を行うとともに、地域住民の困りごと、要望、意見等の聴取に当たる活動である。その際、災害や事故の発生時における緊急連絡や事故防止の指導連絡等に役立てるため、非常の場合の連絡先等を尋ねている。
 最近は、共働き等による昼間不在家庭の増加や居住者の移動の激しいアパート、マンションの増加等により、警察から住民への連絡が次第に

図1-1 地域警察官の主な活動

表1-1 ある交番勤務の地域警察官の一日

困難になってきているため、地域警察官は、休日や夕方に巡回連絡を実施するなどして、住民とのコミュニケーションの確保を図っている。
〔事例〕 パン屋を営む女性高齢者を巡回連絡で訪問したところ、毎週店に酔っ払いが来るので困っていると相談を受けたので、その酔っ払いに注意した。同女からは以後酔っ払いが来なくなったと感謝されている(兵庫)。
イ パトロール等の防犯活動
 地域警察官は、地域の安全と平穏を守るため、パトロール、防犯指導、防犯診断、各種防犯懇談会、防犯広報等の防犯活動を実施している。
 パトロールは徒歩又はパトカー等を使用して行う。その際は、無線機を携帯して常に警察署やパトカーと連携を取りながら、夜道を警戒し、水難危険箇所等を見回り、戸締まりの不十分な家庭や無施錠の車両等に対して防犯上の注意を促す等の活動を行うとともに、パトロールメモ等により、地域住民に対し、身近な犯罪、事故、災害の発生状況や防犯上のノウハウ等の地域の安全確保に必要な情報を提供している。
〔事例1〕 長野県飯田警察署では、交番等の地域警察官が、管内の企業を朝礼時に訪問する「おはよう企業訪問活動」を実施し、盗難、交通事故等の未然防止に関する講話を行っている。
〔事例2〕 冷夏による米の凶作に伴い米泥棒が多発したことから、交番等の地域警察官が、地域の農家、防犯協会員と合同で、夜間、農協集積場等に対するパトロールを行うとともに、米泥棒防止の看板を設置した(秋田)。
ウ 事故防止のための交通安全活動
 交番等の地域警察官は、管内の主要交差点等における交通監視、登下校時の学童交通安全指導、交通安全教室の開催、迷惑駐車等悪質交通違反の取締り等地域の実情に即した交通安全活動を行っている。
〔事例〕 駐在所勤務の地域警察官は、学校や老人ホームを回って、手品と腹話術を用いた交通安全指導を行っている(大阪)。
エ 酔っ払い、迷い子等の保護活動
 交番等の地域警察官は、個人の生命、身体を守るため、酔っ払い、迷い子等応急の救護を要する者についての保護活動を行っている。
 5年中の保護総取扱い人員は17万7,313人であり、そのうち交番等の地域警察官による保護は14万2,466人で、保護総取扱人員の80.3%を占めている。最近5年間の保護取扱状況は、表1-2のとおりである。

表1-2 保護取扱状況(平成年~5年)

〔事例〕 1月6日午前0時30分ころ、交番に「夫が酒を飲みに行ったまま帰らない。」との保護願届出があったため、付近一帯を捜索したところ、約30分後、りんご畑で泥酔状態で寝込んでいる凍死寸前の同人を発見、保護した(福島)。
 また、家出人の発見、保護にも努めている。5年における家出人捜索願の受理件数は8万1,458件(前年比3,811件(4.5%)減)である。最近5年間の家出人捜索願の受理件数の推移は、表1-3のとおりである。
 このうち、犯罪に巻き込まれ、又は自殺するおそれ等がある家出人については、これを特異家出人として受理し、特に迅速な発見、保護に努めており、5年の件数は、全捜索願受理件数の17.5%を占める。
 5年の家出人の発見数(捜索願未受理の家出人を発見した場合を含む。)は7万7,638人(前年比5,423人(6.5%)減)である。このうち、特

表1-3 家出人捜索願の受理件数の推移(平成元~5年)

