第1章 地域の安全確保と警察活動

~安全で住みよい地域社会を目指して~

 今、安全で安心な生活が求められている。
 近年、我が国では、単なるモノの豊かさにとどまらない質の高い豊かさを求める傾向が強まっており、そのような豊かさの指標の一つとして「治安の良さ」に対する意識も高まってきている(注1)。
 他方、従来良好であると言われ、諸外国からも評価されてきた我が国の治安は、平成5年の刑法犯認知件数が戦後最高の180万1,150件となるなど、極めて厳しい情勢にある。特に、乗物盗、ひったくり等地域住民に身近な犯罪が増加していることが懸念される。また、最近の調査によると、地域住民の犯罪の発生についての不安感が著しく増大していることがうかがわれる(注2)。
 こうした状況の下では、安全で住みよい地域社会の実現が従来以上に強く求められており、このためには、地域において犯罪、事故、災害の被害を未然に防止する活動-地域安全活動-をより強く推進していく必要がある。こうした認識の下、警察では、交番、駐在所を中心に、地域安全活動の充実強化に努めている。他方、地域住民の側でも、地域の安全の問題に関心をもつ人が増えてきており、ボランティアによる様々な活動が行われつつある。
 今後、安全で安心な生活の実現のためには、警察が地域住民の視点に立って、より地域に密着した幅広い活動を展開するとともに、警察とボランティアが連携を強化し、安全で住みよい地域社会づくりを行っていくことが重要である。
 本章では、第1節及び第2節において地域安全活動の現状を概観し、次いで第3節においてケーススタディを行い、ボランティアによる地域安全活動の成立基盤を考察する。さらに、第4節において諸外国の状況を参照し、第5節において今後の方向を展望することとする。
(注1) 総理府が5年12月全国的に行った「社会意識に関する世論調査」によると、日本の国や国民について誇りに思うこととして「治安の良さ」を挙げる人の割合は52.1%に上った。同調査はほぼ毎年行われており、それによると、「治安の良さ」を挙げる人の割合は昭和56年以降増加傾向にある。
(注2) (財)都市防犯研究センターが平成4年2月全国的に行った「犯罪の被害と防犯意識等に関する調査研究」によると、世の中全体で犯罪が増加したと思う人の割合が85.4%に上り、今後増加すると思う人の割合も87.3%に上った。


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