表1-4 家出人の発見の端緒別状況(平成5年)

 異家出人の発見数は1万4,226人であった。家出人の発見の端緒別状況は表1-4のとおりで、自ら帰宅した家出人とその他を除くと、地域警察官の職務質問等によるものが10.6%で最も多い。
オ 災害時における人命救助活動
 地域警察官は、事件、事故、災害、水難、火災等を認知した場合、直ちに現場に急行して負傷者、被災者等の救出、救護等の人命救助活動を行っている。
〔事例1〕 北海道南西沖地震において、奥尻島の駐在所勤務の地域警察官は、地震発生後、直ちに現場に急行し、被災者の救助活動に従事し、津波により負傷した女性や子供の救助、被災者の避難誘導、消火活動等に従事する一方、夫人は、避難してきた負傷者の応急手

当、身の回りの世話を行うとともに、ライフラインが途絶した中を無線機で警察、消防等の応援部隊に的確に被災状況を報告、部隊の誘導に当たる等夫婦一体となった救助活動を行った(北海道)。
〔事例2〕 8月6日、鹿児島豪雨災害において、パトカー勤務の地域警察官2人は、豪雨による土石流の危険が切迫していると判断し、渋滞で停車中の自動車の運転者等に対して車を捨てて避難するよう呼び掛け、誘導して避難中、警察官1人を含む10数人が土石流に巻き込まれ海に流されたが、自力で脱出して救助活動を続行し、多数の者を安全地帯に避難誘導した(鹿児島)。

カ 祭礼時等の雑踏警備活動
 地域警察官は、地域の祭礼等の伝統行事及び各種スポーツ大会、イベント等に際し、交通整理、行事に際して発生するすり、小暴力事案の監視、迷い子や泥酔者の保護、救護等の雑踏警備活動を行い、地域住民が安心してこれらの行事を楽しめるように努めている。
 なお、雑踏警備活動については、第9章4参照。

キ 少年の非行防止活動
 交番等の地域警察官は、少年の非行を防止し、その健全育成を図るため、非行少年のたまり場等に対するパトロールや少年相談活動、ボランティア団体と合同による街頭補導活動等を行っている。
〔事例〕 母親が長期入院していたため一人暮らしをしていた少年が、暴走族グループに入り、同人の家が暴走族のたまり場になったことから、交番勤務の地域警察官が、就職の世話や生活指導等に当たって同人を更生させた(山梨)。
ク 困りごと相談への対応
 交番等には、様々な困りごと相談、要望、意見等が寄せられている。
 平成5年12月の1箇月間に全国の交番等に寄せられた困りごと相談等の件数は約29万件で、その内容も家庭不和や蜂の巣の駆除から犬の鳴き声の苦情に至るまで様々なものとなっている(表1-5)。これらの約89%は、交番等の地域警察官の助言、指導により解決しており、交番等の地域警察官だけでは対応できないものについては、交通、防犯、少年、刑事等の担当係と連携し、また、警察だけでは対応できないものについては、他の関係機関を紹介するなどして解決を図っている。

表1-5 交番等における困りごと相談、要望等の受理状況(平成5年12月)

ケ 遺失物の取扱い等の窓口業務
 交番等の地域警察官は、被害届、遺失届、拾得届等の受理、地理案内等様々な業務を行っており、警察署から遠隔地にある交番等の地域警察官の中には、交通、防犯関係の許可事務を取り扱っている者もある。
 遺失物を早期に発見し、これを速やかに返還するための遺失、拾得届の受理業務は、交番等の地域警察官が行う重要な業務である。5年に警察が取り扱った遺失届は約272万件(通貨約474億円、物品約617万点)であり、また、拾得届は約389万件(通貨約155億円、物品約909万点)であった。拾得届のなされた金品のうち、通貨については72.7%、物品については26.5%がそれぞれ遺失者に返還されている。最近5年間における遺失物、拾得物の取扱状況は、図1-2のとおりである。

図1-2 遺失物、拾得物の取扱状況(平成元~5年)

コ 犯罪検挙と盗難被害品の回復
 地域警察官は、パトロール時の職務質問等を通じて、犯人の早期発見と検挙に努めている。
 5年に警察が検挙した刑法犯検挙人員の74.8%に当たる約22万人を交番等の地域警察官が検挙(表1-6)したほか、覚せい剤事犯や交通法犯等の特別法犯検挙人員についても全体の約49.9%を検挙している。

表1-6 地域警察官の職務質問等による刑法犯検挙人員(平成5年)

〔事例〕 9月、警ら中のパトカーが、深夜、道路に駐車していた不審な県外ナンバーの車両の運転者に対して職務質問を行ったところ、助手席に両手足をガムテープで縛られた少年を発見したため、同人を無事保護するとともに運転者を身代金目的誘拐等で検挙(岡山)
 また、盗難被害品については、その早期回復を図るため、パトロール等を通じて発見に努めている。5年12月の1箇月間に、交番等で受理し

表1-7 盗難被害品の発見返還状況(平成5年12月)

た盗難被害届は約11万件(総受理件数の83.7%)で、このうち地域警察官による盗難被害品の発見返還状況は、表1-7のとおりである。
(3) 地域住民との触れ合いを深めるために
 地域警察官は、地域の安全問題解決に資するべく、様々な活動を通じて地域住民との触れ合いを深めようと努めている。
ア 地域に密着した「交番、駐在所連絡協議会」
 警察では、交番等を単位として、居住者の移動の激しいアパート、マンション等がある地域や事件、事故等が多発している歓楽街等を中心に「交番、駐在所連絡協議会」の設置を進めている。この協議会は、所管区内の自治会役員やアパート、マンションの管理人、商店街の役員等から構成され、地域警察官が地域の問題や警察に対する要望、意見等を聴き、また、警察からも防犯、交通安全等に関する必要な助言、指導を行い、地域ぐるみで犯罪や事故のない街づくりを進めていこうとするものである。5年末現在、協議会は全国で7,243箇所設置されている。
 また、警察では、協議会が設置されていない交番等も含めて、所管区

ごとに地域の抱える問題の中から重要なものを一つずつ順に取り上げ、地域の住民や関係機関等とともに解決を図っていく「一所管区一事案解決運動」を推進している。
〔事例〕 愛知県東海警察署の駐在所では、「交番、駐在所連絡協議会」の席上、付近の海岸における花火、オートバイ暴走行為等の若者の深夜遊びの取締りが求められたので、これを一所管区一事案解決運動に取り上げ、地域住民、自治体、関係機関等と対策会議を開催して住民パトロールを行うこととしたほか、通行禁止時間帯の設定等による取締りを行った。その後、若者の深夜遊びは激減した。
イ 地域の身近な話題を伝える「交番新聞」
 全国の交番等の96.8%に当たる約1万5,000箇所の交番等では、それぞれ独自にミニ広報紙を発行している。これらの広報紙は、交番等の地域警察官の手作りによるもので、所管区内の事件、事故等の発生状況とその防止策、善行児童の紹介、住民の声等身近な話題を伝える「交番新聞」として広く地域住民に親しまれており、単に警察と地域住民を結ぶもの

としてだけではなく、地域住民相互の心の触れ合いの場として大きな役割を果たしている。
ウ 地域警察官の地域コミュニティー活動
 地域警察官は、祭礼、奉仕活動等の地域行事に参加したり、地域住民が自主的に行う交通安全運動、防犯活動等を支援したりするなど、地域住民との交流を目的とした地域コミュニティー活動を行っている。特に、駐在所勤務の地域警察官は、駐在所を訪れる地域住民との触れ合いを深めるため、種々の地域コミュニティー活動を行っている。
〔事例〕 山間部の降雪地域において、駐在所勤務の地域警察官が、地域ぐるみで行われている高齢者世帯等の屋根の雪下ろしを手伝っている(岡山)。
 また、地域警察官は、住民との交流を図るため、休日や非番日を利用し、スポーツ、趣味等を通じたボランティア活動を行っている。5年末現在、全国の約3,000箇所で、約3,700人の地域警察官がボランティア活動を行っている。地域警察官が行っているボランティア活動は、表1-8のとおりである。
エ 地域住民と警察官を結ぶ「CR名刺」
 地域住民との触れ合いを深めるためには、個々の地域警察官が地域住民に親しみをもってもらうことが必要である。このような観点から、警察では、警察官本人の顔写真や似顔絵等を刷り込んだ「CR名刺」(CR:Community Relations、コミュニティー・リレーションズ)の配布を進めている。
 巡回連絡の際に住人に会うことができなかった場合であっても、「CR名刺」を置いていくことで当人から警察官に対する名指しの連絡があるなど、「CR名刺」は地域住民と地域警察官との親近感を高める上で大きな効果が認められる。

表1-8 地域警察官による地域ボランティア活動(平成5年末現在)


住民と警察を結ぶ音のかけ橋、警察音楽隊
 警察音楽隊は、各都道府県警察と皇宮警察に48隊が置かれており、隊員は約1,800人である。そのほとんどの隊が、婦人警察官、交通巡視員等の女性隊員から成るカラーガード隊を編成している。
 隊員の多くは、警察業務に従事する傍ら、勤務の合間を利用して訓練を重ね、交通安全運動や防犯運動等の行事に出演しているほか、小、中学校等における音楽教室での演奏、福祉施設等での慰問演奏、昼休み時間を利用したコンサート等地域住民に親しまれる演奏活動を行っている。平成5年には、全国各地で約4,500回の演奏活動を実施し、聴衆の数は延べ約1,800万人に達した。
 また、5年7月31日、8月1日には、福井市において第38回全国警察音楽隊演奏会が行われ、全国から37隊、約1,700人が参加して、ステージドリル、フロアドリルの演技や市中パレードを行い、地域住民との交流を深めた。


(4) 生活安全センターとしての交番等の機能を高めるために
 交番等が最近の社会情勢の変化に伴う住民の多様なニーズにこたえ、地域住民と警察との交流を深めるための拠点として機能するように、警察では、交番等の生活安全センターとしての機能を一層高めるため、その運用面、設備面での改善を図っている。
ア 交番所長制度
 警察では、交番において、日勤制の勤務を行うことにより交番の業務全体を責任をもって統括し勤務員全員を監督する交番所長を配置している。この制度は、地域住民の要望、意見を集約し、地域の実情に即した活動を促進することを目指したものであるとともに、交替制勤務の弊害であった事務引継ぎの問題を解消する上で有効である。
イ 交番等のブロック運用
 地域の特性に沿った弾力的な警察活動を推進し、地域における警戒体制を一層充実させるため、近接した交番等を組み合わせてブロック単位で運用し、パトロール等で不在となった交番等への応援や合同パトロールを実施している。
ウ 交番相談員とハイテク交番
 地域住民が、事件、事故に関する急訴や困りごと相談のため交番等を訪れても、事件、事故への対応やパトロール等の所外活動のため警察官が不在である場合が少なくない。このため、警察では、勤務員の不在時



対策として、交番等の勤務要員の確保やパトカー勤務員の立ち寄り等運用方法の改善に努めているほか、警察職員OBを嘱託員として交番等に配置し、事件、事故の届出の取次ぎや地理案内、遺失物取扱い等の業務を行う「交番相談員制度」の導入を進めている。また、警察官が不在の場合でも地域住民が警察に連絡を取ることができるようにテレビ電話対話システム、不在電話転送装置等を設置した「ハイテク交番」も導入している。
エ コミュニティー・ルームの設置等
 地域住民と交番等とがより一層交流を深めることができるように、地域住民が気軽に立ち寄り、警察への相談や防犯についての会合等を行うためのコミュニティー・ルームを交番等の所内に設置しているほか、老朽化施設の整備改善を進めている。
 また、地域住民と交番等が相互に情報の交換をするために、ファクシミリ等の装備資機材を交番等に整備している。
〔事例〕 10月、児童を対象とする強制猥褻(わいせつ)事件が連続して発生したため、パトロールを強化するとともにファクシミリで地域の保育所、幼稚園、小学校に犯人の特徴、犯行の時間帯、手口、被害防止対策等の情報を提供したところ、被害の発生がなくなった(静岡)。
オ ミニパトカー等の整備
 駐在所は、管轄面積が広いことが多く、巡回連絡や所管区内のパトロール等には機動力を有する車両が不可欠である。このため警察では、3年度から5箇年計画でミニパトカーの駐在所への整備を推進している。
 また、交番等が、広域化、スピード化する犯罪に対処して所管区内の犯罪に対する監視力、抑止力を高めるとともに、よりきめ細かな警察活動を行うため、今後、拠点交番にミニパトカーやパトロール用オートバイを整備して機動力の強化を図ることとしている。

2 事件、事故に即応する警察活動

(1) 市民に定着した110番
 警察では、事件、事故等が発生した際に、市民からの通報を迅速に受け付け、的確に対応するため、通信指令システムを設けているが、この中で重要な役割を果たし、市民の安全を守るホットラインとなっているのが「110番」である。
ア 110番の現状
 110番は、緊急かつ重大な事件、事故等に警察が迅速に対処するための緊急通報である。犯罪が広域化、スピード化するに伴い、110番通報が事件、事故等の早期解決に果たす役割はますます大きくなっている。
 平成5年に全国の警察で受理した110番の件数は約500万件で、前年に比べ約20万件(3.9%)増加した。これは、6.2秒に1回、国民25人に1人の割合で利用されたことになる。110番の受理件数を内容別にみると、

図1-3 110番の内容別受理件数(平成5年)

表1-9 110番受理件数の推移(昭和59~平成5年)

1-3のとおりで、交通事故、交通違反の通報が約185万件(36.6%)と最も多く、刑法犯被害の届出は約34万件(6.8%)となっている。なお、過去10年間の110番受理件数の推移は、表1-9のとおりである。
 110番通報の中には、電話番号の間違いやいたずら電話等誤通報もかなり多く、これらは、事件、事故の発生時等緊急の場合における110番通報の障害となっているほか、正常な警察活動を阻害する要因ともなっている。5年7月に行った誤通報件数調査によると、7月の1箇月間に全国の警察本部で受理した110番通報70万4,414件中33.2%に当たる23万3,872件

図1-4 110番通報中の誤通報の割合(平成5年7月)

が誤通報であった。調査期間中における誤通報の内訳は、図1-4のとおりである。
 警察では、毎年1月10日を「110番の日」と定め、市民に対して110番の一層適切かつ積極的な利用を呼び掛けている。
イ 通信指令システムの概要
 110番通報その他事件、事故の発生時における緊急通報を迅速かつ集中的に処理するため、警察では、都道府県警察ごとに通信指令室を設けている。通信指令室は、110番通報をはじめとする各種情報を集中的に運用しており、警察の窓口、警察活動の中枢としての機能を有している。
 通信指令室では、110番通報を受理すると、直ちにパトカーや交番等の警察官を現場に急行させるとともに、必要に応じて緊急配備の発令、他の都道府県警察本部への通報等を行い、警察官を迅速かつ組織的に動員することにより、人命の救助、犯人の早期検挙等に努めている。

ウ 緊急配備
 重要事件が発生した際、犯人の迅速な検挙と事後の捜査資料の収集を目的として、交番等の地域警察官を臨時かつ集中的に検問、検索、張り込み等に配置することを緊急配備という。5年における緊急配備(広域緊急配備を含む。)の実施件数は2,444件で、検挙率は39.4%であった。最近5年間の緊急配備の実施状況は、表1-10のとおりである。

表1-10 緊急配備実施状況(平成元~5年)

〔事例〕 5月、交番勤務の地域警察官が隣接警察署管内で発生した連続窃盗放火事件で緊急配備に従事中、発生現場方向から走り去っていく不審なオートバイを発見、追跡して停止を求め、運転者に対する職務質問を行い、一連の連続窃盗放火犯人を検挙した(警視庁)。
エ リスポンス・タイム
 5年の110番集中地域(注)におけるリスポンス・タイム(通信指令室が110番通報を受理してから警察官が目的地に到着するまでの所要時間をいう。)の平均は5分47秒であった。刑法犯事件に関するリスポンス・タイムと現場における犯人検挙との関係をみると、表1-11のとおりで、リスポンス・タイムが短ければ短いほど、現場近くで犯人を検挙する確率が高くなっている。

表1-11 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと現場における検挙状況(平成5年)

(注) 110番集中地域とは、110番通報すると自動的に警察本部の通信指令室につながるようなシステムが設けられている地域をいい、それ以外の地域では、110番通報すると所轄の警察署につながるようになっている。5年4月1日現在、全国の警察署の86.4%に当たる1,085警察署の管轄区域が110番集中地域となっている。
 しかし、交通事情の悪化、建物や住宅構造の複雑化等の様々な要因により、リスポンス・タイムの短縮は年々困難となっている。こうしたことから、警察では、110番通報の集中的処理及び警察官やパトカー等に対する一元的指令を行う通信指令室に、最新の科学技術を活用した設備を導入することによって、リスポンス・タイムの短縮に努めている。
 各都道府県警察では、通信指令室に地図自動現示システム等を導入し、事案発生場所を早急に把握するとともに、コンピュータを導入することによる各種情報の処理、伝達の迅速化、タクシー会社、警備会社等への円滑、迅速な連絡体制の整備等、高度な機能を持つ通信指令システムの構築に努めている。また、パトカーの活動状況が容易に把握できるカーロケータ・システム等警察の各活動単位を組織的に管理し、有効に活用できるシステムの導入も図っている。
オ 外国人からの110番通報
 国際化の進展に伴い、外国人からの110番通報も増加している。警察では、通信指令室における通訳体制の確立や通訳センターへの転送システムの導入を推進し、外国人からの110番通報に迅速的確に対応している。最近4年間における外国人からの110番通報件数は、表1-12のとおりである。

表1-12 外国人からの110番通報件数(平成2~5年)

〔事例〕 長野県警察通信指令室では、外国人からの110番通報を指定通訳人に自動的に転送する「外国語メッセージ送信システム(7箇国語)」の導入を進めている。
(2) 水上、鉄道等の安全のために
ア 水上警察活動
 近年、レジャー人口の増加とレジャースポーツの多様化が水上(海上及び内水面をいう。)にも広がり、水上オートバイ、モーターボート、スキューバダイビング等の事故が多発している。また、海上からの覚せい剤、大麻等の薬物やけん銃の密輸、密入国事案等海上犯罪も多発しており、監視、取締りを強化する必要がある。

 警察では、水上における個人の生命、身体及び財産の保護、水上犯罪の予防、鎮圧及び捜査、水上における被疑者の逮捕、交通の取締りその他公共の安全と秩序の維持に当たるため、全国の水上警察署、臨港警察署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する133警察署に警察用船舶203隻を配備し、パトカーや警察用航空機と連携して、パトロール等の警戒、警備活動や各種事件、事故の検挙、取締り等に当たるととも

表1-13 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移(平成元~5年)

に、訪船等による安全指導を行っている。最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移は、表1-13のとおりである。
〔事例〕 平成5年5月、海上を警ら中の警察用船舶が、行方不明の漁船があるとの通報を受理、直ちに捜索を開始し、約1時間後、エンジントラブルで沖合約5キロメートルを漂流中の同船を発見し、操船していた男性を無事救助した(愛媛)。
 また、河川、湖沼等における水上交通及び海上における遊泳者等の安全確保のため、東京都等一部の都道府県において制定されている「水上安全条例」について、その見直しや制定を促している。
 さらに、海上における広域事案に的確に対処するため、5年には、東京湾で警視庁、千葉、神奈川県警察が参加して、警察用航空機との連携による警察用船舶の広域運用訓練を実施するなど、警察用船舶の広域運用のための基盤づくりに努めており、今後、警察用船舶の大型化、高速化及び装備資機材の高度化等を行い、海上における警戒力の強化を推進するなど水上警察体制を更に充実、強化することとしている。
 なお、水難については、第9章3(1)参照。
イ 鉄道警察隊
 近年における通勤圏の拡大、レジャー志向の高まり等により鉄道利用者は増加の一途をたどっている中で、駅、列車等の鉄道施設内における犯罪も増加傾向にあることから、鉄道警察隊の任務はますます重要なものとなっている。
 鉄道警察隊は、鉄道沿線を管轄する警察署と連携の上、駅構内においては、パトロール、立番等を通じて、すり、置引き等の犯罪の予防及び検挙、少年補導、迷い子、家出人等の保護等を行っている。また、列車内においては、主要な鉄道路線の犯罪発生状況の分析結果に基づき、新幹線や在来線の特急、寝台列車等を重点的に警乗し、盗難、迷惑行為等の予防、検挙、少年補導、要保護者の保護のほか、乗客に対して犯罪や事故の防止に必要な指導を行っている。
 さらに、踏切事故等の鉄道事故を未然に防止するため、学童通行の多い踏切における交通安全指導や悪質危険な踏切通行車両の取締りを実施しているほか、沿線住民に対する事故防止の指導及び広報、幼稚園児、小学生等を対象とした交通安全教室の開催等を行っている。

 鉄道施設内の治安を維持していくためには、鉄道事業者との連携、協力が不可欠であることから、警察では、鉄道事業者との連絡協議会を設置し、定期的に会議を開催するなどして、事件、事故発生時における通報の迅速化や必要な措置等について連絡を密にするとともに、列車事故を想定した共同訓練を行うなど、鉄道事業者と一体となって諸対策を講じている。
〔事例〕 11月12日から18日までの間、線路上に工事用資材や鉄製アングルを置くという悪質な列車妨害事案が発生した。鉄道警察隊では、JRの協力を得て、連日にわたる張り込み捜査を行い、同月24日犯人を電汽車往来危険、威力業務妨害罪で現行犯逮捕した(埼玉)。
ウ 警察用航空機の活動
 5年末現在、警察用航空機は、各都道府県警察に計64機配置され、機動性、高速性、広視界性という利点を活用し、空からのパトロールを通

じた交通情報の収集、災害等危険箇所の調査、環境事犯の監視等を行っている。また、事件、事故が発生した場合は、速やかに現場に出動し、通信指令室、パトカー、警察用船舶等と連携を図り、陸、海、空一体となった活動を行い、事件、事故の状況把握、犯人の捜索、追跡、被災者等の救難救助等、事件、事故に即応した活動を行っている。
 5年中における警察用航空機のパトロールの出動回数は1万7,590回であり、犯罪検挙等に大きな成果を挙げている。また、山岳遭難や水難等の救難救助活動では、1,029回出動し、291人を救助している。
〔事例〕 11月、死亡ひき逃げ事件が発生したため、事件現場付近一帯の上空からヘリコプターによる事件広報を実施したところ、これを聞いた犯人が逃げられないと観念し、警察署に自首した(警視庁)。
 警察では、広域的な事件、事故等に対応し、より機動的な捜査活動、遭難救助活動等を行うため、警察用航空機の増強配備や大型化、装備資機材の整備充実、パイロット、整備士を対象とした外国での訓練による高度技術の取得等に努めるとともに、パトカー、警察用船舶との連携を強化した警察用航空機の効率的運用の強化を推進することとしている。


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